説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】 優れた曲げ弾性率や耐熱性と優れた耐衝撃性や耐延伸性をもつ熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 水媒体中に分散したコロイド状シリカ粒子(A)と、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)を、水媒体中で均一に混合した後、水分を除去して得られるシリカ含有熱可塑性樹脂であって、コロイド状シリカ粒子(A)の平均粒子径が80nm以上であり、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)の平均粒子径がコロイド状シリカ粒子(A)より小さいことを特徴とする、シリカ含有熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性・強度などの機械的特性に優れたシリカ粒子含有熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアプラスチックは、無機材料に比べて比重が軽く、成型加工が容易であり、特に近年、材料特性として要求が大きい、軽量化や細密加工に適している。しかし一方で、無機材料と比較して、弾性率が小さいために剛性が低く、熱膨張率が高いために寸法安定性に問題があるなど、適用出来る範囲に制限も大きい。
【0003】
このため、従来からガラス繊維やタルクなどの無機充填剤によって、樹脂の強化が行なわれてきた。その中でも近年、分子の長さに近いナノサイズの充填剤を、樹脂材料に均一分散させることによって、従来の充填剤では得られなかった特性を発現させる試み、いわゆるポリマーナノコンポジット材料が注目されている。
【0004】
この技術ではナノサイズの充填剤を樹脂中でも凝集させることなく、均一に分散させることが大きなポイントとされている。一般的に、充填剤の大きさが小さくなるほど、樹脂中で均一に分散させることが難しい。充填剤の単独粒子を1次粒子、それらが凝集したものを2次粒子と呼ぶが、1次粒子の大きさが小さいほど、2次粒子は1次粒子に戻すことも難しくなる。このため各種の技術を用いて、2次粒子の凝集力を抑える取り組みが行なわれている。
【0005】
具体的な例として、モンモリナイトに代表される層状クレーを用い、層間に有機オニウムイオンを導入する技術(特許文献1)や、層間にポレオレフィンポリマーを導入する技術(特許文献2)などが挙げられる。
【0006】
また層状クレー以外にも、球形の無機酸化物微粒子をナノ充填剤として用いる試みも行なわれており、特に安価なシリカ粒子を適用する技術が各種開示されている。その具体例としては、コロイダルシリカにシランカップリング剤を介して有機ポリマーを被覆させる技術(特許文献3)、溶剤に溶解した有機高分子と溶剤に分散したシリカ微粒子を混合する技術(特許文献4)、コロイダルシリカの乾燥粉末をモノマー中に分散させたのち重合させる技術(特許文献5)、シリカの分散した溶媒を押出機で溶融混練中の樹脂に直接混練させる技術(特許文献6)などがあげられる。しかしながら、これらの方法では、溶媒に有機溶剤を用いるために、それらを回収する設備を要し、シリカ自身にも被覆処理などの加工工程を設ける必要があることから、安価で、高い生産性を維持して製造することは困難であった。
【0007】
また、水を媒体とするシリカを分散させる方法としては、50nm以下のコロイダルシリカを重合体粒子に付着させて複合体にする技術(特許文献7)が挙げられる。しかしながら、この文献7の方法では、シリカが隣接する形で脱水を行なうため、加工条件によってはシリカが均一に分散しない問題があり、さらに50nm以下の小粒子径のシリカは、弾性率の改良効果が充分ではないばかりか、加水分解性の樹脂に配合すると樹脂の分子量が大きく低下する問題があった。

【特許文献1】特開8−333114号公報
【特許文献2】特開平10−30039公報
【特許文献3】特開平9−194208公報
【特許文献4】特開平11−343349公報
【特許文献5】特開平2004−161795公報
【特許文献6】特開平11−216721公報
【特許文献7】特願平8−532358公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安価な設備で、かつ高い生産性を維持し、優れた曲げ弾性率や耐熱性と優れた耐衝撃性をもつシリカ含有熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
水媒体中に分散した平均粒子径が80nm以上のコロイド状シリカ粒子(A)と、平均粒子径がコロイド状シリカ粒子(A)より小さい熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)を、水媒体中で均一に混合した後、水分を除去して得られることを特徴とする、シリカ含有熱可塑性樹脂組成物(請求項1)。
【0011】
固形分換算で、コロイド状シリカ粒子(A)25〜75重量部、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)75〜25重量部((A)、および(B)合わせて100重量部)からなることを特徴とする、請求項1記載のシリカ含有熱可塑性樹脂組成物(請求項2)。
【0012】
熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)が、乳化重合により得られるビニル系熱可塑性樹脂ラテックスであることを特徴とする、請求項1〜2記載のシリカ含有熱可塑性樹脂組成物(請求項3)。
【0013】
コロイド状シリカ粒子(A)が、珪酸塩を原料としたコロイダルシリカであることを特徴とする、請求項1〜3記載のシリカ含有熱可塑性樹脂組成物(請求項4)。
【0014】
請求項1〜4記載のシリカ含有熱可塑性樹脂と熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物であって、組成物中の熱可塑性樹脂100重量部に対して固形分シリカが1〜50重量部含まれることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物(請求項5)。
【発明の効果】
【0015】
水媒体中に分散した平均粒子径が80nm以上のコロイド状シリカ粒子(A)と、平均粒子径がコロイド状シリカ粒子(A)より小さい熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)を、水媒体中で均一に混合した後、水分を除去して得られることを特徴とする、シリカ含有熱可塑性樹脂組成物、および該シリカ含有熱可塑性組成物を配合してなる熱可塑性樹脂組成物は優れた曲げ弾性率と耐衝撃性を示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、水媒体中に分散したコロイド状シリカ粒子(A)と、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)を、水媒体中で均一に混合した後、水分を除去して得られるシリカ含有熱可塑性樹脂であって、コロイド状シリカ粒子(A)の平均粒子径が80nm以上であり、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)の平均粒子径がコロイド状シリカ粒子(A)より小さいことを特徴とする、シリカ含有熱可塑性樹脂組成物を得るものである。
【0017】
本発明で用いる水媒体中に分散したコロイド状シリカ粒子(A)とは、剛性の改良効果を得るための硬質フィラーとして機能する成分であり、分散媒体の主成分がH2O、媒体中に浮遊するシリカ粒子の主成分がSiO2であるものを指す。
【0018】
分散媒体の主成分がH2Oとは、固形分を除いた液状媒体の90重量%以上がH2Oであることを意図し、10重量%未満であれば、アルコール類などの有機溶媒が含まれた媒体も用いることができる。H2Oの濃度が90%未満である場合には、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)を添加したときのエマルジョンの安定性が低下し、均一にシリカを包んだ状態で凝集することができなくなるため、最終成型体の曲げ弾性率と耐衝撃性の低下する可能性がある。
【0019】
シリカ粒子の主成分がSiO2であるものとは、固形分の80重量%以上がSiO2で示される組成からなることを意図し、20重量%未満であれば、シリカ粒子表面のシラノール基、分散媒体中に含まれるNaなどの電解質成分、シリカ粒子に表面修飾した場合のシランカップリング剤や有機ポリマーなどが含まれてもよい。SiO2濃度が80%未満である場合には、硬質成分の減少から、最終成型体の曲げ弾性率の低下する可能性がある。
【0020】
前記コロイド状シリカ粒子を得る方法としては、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシランを水媒体中で加水分解して得られる水性シリカゾル粒子や、珪酸ソーダなどの珪酸塩を加水分解して得られるコロイダルシリカなどが挙げられる。この中でも安価な原料で製造できることから、珪酸ソーダから得られたコロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0021】
なお珪酸ソーダから得たコロイダルシリカは、水媒体を酸性・中性・塩基性のいずれにも調整が可能であるが、本発明においてはいずれの状態の媒体も用いることができる。ただし中性条件下で長時間保持すると溶媒中でのシリカの分散性保持力が低下し、凝集体を生じることによって、曲げ弾性率と耐衝撃性の低下する可能性がある。このため水媒体を中性とする場合には、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)と混合する直前に調整することが好ましい。
【0022】
本発明では、コロイド状シリカ粒子(A)に80nm以上、好ましくは100nm〜500nmの平均粒子径をもつシリカを用いる。80nm未満の平均粒子径をもつシリカを用いた場合には、シラノール基量が多く、シリカの凝集力も高いため、シリカの分散性が低下し、最終成型体の曲げ弾性率と耐衝撃性の低下する可能性がある。またシリカの粒子分布は狭いものが望ましく、特に50nm以下の粒子が50重量%以上ある場合にはシリカの分散性が低下し、最終成型体で充分な曲げ弾性率が得られない可能性がある。
【0023】
またコロイド状シリカ粒子(A)は、固形分中のSiO2含有率が80重量%を超える範囲であれば、粒子の表面にシランカップリング剤や有機ポリマーを被覆することができる。
【0024】
シランカップリング剤の具体例としては、たとえば3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。この中でも特に、シリカとしての剛性を保持し、有機ポリマーとのグラフト効率が高い点において、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いることが好ましい。
【0025】
シリカを被覆する有機ポリマーは、一般的に知られるビニル系単量体を、ラジカル重合を用いて得ることができる。ビニル系単量体に特に制限はないが、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)と同じ、あるいは相溶性の高い有機ポリマーであることが好ましい。具体的には、例えばスチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、メタクリル酸グリシジルなどの分子中にエポキシ基を含むビニル単量体などがあげられ、これらを単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
熱可塑性ラテックス粒子(B)は、コロイド状シリカ粒子(A)を凝集沈殿させる際に、シリカ粒子とシリカ粒子が隣接する形で凝集することを防止するスペーサーとして機能させる粒子である。
【0027】
本発明で用いる熱可塑性ラテックス粒子(B)とは、水媒体中に有機ポリマー粒子がコロイド状に浮遊したエマルジョンであって、エマルジョンの平均粒子径はコロイド状シリカ粒子(A)の平均粒子径よりも小さいものを用いる。
【0028】
熱可塑性ラテックス粒子(B)の平均粒子径は、コロイド状シリカ粒子(A)に対して、相対的に小さい必要があり、粒子径比=コロイド状シリカ粒子(A)の平均粒子径÷熱可塑性ラテックス粒子(B)の値が小さいほど、シリカ粒子とシリカ粒子の隣接する確立を減少することができる。このため粒子径比は1未満、さらには0.1以下が好ましい。粒子径比が1以上のより大きくなった場合には、共に最終成型体の曲げ弾性率と耐衝撃性の低下する可能性がある。
【0029】
熱可塑性ラテックス粒子(B)は、ラジカル重合ができるビニル系単量体を用い、一般的に知られる乳化重合やソープフリー重合で得ることができる。この中でも、粒子分布が狭く500nm以下の小粒子径のエマルジョン粒子が得られる点から、乳化重合を用いることが好ましい。
【0030】
乳化重合でラテックス粒子を得る場合は、乳化剤の添加量が多いほどエマルジョンの粒子径は小さくなるが、多量に添加すると樹脂中に残留する量が多くなり、熱安定性の低下する原因となる。このため乳化剤の適切な使用量はビニル系単量体100重量部に対して0.1〜20重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。0.1重量部より少ない場合には、本発明で必要とする小さいエマルジョン粒子を得ることができなくなる可能性があり、20重量部を超える場合には、樹脂加工時に焼けすじや変色などの異常が発生し易くなる。
【0031】
使用するビニル系単量体の具体例としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、メタクリル酸グリシジルなどの分子中にエポキシ基を含むビニル単量体などがあげられ、これらを単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。この中から、最終成型体で最も含有率の高い熱可塑性樹脂と同じ、あるいは相溶性の高い組成を選ぶことが好ましい。
【0032】
具体的には、たとえば、主成分となる樹脂が塩化ビニル、メタクリル酸メチル、ポリカーボネートの場合にはメタクリル酸メチル、主成分となる樹脂がスチレン、アクリロニトリル、あるいはアクリロニトリル/スチレン混合樹脂の場合にはアクリロニトリル/スチレンの単独あるいは併用、あるいはメタクリル酸メチル、主成分がポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートの場合にはメタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジルの併用、などが挙げられる。また有機ポリマーの重合時には連鎖移動剤を添加して、任意に分子量を調整してもよい。さらに水分除去後の樹脂で良好なハンドリング性の粉体を得るために、アクリル酸ブチルなどの低いTgをもつ成分を入れてもよい。
【0033】
ビニル系単量体の重合には、一般的に知られるラジカル重合を用いることができる。ラジカル開始剤の具体例としては、例えばクメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどの有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられる。また硫酸第一鉄−ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ−エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩、硫酸第一鉄−グルコース−ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄−ピロリン酸ナトリウム−リン酸ナトリウムなどを加えてレドックス系で重合を行なうこともできる。
【0034】
本発明では、コロイド状シリカ粒子(A)と熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)を水溶媒中で均一に混合する必要がある。これによって、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)をスペーサーとして機能させ、シリカ粒子とシリカ粒子が隣接する形で凝集することを防止し、樹脂中でのシリカの分散性を保つことができる。
【0035】
コロイド状シリカ粒子(A)と熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)の混合比率は、固形分換算で、コロイド状シリカ粒子(A)25〜75重量部、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)75〜25重量部、好ましくはコロイド状シリカ粒子(A)30〜50重量部、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)70〜50重量部((A)、および(B)合わせて100重量部)とすることが好ましい。コロイド状シリカ粒子(A)が75重量部より多い場合、あるいはコロイド状シリカ粒子(A)のみで水分を除去するとシリカとシリカの隣接する頻度が高くなり、充分なシリカの分散性が得難く、最終成型体の曲げ弾性率と耐衝撃性が低下する傾向がある。コロイド状シリカ粒子(A)が25重量部より少ないと、シリカの分散に寄与しない不必要な熱可塑性樹脂ラテックス粒子が多くなるため、生産性が低下し、原料コストが高くなる。
【0036】
コロイド状シリカ粒子(A)と熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)は、それぞれ濃縮あるいはH2Oで希釈して、任意の固形分濃度に調整してもよいが、双方を混合した後は、水媒体中のシリカと有機ポリマーを合わせた固形分濃度を1〜40重量%、さらに好ましくは5〜20重量%にすることが好ましい。固形分濃度が1重量%未満の場合には、凝析時に沈降しないため収率の低下する可能性があり、40重量%より高い場合には、シリカの分散性の面で問題があり最終成型体の曲げ弾性率と耐衝撃性の低下する傾向がある。
【0037】
コロイド状シリカ粒子(A)と熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)の均一混合液から、固形分を分離し、水分を除去する方法としては、酸や塩によって凝析する方法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法など、一般的に知られる方法を用いることができる。この中でも粒子径や樹脂組成によって容易に条件を変えることが出来る塩凝析が好ましい。
【0038】
具体的には、たとえば、コロイド状シリカ粒子(A)と熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)の均一混合液に塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの金属塩を添加することにより、シリカと有機ポリマーを共凝固し、液中に沈降した固形分を濾過・脱水する方法などがあげられる。また脱水後のシリカ含有熱可塑性樹脂の水分が1%を超える場合には、熱風による乾燥を行なうことが好ましい。このときの熱風の温度は熱可塑性樹脂のTgよりも30℃以上低い温度が好ましい。前記温度よりも高い熱風で乾燥した場合には、熱可塑性樹脂が融着し、良好な粉体を得ることができなくなる場合がある。
【0039】
このようにして得られたシリカ含有熱可塑性樹脂は、さらに任意の熱可塑性樹脂を加えて、樹脂中のシリカの含有率を下げることができる。シリカの含有率は最終成型体の必要物性に応じて変える必要があるが、組成物中の熱可塑性樹脂100重量部に対して固形分シリカが1〜50重量部とすることが好ましい。シリカの含有率が1重量部よりも低すぎると曲げ弾性率の改良効果が充分でなく、50重量部より多すぎると耐衝撃性が大きく低下する。
【0040】
シリカ含有熱可塑性樹脂に加える熱可塑性樹脂の具体例としては、たとえば、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、スチレン樹脂、ブタジエン/スチレン樹脂(HIPS樹脂)、アクリロニトリル樹脂、スチレン/アクリロニトリル樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエンゴム/スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート/ポリエステル樹脂、ポリカーボネート/ABS樹脂などがあげられる。
【0041】
シリカ含有熱可塑性樹脂に熱可塑性樹脂を加える方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練する方法があげられる。混練機の例としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられ、またこの混合の際、適宜、耐衝撃性改良剤、加工性改良剤、熱安定剤、抗酸化剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、さらにシリカ以外の無機充填剤を加えることができる。
【0042】
本発明で得られる熱可塑性樹脂組成物は、射出成形や熱プレス成形で成形しても良く、ブロー成形にも使用できる。得られる成形品は外観に優れ、機械的特性や耐熱変形性等に優れる為、例えば、自動車部品、家庭用電気製品部品、家庭日用品、包装資材、その他一般工業用資材に好適に用いられる。
【実施例】
【0043】
本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。なお、以下の実施例および比較例における測定および試験はつぎのように行った。
【0044】
[固形分濃度]
試料を120℃の熱風乾燥器で1時間乾燥し、乾燥後の不揮発成分と乾燥前の重量の比率から固形分濃度を求めた。
[平均粒子径]
シードポリマー、ポリオルガノシロキサン粒子およびグラフト共重合体の体積平均粒子径をラテックスの状態で測定した。測定装置として、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いて、光散乱法により体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0045】
[曲げ弾性率]
ASTM D−790に準じて、1/4インチバーを用いて23℃での曲げ試験により評価した。判定は、同じ熱可塑性樹脂の配合率をもつシリカ無添加樹脂に対して、300MPa以上弾性率の向上したものを○、300未満しか向上しなかったものを×とした。
[耐衝撃性]
JIS K7110に準じて、1/8インチバーで2号A型と2号B型の試験試料を用いて、−10℃でのアイゾット強度試験により評価した。判定は、同じ熱可塑性樹脂の配合率をもつシリカ無添加樹脂に対して、5kJ/m2未満しか強度の低下しなかったものを○、5kJ/m2以上強度の低下したものを×とした。
【0046】
(製造例1)
攪拌機を備えたセパラブルフラスコに、コロイダルシリカ分散液(日産化学工業(株)製、スノーテックスXS、固形分濃度21.6%)100重量部(固形分)を入れ、攪拌しながら純水500重量部を加えて希釈した。さらに攪拌しながら10%ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)2重量部(固形分)を加えて中和を行い、コロイド状シリカ粒子(A−1)を得た。得られたコロイド状シリカの固形分濃度は10.4%、シリカの平均粒径は7nmであった。
【0047】
(製造例2)
攪拌機を備えたセパラブルフラスコに、コロイダルシリカ分散液(日産化学工業(株)製、スノーテックスZL、固形分濃度41.4%)100重量部(固形分)を入れ、攪拌しながら純水750重量部を加えて希釈した。さらに攪拌しながら10%ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)0.4重量部(固形分)を加えて中和を行い、コロイド状シリカ粒子(A−2)を得た。得られたコロイド状シリカの固形分濃度は10.1%、シリカの平均粒径は130nmであった。
【0048】
(製造例3)
攪拌機を備えたセパラブルフラスコに、コロイダルシリカ分散液(日産化学工業(株)製、MP4540M、固形分濃度41.1%)100重量部(固形分)を入れ、攪拌しながら純水750重量部を加えて希釈、コロイド状シリカ粒子(A−3)を得た。得られたコロイド状シリカの固形分濃度は10.1%、シリカの平均粒径は450nmであった。
【0049】
(製造例4)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、純水750重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)8重量部(固形分)を混合したのち、攪拌しながら60℃に昇温し、液温が60℃に達した後、窒素置換を行った。その後、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.002重量部、エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えて、10分攪拌を続けた。
【0050】
その後、スチレン(St)75重量部、アクリロニトリル(AN)25重量部、t−ドデシルメルカプタン(tDM)0.5重量部、クメンハイドロパーオキサイド0.15重量部の混合液を6時間かけて連続追加した。その後、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.1重量部、クメンハイドロパーオキサイド0.1重量部を加えた後、さらに1時間攪拌を続け、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B−1)を得た。得られた熱可塑性樹脂ラテックスの固形分濃度は12.7%、平均粒子径は17nmであった。
【0051】
(製造例5)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、純水750重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)4重量部(固形分)を混合したのち、攪拌しながら80℃に昇温し、液温が80℃に達した後、窒素置換を行った。その後、過酸化カリウム1重量部を加えて、10分攪拌を続けた。その後、メタクリル酸メチル(MMA)100重量部を6時間かけて連続追加した。その後、過酸化カリウム1重量部加えた後、さらに1時間攪拌を続け、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B−2)を得た。得られた熱可塑性樹脂ラテックスの固形分濃度は10.8%、平均粒子径は11nmであった。
【0052】
(製造例6)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、純水750重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)0.4重量部(固形分)を混合したのち、攪拌しながら80℃に昇温し、液温が80℃に達した後、窒素置換を行った。その後、過酸化カリウム1重量部を加えて、10分攪拌を続けた。その後、メタクリル酸メチル(MMA)100重量部を6時間かけて連続追加した。その後、過酸化カリウム1重量部加えた後、さらに1時間攪拌を続け、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B−3)を得た。得られた熱可塑性樹脂ラテックスの固形分濃度は10.8%、平均粒子径は97nmであった。
【0053】
(製造例7)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、純水750重量部を投入したのち、攪拌しながら80℃に昇温し、液温が80℃に達した後、窒素置換を行った。その後、メタクリル酸メチル(MMA)100重量部を一括で加え、10分攪拌を続けたのち、過酸化カリウム1重量部を加え、さらに3時間攪拌を行なった。その後、過酸化カリウム1重量部加えた後、さらに1時間攪拌を続け、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B−4)を得た。得られた熱可塑性樹脂ラテックスの固形分濃度は11.9%、平均粒子径は445nmであった。
【0054】
(製造例8〜9)
コロイド状シリカ(A−2)、あるいは熱可塑性樹脂ラテックス(B−1)100重量部(固形分)に、純水を加えて固形分濃度が10%になるように希釈を行った。その後、25%塩化カルシウム水溶液4重量部(固形分)を添加して、凝固スラリーを得た。凝固スラリーを95℃まで加熱したのち、50℃まで冷却して脱水を行なった。さらに脱水後の固形分に1000重量部のメタノールを加え、1時間洗浄し、濾過を行なった。その後、50℃の熱風にて48時間乾燥を行ない、シリカ単独粉体(AP−1)(製造例8)、あるいは熱可塑性樹脂単独粉体(BP−1)(製造例9)を得た。
【0055】
(実施例1〜4、比較例1〜2)
コロイド状シリカ(A−1〜3)と熱可塑性樹脂ラテックス(B−1〜4)を表1に示す重量部(固形分)を混合し、均一に攪拌したのち、純水を加えて固形分濃度が10%になるように希釈を行った。その後、25%塩化カルシウム水溶液4重量部(固形分)を添加して、凝固スラリーを得た。凝固スラリーを95℃まで加熱したのち、50℃まで冷却して脱水を行なった。さらに脱水後の固形分に1000重量量のメタノールを加え、1時間洗浄し、濾過を行なった。その後、50℃の熱風にて48時間乾燥を行ない、シリカ含有熱可塑性樹脂の粉体(SP−1〜6)を得た。
【0056】
(実施例5〜8、比較例3〜5)
熱可塑性樹脂としてアクリロニトリル/スチレン(AN/St)共重合樹脂(ダイセル(株)製、セビアン−N 050SF)65重量部、耐衝撃性改良剤としてメタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン(MBS)樹脂((株)カネカ 製 M−511)25重量部、さらに熱可塑性樹脂単独粉体(BP−1)とシリカ単独粉体(AP−1)、あるいはシリカ含有熱可塑性樹脂粉体(SP−1〜6)を表2に示す重量部混合し、熱可塑性樹脂コンパウンドを作成した。次に170℃の8インチロールに、前記熱可塑性樹脂コンパウンドを投入し、5分間混練を加え、熱可塑性樹脂シートを作成し、さらに180℃のプレスで圧縮加工を行ない、樹脂シートを3mm厚とした。その後、所定の試験片に切削したのちに曲げ弾性率と耐衝撃性の評価を行なった。結果を表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水媒体中に分散した平均粒子径が80nm以上のコロイド状シリカ粒子(A)と、平均粒子径がコロイド状シリカ粒子(A)より小さい熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)を、水媒体中で均一に混合した後、水分を除去して得られることを特徴とする、シリカ含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
固形分換算で、コロイド状シリカ粒子(A)25〜75重量部、熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)75〜25重量部((A)、および(B)合わせて100重量部)からなることを特徴とする、請求項1記載のシリカ含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂ラテックス粒子(B)が、乳化重合により得られるビニル系熱可塑性樹脂ラテックスであることを特徴とする、請求項1〜2記載のシリカ含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
コロイド状シリカ粒子(A)が、珪酸塩を原料としたコロイダルシリカであることを特徴とする、請求項1〜3記載のシリカ含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4記載のシリカ含有熱可塑性樹脂と熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物であって、組成物中の熱可塑性樹脂100重量部に対して固形分シリカが1〜50重量部含まれることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−299165(P2006−299165A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125491(P2005−125491)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】