説明

熱可逆架橋性の瀝青/ポリマー組成物

【課題】高温時には良好な弾性や凝集性を有し、低温時には良好な流動性を有する、熱可逆架橋性の瀝青/ポリマー組成物を提供する。
【解決手段】本発明の瀝青/ポリマー組成物は、少なくとも1種の瀝青と、少なくとも1種のグラフトポリマーGPとを含み、グラフトポリマーGPは、ポリマーの主鎖、およびこのポリマーの主鎖に結合した少なくとも1種のグラフト側鎖Gを有し、このグラフト側鎖Gを生成する化合物は、炭素数が少なくとも18の、分岐鎖の炭化水素鎖、直鎖の炭化水素鎖、または飽和炭化水素鎖で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瀝青/ポリマーの分野に属する。より詳細には、本発明は、熱可逆架橋性の瀝青/ポリマー組成物に関する。
【0002】
本発明は、さらに、道路用途の分野(特に、道路舗装用バインダーの製造)および産業用途の分野における、上記瀝青/ポリマー組成物の使用に関する。本発明は、さらに、上記熱可逆架橋性の瀝青/ポリマー組成物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
道路用途および産業用途の材料の製造に瀝青(ビチューメン)を使用することは、長く知られている。瀝青は、道路工事または土木建築の分野で用いられる主要な炭化水素系バインダーである。瀝青をこれら様々な用途でバインダーとして利用するには、特定の機械特性(特に、弾性や凝集性)が当該瀝青に存在しなければならない。一般的に、瀝青単独では弾性や凝集性が十分でないので、必要に応じて、架橋性を有するポリマーを添加する。当該ポリマーは、架橋状態にしろ非架橋状態にしろ、瀝青/ポリマー組成物の弾性および凝集性を向上させることができる。しかし、一般的にその架橋は不可逆的である。いったん架橋結合が生じてしまえば、架橋反応以前の最初の状態に戻すことはできない。そのため、このような架橋した瀝青/ポリマー組成物は良好な機械特性を有するものの、粘度が極めて高くなる。実際、「機械特性」と「流動性」の2種類の特性は、互いに相反する特性である。機械特性(弾性および凝集性)は長い鎖長に由来するものであり、つまり、ポリマー鎖の架橋結合によって得られる。一方、流動性は短い鎖長に由来するものであり、つまり、ポリマー鎖の架橋結合の不在、またはポリマー鎖の弱い架橋結合によって得られる。したがって、想定される用途に応じて、架橋度や架橋結合の性質を調整し、機械特性と流動性との間で良好なバランスを探し出すことが必要になる。
【0004】
従来技術における架橋結合は、一般的に、ポリマー鎖間で共有結合を形成することによる不可逆的な架橋結合である。瀝青の分野で最もよく用いられる架橋結合の種類として、硫黄架橋、すなわち、加硫が挙げられる。硫黄架橋では、程度の差はあるが、通常、短い硫黄鎖(硫黄原子数2〜8のものが一般的)により、ポリマー鎖同士を共有結合で結び付ける。出願人は、硫黄供与体および/またはポリマーの化学的性質や濃度、および温度を変化させることにより、ポリマー非添加型瀝青や非架橋性瀝青/ポリマー混合物に比べて特性が遥かに向上した、架橋性瀝青/ポリマー組成物を数多く開発し、これらの特許を得た。出願人の特許として、特に、特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4が挙げられる。
【0005】
近年、新たな種類の熱可逆架橋性のポリマーが開発されている。これらの熱可逆的な架橋結合の多くは、熱可逆的な共有結合によって行われている。また、熱可逆的な架橋結合には配位結合やイオン結合によって行われるものも存在する。
【0006】
特許文献5では、アルコール類の存在下でポリオレフィンを酸無水物で変性させることにより、熱可逆的なエステル結合が得られる。
【0007】
特許文献6には、少なくとも2つの酸官能部位を有する第1のポリマーと、少なくとも2つのアミン官能部位を有する第2のポリマーとの混合物が記載されており、この混合物は、安定したアミド基を低温時に形成するが、高温になると当該アミド基を解離させることができる。
【0008】
特許文献7には、ジビニルエーテルと、酸官能部位を有するコポリマーとの反応が記載されている。このようにして得られたアシラールは、低温時には安定であるが、温度が上昇すると分解する。
【0009】
熱可逆架橋性の他のポリマーとして、金属と可逆的に結合するカルボン酸単位を有するポリマーが挙げられる(特許文献8、特許文献9および特許文献10)。
【0010】
他に、酸基とアミノ基との間で不安定なイオン結合を形成するものが挙げられる(特許文献11および特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】仏国出願公開公報第2376188号明細書
【特許文献2】仏国特許出願第7818534号明細書
【特許文献3】欧州特許第0799280号明細書
【特許文献4】欧州特許第0690892号明細書
【特許文献5】特開平11−106578号明細書
【特許文献6】欧州特許第870793号明細書
【特許文献7】仏国出願公開公報第2558845号明細書
【特許文献8】特公昭50−139135号明細書
【特許文献9】特公昭51−019035号明細書
【特許文献10】特開昭56−014573号明細書
【特許文献11】特公昭52−065549号明細書
【特許文献12】特開昭57−158275号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上を踏まえて、本発明は、熱可逆架橋性の瀝青/ポリマー組成物の製造に関する。
【0013】
本発明の他の目的は、利用温度(舗装後または舗設後の温度)では、不可逆架橋性の特性(特に、弾性および/または凝集性に関して)を有しつつ、加工温度(調製時または塗布時の温度)では低粘性を有する瀝青/ポリマー組成物を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる他の目的は、熱可逆架橋性の瀝青/ポリマー組成物の簡単な調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
出願人は、熱可逆架橋性の新しい瀝青/ポリマー組成物を開発した。この瀝青/ポリマー組成物は、従来の架橋性瀝青/ポリマー組成物の特性を利用温度で有し、非架橋性瀝青/ポリマー組成物の特性を加工温度で有する。
【0016】
第1に、本発明は、少なくとも1種の瀝青と、少なくとも1種のグラフトポリマーGPとを含む瀝青/ポリマー組成物に関する。前記グラフトポリマーGPは、ポリマーPの主鎖、およびこのポリマーPの主鎖に結合した少なくとも1種のグラフト側鎖Gを含む。前記グラフト側鎖Gを生成する化合物は、炭素数が少なくとも18である、分岐鎖の炭化水素鎖、直鎖の炭化水素鎖、または飽和炭化水素鎖で構成される。
【0017】
好ましくは、前記グラフト側鎖Gを生成する化合物における、炭素数が少なくとも18の、分岐鎖の炭化水素鎖、直鎖の炭化水素鎖、または飽和炭化水素鎖の一般式は、C2n+1(式中、nは18以上の整数、好ましくは18〜110の整数を示す)で表される。
【0018】
グラフトポリマーGPは、ポリマーPの少なくとも1つの反応性官能部位と、グラフト側鎖Gを生成する化合物の反応性官能部位との反応によって得られる。ポリマーP側の反応性官能部位およびグラフト側鎖Gを生成する化合物側の反応性官能部位は、二重結合、エポキシ、酸無水物、カルボン酸、エステル、アミド、チオール、アルコールおよびアミンから選択される。
【0019】
ポリマーPは、反応性官能部位を有する構成単位の重合によって得られたものである。この反応性官能部位は、二重結合、エポキシ、酸無水物、カルボン酸、エステル、アミド、チオール、アルコールおよびアミンから選択され、特に、二重結合である。
【0020】
ポリマーPは、特に、ジエン単位の共重合、好ましくは、共役ジエン単位の共重合によって得られたものである。
【0021】
好ましくは、ポリマーPは、共役ジエン単位と、芳香族モノビニル炭化水素単位との共重合によって得られたものである。
【0022】
前記共役ジエン単位は、炭素数4〜8のモノマー単位から選択され、当該モノマー単位は、例えば、ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、クロロプレンおよびこれらの組合せであり、特に、ブタジエンである。
【0023】
前記芳香族モノビニル炭化水素単位は、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、2,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルキシレンなど、およびこれらの組合せから選択され、特に、スチレンである。
【0024】
好ましくは、ポリマーPの主鎖は、二重結合、より好ましくは、共役ジエン単位の1,2−付加(すなわち付加重合)で生じたペンダントビニル二重結合、さらに好ましくは、ブタジエン単位の1,2−付加(すなわち付加重合)で生じたペンダントビニル二重結合を有する。
【0025】
好ましくは、ポリマーPは、スチレン単位を5重量%から50重量%含んでいる。
【0026】
好ましくは、ポリマーPは、ブタジエン単位を50重量%から95重量%含んでいる。
【0027】
好ましくは、ポリマーPは、ブタジエンの1,2−付加で生じたペンダントビニル二重結合単位を5重量%から50重量%有する。
【0028】
本発明の一変形例において、グラフト側鎖Gを生成する化合物は、一般式C2n+1−XH(式中、Xは、硫黄原子、酸素原子またはNH基を示し、nは18〜110の整数を示す)で表される。
【0029】
他の実施形態において、グラフト側鎖Gを生成する化合物は、一般式C2n+1−(OCHCH−XH(式中、Xは、硫黄原子、酸素原子またはNH基を示し、nは18〜110の整数を示し、mは1〜20の整数を示す)で表される。
【0030】
好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーPの少なくとも1つの二重結合、特に、ポリマーPの共役ジエン単位の1,2−付加で生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、グラフト側鎖Gを生成する化合物の反応性官能部位との反応によって得られたものであり、前記反応性官能部位は、チオール、アルコールまたはアミンから選択される。
【0031】
好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーPの少なくとも1つの二重結合、特に、ポリマーPのブタジエン単位の1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、グラフト側鎖Gを生成する化合物のチオールの官能部位(より好ましくは、末端に位置する)との反応によって得られたものである。
【0032】
好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーPの少なくとも1つの二重結合、特に、ポリマーPのブタジエン単位の1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、一般式C2n+1−XH(式中、Xは、硫黄原子、酸素原子またはNH基を示し、nは18〜110の整数を示す)で表されるグラフト側鎖Gを生成する化合物との反応によって得られたものである。
【0033】
好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーの主鎖1本につき少なくとも2つのグラフト側鎖を有する。
【0034】
好ましくは、本発明に係る瀝青/ポリマー組成物において、グラフトポリマーGPは瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、瀝青の1〜10重量%含まれている。
【0035】
本発明に係る瀝青/ポリマー組成物は、さらに、少なくとも1種のフラックス(溶剤)を含むものであってもよい。
【0036】
好ましくは、瀝青は、常圧蒸留残渣、真空蒸留残渣、ビスブレーキング法の残渣、ブローイング法の残渣、脱アスファルト処理の残渣、これらの混合物およびこれらの組合せから選択される。
【0037】
本発明は、さらに、熱可逆架橋性の瀝青/ポリマー組成物の調製方法に関する。2種類の調製方法が考えられる。いわゆる「エクスシチュー(ex situ)法」では、グラフトポリマーGPを瀝青中に投入する。他方、いわゆる「インシチュー(in-situ)法」では、ポリマーPとグラフト側鎖Gを生成する化合物とを瀝青中に投入し、この瀝青中でグラフト重合反応を実行する。
【0038】
好ましくは、前記エクスシチュー法は、a)攪拌手段付きの反応槽に瀝青を投入し、この瀝青を90〜220℃、好ましくは、140〜180℃にまで加熱する工程と、b)グラフトポリマーGPを、前記瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、前記瀝青の0.1〜10重量%投入する工程と、c)この混合物を、一様な瀝青/ポリマー組成物が最終的に得られるまで、90〜220℃、好ましくは、140〜180℃で加熱および攪拌する工程とを含む。
【0039】
好ましくは、前記インシチュー法は、a)攪拌手段付きの反応槽に瀝青を投入し、この瀝青を90〜220℃、好ましくは、140〜180℃にまで加熱する工程と、b)ポリマーPを、前記瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、前記瀝青の0.1〜10重量%投入するとともに、グラフト側鎖Gを生成する化合物を、前記瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、前記瀝青の0.1〜10重量%投入する工程と、c)この混合物を、一様な瀝青/ポリマー組成物が最終的に得られるまで、90〜220℃、好ましくは、140〜180℃で加熱および攪拌する工程とを含む。
【0040】
最後に、本発明は、前記瀝青/ポリマー組成物の、瀝青質バインダーを製造するための使用に関し、より詳細には、そのままで使用可能となる瀝青質バインダー、無水物形態の瀝青質バインダー、エマルション形態の瀝青質バインダー、または溶剤溶解形態の瀝青質バインダーを製造するための使用に関する。これらの瀝青質バインダーを骨材と組み合わせることにより、表面化粧用材料、加熱混合物、常温混合物、再生常温混合物、砂利エマルションなどを製造することができる。本発明に係る瀝青/ポリマー組成物の用途として、摩耗層、密封膜(sealing membrane)、メンブレンまたは含浸層などの道路用途または産業用途が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の瀝青/ポリマー組成物はグラフトポリマーGPを含む。グラフトポリマーとは、ポリマーの主鎖と、このポリマーの主鎖に結合したグラフト分子の側鎖とを含むポリマーのことをいう。グラフト側鎖は、ポリマーの主鎖に直接結合している。ポリマーの主鎖は、複数のモノマーが重合することによって生成される。この重合でポリマーの主鎖が生成された後、グラフト側鎖が化学反応によって当該ポリマーの主鎖にグラフト結合される。これにより、グラフト側鎖とポリマーの主鎖との間に共有結合が形成される。つまり、本発明に係るグラフトポリマーは、主鎖の重合、グラフト側鎖のグラフト結合、の順番で生成されるものであり、グラフト側鎖が既に結合したモノマーの重合で生成されるものではない。
【0042】
本発明に係るグラフトポリマーGPは、ポリマーP(幹分子)に含まれる少なくとも1つの反応性官能部位と、グラフト分子G(枝分子)に含まれる反応性官能部位との反応によって生成される。
【0043】
ポリマーPおよび/またはグラフト側鎖Gの反応性官能部位は、二重結合、エポキシ、酸無水物、カルボン酸、エステル、アミド、チオール、アルコールおよびアミンから選択される。
【0044】
特に好ましくは、ポリマーPの反応性官能部位は二重結合である。また好ましくは、グラフト側鎖Gを生成する化合物側の反応性官能部位は、エポキシ、酸無水物、カルボン酸、エステル、アミド、チオール、アルコールおよびアミンから選択され、好ましくは、チオール、アルコールおよびアミンから選択され、より好ましくは、チオールである。
【0045】
ポリマーPの少なくとも1つの反応性官能部位は、当該ポリマーPのポリマー分子上に存在する。他方、グラフト側鎖Gを生成する化合物側の反応性官能部位は、末端に存在しているのが好ましい(すなわち、分子の両端または一端に存在しているのが好ましい)。好ましくは、グラフト側鎖Gを生成する化合物は、末端の反応性官能部位を1つだけ有し、他方、ポリマーPは反応性官能部位を複数有する。これらの反応性官能部位が反応することにより、グラフト側鎖Gが、ポリマーPの主鎖に共有結合で直接結合される。
【0046】
本発明に係るポリマーPは、二重結合、エポキシ類、酸無水物類、カルボン酸類、エステル類、アミド類、チオール類、アルコール類およびアミン類から選択される反応性官能部位を含む構成単位(またはモノマー)の重合(単独重合、二元共重合、三元共重合など)、特に、二重結合を含む構成単位の重合(単独重合、二元共重合、三元共重合など)によって得られたものである。
【0047】
本発明に用いられるポリマーPとしては、例えば、ポリブタジエン;ポリイソプレン;ブチルゴム;ポリアクリレート;ポリメタクリレート;ポリクロロプレン;ポリノルボルネン;エチレン−酢酸ビニルコポリマー;エチレン−メチルアクリレートコポリマー;エチレン−ブチルアクリレートコポリマー;エチレン−無水マレイン酸コポリマー;エチレン−グリシジルメタクリレートコポリマー;エチレン−グリシジルアクリレートコポリマー;エチレン/プロペン/ジエン(EPDM)ターポリマー;アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)ターポリマー;エチレン/アクリレートまたはアルキルメタクリレート/アクリレートまたはグリシジルメタクリレート系ターポリマー(特に、エチレン/メチルアクリレート/グリシジルメタクリレートターポリマー);エチレン/アルキルアクリレートまたはメタクリレート/無水マレイン酸系ターポリマー(特に、エチレン/ブチルアクリレート/無水マレイン酸ターポリマー)などが挙げられる。
【0048】
ポリマーPとして、出願人の欧州特許第1572807号明細書、欧州特許第0837909号明細書および欧州出願公開公報第1576058号明細書に記載されたポリマーが用いられてもよい。
【0049】
好適なポリマーPとしては、さらに、ジエン単位の重合によって得られたポリマー、好ましくは、共役ジエン単位の重合によって得られたポリマーが挙げられる。これらのポリマーは、少なくとも1つのジエン単位(またはジエンモノマー)、好ましくは、少なくとも1つの共役ジエン単位(または共役ジエンモノマー)から得られる。本発明の一変形例として、ポリマーPは、ジエン単位の単独重合、好ましくは、共役ジエン単位の単独重合によって得られたものでもよい。この場合、ポリマーPには、ジエン単位の単独重合(好ましくは、共役ジエン単位の単独重合)に由来する複数の二重結合が、そのポリマー分子上に存在する。このようなポリマーとして、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブテンおよびポリクロロプレン、さらには、イソブテンとイソプレンとのコポリマーが連結したブチルゴムが挙げられる。この他にも、ブタジエン、イソプレン、イソブテン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、クロロプレンなどのジエン単位を含んだコポリマーまたはターポリマーが用いられてもよい。
【0050】
本発明の他の変形例として、ポリマーPは、ジエン単位(好ましくは、共役ジエン単位)と、他の反応性官能部位を有する別の構成単位との二元共重合または三元共重合によって得られたポリマーであってもよい。当該他の反応性官能部位は、例えば、二重結合、エポキシ、酸無水物、カルボン酸、エステル、アミド、チオール、アルコールおよびアミンから選択されるが、特に、二重結合が好ましい。
【0051】
つまり、ポリマーPは、ジエン単位(好ましくは、共役ジエン単位)と、酢酸ビニル、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、無水マレイン酸、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ノルボルネンなどの構成単位とから得られるポリマーであってもよい。また、ポリマーPは、ジエン単位(好ましくは、共役ジエン単位)と、二重結合を有する単位とから得られるポリマーであってもよい。
【0052】
ポリマーPとして、エチレン/プロペン/ジエン(EPDM)ターポリマー、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)ターポリマーなどのポリマーが用いられてもよい。
【0053】
本発明に係るポリマーPが、少なくとも1つのジエン単位(またはジエンモノマー)、好ましくは、少なくとも1つの共役ジエン単位(または共役ジエンモノマー)から形成されるものである場合、当該本発明に係るポリマーPは、重合の後に水添されたもの、または重合の後に部分的に水添されたものであってもよい。
【0054】
好ましくは、ポリマーPは、主鎖に沿って複数の二重結合を有するポリマーであり、例えば、ポリブタジエンやポリイソプレンなどのホモポリマーが挙げられる。好適なポリマーPとして、また、共役ジエン単位と芳香族モノビニル炭化水素単位との二元共重合によって得られたポリマーが挙げられる。
【0055】
前述の共役ジエン単位として、例えば、ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、クロロプレンなどの、炭素数4〜8のモノマー単位が挙げられる。好適な共役ジエン単位は、ブタジエン単位である。
【0056】
芳香族モノビニル炭化水素単位として、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、2,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルトルエン、ビニルキシレンなどが挙げられる。好適な芳香族モノビニル炭化水素単位は、スチレン単位である。
【0057】
好適なポリマーPとして、さらに、ブタジエン単位とスチレン単位との共重合によって得られたポリマーが挙げられる。
【0058】
好ましくは、ポリマーPに存在する反応性官能部位は、二重結合である。共役ジエン単位の重合の種類(1,2−付加であるか、それとも1,4−付加であるか)により、ポリマーPの反応性二重結合は2つの種類に分けられる。
【0059】
一方の種類の反応性二重結合は、共役ジエンの1,4−付加によって生じ、他方の種類の反応性二重結合は、共役ジエンの1,2−付加によって生じる。
【0060】
共役ジエンの1,2−付加によって生じる二重結合は、ペンダントビニル二重結合である。好ましくは、ポリマーPに存在する反応性官能部位は、共役ジエン単位の1,2−付加によって生じたペンダントビニル二重結合である。
【0061】
特に好ましくは、ポリマーPに存在する反応性官能部位は、ブタジエン単位の1,2−付加によって生じたペンダントビニル二重結合である。
【0062】
好適なポリマーPとして、さらに、スチレン−ブタジエン系のブロックコポリマーが挙げられる。好ましくは、このブロックコポリマーは、スチレン単位を5重量%から50重量%、およびブタジエン単位を50重量%から95重量%含んでいる。好ましくは、ポリマーPは、ブタジエンの1,2−付加によって生じたペンダントビニル二重結合を、5重量%から50重量%含んでいる。ポリマーPの重量平均分子量は、例えば、10,000〜600,000ダルトン(dalton)、好ましくは、30,000〜400,000ダルトン(dalton)である。
【0063】
グラフト側鎖Gを生成する化合物は、分岐鎖の炭化水素鎖、直鎖の炭化水素鎖または飽和炭化水素鎖で構成され、当該炭化水素鎖は、炭素数が少なくとも18、好ましくは、炭素数が少なくとも22、より好ましくは、炭素数が少なくとも30である。好ましくは、グラフト側鎖Gの飽和炭化水素鎖は直鎖である。グラフト側鎖Gの飽和炭化水素鎖は、一般式C2n+1(式中、nは18以上の整数、好ましくは18〜110の整数、より好ましくは18〜90の整数、さらに好ましくは18〜50の整数、なお一層好ましくは20〜40の整数、特に好ましくは25〜30の整数を示す)で表される。好ましくは、グラフト側鎖Gを生成する化合物は、一般式C2n+1−XH(式中、Xは、硫黄原子、酸素原子またはNH基を示し、nは18〜110の整数、好ましくは18〜90の整数、より好ましくは18〜50の整数、さらに好ましくは20〜40の整数、なお一層好ましくは25〜30の整数を示す)で表される。
【0064】
Xが硫黄原子である場合、グラフト側鎖Gを生成する化合物は、一般式C2n+1−SH(式中、nは18〜110、好ましくは18〜90、より好ましくは18〜50、さらに好ましくは20〜40、なお一層好ましくは25〜30を示す)で表される。
【0065】
Xが酸素原子である場合、グラフト側鎖Gを生成する化合物は、一般式C2n+1−OH(式中、nは18〜110、好ましくは18〜90、より好ましくは18〜50、さらに好ましくは20〜40、なお一層好ましくは25〜30を示す)で表される。
【0066】
XがNH基である場合、グラフト側鎖Gを生成する化合物は、一般式C2n+1−NH(式中、nは18〜110、好ましくは18〜90、より好ましくは18〜50、さらに好ましくは20〜40、なお一層好ましくは25〜30を示す)で表される。
【0067】
一般式C2n+1−XHで表される場合、好ましくは、グラフト側鎖Gを生成する化合物は、例えば、C1837−SH、C4081−SH、C70141−SHおよびC90181−SHで構成される群から選択される少なくとも1種のチオールである。
【0068】
グラフト側鎖Gを生成する化合物として、一般式C2n+1−(OCHCH−XH(式中、Xは、硫黄原子、酸素原子またはNH基を示し、nは18〜110の整数、好ましくは18〜90の整数、より好ましくは18〜50の整数、さらに好ましくは20〜40の整数、なお一層好ましくは25〜30の整数を示し、mは1〜20の整数を示す)で表されるものが用いられてもよい。
【0069】
グラフト側鎖Gを生成する化合物は、その一般式がC2n+1−(OCHCH−XHである場合、好ましくは、以下の化学式から選択されるアルコール類(Xが酸素原子)である:例えば、
CH−(CH32−(OCHCH−OH
CH−(CH49−(OCHCH−OH
CH−(CH32−(OCHCH11−OH
CH−(CH49−(OCHCH16−OH
【0070】
本発明の好ましい一実施形態において、グラフトポリマーGPは、ポリマーPの少なくとも1つの二重結合(特に、ポリマーPの共役ジエンの1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合)と、グラフト側鎖Gを生成する化合物の官能部位との反応によって得られたものであり、前記官能部位は、チオール、アルコールまたはアミンから選択される。
【0071】
好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーPの共役ジエン単位の1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、グラフト側鎖Gを生成する化合物のチオールの官能部位(好ましくは、末端に位置する)との反応によって得られたものである。
【0072】
より好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーPのブタジエン単位の1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、グラフト側鎖Gを生成する化合物のチオールの官能部位(好ましくは、末端に位置する)との反応によって得られたものである。
【0073】
さらに好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーPのブタジエン単位の1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、一般式C2n+1−XH(式中、Xは、硫黄原子、酸素原子またはNH基を示し、nは18〜110の整数、好ましくは18〜90の整数、より好ましくは18〜50の整数、さらに好ましくは20〜40の整数、なお一層好ましくは25〜30の整数を示す)で表されるグラフト側鎖Gを生成する化合物との反応によって得られたものである。
【0074】
なお一層好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーPのブタジエン単位の1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、C1837−SH、C4081−SH、C70141−SHおよびC90181−SHで構成される群から選択された少なくとも1種のチオールであるグラフト側鎖Gを生成する化合物との反応によって得られたものである。
【0075】
本発明の他の好ましい実施形態において、グラフトポリマーGPは、ポリマーPの少なくとも1つの二重結合(特に、ポリマーPの共役ジエンの1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合)と、グラフト側鎖Gを生成する化合物のアルコールの官能部位(好ましくは、末端に位置する)との反応によって得られたものである。
【0076】
より好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーPのブタジエン単位の1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、一般式C2n+1−(OCHCH−OH(式中、nは18〜110の整数、好ましくは18〜90の整数、より好ましくは18〜50の整数、さらに好ましくは20〜40の整数、なお一層好ましくは25〜30の整数を示し、mは1〜20の整数を示す)で表されるグラフト側鎖Gを生成する化合物との反応によって得られたものである。
【0077】
さらに好ましくは、グラフトポリマーGPは、ポリマーPのブタジエン単位の1,2−付加によって生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、以下の化学式から選択されたアルコールであるグラフト側鎖Gを生成する化合物との反応によって得られたものである:
CH−(CH32−(OCHCH−OH
CH−(CH49−(OCHCH−OH
CH−(CH32−(OCHCH11−OH
CH−(CH49−(OCHCH16−OH
【0078】
本発明の範囲には、アルケン類、ジエン類、エポキシ類、酸無水物類、カルボン酸類、エステル類、チオール類、アルコール類および第1級アミン類で構成される群から選択される少なくとも1種の官能部位を含む反応性化合物とポリマーPとが反応し、ついで本発明に係るグラフト側鎖Gを生成する化合物と反応して得られたグラフトポリマーGPも含まれる。
【0079】
本発明に係るグラフトポリマーGPは、少なくとも1つのグラフト側鎖を含む。好ましくは、ポリマーの主鎖1本あたりのグラフト側鎖の平均数は2を超える。
【0080】
好ましくは、グラフトポリマーGPは、グラフト側鎖Gを3〜55モル%、より好ましくは5〜35モル%、さらに好ましくは10〜20モル%含んでいる。好ましくは、グラフトポリマーGPは、グラフト側鎖Gを10〜55重量%、より好ましくは15〜35重量%、さらに好ましくは10〜20重量%含んでいる。
【0081】
ポリマーPが、ブタジエンの1,2−付加によって生じたペンダントビニル二重結合を多く含むものである場合(例えば、ブタジエンの1,2−付加によって生じたペンダントビニル二重結合単位が10重量%ではなく30重量%程度含まれている場合、「ビニル二重結合を多く含む」といえる)、グラフトポリマーGPのグラフト率は大きくなり、かつ、多くのグラフト側鎖Gが形成されることになる。
【0082】
グラフトポリマーGPに含まれるグラフト側鎖Gは、全て同一の化学構造を有するものであってもよいし、または互いに異なる化学構造を有するものであってもよい。したがって、1本のポリマー主鎖において、異なる鎖長を有する複数のグラフト側鎖Gが共存してもよい。つまり、例えば、グラフトポリマーGPは、C1837−側鎖である少なくとも1つのグラフト側鎖と、C70141−側鎖である少なくとも1つのグラフト側鎖とを含むものであってもよい。
【0083】
これまでに述べたグラフト側鎖Gは、例えば、以下の仕組みに基づいて、熱可逆的な架橋結合を形成することができるが、本発明の熱可逆的な架橋結合は、以下の仕組みに限定されない。この架橋結合は、グラフトポリマーGP同士がグラフト側鎖Gを介して(厳密には、グラフト側鎖Gの炭化水素鎖を介して)集合(assembling)することで始まる。この集合により、グラフトポリマーGPのグラフト側鎖Gとグラフト側鎖Gとの間で結晶構造が形成可能となる。当該結晶構造は、低温時に安定である。そして、この結晶構造は、温度が上昇すると融解し、温度が低下すると再結晶する。低温時には、グラフト側鎖Gの結晶構造の相互作用により、グラフトポリマーGPのポリマー鎖が接合し、ポリマー鎖とポリマー鎖との間に架橋結合が形成される。グラフト側鎖Gの結晶構造が融解すると、グラフトポリマーGPのポリマー鎖が別々に動き出し、架橋結合が解消される。
【0084】
したがって、本発明に係るグラフトポリマーGPを瀝青の添加物として使用すると、可逆架橋性(詳細には、熱可逆架橋性)を有する瀝青/ポリマー組成物が得られる。
【0085】
本発明に係る瀝青/ポリマー組成物の熱可逆的な架橋結合は、以下の現象に基づくものである:
(1)低温(例えば、利用温度)において、グラフトポリマーGP間のグラフト側鎖Gとグラフト側鎖Gとが集合し、架橋点を形成する。このようにして形成されるポリマーネットワークは、瀝青/ポリマー組成物に良好な機械特性(特に、柔軟性と凝集性)を付与する。
(2)温度が上昇して高温になると、架橋点が解裂し、ポリマー鎖同士の解離が生じる。ポリマーネットワークが解消されることで、瀝青/ポリマー組成物は低粘性と良好な流動性とを取り戻す。
(3)温度が低下すると、架橋点が再び形成される。この現象は熱可逆的である。
【0086】
本発明に係る瀝青/ポリマー組成物は、少なくとも1種の瀝青と、少なくとも1種のグラフトポリマーGPとによって構成される。
【0087】
当該瀝青に添加されるグラフトポリマーGPについては、前述した。
【0088】
前記瀝青/ポリマー組成物において、グラフトポリマーGPは、瀝青の0.1〜30重量%含まれる。好ましい一実施形態では、前記瀝青/ポリマー組成物において、グラフトポリマーGPは、瀝青の1〜10重量%、より好ましくは、瀝青の1〜5重量%含まれる。
【0089】
本発明に係る瀝青/ポリマー組成物は、様々な由来の瀝青を含有するものであってもよい。まず、天然瀝青の鉱床に含まれる瀝青、天然アスファルトまたは瀝青砂などの天然由来の瀝青が挙げられる。
【0090】
本発明に係る瀝青は、原油の精製から生じる瀝青であってもよい。この瀝青は、石油の常圧蒸留および/または真空蒸留によって生じる。この瀝青は、任意で、ブローイング法で処理、および/またはビスブレーキング法で処理、および/または脱アスファルト処理されたものであってもよい。この瀝青は、硬質等級であっても軟質等級であってもよい。精製過程で得られる異なる瀝青を互いに組み合わせることで、技術的に最善な折衷を行うことも可能である。
【0091】
使用される瀝青は、揮発性溶剤および/または石油由来のフラックスおよび/または石炭由来のフラックスおよび/または植物由来のフラックスが添加されたフラックス添加瀝青であってもよい。このフラックスとして、C〜C24脂肪酸の酸誘導体、エステル誘導体またはアミド誘導体と、炭化水素カット(例えば、原油の分留過程で得られた留分成分)とを組み合わせたものが使用されてもよい。
【0092】
本発明は、さらに、熱可逆架橋性の瀝青/ポリマー組成物の調製方法に関する。2種類の調製方法、いわゆるエクスシチュー(ex-situ)法およびインシチュー(in-situ)法が考えられる。
【0093】
エクスシチュー法とは、グラフト側鎖Gを生成する化合物とポリマーPとのグラフト重合工程を、瀝青への投入工程とは別にして行う調製方法のことを言う。つまり、グラフトポリマーGPと瀝青は別々に用意される。
【0094】
いわゆるエクスシチュー法に係る、改質瀝青の調製方法は、以下の基本的な工程を含む:
a)攪拌手段付きの反応槽に瀝青を投入し、この瀝青を90〜220℃、好ましくは、140℃から180℃にまで加熱する工程、
b)本発明に係るグラフトポリマーGPを、前記瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、前記瀝青の0.1〜10重量%投入する工程、および
c)この混合物を、一様な瀝青/ポリマー組成物が最終的に得られるまで、90〜220℃、好ましくは、140〜180℃で当該調製方法のあいだ絶えず加熱および攪拌する工程。
【0095】
また、改質瀝青を、いわゆるインシチュー法を用いて調製することも可能である。インシチュー法では、本発明に係るグラフトポリマーGPの生成を瀝青中で行う。当該いわゆるインシチュー法は、以下の基本的な工程を含む:
a)攪拌手段付きの反応槽に瀝青を投入し、この瀝青を90〜220℃、好ましくは、140℃から180℃にまで加熱する工程、および
b)ポリマーPを、前記瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、前記瀝青の0.1〜10重量%投入し、次いで、グラフト側鎖Gを生成する化合物を、前記瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、前記瀝青の0.1〜10重量%投入する工程。
【0096】
この混合物は、一様な瀝青/ポリマー組成物が最終的に得られるまで、90〜220℃、好ましくは、140〜180℃で当該調製方法のあいだ絶えず加熱および攪拌される。
【0097】
本発明に従い製造される瀝青/ポリマー組成物の用途には様々なものが想定でき、特に、瀝青質バインダーの製造が想定される。瀝青質バインダーは、骨材、特に、道路用骨材と組み合わせるのに使用できる。本発明の他の構成として、瀝青組成物の、様々な産業用途における使用が挙げられ、特に、密封膜、メンブレンまたは含浸層を製造するための使用が挙げられる。
【0098】
道路用途において、本発明は、特に、道路基礎および表面の建設および保守、ならびに道路工事を行うために用いられる瀝青混合物に関する。つまり、本発明は、例えば、表面化粧用材料、加熱混合物、常温混合物、再生常温混合物、砂利エマルション、基礎(base)、バインダー、接着層(bonding course)および摩耗層に用いられ、また、耐わだち割れ層(anti-rutting course)、排水性混合物(draining mix)、アスファルト(瀝青質バインダーと砂系の骨材との混合物)などの、特殊な性質を有する瀝青質バインダーと道路用骨材との組合せとに関する。
【0099】
瀝青組成物の産業用途については、密封膜、防音膜(anti-noise membrane)、絶縁膜(insulating membrane)、表面コーティング(surface coating)、カーペットタイル(carpet tile)、含浸層などの製造が挙げられる。
【実施例】
【0100】
[グラフトポリマーGPの調製]
本発明に係る3種類のグラフトポリマーGPを、スチレン/ブタジエンブロックコポリマー(スチレンを25重量%およびブタジエンを75重量%含む)であるポリマーPを用いて調製する。このコポリマーは、質量平均分子量Mwが128000ダルトンであり、多分散指数(分子量分布指数)Mw/Mnが1.11であり、ブタジエンの1,2−付加によって生じたペンダントビニル二重結合単位を、ブタジエン単位の集合に関して10重量%含むものである。
【0101】
トルエン50mlおよび上記のポリマーP2gを、窒素雰囲気下に保持した反応器に投入する。次に、グラフト側鎖Gを生成する化合物1.5gおよびAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)10mgを、前記反応器に投入する。この混合物を攪拌しながら約90℃にまで徐々に加熱する。
【0102】
グラフト側鎖を生成する化合物は、C1837−SH(G)、C4081−SH(G)およびC70141−SH(G)の3種類を用いる。
【0103】
加熱してから3,4時間後、生じた溶液を常温にまで冷却し、グラフトポリマーGPをメタノールおよびアセトンを用いて沈殿させる。
【0104】
このようにして、グラフト側鎖を生成する化合物G、GおよびGから、それぞれ、グラフトポリマーPG、PGおよびPGが得られる。
【0105】
[瀝青]
使用する瀝青は、針入度50(1/10mm)(規格NF EN12591に規定された特性に相当する)の瀝青である。
【0106】
[本発明に係る瀝青/ポリマー組成物C、CおよびC
本発明に係る瀝青/ポリマー組成物C、CおよびCを、前記グラフトポリマーPG、PGおよびPGと上述の瀝青を用いて調製する(エクスシチュー法)。
【0107】
瀝青35gを、機械式の攪拌装置を具備する180℃に保持された容器に投入する。当該瀝青を185℃に加熱して約60分間攪拌する。この後、グラフトポリマーPG、PGまたはPG1.8gを添加する。攪拌を4時間続けることで瀝青/ポリマー混合物が得られる。
【0108】
瀝青/ポリマー組成物C、CおよびCが、それぞれ、グラフトポリマーPG、PGおよびPGから得られる。
【0109】
[インシチュー法を用いた、本発明に係るグラフトポリマーGPおよび瀝青/ポリマー組成物C、CおよびCの調製]
インシチュー法を用いて、本発明に係る瀝青/ポリマー組成物を、さらに3種類調製する。
【0110】
前記瀝青35gを反応器に投入し、185℃に加熱して約60分間攪拌する。次いで、ポリマーP(スチレンを25重量%およびブタジエンを75重量%含む、スチレン−ブタジエンの前記バイブロックコポリマー)1.8gと、グラフト側鎖Gを生成する化合物1.8gとを投入する。
【0111】
グラフト側鎖を生成する化合物は、C1837−SH(G)、C4081−SH(G)およびC70141−SH(G)の3種類を用いる。
【0112】
このようにして生じた混合物を、約4時間攪拌する。
【0113】
このように、瀝青/ポリマー組成物C、CおよびCが、それぞれ、グラフト側鎖を生成する化合物G、GおよびGから得られる。
【0114】
[対照の瀝青/ポリマー組成物T
不可逆架橋性の瀝青/ポリマー組成物を次のようにして調製する:
前記瀝青35gを反応器に投入し、185℃に加熱して約60分間攪拌する。次に、スチレン−ブタジエンの前記バイブロックコポリマーポリマー(スチレンを25重量%およびブタジエンを75重量%含む)1.8gを投入し、この混合物を185℃に加熱して約4時間攪拌する。その後、硫黄50mgを添加し、この混合物を185℃に加熱して約1時間半攪拌する。
【0115】
以下の表に、本発明に係る瀝青/ポリマー組成物の物理的特性と対照の瀝青/ポリマー組成物の物理的特性とを示す。
【0116】
【表1】

【0117】
上記表の結果から、80℃から200℃までの温度において、本発明に係る瀝青/ポリマー組成物の粘度が対照の瀝青/ポリマー組成物Tの粘度よりも常に低いことが分かる。つまり、80℃以上の温度では、本発明に係る瀝青/ポリマー組成物の粘度は、硫黄架橋された瀝青/ポリマー組成物の粘度よりも低くなる。したがって、本発明は、加工温度において低粘性である瀝青/ポリマー組成物を提供することができる。
【0118】
また、上記表の結果は、本発明に係る瀝青/ポリマー組成物の弾性特性が、ポリマーにグラフト結合したグラフト側鎖の鎖長に依存することを示している。弾性と粘性との間の最善の折衷は、瀝青/ポリマー組成物CおよびCにおいて実現されており、それらの弾性特性は、硫黄架橋された瀝青/ポリマー組成物の弾性特性とほぼ同じである(引張時の最大伸長率および応力は、C、CおよびTで同等である)。つまり、本発明に係る瀝青/ポリマー組成物(特に、CおよびC)は、利用温度では弾性を有し、加工温度では低粘性を有する。
【0119】
上記表の結果は、さらに、本発明に係る瀝青/ポリマー組成物の、環境法による軟化点も、ポリマーにグラフト結合したグラフト側鎖の鎖長に同じく依存することを示している。すなわち、瀝青/ポリマー組成物CおよびCの軟化点は、硫黄架橋された対照の組成物Tの軟化点よりも高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の瀝青と、少なくとも1種のグラフトポリマーGPとを含む瀝青/ポリマー組成物であって、
前記グラフトポリマーGPが、ポリマーの主鎖、およびこのポリマーの主鎖に結合した少なくとも1種のグラフト側鎖Gを含み、
前記グラフト側鎖Gを生成する化合物が、炭素数が少なくとも18の、分岐鎖の炭化水素鎖、直鎖の炭化水素鎖、または飽和炭化水素鎖で構成される、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項2】
請求項1において、ポリマーPが、特に、ジエン単位の共重合、好ましくは、共役ジエン単位の共重合によって得られたものである、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、ポリマーPが、共役ジエン単位と、芳香族モノビニル炭化水素単位との共重合によって得られたものである、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、ポリマーPの主鎖が、二重結合、好ましくは、共役ジエン単位の1,2−付加で生じたペンダントビニル二重結合、より好ましくは、ブタジエン単位の1,2−付加で生じたペンダントビニル二重結合を有する、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、ポリマーPが、ブタジエンの1,2−付加で生じたペンダントビニル二重結合単位を5重量%から50重量%有する、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、グラフト側鎖Gを生成する化合物が、下記の一般式:
2n+1−XH
(式中、Xは、硫黄原子、酸素原子またはNH基を示し、nは18〜110の整数を示す)で表される、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項において、グラフト側鎖Gを生成する化合物が、下記の一般式:
2n+1−(OCHCH−XH
(式中、Xは、硫黄原子、酸素原子またはNH基を示し、nは18〜110の整数を示し、mは1〜20の整数を示す)で表される、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、グラフトポリマーGPが、ポリマーPの少なくとも1つの二重結合、特に、ポリマーPの共役ジエン単位の1,2−付加で生じた少なくとも1つのペンダントビニル二重結合と、グラフト側鎖Gを生成する化合物の反応性官能部位との反応によって得られたものであり、
前記反応性官能部位が、チオール、アルコールまたはアミンから選択される、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、グラフトポリマーGPが、ポリマーの主鎖1本につき少なくとも2つのグラフト側鎖を有する、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、グラフトポリマーGPが、瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、瀝青の1〜10重量%含まれている、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項において、さらに、少なくとも1種のフラックスを含む、瀝青/ポリマー組成物。
【請求項12】
請求項1から11に記載の瀝青/ポリマー組成物をエクスシチューで調製する方法において、
a)攪拌手段付きの反応槽に瀝青を投入し、この瀝青を90〜220℃、好ましくは、140〜180℃にまで加熱する工程と、
b)グラフトポリマーGPを、前記瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、前記瀝青の0.1〜10重量%投入する工程と、
c)この混合物を、一様な瀝青/ポリマー組成物が最終的に得られるまで、90〜220℃、好ましくは、140〜180℃で加熱および攪拌する工程と、
を含むことを特徴とする、瀝青/ポリマー組成物のエクスシチュー調製方法。
【請求項13】
請求項1から11に記載の瀝青/ポリマー組成物をインシチューで調製する方法であって、
a)攪拌手段付きの反応槽に瀝青を投入し、この瀝青を90〜220℃、好ましくは、140〜180℃にまで加熱する工程と、
b)ポリマーPを、前記瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、前記瀝青の0.1〜10重量%投入するとともに、グラフト側鎖Gを生成する化合物を、前記瀝青の0.1〜30重量%、好ましくは、前記瀝青の0.1〜10重量%投入する工程と、
c)この混合物を、一様な瀝青/ポリマー組成物が最終的に得られるまで、90〜220℃、好ましくは、140〜180℃で加熱および攪拌する工程と、
を含む、瀝青/ポリマー組成物のインシチュー調製方法。
【請求項14】
請求項1から11のいずれか一項に記載の瀝青/ポリマー組成物の使用であって、瀝青質バインダー、特に、無水物形態の瀝青質バインダー、エマルション形態の瀝青質バインダー、または溶剤に溶解した瀝青質バインダーを製造するための使用。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか一項に記載の瀝青/ポリマー組成物の使用であって、表面化粧用材料、加熱混合物、常温混合物、再生常温混合物または砂利エマルションを製造するための、骨材との混合物である使用。

【公表番号】特表2010−534262(P2010−534262A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517440(P2010−517440)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001052
【国際公開番号】WO2009/030840
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【出願人】(510021203)サントル・ナショナル・ド・ラ・ルシェルシェ・シアンティフィーク‐セーエヌエールエス (1)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE‐CNRS
【Fターム(参考)】