説明

熱接着性ポリエステル系長繊維不織布の製造方法およびそれにより構成される熱接着シート材

【課題】操業性、開繊性に優れ、ポリオレフィン系不織布等への接着性が比較的良好な熱接着性ポリエステル系長繊維不織布を製造する方法を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールが50モル%以上であるジオール成分とからなり、融点(Tm)が100〜150℃である共重合ポリエステルを用いてスパンボンド法により長繊維不織布を製造する方法において、溶融紡糸時に、メルトインデックス(MI)が5〜100g/10minであるポリオレフィンを添加することで、このポリオレフィンを1.0〜5.0質量%含有する長繊維を得て、この長繊維を多数堆積させて不織布化することを特徴とする熱接着性ポリエステル系長繊維不織布の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着性ポリエステル系長繊維不織布の製造方法およびそれにより構成される熱接着シート材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の天井材等には、様々な不織布及び布等の積層体が多く使用されている。また、不織布とフィルムを貼り合わせた積層体も、防護服を始め、様々な用途で多く用いられている。
これら積層体を構成する構造物同士を接着するために、ホットメルト系の接着剤を用いることも多いが、熱接着性を有する繊維からなる不織布を介在させて熱処理を施すことにより、両構造物を接着させる場合もある。
【0003】
熱接着性を有する不織布として、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする繊維と、バインダー繊維(ポリエチレンテレフタレートよりも低融点のポリマーで構成された繊維)との混繊にて構成された長繊維からなる不織布が挙げられる。しかし、この長繊維不織布において、熱接着させる際に接着剤として機能するものは、バインダー繊維のみであり、またバインダー繊維の量が相対的に少ないため、この長繊維不織布で接着させた不織構造物同士は、接着性が弱く、剥離しやすいものであった。
【0004】
また、不織構造物同士の接着性を向上させるために、ポリエチレンテレフタレートを芯部とし、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部とした芯鞘型複合長繊維からなる不織布も用いられている。この不織布は、高融点を有する芯部と低融点を有する鞘部とからなるため、熱接着処理の際に、芯部を溶融させず繊維形態を保持させ、鞘部のみを溶融させることにより、強度を保持することができる。
しかしながら、鞘部のイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体は、非晶性であり明確な結晶融点を示さないため、接着後に不織構造物を高温雰囲気下で使用した場合、接着強力が低下して変形するという問題を生じるものであった。
【0005】
上記問題を解決するものとして、特許文献1には、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールが50モル%以上であるジオール成分とを、結晶核剤のポリオレフィンの存在下に重合して、融点が100〜150℃の共重合ポリエステルを得て、これを構成繊維とする長繊維不織布が提案されている。この不織布は、熱接着処理の際の収縮が小さく、接着した不織構造物等の寸法安定性は優れており、また、接着後の不織構造物を高温雰囲気下で使用した際の耐熱性も優れたものである。
しかしながら、この不織布は、ポリエステル系であり、また結晶核剤としてのポリオレフィンの含有量が少ないため、ポリオレフィンとの接着性が低く、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンからなるフィルム及び不織布との接着性が乏しいものであった。特許文献1に記載された製造方法を発明者らが追試したところ、スパンボンド法のような冷却ゾーンの比較的短い方法を用いて不織布を製造する場合には、糸条の密着を起こしやすく、開繊性が劣る上、装置へポリマーが付着しやすく、連続操業できないものであった。
【0006】
このような問題点を解決する方法として、しばしば、タルク、二酸化チタン等のフィラーを含有させる方法が採られ、一定の効果があることが知られているが、フィラーは200℃以下で溶融するものは少なく、熱接着シートとして用いた場合、シール性を妨害する要因になる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−13522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記問題を解決し、操業性、開繊性に優れ、ポリオレフィン系不織布等への接着性が比較的良好な熱接着性ポリエステル系長繊維不織布を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステルの共重合時にポリオレフィンを添加するのではなく、共重合後のポリエステルを溶融紡糸する時に特定のメルトインデックス(MI)を有するポリオレフィンを添加することによって、スパンボンド法であっても、操業性、開繊性に優れた不織布を製造することができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールが50モル%以上であるジオール成分とからなり、融点(Tm)が100〜150℃である共重合ポリエステルを用いてスパンボンド法により長繊維不織布を製造する方法において、溶融紡糸時に、メルトインデックス(MI)が5〜100g/10minであるポリオレフィンを添加することで、このポリオレフィンを1.0〜5.0質量%含有する長繊維を得て、この長繊維を多数堆積させて不織布化することを特徴とする熱接着性ポリエステル系長繊維不織布の製造方法。
(2)上記(1)記載の熱接着性ポリエステル系長繊維不織布の製造方法により得られた熱接着性ポリエステル系長繊維不織布により構成される熱接着シート材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱接着性ポリエステル系長繊維不織布の製造方法は、共重合ポリエステルの溶融紡糸時に、特定のメルトインデックス(MI)を有するポリオレフィンを特定量添加することにより、スパンボンド法であっても、開繊性、操業性に優れる。
本発明の製造方法で得られる熱接着性ポリエステル系長繊維不織布は、長繊維を形成する共重合ポリエステルがジオール成分としてヘキサンジオールを50モル%以上共重合しているため、低融点でありながら、結晶性に優れ、かつ、その共重合ポリエステル中にポリオレフィンを1.0〜5.0質量%含有しているため、ポリオレフィン系基材に対しても良好なヒートシール性を有することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で製造する熱接着性ポリエステル系長繊維不織布は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールが50モル%以上であるジオール成分とからなる共重合ポリエステル中に、ポリオレフィンを1.0〜5.0質量%含有する長繊維によって構成される。
【0012】
共重合ポリエステルの融点(Tm)は、100〜150℃であることが必要であり、110〜140℃であることがより好ましい。Tmが100℃未満であると、得られた長繊維不織布は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、Tmが150℃を超えると、熱接着加工温度を高くする必要があるので、加工性、経済性に劣り、また、熱接着加工により得られる製品の品質や風合い等を損ねるため好ましくない。
【0013】
共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(以下、TPAとする)を主成分とするものであり、TPAが60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。TPAが60モル%未満であると、共重合ポリエステルの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0014】
なお、TPA以外のジカルボン酸共重合成分として、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0015】
共重合ポリエステルのジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であることが必要であり、60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、共重合ポリエステルの融点が150℃を超えるものとなる。
【0016】
HD以外のジオール共重合成分として、エチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDを、ジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、5〜40モル%とすることがより好ましい。
【0017】
さらに、HD、EGやBD以外のジオール共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0018】
上記した共重合ポリエステルは組成的に結晶性を有している。しかしながら、長繊維不織布を製造する際の糸条間の密着等の操業性やシートの開繊性を改善するためには、結晶核剤として、ポリオレフィンを添加する必要がある。また、この添加するポリオレフィンは密着防止剤としても機能し、開繊時の糸条間の密着を防ぎ地合が良好となり、また連続操業時に装置の各部位にポリマーや糸が付着しにくくなり、連続操業中にトラブルが発生しにくい。
【0019】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、およびこれらの酸変性体である酸変性ポリオレフィンなどを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が好ましく、特にポリエチレンが好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。また、ポリオレフィンとして、2種以上のポリオレフィンを併用してもよい。
【0020】
共重合ポリエステル中のポリオレフィンの含有量は、1.0〜5.0質量%であることが必要であり、1.0〜3.0質量%であることがより好ましい。含有量が1.0質量%以下では、操業性、開繊性の改善が不十分であり、またポリオレフィン系不織布等への接着性が比較的良好はなく、本発明の目的を達成することが難しい。また、含有量が5.0質量%を超えた場合、共重合ポリエステルへのポリオレフィンの分散が不十分なものになってしまい、紡糸時に糸切れが多発し、好ましくない。
【0021】
ポリオレフィンのメルトインデックス(MI)は、5〜100g/10minであることが必要であり、10〜50g/10minであることが好ましい。MIが5g/10minより低いと共重合ポリエステル中への分散性に劣り好ましくない。また、MIが100g/10minを超える場合、ポリオレフィンの多くが、繊維表面にブリードしてしまい長期間紡糸した場合、開繊性、操業性に影響を与える可能性があり、好ましくない。
【0022】
本発明の製造方法において、ポリオレフィンの共重合ポリエステルへの添加は、共重合ポリエステルの溶融紡糸時に行うことが必要である。共重合ポリエステル中に1.0〜5.0質量%となる量のポリオレフィンを、ポリエステルを共重合する際に添加すると、重合自体を阻害することとなり、そもそもチップ自体が得られない。
なお、ポリオレフィンの高濃度のマスターバッチを作製し、それを紡糸時に適宜、希釈しながら添加してもよい。
【0023】
また、共重合ポリエステル中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、艶消剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0024】
本発明において、長繊維不織布を構成する長繊維の断面形状は、特に規定するものではなく、丸型のみならず扁平型、トリローバル型、ヘキサローバル型、W型、H型、Y字型、T字型、C字型等の異形断面や、四角形や三角形等の多角形状、中空形状のものでもよい。異形断面は、単位ポリマー質量辺りの表面積が大きくなることから、溶融紡糸の際の紡出糸条の冷却性、開繊性に優れている。
【0025】
本発明において、長繊維不織布を構成する長繊維の単糸繊度は、1〜20デシテックスであることが好ましい。単糸繊度が1デシテックス未満になると、紡糸工程おいて紡出糸条が延伸張力に耐えきれずに糸切れが頻繁に発生し、操業性が悪化しやすくなる。一方、単糸繊度が20デシテックスを超えると、紡出糸条の冷却性に劣る傾向となり、糸条が熱により密着した状態で開繊装置から出てくるようになり、得られる不織布の品位が非常に劣ることとなる。これらの理由により、単糸繊度は、2〜15デシテックスであることがより好ましい。
【0026】
本発明で製造する長繊維不織布の目付は、その不織布の用途によって適宜選択すればよく、特に限定しないが、一般的には10〜300g/mの範囲が好ましい。より好ましくは15〜200g/mの範囲である。目付が10g/m未満では、地合および機械的強力に劣り、実用的ではない。逆に、目付が300g/mを超えると、コスト面で不利となる。
【0027】
本発明で製造する長繊維不織布は、上記長繊維によって構成されるが、構成繊維同士が熱接着により一体化したものであることが好ましく、特に熱エンボス加工により熱接着していることが好ましい。熱エンボス加工により熱接着している不織布は、熱接着部(不織布に形成された凹部)では熱と圧力が付与されているが、非熱接着部は熱や圧力の影響をほとんど受けないため、肌触りの良好な不織布となるからである。また、機械的物性も良好であり、形態安定性にも優れている。
【0028】
本発明で製造する長繊維不織布には、本発明の効果を損なわない範囲で、バインダーを付着させることができる。特にバインダーの種類は限定されないが、ポリオレフィン系エマルジョンは、ポリオレフィンへの接着性を高める上で好適である。
【0029】
バインダーを付着させる方法は特に限定されるものではないが、キスロールコート法、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。特に好ましくは、含浸コート法、もしくはキスロールにてエマルジョンを不織布に転写するキスロールコート法である。
乾燥温度は、特に限定されず、基材の耐熱温度等によって適宜決定すればよいが、通常、50〜150℃であればよく、60〜140℃がより好ましく、70〜130℃がさらに好ましい。乾燥温度が50℃未満の場合、媒体を十分、揮発させることができない、あるいは揮発させるのに時間を要するため良好な接着性能を発現させることが困難になる。一方、乾燥温度が150℃を超えると基材となる不織布が融解してしまい好ましくない。
【0030】
本発明において、熱接着性ポリエステル系長繊維不織布は、スパンボンド法によって効率よく製造することができる。
まず、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールが50モル%以上であるジオール成分とからなり、融点(Tm)が100〜150℃の共重合ポリエステルを用意し、また、メルトインデックス(MI)が5〜100g/10minであるポリオレフィンを用意する。それぞれを別途計量した後、溶融させ、紡糸口金を介して溶融紡糸し、紡出糸条を従来公知の横吹き付けや環状吹き付け等の冷却装置を用いて冷却せしめた後、吸引装置を用いて牽引細化して引き取る。このときの牽引速度は、1000〜6000m/分と設定することが好ましい。牽引速度が1000m/分未満であると、糸条において十分に分子配向が促進されず、得られる長繊維不織布の寸法安定性や熱安定性に劣る傾向となる。一方、牽引速度が高すぎると紡糸安定性に劣る。
【0031】
牽引細化した長繊維群は、公知の開繊器具にて開繊した後、スクリーンコンベアなどの移動式捕集面上に開繊堆積させて、構成繊維がランダムに堆積した不織ウエブを形成する。
【0032】
次いで、このウエブを熱圧接装置にて熱圧接することで、本発明の熱接着性ポリエステル系長繊維不織布を得ることができる。熱圧接装置としては、エンボスロールとフラットロールとからなるものや、一対のエンボスロールからなるものや一対のフラットロールからなるもの等が挙げられ、複数の熱圧接装置を用いてもよい。
【0033】
エンボスロールの凸部の先端部の形状は、熱圧接部の形状となるが、この形状は、特に限定されない。例えば、丸形、楕円形、菱形、三角形、T字形、井形、長方形、正方形等の種々の形状を採用できる。この凸部の先端部面積は、0.1〜1.0mm程度であればよい。
【0034】
本発明により得られた熱接着性ポリエステル系長繊維不織布は、布帛やシート等を貼り合せる熱接着シート材として好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例に基づき、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における各種物性値は、以下の方法により測定した。
【0036】
(1)メルトインデックス(MI)(g/10min):
ASTM−D−1238(E)に記載の方法に準じて、温度190℃、荷重2160gfで測定した。
【0037】
(2)融点(℃):
示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用い、試料質量を5mg、昇温速度を10℃/分で測定し、得られた融解吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0038】
(3)繊度(デシテックス):
不織ウエブより50本の繊維の繊維径を光学顕微鏡で測定し、密度補正して求めた平均値を繊度とした。
【0039】
(4)目付(g/m):
標準状態の試料から試料長が10cm、試料幅が5cmの試料片10点を作成し、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積あたりに換算して、目付(g/m)とした。
【0040】
(5)開繊性:
1mシートを採取し、その中の密着糸の有無を持って評価した。
○:密着糸なし
×:密着糸あり
【0041】
(6)操業性:
24h運転する間の装置へのポリマー付着に伴う、トラブル発生の有無で評価した。
○:トラブルなし
×:トラブルあり
【0042】
(7)接着性:
被接着体(ポリエチレンテレフタレート(以下、PETとする)、ポリプロピレン(以下、PPとする))からなる50g/mのスパンボンド不織布を2枚用意し、この2枚の間に得られたスパンボンド不織布(50g/m)を挟み込み、150mm×150mmとなるようにサンプリングする。このシートの端より20mmのところをヒートシール機を用いて、150℃、2.0s、2.0kgf/cm、10mm幅でヒートシールを行った。
このシートを剥離し、その状態を3段階で評価した。
○:サンプルの剥離を行う際、抵抗が大きく剥離が難しい。もしくは、接着部分よりシートが破断する。
△:少しの力で剥離する。
×:接着していない。
【0043】
実施例1
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール89モル%、1,4−ブタンジオール11モル%で構成されるジオール成分とからなり、Tmが133℃で、MIが20g/10minである共重合ポリエステル(以下、P1とする)と、MIが25g/10minであるポリエチレンを用意した。
ポリエチレンが溶融重合体中に2.0質量%となるように、個別に計量した後、エクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度190℃で溶融し、単孔吐出量3.3g/分の条件で溶融紡糸した。
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーに牽引速度4000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上に長繊維群をウエブとして捕集堆積させた。堆積させた長繊維の単糸繊度は8.0デシテックスであった。
次いで、このウエブをロール温度115℃としたエンボスロールからなる部分熱圧着装置に通して部分的に熱圧着し、目付50g/mの熱接着性ポリエステル系長繊維不織布を得た。
【0044】
比較例1
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール89モル%、1,4−ブタンジオール11モル%で構成されるジオール成分とからなる共重合ポリエステルを重合する際に、ポリエチレンワックス(クラリアント社製 Licowax PE190)を、濃度が0.05質量%になるように添加した。得られた共重合ポリエステル(以下、P2とする)は、Tmが133℃で、MIが20g/10minであった。
共重合ポリエステルP2をエクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度190℃で溶融し、単孔吐出量3.3g/分の条件で溶融紡糸した。
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却したが、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーにて牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊することができず、長繊維群を堆積したウエブを観察すると、長繊維は単糸の状態ではなく密着糸ばかりであり、また、連続稼動中に装置の様々な場所にポリマーが付着しトラブルが生じたので、不織布製造を中止した。
【0045】
比較例2
共重合ポリエステルP1とMIが20g/10minであるポリエチレンを用意した。
ポリエチレンが溶融重合体中に0.5質量%となるように、個別に計量した後、エクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度190℃で溶融し、単孔吐出量3.3g/分の条件で溶融紡糸した。
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却したが、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーにて牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊することができず、長繊維群を堆積したウエブを観察すると、長繊維は単糸の状態ではなく密着糸ばかりであり、また、連続稼動中に装置の様々な場所にポリマーが付着しトラブルが生じたので、不織布製造を中止した。
【0046】
比較例3
共重合ポリエステルP1と二酸化チタンとを用意した。
二酸化チタンが溶融重合体中に0.8質量%となるように、個別に計量した後、エクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度190℃で溶融し、単孔吐出量3.3g/分の条件で溶融紡糸した。
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーに牽引速度4000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。堆積させた長繊維の単糸繊度は8.0デシテックスであった。
次いで、このウエブをロール温度115℃としたエンボスロールからなる部分熱圧着装置に通して部分的に熱圧着し、目付50g/mの熱接着性ポリエステル系長繊維不織布を得た。
【0047】
比較例4
Tm256℃のポリエチレンテレフタレート(以下、PETとする)を用意した。これをエクストルーダー型溶融押出機を用いて、温度285℃で溶融し、単孔吐出量1.7g/分の条件で溶融紡糸した。
紡出糸条を公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設けたエアサッカーに牽引速度5000m/分で牽引細化し、公知の開繊器具を用いて開繊し、移動するスクリーンコンベア上にウエブとして捕集堆積させた。堆積させた長繊維の単糸繊度は3.0デシテックスであった。
次いで、このウエブをロール温度220℃としたエンボスロールからなる部分熱圧着装置に通して部分的に熱圧着し、目付50g/mの熱接着性ポリエステル系長繊維不織布を得た。
【0048】
結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1の不織布は、開繊性、操業性に優れ、またポリエステル系基材に対して優れた接着性能を示すのと同時にポリオレフィン系基材に対しても、比較的良好な接着性能を有していた。
比較例1、比較例2では、開繊性、操業性に劣り不織布を製造することができなかった。
比較例3の不織布は、開繊性、操業性は改善されるものの、フィラーを含むため実施例1と比較して接着性に劣るものであった。
比較例4の不織布は、不織布を構成する樹脂の融点が256℃と高く、ポリエステル系基材、ポリオレフィン系基材のどちらの基材に対しても接着性がなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールが50モル%以上であるジオール成分とからなり、融点(Tm)が100〜150℃である共重合ポリエステルを用いてスパンボンド法により長繊維不織布を製造する方法において、溶融紡糸時に、メルトインデックス(MI)が5〜100g/10minであるポリオレフィンを添加することで、このポリオレフィンを1.0〜5.0質量%含有する長繊維を得て、この長繊維を多数堆積させて不織布化することを特徴とする熱接着性ポリエステル系長繊維不織布の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱接着性ポリエステル系長繊維不織布の製造方法により得られた熱接着性ポリエステル系長繊維不織布により構成される熱接着シート材。



【公開番号】特開2012−72508(P2012−72508A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216267(P2010−216267)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】