説明

熱搬送媒体及びこれを用いた熱搬送システム

【課題】水溶液に添加する界面活性剤の量をより少なくても所望の摩擦低減効果を得ることができる熱搬送媒体を提供すること。
【解決手段】熱供給側システムと熱需要側システムとの間を循環して熱を搬送する熱搬送媒体であって、第四級アンモニウム塩及び陰イオン性高分子を含む水溶液からなることを特徴とする熱搬送媒体。前記第四級アンモニウム塩の濃度が10〜100mg/Lであり、前記陰イオン性高分子の濃度が3〜1000mg/Lであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱供給側システムから熱需要側システムに熱を搬送するために用いる熱搬送媒体及びこれを用いた熱搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地域冷暖房システム、ビル空調システム、排熱利用システム、家庭用冷温水利用型空調システムなどでは、熱供給(熱発生)側から熱需要(熱利用)側まで熱を移動させるために熱搬送システムが用いられている。この熱搬送システムでは、熱を搬送するための媒体として水を用いる場合が多く、この場合、熱供給側システムと熱需要側システムとの間を水を循環させるために配管が用いられる。この配管の施工コストは、配管そのものの費用の他に、配管からの放熱を防止するための保温材の費用、工事施工費などが含まれ、配管径が小さい程、また配管の長さが短い程施工コストが低くなる。
【0003】
水の顕熱により熱を搬送するシステムを設計する際に、配管の径を決定する方法としては、経験上配管内を流動する水の流速を基本に考えることが多い。この場合、搬送したい流量に対して、配管内の流速が1〜3m/s程度の範囲になるよう配管の径を決定することが一般的であり、この範囲より小さい流速では、配管の径が大きくなり過ぎて施工コストの点で無駄になり、逆に大きい流速では、水が配管内を流動するときに生じる摩擦抵抗が大きくなり過ぎて、搬送動力の大きい循環ポンプが必要となり、いずれにしても施工コストが上昇する。
【0004】
また、循環ポンプは、必要とされる流量と揚程に基づいて選定される。このうち流量については、熱需要側の必要熱量によって決定され、揚程については、密閉式循環系の場合に主に流動摩擦損失によって決定される。この流動摩擦損失は、流量と管径が同一である場合、配管の長さに一次で比例し、搬送距離が長いほど流動摩擦損失が大きくなるために、大容量のポンプが必要となる。
【0005】
最近、この水の搬送動力を低減させる(換言すると、水の流動摩擦損失を低減する)ための有効な方法として、粘弾性を示す界面活性剤を添加した水溶液を熱搬送媒体に用い、配管内の流動摩擦抵抗を著しく低減させる方法が提案されている。
【0006】
この粘弾性を示す界面活性剤による流動摩擦抵抗の低減効果は、以下に起因するといわれている。即ち、配管内を流動する水に所定の陽イオン性界面活性剤を数100〜数1000ppmの濃度で溶解させると、陽イオン性界面活性剤は、水中で疎水基部を中心にして外周に親水基部を配置してミセル(所謂、会合体)を形成し、そのミセルが棒状の形態をなして高次に絡まって粘弾性を示すことによるものである。
【0007】
このような特性を示す界面活性剤よる摩擦低減方法として、第四級アンモニウムの有機酸塩からなる界面活性剤を用いた方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。これらの方法では、第四級アンモニウム塩からなる界面活性剤を数100〜数1000mg/Lの条件で水に溶解させると、従来の水を熱媒体を搬送する場合と比較して、最高80%程度の摩擦低減効果が得られることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平3−76360号公報
【特許文献2】特公平4−6231号公報
【特許文献3】特開平8−231941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のこの摩擦低減方法では、その効果を得るために、熱搬送媒体としての水溶液に界面活性剤を数100〜数1000mg/Lの条件で溶解させており、それ故に、配管の長さが長くなるなどした場合、熱供給側システムと熱需要側システムとの間を循環させる熱搬送媒体の使用量が多くなり、これに伴って界面活性剤の添加量も多くなる。
【0010】
本発明の目的は、水溶液に添加する界面活性剤の量をより少なくても所望の摩擦低減効果を得ることができる熱搬送媒体を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、界面活性剤の少ない使用量で所望の摩擦低減効果を得ることができ、これによって、熱を効率良く搬送することができる熱搬送システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、前述した課題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、熱搬送媒体として用いる水溶液に第四級アンモニウム塩と陰イオン性高分子を添加することによって、第四級アンモニウム塩を主成分として加える場合よりもより少ない添加量で熱搬送時に生じる流動抵抗を低減でき、従来よりも効率良く熱を搬送できることを見出した。
【0013】
即ち、本発明は、次の熱搬送媒体及び熱搬送システムを提供するものであり、本発明の請求項1に記載の熱搬送媒体は、熱供給側システムと熱需要側システムとの間を循環して熱を搬送する熱搬送媒体であって、第四級アンモニウム塩及び陰イオン性高分子を含む水溶液からなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項2に記載の熱搬送媒体では、前記第四級アンモニウム塩の濃度が10〜100mg/Lであり、前記陰イオン性高分子の濃度が3〜1000mg/Lであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項3に記載の熱搬送媒体では、前記陰イオン性高分子の濃度が3〜100mg/Lであることを特徴とする。
【0016】
更に、本発明の請求項4に記載の熱搬送システムは、請求項1〜3のいずれかに記載の熱搬送媒体を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1に記載の熱搬送媒体によれば、熱搬送媒体の水溶液に第四級アンモニウム塩及び陰イオン性高分子が含まれているので、陰イオン高分子によって第四級アンモニウム塩による摩擦低減効果が高められ、これによって、第四級アンモニウムの添加量を従来に比して少なくしても所望の摩擦低減効果が得られ、その結果、少ない添加量の第四級アンモニウム塩でもって熱搬送媒体の搬送時に生じる摩擦を低減させることができる。
【0018】
また、本発明の請求項2に記載の熱搬送媒体によれば、第四級アンモニウム塩の濃度が10〜100mg/Lであり、また陰イオン性高分子の濃度が3〜1000mg/Lであるので、従来に比して少ない添加量の第四級アンモニウム塩に陰イオン性高分子を所定濃度添加することにより、所望の摩擦低減効果を得ることができる。従来のように第四級アンモニウム塩により摩擦低減効果を得るには、数100〜数1000mg/Lの濃度の第四級アンモニウム塩を添加する必要があったが、所定濃度の陰イオン高分子を添加することにより、10〜100mg/Lの濃度の第四級アンモニウム塩を添加するのみで従来と同程度の摩擦低減効果が得られ、第四級アンモニウム塩の使用量を低減することができる。
【0019】
また、本発明の請求項3に記載の熱搬送媒体によれば、陰イオン性高分子の濃度が3〜100mg/Lであるので、少ない添加量の第四級アンモニウム塩と少ない添加量の陰イオン高分子とにより所望の摩擦低減効果を得ることができる。従来では所望の摩擦低減効果を得るためには数100〜数1000mg/Lの濃度の第四級アンモニウム塩を添加する必要があったが、10〜100mg/Lの濃度の第四級アンモニウム塩と3〜100mg/Lの濃度の陰イオン高分子を添加することにより従来と同等の摩擦低減効果を得ることができ、水溶液に対する第四アンモニウム塩及び陰イオン性高分子の合計添加量を少なくすることができる。
【0020】
更に、本発明の請求項4に記載の熱搬送システムによれば、請求項1〜3のいずれかに記載の熱搬送媒体を用いるので、陰イオン性高分子の添加により第四アンモニウム塩の添加量を少なくしても所望の摩擦低減効果を得ることができ、これによって、熱搬送時に生じる流動抵抗を低減することができ、従来よりも効率良く熱を搬送できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に従う熱搬送システムの一実施形態を示す簡略図。
【図2】熱搬送媒体の搬送時におけるポンプ動力を評価する評価装置を示す簡略図。
【図3】図2に示す評価装置を用いた評価実験の結果を示す図。
【図4】陰イオン性高分子の添加濃度と圧力損失低減率との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う熱搬送媒体及びこれを用いた熱搬送システムについて説明する。図1において、この熱搬送システムは、熱搬送媒体に熱を供給する熱供給側システム2と、熱搬送媒体の熱を消費する熱需要側システム4とを備え、この熱供給側システム2と熱需要側システム4とは、往き流路6及び戻り流路8を介して接続されている。これら往き流路6及び戻り流路8は、流路配管から構成され、往き流路6には、熱搬送媒体を送給するための循環ポンプ10が配設されている。
【0023】
このような熱搬送システムでは、循環ポンプ10の作用によって、熱搬送媒体が往き流路6及び戻り流路8を通して矢印で示すように循環され、熱供給側システム2において供給された熱(温熱又は冷熱)は、熱搬送媒体の流れによって熱需要側システム4に送給され、この熱需要側システム4において利用されて消費される。そして、熱が使われた熱搬送媒体は、戻り流路8を通して熱供給側システム2に戻され、このようにして熱搬送媒体が往き流路6及び戻り流路8を通して循環され、熱供給側システム2において供給された熱が熱需要側システム4に供給される。
【0024】
この熱搬送システムにおける熱供給側システム2の具体例としては、例えば、ガス吸収式冷温水機、油吸収式冷温水機、ターボ冷凍機、ボイラなどであり、また熱需要側システム4の具体例としては、例えば、エアーハンドリングユニットやファインコイルユニットなどの空気調和装置、ファンコンベクタや床暖房装置などの暖房装置、プレート式熱交換器などの熱交換ユニットなどである。
【0025】
熱搬送システムに用いる熱搬送媒体としては、熱媒体として水溶液(具体的には、水)が用いられ、この水溶液に、第四級アンモニウム塩として、アルキル(炭素数17〜22)トリメチルアンモニウム塩、並びにサリチル酸塩及びヒドロキシナフトエ酸塩から選ばれた少なくとも一種の有機酸塩を添加することが望ましい。このような有機酸塩を水中に添加することによって、これらの化合物を含有しないものよりも流動抵抗が低下し、配管中を流動する際に生じる圧力損失を低減することができる。
【0026】
熱搬送媒体に添加する第四級アンモニウム塩としては、特に制限されるものではなく、例えば、セチルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、ヘキシルトリメチルアンモニウム塩、ヘプチルトリメチルアンモニウム塩、オレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、オレイルヒドロキシエチルジメチルアンモニウム塩、オレイルトリヒドロキシエチルアンモニウム塩などであり、またこれらの第四級アンモニウム塩とサリチル酸塩とを混合した混合物などである。
【0027】
第四級アンモニウム塩の添加量を少なくして所望の摩擦低減効果を得るためには、陰イオン性高分子を添加することが重要である。陰イオン性高分子とは、水に溶解すると陰イオンを発生する高分子であり、このような陰イオン性高分子としても、特に制限されるものではなく、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリスルホン酸ナトリウム、ポリスルホン酸カリウムやこれらの2種以上の混合物などである。
【0028】
第四級アンモニウム塩と陰イオン性高分子の水溶液(具体的には、水)への添加濃度は、それぞれ10〜100mg/L、3〜1000mg/Lであれば特に制限されることはなく、陰イオン性高分子については、3〜100mg/Lであるのが好ましい。第四級アンモニウム塩及び陰イオン高分子の添加濃度がそれぞれ上述の範囲より少ないと、流動抵抗の低減が少なく、所望の摩擦低減効果を得ることができず、また添加濃度がそれぞれ上述の範囲より多いと、所望の摩擦低減効果は発現するが、添加濃度が多くなり経済性の面で無駄である。この第四級アンモニウム塩及び陰イオン性高分子の水溶液への添加濃度は、それぞれ10〜80mg/L、3〜80mg/Lであるのが更に望ましく、これらの添加濃度は、それぞれ20〜80mg/L、20〜80mg/Lであるのが更に一層望ましい。
【0029】
第四級アンモニウム塩及び陰イオン性高分子を上述した如く溶解させた水溶液には、更に、必要に応じて、配管の腐食を防止するための腐食防止用添加剤、水溶液の凍結を防止するための凍結防止用不凍液などを配合するようにしてもよい。これらの添加剤、不凍液などとしては、従来から用いられている成分のものを用いればよく、配合量も従来と同様でよい。
【0030】
このような第四級アンモニウム塩と陰イオン性高分子を含有する水溶液を熱搬送媒体として用いると、第四級アンモニウム塩による摩擦低減効果が陰イオン性高分子により高められ、これによって、第四級アンモニウム塩の添加量を従来より少なくしても所望の摩擦低減効果が得られる。その結果、熱搬送媒体の搬送時に生じる流動抵抗が低下し、循環ポンプの動力を増大させることなく、要求される流量の熱搬送媒体を搬送可能とする配管の径を小さくすることができ、また使用する配管の長さを延長することができる。
【0031】
このような熱搬送システムに用いる配管の種類については、特に限定はなく、従来から用いられている各種の金属製配管、樹脂製配管などを用いることができる。このような配管の具体例としては、炭素鋼鋼管、ステンレス配管、クロムモリブデン鋼配管、ニッケル鋼鋼管、モリブデン鋼鋼管、銅管、塩化ビニル配管、アクリル配管、ポリエチレン配管、ポリブテン配管などを挙げることができる。
【0032】
このような熱搬送システムは、水又は各種添加剤を含む水溶液を熱搬送媒体として用いる各種の熱搬送方法に適用可能である。例えば、地域冷暖房システムやビル空調システムにおける熱搬送媒体の搬送、ゴミ焼却場や工場の排熱により加熱された熱搬送媒体の搬送、ガス、油などを原料とするコージェネレーションシステムの排熱を利用した60〜120℃程度の温水からなる熱搬送媒体の搬送、河川水、海水、下水処理水などの温度差エネルギーの搬送、ガス、石油系燃料などを用いた家庭用温水空調機器で用いられる60〜120℃程度の温水からなる熱媒体の搬送、又は床暖房などの熱搬送媒体の搬送などに広く適用することできる。
【0033】
以上、本発明に従う熱搬送媒体及びこれを用いた熱搬送システムの実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【実施例】
【0034】
本発明に従う熱搬送媒体の摩擦低減効果を確認するために、次の通りの評価実験を行った。この評価実験に用いた評価装置は、図2に示す通りの構成であった。この評価装置は、媒体タンク12(密閉加圧式)及びプレート式熱交換器14を備え、これらを循環流路16で接続し、媒体タンク12内の熱搬送媒体が循環流路16及びプレート式熱交換器14を通して循環されるように構成した。循環流路16の上流側部17(媒体タンク12とプレート式熱交換器14との間の部位)には循環ポンプ18を配設し、この循環ポンプ18には、回転数を制御するためのインバータ(図示せず)を接続し、また循環流路16の下流側部19に計測部位20を設けた。循環流路16を配管から構成し、用いた配管は炭素鋼鋼管(SGP管)製の呼び径80Aであった。測定部位20については、その長さLが2.5mであり、この測定部位20における圧力差を計測するために微差圧計22を設けた。また、プレート式熱交換器14に関連してボイラ24を設け、ボイラ24からの温水を温水循環流路26及び熱交換器14を通して循環するようにした。更に、循環流路16の上流側部17(具体的には、循環ポンプ18の配設部位の下流側)に電磁流量計28を設け、この電磁流量計28により循環流路16を流れる熱搬送媒体の流量を計測し、また循環流路16の下流側部19(具体的には、測定部位20の上流側)に白金測温抵抗体30を設け、この白金測温抵抗体30により循環流路16を流れる熱搬送媒体の温度を計測した。
【0035】
この評価装置を用いて熱搬送媒体の摩擦低減効果の確認実験を行う際には、電磁流量計28により計測した流量(即ち、循環流路16を流れる熱搬送媒体の流量)が所定流量になるようにインバータにより循環ポンプ18の回転数を制御した。また、プレート式熱交換器14においてボイラ24から温水循環流路26を流れる温水と循環流路16を流れる熱搬送媒体との間で熱交換を行い、循環流路16の測定部位20に流れる熱搬送媒体の温度が所定温度となるようにし、この熱搬送媒体の温度を白金測温抵抗体30によりモニターした。そして、摩擦低減効果については、循環流路16の測定部位20を流れる熱搬送媒体の差圧を微差圧計22により計測し、その差圧値を圧力損失として評価した。
【0036】
この評価装置を用い、熱搬送媒体がこの測定部位20を所定流量流動するときの圧力損失△Pを記録し、水道水を熱搬送媒体として同じ流量を流動するときの圧力損失△Pwを記録し、これら圧力損失ΔP及びΔPwから圧損低減率DRを次の(1)式を用いて算出した。
【0037】
DR(%)=〔1−{(△Pw−△P)/△Pw}〕×100 ・・・(1)
実施例1として、水道水に第四級アンモニウム塩としてオレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライドとサリチル酸ナトリウムとをそれぞれ60mg/L、40mg/L(合計で100mg/L)を混合した混合物を添加し、更に陰イオン性高分子としてポリアクリル酸ナトリウム100mg/Lを添加した熱搬送媒体を調製した。評価実験においては、この実施例1の熱搬送媒体を10℃に調整し、所定の流速に調整して流動させたときの単位長さ当たりの圧損低減率(DR)を上記(1)式を用いて求めた。この実施例1の評価実験の結果は、図3に黒丸で示す通りであった。
【0038】
実施例2として、水道水に第四級アンモニウム塩としてオレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライドとサリチル酸ナトリウムとをそれぞれ40mg/L、25mg/L(合計で65mg/L)を混合した混合物を添加し、更に陰イオン性高分子としてポリアクリル酸ナトリウム65mg/Lを添加した熱搬送媒体を調製した。評価実験においては、実施例1と同様に、この実施例2の熱搬送媒体を10℃に調整し、所定の流速に調整して流動させたときの単位長さ当たりの圧損低減率(DR)を上記(1)式を用いて求めた。この実施例2の評価実験の結果は、図3に黒四角で示す通りであった。
【0039】
比較例1として、水道水に摩擦低減効果を発現するものとしてよく知られている第四級アンモニウム塩としてオレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライドとサリチル酸ナトリウムとをそれぞれ100mg/L、60mg/L(合計で160mg/L)を混合した混合物を添加した熱搬送媒体(陰イオン性高分子を含まないもの)を調製した。評価実験においては、実施例1及び2と同様に、この比較例1の熱搬送媒体を10℃に調整し、所定の流速に調整して流動させたときの単位長さ当たりの圧損低減率(DR)を上記(1)式を用いて求めた。この比較例1の評価実験の結果は、図3に白丸で示す通りであった。
【0040】
比較例2として、水道水に摩擦低減効果を発現するものとしてよく知られている第四級アンモニウム塩としてオレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライドとサリチル酸ナトリウムとをそれぞれ500mg/L、300mg/L(合計で800mg/L)を混合した混合物を添加した熱搬送媒体(陰イオン性高分子を含まないもの)を調製した。評価実験においては、実施例1及び実施例2と同様に、この比較例2の熱搬送媒体を10℃に調整し、所定の流速に調整して流動させたときの単位長さ当たりの圧損低減率(DR)を上記(1)式を用いて求めた。この比較例2の評価実験の結果は、図3に白四角で示す通りであった。
【0041】
図3のから明らかなように、実施例1及び2では、各流速(流速が1,0〜2.5m/sの範囲)において70〜80%の圧損低減率が得られたのに対し、比較例2の第四級アンモニウム塩の濃度が高い条件では、実施例1及び2と同程度の圧損低減効果が発現するが、比較例1の第四級アンモニウム塩の濃度が低い条件(実施例1及び2と同じ程度の濃度の条件)では、圧損低減効果が全く発現しないことが分かった。この結果から、本発明の熱搬送媒体では、水への第四級アンモニウム塩の添加量が少ない条件でも良好な圧損低減効果が発現することが分かった。
【0042】
次に、水への第四級アンモニウム塩及び陰イオン高分子の添加量と圧損低減率(DR)との関係を調べた。
【0043】
実施例3として、水道水に第四級アンモニウム塩としてオレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド(3mg/L)とサリチル酸ナトリウム(2mg/L)を混合した混合物(合計で5mg/L)を添加し、更に陰イオン性高分子としてポリアクリル酸ナトリウムをそれぞれ10mg/L、20mg/L、40mg/L、80mg/L、100mg/Lを添加した熱搬送媒体を5種類調製した。
【0044】
実施例4として、水道水に第四級アンモニウム塩としてオレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド(12mg/L)とサリチル酸ナトリウム(8mg/L)とを混合した混合物(合計で20mg/L)を添加し、更に陰イオン性高分子としてポリアクリル酸ナトリウムをそれぞれ10mg/L、20mg/L、40mg/L、80mg/L、100mg/Lを添加した熱搬送媒体を5種類調製した。
【0045】
実施例5として、水道水に第四級アンモニウム塩としてオレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド(30mg/L)とサリチル酸ナトリウム(20mg/L)とを混合した混合物(合計で50mg/L)を添加し、更に陰イオン性高分子としてポリアクリル酸ナトリウムをそれぞれ10mg/L、20mg/L、40mg/L、80mg/L、100mg/Lを添加した熱搬送媒体を5種類調製した。
【0046】
実施例6として、水道水に第四級アンモニウム塩としてオレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド(90mg/L)とサリチル酸ナトリウム(60mg/L)とを混合した混合物(合計で150mg/L)を添加し、更に陰イオン性高分子としてポリアクリル酸ナトリウムをそれぞれ10mg/L、20mg/L、40mg/L、80mg/L、100mg/Lを添加した熱搬送媒体を5種類調製した。
【0047】
また、実施例7として、水道水に第四級アンモニウム塩としてオレイルビス(ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロライド(300mg/L)とサリチル酸ナトリウム(200mg/L)とを混合した混合物(合計で500mg/L)を添加し、更に陰イオン性高分子としてポリアクリル酸ナトリウムをそれぞれ10mg/L、20mg/L、40mg/L、80mg/L、100mg/Lを添加した熱搬送媒体を5種類調製した。
【0048】
これら実施例3〜7の各5種類について、上述と同様にして評価実験を行い、これらの評価実験においては、熱搬送媒体を10℃に調整し、所定の流速1.5m/sに調整して流動させたときの単位長さ当たりの圧損低減率(DR)を上記(1)式を用いて求めた。この実施例3〜7の評価結果は、表1に示す通りであり、この表1の内容をグラフに示すと図4に示す通りであった。
【0049】
【表1】

表1及び図4から明らかなように、第四級アンモニウム塩の添加量が少なくても陰イオン性高分子の添加量を多くすれば70〜80%の圧損低減率が得られ、また陰イオン性高分子の添加量が少なくても第四級アンモニウム塩の添加量を多くすれば同様に70〜80%の圧損低減率が得られることが分かった。このようなことから、第四級アンモニウム塩の添加濃度が10〜100mg/Lの範囲で、陰イオン性高分子の添加濃度が3〜100mg/Lの範囲であると、所望の摩擦低減効果が発現されることが確認できた。
【符号の説明】
【0050】
2 熱供給側システム
4 熱需要側システム
10 循環ポンプ
12 媒体タンク
16 循環流路
20 測定部位
22 微差圧計




【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱供給側システムと熱需要側システムとの間を循環して熱を搬送する熱搬送媒体であって、第四級アンモニウム塩及び陰イオン性高分子を含む水溶液からなることを特徴とする熱搬送媒体。
【請求項2】
前記第四級アンモニウム塩の濃度が10〜100mg/Lであり、前記陰イオン性高分子の濃度が3〜1000mg/Lであることを特徴とする請求項1に記載の熱搬送媒体。
【請求項3】
前記陰イオン性高分子の濃度が3〜100mg/Lであることを特徴とする請求項2に記載の熱搬送媒体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱搬送媒体を用いることを特徴とする熱搬送システム。












【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−201713(P2012−201713A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65122(P2011−65122)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)