説明

熱磁気エンジン装置、および可逆熱磁気サイクル装置

【課題】熱磁気エンジン装置を提供する。
【解決手段】可逆熱磁気サイクル装置2の磁性体49、59は、キュリー温度を越えると磁性が低下し、キュリー温度を下回ると磁性が上昇する。ポンプ30は、高温端から低温端に向けて作業水を流して磁性体を加熱し、低温端から高温端に向けて作業水を流して磁性体を冷却する。加熱と冷却による磁性の変化に起因して、永久磁石45、55が回転し、熱磁気エンジン装置として機能する。磁性体は、外部磁場の印加により発熱し、外部磁場の除去により吸熱する磁気熱量素子でもある。ポンプ30は、磁気熱量素子に外部磁場が印加されているときに低温端から高温端に向けて作業水を流し、磁気熱量素子から外部磁場が除去されているときに高温端から低温端に向けて作業水を流す。磁場切換えによる発熱と吸熱に起因して、温度分布が生じ、磁気熱量効果型ヒートポンプ装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体の温度特性を利用した熱磁気エンジン装置、および熱磁気エンジン装置と磁気熱量効果型ヒートポンプ装置とに切換え可能な可逆熱磁気サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、および特許文献2は、磁性体の温度特性を利用した熱磁気エンジンを開示している。これらの装置においては、円筒体に磁場を与え、その回転方向の前後に高温部と低温部とを形成することにより円筒体を回転させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4234235号
【特許文献2】特開2002−281774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の構成では、円筒体が回転すると、高温部と低温部とが移動する。このため、高温部と低温部との間での温度変化が必要であった。このような構成では、高温部と低温部とを作り出すための熱的な効率が低いという問題点があった。
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い効率を実現することができる熱磁気エンジン装置を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、熱磁気エンジン装置と磁気熱量効果型ヒートポンプ装置とに切換え可能な可逆熱磁気サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0008】
請求項1に記載の発明は、温度がキュリー温度を越えると磁性が低下し、温度がキュリー温度を下回ると磁性が上昇する磁性体であって、温熱が供給される高温端(11、14)の温度と冷熱が供給される低温端(12、13)の温度との間にキュリー温度をもつ磁性体(49、59)と、磁性体を加熱するときに高温端から低温端に向けて熱輸送媒体を流し、磁性体を冷却するときに低温端から高温端に向けて熱輸送媒体を流すポンプ(30)と、磁性体に外部磁場を印加する磁場印加装置(44、45、54、55)と、磁性体と磁場印加装置との間に働く磁気的な力を運動エネルギとして取り出す動力機構(32、42、52、70、80、20)とを備えることを特徴とする。
【0009】
この構成によると、熱磁気エンジン装置を提供することができる。ポンプは、磁性体を加熱するときに高温端から低温端に向けて熱輸送媒体を流す。また、ポンプは、磁性体を冷却するときに低温端から高温端に向けて熱輸送媒体を流す。このため、磁性体には高温端と低温端との間の温度差に対応した温度分布が生じる。この結果、効率的な熱の輸送が可能となる。熱輸送媒体の流れによって、磁性体の温度は加熱温度と冷却温度との間で切換えられる。磁性体の温度の変化は、磁性体の少なくとも一部分において、キュリー温度を上回る状態と、キュリー温度を下回る状態とを生じさせる。すなわち、磁性体の少なくとも一部分において、磁性が低下した状態と、磁性が上昇した状態とが生じる。このような磁性の変化に起因して、磁性体と磁場印加装置との間に働く磁気的な力が変化する。磁場印加装置と動力機構は、磁気的な力の変化を運動エネルギとして取り出す。
【0010】
請求項2に記載の発明は、磁性体は、高温端と低温端との間の温度分布に対応するキュリー温度の分布をもち、ポンプは、熱輸送媒体の流れによって、磁性体の温度がキュリー温度を越える状態と、磁性体の温度がキュリー温度を下回る状態とを切換えることを特徴とする。この構成によると、磁性体は、高温端と低温端との間の温度分布に対応するキュリー温度の分布をもつ。磁性体には、高温端と低温端との間の温度差に対応した温度分布が生じており、さらに、磁性体の温度は加熱温度と冷却温度との間で切換えられる。磁性体の温度が温度分布を有したまま加熱温度に上昇することで、磁性体の多くの部分の温度がキュリー温度を上回る。また、磁性体の温度が温度分布を有したまま冷却温度に低下することで、磁性体の多くの部分の温度がキュリー温度を下回る。この結果、磁性体の多くの部分において、磁性が低下した状態と、磁性が上昇した状態とが生じる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、磁性体は、キュリー温度が異なる複数の素子ユニット(60−69)を有し、複数の素子ユニットは、高温端と低温端との間においてキュリー温度の順に並ぶように直列に配列されていることを特徴とする。この構成によると、複数の素子ユニットによって、高温端と低温端との間の温度分布に対応するキュリー温度の分布が得られる。この結果、複数の素子ユニットのそれぞれにおいて、磁性が低下した状態と、磁性が上昇した状態とが生じる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、さらに、冷熱の供給源と熱交換する低温側熱交換器(4)と、低温側熱交換器を通る低温側循環流路(16)と、温熱の供給源と熱交換する高温側熱交換器(3)と、高温側熱交換器を通る高温側循環流路(15)とを備え、ポンプは、低温端(12)から高温端(11)に向けて熱輸送媒体を流すときに、高温端から高温側循環流路に熱輸送媒体を吐出するとともに、低温側循環流路から低温端に熱輸送媒体を吸い込み、高温端(11)から低温端(12)に向けて熱輸送媒体を流すときに、低温端から低温側循環流路に熱輸送媒体を吐出するとともに、高温側循環流路から高温端に熱輸送媒体を吸い込むことを特徴とする。この構成によると、磁性体の熱輸送を担う往復流をポンプによって提供することができるとともに、そのポンプを利用して、低温側における循環流と、高温側における循環流とを提供することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、磁性体は、第1の磁性体ユニット(40)に設けられ、一端に中間低温端(13)を有し、反対の他端に高温端(11)を有する第1の磁気熱量素子(49)と、第2の磁性体ユニット(50)に設けられ、一端に前記低温端(12)を有し、反対の他端に中間高温端(14)を有する第2の磁気熱量素子(59)とを備え、磁場印加装置は、第1の磁性体ユニットに設けられ、第1の磁気熱量素子へ磁場を印加する第1の永久磁石(45)と、第2の磁性体ユニットに設けられ、第2の磁気熱量素子へ磁場を印加する第2の永久磁石(55)とを備え、ポンプは、第1の磁性体ユニット(40)において中間低温端(13)から高温端(11)に向けて熱輸送媒体を流すときに、高温端から高温側循環流路に熱輸送媒体を吐出し、第1の磁性体ユニット(40)において高温端(11)から中間低温端(13)に向けて熱輸送媒体を流すときに、高温側循環流路から高温端に熱輸送媒体を吸い込み、第2の磁性体ユニット(50)において中間高温端(14)から低温端(12)に向けて熱輸送媒体を流すときに、低温端から低温側循環流路に熱輸送媒体を吐出し、第2の磁性体ユニット(50)において低温端(12)から中間高温端(14)に向けて熱輸送媒体を流すときに、低温側循環流路から低温端に熱輸送媒体を吸い込むことを特徴とする。この構成によると、第1の磁性体と第2の磁性体とを含む複数の磁性体によって熱磁気エンジン装置を提供することができる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の熱磁気エンジン装置、または熱源(4)の熱を熱負荷(3)に供給する磁気熱量効果型ヒートポンプ装置として選択的に運転可能な可逆熱磁気サイクル装置であって、磁気熱量効果型ヒートポンプ装置は、磁性体(49、59)によって提供され、外部磁場の印加により発熱し、外部磁場の除去により吸熱する磁気熱量素子と、動力機構(20)によって提供され、磁気熱量素子と磁場印加装置(44、45、54、55)とを相対的に移動させることにより、磁気熱量素子への外部磁場の印加と除去とを切換える磁場切換装置(20)と、ポンプ(30)によって提供され、磁気熱量素子に外部磁場が印加されているときに低温端から高温端に向けて熱輸送媒体を流し、磁気熱量素子から外部磁場が除去されているときに高温端から低温端に向けて熱輸送媒体を流すポンプ(30)とを備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によると、熱磁気エンジン装置(TME装置)と磁気熱量効果型ヒートポンプ装置(MHP装置)とに切換え可能な可逆熱磁気サイクル装置を提供することができる。この構成では、TME装置における磁性体は、MHP装置においては磁気熱量素子として利用される。TME装置における動力機構は、MHP装置においては磁場印加装置と共同して磁場切換装置を提供し、利用される。TME装置におけるポンプは、MHP装置におけるポンプとして利用される。MHP装置として運転されるとき、ポンプが提供する熱輸送媒体の流れは、磁気熱量素子に高温端と低温端との間の温度差に対応した温度分布を生じさせる。このため、効率的な熱輸送が可能となる。
【0016】
請求項7に記載の発明は、磁気熱量素子は、高い磁気熱量効果を示す高効率温度帯が異なる複数の素子ユニット(60−69)を有し、複数の素子ユニットは、高温端と低温端との間において高効率温度帯が並ぶように直列に配列されていることを特徴とする。この構成によると、複数の素子ユニットのそれぞれにおいて得られる温度において高い磁気熱量効果が得られる。このため、磁気熱量効果型ヒートポンプ装置として運転されるときに高い効果を得ることができる。
【0017】
請求項8に記載の発明は、熱磁気エンジン装置と磁気熱量効果型ヒートポンプ装置とを切換えるために、ポンプ(30、230)による熱輸送の位相と磁場印加装置または磁場切換装置による磁場変動の位相とを必要な量だけずらすことを特徴とする。この構成によると、熱輸送の位相と磁場変動の位相とをずらす機構を設けることによってTME装置とMHP装置との切換えが可能となる。
【0018】
なお、特許請求の範囲および上記手段の項に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係る可逆熱磁気サイクル装置を含む車両用空調装置を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態の可逆熱磁気サイクル装置の断面図である。
【図3】第1実施形態の可逆熱磁気サイクル装置の永久磁石の配置を示す平面図である。
【図4】第1実施形態の磁気熱量素子のキュリー温度の分布を示すグラフである。
【図5】第1実施形態の可逆熱磁気サイクル装置の作動を示す状態遷移図であって、5Aは磁気熱量効果型ヒートポンプ装置としての状態遷移図を示し、5Bは熱磁気エンジン装置としての状態遷移図を示す。
【図6】本発明を適用した第2実施形態の可逆熱磁気サイクル装置の断面図である。
【図7】第1実施形態および第2実施形態に適用可能な磁気熱量素子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、本発明を適用した第1実施形態に係る可逆熱磁気サイクル装置2を含む車両用空調装置1を示すブロック図である。車両用空調装置1は、車両に搭載され、車両の乗員室の温度を調節する。車両用空調装置1は、車両の室内に設けられ、室内の空気と熱交換する室内熱交換器3を備える。室内熱交換器3は、高温側熱交換器3とも呼ばれる。車両用空調装置2は、車両の室外に設けられ、室外の空気と熱交換する室外熱交換器4を備える。室外熱交換器4は、低温側熱交換器4とも呼ばれる。
【0022】
車両用空調装置1は、可逆熱磁気サイクル装置2を備える。可逆熱磁気サイクル装置2は、RTM(Reversible Thermo-Magnetic)装置2とも呼ばれる。RTM装置2は、磁気熱量素子がもつ磁性−温度特性を利用した熱磁気エンジン装置として機能することができる。熱磁気エンジンは、TME(Thermo-Magnetic Engine)装置とも呼ばれる。RTM装置2は、磁気熱量素子の磁気熱量効果を利用した磁気熱量効果型ヒートポンプ装置2として機能することができる。磁気熱量効果型ヒートポンプ装置2はMHP(Magneto-caloric effect Heat Pump)装置2とも呼ばれる。RTM装置2は、TME装置、またはMHP装置として選択的に運転可能である。
【0023】
この明細書においてヒートポンプ装置の語は広義の意味で使用される。すなわち、ヒートポンプ装置の語には、ヒートポンプ装置によって得られる冷熱を利用する装置と、ヒートポンプ装置によって得られる温熱を利用する装置との両方が含まれる。冷熱を利用する装置は、冷凍サイクル装置とも呼ばれることがある。よって、この明細書においてヒートポンプ装置の語は冷凍サイクル装置を包含する概念として使用される。この実施形態では、MHP装置は、室外の空気の熱を吸収し、室内の空気を暖める暖房装置を提供する。
【0024】
RTM装置2は、発電電動機20と、ポンプ30と、磁気熱量素子ユニット40、50と、変速機70、80とを備える。発電電動機20は、TME装置において磁気的な力を運動エネルギとして取り出す動力機構を提供する。発電電動機20は、MHP装置において動力源を提供する。ポンプ30は、熱輸送媒体を流す。第1の磁気熱量素子ユニット40は、磁気熱量素子を収容しており、さらに磁場を切換えるための装置を備える。第2の磁気熱量素子ユニット50は、磁気熱量素子を収容しており、さらに磁場を切換えるための装置を備える。磁気熱量素子ユニット40、50は、磁性体ユニットとも呼ばれる。磁気熱量素子は、磁性体でもある。TME装置における磁性体49、59は、MHP装置においては磁気熱量素子49、59として利用される。磁気熱量素子は、キュリー温度を越えると磁性が低下して、典型的な例においては磁性を失う。磁気熱量素子は、キュリー温度を下回ることで磁性を取り戻し、磁性が上昇して、再び強い磁性を帯びる。磁気熱量素子は、外部磁場の印加により発熱し、外部磁場の除去により吸熱する。磁気熱量素子ユニット40、50は、MCD(Magneto-Caloric effectDevice)ユニット40、50とも呼ばれる。変速機70、80は、両側の回転軸の回転数、および/または回転位相を変換する。
【0025】
RTM装置2は、高温端11に温熱を供給し、低温端12に冷熱を供給する。RTM装置2が運転されると、RTM装置2に内蔵された磁気熱量素子は、高温端11において高温となり、低温端12において低温となる。RTM装置2が供給する冷熱と温熱とは、ポンプ30によって流される熱輸送媒体によって輸送される。熱輸送媒体は、水である。以下、RTM装置2の熱輸送媒体を作業水と呼ぶ。高温端11から、高温の作業水が流れ出し、温熱が外部に供給される。作業水は、外部に温熱を供給した後に、高温端11へ戻る。このとき、高温端11に冷熱が運び込まれる。低温端12から、低温の作業水が流れ出し、冷熱が外部に供給される。作業水は、外部に冷熱を供給した後に、低温端12へ戻る。このとき、低温端12に温熱が運び込まれる。
【0026】
この実施形態では、RTM装置2は、複数のMCDユニット40、50を備える。高温側のMCDユニット40は、中間低温端13に冷熱を供給する。低温側のMCDユニット50は、中間高温端14に温熱を供給する。中間低温端13と中間高温端14との間は、変速機70、80、ポンプ30、およびそれらの間に存在する熱輸送媒体によって熱的に結合されている。中間低温端13と中間高温端14との間には、高温端11と低温端12との間に所定の温度勾配を形成するために十分な熱的な結合が提供されている。
【0027】
車両用空調装置1は、RTM装置2と室内熱交換器3とを通る高温側循環流路15を備える。高温側循環流路15を流れる作業水は、RTM装置2から室内熱交換器3へ熱を輸送する。車両用空調装置1は、RTM装置2と室外熱交換器4とを通る低温側循環流路16を備える。低温側循環流路16を流れる作業水は、室外熱交換器4からRTM装置1へ熱を輸送する。車両用空調装置1は、室外の空気を主たる熱源とする。また、車両用空調装置1は、室内の空気を熱負荷とする。よって、車両用空調装置1は、暖房装置を提供する。RTM装置2は、主たる熱源としての室外熱交換器4の熱を、熱負荷としての室内熱交換器3に供給する。
【0028】
車両用空調装置1は、車両に搭載された電池(BATT)5を備える。電池5は、発電電動機20が電動機として機能するときには、発電電動機20に電力を供給する。電池5は、発電電動機20が発電機として機能するときには、発電電動機20からの電力を蓄える。
【0029】
車両用空調装置1は、制御装置(CNTR)10を備える。制御装置10は、車両用空調装置1の制御可能な複数の要素を制御する。制御装置10は、RTM装置2をTME装置またはMHP装置に切換えるように複数の要素を制御する。制御装置10は、発電電動機20を電動機または発電機に切換えることができる。制御装置10は、変速機70、80による回転速度および/または回転位相の変換状態を切換えるように変速機70、80を制御することができる。
【0030】
例えば、制御装置10は、RTM装置2をMHP装置として作動させるとき、発電電動機20を電動機として機能させる。また、制御装置10は、RTM装置2をMHP装置として作動させるとき、熱輸送と磁場切換えとの関係が所定の関係になるように、変速機70、80を制御する。
【0031】
例えば、制御装置10は、RTM装置2をTME装置として作動させるとき、発電電動機20を発電機として機能させる。また、制御装置10は、RTM装置2をTME装置として作動させるとき、熱輸送と磁場切換えとの関係が所定の関係になるように、変速機70、80を制御する。
【0032】
制御装置10は、MHP装置とTME装置とを切換えるために、熱輸送を実現するポンプ30の回転と、磁場切換えを実現するMCDユニット40、50の回転との関係を、MHP装置のための関係と、TME装置のための関係とに切換えることができる。制御装置10は、回転数および/または位相を切換えることができる。制御装置10は、MHP装置とTME装置とを切換えるために、ポンプ30の回転とMCDユニット40、50の回転との位相、すなわち熱輸送の位相と磁場変動の位相とを必要な量だけずらすことができる。これらの位相は、磁場変動周期の1/4、すなわち90度だけずらされる。熱輸送の位相と磁場変動の位相とを必要な量だけずらす機構は、制御装置10と変速機70、80とによって提供される。
【0033】
制御装置10は、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを格納している。記憶媒体は、メモリによって提供されうる。プログラムは、制御装置10によって実行されることによって、制御装置10をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される制御方法を実行するように制御装置10を機能させる。制御装置10が提供する手段は、所定の機能を達成する機能的ブロック、またはモジュールとも呼ぶことができる。
【0034】
図2は、第1実施形態のRTM装置2の断面図である。図3は、第1実施形態のRTM装置2の永久磁石の配置を示す平面図である。図3は、図2に示されたIII−III断面におけるロータコア44と永久磁石45との平面図を示す。なお、図中には、永久磁石45と磁気熱量素子49との位置関係を示すために、磁気熱量素子49が図示されている。
【0035】
発電電動機(MG)20は、ポンプ30の回転軸32、またはMCDユニット40、50の回転軸42、52に連結されている。RTM装置2がMHP装置として機能するとき、発電電動機20は電池5から給電されて回転する。発電電動機20は、ポンプ30と、MCDユニット40、50とを駆動する。発電電動機20によって駆動されたポンプ30は、作業水の流れを生じさせる。また、MCDユニット40、50における永久磁石が回転する。これにより、発電電動機20とMCDユニット40、50とは、磁気熱量素子へ外部磁場を印加する状態と、磁気熱量素子から外部磁場を除去した状態(外部磁場を印加しない状態)との間での交互切換を生じさせる。
【0036】
また、RTM装置2がTME装置として機能するとき、発電電動機20は、MCDユニット40、50によって回転駆動され、発電する。発電電動機20によって発電された電力は、負荷に供給される。この実施形態では、負荷として電池5が設けられているから、電池5が充電される。このとき、MCDユニット40、50は、ポンプ30を駆動する。これにより、ポンプ30は、作業水の流れを生じさせる。これにより、MCDユニット40、50における磁気熱量素子の温度がキュリー温度を挟んで上下に切換えられる。すなわち磁気熱量素子の温度は、キュリー温度を越える温度と、キュリー温度を下回る温度との間での交互に切換えられる。ロータコア44、54と永久磁石45、55とは、磁気熱量素子49、59に外部磁場を印加する磁場印加装置を提供している。この結果、磁気熱量素子49、59と永久磁石45、55との間に周期的に磁気的な力が発生し、永久磁石が回転する。この実施形態では、磁気熱量素子49、59と永久磁石45、55との間に周期的に磁気的な吸引力が発生し、永久磁石が回転する。
【0037】
ポンプ30は、磁気熱量素子をAMR(ActiveMagnetic Refrigeration)サイクルとして機能させるための作業水の往復流をMCDユニット40、50内に生じさせる。さらに、RTM装置2がMHP装置として機能するとき、ポンプ30は、MCDユニット40、50によって得られた冷熱および/または温熱を、外部に供給するための作業水の循環流を生じさせる。RTM装置2がTME装置として機能するとき、ポンプ30は、外部の冷熱冷熱および温熱を取り込み、MCDユニット40、50内の磁気熱量素子に供給するための作業水の循環流を生じさせる。
【0038】
循環流は、作業水がMCDユニット40、50から出て、再びMCDユニット40、50に戻る流れである。この循環流は、作業水が高温端11から出て、高温側循環流路15を通り、再び高温端11に戻る高温側外部循環流を含むことができる。さらに、循環流は、作業水が低温端12から出て、低温側循環流路16を通り、再び低温端に戻る低温側外部循環流を含むことができる。この実施形態では、ポンプ30は、低温側外部循環流と、高温側外部循環流との両方を生じさせる。
【0039】
ポンプ30は、容積型の往復流ポンプである。ポンプ30は、斜板型のピストンポンプである。ポンプ30は、円筒状または円柱状と呼びうるハウジング31を備える。ハウジング31は、その中心軸上に回転軸32を回転可能に支持している。ハウジング31は、少なくともひとつのシリンダ33を区画形成している。ハウジング31は、回転軸32の周囲に、等間隔に配置された複数のシリンダ33を区画形成している。この実施形態では、ハウジング31は、5つのシリンダ33を区画形成している。ハウジング31は、斜板34を収容している。斜板34は、ハウジング31の中心軸に対して所定角度だけ傾斜して回転可能に支持されている。斜板34は、回転軸32とともに回転するように回転軸32に連結されている。ひとつのシリンダ33には、2つのピストン35、36が配置されている。2つのピストン35、36の間には、斜板34が位置している。一方のピストン35は、シリンダ33の図中の右半部の中を往復移動することができる。他方のピストン36は、シリンダ33の図中の左半部の中を往復移動することができる。この結果、ひとつのシリンダ33の中に、2気筒の容積型のピストンポンプが形成される。これら2気筒の容積は、相補的に増減する。これら2気筒は、低温端12から中間高温端14へ向かう流れと、中間低温端13から高温端11へ向かう流れとを同時に生成する。また、これら2気筒は、高温端11から中間低温端13へ向かう流れと、中間高温端14から低温端12へ向かう流れとを同時に生成する。
【0040】
ハウジング31は、8つのシリンダ33を有するから、ポンプ30は16気筒のピストンポンプを提供する。別の観点では、ポンプ30は、斜板34の両側にピストン35、36を持つことにより、右側に位置する第1ポンプ群と、左側に位置する第2ポンプ群とを提供しているといえる。第1ポンプ群は、第1のMCDユニット40のためのポンプである。第2ポンプ群は、第2のMCDユニット50のためのポンプである。
【0041】
MCDユニット40と、MCDユニット50とは、ポンプ30の両側に分かれて配置されている。MCDユニット40とMCDユニット50とは、ポンプ30の両側において、左右対称に構成され、そのように配置されている。MCDユニット40とMCDユニット50とは、それらの全体によって高温端11に温熱を供給し、低温端12に冷熱を供給するひとつのMCDユニットを構成しているといえる。
【0042】
MCDユニット40、50は、円筒状または円柱状と呼びうるハウジング41、51を備える。ハウジング41、51は、その中心軸上に回転軸42、52を回転可能に支持している。ハウジング41、51は、回転軸42、52の周囲に、扁平な円柱状の空間である磁石収容室43、53を区画形成している。回転軸42、52には、ロータコア44、54が固定されている。ロータコア44、54は、その周方向に沿って磁束を通しやすい範囲と、磁束を通しにくい範囲とを形成するように構成されている。ロータコア44、54は、回転軸42、52に直交する断面において花びら状またはデイジー型と呼びうる形状に形成されている。この実施形態では、ロータコア44、54は、8つの扇状部分を有する。ロータコア44、54には、複数の永久磁石45、55が固定されている。永久磁石45、55は、回転軸42、52に直交する断面において扇型である。永久磁石45、55は、ロータコア44、54の扇状部分に固定されている。
【0043】
ロータコア44、54と永久磁石45、55とは、それらの周辺に、永久磁石45、55が提供する外部磁場が強くなる領域と、永久磁石45、55が提供する外部磁場が弱くなる領域とを形成する。外部磁場が弱くなる領域では、外部磁場がほぼ除去された状態が提供される。ロータコア44、54と永久磁石45、55とは、回転軸42、52の回転に同期して回転する。よって、外部磁場が強い領域と、外部磁場が弱い領域とは、回転軸42、52の回転に同期して回転する。この結果、ロータコア44、54と永久磁石45、55との周辺の一点においては、外部磁場が強く印加される期間と、外部磁場が弱くなりほぼ除去された期間とが繰り返して生じる。したがって、ロータコア44、54と永久磁石45、55とは、外部磁場の印加および除去を繰り返す磁場印加除去手段を提供する。ロータコア44、54と永久磁石45、55とは、磁気熱量素子49、59への外部磁場の印加と除去とを切換える磁場切換装置を提供する。磁場切換装置は、発電電動機20を含むことができる。磁場切換装置は、磁気熱量素子49、59と磁場印加装置とを相対的に移動させることにより、磁気熱量素子への外部磁場の印加と除去とを切換える。磁場切換装置は、第1の永久磁石45と、第2の永久磁石55とを備える。第1の永久磁石45は、第1のMCDユニット40に設けられ、回転することにより第1の磁気熱量素子49への磁場の印加と除去とを切換える。第2の永久磁石55は、第2のMCDユニットに設けられ、回転することにより第2の磁気熱量素子59への磁場の印加と除去とを切換える。なお、磁場の語は磁界と読み替えることができる。
【0044】
ハウジング41、51は、少なくともひとつの作業室46、56を区画形成している。作業室46、56は、磁石収容室43、53に隣接して設けられている。ハウジング41、51は、磁石収容室43、53の横に、等間隔に配置された複数の作業室46、56を区画形成している。この実施形態では、ひとつのハウジング41は、8つの作業室46を区画形成している。ひとつのハウジング51は、8つの作業室56を区画形成している。それぞれの作業室46、56は、ハウジング41、51の軸方向に沿って長手方向を有する柱状空間を形成している。ひとつの作業室46、56は、ひとつのシリンダ33だけに対応するように設けられている。ひとつのシリンダ33の両側に、作業室46と作業室56とが配置されている。
【0045】
ひとつの作業室46は、その一端に作業水が出入りする第1の出入口部を有する。第1の出入口部は、室内熱交換器3へ作業水を供給する出口47と、室内熱交換器3から戻る作業水を受け入れる入口48とを有する。出口47には、作業室56からの作業水の流出だけを許容する逆止弁が設けられている。入口48には、作業室56への作業水の流入だけを許容する逆止弁が設けられている。これら逆止弁は、リードバルブ、またはボールバルブによって提供することができる。また、ひとつの作業室46は、その他端にポンプ30に連通する第2の出入口部を有する。第2の出入口部は、ひとつのシリンダ33とひとつのピストン35とによって形成されるひとつのポンプ室だけと連通している。
【0046】
ひとつの作業室56は、その一端に作業水が出入りする第1の出入口部を有する。第1の出入口部は、室外熱交換器4へ作業水を供給する出口57と、室外熱交換器4から戻る作業水を受け入れる入口58とを有する。出口57には、作業室56からの作業水の流出だけを許容する逆止弁が設けられている。入口58には、作業室56への作業水の流入だけを許容する逆止弁が設けられている。これら逆止弁は、リードバルブ、またはボールバルブによって提供することができる。また、ひとつの作業室56は、その他端にポンプ30に連通する第2の出入口部を有する。第2の出入口部は、ひとつのシリンダ33とひとつのピストン36とによって形成されるひとつのポンプ室だけと連通している。
【0047】
作業室46、56は、冷媒としての作業水が流通する流路を提供する。作業室46、56内には、その長手方向に沿って作業水が流れる。作業水は、作業室46、56内を長手方向に沿って往復するように流れる。
【0048】
さらに、作業室46、56は、磁気熱量素子49、59を収容する収容室を提供する。ハウジング41、51は、作業室46、56が形成された容器を提供している。作業室46、56の中には、磁気熱量効果を有する磁気作業物質としての磁気熱量素子49、59が配置されている。磁気熱量素子49、59は、外部磁場が印加されることによって電子スピンが磁場方向に揃うと、磁気エントロピーが減少し、熱を放出することによって温度が上昇する。また、磁気熱量素子49、59は、外部磁場が除去されることによって電子スピンが乱雑になると、磁気エントロピーが増加し、熱を吸収することによって温度が低下する。磁気熱量素子49、59は、常温域において高い磁気熱量効果を発揮する磁性体によって作られている。磁気熱量素子49、59は、キュリー温度を越えると急激に磁性が低下し、キュリー温度を下回ると再び磁性が上昇する磁性体によって作られている。例えば、ガドリウム系材料、またはランタン−鉄−シリコン化合物を用いることができる。また、マンガン、鉄、リンおよびゲルマニウムの混合物を用いることができる。
【0049】
磁気熱量素子49、59は、MCDユニット40、50の径方向に沿って長手方向を有する棒状に形成されている。磁気熱量素子49、59は、作業室46、56内を流れる作業水と十分に熱交換できる形状に形成されている。それぞれの磁気熱量素子49、59は、素子ベッドとも呼ばれる。この実施形態では、高温端11と低温端12との間に設けられた磁気熱量素子は、第1の磁気熱量素子49と、第2の磁気熱量素子59とを備える。第1の磁気熱量素子49は、第1のMCDユニット40に設けられ、一端に中間低温端13を有し、反対の他端に高温端11を有する。第2の磁気熱量素子59は、第2のMCDユニット50に設けられ、一端に低温端12を有し、反対の他端に中間高温端14を有する。
【0050】
磁気熱量素子49、59は、ロータコア44、54と永久磁石45、55とによって印加、または除去される外部磁場の影響下に置かれる。すなわち、RTM装置2がMHP装置として機能するとき、回転軸42、52が回転すると、磁気熱量素子49、59を磁化させるための外部磁場が印加された状態と、磁気熱量素子49、59から上記外部磁場が除去された状態とが交互に切換えられる。
【0051】
RTM装置2がTME装置として機能するとき、磁気熱量素子49、59の温度がキュリー温度を越える温度と下回る温度とに切換えられることによって磁気熱量素子49、59の磁性が低下した状態と、磁性が上昇した状態とに交互に切換えられ、磁気熱量素子49、59と永久磁石45、55との間に働く磁気的な力によって回転軸42、52が回転する。
【0052】
ひとつのMCDユニット40、50は、熱的に並列接続された複数の磁気熱量素子49、59を備える。例えば、MCDユニット40においては、5つの磁気熱量素子49が熱的に並列接続されている。また、MCDユニット50においては、5つの磁気熱量素子59が熱的に並列接続されている。さらに、複数のMCDユニット40、50に属する複数の磁気熱量素子49、59は、熱的に直列接続されたひとつの磁気熱量素子を構成しているといえる。
【0053】
ひとつの磁気熱量素子49、59は、複数の素子ユニット60−64、65−69を備える。複数の素子ユニット60−64、65−69は、磁気熱量素子49の長手方向、すなわち作業水の流れ方向に沿って積層されて配置されている。
【0054】
複数の素子ユニット60−64、65−69のそれぞれは、異なる温度帯において高い磁気熱量効果(ΔS(J/kgK))を発揮する。高温端11に近い素子ユニット60は、定常運転状態において高温端11に現れる温度の近傍において高い磁気熱量効果を発揮する材料組成を有する。中間低温端13に近い素子ユニット64は、定常運転状態において中間低温端13に現れる温度の近傍において高い磁気熱量効果を発揮する材料組成を有する。中間高温端14に近い素子ユニット65は、定常運転状態において中間高温端14に現れる温度の近傍において高い磁気熱量効果を発揮する材料組成を有する。低温端12に近い素子ユニット69は、定常運転状態において低温端12に現れる温度の近傍において高い磁気熱量効果を発揮する材料組成を有する。
【0055】
高い磁気熱量効果が発揮される温度帯は、高効率温度帯と呼ばれる。高効率温度帯の上限温度と下限温度とは、磁気熱量素子49の材料組成などに依存する。複数の素子ユニット60−64は、高温端11と中間低温端13との間において高効率温度帯が並ぶように直列に配列されている。言い換えると、複数の素子ユニット60−64の高効率温度帯は、高温端11と中間低温端13との間において、高温端11から徐々に低下する階段状の分布を示す。この高効率温度帯の階段状の分布は、定常状態における高温端11と中間低温端13との間の温度分布にほぼ対応する。複数の素子ユニット65−69は、中間高温端14と低温端12との間において高効率温度帯が並ぶように直列に配列されている。言い換えると、複数の素子ユニット65−69の高効率温度帯は、中間高温端14と低温端12との間において、中間高温端14から徐々に低下する階段状の分布を示す。この高効率温度帯の階段状の分布は、定常状態における中間高温端14と低温端12との間の温度分布にほぼ対応する。複数の素子ユニット60−69は、高温端11と低温端12との間において、高効率温度帯がその温度順に並ぶように直列に配列されている。言い換えると、複数の素子ユニット60−69の高効率温度帯は、階段状の分布を示す。この高効率温度帯の階段状の分布は、定常状態における高温端11と低温端12との間の温度分布にほぼ対応する。
【0056】
図4は、第1実施形態の磁気熱量素子49の温度分布と、キュリー温度TCの分布とを示すグラフである。横軸は磁気熱量素子の位置(PSTN)を示し、縦軸は温度(TEMP)を示す。磁気熱量素子49は、高温端と低温端との間の温度分布に対応するキュリー温度の分布をもつ。複数の素子ユニット60−64、65−69のそれぞれを構成する材料は、キュリー温度が異なる。複数の素子ユニット60−69は、高温端11と低温端12との間において、キュリー温度が高温端11と低温端12との間において温度順に並ぶように直列に配列されている。言い換えると、複数の素子ユニット60−69のキュリー温度は、階段状の分布を示す。このキュリー温度の配列は、TME装置としての運転状態における高温端11と低温端12との間の温度分布にほぼ対応する。複数の素子ユニット60−64、65−69のそれぞれのキュリー温度は、その素子ユニットの位置における加熱温度THと冷却温度TLとの間に設定されている。これにより、素子ユニット60−69のそれぞれは、TME装置として運転されているときに、高温端11から中間低温端13へ向かう熱輸送によって僅かに温度が上がるとキュリー温度TCを越え、磁性が低下する。また、素子ユニット60−69のそれぞれは、TME装置として運転されているときに、中間低温端13から高温端11へ向かう熱輸送によって僅かに温度が下がるとキュリー温度TCを下回り、強い磁性を取り戻す。
【0057】
図示の例においては、高温端11に近い素子ユニット60は、TME装置としての運転状態において高温端11に得られる温度の近傍、もしくはそれより僅かに低い温度にキュリー温度TC60をもつ。素子ユニット60のキュリー温度TC60は、その素子ユニット64が設けられた範囲における加熱温度THと冷却温度TLとの間に設定されている。中間低温端13に近い素子ユニット64は、TME装置としての運転状態において中間低温端13に得られる温度の近傍、もしくはそれより僅かに高い温度にキュリー温度TC64をもつ。素子ユニット64のキュリー温度TC64は、その素子ユニット64が設けられた範囲における加熱温度THと冷却温度TLとの間に設定されている。
【0058】
図4は、磁気熱量素子49の場合を示しているが、磁気熱量素子59においても同様のキュリー温度の分布が実現されている。
【0059】
図2および図3に戻り、変速機70は、ポンプ30の回転軸32とMCDユニット40の回転軸42との間に設けられている。変速機70は、回転軸32と回転軸42との間の回転速度、および/または回転位相を調節する。変速機80は、ポンプ30の回転軸32とMCDユニット50の回転軸52との間に設けられている。変速機80は、回転軸32と回転軸52との間の回転速度、および/または回転位相を調節する。この実施形態では、回転軸52に発電電動機20が接続されている。変速機70、80は、AMRサイクルが実現されるようにポンプ30とMCDユニット40、50とが運転されるように、回転軸32と、回転軸42と、回転軸52との回転関係を調節する。
【0060】
ポンプ30とMCDユニット40との間には、作業水の通路を形成する通路形成部材71が設けられている。通路形成部材71は、ひとつのシリンダ33とひとつの作業室46とを連通する流路を形成している。ポンプ30とMCDユニット50との間には、作業水の通路を形成する通路形成部材81が設けられている。通路形成部材81は、ひとつのシリンダ33とひとつの作業室56とを連通する流路を形成している。
【0061】
この実施形態では、ポンプ30の右半部に形成された多気筒のピストンポンプとMCDユニット40とによって、複数のRTMユニットが構成されている。具体的には、8つのRTMユニットが構成されている。これら複数のRTMユニットは、熱的に並列接続されている。また。ポンプ30の左半部に形成された多気筒のピストンポンプとMCDユニット50とによって、複数のRTMユニットが構成されている。具体的には、8つのRTMユニットが構成されている。これら複数のRTMユニットは、熱的に並列接続されている。さらに、ポンプ30の両側に配置された複数のRTMユニットは、熱的に直列接続されている。
【0062】
次に、車両用空調装置1の作動を説明する。発電電動機20が回転すると、回転軸52が回転する。回転軸52の回転により、ロータコア54と永久磁石55とが回転する。これにより、複数の磁気熱量素子59は、永久磁石55による外部磁場が印加された状態と、永久磁石55による外部磁場が除去された状態とに交互におかれる。
【0063】
回転軸52の回転は、変速機80を介して回転軸32に伝達される。回転軸32が回転すると、斜板34が回転する。斜板34が回転すると、斜板34の径方向外側の部位は、軸方向に移動する。このような斜板34の軸方向への移動によって、ピストン35、36が軸方向に往復移動する。ピストン35、36が軸方向に往復移動すると、シリンダ33内の容積が増減する。シリンダ33内の容積の増減に応じて、作業水がシリンダ33内から流出し、または流入する。
【0064】
図示されたピストン36は、シリンダ33の左半部の容積を増減させる。ピストン36の往復移動により、作業室56内に作業水の往復流が生成される。作業水が中間高温端14から低温端12に向けて流れるとき、磁気熱量素子59の冷熱が中間高温端14から低温端12に向けて輸送される。さらに、低温端12の付近にある作業水の一部は、出口57を通して低温側循環流路16に流出する。低温側循環流路16に出た作業水は、室外熱交換器4を通過する。このとき作業水は、室外の空気によって加熱される。すなわち、作業水は、室外の空気を冷却する。作業水が低温端12から中間高温端14に向けて流れるとき、磁気熱量素子59の温熱が低温端12から中間高温端14に向けて輸送される。このとき、作業水が低温側循環流路16から作業室56へ流入する。
【0065】
さらに、回転軸32の回転は、変速機70を介して回転軸42に伝達される。回転軸42の回転により、ロータコア44と永久磁石45とが回転する。これにより、複数の磁気熱量素子49は、永久磁石45による外部磁場が印加された状態と、永久磁石45による外部磁場が除去された状態とに交互におかれる。
【0066】
図示されたピストン35は、シリンダ33の右半部の容積を増減させる。ピストン35の往復移動により、作業室46内に作業水の往復流が生成される。作業水が中間低温端13から高温端11に向けて流れるとき、磁気熱量素子49の温熱が中間低温端13から高温端11に向けて輸送される。さらに、高温端11の付近にある作業水の一部は、出口47を通して高温側循環流路15に流出する。高温側循環流路15に出た作業水は、室内熱交換器3を通過する。このとき作業水は、室内の空気を加熱する。すなわち、作業水は、室内の空気によって冷却される。作業水が高温端11から中間低温端13に向けて流れるとき、磁気熱量素子49の冷熱が高温端11から中間低温端13に向けて輸送される。このとき、作業水が高温側循環流路15から作業室46へ流入する。
【0067】
変速機80は、MCDユニット50による外部磁場の印加と除去との切換えと、ポンプ30による作業水の往復流の方向の切換えとが、AMRサイクルを実現する組み合わせとなるように、回転軸52と回転軸32との回転を同期させる。変速機70は、MCDユニット40による外部磁場の印加と除去との切換えと、ポンプ30による作業水の往復流の方向の切換えとが、AMRサイクルを実現する組み合わせとなるように、回転軸42と回転軸32との回転を同期させる。
【0068】
図5は、第1実施形態のRTM装置2の作動を示す状態遷移図である。図5AはMHP装置としての状態遷移図を示す。図5BはTME装置としての状態遷移図を示す。なお、図中には、一部の永久磁石45と、一部の磁気熱量素子49とだけが図示されている。
【0069】
まず、制御装置10は、RTM装置2をMHP装置として運転するか、TME装置として運転するかを決定する決定手段を提供する。この決定は、熱源の状態に応じて実行することができる。また、この決定は、利用者がスイッチなどの入力手段によって選択してもよい。これにより、図5Aと図5Bとの間の遷移が提供される。
【0070】
次に、制御装置10は、RTM装置2をMHP装置として運転するとき、RTM装置2をMHP装置として機能させるためのMHP制御手段を提供する。MHP制御手段は、発電電動機20を電動機として運転するとともに、変速機70、80をMHP装置のための変換状態に調節する。また、制御装置10は、RTM装置2をTME装置として運転するとき、RTM装置2をTME装置として機能させるためのTME制御手段を提供する。TME制御手段は、発電電動機20を発電機として運転するとともに、変速機70、80をTME装置のための変換状態に調節する。
【0071】
RTM装置2がMHP装置として機能するとき、AMRサイクルを実現するために、外部磁場の印加と除去との切換えと、作業水の往復流の方向の切換えとは、以下の(1)−(4)の工程が繰り返されるように組み合わせられる。この組み合わせは、変速機70、80の調節によって得られる。図5Aは、AMRサイクルにおける永久磁石45と磁気熱量素子49との位置関係の遷移を示している。AMRサイクルによると、熱が段階的に徐々に輸送されるため、高い効率が得られる。
【0072】
(1)磁場印加除去手段44、45、54、55によって磁気熱量素子49、59に外部磁場を印加する。
【0073】
(2)磁場が印加されている期間に、ポンプ30によって低温端12、13から高温端14、11へ向けて作業水を流す。
【0074】
(3)磁場印加除去手段44、45、54、55によって磁気熱量素子49、59から外部磁場を除去する。
【0075】
(4)外部磁場が除去されている期間に、ポンプ30によって高温端11、14から低温端13、12へ向けて作業水を流す。
【0076】
ポンプ30の左半部とMCDユニット50とによって上記(1)−(4)の工程が繰り返されると、磁気熱量効果により生成された冷熱は低温端12に向けて輸送され、磁気熱量効果により生成された温熱は中間高温端14に向けて輸送される。このとき、磁気熱量素子59と作業水とは、それ自身が温熱と冷熱とを蓄える熱溜めとなる。上記工程が繰り返されることにより、作業室56の内部は徐々に大きい温度勾配をもつ熱溜めとなる。やがて、定常的な運転状態では、両端、すなわち低温端12と中間高温端14との間に大きな温度差が生じる。中間高温端14に輸送された温熱は、変速機80、ポンプ30、および変速機70を経由して、MCDユニット40に伝達される。
【0077】
ポンプ30の右半部とMCDユニット40とによって上記(1)−(4)の工程が繰り返されると、磁気熱量効果により生成された冷熱は中間低温端13に向けて輸送され、磁気熱量効果により生成された温熱は高温端11に向けて輸送される。このとき、磁気熱量素子49と作業水とは、それ自身が温熱と冷熱とを蓄える熱溜めとなる。上記工程が繰り返されることにより、作業室46の内部は徐々に大きい温度勾配をもつ熱溜めとなる。やがて、定常的な運転状態では、両端、すなわち中間低温端13と高温端11との間に大きな温度差が生じる。中間低温端13に輸送された冷熱は、変速機70、ポンプ30、および変速機80を経由して、MCDユニット50に伝達される。
【0078】
このように、この実施形態では、ポンプ30は、磁気熱量素子49、59に外部磁場が印加されているときに低温端12から高温端11に向けて作業水を流し、磁気熱量素子49、59から外部磁場が除去されているときに高温端11から低温端12に向けて熱輸送媒体を流す。さらに、ポンプ30は、低温端12から高温端11に向けて作業水を流すときに、高温端11から高温側循環流路15に作業水を吐出するとともに、低温側循環流路16から低温端12に作業水を吸い込む。さらに、ポンプ30は、高温端11から低温端12に向けて作業水を流すときに、低温端12から低温側循環流路16に作業水を吐出するとともに、高温側循環流路15から高温端11に作業水を吸い込む。第1のMCDユニット40だけに着目すると、ポンプ30は、中間低温端13から高温端11に向けて作業水を流すときに、高温端11から高温側循環流路15に作業水を吐出する。さらに、ポンプ30は、高温端11から中間低温端13に向けて作業水を流すときに、高温側循環流路15から高温端11に作業水を吸い込む。また、第2のMCDユニット50だけに着目すると、ポンプ30は、中間高温端14から低温端12に向けて作業水を流すときに、低温端12から低温側循環流路16に作業水を吐出する。さらに、ポンプ30は、低温端12から中間高温端14に向けて熱輸送媒体を流すときに、低温側循環流路16から低温端12に作業水を吸い込む。
【0079】
MCDユニット40とポンプ30とMCDユニット50とは、一連のMHP装置として機能する。この結果、低温端12と高温端11との間に大きな温度差が生じる。低温端12から流出した低温の作業水は、室外熱交換器4において室外の空気から熱を吸熱し、再び低温端12に戻ることによって低温端12に熱を供給する。MHP装置は、低温端12に供給された熱を高温端11へ汲み上げる。高温端11から流出した高温の作業水は、室内熱交換器3において室内の空気に熱を放熱し、再び高温端11に戻ることによって高温端11から熱を受け取る。
【0080】
RTM装置2がTME装置として機能するとき、逆AMRサイクルを実現するために、永久磁石45、55から磁気熱量素子49、59への外部磁場の印加と除去との切換えと、作業水の往復流の方向の切換えとは、以下の(1)−(4)の工程が繰り返されるように組み合わせられる。この組み合わせは、変速機70、80の調節によって得られる。図5Bは、逆AMRサイクルにおける永久磁石45と磁気熱量素子49との位置関係の遷移を示している。逆AMRサイクルによると、熱が段階的に徐々に輸送されるため、高い効率が得られる。
【0081】
(1)永久磁石45、55と磁気熱量素子49、59とが永久磁石45、55の磁力により引き合うことにより回転軸42、52が回転する。
【0082】
(2)ポンプ30によって高温端11、14から低温端13、12へ向けて作業水を流すことにより磁気熱量素子49、59を加熱する。
【0083】
(3)永久磁石45、55と磁気熱量素子49、59とが永久磁石45、55の磁力により引き合うことなく慣性によって回転軸42、52が回転する。
【0084】
(4)ポンプ30によって低温端12、13から高温端14、11へ向けて作業水を流し、磁気熱量素子49、59を冷却する。
【0085】
RTM装置2をTME装置として機能させる初期においては、制御装置10は発電電動機20を電動機として機能させる。これにより、TME装置として機能するための初期トルクが与えられ、回転方向が安定する。
【0086】
ポンプ30の左半部とMCDユニット50とによって上記(1)−(4)の工程が繰り返されると、低温の熱源である室外から室外熱交換器4によって取り入れられた冷熱は低温端12から中間高温端14に向けて輸送される。中間高温端14に輸送された冷熱は、変速機70、ポンプ30、および変速機80を経由して、MCDユニット40に伝達される。中間高温端14の温熱は、低温端12に向けて輸送される。中間高温端14の温熱は、変速機70、ポンプ30、および変速機80を経由して、MCDユニット40から伝達されたものである。ポンプ30は往復流を提供するから、素子ユニット65−69のそれぞれの温度は、キュリー温度を越える温度と、キュリー温度を下回る温度とに交互に切換えられる。ここで、複数の素子ユニット65−69のそれぞれにおける温度変化は、低温端12と中間高温端14との間に現れる温度差より小さい。このため、小さい温度変化であっても、磁気熱量素子59の全体において、キュリー温度を越えることによって磁性が低下した状態と、キュリー温度を下回ることによって磁性が上昇した状態との間の交互切換えが得られる。このような磁気熱量素子59の磁性の変化によって、永久磁石55と磁気熱量素子59との間に働く磁気的な力が周期的に変動する。この結果、永久磁石55に回転トルクが発生し、回転軸52が回転する。回転軸52の回転は、発電電動機20に伝達される。発電電動機20は、回転軸52の回転力を電力に変換し、電池5に充電する。
【0087】
ポンプ30の右半部とMCDユニット40とによって上記(1)−(4)の工程が繰り返されると、高温の熱源である室内から室内熱交換器3によって取り入れられた温熱は高温端11から中間低温端13に向けて輸送される。中間低温端13に輸送された温熱は、変速機70、ポンプ30、および変速機80を経由して、MCDユニット50に伝達される。中間低温端13の冷熱は、高温端11に向けて輸送される。中間低温端13の冷熱は、変速機70、ポンプ30、および変速機80を経由して、MCDユニット50から伝達されたものである。ポンプ30は往復流を提供するから、素子ユニット60−64のそれぞれの温度は、キュリー温度を越える温度と、キュリー温度を下回る温度とに交互に切換えられる。ここで、複数の素子ユニット60−64のそれぞれにおける温度変化は、高温端11と中間低温端13との間に現れる温度差より小さい。このため、小さい温度変化であっても、磁気熱量素子49の全体において、キュリー温度を越えることによって磁性が低下した状態と、キュリー温度を下回ることによって磁性が上昇した状態との間の交互切換えが得られる。このような磁気熱量素子49の磁性の変化によって、永久磁石45と磁気熱量素子59との間に働く磁気的な力が周期的に変動する。この結果、永久磁石45に回転トルクが発生し、回転軸42が回転する。回転軸42の回転は、発電電動機20に伝達される。発電電動機20は、回転軸42の回転力を電力に変換し、電池5に充電する。
【0088】
このように、この実施形態では、ポンプ30は、低温端12から高温端11に向けて作業水を流すことにより、磁気熱量素子49、59を冷却し、強い磁性を帯びた状態にする。また、ポンプ30は、高温端11から低温端12に向けて作業水を流すことにより、磁気熱量素子49、59を加熱し、磁性が低下した状態、または磁性を失った状態にする。
【0089】
MCDユニット40とポンプ30とMCDユニット50とは、一連のTME装置として機能する。この結果、低温端12と高温端11との間の温度差を利用して、運動エネルギーを取り出すことができる。
【0090】
この実施形態によると、TME装置を構成することができる。しかも、高温端11と低温端12との間に得られる温度差を有効に利用するTME装置を構成することができる。さらに、この実施形態によると、TME装置とMHP装置とに切換え可能なRTM装置2を構成することができる。
【0091】
(第5実施形態)
図6は、本発明を適用した第2実施形態のRTM装置202の断面図である。RTM装置202は、RTM装置202に代えて車両用空調装置1に使用される。上記実施形態では、ポンプ30を斜板式ポンプによって提供した。これに代えて、この実施形態では、ラジアルピストンポンプによってポンプ230を提供する。さらに、この実施形態では、ひとつの可変容積室に2つの作業室46、56が対応するように接続されている。
【0092】
ポンプ230は、円筒状または円柱状と呼びうるハウジング231を備える。ハウジング231は、その中心軸上に回転軸232を回転可能に支持している。回転軸232は、回転軸42、および回転軸52に直結されている。ハウジング231は、少なくともひとつのシリンダ233を区画形成している。ハウジング231は、回転軸232の周囲に、等間隔に配置された複数のシリンダ233を区画形成している。この実施形態では、ハウジング231は、5つのシリンダ233を区画形成している。ハウジング231は、カム234を収容している。カム234は、その外周面にカム面を有する。カム234は、回転軸232とともに回転するように回転軸232に連結されている。ひとつのシリンダ233には、ひとつのピストン235が配置されている。ピストン235は、シリンダ233の中を径方向に往復移動することができる。この結果、ひとつのシリンダ233の中に、1気筒の容積型のピストンポンプが形成される。ハウジング231は、8つのシリンダ233を有するから、ポンプ230は8気筒のピストンポンプを提供する。
【0093】
ポンプ230は、一群の容積室によって、第1のMCDユニット40と第2のMCDユニット50とに並列的な作業水の流れを提供している。ひとつの気筒は、低温端12から中間高温端14へ向かう流れと、高温端11から中間低温端13へ向かう流れとを同時に生成する。また、ひとつの気筒は、高温端11から中間低温端13へ向かう流れと、低温端12から中間高温端14へ向かう流れとを同時に生成する。ポンプ230は、中間低温端13から高温端11に向けて作業水を流すときに、高温端11から高温側循環流路15に作業水を吐出する。また、ポンプ230は、中間高温端14から低温端12に向けて作業水を流すときに、低温端12から低温側循環流路16に作業水を吐出する。ポンプ230は、高温端11から中間低温端13に向けて作業水を流すときに、高温側循環流路15から高温端11に作業水を吸い込む。さらに、ポンプ230は、低温端12から中間高温端14に向けて作業水を流すときに、低温側循環流路16から低温端12に作業水を吸い込む。
【0094】
MHP装置として運転されるとき、ひとつの容積室に対応して設けられた複数の作業室46、56のうち、一方の作業室46に外部磁場が印加されるとき、他方の作業室56には外部磁場が印加されない。この結果、一方の作業室46では磁気熱量素子49が発熱して温熱の輸送が行われ、同時に、他方の作業室56では磁気熱量素子59が吸熱して冷熱の輸送が行われる。この実施形態でも、制御装置10は、MHP装置とTME装置とを切換えるために、熱輸送の位相と磁場変動の位相とを、それらの周期の1/4、すなわち90度だけずらす。このような位相変換機能は、ポンプ230の制御カムによって実現することができる。熱輸送の位相と磁場変動の位相とを必要な量だけずらす機構は、制御装置10とポンプ230の駆動機構とによって提供される。
【0095】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0096】
例えば、上記実施形態では、車両用空調装置1は、室外の空気の熱を吸収し、室内の空気を暖める暖房装置を提供した。これに代えて、車両用空調装置1は、室内の空気の熱を吸収し、室外の空気に熱を放出する冷房装置を提供することもできる。この場合、低温側熱交換器4は室内に配置され、高温側熱交換器3は、室外に配置される。
【0097】
また、上記実施形態では、ポンプ30を中央に配置して、その両側にMCDユニット40、50を配置した。これに代えて、ポンプ30の半部と、一方のMCDユニットだけでRTM装置2を構成してもよい。例えば、ポンプ30の右半部とMCDユニット40とでRTM装置2を構成してもよい。この場合、ポンプ30とMCDユニット40との間に室外熱交換器4を設けることができる。
【0098】
また、上記実施形態では、永久磁石を回転させることにより磁場印加除去手段を構成した。これに代えて、磁気熱量素子を移動させることにより磁場印加除去手段を構成してもよい。また、永久磁石に代えて電磁石を使用してもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、作業水によって、磁気熱量素子49、59をAMRサイクルとして機能させるための熱輸送媒体と、RTM装置2と熱交換器3、4との間の熱輸送を行う熱輸送媒体とを提供した。これに代えて、磁気熱量素子49、59をAMRサイクルとして機能させるための熱輸送媒体と、RTM装置2と熱交換器3、4との間の熱輸送を行う熱輸送媒体とを分離してもよい。例えば、RTM装置2とは別に、高温端11と室内熱交換器3との間の熱輸送を行うための水の循環回路とポンプとを設けることができる。
【0100】
また、上記実施形態では、斜板式ポンプ、またはラジアルピストンポンプによって多気筒ポンプを提供した。これに代えて、他の形式の容積型ポンプを利用してもよい。また、上記第1実施形態では、ポンプの1気筒に、一つの作業室46、56を対応させて配置した。これに代えて、複数の気筒とひとつの作業室、またはひとつの気筒と複数の作業室、または複数の気筒と複数の作業室を対応させて配置してもよい。
【0101】
また、上記実施形態では、磁気熱量素子49、50を複数の素子ユニット60−69の集合体とすることにより、高温端11と低温端12との間の温度分布にほぼ対応したキュリー温度の階段状の分布を実現した。これに代えて、一連の連続した磁気熱量素子49、59の材料組成を高温端11と低温端12との間において連続的に変化させることにより、キュリー温度の連続的な分布を形成してもよい。また、磁気熱量素子49、50の全体を同じキュリー温度をもつ材料により作ってもよい。この構成においても、加熱時と冷却時との間で磁性が低下した磁気熱量素子の量が変化するから、永久磁石との間の磁気的な力が変化し、回転力を取り出すことができる。この場合においても、磁気熱量素子49、50のキュリー温度は、高温端11の温度と低温端12の温度との間に設定される。
【0102】
また、上記実施形態では、磁気熱量素子49、59は、作業室46、56内を流れる作業水と十分に熱交換できる形状に形成されている。より具体的には、例えば、図7に図示される構造を採用することができる。図7は、第1実施形態および第2実施形態に適用可能な磁気熱量素子を示す斜視図である。磁気熱量素子49は、角柱状に形成されている。磁気熱量素子49は、複数の板状部材49a、49bを積層して構成されている。複数の板状部材49aには、作業水の流路を形成するための溝49cが形成されている。図示の例では、末端の板状部材49bは、溝を備えないが、同一の形状の板状部材だけを積層してもよい。磁気熱量素子49は、その内部に、作業水を流すための複数の流路を形成している。複数の流路は、磁気熱量素子49と作業水との熱交換を促進する。作業水の流路は、隣接する板状部材49a、49bの間に区画形成されている。磁気熱量素子59も同様の構造を採用することができる。
【0103】
また、上記実施形態では、車両用空調装置に本発明を適用した。これに代えて、住宅用の空調装置に本発明を適用してもよい。
【0104】
また、上記実施形態では、室外の空気を主要な熱源とするRTM装置2を説明した。これに代えて、水、土などの他の熱源を主要熱源として利用してもよい。また、車両の動力装置の廃熱を熱源として利用してもよい。例えば、車両に搭載された内燃機関の廃熱、または電動車両のインバータ装置の廃熱、電動機の廃熱などを利用することができる。
【0105】
例えば、制御装置が提供する手段と機能は、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置をアナログ回路によって構成してもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 車両用空調装置
2 可逆熱磁気サイクル装置(RTM装置)
3 室内熱交換器
4 室外熱交換器
5 電池
10 制御装置
11 高温端
12 低温端
13 中間低温端
14 中間高温端
15 高温側循環流路
16 低温側循環流路
20 発電電動機
30、230 ポンプ
40 磁気熱量素子ユニット(MCDユニット)
45 永久磁石
49 磁気熱量素子(磁性体)
50 磁気熱量素子ユニット(MCDユニット)
55 永久磁石
59 磁気熱量素子(磁性体)
60−69 素子ユニット
70 変速機
80 変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度がキュリー温度を越えると磁性が低下し、温度がキュリー温度を下回ると磁性が上昇する磁性体であって、温熱が供給される高温端(11、14)の温度と冷熱が供給される低温端(12、13)の温度との間にキュリー温度をもつ磁性体(49、59)と、
前記磁性体を加熱するときに前記高温端から前記低温端に向けて熱輸送媒体を流し、前記磁性体を冷却するときに前記低温端から前記高温端に向けて熱輸送媒体を流すポンプ(30、230)と、
前記磁性体に外部磁場を印加する磁場印加装置(44、45、54、55)と、
前記磁性体と前記磁場印加装置との間に働く磁気的な力を運動エネルギとして取り出す動力機構(32、42、52、70、80、20)とを備えることを特徴とする熱磁気エンジン装置。
【請求項2】
前記磁性体は、前記高温端と前記低温端との間の温度分布に対応するキュリー温度の分布をもち、
前記ポンプは、前記熱輸送媒体の流れによって、前記磁性体の温度がキュリー温度を越える状態と、前記磁性体の温度がキュリー温度を下回る状態とを切換えることを特徴とする請求項1に記載の熱磁気エンジン装置。
【請求項3】
前記磁性体は、キュリー温度が異なる複数の素子ユニット(60−69)を有し、
複数の前記素子ユニットは、前記高温端と前記低温端との間においてキュリー温度の順に並ぶように直列に配列されていることを特徴とする請求項2に記載の熱磁気エンジン装置。
【請求項4】
さらに、冷熱の供給源と熱交換する低温側熱交換器(4)と、
前記低温側熱交換器を通る低温側循環流路(16)と、
温熱の供給源と熱交換する高温側熱交換器(3)と、
前記高温側熱交換器を通る高温側循環流路(15)とを備え、
前記ポンプは、
前記低温端(13)から前記高温端(11)に向けて前記熱輸送媒体を流すときに、前記高温端から前記高温側循環流路に前記熱輸送媒体を吐出し、
前記高温端(11)から前記低温端(13)に向けて前記熱輸送媒体を流すときに、前記高温側循環流路から前記高温端に前記熱輸送媒体を吸い込み、
前記高温端(14)から前記低温端(12)に向けて前記熱輸送媒体を流すときに、前記低温端から前記低温側循環流路に前記熱輸送媒体を吐出し、
前記低温端(12)から前記高温端(14)に向けて前記熱輸送媒体を流すときに、前記低温側循環流路から前記低温端に前記熱輸送媒体を吸い込むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱磁気エンジン装置。
【請求項5】
前記磁性体は、
第1の磁性体ユニット(40)に設けられ、一端に中間低温端(13)を有し、反対の他端に前記高温端(11)を有する第1の磁気熱量素子(49)と、
第2の磁性体ユニット(50)に設けられ、一端に前記低温端(12)を有し、反対の他端に中間高温端(14)を有する第2の磁気熱量素子(59)とを備え、
前記磁場印加装置は、
前記第1の磁性体ユニットに設けられ、前記第1の磁気熱量素子へ磁場を印加する第1の永久磁石(45)と、
前記第2の磁性体ユニットに設けられ、前記第2の磁気熱量素子へ磁場を印加する第2の永久磁石(55)とを備え、
前記ポンプは、
前記第1の磁性体ユニット(40)において前記中間低温端(13)から前記高温端(11)に向けて前記熱輸送媒体を流すときに、前記高温端から前記高温側循環流路に前記熱輸送媒体を吐出し、
前記第1の磁性体ユニット(40)において前記高温端(11)から前記中間低温端(13)に向けて前記熱輸送媒体を流すときに、前記高温側循環流路から前記高温端に前記熱輸送媒体を吸い込み、
前記第2の磁性体ユニット(50)において前記中間高温端(14)から前記低温端(12)に向けて前記熱輸送媒体を流すときに、前記低温端から前記低温側循環流路に前記熱輸送媒体を吐出し、
前記第2の磁性体ユニット(50)において前記低温端(12)から前記中間高温端(14)に向けて前記熱輸送媒体を流すときに、前記低温側循環流路から前記低温端に前記熱輸送媒体を吸い込むことを特徴とする請求項4に記載の熱磁気エンジン装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の前記熱磁気エンジン装置、または熱源(4)の熱を熱負荷(3)に供給する磁気熱量効果型ヒートポンプ装置として選択的に運転可能な可逆熱磁気サイクル装置であって、
前記磁気熱量効果型ヒートポンプ装置は、
前記磁性体(49、59)によって提供され、外部磁場の印加により発熱し、外部磁場の除去により吸熱する磁気熱量素子と、
前記動力機構(20)によって提供され、前記磁気熱量素子と前記磁場印加装置(44、45、54、55)とを相対的に移動させることにより、前記磁気熱量素子への外部磁場の印加と除去とを切換える磁場切換装置(20)と、
前記ポンプ(30、230)によって提供され、前記磁気熱量素子に外部磁場が印加されているときに前記低温端から前記高温端に向けて熱輸送媒体を流し、前記磁気熱量素子から外部磁場が除去されているときに前記高温端から前記低温端に向けて熱輸送媒体を流すポンプ(30、230)とを備えることを特徴とする可逆熱磁気サイクル装置。
【請求項7】
前記磁気熱量素子は、高い磁気熱量効果を示す高効率温度帯が異なる複数の素子ユニット(60−69)を有し、
複数の前記素子ユニットは、前記高温端と前記低温端との間において前記高効率温度帯が並ぶように直列に配列されていることを特徴とする請求項6に記載の可逆熱磁気サイクル装置。
【請求項8】
前記熱磁気エンジン装置と前記磁気熱量効果型ヒートポンプ装置とを切換えるために、前記ポンプ(30、230)による熱輸送の位相と前記磁場印加装置または前記磁場切換装置による磁場変動の位相とを必要な量だけずらすことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の可逆熱磁気サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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