説明

熱線反射ガラス

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車・車両用あるいは建築用の熱線反射ガラスの技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車・車両用あるいは建築用のガラスには、冷房負荷の軽減あるいは直接太陽光による熱暑感の低減を目的として、可視光透過率の小さな熱線反射ガラスが用いられている。このような可視光透過率の小さい熱線反射ガラスは、プライバシーの保護という観点からも利用価値が高い。従来これらの要求に応える熱線反射ガラスとしては、窒化チタンや銀といった導電性の高い物質を、蒸着法やスパッタリング法などで成膜することにより得られていた。また、コバルト、クロム、ニッケルなどを含む酸化物被膜を熱分解によりガラス上に形成する方法もある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の被膜製造方法において窒化チタンや銀といった導電性の高い物質を蒸着法やスパッタリング法などで成膜する方法は製造コストが高いという問題がある。一方、酸化物被膜を熱分解でガラス上に形成する方法は、操作が簡便であり製造コストが安価であるものの、酸化物被膜の組成によっては、被膜を形成したガラスに強化処理等を施す際に、透過率が大きく変化したり、膜の耐薬品性が劣化する場合があった。
【0004】本発明は、これら問題点を解決するためになされたものであって、特に強化処理等を施しても透過率など膜特性が変化しにくく安価に製造しうる熱線反射ガラスを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明に係る熱線反射ガラスは、ガラス板と、その主表面上に形成したコバルト、鉄及びクロムを含む酸化物を主成分とする被膜とからなる熱線反射ガラスにおいて、前記被膜は、膜厚が10〜70nmであり、単位面積当たりの総金属量に占めるコバルト、鉄及びクロムの重量百分率がそれぞれコバルト:65〜96%、鉄:2〜10%、クロム:2〜25% 又は、■コバルト:65〜96%、鉄:2〜33%、クロム:2〜5%又は、■コバルト:65〜96%、鉄:2〜33%、クロム:18〜25% であることを特徴とする。
【0006】この熱線反射ガラスは、強化処理等を施しても透過率など膜特性が変化しにくいものである。すなわち、この熱線反射ガラスに、これを形成するガラス板の歪点以上軟化点以下の温度までの加熱を伴う成形および/または強化処理を施すことにより、膜特性が変化しない熱線反射熱処理ガラスを製造することができる。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明に係る被膜をガラス板上に形成する方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法など種々の方法が考えられるが、加熱したガラス基板表面において、コバルト、クロム、鉄の化合物を熱分解酸化反応でコバルト、クロム、鉄の酸化物膜として、ガラス表面上に成膜する方法が最も容易で好ましい。
【0008】この熱分解酸化反応による成膜方法としては金属化合物をガラス上に塗布した後に焼成する方法、高温に加熱されたガラス上に金属化合物の蒸気を送って酸化反応により成膜する化学気相法(CVD法)、金属化合物の粉末を吹き付ける粉末法、金属化合物を有機溶剤や水に溶解もしくは分散させた被膜形成溶液を微小な液滴として吹き付けるスプレー法などがある。このうち、操作の簡便さや製造コストなどの観点からはスプレー法が好ましい。特に、フロート法などで作製されるリボン状ガラスが高温状態にあるときにスプレー法で成膜を行うと、ガラスを洗浄、加熱する必要がないため、より製造コストの低減を図ることができる。
【0009】本発明に係る被膜をスプレー法で形成する場合の原料としては、コバルト、クロム、鉄の金属化合物が液体の溶媒中に溶解しているものが一般的である。ここで、コバルト化合物としてはジプロピオニルメタンコバルト、アセチルアセトンコバルト(2価塩、3価塩のいずれも可)、酢酸コバルト、塩化コバルト、安息香酸コバルト、ほう酸コバルト、臭化コバルト、硝酸コバルト、ふっ化コバルト、よう化コバルト、しゅう酸コバルト、りん酸コバルト、亜りん酸コバルト、ステアリン酸コバルト、硫酸コバルトなどが、クロム化合物としてはアセチルアセトンクロム、酢酸第二クロム、塩化第一クロム、塩化第二クロム、蟻酸第二クロム、ふっ化第二クロム、硫酸クロムアンモニウム、水酸化第二クロム、硝酸第二クロム、りん酸第二クロム、硫酸カリウムクロム、硫酸第二クロムなどが、鉄化合物としてはアセチルアセトン鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、くえん酸第二鉄、しゅう酸第二鉄アンモニウム、硫酸第二鉄アンモニウム、フルオほう酸鉄、ふっ化第二鉄、フルオ珪酸鉄、乳酸第二鉄、硝酸第二鉄、しゅう酸第一鉄、りん酸第一鉄、りん酸第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、酒石酸第一鉄などが挙げられる。これらの金属化合物を溶解する溶媒としては、芳香族やエステル、ケトン、アルコール、エーテルなどの有機溶剤が一般的である。
【0010】一方、ガラス板としてはソーダライムシリカガラスが一般的であるが特に限定されず、例えば、微量着色成分を添加して着色したソーダライムシリカガラスを用いることにより、光学特性や色調を調整することも商品特性を高める上で好ましい。特に、自動車用ガラスとして供する場合には、外観がグリーンの着色されたソーダライムシリカガラスを用いると美感がさらに優れたものとなる。
【0011】また、反射率の低減や色調の微調整のために、被膜中にニッケル、シリコン、アルミニウム、アンチモン、チタン、亜鉛、錫、銅、インジウム、ビスマス、バナジウム、マンガン、ジルコニウムなどを適宜添加してもよい。
【0012】本発明に係る熱線反射ガラスをスプレー法にて製造する場合、被膜形成溶液における好ましい金属化合物含有量は、あらかじめ使用装置に応じて実験的に決めておく必要がある。この含有量は、スプレー時の基板温度、スプレーに用いるノズル、ガスの排気機構、成膜速度などに応じた最適範囲が存在する。すなわち、吹き付け液中の金属化合物の総量が少なすぎれば十分な成膜速度が得られず、逆に多すぎれば良好な膜厚分布が得られない。
【0013】単位面積当たりの総金属量に占めるコバルトの重量百分率が65%よりも少ない場合、あるいは単位面積当たりの総金属量に占めるクロムの重量百分率が25%よりも多い場合には、ガラスに加熱を伴う強化処理等を施すと、可視光透過率の増大が生じたり、耐アルカリ性が悪くなるので好ましくない。
【0014】この理由としては、強化処理等における熱エネルギーにより、ガラスに含まれるアルカリ成分であるナトリウムと被膜に含まれるクロムが反応してクロム酸ソーダを生成し、同時にコバルトの状態が変化するためであると考えられる。すなわち、コバルトの状態変化が可視光透過率の変化を導き、クロム酸ソーダの生成が耐アルカリ性の劣化を導くと推察される。
【0015】従って、単位面積当たりの総金属量に占めるコバルトおよびクロムの重量百分率をそれぞれ65%以上および25%以下とすることが好ましく、さらに可視光透過率の変化が少なく良好な耐アルカリ性を保持させるにはコバルトおよびクロムの重量百分率をそれぞれ70%以上および15%以下とすることがより好ましい。
【0016】単位面積当たりの総金属量に占めるコバルトの重量百分率が90%よりも多くなると、同じく加熱を伴う強化処理を施した場合に、該酸化物被膜に含まれるコバルトが原因と推定されるくもりが発生しやすくなり、外観上の問題が生じるので好ましくない。従って、外観上の問題が重視される場合には、コバルトの重量百分率を90%以下とすることが好ましい。
【0017】単位面積当たりの総金属量に占める鉄の重量百分率が10%よりも多くかつ単位面積当たりの総金属量に占めるクロムの重量百分率が%よりも多く18%未満である範囲においては、耐酸性が十分ではない。一般的に熱線反射被膜の耐酸性は、基材に加熱を伴う強化処理を施した場合には良好となる傾向があるが、上記範囲においては強化処理後においても耐酸性は良好とならない。
【0018】従って、耐酸性についても良好な被膜を必要とする場合には、鉄の重量百分率が10%以下であること、クロムの重量百分率が%以下であることおよびクロムの重量百分率が18%以上であることからなる一群の条件のうち少なくとも一つを満たすようにすることが必要である
【0019】被膜の膜厚を10nm以上としたのは、これよりも薄くすると熱線反射ガラスとして充分な機能を保持できないためであり、一方、70nm以下としたのは、これよりも厚くすると反射干渉色の影響が生じて外観上好ましくないからである。
【0020】上述のように、本発明に係る熱線反射ガラスは、強化処理等を施しても透過率等膜特性が変化しにくいものである。すなわち、ガラス板の主表面上に、膜厚が10〜70nmであり、単位面積当たりの総金属量に占めるコバルト、鉄及びクロムの重量百分率がそれぞれ、■コバルト:65〜96%、鉄:2〜10%、クロム:2〜25% 又は、■コバルト:65〜96%、鉄:2〜33%、クロム:2〜5% 又は、■コバルト:65〜96%、鉄:2〜33%、クロム:18〜25% の範囲にあるこれら金属の酸化物を主成分とする被膜を形成して熱線反射ガラスを製造する工程と、この熱線反射ガラスに前記ガラス板の歪点以上軟化点以下の温度までの加熱を伴う成形および/または強化処理を施す工程とを含む熱線反射加工ガラスの製造方法により、膜特性の良好な自動車用等の熱線反射熱処理ガラスを製造することができる。
【0021】この熱線反射熱処理ガラスは、代表的には、平板または曲げの強化ガラスであり、場合によっては、PVB等のプラスチック中間膜を介して2枚以上の曲げガラス板を接合した合わせガラスとすることもできる。
【0022】
【実施例】以下に実施例により本発明を詳細に説明する。
(実施例1)大きさが150mm×150mm、厚みが3.4mmで、実体色が緑色を有するソーダライムガラス(可視光透過率81.1%)を洗浄、乾燥して基材とした。この基材を吊り具によって固定し、650℃に設定された電気炉内にて5分間保持し、その後に取り出して、トルエン100ミリリットルに対して3価のコバルトのジプロピオニルメタンを12.5g、3価の鉄のアセチルアセトナートを0.62g、クロムのアセチルアセトナートを1.83gを溶解させた原料液を市販のスプレーガンを用いて基材上に約10秒間、空気圧3.0kg/cm2、空気量90リットル/分、噴霧量20ミリリットル/分の条件下で吹き付けた。
【0023】この熱線反射ガラスについて、可視光透過率および日射透過率を求め、さらに高周波プラズマ発光分析により被膜の単位面積当たりの総金属量に占めるコバルト、鉄およびクロムの重量百分率を求めた。
【0024】次に、この熱線反射ガラスに対して、同じく電気炉で、ガラスの強化処理の際の一般的な加熱条件(650℃の温度で5分間の加熱処理)で加熱処理した。その後、再度可視光透過率を求め、加熱処理前後の変化を調べた。同時に、加熱処理による外観上の検査も実施した。以上の結果を、表1に示す。
【0025】また、加熱処理後の試料に対し、耐薬品性試験として1規定の硫酸および水酸化ナトリウム水溶液に40℃の環境で24時間浸漬した後の該被膜の劣化状態を観察した。その結果を表2に示す。なお、ここで、ほとんど劣化が観測されない場合には○とし、劣化がわずかに認められた場合には△とし、劣化が明らかな場合には×とした。
【0026】(実施例2)実施例1において、トルエン100ミリリットルに対する3価のコバルトのジプロピオニルメタンを11.24g、3価の鉄のアセチルアセトナートを0.64g、クロムのアセチルアセトナートを3.13gとし、実施例1と同様の方法で熱線反射ガラスを作製し、加熱処理を行った。また、評価についても同様に行った。その結果を表1および表2に併せて示す。
【0027】(実施例3)実施例1において、トルエン100ミリリットルに対する3価のコバルトのジプロピオニルメタンを11.18g、3価の鉄のアセチルアセトナートを1.28g、クロムのアセチルアセトナートを2.53gとし、実施例1と同様の方法で熱線反射ガラスを作製し、加熱処理を行った。また、評価についても同様に行った。その結果を表1および表2に併せて示す。
【0028】(実施例4)実施例1において、トルエン100ミリリットルに対する3価のコバルトのジプロピオニルメタンを12.50g、3価の鉄のアセチルアセトナートを1.95g、クロムのアセチルアセトナートを0.55gとし、実施例1と同様の方法で熱線反射ガラスを作製し、加熱処理を行った。また、評価についても同様に行った。その結果を表1および表2に併せて示す。
【0029】(実施例5)実施例1において、トルエン100ミリリットルに対する3価のコバルトのジプロピオニルメタンを11.18g、3価の鉄のアセチルアセトナートを3.33g、クロムのアセチルアセトナートを0.49gとし、実施例1と同様の方法で熱線反射ガラスを作製し、加熱処理を行った。また、評価についても同様に行った。その結果を表1および表2に併せて示す。
【0030】(実施例6)実施例1において、トルエン100ミリリットルに対する3価のコバルトのジプロピオニルメタンを13.79g、3価の鉄のアセチルアセトナートを0.61g、クロムのアセチルアセトナートを0.60gとし、実施例1と同様の方法で熱線反射ガラスを作製し、加熱処理を行った。また、評価についても同様に行った。その結果を表1および表2に併せて示す。
【0031】(比較例1)実施例1において、トルエン100ミリリットルに対する3価のコバルトのジプロピオニルメタンを9.86g、3価の鉄のアセチルアセトナートを0.65g、クロムのアセチルアセトナートを4.49gとし、実施例1と同様の方法で熱線反射ガラスを作製し、加熱処理を行った。また、評価についても同様に行った。その結果を表1および表2に併せて示す。
【0032】(比較例2)実施例1において、トルエン100ミリリットルに対する3価のコバルトのジプロピオニルメタンを8.42g、3価の鉄のアセチルアセトナートを0.67g、クロムのアセチルアセトナートを5.91gとし、実施例1と同様の方法で熱線反射ガラスを作製し、加熱処理を行った。また、評価についても同様に行った。その結果を表1および表2に併せて示す。
【0033】
【表1】


【0034】
【表2】


【0035】表1および表2より、実施例1〜においては、熱処理をしても可視光透過率の変化が少なく、被膜の耐アルカリ性にも優れた熱線反射熱処理ガラスが得られたことがわかる。具体的には、実施例1〜の熱線反射熱処理ガラスは、熱処理後も可視光透過率の変化は3%未満であり、熱処理後の可視光透過率はいずれも35%以下にあるので良好なプライバシー保護特性を保持し、さらに日射透過率においても35%以下であって良好な熱線反射特性を保持している。
【0036】一方、表1において、単位面積当たりの総金属量に占めるコバルトの重量百分率が少なくとも65%よりも少ない場合や、単位面積当たりの総金属量に占めるクロムの重量百分率が25%より多い場合には、熱線反射被膜形成後に加熱処理を施すと可視光透過率の変化が大きくなり、耐アルカリ性においても劣る結果となった(比較例1、2)。
【0037】また、コバルトの重量百分率が90%より大きい場合には、可視光透過率の変化はわずかであったが加熱処理による被膜の白濁が認められた(実施例6)。このくもりは、被膜中に多量に存在するコバルトに起因すると推定される。従って、外観上が重要視される場合には、コバルトの重量百分率を90%以下とすることが好ましい。
【0038】さらに、耐酸性についても良好な被膜が要求される場合には、鉄の重量百分率が10%以下であること、前記クロムの重量百分率が%以下であることおよび前記クロムの重量百分率が18%以上であることからなる一群の条件のうち少なくとも一つを満たすようにすることが必要である
【0039】
【発明の効果】本発明によれば、加熱を伴う強化処理等を施しても、可視光透過率の変化等において問題のない熱線反射ガラスを得ることができる。
【0040】本発明に係る熱線反射ガラスの上記特性を利用することにより、熱処理を伴うガラスの二次加工品一般、具体的には、強化ガラス、曲げガラス、合わせガラスまたはこれらを組み合わせた加工品の分野において、従来になく優れた特性を有する熱線反射熱処理ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る熱線反射ガラスの断面図。
【符号の説明】
1:ガラス板、
2:熱線反射被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガラス板と、その主表面上に形成したコバルト、鉄及びクロムを含む酸化物を主成分とする被膜とからなる熱線反射ガラスにおいて、前記被膜は、膜厚が10〜70nmであり、単位面積当たりの総金属量に占めるコバルト、鉄及びクロムの重量百分率がそれぞれ■コバルト:65〜96%、鉄:2〜10%、クロム:2〜25% 又は、■コバルト:65〜96%、鉄:2〜33%、クロム:2〜5% 又は、■コバルト:65〜96%、鉄:2〜33%、クロム:18〜25%あることを特徴とする熱線反射ガラス。
【請求項2】 前記コバルトの重量百分率が90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱線反射ガラス。

【図1】
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【特許番号】特許第3058056号(P3058056)
【登録日】平成12年4月21日(2000.4.21)
【発行日】平成12年7月4日(2000.7.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−181542
【出願日】平成7年7月18日(1995.7.18)
【公開番号】特開平9−30837
【公開日】平成9年2月4日(1997.2.4)
【審査請求日】平成10年6月10日(1998.6.10)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【参考文献】
【文献】特表 昭59−501311(JP,A)
【文献】英国特許2288818(GB,B)
【文献】CHARLES B.GREENBERG,”Enabling Thin Films for Solar Control Transparencies;A Review”,Journal of the Electrochemical Society,Vol.140,No.11,November 1993,p.3332−3337