説明

熱線高反射塗装物およびその塗装方法

【課題】水性の塗料組成物により形成される塗膜であって、高い反射率で熱線を反射でき、かつ耐汚染性に優れ熱線反射性能を長期間維持できる塗膜を有する熱線高反射塗装物、およびその塗装方法の提供を目的とする。
【解決手段】被塗装物上に、(X)と、該塗膜層(X)上に形成された塗膜層(Y)とを有する塗装物であって、前記塗膜層(X)は、Biの酸化物とYの酸化物のいずれか一方の酸化物とMnの酸化物とを含有する複合金属酸化物顔料と、樹脂(x)とを含有する塗料組成物から形成される層であり、前記塗膜層(Y)は、特定の非フッ素系重合体と、樹脂(y)とを含有する塗料組成物から形成される層であることを特徴とする熱線高反射塗装物。また、該熱線高反射塗装物の塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱線高反射塗装物およびその塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場等の金属製折板屋根等では濃色系塗料が用いられることが多く、特に夏場において屋根の温度が70℃以上まで上昇し、ヒートアイランド現象を引き起こす要因の一つとなっている。また、建物等の室温の上昇に伴い、大きな冷房負荷がかかる要因にもなっている。そこで、太陽光に由来する熱線(赤外線)を反射して温度上昇を抑制する塗膜を形成できる塗料組成物の開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、Biおよび/またはYの酸化物とMnの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料、シリケート化合物、および樹脂を含有する熱線高反射塗料組成物が示されている。
特許文献1の熱線高反射塗料組成物により形成される塗膜は、複合金属酸化物顔料により熱線を高い効率で反射し、温度上昇を抑制できる。また、該塗膜はシリケート化合物を含有していることで耐汚染性に優れており、塗膜表面が汚染されて反射率が低下することが抑制されるため、熱線の反射率を長期間維持できる。
【0004】
特許文献1の熱線高反射塗料組成物は、耐汚染性および耐候性に優れる点から、通常、溶剤系塗料組成物として用いられる。しかし、溶剤系塗料組成物はトルエン、キシレン等の揮発性有機化合物(VOC)を放散するため、塗装時の作業環境および地球環境への悪影響がある。また、改修の際に水性塗料と併用して重ね塗りすることが困難である。
そこで、環境面に配慮し、特許文献1の熱線高反射塗料組成物を水性塗料組成物とすることが考えられるが、この場合、水系塗料としたときのシリケート化合物の安定性が低く、該塗料組成物の貯蔵安定性は低下する。そのため、高い熱線反射性能とその持続性を有する塗装物を水性塗料組成物により得ることは困難である。
【0005】
なお、特許文献2には、耐汚染性に優れた塗膜を形成できる水性塗料組成物として、2個以上のヒドロキシ基を有する繰り返し単位を1個以上含有する重合体からなる低汚染化剤を含有する水性含フッ素樹脂塗料組成物が示されている。
特許文献2には、該塗料組成物に使用される顔料については特段の記載はないが、白色顔料を用いた場合には、白色であること自体である程度の熱線反射性を有するため、得られた塗膜もある程度の熱線反射性を有すると考えられる。しかし、濃色系顔料を用いた場合には該塗料組成物から形成された塗膜は熱線反射性能を有することはなく、むしろ濃色系であるがゆえに熱線を吸収してしまうために、該塗料組成物から形成される塗膜を有する塗装物の温度上昇は大きな問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−106092号公報
【特許文献2】特開2003−55617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、濃色系塗料においても水性の塗料組成物により形成される塗膜であって、高い反射率で熱線を反射でき、かつ耐汚染性に優れ、汚染による反射率の低下を抑制して熱線反射性能を長期間維持できる塗膜を有する熱線高反射塗装物、およびその塗装方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]被塗装物上に、塗膜層(X)と、該塗膜層(X)上に形成された塗膜層(Y)とを有する塗装物であって、前記塗膜層(X)は、ビスマス(以下、「Bi」という。)の酸化物とイットリウム(以下、「Y」という。)の酸化物の少なくとも一方の酸化物とマンガン(以下、「Mn」という。)の酸化物とを含有する複合金属酸化物顔料と、樹脂(x)とを含有する塗料組成物から形成される層であり、前記塗膜層(Y)は、2個以上のヒドロキシ基を有する重合単位を全重合単位に対して10質量%以上含有する非フッ素系重合体と、樹脂(y)とを含有する塗料組成物から形成される層であることを特徴とする熱線高反射塗装物。
[2]前記非フッ素系重合体が、さらに前記2個以上のヒドロキシ基を除く架橋性官能基を有する重合単位を有する[1]に記載の熱線高反射塗装物。
[3]前記塗膜層(Y)が、架橋剤により架橋されている[1]または[2]に記載の熱線高反射塗装物。
[4]前記塗膜層(Y)が、さらに紫外線吸収剤を含有する[1]〜[3]のいずれかに記載の熱線高反射塗装物。
[5]前記樹脂(x)と前記樹脂(y)の少なくとも一方の樹脂の一部または全部がフッ素樹脂である[1]〜[4]のいずれかに記載の熱線高反射塗装物。
[6]前記塗膜層(X)中の前記複合金属酸化物顔料の含有量が前記樹脂(x)の固形分に対して0.1質量%以上である[1]〜[5]のいずれかに記載の熱線高反射塗装物。
[7]被塗装物上に、Biの酸化物とYの酸化物の少なくとも一方の酸化物とMnの酸化物とを含有する複合金属酸化物顔料と、樹脂(x)と、水とを含有する塗料組成物(X1)から形成される塗膜層(X)を形成し、該塗膜層(X)上に、2個以上のヒドロキシ基を有する重合単位を全重合単位に対して10質量%以上含有する非フッ素系重合体と、樹脂(y)と、水とを含有する塗料組成物(Y1)から形成される塗膜層(Y)を形成することを特徴とする熱線高反射塗装物の塗装方法。
[8]前記非フッ素系重合体がさらに、前記2個以上のヒドロキシ基を除く架橋性官能基を有する重合単位を有する[7]に記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。
[9]前記塗料組成物(Y1)が、さらに架橋剤を含有する[7]または[8]に記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。
[10]前記塗料組成物(Y1)が、さらに紫外線吸収剤を含有する[7]〜[9]のいずれかに記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。
[11]前記樹脂(x)と前記樹脂(y)の少なくとも一方の樹脂の一部または全部がフッ素樹脂である[7]〜[10]のいずれかに記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。
[12]前記塗料組成物(X1)中の前記複合金属酸化物顔料の含有量が前記樹脂(x)の固形分に対して0.1質量%以上である[7]〜[11]のいずれかに記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱線高反射塗装物は、水性の塗料組成物により形成される塗膜であって、高い反射率で熱線を反射でき、かつ耐汚染性に優れ熱線反射性能を長期間維持できる塗膜を有している。
また、本発明の塗装方法は水性の熱線高反射塗料組成物を使用するため、揮発性有機化合物(VOC)の放散がほとんどなく、塗装時の作業環境および地球環境に悪影響を及ぼさない。
さらに、本発明の塗装方法は、高い反射率で熱線を反射でき、かつ耐汚染性に優れるため汚染による反射率の低下を抑制して、熱線反射性能を長期間維持できる塗膜を有する熱線高反射塗装物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<熱線高反射塗装物>
本発明の熱線高反射塗装物(以下、「本塗装物」という。)は、被塗装物上に、塗膜層(X)と、該塗膜層(X)上に形成された塗膜層(Y)とを有する。
塗膜層(X)は、Biの酸化物とYの酸化物の少なくとも一方の酸化物とMnの酸化物とを含む複合金属酸化物顔料(以下、「複合顔料M」という。)と、樹脂(x)とを含有する塗料組成物から形成される層である。
塗膜層(Y)は、2個以上のヒドロキシ基を有する重合単位を全重合単位に対して10質量%以上含有する非フッ素系重合体と、樹脂(y)とを含有する塗料組成物から形成される層である。
【0011】
[被塗装物]
被塗装物としては、特に限定はなく、たとえば、コンクリート、自然石、ガラス等の無機物;鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮、チタン等の金属;木材;プラスチック、ゴム等の合成有機材料等からなる被塗装物が挙げられる。被塗装物表面には、他の塗膜や接着剤層等が形成されていてもよい。また、被塗装物の材質は、有機無機複合材である繊維強化プラスチック、樹脂強化コンクリート、繊維強化コンクリート等であってもよい。また、太陽電池モジュール用の表面材料、バックシートにも用いることができる。
【0012】
被塗装物は、動産であっても不動産であってもよく、たとえば、自動車、電車、航空機等の輸送用機器、橋梁部材、鉄塔等の土木部材、防水材シート、タンク、パイプ等の産業機材、ビル、建築外装、ドア、窓門部材、モニュメント、ポール等の建築部材、道路の中央分離帯、ガードレール等の道路部材、通信機材、電気および電子部品、また、ビル、化学プラント、工場、倉庫、煙突、橋梁等の建築物が挙げられる。
【0013】
[塗膜層(X)]
塗膜層(X)は、Biの酸化物とYの酸化物の少なくとも一方の酸化物とMnの酸化物とを含有する複合金属酸化物顔料と、樹脂(x)とを含有する塗料組成物から形成される層であり、被塗装物上に形成される。塗膜層(X)は、被塗装物の表面の片面の一部または全部に形成される層であり、被塗装物の太陽光が照射する表面に形成されることが好ましい。また、塗膜層(X)は、被塗装物の表面に、直接に、またはプライマー処理もしくは下塗り剤の塗布等の前処理により形成される層を介して形成されることが好ましく、後者により形成されることがより好ましい。すなわち、塗膜層(X)は、被塗装物表面に前処理を行い、該前処理を行った表面上に形成されることが好ましい。
【0014】
(顔料)
複合顔料Mは、塗膜層(X)および塗膜層(Y)を有する塗膜に熱線反射性能を付与する役割を果たす。
複合顔料Mは、Biの酸化物とYの酸化物の少なくとも一方の酸化物とMnの酸化物とを含有する。すなわち、複合顔料Mは、Biの酸化物とYの酸化物とMnの酸化物を含有する態様、Biの酸化物とMnの酸化物を含有する態様、またはYの酸化物とMnの酸化物を含有する態様のいずれかである。
【0015】
複合顔料M中のMnの酸化物の含有量は、5〜65質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。Mnの酸化物の含有量が5質量%以上であれば、充分な熱線反射効果が得られやすい。
複合顔料Mは、BiとYの少なくとも一方と、Mnとの混合物を、700℃以上の焼成温度で焼成して得られる酸化物を使用することが好ましい。なお、複合顔料Mの原料として使用されるBi、Y、Mnは単体に限定されず、酸化物等の化合物であってもよい。
【0016】
複合顔料Mの平均粒子径は、0.1μm〜30μmであることが好ましい。ただし、平均粒子径とは、任意に選択した粒子の粒子径を数平均した値である。複合顔料Mの平均粒子径が30μm以下であれば、形成される塗膜の光沢が低下することを抑制しやすい。
平均粒子径0.1μm〜30μmの条件を満たす複合顔料Mの市販品としては、たとえば、ブラック6303、ブラック6301(以上、アサヒ化成工業社製)が挙げられる。
【0017】
複合顔料Mは黒系色の顔料であることが好ましく、樹脂中に分散させて配合することが可能である。
顔料として複合顔料Mのみを使用する場合、塗膜層(X)中における複合顔料Mの含有量は、樹脂(x)の固形分に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.1〜200質量%であることがより好ましく、10〜100質量%であることがさらに好ましい。複合顔料Mの前記含有量が0.1質量%以上であれば、充分な熱線反射効果が得られやすい。また、複合顔料Mの前記含有量が200質量%以下であれば、形成される塗膜の光沢が低下することを抑制しやすい。
【0018】
塗膜層(X)には、用途や目的に応じて色調を調整する目的で、複合顔料Mに加えて他の着色顔料を含有させていてもよい。
他の着色顔料としては、たとえば、酸化チタン、べんがら、黄土、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ホワイトカーボン、微粉ケイ酸等の無機系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ジオキサジン等の有機系顔料が挙げられる。
ただし、熱線反射性能をより生かすという観点からは、本塗装物表面が濃色系の色調になるように、顔料組成を調整することが好ましい。具体的には、本塗装物表面のJIS Z 8729に規定された明度Lが5〜80となるように調整することが好ましく、10〜60となるように調整することがより好ましい。
【0019】
複合顔料Mに加えて他の着色顔料を含有させる場合、塗膜層(X)中の顔料全体の含有量は、樹脂(x)の固形分に対して、0.1〜200質量%であることが好ましく、10〜100質量%であることがより好ましい。顔料全体の前記含有量が0.1質量%以上であれば、複合顔料Mの含有量が少なくなりすぎて熱線反射効果が低下することを抑制しやすい。また、顔料全体の前記含有量が200質量%以下であれば、形成される塗膜の光沢が低下することを抑制しやすい。
【0020】
(樹脂(x))
塗膜層(X)は、複合顔料Mとともに樹脂(x)を含有する。
樹脂(x)としては、その一部または全部がフッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂を用いることにより、より良好な耐候性を有する塗膜が得られる。
フッ素樹脂としては、フルオロオレフィン系共重合体が好ましい。フルオロオレフィン系共重合体は、フルオロオレフィンと、フルオロオレフィンと共重合可能な他の共重合性単量体との共重合体である。
【0021】
フルオロオレフィン系共重合体を構成するフルオロオレフィンとしては、たとえば、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル等の炭素数2〜3のフルオロオレフィンが挙げられる。
フルオロオレフィン系共重合体中のフルオロオレフィンに基づく重合単位の割合は、塗膜に充分な耐候性を与えやすい点から、20〜70モル%であることが好ましい。
【0022】
フルオロオレフィン系共重合体を構成する他の共重合性単量体としては、ビニル系モノマー、すなわち、炭素−炭素二重結合を有する化合物が好ましい。ビニル系モノマーとしては、たとえば、ビニルエーテル、アリルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、オレフィンが挙げられる。
【0023】
ビニルエーテルとしては、たとえば、シクロヘキシルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル、ノニルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテルが挙げられる。
アリルエーテルとしては、たとえば、エチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテルが挙げられる。
【0024】
カルボン酸ビニルエステルとしては、たとえば、酢酸、酪酸、ピバリン酸、安息香酸、プロピオン酸等のカルボン酸のビニルエステルが挙げられる。また、分枝状アルキル基を有するカルボン酸のビニルエステルとして、市販されているベオバ−9、ベオバ−10(以上、シェル化学社製)等を使用してもよい。
カルボン酸アリルエステルとしては、たとえば、前記カルボン酸のアリルエステルが挙げられる。
オレフィンとしては、たとえば、エチレン、プロピレン、イソブチレンが挙げられる。
他の共重合性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
また、フルオロオレフィン系共重合体は、後述の架橋剤Bにより架橋結合を形成し得る架橋性官能基を有していることが好ましい。該架橋性官能基としては、架橋反応に一般的に用いられる架橋性官能基が挙げられ、具体的には、アルデヒド性カルボニル基、ケトン性カルボニル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸残基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン残基、アミド基、アルコキシ基、加水分解性シリル基、ヒドロキシメチル基、双性イオン基、シアノ基が挙げられる。
樹脂(x)への該架橋性官能基の導入方法としては、予め架橋性官能基を有する単量体を共重合させる方法が挙げられる。樹脂(x)に該架橋性官能基を導入する単量体は、後述する単量体(β1)と同じ単量体が挙げられる。
【0026】
ヒドロキシメチル基を有する単量体としては、たとえば、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N,N−ビス(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N,N−ビス(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
双性イオンを有する単量体としては、たとえば、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。
シアノ基を有する単量体としては、たとえば、(メタ)アクリロニトリル、クロトンニトリル、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、2−シアノプロピル(メタ)アクリレート、3−シアノプロピル(メタ)アクリレート、ケイ皮酸ニトリルが挙げられる。
また、架橋性官能基を導入する単量体としては、単量体(β1)で挙げた単量体の他に、架橋性官能基を有するビニルエーテル類、アリルエーテル類、ビニルエステル類、アリルエステル類も好ましい。
ヒドロキシ基を有する単量体としては、例えば、後述の単量体(β1−3)で挙げる単量体、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル類;ヒドロキシエチルビニルエステル、ヒドロキシブチルビニルエステル、2−ヒドロキシエチルルクロトン酸ビニル、4−ヒドロキシブチルクロトン酸ビニル等のヒドロキシアルキルビニルエステル類;2−ヒドロキシエチルアリルエステル、4−ヒドロキシブチルアリルエステル等のヒドロキシアルキルアリルエステル類が挙げられる。
また、その他の架橋性官能基を有する単量体としては、グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテル、アミノプロピルエーテルなどのビニルエーテル、アリルエーテル類が挙げられる。
【0027】
また、重合後の後反応によっても官能基を導入できる。後反応による導入方法としては、たとえば、カルボン酸ビニルエステルを共重合した重合体をケン化することによりヒドロキシ基を導入する方法、ヒドロキシ基を有する重合体に多価カルボン酸またはその無水物を反応させてカルボキシ基を導入する方法、ヒドロキシ基を有する重合体にイソシアナートアルキルアルコキシシランを反応させて加水分解性シリル基を導入する方法、ヒドロキシ基を有する重合体に多価イソシアナート化合物を反応させてイソシアナート基を導入する方法が挙げられる。
【0028】
フルオロオレフィン系共重合体の好適な具体例としては、たとえば、クロロトリフルオロエチレン、シクロヘキシルビニルエーテル、アルキルビニルエーテルおよびヒドロキシアルキルビニルエーテルの共重合体、クロロトリフルオロエチレン、アルキルビニルエーテルおよびアリルアルコールの共重合体、クロロトリフルオロエチレン、脂肪族カルボン酸ビニルエステルおよびヒドロキシアルキルビニルエーテルの共重合体またはこれらの共重合体におけるクロロトリフルオロエチレンの代わりにテトラフルオロエチレンを用いた共重合体が挙げられる。またこれらは、ルミフロン(旭硝子社製)、セフラルコート(セントラル硝子社製)、ゼッフル(ダイキン工業社製)等の商品名で市販されている。
【0029】
フルオロオレフィン系共重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。フルオロオレフィン系共重合体の数平均分子量は2,000〜100,000が好ましく、6,000〜30,000がより好ましい。
【0030】
樹脂(x)としては、フルオロオレフィン系共重合体の他に、他のフッ素樹脂を単独で、またはフルオロオレフィン系共重合体と共に用いてもよい。また、フッ素樹脂の他に、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エポキシポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂等を単独で、またはフッ素樹脂と共に用いてもよい。
【0031】
(その他の成分)
塗膜層(X)は、必要に応じて、微粒子状の充填剤、添加剤等を含んでいてもよい。
添加剤としては、水性塗料に通常用いられる添加剤を用いることができ、たとえば、着色剤、造膜助剤、増粘剤、可塑剤、消泡剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、皮バリ防止剤、顔料分散剤、シランカップリング剤等の慣用の添加剤が挙げられる。
微粒子状の充填剤としては、断熱性を付与できる中空球状体が一般に使用されている。
中空球状体は、その材質により、無機質バルーン、樹脂バルーン等が知られている。具体的には、ガラスバルーン、シラスバルーン、アルミナバルーン、ジルコニアバルーン、アルミノシリケートバルーン等が挙げられる。
【0032】
塗膜層(X)の厚さは、5〜100μmであることが好ましく、20〜50μmがより好ましい。
塗膜層(X)の厚さが5μm以上であれば、隠蔽性や耐候性がより良好になる。また、塗膜層(X)の厚さが100μm以下であれば、タレ等の施工上の弊害が発生しにくい。
【0033】
[塗膜層(Y)]
塗膜層(Y)は、塗膜層(X)上に形成される層である。塗膜層(Y)は、2個以上のヒドロキシ基を有する重合単位(以下、単位(a)という。)を全重合単位に対して10質量%以上含有する非フッ素系重合体(以下、「非フッ素系重合体A」という。)と樹脂(y)を含有した塗料組成物から形成される。非フッ素系樹脂とは、フッ素原子を有さない重合体である。
(非フッ素系重合体A)
非フッ素系重合体Aは、塗膜層(X)および塗膜層(Y)を有する塗膜に耐汚染性を付与する役割を果たす。
非フッ素系重合体Aは、単位(a)を有し、必要に応じて単位(a)以外の重合単位(以下、「単位(b)」という。)を有していてもよい。
【0034】
単位(a)は、たとえば、2個以上のヒドロキシ基を有する重合性単量体(以下、「単量体(α)」という。)を重合させることにより重合体に導入できる。また、反応部位を有する重合体に2個以上のヒドロキシ基を導入する等の各種変性方法によっても、単位(a)を重合体に導入できる。以下、単量体(α)を典型例として挙げて説明する。
【0035】
また、本明細書の具体的化合物名において(メタ)アクリレートと記載されたものは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。同様に、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドを意味する。
【0036】
単量体(α)としては、たとえば、CH=CHCOOR、CH=C(CH)COOR、CH=CHOCOR、CH=C(CH)OCOR、CH=CHOR、CH=C(CH)OR、CH=CHCHOR、CH=CHCHOCOR、CH=CHCONHR、CH=C(CH)CONHR、CH=CHCON(R、CH=C(CH)CON(R、CH=CHNHCOR、CH=C(CH)NHCORが挙げられる。ただし、Rは2個以上のヒドロキシ基を有する有機基である。
は、耐汚染性に優れる点から、炭素数1〜100の有機基であることが好ましく、炭素数1〜20の有機基であることがより好ましい。Rが2個以上含まれる場合は同一であっても異なっていてもよい。さらに、Rには、ヒドロキシ基以外の官能基や、窒素原子、塩素原子、フッ素原子等の他の原子が含まれていてもよい。
【0037】
単量体(α)の具体例としては、下記の単量体が挙げられる。
単量体(α−1):3官能以上のポリオール化合物または糖類と(メタ)アクリル酸等とのエステル。
単量体(α−2):アミノ基を有する2官能以上のポリオール化合物またはアミノ基を有する糖類と(メタ)アクリル酸等とのアミド。
【0038】
3官能以上のポリオール化合物としては、たとえば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ペンタエリスリトール、1,2,6−ヘキサントリオール、2−ヒドロキシメチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールが挙げられる。
糖類としては、たとえば、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、フルクトース、D−リボース等の単糖類、該単糖類から誘導されるグルコシド類、ガラクトシド類もしくはフルクトシド類、さらにはそれらの二量体、三量体が挙げられる。
アミノ基を有する2官能以上のポリオール化合物としては、たとえば、3−アミノ−1,2−プロパンジオールが挙げられる。
アミノ基を有する糖類としては、たとえば、D−グルコサミンが挙げられる。
単位(a)は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0039】
非フッ素系重合体Aにおける単位(a)の含有量は、全重合単位に対して、10〜100質量%であり、30〜100質量%であることが好ましい。単位(a)の含有量が10質量%以上であれば、優れた耐汚染性を有する塗膜が形成される。
【0040】
単位(b)は、単位(a)以外の重合単位、すなわち1個のヒドロキシ基を有するか、ヒドロキシ基を有していない重合単位である。
単位(b)の少なくとも1種は、2個以上のヒドロキシ基を除く、架橋性官能基を有する重合単位(以下、「単位(b1)」という。)であることが好ましい。また、単位(b)における単位(b1)以外の単位としては、単位(a)以外でかつ単位(b1)以外の重合単位、すなわちヒドロキシ基や架橋性官能基を有さない重合単位(以下、「単位(b2)」という。)が挙げられる。単位(b)としては、単位(b1)または単位(b2)のいずれか1つであってもよく、単位(b1)と単位(b2)の併用であってもよい。
【0041】
単位(b1)が有する架橋性官能基としては、架橋反応に一般的に用いられる架橋性官能基が挙げられ、具体的には、アルデヒド性カルボニル基、ケトン性カルボニル基、1個のヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸残基、エポキシ基、アミノ基、オキサゾリン残基、アミド基、アルコキシ基、加水分解性シリル基が挙げられる。
単位(b1)を与える重合性単量体(以下、「単量体(β1)」という。)としては、架橋反応に一般的に用いられる架橋性官能基を有する単量体が挙げられる。単量体(β1)の具体例としては、下記の単量体が挙げられる。
単量体(β1−1):アルデヒド性カルボニル基を有する単量体。
単量体(β1−2):ケトン性カルボニル基を有する単量体。
単量体(β1−3):1個のヒドロキシ基を有する単量体。
単量体(β1−4):カルボキシ基を有する単量体もしくはその塩。
単量体(β1−5):スルホ基を有する単量体もしくはその塩。
単量体(β1−6):リン酸残基を有する単量体もしくはその塩。
単量体(β1−7):エポキシ基を有する単量体。
単量体(β1−8):アミノ基を有する単量体もしくはその塩。
単量体(β1−9):オキサゾリン残基を有する単量体。
単量体(β1−10):アミド基を有する単量体。
単量体(β1−11):アルコキシ基を有する単量体。
単量体(β1−12):加水分解性シリル基を有する単量体。
ただし、単量体(β1−1)および単量体(β1−2)におけるカルボニルとは、それぞれアルデヒドおよびケトンを表し、エステル、アミド、カルボキシは除く。
【0042】
単量体(β1−1)としては、たとえば、(メタ)アクロレイン、クロトンアルデヒド、β−ホルミルスチレン、β−ホルミル−α−メチルスチレン、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジアルキルプロパナール類が挙げられる。
β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジアルキルプロパナール類としては、たとえば、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジメチルプロパナール、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジエチルプロパナール、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α−ジプロピルプロパナール、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α−メチル−α−ブチルプロパナール、β−(メタ)アクリロイルオキシ−α,α,β−トリメチルプロパナールが挙げられる。
【0043】
単量体(β1−2)としては、たとえば、ジアセトンアクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)(メタ)アクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルプロピルケトン、ビニルイソプロピルケトン、ビニルブチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ビニルtert−ブチルケトン、ビニルフェニルケトン、ビニルベンジルケトン、ジビニルケトン、(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)(メタ)アクリルレートが挙げられる。
さらに、単量体(β1−2)は活性メチレン部位を有する単量体であってもよい。該単量体としては、たとえば、アリルアセトアセテート、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、3−(アセトアセトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、2−(アセトアセトキシ)ブチル(メタ)アクリレート、3−(アセトアセトキシ)ブチル(メタ)アクリレート、4−(アセトアセトキシ)ブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0044】
単量体(β1−3)としては、たとえば、ビニルフェノール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、ヒドロキシアルキルクロトン酸ビニル等のヒドロキシ基含有カルボン酸のビニルエステルまたはアリルエステルが挙げられる。
また、単量体(β1−3)はポリオキシアルキレン鎖(以下、「POA鎖」という。)を有し、かつ、末端がヒドロキシ基である単量体であってもよく、たとえば、CH=CHOCH10CHO(CO)H(kは1〜100の整数である。以下同じ。)、CH=CHOCO(CO)H、CH=CHCOOCO(CO)H、CH=C(CH)COOCO(CO)H、CH=CHCOOCO(CO)(CO)H(mは0または1〜100の整数であり、nは1〜100の整数であり、m+nは1〜100である。以下同じ。)、CH=C(CH)COOCO(CO)(CO)Hが挙げられる。
POA鎖を有し、かつ、末端がヒドロキシ基である単量体(β1−3)の市販品としては、たとえば、PE−90、PE−200、PE−350、AE−400、PP−500、PP−800、PP−1000、AP−400、50PEP−300、70PEP−350B(以上、日本油脂社製)が挙げられる。
【0045】
単量体(β1−4)としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、フマル酸、ケイ皮酸、もしくはそれらの塩が挙げられる。
単量体(β1−5)としては、たとえば、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−ヒドロキシアリルオキシ−1−プロパンスルホン酸、スルホエトキシアクリレート、スルホエトキシメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、もしくはそれらの塩が挙げられる。
単量体(β1−6)としては、たとえば、リン酸2−アクリロイルオキシエチルエステル、リン酸2−メタクリロイルオキシエチルエステル、もしくはそれらの塩が挙げられる。
【0046】
単量体(β1−7)としては、たとえば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルシンナメート、グリシジルアリルエーテル、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシ−1−ブテンが挙げられる。
単量体(β1−8)としては、たとえば、2−N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アリルアミン、もしくはそれらの塩が挙げられる。
単量体(β1−9)としては、たとえば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリンが挙げられる。
単量体(β1−10)としては、たとえば、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドが挙げられる。
【0047】
単量体(β1−11)としては、たとえば、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(メトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(エトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(プロポキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシ−1−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
また、単量体(β1−11)は、POA鎖を有し、かつ末端がアルコキシ基である単量体であってもよい。たとえば、CH=CHOCH10CHO(CO)CH(kは1〜100の整数である。以下同じ。)、CH=CHOCO(CO)CH、CH=CHCOOCO(CO)CH、CH=C(CH)COOCO(CO)CH、CH=CHCOOCO(CO)(CO)CH(mは0または1〜100の整数であり、nは1〜100の整数であり、m+nは1〜100である。以下同じ。)、CH=C(CH)COOCO(CO)(CO)CHが挙げられる。
POA鎖を有し、かつ末端がアルコキシ基である単量体(β1−11)の市販品としては、たとえば、M−20G、M−40G、M−90G、M−230G、AM−90G(以上、新中村化学工業社製)、PME−100、PME−200、PME−400(以上、日本油脂社製)が挙げられる。
【0048】
単量体(β1−12)としては、たとえば、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−ビニルフェニルトリメトキシシラン、p−ビニルフェニルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、3−メチルジメトキシシリルプロピルビニルエーテルが挙げられる。
【0049】
単位(b1)としては、単量体(β1−1)、単量体(β1−2)および単量体(β1−9)からなる群より選ばれる少なくとも一つの単量体から得られる重合単位であることが好ましい。
非フッ素系重合体Aが有する単位(b1)は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0050】
非フッ素系重合体Aにおける単位(b1)の含有量は、0.01質量%以上かつ90質量%未満であることが好ましく、1〜50質量%であることが特に好ましい。前記含有量が0.01質量%以上であれば、形成される塗膜の耐汚染性およびその持続性がより良好である。前記含有量が90質量%未満であれば、塗料組成物の貯蔵安定性がより良好である。
【0051】
単位(b2)を与える重合性単量体(β2)としては、下記の単量体が挙げられる。
単量体(β2−1):炭化水素系オレフィン類。
単量体(β2−2):ビニルエーテル類。
単量体(β2−3):イソプロペニルエーテル類。
単量体(β2−4):アリルエーテル類。
単量体(β2−5):ビニルエステル類。
単量体(β2−6):アリルエステル類。
単量体(β2−7):アルキル(メタ)アクリル酸エステル類。
単量体(β2−8):芳香族ビニル化合物。
単量体(β2−9):クロロオレフィン類。
単量体(β2−10):共役ジエン類。
単量体(β2−11):多官能重合性二重結合を有する化合物。
【0052】
単量体(β2−1)としては、たとえば、エチレン、プロピレン、イソブチレンが挙げられる。
単量体(β2−2)としては、たとえば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、n−ヘキシルビニルエーテル、イソヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、4−メチルー1−ペンチルビニルエーテル等の鎖状アルキルビニルエーテル類、シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等の脂環状アルキルビニルエーテル類、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル等の芳香族基含有ビニルエーテル類が挙げられる。
【0053】
単量体(β2−3)としては、たとえば、メチルイソプロペニルエーテル、エチルイソプロペニルエーテル、n−プロピルイソプロペニルエーテル、n−ブチルイソプロペニルエーテルが挙げられる。
単量体(β2−4)としては、たとえば、エチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテルが挙げられる。
単量体(β2−5)としては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクタン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、オクタデカン酸ビニルが挙げられる。
【0054】
単量体(β2−6)としては、たとえば、酢酸アリル、プロピオン酸アリルが挙げられる。
単量体(β2−7)としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、3−メチルブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチル−n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0055】
単量体(β2−8)としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−エトキシスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、4−クロロ−3−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンが挙げられる。
単量体(β2−9)としては、たとえば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化イソプロペニル、塩化アリルが挙げられる。
【0056】
単量体(β2−10)としては、たとえば、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンが挙げられる。
単量体(β2−11)としては、たとえば、ジビニルベンゼン、ジビニルエーテル、アリル(メタ)アクリレート、イソフタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、トリアリルトリメリテート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコール(メタ)ジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが挙げられる。
単位(b2)は1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0057】
非フッ素系重合体Aにおける単位(b2)の含有量は、形成される塗膜の耐汚染性およびその持続性の点から、89.99質量%未満であることが好ましく、0〜30質量%であることが特に好ましい。
【0058】
非フッ素系重合体Aの分子量は、数平均分子量で160〜1,000,000であることが好ましく、320〜100,000であることがより好ましい。数平均分子量がこの範囲内であれば、形成される塗膜の耐汚染性がより良好である。
【0059】
非フッ素系重合体Aは、たとえば、単量体(α)を、必要に応じて単量体(β)とともに溶媒に溶解して加熱し、重合開始剤を加えて反応させる方法により合成できる。
前記合成における溶媒としては、水または水溶性の溶媒が好ましい。たとえば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、エチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、グリセロール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−エトキシエチルアセテート、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、メチルアセテート、エチルアセテート、2,2−ジクロロジエチルエーテル、クロロプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、アセトニトリルが挙げられる。
該溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒は、重合安定性、溶媒置換の容易性の点から、メタノールまたはアセトンが好ましい。
【0060】
重合開始剤としては、公知の有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ化合物等を用いることができる。有機過酸化物、無機過酸化物は、還元剤と組み合わせて、レドックス系触媒として使用してもよい。該重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
有機過酸化物としては、たとえば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、イソブチリルパーオキシド、tert−ブチルヒドロパーオキシド、tert−ブチル−α−クミルパーオキシドが挙げられる。
無機過酸化物としては、たとえば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、過炭酸塩が挙げられる。
アゾ化合物としては、たとえば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩が挙げられる。
【0062】
さらに、非フッ素系重合体Aの分子量を調整するために、公知の連鎖移動剤としてメルカプタン類、ハロゲン化アルキル類等を用いることができる。
メルカプタン類としては、たとえば、n−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ブチルメルカプタン、チオグリコール酸エチル、チオグリコール酸2−エチルヘキシルが挙げられる。
ハロゲン化アルキル類としては、たとえば、クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素が挙げられる。
該連鎖移動剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
塗膜層(Y)における非フッ素系重合体Aの含有量は、樹脂(y)の固形分に対して、0.1〜100質量%であることが好ましく、0.5〜50質量%であることがより好ましく、1〜30質量%であることがさらに好ましい。前記含有量が0.1質量%以上であれば、優れた耐汚染性を有する塗膜層(Y)が形成されやすく、熱線反射性能を維持する効果が得られやすい。また、非フッ素系重合体Aの前記含有量が100質量%以下であれば、形成される塗膜の耐候性を向上させやすい。
【0064】
また、塗膜層(Y)における非フッ素系重合体Aは、該非フッ素系重合体Aを架橋せしめ得る架橋剤(架橋剤B)により架橋されていることが好ましい。以下に架橋剤Bについて説明するが、該架橋剤Bは、樹脂(x)および樹脂(y)を架橋せしめる架橋剤として用いることもできる。
特に好ましい塗膜層(Y)は、非フッ素系重合体Aおよび樹脂(y)が、ともに架橋剤Bにより架橋されている層である。
【0065】
架橋剤Bとしては、前記架橋性官能基と反応し得る架橋剤であれば、特に限定されず、公知の種々の架橋剤を用いることができる。架橋剤Bとしては、下記の架橋剤が挙げられる。
架橋剤B1:アミノ樹脂。
架橋剤B2:ポリイソシアナート化合物。
架橋剤B3:2個以上のヒドラジノ基を有する化合物。
架橋剤B4:ポリカルボジイミド化合物。
架橋剤B5:2個以上のエポキシ基を有する化合物。
架橋剤B6:2個以上のオキサゾリン残基を有する化合物。
架橋剤B7:2個以上のアジリジン残基を有する化合物。
架橋剤B8:多価金属類。
架橋剤B9:2個以上のアミノ基を有する化合物。
架橋剤B10:ポリケチミン。
架橋剤B11:2個以上のカルボキシ基を有する化合物。
架橋剤B12:酸無水物。
架橋剤B13:2個以上のメルカプト基を有する化合物。
架橋剤Bは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
架橋剤B1としては、たとえば、メラミン系化合物、グアナミン系化合物、尿素系化合物等のアミノ基の一部もしくは全部をヒドロキシメチル化した化合物、または該ヒドロキシメチル化した化合物のヒドロキシ基の一部もしくは全部をメタノール、エタノール、n−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール等でエーテル化した化合物(たとえば、ヘキサメトキシメチルメラミン)が挙げられる。
架橋剤B2としては、たとえば、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート等のポリイソシアナート化合物、メチルトリイソシアナートシラン等のイソシアナートシラン化合物、またはこれらの縮合物もしくは多量体、またはこれらの水分散タイプ、フェノール等のブロック化剤でイソシアナート基をブロックしたブロック化ポリイソシアナート化合物が挙げられる。特に無黄変タイプのポリイソシアナート化合物が好ましい。
【0067】
架橋剤B3としては、たとえば、ジヒドラジド、多官能ヒドラジド、多官能セミカルバジドが挙げられる。
ジヒドラジドとしては、たとえば、カルボヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ヘプタン二酸ジヒドラジド、オクタン二酸ジヒドラジド、ノナン二酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、ヘキサデカン二酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’−ビスベンゼンジヒドラジド、2,6−ピリジンジヒドラジド、1,4−シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジドが挙げられる。
多官能ヒドラジドとしては、たとえば、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、トリメリット酸トリヒドラジド、ピロメリット酸トリヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド、アルキル(メタ)アクリレートのオリゴマー等のアルキルオキシカルボニル基を含有するオリゴマーとヒドラジンとの反応物が挙げられる。
多官能セミカルバジドとしては、たとえば、ポリイソシアナートとヒドラジンとの反応物が挙げられる。
【0068】
架橋剤B4としては、たとえば、公知の有機ジイソシアナートの脱二酸化炭素縮合反応により得られる化合物が挙げられる。該反応には公知の触媒としてトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート等のリン酸系化合物を用いることができる。また、有機ジイソシアナートとヒドロキシ基含有ポリエチレングリコールの混合物を用いて得られるノニオン親水性ポリカルボジイミド化合物が挙げられる。なかでも、水分散性、安定性の点から、ノニオン親水性ポリカルボジイミド化合物が好ましい。
架橋剤B5としては、たとえば、グリセロールポリグリシジルエーテル化合物が挙げられる。
架橋剤B6としては、たとえば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン等の重合性単量体の共重合体を挙げることができる。
【0069】
架橋剤B7としては、たとえば、2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、2,2,2−トリスヒドロキシメチルエタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]が挙げられる。
架橋剤B8としては、たとえば、塩化亜鉛、塩化亜鉛アンモニウム、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、クロム酸およびその塩、重クロム酸およびその塩、ジイソプロポキシチタニウムビスアセチルアセトン、硫酸アルミニウム、トリアセチルアルミニウム、硝酸ジルコニル、酢酸ジルコニル、炭酸ジルコニルアンモニウム、フッ化ジルコニウムカリウム、フッ化ジルコニウムアンモニウムが挙げられる。
【0070】
架橋剤B9としては、たとえば、脂肪族ポリアミン類、脂環族ポリアミン類、芳香族ポリアミン類、複素環式ポリアミン類が挙げられる。
脂肪族ポリアミン類としては、たとえば、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,4−ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジシアンジアミンが挙げられる。
脂環族ポリアミン類としては、たとえば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、N−3−アミノプロピルシクロヘキシルアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,4−ビス(エチルアミノ)シクロヘキサンが挙げられる。
芳香族ポリアミン類としては、たとえば、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、4−(1−アミノエチル)アニリン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンが挙げられる。
複素環式ポリアミン類としては、たとえば、N−アミノエチルピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンが挙げられる。
【0071】
架橋剤B11としては、たとえば、脂肪族ジカルボン酸類、脂環族ジカルボン酸類、芳香族カルボン酸類、3官能以上のポリカルボン酸類が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸類としては、たとえば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、酒石酸、リンゴ酸、イミノジ酢酸が挙げられる。
脂環族ジカルボン酸類としては、たとえば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸が挙げられる。
芳香族カルボン酸類としては、たとえば、フタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
3官能以上のポリカルボン酸類としては、たとえば、クエン酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸が挙げられる。
【0072】
架橋剤B12としては、たとえば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水シトラコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
架橋剤B13としては、たとえば、脂肪族ジメルカプト化合物、芳香族ジメルカプト化合物等が挙げられる。
脂肪族ジメルカプト化合物としては、たとえば、1,6−ジメルカプトヘキサン、ジメルカプトジエチルエーテル、トリグリコールジメルカプタン、ビス−(2−メルカプトエチル)サルファイド等の脂肪族ジメルカプト化合物が挙げられる。
芳香族ジメルカプト化合物としては、たとえば、3,4−ジメルカプトトルエン、ビス(4−メルカプトフェニル)サルファイド、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、4−tert−ブチル−1,2−ベンゼンジチオール、2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリメルカプト−1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0073】
非フッ素系重合体Aにおいて、前述の架橋性官能基と架橋剤Bとの組み合わせの一例を表1に示す。表1中の「○」が組み合わせを意味する。
【0074】
【表1】

【0075】
非フッ素系重合体Aの架橋反応においては、硬化促進剤を使用できる。
たとえば、架橋剤Bとして架橋剤B2を用いる場合は、硬化促進剤として錫化合物等を使用できる。錫化合物としては、たとえば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジ(マレイン酸モノエステル)、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジ(マレイン酸モノエステル)、ジブチル錫ジアセテートが挙げられる。
架橋剤Bとして架橋剤B1を用いる場合は、N,N−ジメチルエチルスルファメートを使用できる。
オキサゾリン基と架橋剤B11の架橋反応においては、リン酸水素二アンモニウムを使用できる。
【0076】
前記架橋性官能基と架橋剤Bの組み合わせにおいては、一液常温架橋できる組み合わせが好ましい。たとえば、オキサゾリン基と架橋剤B11との組み合わせ、オキサゾリン基と架橋剤B13との組み合わせ、カルボキシ基と架橋剤B6との組み合わせ、カルボニル基と架橋剤B3との組み合わせ、活性メチレン基と架橋剤B9との組み合わせが挙げられる。
【0077】
架橋剤Bの配合量は、非フッ素系重合体Aの100質量部に対して、0.01〜1000質量部であることが好ましく、0.1〜500質量部であることがより好ましく、0.5〜200質量部であることがさらに好ましい。前記配合量が0.01質量部以上であれば、形成される塗膜の耐汚染性およびその持続性がより良好になる。また、前記配合量が1000質量部以下であれば、塗料組成物の貯蔵安定性がより良好になる。
【0078】
(樹脂(y))
塗膜層(Y)は、非フッ素系重合体Aとともに樹脂(y)を含有する。樹脂(y)の例としては、樹脂(x)で挙げた樹脂と同じ樹脂が挙げられ、好ましい態様も同じである。
すなわち、樹脂(y)の一部または全部は、フッ素樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂を用いることにより、より良好な耐候性を有する塗膜層(Y)が形成される。樹脂(y)は、フッ素樹脂を用いる場合においても、フッ素樹脂以外の樹脂を用いる場合においても、樹脂(x)と同一の樹脂を用いてもよく、異なる樹脂を用いてもよく、同一の樹脂を用いることが好ましい。
【0079】
(紫外線吸収剤)
塗膜層(Y)は、さらに紫外線吸収剤が含有されていることが好ましい。紫外線吸収剤は、紫外線による複合顔料Mの劣化を抑え、熱線の反射性能の低下を抑制する。
紫外線吸収剤としては、たとえば、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、ベンゾフェノン系、ヒドロキシフェニルトリアジン系、またはシュウ酸アニリド系の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0080】
塗膜層(Y)中の紫外線吸収剤の含有量は、塗膜層(Y)の総量に対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。
紫外線吸収剤の含有量が0.1質量%以上であれば、複合顔料Mの劣化を防ぐ効果が得られやすい。また、紫外線吸収剤の含有量が20質量%以下であれば、塗膜が着色したり、塗膜が軟化したりすることを抑制しやすい。
【0081】
また、塗膜層(Y)は、必要に応じて、塗膜層(X)で挙げた微粒子状の充填剤や添加剤等が含有されていてもよい。
【0082】
塗膜層(Y)の厚さは、5〜100μmであることが好ましく、10〜40μmであることがより好ましい。
塗膜層(Y)の厚さが5μm以上であれば、隠蔽性および耐候性が得られやすい。また、塗膜層(Y)の厚さが100μm以下であれば、タレ等の施工上の弊害が発生しにくい。
【0083】
本塗装物における塗膜の水中におけるオクタンの接触角により算出されるオクタンの脱離仕事は、2.0×10−2J/m未満であることが好ましい。該オクタンの脱離仕事は、水中において前記塗膜に対するオクタンの接触角を測定することにより求められる。
【0084】
オクタンの脱離仕事(W’)は、以下の式で表すことができる。
’=γSW+γWO−γSO
(ただし、γSWは塗膜表面と水との界面張力(J/m)、γWOは水とオクタンとの界面張力(J/m)、γSOは塗膜表面とオクタンとの界面張力(J/m)を表す。)。
【0085】
ヤングの式γSW=γSO+γWO=cosθ(ただし、θは水中においてオクタンが塗膜となす接触角である。)を前記式に代入し、拡張Fowkes式を用いて、水とオクタンの表面張力の分散成分が等しいことに注目すると、以下の式が導き出せる。
’=C(1+cosθ)
(ただし、Cは水の表面張力の極性成分であり、C=0.051(J/m)である。)。
θは0〜180°で変化し得るので、W’は0〜10.2×10−2(J/m)の範囲で変化する。W’が小さい程、水中においてオクタンを塗膜表面から引き離すエネルギーが少なくて済むことを意味しているので、耐汚染性が良好であると考えられる。耐汚染性を発揮するには、水中におけるオクタンの脱離仕事は2.0×10−2J/m未満であることが好ましく、1.5×10−2J/m未満であることがより好ましい。
【0086】
塗膜層(Y)の非フッ素系重合体Aにより耐汚染性が向上する機構は、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。単位(a)を1個以上有する非フッ素系重合体Aを含有する塗膜は、水中におけるオクタン脱離仕事が小さい。このことは、汚れ物質に含まれる油性成分がいったん塗膜表面に付着しても、容易に雨等により洗い流されることを示しており、耐汚染性が優れていることを意味する。さらに、非フッ素系重合体Aに架橋性官能基を導入し、それに適した架橋剤Bを配合することによって、塗膜形成初期よりこの親水性成分が塗膜表面に固定化されるため、耐汚染性をより長期間持続できる。また、フッ素含有率が5質量%以上のフッ素樹脂(樹脂(y))と非フッ素系重合体Aを含有する塗料組成物(Y)により形成した塗膜は、フッ素樹脂以外の樹脂では得られない帯電防止性、耐埃付着性をも実現できる。
【0087】
本塗装物では、塗膜層(Y)が最上層として形成されることが好ましいが、本塗装物の熱線の反射性能および該反射性能を維持する効果、ならびに美観の維持する効果を妨げない範囲内であれば、塗膜層(Y)上に別の層が設けられていてもよい。塗膜層(Y)が最上層であれば、非フッ素系重合体Aによる、表面の汚染を防止して美観を維持する効果の発現が顕著となる。
【0088】
本塗装物は、塗膜層(X)と塗膜層(Y)との間に本塗装物の熱線の反射性能および該反射性能を維持する効果、ならびに美観の維持する効果を妨げない範囲内において別の中間層(Z)が設けられていてもよい。ただし、熱線反射性能およびその維持効果の点から、中間層(Z)を設けないことが好ましい。
【0089】
以上説明した本塗装物は、複合顔料Mを含有する塗膜層(X)と、非フッ素系重合体Aを含有する塗膜層(Y)とを有しているため、高い反射率で熱線を反射することで温度上昇が抑制され、かつ優れた耐汚染性を有していることで熱線反射性能が長期間維持される。
また、本塗装物は、複合顔料Mを用いることにより、酸化クロムを用いずに高い熱線反射性能を実現しているため、環境汚染がさらに低減されている。
【0090】
<塗装方法>
本塗装物の塗装方法は、被塗装物上に、塗料組成物(X1)から形成される塗膜層(X)を形成し、つぎに、塗膜層(X)上に塗料組成物(Y1)から形成される塗膜層(Y)を形成することを特徴とする方法である。
塗料組成物(X1)は、塗膜層(X)を形成させる塗料組成物、塗料組成物(Y1)は、塗膜層(Y)を形成させる組成物であり、それぞれ、塗膜層(X)および塗膜層(Y)に含有させる各必須成分を含む塗布用組成物である。
【0091】
塗料組成物(X1)および塗料組成物(Y1)は、水を含む水性の塗料組成物である。すなわち、塗料組成物(X1)は、複合顔料Mと樹脂(x)と水とを含有する塗料組成物である。また、塗料組成物(Y1)は、非フッ素系重合体Aと樹脂(y)と水とを含有する塗料組成物である。
【0092】
ただし、塗料組成物(X1)および塗料組成物(Y1)には、形成される塗膜の熱線反射性能およびその維持効果、ならびに塗装時の作業環境等を悪化させすぎない範囲内であれば、溶剤が含まれていてもよい。
溶剤としては、一般に塗料用の溶剤として使用できるものが挙げられ、たとえば、トルエン、キシレン、エクソンモービル社製ソルベッソ100、エクソンモービル社製ソルベッソ150等の石油系混合溶剤;ミネラルスピリット等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
塗料組成物(X1)の各成分の配合順序に限定はなく、架橋剤Bを添加する場合は予め水に顔料と樹脂(x)を混合した後に、架橋剤Bを添加する方法が好ましい。また、着色剤、造膜助剤、増粘剤、可塑剤、消泡剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、皮バリ防止剤、顔料分散剤等の添加剤を添加する場合は、顔料と共に水に混合することが好ましい。
塗料組成物(Y1)の各成分の配合順序に限定はなく、非フッ素系重合体Aの硬化促進剤を添加する場合は、前記硬化促進剤を予め非フッ素系重合体Aに添加しておくことが好ましい。また、樹脂(y)と非フッ素系重合体Aを水と混合してから塗布するまでの時間が長い場合は、塗料組成物(Y1)を塗布する直前に硬化促進剤を配合することが好ましい。
また、塗料組成物(X1)および塗料組成物(Y1)の硬化の方式には特に限定はなく、熱硬化型、熱可塑型、常温乾燥型、常温硬化型等の種々の硬化方式を用いることができる。
【0094】
塗料組成物(X1)を被塗装物に塗装するに際しては、事前に表面の研磨、サンダー処理、封孔処理、プライマー処理、下塗り剤の塗布等、通常塗料を塗布する際に使用する前処理を行うことが好ましい。前処理の種類は1種であっても2種以上であってもよく、各処理の回数も1回であっても2回以上であってもよい。使用する封孔処理剤、プライマー、下塗り剤としては特に限定はなく、有機溶剤溶液、非水分散液、水性溶液または水性分散液等が挙げられる。
【0095】
また、プライマーまたは下塗り剤としては、たとえば、エポキシ樹脂系、変性エポキシエステル樹脂系、ビニル樹脂系、塩化ゴム系等の塗料が挙げられる。該塗料は必要によりリン酸亜鉛、鉛丹、亜鉛末、亜酸化鉛、鉛酸カルシウム、シアナミド鉛、塩基性クロム酸鉛、塩基性硫酸鉛等の防錆顔料、酸化鉄、雲母、アルミニウム、ガラスフレーク等の鱗片状顔料等を含んでもよい。また、防錆力を高めるため、ジンクリッチプライマーを用いてもよく、前述した下塗り剤を2種類以上塗り重ねることもできる。
【0096】
塗料組成物(X1)および塗料組成物(Y1)を塗布する方法は、種々の方法を適用できる。たとえば、刷毛塗り、スプレー塗装、浸漬法による塗装、ロールコーターやフローコーターによる塗装が適用できる。塗料組成物(X1)および塗料組成物(Y1)の塗布は、たとえば、塗料組成物(X1)が塗布され、乾燥して塗膜層(X)が形成された後に、塗料組成物(Y1)を塗布することにより行う。また中間層(Z)を形成させる場合には、塗料組成物(Y1)の塗布前に必要に応じて塗布等の方法で中間層(Z)の形成を行う。塗料組成物(Y1)の塗布は塗料組成物(X1)(中間層(Z))が完全に乾燥する前に行ってもよい。塗料組成物(X1)および塗料組成物(Y1)の塗布は、1回以上行ってもよい。塗布を複数回行う方法は、タレを発生させずに膜厚を厚くする方法として好ましい。
【0097】
以上説明した本発明の塗装方法により、塗膜層(X)と塗膜層(Y)を有す本塗装物が得られる。
また、本発明の塗装方法は、水性の塗料組成物を用いて形成できるため、VOCの放散による作業環境および地球環境への悪影響が低減されている。また、該水性塗料組成物は、水と反応して貯蔵安定性を低下させるシリケート化合物の代わりに非フッ素系重合体Aを用いているため、水性であっても貯蔵安定性に優れる。また、改修時において他の水性塗料との重ね塗りも容易に行うことができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[基材]
本実施例では基材として、クロメート処理された縦140mm×横240mm×厚さ0.5mmのアルミ板に、下塗り剤(塗布量0.15kg/m)と中塗り剤(塗布量0.13kg/m)とを順次塗布した基材を用いた。
下塗り剤としては、ボンエポコート55MP、白色(AGCコーテック社製、エポキシ樹脂塗料)を用いた。中塗り剤としては、ボンフロン水性W#1500中塗白色(AGCコーテック社製、アクリル樹脂エマルション塗料)を用いた。
【0099】
[製造例1]エナメル塗料1(塗料組成物(X1))
クロロトリフルオロエチレン、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテルおよびヒドロキシアルキルビニルエーテルの共重合体である水性フッ素樹脂エマルションFE−4200(旭硝子社製、ヒドロキシ基含有フルオロオレフィン系共重合体、60.0g)に、消泡剤としてSNデフォーマー381(サンノプコ社製、0.48g)、水(11.34g)、および増膜助剤としてEHG(日本乳化剤社製、4.52g)を加えた。
次に、ブラック6301(アサヒ化成工業社製、Mn、Bi複合酸化物顔料、Mn含有量29質量%、平均粒径1.1μm)の水性分散体としてAQ−E1990(レジノカラー工業社製、顔料濃度60質量%、21.8g)を加えてディスパーを用いて充分に攪拌を行ってエナメル塗料1を得た。
顔料の平均粒径は、レーザー回折粒度分布測定装置(HORIBA LA−920)により測定した。
【0100】
[製造例2]エナメル塗料2
前記水性フッ素樹脂エマルションFE−4200(60.0g)に、消泡剤として前記SNデフォーマー381(0.20g)、水(14.4g)、増膜助剤として前記EHG(5.16g)を加えた。次に、カーボンブラックの水性分散体としてPSMブラックC(御国色素社製:顔料濃度25質量%、8.2g)を加えてディスパーを用いて充分に攪拌を行ってエナメル塗料2を得た。
【0101】
[製造例3]クリヤー塗料1(塗料組成物(Y1))
前記水性フッ素樹脂エマルションFE−4200(60.0g)に、消泡剤として前記SNデフォーマー381(0.48g)、水(11.34g)、増膜助剤として前記EHG(4.52g)、紫外線吸収剤としてUvinul3039(BASF社製、1.60g)を加えた。さらに、非フッ素系重合体AとしてGLM(グリセリンモノメタクリレート)75質量%と、PME−400(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート)15質量%と、DAAM(ジアセトンアクリルアミド)10質量%とからなる非フッ素系重合体a、6.61gと、架橋剤Bとしてアジピンサンヒドラジド(大塚化学社製)の10質量%水溶液(2.45g)を加え、ディスパーを用いて充分に攪拌を行ってクリヤー塗料1を得た。
【0102】
[製造例4]クリヤー塗料2
前記水性フッ素樹脂エマルションFE−4200(60.0g)に、消泡剤として前記SNデフォーマー381(0.48g)、水(11.34g)、増膜助剤として前記EHG(4.52g)、紫外線吸収剤として前記Uvinul3039(1.60g)を加えた。さらに、低汚染化剤としてMKCシリケートMS56S(三菱化学社製、8.65g)を加え、ディスパーを用いて充分に撹拌を行ってクリヤー塗料2を得た。
【0103】
製造例3および4で得られるクリヤー塗料1、2について、貯蔵安定性を評価した。
[貯蔵安定性]
製造例3および4で得られるクリヤー塗料を、密閉可能なガラスビンに採取し、3日後に攪拌棒で塗料の状態を確認する。貯蔵安定性は以下の基準に従って評価した。
○:塗料がゲル化しなかった。
×:塗料がゲル化した。
貯蔵安定性の評価を表1に示す。
【0104】
【表2】

【0105】
表2に示すように、製造例3で得られるクリヤー塗料1は、3日経過してもゲル化しなかった。一方、製造例4で得られるクリヤー塗料は、3日経過するとゲル化した。
【0106】
以下、製造例1〜4で得られる塗料を用いて塗膜を形成する実施例および比較例について説明する。
[実施例1]
スプレー塗装にて、基材上に製造例1で得られるエナメル塗料1を膜厚30±10μmとなるように塗布し、気温23℃、相対湿度60%下にて1日間養生を行い、さらにスプレー塗装にて、製造例3で得られるクリヤー塗料1を膜厚25±10μmとなるように塗布し、気温23℃、相対湿度60%下にて7日間養生を行って試験体を得た。
【0107】
[比較例1]
スプレー塗装にて、基材上に製造例1で得られるエナメル塗料1を膜厚30±10μmとなるように塗布し、気温23℃、相対湿度60%下にて7日間養生を行って試験体を得た。
【0108】
[比較例2]
スプレー塗装にて、基材上に製造例2で得られるエナメル塗料2を膜厚30±10μmとなるように塗布し、気温23℃、相対湿度60%下にて1日間養生を行い、さらにスプレー塗装にて、製造例3で得られるクリヤー塗料1を膜厚25±10μmとなるように塗布し、気温23℃、相対湿度60%下にて7日間養生を行って試験体を得た。
【0109】
[比較例3]
スプレー塗装にて、基材上に製造例1で得られるエナメル塗料1を膜厚30±10μmとなるように塗布し、気温23℃、相対湿度60%下にて1日間養生を行った。さらに製造例4で得られるクリヤー塗料2をスプレー塗装することを試みた。
【0110】
実施例および比較例において、クリヤー塗料の塗装性を評価した。また、実施例および比較例で得られる試験体に対して、初期温度T、汚染後温度T、および耐候性を評価した。
(塗装性)
クリヤー塗料の塗装性は、以下の基準に従って評価した。
○:クリヤー塗料がゲル化せず容易に塗装できた。
×:クリヤー塗料がゲル化して塗装できなかった。
【0111】
(初期温度T
スプレー塗装により、実施例および比較例で得られる塗料組成物を基材上に膜厚30±10μmとなるように塗布し、気温23℃、相対湿度60%にて7日間養生を行い、試験体を得た。次に、該試験体について、赤外線ランプを10分間照射するときの塗膜の温度を以下の手順で測定した。
まず、試験体表面の中央部に熱電対を設置した。また、試験体表面から60cmのところに赤外線ランプを設置した。該赤外線ランプを10分間点灯してから消灯した。そして、赤外線ランプの点灯開始から消灯の5分後までの15分間、熱電対を用いて試験体表面の温度を連続的に測定した。15分間の測定結果における最も高い温度を温度Tとし、Tが45℃以下であれば「○」、45℃を超えていれば「×」とした。
【0112】
(汚染後温度T
各該試験体について、防汚試験に準じて促進汚れ付着を行い、汚染後温度Tを以下の手順で測定する。
(1)汚れ物質として、顔料用カーボンブラック(デッグサ社製、粒径0.002〜0.028μm)5質量%に脱イオン水95質量%をよく混ぜて懸濁液を作製した。
(2)前記懸濁液に、ガラスビーズ(直径2mm)を該懸濁液の容積の1/3程度加え、撹拌機を用いて回転数2500rpmで撹拌し、ガラスビーズを取り除いてカーボンブラック懸濁液を分離した。
(3)前記カーボンブラック懸濁液を約200g/mで試験体表面に吹き付け、該試験体表面に水道水を流しながら、ガーゼを該試験体表面にて縦、横、縦の順で移動させ、汚れ物質を軽く洗い落とし、汚れ試験体を得る。
(4)前記初期温度Tの測定における試験体を汚れ試験体に代える以外は、初期温度Tの測定と同様の方法で汚れ試験体表面の温度を連続的に測定し、測定する15分間における最も高い温度を汚染後温度Tとし、Tが45℃以下であれば「○」、45℃以上であれば「×」とする。
【0113】
(耐候性)
JIS K5600−7−8の促進耐候性試験(紫外線蛍光ランプ法)記載のタイプ1 UVB313に準拠した促進耐候性試験を実施し、目視による外観観察により以下の基準に基づいて評価した。
○:外観上の変化がなかった。
△:外観上、若干の変色が見られた。
×:外観上、著しい変色が見られた。
初期温度T、汚染後温度Tおよび耐候性の評価を表3に示す。
【0114】
【表3】

【0115】
表3に示すように、エナメル塗料1(樹脂組成物(X1))およびクリヤー塗料1(樹脂組成物(Y1))を用いた実施例1では、形成された塗膜の初期温度Tが低く熱線反射性能が優れており、耐候性も優れていた。また、クリヤー塗料1を容易に塗装できた。
【0116】
一方、エナメル塗料1のみを塗装した比較例1では、形成された塗膜は初期温度Tが低く熱線反射性能が優れているが、塗膜が汚染されやすいためその維持効果が劣っている。また、耐候性にも劣っていた。
また、複合顔料Mを用いていない比較例2では、初期温度Tが低く熱線反射性能が劣っていた。
また、非フッ素系重合体Aの代わりにシリケート化合物を用いたクリヤー塗料2を用いた比較例3では、塗料がゲル化して塗装することが困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物上に、塗膜層(X)と、該塗膜層(X)上に形成された塗膜層(Y)とを有する塗装物であって、
前記塗膜層(X)は、ビスマスの酸化物とイットリウムの酸化物の少なくとも一方の酸化物とマンガンの酸化物とを含有する複合金属酸化物顔料と、樹脂(x)とを含有する塗料組成物から形成される層であり、
前記塗膜層(Y)は、2個以上のヒドロキシ基を有する重合単位を全重合単位に対して10質量%以上含有する非フッ素系重合体と、樹脂(y)とを含有する塗料組成物から形成される層であることを特徴とする熱線高反射塗装物。
【請求項2】
前記非フッ素系重合体が、さらに前記2個以上のヒドロキシ基を除く架橋性官能基を有する重合単位を有する請求項1に記載の熱線高反射塗装物。
【請求項3】
前記塗膜層(Y)が、架橋剤により架橋されている請求項1または2に記載の熱線高反射塗装物。
【請求項4】
前記塗膜層(Y)が、さらに紫外線吸収剤を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の熱線高反射塗装物。
【請求項5】
前記樹脂(x)と前記樹脂(y)の少なくとも一方の樹脂の一部または全部がフッ素樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の熱線高反射塗装物。
【請求項6】
前記塗膜層(X)中の前記複合金属酸化物顔料の含有量が前記樹脂(x)の固形分に対して0.1質量%以上である請求項1〜5のいずれかに記載の熱線高反射塗装物。
【請求項7】
被塗装物上に、ビスマスの酸化物とイットリウムの酸化物の少なくとも一方の酸化物とマンガンの酸化物とを含有する複合金属酸化物顔料と、樹脂(x)と、水とを含有する塗料組成物(X1)から形成される塗膜層(X)を形成し、
該塗膜層(X)上に、2個以上のヒドロキシ基を有する重合単位を全重合単位に対して10質量%以上含有する非フッ素系重合体と、樹脂(y)と、水とを含有する塗料組成物(Y1)から形成される塗膜層(Y)を形成することを特徴とする熱線高反射塗装物の塗装方法。
【請求項8】
前記非フッ素系重合体がさらに、前記2個以上のヒドロキシ基を除く架橋性官能基を有する重合単位を有する請求項7に記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。
【請求項9】
前記塗料組成物(Y1)が、さらに架橋剤を含有する請求項7または8に記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。
【請求項10】
前記塗料組成物(Y1)が、さらに紫外線吸収剤を含有する請求項7〜9のいずれかに記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。
【請求項11】
前記樹脂(x)と前記樹脂(y)の少なくとも一方の樹脂の一部または全部がフッ素樹脂である請求項7〜10のいずれかに記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。
【請求項12】
前記塗料組成物(X1)中の前記複合金属酸化物顔料の含有量が前記樹脂(x)の固形分に対して0.1質量%以上である請求項7〜11のいずれかに記載の熱線高反射塗装物の塗装方法。

【公開番号】特開2010−172852(P2010−172852A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20108(P2009−20108)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000116954)AGCコーテック株式会社 (24)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】