説明

熱転写シート及びにおい付き印刷物

【課題】使用時まで香りを発生することなく、保存性に優れた熱転写シートを提供し、使用者が簡単に作成できるにおい付き印刷物を提供すること。
【解決手段】上記の課題は、基材の少なくとも一方の面に、被担持物質として臭気成分を内包したマイクロカプセルを含有した剥離層、溶融転写層を順に設けたことを特徴とする熱転写シートを使用し、被転写体へ熱転写することにより達成される。また、その場で、複数の香りを印刷することができるので、簡便な調香を可能にできるという効果も有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートに関し、特に基材上に、剥離層、溶融転写層を順に設けた熱転写シートで、その熱転写シートを用いて転写された印刷物が、においを発生するものに関するものである。
【背景技術】
【0002】
においは、嗅覚を刺激された際に感じる感覚であり、大別すると、2種類に分類できる。一つは心地良いと感じられる「匂い」または「香り」で、例えば花や香水のようなにおいであり、もう一つは不快と感じる「臭い」である。また、そのにおいを感じる対象が、人間だけではなく、動物も対象となるものである。
【0003】
私たちの周りには、においが多く存在している。例えば、特許文献1には、視覚的に表現された触感を有する印刷物を、使用者が指で触れることにより、自発的に香りを発する印刷物として、香料マイクロカプセルを練り込んだインキを用いた層を表面に露出させたものが開示されている。この印刷物は、木材柄の絵柄上にヒノキの香りを発生させたり、畳柄の絵柄上にイグサの香りを発生させたり、皮革柄の絵柄上にレザーの香りを発生させた化粧材などが例示されている
【0004】
また、特許文献2には、昇華型熱転写受像シートにおいて、受容層上に、マイクロカプセル化した香料の芳香成分を含有する印刷層を設けることが記載されている。この熱転写受像シートは、転写圧により、また手で圧力を加えることにより、マイクロカプセルから花や果物などの芳香が発散することが示されている。
【0005】
また、特許文献3には、カプサイシンのような動物用忌避剤をマイクロカプセルに内包したものを、配合した液体を粉体に吸油させた忌避粉剤として散粉したり、そのマイクロカプセルを混合した乳剤や塗料を噴霧、塗布したり、また、そのマイクロカプセルを配合した乳化液を不織布テープに浸漬塗布させて、忌避テープとして利用することが開示されている。
【0006】
しかし、上記のいずれにおいても、においを発するにおい発生物質が表面に存在し、においを発生しやすい状態にはあるが、使用する前からにおいが発生するものであり、保管取扱い上で、また使用する直前まで密閉する必要があり、作業性が悪いという問題がある。また、従来のにおい付き印刷物は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷によりにおい発生物質を含む層を形成するものであり、容易にパターンを変更することは困難である。つまり、においを発生する部分、あるいはにおいの発生の強度を適宜変更させるような使用時の選択性を高くすることが困難であるという問題がある。また、形成装置を持ち運ぶことは困難であり手軽ににおい付き印刷物を作成することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−186389号公報
【特許文献2】特開2002−187368号公報
【特許文献3】特開平7−76502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本願発明は上記のような問題点を解決し、転写して使用する前までは、においを発生せずに、保管取扱い上で、また使用する直前まで密閉する必要が無く、作業性が良好であり、臭気発生する箇所や、臭気発生の強さを適宜変更できる印刷物を作成可能な熱転写シートを提供することを目的とする。
【0009】
なお、本願発明において、臭気は、心地良いと感じられる「匂い」または「香り」、及び、不快と感じる「臭い」を含む「におい」の表現として用いる。また、嗅覚を通じて刺激を与える物質、すなわち、心地良いと感じられる「匂い」または「香り」、及び、不快と感じる「臭い」を含むに「におい」を感じる物質を「臭気成分」と表現する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の状況を鑑み、鋭意研究開発を進め、本願発明の請求項1は、基材の少なくとも一方の面に、臭気成分を内包したマイクロカプセルを含有した剥離層、溶融転写層を順に設けたことを特徴とする熱転写シートの構成である。臭気成分は、マイクロカプセルにより保護されており、さらに熱転写前、臭気成分を内包するマイクロカプセルを含む剥離層は、基材と溶融転写層に挟まれているため確実に臭気成分の拡散が防止される。さらに、熱転写後には、臭気成分を内包するマクロカプセルを含む剥離層が露出することにより、容易に臭気成分を拡散することができるようになる。さらにマイクロカプセルの特性を制御することにより、臭気成分の拡散させるタイミング、徐放性の制御が可能である。さらに、熱転写の印刷装置は小型のものが多く開発されており、また、パターン印刷も容易に制御できるため、パターンの変更にも柔軟に対応し、かつ持ち運び可能でどこでも印刷物を作成可能とすることができる。
【0011】
本願発明の請求項2の熱転写シートは請求項1に記載のマイクロカプセルが、多孔質微粒子の孔内に被担持物質として臭気成分を内包し、その表面を高分子化合物で被覆することにより形成したものであることを特徴とする構成である。これにより、臭気の発生開始からほぼ臭気がしなくなるまでの時間を長くすることができるとともに、より保管扱い上の安定性が向上するものである。また、表面を被覆する高分子化合物に熱、光、機械的刺激、特定物質との接触により(部分的にでもよい)崩壊するような特性を持たせることにより臭気成分の拡散のきっかけに多くのバリエーションを持たせることができる。
【0012】
本願発明の請求項3の熱転写シートは、請求項1または請求項2に記載する溶融転写層が、着色層又は保護層であることを特徴とする構成である。これにより、熱転写シートにより転写された香り付きの印刷物は、着色された溶融転写層を用いれば、においと色が関連付けられた印刷物となり、又、画像上の保護層又は透明層として機能させることで印刷物の色と無関係に香りをつけることも可能となる。
【0013】
また、本願発明の請求項4のにおい付き印刷物は、請求項1から請求項3のいずれかの熱転写シートを用いて熱転写により得られたことを特徴とするものである。これにより、小型化が可能な熱転写印刷装置を使用できるため、携帯性に優れ、におい付き印刷物を持ち運び可能な装置で簡便に作成でき、また、異なる臭気成分を含む剥離層を有する熱転写シートを印刷物により異なる面積で形成転写することにより、複数種類の臭気成分を含む熱転写シートで塗り分けが簡便にできるため簡易的な調香(香料の調合)が可能となるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記の構成の熱転写シートは、転写して使用する前までは、においを発生せずに、保管取扱いしやすいものであり、また使用する直前まで密閉する必要が無く、作業性が良好である。さらに、臭気発生する層を熱転写して印刷物に形成するので、臭気発生する箇所や、臭気発生の強さを適宜変更でき、非常に実用性が高いものである。任意の対象物に臭気発生する層を熱転写できるので、におい付き印刷物の用途が広がり、実用性がより高まる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る熱転写シートの概略断面図である。
【図2】本発明に係る熱転写シートの熱転写後の受像シートの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面等を用いて以下に詳しく説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
本発明に係る熱転写シート1は、図1に示すように、基材2の少なくとも一方の面に、被担持物質として臭気成分を内包したマイクロカプセル5を含有した剥離層3、溶融転写層4を順に設けたことを特徴とする熱転写シート1である。印刷方法を説明すれば、図1の熱転写シート1の溶融転写層4側を被転写体である受像シート7と重ね合わせ、熱転写シート1の基材2側からサーマルヘッド等でパターン状に加熱する。熱転写シート1の加熱されたパターンに沿って溶融転写層4が溶融して受像シート7との間で接着性を持ち、熱転写シートを被転写体である受像シート7から剥離する際に、加熱パターンに沿って、図2に示したように被担持物質として臭気成分を内包したマイクロカプセル5を含有した剥離層3、溶融転写層4が被転写体である受像シートに転写され、よって被転写体へのパターン上の転写印刷が完了し、香り付き印刷物7が得られる。
【0018】
この際、受像シートに転写される剥離層3および溶融転写層4は、着色されていても良いし、透明でもよい。着色されている場合には、色と臭気発生部は一体に転写されることとなる。また、透明な場合は、色と臭気発生部を分けることも可能となり、何らかの文字や図案を印刷した上に、文字や図案と合わせて、もしくは、文字や図案とは無関係に臭気発生部を設けることが可能となる。
【0019】
[層構成]
本発明にかかる熱転写シート1は、基材2と基材2の少なくとも一方の面に被担持物質として臭気成分を内包したマイクロカプセル5を含有した剥離層3、溶融転写層4を順に設けたことを要件とするが、より転写性や分解能を向上する目的で、または、転写層にさらなる機能を付与する目的で機能層を追加したり、それぞれの機能層を複数の層にて形成したりすることも可能である。
【0020】
例えば、基材2のもう一方の面に、サーマルヘッドによる熱転写時に支持体である基材2を高温から保護するため、言い換えれば、サーマルヘッドの粘着を防止し、且つ滑り性をよくするための背面層を設けることもできる。
【0021】
また、基材2と剥離層3の間に、剥離層3と溶融転写層4から成る転写層を熱転写シート1から受像シート7へ容易に転写されるように離型層を設けることもできる。
【0022】
また、受像シート7に熱転写する際の溶融転写層4の接着性を向上する目的で溶融転写層の上に、接着層を形成することもできる。
【0023】
本願発明における熱転写シート1は、臭気成分を内包したマイクロカプセル5を含有した剥離層3と、保護機能や着色機能を有する溶融転写層4が分離して形成されているため、相互の層を形成する材料間の影響は、小さくすることができる。しかしながら、溶融転写層4に含まれる材料に臭気成分が何らかの影響、例えば、発色のために混合した染料を臭気成分が退色させる可能性がある場合には、剥離層3と溶融転写層4の間に、臭気成分の溶融転写層4への侵入を防ぐブロック層を形成してもよい。
【0024】
[基材]
基材2は本発明の熱転写シート1における必須の構成であり、後述する剥離層3及び溶融転写層4を保持するために設けられる。基材2の材料については特に限定されないが、剥離層3及び溶融転写層4を被転写体上に転写する際にサーマルヘッドにより加えられる熱に耐え、且つ所望の伝熱性、取り扱い上支障のない機械的特性を有することが望ましい。このような基材として、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアリレート、セロハン、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース誘導体、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン(登録商標)などのポリアミド系合成樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン・エチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等の各種プラスチックフィルムまたはシートを挙げることができる。また、コンデンサー紙、パラフィン紙等の紙類、不織布等があり、又、これらを複合したものであっても良い。
【0025】
また、基材2の厚さは、その強度及び耐熱性、熱伝導性が適切になるように材料に応じて適宜設定することができ、2.0〜100.0μm程度が一般的で、好ましくは2.0〜12.0μmである。すなわち、厚さが2.0μm未満であると、基材としての強度が不足しやすく、また、12μmを越えると熱転写の感度が低下し、溶融転写層と被転写体との接着性が下がる。
【0026】
[臭気成分]
臭気成分はその種類は特に限定されるものではない。例えば、人に快感を与える香料を臭気成分とすることができる。この香料の場合には、動物性香料、あるいは植物性香料の天然香料や合成香料があげられる。合成香料としては、例えば、アルコール類、フェノール類のヒドロキシ化合物及びそれらの誘導体、アルデヒド類、ケトン類のカルボニル化合物などがあげられる。市場には数多くの香料など臭気成分が存在しており、それらを混合して希望の香りを調香したものも数多く使用されている。本発明においては、使用目的、用途に応じて適宜選択すればよく、人間を対象とするものから、動物や昆虫に対する求引剤、忌避剤、殺虫成分なども含むものである。
【0027】
また、一種類の熱転写シート1に複数の種類の臭気成分を内包したマイクロカプセル5を含有した剥離層3を作製して使用してもよい。複数種類の臭気成分を内包する膜材が同一組成のマイクロカプセルを使用すれば、同時に複数種類の臭気成分を発することになり、複雑なにおいを実現できる。また、マイクロカプセルの膜材組成や膜材厚みを臭気成分ごとに異なるものとすれば、加える刺激によって異なるにおいを発するようにすることや、経時的ににおいを変化させることも可能である。
【0028】
また、それぞれ異なる臭気成分を使用したマイクロカプセル5を含有した、複数種類の剥離層を有する熱転写シート1を作成して用いれば、絵柄に対応させて異なるにおいを発するようにすることも可能である。例えば、黄色のバナナの絵柄部分からはバナナの香りが、赤いイチゴの絵柄からはいちごの香りが発生するようにすることができる。また、それぞれ異なる臭気成分を内包する剥離層を塗り分けて、複数の印刷エリア毎にそれぞれの臭気成分の形成面積の割合を変化させることで、各エリアはそれぞれ異なるにおいを発現する臭気成分を含有させるようにしてもよい。例えば、異なる臭気成分を含有する熱転写シートで転写する面積と種類をコントロールすることにより簡易的な調香を印刷物で実現することもできる。
【0029】
[マイクロカプセル]
マイクロカプセル5は本発明の熱転写シート1における必須の構成であり、本発明においては、臭気成分を内包するものである。
【0030】
本発明において、マイクロカプセルは、熱転写シートの製造プロセスにおいて、臭気成分を他部材との混合や変質から保護し、さらに、使用時まで臭気成分が拡散するのを防止するとともに、臭気成分の外部への放出のタイミングを制御し、さらに放出時の放出速度をコントロールする働きをするものである。
【0031】
本発明におけるマイクロカプセル5は、大きさ(直径)が数μmから数千μm(1μm=1000分の1mm)の範囲にある微小容器の総称である。容器であるからマイクロカプセルの内部には,何かを入れることができる空間が存在する。マイクロカプセルの内部の空間に入れられる中身の部分を内包物または芯物質と言い、本発明では、主として臭気成分が用いられる。臭気成分は、固体、液体あるいは気体の状態でマイクロカプセル5に閉じ込めることができる。本発明におけるマイクロカプセルは、多孔質微粒子の孔内に被担持物質として臭気成分を内包し、その表面を高分子化合物または硬化性化合物の膜材で被覆することにより形成したものを含む広い概念である。本発明においては、マイクロカプセルの直径は、特段限定されるものではないが、剥離層の通常の膜厚が0.5〜4.0μmであり好ましくは1.0〜2.5μmであることから、平均で0.5〜4.0μmさらに好ましくは1.0〜2.5μm程度が好ましい。
【0032】
内包物をとり囲む容器部分は、膜材(カプセル壁)といわれポリマーが多く用いられる。マイクロカプセル5の形は球形が多く用いられるが,非球形(不定形ともいう)のを用いることもできる。また,芯物質を入れる空間が一つであるマイクロカプセルである単核カプセル,複数個ある多核カプセルのいずれでも問題ない。
【0033】
マイクロカプセル5の膜材としては、澱粉誘導体、アラビアゴム、セルロース誘導体、寒天、ゼラチン膜、キトサン、カラギーナン、アルギン酸塩、ウレタンウレア膜、尿素樹脂膜、ナイロン膜、ポリウレタン、ポリ尿素、エポキシ樹脂、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂等が使用でき、in−situ法、界面重合法、コアセルベーション法、界面沈殿法、液中乾燥法、相分離法、融解分散冷却法、スプレードライング法、液中硬化被覆法等の公知の製造方法により製造される。
【0034】
さらに、本発明においては、マイクロカプセルは、多孔質微粒子の孔内に被担持物質として臭気成分を内包し、その表面を高分子化合物で被覆することにより形成したものであるものを用いるとさらによい。(特開2009−12996号公報参照)これは、熱転写シートの製造プロセス、及び、転写時の熱、及び圧力から臭気成分を保護し、さらに、においの発生時にその効果を長時間持続させる効果が高いためである。
また、表面を被覆する高分子化合物の選択の幅が広く、においを発するきっかけを多様化できるためである。
【0035】
マイクロカプセルの膜材(以下、臭気成分を内包した多孔質微粒子においては、その表面を被覆する高分子化合物または硬化化合物を含む)は、製造プロセスにおける臭気成分の他部材への混合の防止、変質からの保護、使用時までの臭気成分の拡散防止の観点から、臭気成分、剥離層形成材料に相溶性がないことが求められ、また、これらの材料に長期的に侵されない物質を選択する必要がある。
【0036】
また、臭気成分を外部に放出するタイミングの制御の観点では、例えば、熱転写をきっかけとして臭気成分を放出したいのであれば、熱転写の際にかけられる熱、及び圧力によってカプセルの膜材(臭気成分を内包した多孔質微粒子においては、その表面を被覆する高分子化合物または硬化化合物)が破壊、または、表出を開始するようにしてやればよい。
これには、膜材(臭気成分を内包した多孔質微粒子においては、その表面を被覆する高分子化合物)として、溶融転写層の融点とほぼ同じか、それよりも低い材料を選択すればよい。
【0037】
さらに、熱転写時には、臭気成分を放出したくない場合には、熱転写時にかかる、熱や圧力に耐える膜材(臭気成分を内包した多孔質微粒子においては、その表面を被覆する高分子化合物)を選択すればよい。
また、スクラッチなどにより、物理的に膜材を破壊することによって臭気成分を拡散するように膜材の機械的強度を調整してもよい。
【0038】
さらに、マイクロカプセルが、多孔質微粒子の孔内に被担持物質として臭気成分を内包し、その表面を高分子化合物で被覆することにより形成したものである場合には、高分子化合物に熱、光、機械的刺激、特定物質との接触により(部分的にでもよい)崩壊するような特性を持たせることにより臭気成分の拡散のきっかけに多くのバリエーションを持たせることができる。また、熱、光、機械的刺激、特定物質との接触により崩壊する材料と非崩壊性の材料を適宜混合することにより、臭気成分の拡散速度を調整することも可能となる。
【0039】
本発明における多孔質微粒子とは、無機物質または有機物質の粒子骨格からなり、多孔質微粒子が無機物質からなる場合には、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩、リン酸カルシウム、リン酸バリウム、リン酸マグネシウム、リン酸ジルコニウム、アパタイトなどのリン酸塩、金属酸化物として二酸化ケイ素、アルミナなどを、例示することができる。多孔質微粒子が有機物質からなる場合には、ポリエチレン、ポリウレタン、セルロース、ポリアミド、ポリビニルホルマール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂および天然繊維物質などを例示することができる。なお、天然繊維物質としては、各種木材の粉砕チップをあげることができ、いずれか1種または2種以上からなることが好ましい。
【0040】
本発明において被覆に用いる高分子化合物は、被担持物質を内包した多孔質微粒子の表面を被覆するため、あるいは被担持物質を相溶させる物質をいい、被担持物質の保護と拡散防止の効果を持つ物質であって、特定の外部要因を受けた際に破壊されることで被担持物質の放出を行うことができる物質をいう。高分子化合物としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、有機珪素化合物、天然有機高分子化合物などが挙げることができる。
【0041】
これらの樹脂をより詳細に例示すると、エポキシ樹脂としては、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂を挙げることができる。フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、ビスフェノール樹脂などが挙げられる。シリコン樹脂としては、自己架橋型、付加重合型などを挙げることができる。アクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステルなどを挙げることができる。また、有機珪素化合物としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、ブチルシリケート、アルキルアルコキシシラン、ポリシロキサンオリゴマーなどを挙げることができる。
【0042】
前記天然有機高分子化合物をより詳細に例示すると、セルロースおよびセルロース誘導体、タンパク質、などであって、ゼラチン、アラビアゴム、シェラック、蝋、パラフィンワックス、セレシンワックスなどを挙げることができる。
【0043】
前記多孔質微粒子の製造において、被担持物質を被覆する高分子化合物は、被担持物質の物理的、化学的特性および使用条件に基づいて選定するが、多孔質微粒子を被覆した後に硬化して皮膜を形成するもの、または溶媒除去により皮膜を形成するものを用いることが好ましい。また、被担持物質と相溶させて製造する場合においては、被担持物質と相溶するかもしくは溶剤中で相溶するものを用いることが好ましい。
【0044】
多孔質微粒子の製造方法としては、被担持物質を多孔質に内包させた後、膜剤により被覆させる方法、膜剤に被担持物質を相溶させたものを多孔質微粒子に内包させる方法のいずれの手法を用いてもよく、被担持物質の物理的、化学的特性および使用条件に基づいて選定を行えばよく、また被担持物質を内包した多孔質微粒子の表面をさらに膜剤で被覆してもよい。
【0045】
多孔質微粒子に被担持物質を内包させる方法としては、特に限定はないが、被担持物質を融点以上に加熱し、液状化させたものを多孔質微粒子に圧入する方法、あるいは溶媒に溶解させたものを多孔質微粒子に圧入させた後に溶媒を取り除く方法などが挙げられる。
【0046】
[剥離層]
剥離層3は本発明の熱転写シート1における必須の構成であり、基材2と溶融転写層4の間に形成される。この剥離層3は、通常は熱溶融性物質と熱可塑性樹脂を含み、そのうち熱溶融性物質の有する属性が支配的になる層であって、主に溶融転写層と基材との接着力を調整するとの作用を有する層である。
【0047】
剥離層3は基材2に隣接して設けられる層であり、剥離層3は転写時に熱転写シート1から受像シート7側に、その厚み方向の全部が転写移行し、印刷物の最表面を形成する層である。言い換えれば、剥離層3は、熱転写シート1と受像シート7とがサーマルヘッドなどで加熱された時に、融着することを防止し、熱転写シート1が受像シート7からスムーズに剥離し、転写を良好にするものである。
【0048】
剥離層3は転写時に基材との融着を防ぐため、Tg(ガラス転移温度)または軟化点が100℃以上の樹脂、具体的には、ポリメタクリル酸メチル樹脂(ガラス転移温度105℃)、酢酸セルロース樹脂(ガラス転移温度235℃)などを使用することにより熱転写シート1と受像シート7とを重ねてサーマルヘッドなどで加熱した時に、融着することがない。融点または軟化点が70℃乃至130℃のワックスを樹脂に対して0〜20重量%、好ましくは、5重量%前後添加することにより転写印刷後の印刷物の耐擦過性を向上させることができる。また同時に、剥離層3は熱印加時には基材と溶融転写層間の剥離性を良くするために設ける層であり、そのためサーマルヘッドによる熱印加で溶融して低粘度液体になるような成分で構成されているのが望ましく、また加熱部分と非加熱部分の界面近くで容易に切れやすくなるように成分を調整するとよい。
【0049】
剥離層に使用されるワックスを具体的に例示すると、蜜蝋、鯨蝋、木蝋、米ぬか蝋、カルバナワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス等の天然ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、酸化ワックス、オゾゲライト、セレシン、エステルワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス、マルガリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フロイン酸、ベヘニン酸等の高級飽和一価アルコール、ソルビタンの脂肪酸エステル等の高級エステル、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0050】
また、剥離層に弾力性を持たせて熱転写シートと被転写体との密着性をよくすることも可能であり、この目的を達成するため、剥離層にイソプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム等のゴム類が添加される。このほか、剥離層の脱落防止の為、接着性の強い樹脂類を該層に添加することも可能であり、この為に添加する樹脂としてはエチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−エチルアクリレート共重合体が好適である。
【0051】
剥離層に混合する臭気成分を内包したマイクロカプセルの割合は、マイクロカプセルの半径や臭気成分を空気中に拡散させる際に条件に応じて適宜調整すればよい。
【0052】
剥離層の形成は、剥離層形成用塗工液を、従来公知のホットメルトコート、グラビアダイレクトコート、グラビアリバースコート、ナイフコート、エアコートロールコート等の方法により、固形分で0.05乃至2.00g/m2を設けるものである。0.05g/m2未満の場合、基材と溶融転写層の接着性が向上し、良好な剥離効果が得られない。また、2g/m2を超えた場合、印字時の転写感度が低下するため好ましくない。
【0053】
[溶融転写層]
溶融転写層は、熱溶融性化合物、熱可塑性樹脂から構成される。
【0054】
前記熱溶融性化合物としては、通常この種の熱溶融型の熱転写シートの熱溶融性インク層に使用されるものを任意に使用することができ、具体的には、カルバナロウ、木ロウ、オウリキュリーロウ及びエスパルロウ等の植物ロウ、蜜ロウ、昆虫ロウ、セラックロウ及び鯨ロウ等の動物ロウ、モンタンロウ、オゾケライト及びセレシン等の鉱物ロウ等のワックス類、パラフィンワックス、マイクロクリスタルワックス、ポリエチレンワックス、エステルワックス及び酸ワックス等の石油ロウ、パルミチン酸、ステアリン酸、マルガリン酸及びベヘン酸等の高級脂肪酸、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、マルガニルアルコール、ミリシルウアルコール及びエイコサノール等の高級アルコール、バルミチン酸セチル、バルミチン酸ミリシル、ステアリン酸セチルおよびステアリン酸ミリシル等の高級脂肪酸エステル、アセトアミド、プロピオン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミドおよびアミドワックス等のアミド類、ならびに、ステアリルアミン、ベヘニルアミンおよびパルミチルアミン等の高級アミン類があげられ、これらは単独で用いられてもよいし併用してもよい。本発明においては、これら熱溶融性物質の中でも、融点が40〜150℃のワックスが好適に使用される。
【0055】
なお、これらの熱溶融性化合物は、分子量が通常、10,000以下、特に、5,000以下で、融点もしくは軟化点が50〜150℃の範囲にあるものが好ましい。前記熱溶融性化合物は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。
【0056】
前記熱溶融性インク層の成分として使用される前記熱可塑性樹脂としては、通常この種の熱溶融型感熱転写記録用インクシートの熱溶融性インク層に使用されるものなど各種のものが使用可能であり、たとえば、熱可塑性樹脂の例としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ロジン系樹脂、アイオノマー樹脂および石油系樹脂等の樹脂類、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、イソブレンゴム、およびクロロプレンゴム等のエラストロマー類、エステルガム、ロジンマレイン酸樹脂、ロジンフェノール樹脂および水添ロジン等のロジン誘導体、ならびに、フェノール樹脂、テルペン樹脂、シクロペンタジエン樹脂および芳香族炭化水素樹脂等の軟化点50〜150℃の高分子化合物を挙げることができる。熱転写シートの状態で剥離層からにおいが拡散することを防止する観点からは、アクリル系樹脂やポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
本発明におけるポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、などを挙げることができる。
【0057】
本発明におけるアクリル系樹脂としては、たとえば、アクリル酸およびメタクリル酸等の一塩基性カルボン酸あるいはそのエステルと、これらと共重合し得られる少なくとも一種のモノマーとを乳化重合させることにより得られる。その際に使用するカルボン酸モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチルエステル、(メタ)アクリル酸エチルエステル、(メタ)アクリル酸イソプロピルエステル、(メタ)アクリル酸ブチルエステル、(メタ)アクリル酸イソブチルエステル、(メタ)アクリル酸アミルエステル、(メタ)アクリル酸ヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸オクチルエステル、(メタ)アクリル酸‐2‐エチルヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸デシルエステル、(メタ)アクリル酸ドデシルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルエステル等が挙げられる。また、共重合し得るモノマーとしては、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、無水マレイン酸、無水フマル酸、スチレン、2‐メチルスチレン、クロルスチレン、アクリロニトリル、ビニルトルエン、N‐メチロールアクリルアミド、N‐メチロールメタクリルアミド、N‐ブトキシメチルアクリルアミド、N‐ブトキシメタクリルアミド、ビニルピリジンおよびN‐ビニルピロリドン等が挙げられ、これらの一種あるいは二種以上より選ばれる。
【0058】
また、熱可塑性樹脂として、ジエン系コポリマーも好適に使用できる。具体的には、ブタジエン、イソブレン、イソブチレンおよびクロロブレン等のジエン系モノマーと上記共重合し得るモノマーとの乳化重合物を挙げることができ、この乳化重合物の具体的な例としては、ブタジエン‐スチレン重合物、ブタジエン‐スチレン‐ビニルピリジン重合物、ブタジエン‐アクリロニトリル重合物、クロロブレン‐スチレン重合物およびクロロブレン‐アクリロニトリル重合物などがある。
さらに、好ましいポリマーとしては、エチレン共重合体を挙げることができる。例えば、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、エチレン‐アクリル酸エチル共重合体、エチレン‐アクリル酸メチル共重合体、エチレン‐アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン‐アクリル酸共重合体、エチレン‐ビニルアルコール共重合体、エチレン‐塩化ビニル共重合体およびエチレン‐アクリル酸金属塩共重合体である。
【0059】
溶融転写層を着色層として機能させる場合には溶融転写層の成分として着色剤を添加することができる。使用される前記着色剤としては、通常この種の熱溶融型の熱転写インクシートの溶融転写層に使用されるものを制限なく使用することができ、通常使用される無機顔料および有機顔料などの顔料ならびに染料を使用することができる。
前記無機顔料の例としては、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化亜鉛、プルシアンブルー、硫化カドミウム、酸化鉄ならびに鉛、亜鉛、バリウムおよびカルシウムのクロム酸塩などが挙げられる。前記有機顔料の例としては、アゾ系、チオインジゴ系、アントラキノン系、アンスアンスロン系、トリフェンジオキサジン系の顔料、バット染料顔料、フタロシアニン顔料、例えば銅フタロシアニンおよびその誘導体ならびにキナクリドン顔料などがある。
【0060】
有機染料の例としては、酸性染料、直接染料、分散染料、油溶性染料および含金属油溶性染料などが挙げられる。
【0061】
熱溶融性化合物、熱可塑性樹脂との合計重量に対して5〜35重量%、好適には5〜28重量%)の範囲で使用することができる。
【0062】
これら各種の着色剤は、一種単独で使用してもよいし、必要に応じて、二種以上を併用してもよい。
【0063】
前記溶融転写層には、必要に応じて本発明の目的を阻害しない範囲で、上記以外の他の添加成分を適宜添加することができる。たとえば、この溶融転写層には、フッ素系界面活性剤を含有させても良い。フッ素系界面活性剤の含有により、前記溶融転写層のブロッキング現象を防止することができる。また、転写した文字情報含有画像の先鋭性すなわち、文字境界部の切れを良くするために有機微粒子、無機微粒子、非相溶性樹脂を添加するのも効果的である。
【0064】
前記溶融転写層4の膜厚は、通常、0.6〜5.0μmであり、特に1.0〜4.0μmであるのが好ましい。この溶融転写層4は、形成成分を有機溶媒に分散あるいは溶解して塗布する方法(有機溶剤法)、加熱により熱可塑性樹脂などを軟化あるいは溶融状態にして塗布する方法(ホットメルト塗布法)などを採用して塗設されていても良いが、形成成分を水や有機溶媒に分散もしくは溶解させたエマルジョン、もしくは溶液などを用いて塗工されてなるのが好ましい。前記溶融転写層4の塗設に用いる塗工液中の層形成成分の合計の含有率は、通常は、5〜50重量%の範囲内に設定される。
【0065】
塗布方法は、通常の方法を利用して行なうことができる。塗布方法の例としては、ワイヤーバーを用いた方法、スクイズコート法およびグラビアコート法などを挙げることができる。また、熱溶融性インク層は、少なくとも一層で設けられていることが必要であるが、たとえば着色剤の種類および含有率、あるいは熱可塑性樹脂と熱溶融性化合物との配合比率などの異なる二層以上の溶融転写層を積層して構成してもよい。例えば、紫外線吸収層と接着層とを積層して溶融転写層を形成しても良い。
【0066】
接着層を設けることで、受像シート7に、溶融転写層4を転写した際に受像シート7と溶融転写層4(保護層)との密着性を向上させることができる。接着層は、透明性と接着性を有する材料から形成されていることが好ましく、例えば、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、アイオノマー樹脂等を主成分とする従来既知のヒートシール接着剤が広く使用できる。接着層の膜厚について特に限定はないが、0.1〜50μmの範囲であることが好ましく、1.0〜10μmがより好ましい。
【0067】
[保護層]
溶融転写層を転写性保護層とすることが出来る。転写性保護層は、被印字面の画像形成が完了した後に、画像形成領域に透明な被覆層として転写される。あるいは画像形成領域以外で、透明層として転写することができる。保護層は、従来から熱転写画像の保護層として用いられている各種の樹脂で形成することができ、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、これらの樹脂をシリコーン変性させた樹脂、これらの樹脂の混合物、電離放射線硬化性樹脂、紫外線遮断性樹脂等を用いることができる。
【0068】
電離放射線硬化性樹脂を含有する保護層は、耐可塑剤性や耐擦過性が特に優れている。電離放射線硬化性樹脂としては公知のものを使用することができ、例えば、ラジカル重合性のポリマー又はオリゴマーに、必要に応じて光重合開始剤を添加してなり、電子線や紫外線等の電離放射線により架橋重合可能な組成物を用いることが出来る。
【0069】
保護層の厚みは、保護層形成用樹脂の種類にもよるが、通常は0.5〜10μm程度の範囲とするのが好ましい。
【0070】
保護層は機能の異なる複数の層からなる多層構造であっても良く、例えば保護層の最表面に接着層が形成されていてもよい。接着層は、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂のような加熱時接着性の良好な樹脂で形成することができる。接着層の厚みは、通常は0.1〜5μm程度の範囲とする。
【0071】
転写性保護層を形成するには、保護層形成用樹脂をトルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、イソプロパノール等の単独溶剤又はこれらの混合溶剤に溶解、又は分散させて得られた保護層用塗布液を、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート等の従来公知の方法で剥離層上に塗工し、乾燥させることにより形成することができる。電離放射線硬化性樹脂を用いた場合には、塗工層を乾燥後、紫外線や電子線等の電離放射線を照射して塗工層を硬化する。
【0072】
転写性保護層が、上記接着層のような付加的な層を有する多層構造の場合には、保護層形成用樹脂を含有する保護層用塗布液、熱接着性樹脂を含有する接着層用塗布液、及び、その他必要に応じて付加される層を形成するための塗布液を予め調製しておき、それらを所定の順序で基材フィルム又は離型層の上に塗布し、乾燥させればよい。各層の間には適切なプライマー層を形成しても良い
【0073】
前記保護層の膜厚は、通常、0.6〜5.0μmであり、特に1.0〜4.0μmであるのが好ましい。この保護層は、形成成分を有機溶媒に分散あるいは溶解して塗布する方法(有機溶剤法)、加熱により熱可塑性樹脂などを軟化あるいは溶融状態にして塗布する方法(ホットメルト塗布法)などを採用して塗設されていても良いが、形成成分を水や有機溶媒に分散もしくは溶解させたエマルジョン、もしくは溶液などを用いて塗工されてなるのが好ましい。前記保護層の塗設に用いる塗工液中の層形成成分の合計の含有率は、通常は、5〜50重量%の範囲内に設定される。
【0074】
塗布方法は、通常の方法を利用して行なうことができる。塗布方法の例としては、ワイヤーバーを用いた方法、スクイズコート法およびグラビアコート法などを挙げることができる。また、保護層は、少なくとも一層で設けられていることが必要であるが、たとえば熱可塑性樹脂と熱溶融性化合物との配合比率などの異なる二層以上の保護層を積層して構成してもよい。
【0075】
[離型層]
離型層は、本発明の熱転写シート1における任意の構成である。離型層は、溶融転写層4および剥離層3を熱転写シート1から受像シート7へ容易に転写させられるように、基材2と剥離層3との間に設けられる。剥離層3は、離型層との界面で剥離して受像シート7に転写され、離型層は基材2上に残る。転写後に剥離層3が貫通する孔9を有する本願発明において、剥離層は脆弱であり安定して転写するために、離型層は、効果的な構成となりうる。この離型層は、基材フィルムがコロナ放電処理のような易接着処理(接着性向上処理)を施されている場合に特に効果的である。
【0076】
離型層3は、例えば、ワックス類、シリコーンワックス、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂等の離型剤或いは、それらの混合物などを用いて形成できる。
【0077】
このような離型層に帯電防止剤を含有させる場合、その含有量は使用する帯電防止剤の種類、剥離層の厚み等を考慮して適宜設定することができ、例えば、1〜50重量%の範囲で設定することができる。帯電防止剤の含有量が少なすぎると、剥離層3の剥離時において十分な帯電防止作用が発現されず、また、多すぎると、剥離層に要求される透明性の低下を引き起こすこととなり好ましくない。
【0078】
離型層の形成は、上記のような離型剤に帯電防止剤等の必要な添加剤を加えたものを適当な溶剤に溶解または分散して調整したインキを基材シート2上に公知の手段により塗布・乾燥させて行うことができ厚みは0.5〜5.0μm程度が好ましい。
【0079】
[背面層]
また本発明の熱転写シート1には必要に応じて基材2の裏面に背面層を設けてもよい(図示せず)。背面層はサーマルヘッドによる熱転写時に基材2を高温から保護するための層であり、言い換えれば、サーマルヘッドの粘着を防止し、且つ滑り性をよくするための層で、耐熱性の高い熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のほか、紫外線硬化性樹脂や、電子線硬化性樹脂も使用可能である。なお、背面層形成に好適な樹脂はフッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等であり、これらの樹脂を薄膜状で使用すればよい。又、背面層の設置によって従来は不適とされていた材料を基材にすることも可能である。この背面層は、上記のバインダー樹脂に滑り剤、界面活性剤、無機粒子、有機粒子、顔料等を添加したものを好適に使用し、形成される。背面層を形成する手段は、上記のごとき、バインダーに滑り剤、界面滑性剤、無機粒子、有機粒子、顔料等を追加した材料を、適当な溶剤中に溶解又は分散させて、塗工液を調整し、この塗工液をグラビアコーター、ロールコーター、ワイヤーバーなどの慣用の塗工手段により塗工し、乾燥する。 背面層の厚みは、融着防止や滑性等が果たせられる程度であれば充分で、通常0.1〜3.0μm程度である。
【0080】
[転写方法]
本発明の熱転写シート1を用い熱転写法にて剥離層3、溶融転写層4(剥離層3と溶融転写層4が積層されてなる転写層)を転写して被転写体上に画像形成を行う場合や、保護層としての転写層を転写して被転写体上に保護層の転写を行う場合、熱転写プリンタを熱溶融転写用、保護層転写用というように別々に転写条件を設定してもよいし、また、共通のプリンタでそれぞれ印字エネルギーを適切に調整して行ってもよい。また、加熱手段として特に限定されず、その他、熱板、ホットスタンパー、熱ロール、ラインヒーター、アイロンなどを用いて転写を行うこととしてもよい。
【0081】
特に好ましくは、本発明における熱転写シートは、従来使用されている熱転写装置(熱転写プリンター)に適用可能なものであり、従来の熱転写プリンタによる転写印刷同様、容易に異なるパターンの印刷が可能であり、また、ハンディタイプのプリンタの使用も可能である。
【0082】
[印刷物]
本発明における熱転写シートを用いて熱転写により得られたことを特徴とするにおい付き印刷物は、さまざま応用が可能である。
【0083】
今までの香り付き印刷とは異なり、現場にて容易に香りを付与することができるため、例えば、値札やPOPなどに使用して、カレールーの売り場においては、カレーの臭気成分を内包したマイクロカプセルを使用した熱転写シートで値札などに転写印刷し、インスタントラーメンの売り場の値札には、ラーメンの臭気成分を内包したマイクロカプセルを使用した熱転写シートを用いた印刷物を、イチゴアイスの売り場の値札には、イチゴの臭気成分とバニラの臭気成分を内包したマイクロカプセルを使用した熱転写シートを用いた印刷物を用いることで、通常は、包装製品としては臭気のない製品の売り場に、それぞれの香りを漂わせることで購買意欲を促進するなどの用途に好適である。さらに、製品包装ににおいを付与しているわけではないので、購入済みの製品のにおいが混合して不愉快な臭気となることがない。
【0084】
熱転写シートを着色する際は、溶融転写層を着色して、印刷色と臭気をリンクさせる用途も可能である。例えば、黄色にはバナナの香りを、赤にはイチゴの香りを、緑にはメロンの香りを発生するようにして、その場でカードに黄色でバナナを転写印刷すればバナナの香りが、赤色でイチゴを転写印刷すればイチゴの香りが発するカードとなり、子供たち等を喜ばせることができる。
【0085】
また、熱転写シートを透明層や保護層とすることで印刷色とは独立して香りをつけることができる。この場合、絵柄をあらかじめ印刷しておいたカードにその場で容易に臭気を付与することができる。
【0086】
また、複数の香りを、面積を変えて転写印刷することも容易であり、柑橘系・フローラル系・ハーブ系・ウッディー(樹木)系、スパイシー系、樹脂系等の香りのそれぞれ臭気成分を内包するマイクロカプセルを含有する剥離層を塗り分けた熱転写シートを作成して、転写印刷時に、好みの面積で印刷することにより、さまざまな香りの印刷物をその場で作成可能とする。これにより簡易的な調香を可能として、オリジナルの香り付きカードや、シールを作成することが可能となる。
【0087】
また、臭気成分としてdl・d−T80−アレスリン、トランスフルトリン等のピレスロイド系の殺虫成分を使用して、虫よけ機能付きの印刷物としてもよい。
【0088】
さらに、臭気成分として、シクロデキストリン系の化合物などを内包させて、消臭機能付き印刷物とすることも可能である。
【実施例】
【0089】
次に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
【0090】
<実施例1>
バニラの香りの香料をひまし油に5%溶解した溶液に対し、ウレタン樹脂とアゾジイソブチロニトリルを混合し溶解した。さらに溶解部を20℃のアラビアゴム5%水溶液に分散し、O/Wエマルジョンとした。油滴の粒径が7μmになったところで攪拌しながら90℃まで加熱し、3時間この温度を保つことにより粒径約10μmのバニラの香りの香料を内包したマイクロカプセル分散液を得、スプレードライ法によってマイクロカプセルパウダー(マイクロカプセル1)として取り出した。
【0091】
基材として4.5ミクロン厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。この基材に下記組成の剥離層用塗工液1を固形分塗布量が0.2g/m2、となるように塗工した。
[剥離層用塗工液1]
バニラの香りの香料を内包するマイクロカプセル1 :10.0重量部
カルナバワックスエマルジョン(コニシ社製WE−95):22.0重量部
スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製LX430) : 4.2重量部
酸化マイクロクリスタリンワックス : 4.6重量部
水 :59.2重量部
【0092】
[溶融転写層塗工液1]
エチレン−酢酸ビニル共重合体
(三井デュポンケミカル社製EV−40Y) : 1.0重量部
カーボンブラック : 6.0重量部
フェノール樹脂(荒川化学社製、タマノル526) :12.0重量部
メチルエチルケトン :80.0重量部
次に、上記剥離層の表面に固形分塗布量が約3.0g/m2になる様にグラビアコート法により下記溶融転写層塗工液1を塗布及び乾燥して溶融転写層を形成し、熱溶融型の熱転写シート1を作成した。
【0093】
完成した熱転写シート1は、バニラの臭気はなく、市販の熱転写プリンタに合わせてのカートリッジに加工することで、容易に文字や図柄を被写体に熱転写することができた。
また、印刷物を爪でこするとバニラのにおいが確認できた。バニラの臭気は12時間程度持続した。
【0094】
<実施例2>
マイクロカプセルとして、実施例1にて得られたマイクロカプセル1を使用した。
基材として厚さ6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製ルミラー)を使用した。基材の一方の面にシリコーン樹脂をグラビコート法により塗布して背面層(厚み1μm)を形成した。
【0095】
次に、基材の背面層を形成した面と反対の面にグラビアコート法により下記の組成の非転写性離型層用塗工液1を塗布(塗布量0.5g/m2(乾燥時))し乾燥して、帯電防止剤であるアンチモン酸亜鉛を含有した離型層を形成した。
[非転写性離型層用塗工液1]
コロイダルシリカ
(日産化学(株)製スノーテックス50) : 1.5重量部
ポリビニルアルコール : 4.0重量部
イオン交換水 : 3.0重量部
変性エタノール :10.0重量部
アンチモン酸亜鉛
(日産化学(株)製セルナックス) :18.5重量部
【0096】
次に、離型層上に下記組成の剥離層用塗工液2をグラビアコート法により塗布(塗布量2.0g/m2(乾燥時))し乾燥して剥離層を形成した。
[剥離層用塗工液2]
バニラの香りの香料を内包するマイクロカプセル1 :10.0重量部
アクリル樹脂 :10.0重量部
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 : 5.0重量部
ポリエチレンワックス : 0.3重量部
ポリエステル樹脂 : 0.1重量部
メチルエチルケトン :35.0重量部
トルエン :35.0重量部
【0097】
次に、この剥離層上に下記組成の紫外線吸収層用塗工液1をグラビアコート法により塗布(塗布量2g/m2(乾燥時))し乾燥して紫外線吸収層である保護層を形成した。
[紫外線吸収層用塗工液1]
反応性紫外線吸収剤を反応結合した共重合樹脂 :40.0重量部
(BASFジャパン社製UVA−635L)
メチルエチルケトン :30.0重量部
トルエン :30.0重量部
【0098】
さらに、紫外線吸収層上に下記組成の接着層用塗工液1をグラビアコート法により塗布(塗布量2g/m2(乾燥時))し乾燥して接着層を形成した。
[接着層用塗工液1]
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 :10.0重量部
メチルエチルケトン :45.0重量部
トルエン :45.0重量部
以上により、非転写性の離型層(帯電防止剤を含有)上に、剥離層と紫外線吸収層と接着層の積層体である溶融転写層を剥離可能に備えた層構成の熱転写シート2を作製した。
【0099】
完成した熱転写シート2は、バニラの臭気はなく、市販の熱転写プリンタに合わせてのカートリッジに加工することで、絵柄を印刷した印刷物に透明な保護層を転写印刷することができた。また、透明な保護層を有する印刷物を爪でこするとバニラのにおいが確認できた。バニラの臭気は12時間程度持続した。
【0100】
<実施例3>
マイクロカプセルとして、実施例1にて得られたマイクロカプセル1を使用した。
基材として4.5ミクロン厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。この基材上に実施例1にて使用したのと同じ剥離層用塗工液1を固形分塗布量が0.2g/m2、となるように塗工した。
【0101】
[溶融転写層塗工液2]
エチレン−酢酸ビニル共重合体
(三井デュポンケミカル社製EV−40Y) : 1.0重量部
フェノール樹脂(荒川化学社製、タマノル526) :13.0重量部
メチルエチルケトン :85.0重量部
次に、上記剥離層の表面に固形分塗布量が約3.0g/m2になる様にグラビアコート法により上記溶融転写層塗工液2を塗布及び乾燥して溶融転写層を形成し、熱溶融型の熱転写シート3を作成した。
【0102】
完成した熱転写シート3は、バニラの臭気はなく、市販の熱転写プリンタに合わせてのカートリッジに加工することで、絵柄を印刷した印刷物に透明な臭気発生層としての保護層を転写印刷することができた。また、透明な保護層を有する印刷物を爪でこするとバニラのにおいが確認できた。バニラの臭気は12時間程度持続した。
【0103】
<実施例4>
真空チャンバー内に平均粒径4μm、比表面積300m2/gの多孔質シリカ(エネックス社製MCB−FP/4)40重量部を投入した。これとは別に、被担持物質として用意したバニラの香りの香料30重量部をメチルエチルケトン100重量部に溶解したものを用意した。さらに、ガラス転移温度(Tg)100℃のアクリル樹脂30重量部をメチルエチルケトン100重量部に溶解したものを用意した。真空チャンバー内を減圧下におきながら、先に調製したバニラの香りの香料を加え、多孔質シリカに充分浸透させた後、30分間攪拌して大気圧に戻した。真空チャンバー内を60℃に加熱しながら減圧し、メチルエチルケトンを蒸発分離させた。次いで、アクリル樹脂溶液を真空チャンバーに投入し、減圧下で攪拌しながら浸透させた。次に、再び真空チャンバー内を60℃に加熱しながら減圧し、メチルエチルケトンを蒸発分離させてアクリル樹脂を皮膜物質とするマイクロカプセル2を得た。
【0104】
基材として4.5ミクロン厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。この基材上に下記組成の剥離層用塗工液3を固形分塗布量が0.2g/m2、となるように塗工した。
[剥離層用塗工液3]
バニラの香りの香料内包シリカ微粒子
(マイクロカプセル2) :10.0重量部
カルナバワックスエマルジョン(コニシ社製WE−95):22.0重量部
スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製LX430) : 4.2重量部
酸化マイクロクリスタリンワックス : 4.6重量部
水 :59.2重量部
【0105】
次に、上記剥離層の表面に塗布量が約3.0g/m2になる様にグラビアコート法により実施例1で使用した溶融転写層塗工液1を塗布及び乾燥して溶融転写層を形成し、熱溶融型の熱転写シート4を作成した。
【0106】
完成した熱転写シート4は、バニラの臭気はなく、市販の熱転写プリンタに合わせてのカートリッジに加工することで、容易に文字や図柄を転写印刷することができた。
また、印刷物は7日にわたりバニラのにおいが確認できた。
【0107】
<実施例5>
マイクロカプセルとして実施例4にて作製したマイクロカプセル2を用いた。
基材として厚さ6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製ルミラー)を使用した。基材の一方の面にシリコーン樹脂をグラビコート法により塗布して背面層(厚み1μm)を形成した。
【0108】
次に、基材の背面層を形成した面と反対の面にグラビアコート法により実施例2で使用した非転写性離型層用塗工液1を塗布(固形分塗布量0.5g/m2)し乾燥して、帯電防止剤であるアンチモン酸亜鉛を含有した離型層を形成した。
【0109】
次に、離型層上に下記組成の剥離層用塗工液3をグラビアコート法により塗布(塗布量2g/m2(乾燥時))し乾燥して剥離層を形成した。
[剥離層用塗工液3]
バニラの香りの香料内包シリカ微粒子
(マイクロカプセル2) :10.0重量部
アクリル樹脂 :10.0重量部
塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 : 5.0重量部
ポリエチレンワックス : 0.3重量部
ポリエステル樹脂 : 0.1重量部
メチルエチルケトン :35.0重量部
トルエン :35.0重量部
【0110】
次に、この剥離層上に実施例2で使用した紫外線吸収層用塗工液1をグラビアコート法により塗布(塗布量2g/m2(乾燥時))し乾燥して紫外線吸収層を形成した。
さらに、紫外線吸収層上に実施例2で使用した接着層用塗工液1をグラビアコート法により塗布(塗布量2g/m2(乾燥時))し乾燥して接着層を形成した。
【0111】
以上により、非転写性の離型層(帯電防止剤を含有)上に、剥離層と、紫外線吸収層と接着層の積層体である溶融転写層を剥離可能に備えた層構成の熱転写シート5を作製した。
【0112】
完成した熱転写シート5は、バニラの臭気はなく、市販の熱転写プリンタに合わせてのカートリッジに加工することで、容易に文字や図柄を転写印刷することができた。
また、印刷物は7日にわたりバニラのにおいが確認できた。
【0113】
<実施例6>
真空チャンバー内に平均粒径4μm、比表面積300m2/gの多孔質シリカ(エネックス社製MCB−FP/4)40重量部を投入した。これとは別に、被担持物質として用意したバニラの香りの香料30重量部をメチルエチルケトン100重量部に溶解したものを用意した。さらに、ビスフェノール型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製JER828)10重量部を純水100重量部に溶解したものを用意した。真空チャンバー内を減圧下におきながら、先に調製したバニラの香りの香料の溶液を加え、多孔質シリカに充分浸透させた後、30分間攪拌して大気圧に戻した。真空チャンバー内を60℃に加熱しながら減圧し、メチルエチルケトンを蒸発分離させた。次いで、エポキシ樹脂溶液を真空チャンバーに投入し、減圧下で攪拌しながら浸透させた。次に、再び真空チャンバー内を80℃に加熱しながら減圧し、純水を蒸発分離させ、さらに、100℃で3時間加熱してエポキシ樹脂を硬化させ皮膜物質としてバニラの香りの香料内包シリカ微粒子(マイクロカプセル3)を得た。
【0114】
基材として4.5ミクロン厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。この基材に下記組成の剥離層用塗工液4を固形分塗布量が0.2g/m2、となるように塗工した。
[剥離層用塗工液4]
バニラの香りの香料内包シリカ微粒子
(マイクロカプセル3) :10.0重量部
カルナバワックスエマルジョン(コニシ社製WE−95):22.0重量部
スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製LX430) : 4.2重量部
酸化マイクロクリスタリンワックス : 4.6重量部
水 :59.2重量部
【0115】
次に、上記剥離層の表面に固形分塗布量が約3.0g/m2になる様にグラビアコート法により実施例3で用いた溶融転写層塗工液2を塗布及び乾燥して溶融転写層を形成し、熱溶融型の熱転写シート6を作成した。
【0116】
完成した熱転写シート6は、バニラの臭気はなく、市販の熱転写プリンタに合わせてのカートリッジに加工することで、絵柄を印刷した印刷物に透明な臭気発生層として保護層を転写印刷することができた。また、透明層を有する印刷物を爪でこするとバニラのにおいが確認できた。印刷物は7日にわたりバニラのにおいが確認できた。
【0117】
<比較例1>
マイクロカプセルとして実施例1にて作製したマイクロカプセル1を使用した。
基材として4.5ミクロン厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。この基材に下記組成の剥離層用塗工液5を固形分塗布量が0.2g/m2、となるように塗工した。
[剥離層用塗工液5]
カルナバワックスエマルジョン(コニシ社製WE−95) 32.0重量部
スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製LX430) 4.2重量部
酸化マイクロクリスタリンワックス 4.6重量部
水 59.2重量部
【0118】
次に、上記剥離層の表面に固形分塗布量が約3.0g/m2になる様にグラビアコート法により下記溶融転写層塗工液3を塗布及び乾燥して溶融転写層を形成し、熱溶融型の熱転写シートを作成した。
[溶融転写層塗工液3]
バニラの香りの香料を内包するマイクロカプセルパウダー
(マイクロカプセル1) 8.0重量部
エチレン−酢酸ビニル共重合体
(三井デュポンケミカル社製EV−40Y) 1.0重量部
カーボンブラック 3.0重量部
フェノール樹脂(荒川化学社製、タマノル526) 12.0重量部
メチルエチルケトン 75.0重量部
【0119】
熱転写シートは、臭気成分を内包するマイクロカプセルが含まれる溶融転写層が最表面にあるので、においを完全に遮断することができず、取扱時に容易ににおいを発生するものであった。従って、未使用時のにおいの発生を防ぐため、保管取扱上、熱転写シートを密閉しておく必要があり、作業性が劣るものであった。完成した熱転写シートは、ほのかにバニラの臭気がし、市販の熱転写プリンタに合わせてカートリッジに加工する際にはバニラの臭気が一段と強くなった。市販の熱転写プリンタに合わせてのカートリッジに加工することで、容易に文字や図柄を転写印刷することができた。また、印刷物は、臭気成分を内包するマイクロカプセルが含まれる溶融転写層が受像シートと剥離層でおおわれているため爪でこすってもほとんどバニラのにおいがすることはなかった。
【符号の説明】
【0120】
1 熱転写シート
2 基材
3 剥離層
4 溶融転写層
5 臭気成分を内包するマイクロカプセル
6 におい付き印刷物
7 受像シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の面に、被担持物質として臭気成分を内包したマイクロカプセルを含有した剥離層、溶融転写層を順に設けたことを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
前記マイクロカプセルが、多孔質微粒子の孔内に被担持物質として臭気成分を内包し、その表面を高分子化合物で被覆することにより形成したものであることを特徴とする請求項1に記載する熱転写シート。
【請求項3】
前記の溶融転写層が、着色層、又は保護層であることを特徴とする請求項1または、請求項2に記載する熱転写シート。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかの熱転写シートを用いて熱転写することにより得られたことを特徴とするにおい付き印刷物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−91166(P2013−91166A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232751(P2011−232751)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】