説明

熱転写シート

【課題】 高温高湿下での保存後であっても印画時における受像シートとの離型性が良好で、染料層と基材との接着強度に優れ、反射濃度が高い熱転写シートを提供する。
【解決手段】 基材の一方の面に、コロイド状無機顔料超微粒子とアルミニウムアルコレートとを用いて形成してなる下引き層、及び、染料層を順次積層していることを特徴とする熱転写シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の一方の面に下引き層、染料層を順次形成した熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱転写を利用した画像の形成方法として、記録材としての熱拡散型染料(昇華型染料)をプラスチックフィルム等の基材シート上に担持させた熱転写シートと、紙やプラスチックフィルム等の別の基材シート上に該染料の受容層を設けた熱転写受像シートとを互いに重ね合わせてフルカラー画像を形成する熱拡散型転写方式(昇華型熱転写方式)が知られている。この方法は熱拡散型染料を色材としているためドット単位で濃度、階調を自由に調節でき、原稿通りのフルカラー画像を受像シート上に鮮明に表現することができるので、デジタルカメラ、ビデオ、コンピューター等のカラー画像形成に応用されている。その画像は、銀塩写真に匹敵する高品質なものである。
【0003】
しかしながら、昇華転写方式による画像形成は、熱転写プリンターの印画速度の高速化が進むに従い、従来の熱転写シートでは充分な印画濃度が得られないという問題が生じてきた。
昇華転写方式による画像形成では、また、染料層ごと熱転写受像シートに転写する、いわゆる異常転写を防止するため、熱転写シートにおける基材シートと染料層との接着強度が高いことが求められている。
印画濃度が高く、基材シートと染料層との接着強度が向上した熱転写シートとして、基材シートと染料層との間に中間層を設けた熱転写シートが知られている。
【0004】
中間層を設けた熱転写シートとして、例えば、ポリビニルピロリドンとポリビニルアルコールとからなる親水性バリアー/下塗り層を、染料層と基材シートとの間に設けた熱転写シート、ベースフィルムと昇華性染料を含む記録層との間に、拡散係数が記録層に含まれる昇華染料の拡散係数よりも小さい昇華性染料を含む中間層を設けた熱転写シート等が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、いずれの熱転写シートも、印画濃度が充分に高い印画物が得ることができない。
【0005】
特許文献3には、基材上に金属又は金属酸化物を蒸着させてなる層を形成し、該層上に染料薄膜を設けた熱転写シートが記載されている。しかしながら、この熱転写シートは、印画濃度が充分に高い印画物が得ることができず、また、蒸着する際に特別な装置が必要となり、製造コストが高くなる問題があった。
【0006】
特許文献4には、基材上と染料層との間にN−ビニルピロリドンのホモポリマー又はN−ビニルピロリドンと他の成分とのコポリマーを含有する易接着層を設けた熱転写シートが記載されている。この易接着層は、上述の各ポリマーに加え、アルミナ等を配合してなるものであってもよいが、これらの化合物の含有は、いずれも必須ではない。また、特許文献4の熱転写シートでは、染料転写効率が不充分である問題があるほか、印画時の離型性に劣り、高温高湿下に保存した場合、離型性は更に悪化する問題がある。
【0007】
特許文献5には、熱転写シートの基材と染料層との間に下塗り層としてトリアルコキシシランを塗布する実施例が記載されているが、熱転写受像シートへの印画後において色素供与素子が受容素子と粘着し離型性に劣る問題が指摘されている。
【特許文献1】特開平5−131760号公報
【特許文献2】特開昭60−232996号公報
【特許文献3】特開昭59−78897号公報
【特許文献4】特開2003−312151号公報
【特許文献5】特開昭63−135288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、染料層と基材との接着強度に優れ、反射濃度が高く、高温高湿下での保存後であっても印画時における受像シートとの離型性が良好な熱転写シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基材の一方の面に、コロイド状無機顔料超微粒子とアルミニウムアルコレートとを用いて形成してなる下引き層、及び、染料層を順次積層していることを特徴とする熱転写シートである。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の熱転写シートは、基材の一方の面に、下引き層及び染料層を順次積層してなるものである。
上記基材としては、特に限定されないが、熱転写時に劣化しない程度の耐熱性と強度を有する樹脂からなるものが好ましい。
上記基材を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルフィド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリサルホン、ポリアミド(アラミド)、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリイミド、アイオノマー等が挙げられる。上記樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
上記基材は、上述の樹脂1種のみからなるものであってもよいし、2種以上の樹脂からなるものであってもよい。
上記基材は、厚さが、通常、約0.5〜50μm、好ましくは、約1〜10μmである。
【0011】
本発明の熱転写シートは、下引き層がコロイド状無機顔料超微粒子とアルミニウムアルコレートとを用いて形成してなるものであるので、基材と下引き層との接着性に優れているが、該接着性を更に向上させるため、基材の下引き層及び染料層を形成する面に接着処理を施すことが好ましい。
上記接着処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、低温プラズマ処理、プライマー処理、グラフト化処理等、公知の樹脂表面改質技術を適用することができる。上記接着処理は、1種のみ行ってもよいし、2種以上行ってもよい。
本発明において、上記接着処理としては、コストが高くならずに基材と下引き層との接着性を高めることができる点で、コロナ放電処理又はプラズマ処理が好ましい。
【0012】
本発明の熱転写シートにおける下引き層は、コロイド状無機顔料超微粒子とアルミニウムアルコレートとを用いて形成してなるものである。
上記コロイド状無機顔料超微粒子は、平均粒径が、通常100nm以下、好ましくは50nm以下であり、特に3〜30nmであることがより好ましい。
本発明において、上記コロイド状無機顔料超微粒子が上記範囲内の平均粒径を有することより、熱転写シートにおいて、基材と下引き層との接着性が向上し、異常転写を防ぐことができる。上記コロイド状無機顔料超微粒子は、球状、針状、板状、羽毛状、無定形等、如何なる形状であってもよい。
【0013】
上記コロイド状無機顔料超微粒子は、後述のアルミニウムアルコレートとの縮合反応が可能なものであれば特に限定されない。
上記コロイド状無機顔料超微粒子としては、例えば、アルミナ又はアルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、カチオン性アルミニウム酸化物又はその水和物、擬ベーマイド等)、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム等、酸化チタン等が挙げられる。なかでも、基材との接着性向上の点で、アルミナゾル等が好ましい。
上記コロイド状無機顔料超微粒子は、溶剤又は分散媒にゾル状に分散しやすいようにするため、酸性タイプに処理したものであってもよいし、微粒子荷電をカチオンにしたものであってもよいし、表面処理したものであってもよい。
本発明において、下引き層は、上記コロイド状無機顔料超微粒子として1種のみを用いて形成してなるものであってもよいし、コロイド状無機顔料超微粒子として2種以上を用いて形成してなるものであってもよい。
【0014】
本発明において、アルミニウムアルコレートは、コロイド状無機顔料超微粒子の粒子間を橋架けし、下引き層の造膜性及び機械的強度を向上させることにより印画時の離型性を良好にし、更に基材と染料層との接着強度を高くするために配合するものである。
上記橋架け構造としては、例えば、(1)後述の下引き層形成終了時までに、上記アルミニウムアルコレートにおける−Al−OR基(式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表す。)と、コロイド状無機顔料超微粒子における−M−OH基(式中、Mは、コロイド状無機顔料超微粒子を構成する原子であって、酸素原子及び水素原子以外のものである。)とが縮合反応し、−Al−O−M−結合が生成することにより形成するものが考えられる。
また、上記橋架け構造の形成とともに、(2)上記アルミニウムアルコレートのアルコキシル基が加水分解して生じる−Al−OH基同士が脱水縮合により−Al−O−Al−結合を形成する一連の反応により形成する各アルミニウムアルコレート間の橋架け構造や、(3)上記−Al−OH基同士間における水素結合、(4)上記アルミニウムアルコレートのアルコキシル基が加水分解して生じる−Al−OH基と基材表面の極性基との水素結合等が生じることにより、上記離型性や接着強度が更に向上することが考えられる。
上記(1)〜(3)における加水分解、縮合反応及び水素結合形成は、下引き層塗工液調製時から生じていてもよい。
【0015】
従来、熱転写シートにおいて、下引き層にコロイド状無機顔料超微粒子のみ配合した場合、高温高湿下での保存後に印画すると受像シートとの離型性が悪化する問題があった。また、下引き層にコロイド状無機顔料超微粒子と、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の熱可塑性樹脂とを配合した場合、得られる熱転写シートは、高温高湿下での保存後に印画しても受像シートとの離型性は良いが、染料層と基材との接着強度が弱い傾向があった。
これに対し、本発明の熱転写シートは、上述したように、コロイド状無機顔料超微粒子のみならずアルミニウムアルコレートをも用いた下引き層を形成することにより橋架け構造を形成することができるので、高温高湿下での保存後であっても受像シートとの離型性が良く、また、染料層と基材との接着強度が良い。
【0016】
上記アルミニウムアルコレートとは、一般に、下記式:
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、Rは、炭素数1〜10のアルキル基を表す。R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシル基、フェニル基又はフェノキシ基を表す。上記アルキル基及び上記アルコキシル基は、それぞれ炭素数が3以上である場合、直鎖でも分岐鎖であってもよい。)で表される化合物を意味する。
【0019】
上記アルミニウムアルコレートとしては、例えば、アルミニウムエチレート(Al(OCHCH)、下記式(I)〜(III)で表されるアルミニウムイソプロピレート〔AIPD〕、アルミニウムイソプロピレートモノセカンダリーブチレート〔AMD〕、アルミニウムセカンダリーブチレート〔ASBD〕等が挙げられる。
【0020】
【化2】

【0021】
上記アルミニウムアルコレートは、川研ファインケミカル社製の製品等、各種製品であってもよい。
本発明において、下引き層は、上記アルミニウムアルコレートとして1種のみ配合してなるものであってもよいし、2種以上配合してなるものであってもよい。
【0022】
本発明において、下引き層形成のために用いる上記アルミニウムアルコレートは、コロイド状無機顔料超微粒子と上記アルミニウムアルコレートとの合計100質量部に対し0.1〜50質量部であることが好ましく、高温高湿下にて保存した後であっても染料層と基材との接着強度に優れる点で、1〜10質量部であることがより好ましい。
該下引き層形成においてアルミニウムアルコレートの配合割合が低過ぎると、造膜性の向上等、上述のアルミニウムアルコレートの配合に基づく効果が充分に得られないことがある。一方、該下引き層形成においてアルミニウムアルコレートの配合割合が高すぎると、該下引き層の塗工液のゲル化、反射濃度の低下、高温高湿下での保存後における基材と染料層との接着強度の低下等が生じることがある。
【0023】
本発明の熱転写シートは、基材の一方の面に、上述の下引き層を介して染料層を設けたものである。
本発明の熱転写シートは、上記染料層として、所望の染料を含有する層を1種のみ有するものであってもよいし、所望の染料を含有する層を2種以上有するものであってもよい。
【0024】
上記染料層は、染料をバインダーにより担持してなる層である。
上記染料は、従来公知の昇華転写型熱転写シートに使用可能な染料であって、熱により溶融、拡散又は昇華移行するものであれば、特に限定されず、色相、印画感度、耐光性、保存性、バインダーへの溶解性等を考慮して適宜選択することができる。
【0025】
上記染料としては、特に限定されず、例えば、ジアリールメタン系色素;トリアリールメタン系色素;チアゾール系色素;メロシアニン系色素;ピラゾロンメチン等のメチン系色素;インドアニリン系色素;アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチンに代表されるアゾメチン系色素;キサンテン系色素;オキサジン系色素;ジシアノスチレン、トリシアノスチレンに代表されるシアノスチレン系色素;チアジン系色素;アジン系色素;アクリジン系色素;ベンゼンアゾ系色素;ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジズアゾ等のアゾ系色素;スピロピラン系色素;インドリノスピロピラン系色素;フルオラン系色素;ローダミンラクタム系色素;ナフトキノン系色素;アントラキノン系色素;キノフタロン系色素等が挙げられる。
【0026】
上記染料層におけるバインダーとしては、特に限定されず、従来公知の樹脂バインダーを使用することができる。
上記樹脂バインダーとしては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;フェノキシ樹脂;等が好ましい。
上記樹脂バインダーとしては、高温、高湿下に放置した後であっても下引き層と染料層との接着性を維持することができる点で、接着性が高い樹脂がより好ましい。
上記接着性が高い樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂等、水酸基、カルボキシル基等を有する樹脂が挙げられる。
【0027】
上記染料層における樹脂バインダーとしては、更に、離型性グラフトコポリマーも挙げられる。上記離型性グラフトコポリマーは、離型剤として上記樹脂バインダーとともに配合することもできる。
上記離型性グラフトコポリマーは、ポリシロキサンセグメント、フッ化炭素セグメント、フッ化炭化水素セグメント及び長鎖アルキルセグメントから選択された少なくとも1種の離型性セグメントを、上述の樹脂バインダーを構成するポリマー主鎖にグラフト重合させてなるものである。
上記離型性グラフトコポリマーとしては、なかでも、ポリビニルアセタールからなる主鎖にポリシロキサンセグメントをグラフトさせて得られるグラフトコポリマーが好ましい。
【0028】
上記染料層は、上記染料、上記バインダーに加え、シランカップリング剤を配合してなるものであってもよい。
上記染料層にシランカップリング剤を配合した場合、シランカップリング剤が加水分解して生じるシラノール基と、下引き層表面に存在する無機化合物の水酸基とが縮合することにより、染料層と下引き層との接着性が向上すると考えられる。また、シランカップリング剤がエポキシ基、アミノ基等を有する場合、樹脂バインダーの水酸基やカルボキシル基等と反応して化学結合することにより、染料層自体の強度が向上し、熱転写時等の染料層の凝集破壊等を防止できる。
【0029】
上記シランカップリング剤として、例えば、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有化合物;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有化合物;γ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有化合物;等が挙げられる。
上記染料層において、上記シランカップリング剤は、1種のみ配合してもよいし、2種以上を配合してもよい。
【0030】
上記染料層は、上記染料、上記バインダー、及び、所望により添加するシランカップリング剤に加え、更に、従来公知の各種添加剤を配合してなるものであってもよい。
上記添加剤としては、例えば、熱転写受像シートとの離型性やインキの塗工適性を向上させるために添加するポリエチレンワックス等、有機微粒子、無機微粒子等が挙げられる。
【0031】
本発明の熱転写シートは、更に、上述の下引き層等を形成する面と反対側の基材面上に、耐熱滑性層を設けてなるものであってもよい。
上記耐熱滑性層は、ステッキングや印画しわ等、熱転写時にサーマルヘッドの熱が原因で生じる問題を防止するために設けるものである。
【0032】
上記耐熱滑性層は、通常、耐熱性樹脂からなるものである。
上記耐熱性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン又はエポキシのプレポリマー、ニトロセルロース樹脂、セルロースナイトレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートヒドロジエンフタレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0033】
上記耐熱滑性層は、通常、サーマルヘッドの滑り性を良くするために、上記耐熱性樹脂に加え、滑り性付与剤を配合してなるものである。
上記滑り性付与剤としては、例えば、リン酸エステル、金属石鹸、シリコーンオイル、グラファイトパウダー、フッ素系グラフトポリマーや、シリコーン系グラフトポリマー、アクリルシリコーングラフトポリマー、アクリルシロキサン、アリールシロキサン等のシリコーン重合体等が挙げられる。
上記耐熱滑性層において、上記滑り性付与剤は1種のみ配合してもよいし、2種以上配合してもよい。
なお、上記滑り性付与剤は、上記耐熱滑性層に配合することに代え、上記耐熱滑性層上に上塗りしてもよい。
【0034】
上記耐熱滑性層は、耐熱性樹脂及び所望により配合する上記滑り性付与剤に加え、架橋剤、離型剤、有機粉末、無機粉末等の添加剤を配合してなるものであってもよい。
例えば、上記耐熱滑性層にポリイソシアネート等の架橋剤を配合した場合、耐熱性、塗膜性、密着性等を向上することができる。また、上記耐熱滑性層に離型剤、有機粉末又は無機粉末を配合した場合、サーマルヘッドの走行性を向上することができる。上記離型剤としては、ワックス、高級脂肪酸アミド、エステル、界面活性剤等が挙げられる。上記有機粉末としては、フッ素樹脂等が挙げられる。上記無機粉末としては、シリカ、クレー、タルク、雲母、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0035】
本発明の熱転写シートは、例えば、基材の一方の面上に、下引き層塗工液及び染料層塗工液を用いて、下引き層及び染料層を順次形成することにより作成することができるが、なかでも、(1)基材の一方の面上に、耐熱滑性層塗工液を塗布、乾燥することにより耐熱滑性層を形成し、(2)得られた耐熱滑性層を有する基材に対し、該耐熱滑性層と反対側の面に、下引き層塗工液及び染料層塗工液を用いて下引き層及び染料層を順次形成することにより作成することが好ましい。
【0036】
上記耐熱滑性層は、通常、上述の耐熱性樹脂、並びに、所望により添加する上記滑り性付与剤及び添加剤を適当な溶剤中に加えて、各成分を溶解又は分散させて耐熱滑性層塗工液を調製し、その後、該耐熱滑性層塗工液を基材の上に塗布、乾燥させて形成することができる。
上記耐熱滑性層塗工液の塗布法としては、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等が挙げられるが、なかでもグラビアコーティングが好ましい。
上記耐熱滑性層塗工液は、乾燥塗布量が好ましくは0.1〜3.0g/m、より好ましくは1.5g/m以下となるよう塗布すればよい。
【0037】
上記下引き層塗工液は、上記アルミニウムアルコレート及び上記コロイド状無機顔料超微粒子からなるものであり、アルミニウムアルコレート及びコロイド状無機顔料超微粒子が溶剤又は分散媒にゾル状に溶解又は分散したものである。
上記下引き層塗工液において、上記コロイド状無機顔料超微粒子は、特に限定されないが、所望の効果を得る点で0.1〜50質量%であることが好ましい。
上記下引き層塗工液において、上記アルミニウムアルコレートは、上記コロイド状無機顔料超微粒子に対し上述の範囲内で含有するものであればよい。
上記下引き層塗工液における溶剤又は分散媒としては、特に限定されず、例えば、水;エタノール、プロパノール等のアルコール類;水と上記アルコール類との混合物;等を挙げることができる。更に、上記溶剤又は分散媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類;トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;クロロホルム、トリクロルエチレン等の塩素系溶剤;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の含窒素系溶剤;ジメチルスルホキシド;等の有機溶剤と水との混合物も使用することができるが、水、アルコール類、水とアルコール類との混合物であることが好ましい。
該下引き層塗工液のpHは、特に限定されない。
該下引き層塗工液は、公知の方法にて調製することができ、例えば、上記コロイド状無機顔料超微粒子を含有するゾル状の分散液にアルミニウムアルコレートを含有する溶液を配合することにより調製することができる。
【0038】
該下引き層塗工液の塗布法としては、上述の耐熱滑性層の塗工において例示した方法が挙げられるが、なかでも、グラビアコーティングが好ましい。
該下引き層塗工液は、乾燥塗布量が好ましくは0.02〜1.0g/m程度、より好ましくは0.03〜0.3g/m程度となるよう塗布すればよい。
該下引き層塗工液の塗布後、熱風等により乾燥し、コロイド状無機顔料超微粒子がゾル状からゲル状になるように水分を除去し、無機顔料超微粒子とアルミニウムアルコレートとを橋架けさせ、基材上に固着させる。
【0039】
上記染料層は、通常、適当な溶剤中に上記染料及びバインダーと、必要に応じて添加剤とを加えて、各成分を溶解又は分散させて染料層塗工液を調製し、その後、該染料層塗工液を下引き層上に塗布、乾燥させて形成することができる。
上記染料層の塗布法としては、上述の耐熱滑性層の塗工において例示した方法が挙げられるが、なかでも、グラビアコーティングが好ましい。
上記染料層塗工液は、乾燥塗布量が好ましくは0.2〜6.0g/m程度、より好ましくは0.3〜3.0g/m程度となるよう塗布すればよい。
【発明の効果】
【0040】
本発明の熱転写シートは、上記構成よりなるので、染料層と基材との接着強度に優れ、反射濃度が高く、高温高湿下にて保存した後であっても印画時における受像シートとの離型性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例のみに限定されるものではない。
なお、文中、部又は%とあるのは特に断りのない限り、質量基準である。
【0042】
実施例1
基材として、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレート〔PET〕フィルム上に、下記組成の下引き層塗工液1をグラビアコーティングにより乾燥塗布量が0.18〜0.22g/mになるように塗布、乾燥して、下引き層を形成した。
更に、該下引き層の上に、下記組成の染料層塗工液をグラビアコーティングにより、乾燥塗布量が0.7g/mになるように塗布、乾燥して染料層を形成し、実施例1の熱転写シートを作製した。
なお、上記基材の他方の面に、予め下記組成の耐熱滑性層塗工液をグラビアコーティングにより乾燥塗布量が1.0g/mになるように塗布、乾燥して、耐熱滑性層を形成しておいた。
【0043】
<下引き層塗工液1>
アルミナゾル(アルミナゾル200、日産化学工業社製、固形分10%)
39.960部
アルミニウムアルコレート(アルミニウムセカンダリーブチレート(ASBD)、川研ファインケミカル社製) 0.004部
水 12.036部
イソプロピルアルコール 48.000部
【0044】
<染料層塗工液>
C.I.ソルベントブルー63 6.0部
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBX−1 積水化学工業社製)3.0部
メチルエチルケトン 45.5部
トルエン 45.5部
【0045】
<耐熱滑性層塗工液>
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBX−1、積水化学工業社製)
13.6部
ポリイソシアネート硬化剤(タケネートD218、武田薬品工業社製)0.6部
リン酸エステル(プライサーフA208S、第一工業製薬社製) 0.8部
メチルエチルケトン 42.5部
トルエン 42.5部
【0046】
実施例2〜6
下引き層塗工液1に代え、表1の下引き層塗工液2〜6を用いて下引き層を形成した以外は実施例1と同様にして、熱転写シートを作製した。
【0047】
実施例7
下引き層塗工液1に代え、下記下引き層塗工液7を用いて下引き層を形成した以外は実施例1と同様にして、熱転写シートを作製した。
<下引き層塗工液7>
アルミナゾル(アルミナゾル200、日産化学工業社製、固形分10%)
38.000部
アルミニウムアルコレート(アルミニウムイソプロピレートモノセカンダリーブチレート(AMD)、川研ファインケミカル社製) 0.200部
水 13.800部
イソプロピルアルコール 48.000部
【0048】
比較例1
下引き層塗工液1に代え、下引き層塗工液8を用いて下引き層を形成した以外は実施例1と同様にして、熱転写シートを作製した。
<下引き層塗工液8>
アルミナゾル(アルミナゾル200、日産化学工業社製、固形分10%)40部
水 12部
イソプロピルアルコール 48部
【0049】
比較例2
下引き層塗工液1に代え、下引き層塗工液9を用いて下引き層を形成した以外は実施例1と同様にして、熱転写シートを作製した。
<下引き層塗工液9>
アルミニウムアルコレート(アルミニウムセカンダリーブチレート(ASBD)、川研ファインケミカル社製) 4部
イソプロピルアルコール 96部
【0050】
【表1】

【0051】
比較例3
下引き層塗工液1に代え、下引き層塗工液10を乾燥塗布量が0.07g/mになるよう塗布して下引き層を形成した以外は実施例1と同様にして、熱転写シートを作製した。
<下引き層塗工液10>
ポリビニルピロリドン樹脂(K−90、ISP製) 3部
水 48.5部
イソプロピルアルコール 48.5部
【0052】
比較例4
下引き層を形成しなかった以外は実施例1と同様にして、熱転写シートを作製した。
【0053】
試験例
下記方法にて、各実施例及び各比較例から得られた熱転写シートの評価を行った。
1.反射濃度
(1)各実施例及び各比較例の熱転写シートとP−400プリンター専用の熱転写受像シート(OLYMPUS社製)とを用いて、下記条件下でP−400プリンター(OLYMPUS社製)にて印画を行った。
・印画条件
サーマルヘッド;KGT−217−12MPL20(京セラ社製)
発熱体平均抵抗値;2994(Ω)
主走査方向印画密度;300dpi
副走査方向印画密度;300dpi
印加電力;0.10(w/dot)
1ライン周期;5(msec.)
印画開始温度;40(℃)
・印加パルス(階調制御方法);1ライン周期中に1ライン周期を256に等分割したパルス長をもつ分割パルスの数を0〜255個まで可変できるマルチパルス方式のテストプリンターを用い、各分割パルスのDuty比を70%に固定し、ライン周期当たりのパルス数0〜255個を15分割した。これにより、15段階に異なるエネルギーを与えることができる。
(2)得られた各印画物について、マクベス反射濃度計RD−918(マクベス社製)にて濃度マックス(255階調目)の反射濃度を測定した。
【0054】
2.染料層の接着強度
各実施例及び各比較例から得られる熱転写シートを用いて、染料層上に縦200mm×横12mmのセロテープ(登録商標)を親指で2往復擦りつけて貼り、その後すぐに剥がし、テープ側における染料層の付着の有無を目視にて調べ、下記基準にて評価した。なお、本試験は、40℃、90%RHの条件の環境下に100時間保存した後の各熱転写シートについても行った。
(評価基準)
○:染料層の付着が認められない。
△:染料層の付着がわずかに認められる。
×:染料層の付着が全面に認められる。
【0055】
3.保存後の離型性評価
各実施例及び比較例から得られた熱転写シートを40℃、90%RHの条件の環境下に100時間保存した後、上記反射濃度の測定と同様の印画条件下に印画物の全面がベタ(階調値255/255:濃度マックス)である印画パターンで印画し、熱転写シートの染料層と熱転写受像シートとが熱融着するか、また、染料層ごと熱転写受像シートに転写する、いわゆる異常転写が生じるかを目視にて調べ、下記基準にて評価した。
【0056】
(評価基準)
○:異常転写が生じなかった。
△:わずかに異常転写が生じた。
×:印画面全体が異常転写した。
【0057】
上記各測定結果を、表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
各測定結果より、各実施例の熱転写シートは、いずれも接着強度及び反射濃度に優れ、保存後であっても離型性が良好であることが分かった。アルミナゾル:アルミニウムアルコレート=99:1〜90:10である実施例3〜5及び7は特に、染料層接着強度を保存後においても維持可能であることが分かった。一方、比較例1の熱転写シートは特に離型性評価に、比較例2の熱転写シートは特に反射濃度に劣っており、比較例3及び4の熱転写シートは何れの試験も良い結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の熱転写シートは、上記構成よりなるので、染料層と基材との接着強度に優れ、反射濃度が高く、高温高湿下における保存後における印画時での受像シートとの離型性が良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に、コロイド状無機顔料超微粒子とアルミニウムアルコレートとを用いて形成してなる下引き層、及び、染料層を順次積層していることを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
更に、前記基材の下引き層を形成する面と反対側の面に耐熱滑性層を設けている請求項1記載の熱転写シート。
【請求項3】
前記コロイド状無機顔料超微粒子は、アルミナゾルである請求項1又は2記載の熱転写シート。
【請求項4】
前記アルミニウムアルコレートは、前記コロイド状無機顔料超微粒子と前記アルミニウムアルコレートとの合計100質量部に対して0.1〜50質量部である請求項1〜3のいずれか1つに記載の熱転写シート。