説明

熱転写シート

【課題】熱転写画像の鮮明性が高く、高温、高湿下に保存した後であっても、イエロー、マゼンタ、シアンの3色の染料を順次重ねた黒色の高濃度部においてコゲ(黒ベタかすれ)の現象を抑制でき、また、熱転写の印画における転写感度が高く、高速印画において高濃度の印画が得られる熱転写シートを提供する。
【解決手段】基材の一方の面にプライマー層と染料層とが順次形成された熱転写シートであって、上記プライマー層は、カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂を含有する組成物からなり、上記カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂由来の固形分含有量が、上記組成物の全固形分中50〜100質量%である熱転写シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、簡便な印刷方法として、種々の熱転写記録方法が使用されている。このような種々の熱転写記録方法において、カラー画像を得る場合には、連続した基材シートの一方の面上に、例えば、イエロー、マゼンタ及びシアン、更に必要に応じてブラックの色材層が面順次に繰り返し多数設けられ、該基材シートの反対面上に耐熱滑性層が設けられた熱転写シートが使用されている。
このような熱転写シートによる熱転写記録方法は、(1)加熱によって色材層が溶融軟化し、被転写体上に移行して画像を形成する熱溶融型と、(2)加熱によって色材層中の染料が昇華し、被転写体上に移行して画像を形成する昇華型とに大別される。
【0003】
昇華型の熱転写シートは、プリンターのサーマルヘッドによる加熱により、3色又は4色の多数の加熱量が調整された色ドットを熱転写受像シートの受容層に転移させ、該多色の色ドットにより原稿のフルカラーを再現するものである。
昇華型の熱転写シートを用いて形成された画像は、使用する色材が染料であることから、非常に鮮明で、かつ、透明性に優れている。このため、中間色の再現性や階調性に優れ、従来のオフセット印刷やグラビア印刷による画像と同様であり、かつ、フルカラー写真画像に匹敵する高品質画像の形成が可能である。
【0004】
また、昇華型の熱転写シートを用いた熱転写プリンターの印字速度は、近年、高速化の一途をたどっており、従来の熱転写シートでは充分な印字濃度が得られ難くなってきている。また、熱転写による画像の印画物に対し、より高濃度で鮮明なものが要求されるようになってきている。
【0005】
印画濃度や印画における転写感度を向上させるために、例えば、熱転写シートの染料層における染料/樹脂(Dye/Binder)の比率を大きくすること等が試みられている。
ところが、このような熱転写シートは、製造後に巻き取り状態で保管した際、染料層と基材の反対側面に設けられた耐熱滑性層とが接することにより、染料層から耐熱滑性層へ染料が移行するという問題があった。そして、この耐熱滑性層へ移行した染料が、該シートが巻き返されることにより、他の色の染料層、保護層等へ再転移し、更に、この汚染された層が熱転写受像シートへ熱転写される。そうすると、得られる印画物は、指定された色と異なる色相となり、印画精度を著しく損なってしまうという問題もあった。
【0006】
また、印画濃度や印画における転写感度を向上させる方法として、熱転写プリンターにおいて、画像形成時の熱転写の際、高エネルギーをかけることも行なわれている。
しかしながらこの場合、熱転写シートの染料層ごと熱転写受像シートに転写する、いわゆる異常転写、また、イエロー、マゼンタ、シアンと3色の染料を順次重ねた黒色の高濃度部においてコゲ(黒ベタかすれ)が発生しやすくなる。異常転写を防止するため、熱転写受像シートの受容層に多量の離型剤を添加する方法も考えられるが、この場合、得られる画像に、にじみ、地汚れ等が生じるといった問題があった。
【0007】
印画における転写感度の向上を目的として、例えば、特許文献1には、ポリビニルピロリドン樹脂と変性ポリビニルピロリドン樹脂を含有する接着層を有する熱転写シートが開示されている。
しかしながら、このような熱転写シートでは、異常転写を防止することはできるが、コゲを防止することが難しく、充分なレベルにまで至っていなかった。
【0008】
また、例えば、特許文献2には、基材と染料層との間に、熱可塑性樹脂と、コロイド状無機顔料超微粒子とを含有する下引き層を備えた熱転写シートが開示されている。特許文献2に開示された熱転写シートによると、転写感度の向上、及び、高濃度の印画を得ることができる。
しかしながら、特許文献2に開示の熱転写シートでは、高温、高湿下に保存した後のコゲ、異常転写を充分に防止することができなかった。
【0009】
また、例えば、特許文献3に、基材と染料層との間に、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体樹脂とコロイド状無機顔料超微粒子を主成分として形成された下引き層が設けられた熱転写シートが開示されている。
しかしながら、近年、熱転写シートに要求されるコゲのレベルは極めて高いものとなってきており、特許文献3に開示された熱転写シートによっても、このような高いレベルでのコゲに充分に応えられないものとなってきていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−231354号公報
【特許文献2】特開2006−150956号公報
【特許文献3】特開2008−155612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑みて、熱転写画像の鮮明性が高く、高温、高湿下に保存した後であっても、イエロー、マゼンタ、シアンの3色の染料を順次重ねた黒色の高濃度部において、コゲ(黒ベタかすれ)の発生を好適に防止することができ、また、熱転写の印画における転写感度が高く、高速印画において高濃度の印画が得られる熱転写シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、基材の一方の面にプライマー層と染料層とが順次形成された熱転写シートであって、上記プライマー層は、カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂を含有する組成物からなり、上記カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂由来の固形分含有量が、上記組成物の全固形分中50〜100質量%であることを特徴とする熱転写シートである。
上記プライマー層は、コロイド状無機顔料超微粒子を50質量%以下含有することが好ましい。
上記コロイド状無機顔料超微粒子は、アルミナゾルであることが好ましい。
上記基材は、接着処理されたものであることが好ましい。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明者らは、基材の一方の面上にプライマー層と染料層とが順次積層された熱転写シートについて鋭意検討した結果、従来の熱転写シートは、高温、高湿下で保存するとプライマー層に吸湿が生じ、このプライマー層の吸湿が、印画におけるコゲの原因となっていたことを見出した。
そこで、更に鋭意検討した結果、上記プライマー層を形成する組成物を、特定の組成、具体的には、カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂を特定量含有する組成とすることで、上記プライマー層の吸湿を効果的に抑制でき、上記プライマー層を有する熱転写シートを高温、高湿下に保存した後においても、印画におけるコゲを充分に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。更に、このような組成のプライマー層を有する熱転写シートは、印画濃度の上昇が期待できる。
【0014】
(基材)
本発明の熱転写シートは、基材の一方の面にプライマー層と染料層とが順次形成された構造を有する。
上記基材としては、従来公知のある程度の耐熱性と強度とを有する樹脂からなるものであれば特に限定されず、例えば、0.5〜50μm、好ましくは1〜10μm程度の厚さのプラスチックフィルムが好適に用いられる。
上記プラスチックフィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルフィド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリサルホン、アラミド、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリイミド、アイオノマー等が挙げられる。なかでも、ポリエチレンテレフタレートが好適に用いられる。
なお、上記基材は、上述の樹脂1種のみからなるものであってもよいし、2種以上の樹脂からなるものであってもよい。
【0015】
また、上記基材は、後述するプライマー層を形成する面に接着処理が施されていることが好ましい。すなわち、上記基材が上述したプラスチックフィルムである場合、その上にプライマー層を形成する際、基材とプライマー層との接着性等が不足しやすいので、接着処理を施すことが好ましい。
【0016】
上記接着処理としては、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、低温プラズマ処理、プライマー処理、グラフト化処理等の公知の樹脂表面改質技術を挙げることができる。
また、それらの処理を二種以上併用することもできる。また、上記接着処理は、プラスチックフィルムの溶融押出しの成膜時に、未延伸フィルムにプライマー液を塗布し、その後に延伸処理して行なうことができる。
上記接着処理の中でも、コストが高くならずに汎用処理法を用いることができ、基材とプライマー層との接着性をより高めることができる点で、コロナ放電処理又はプラズマ処理が好ましい。
【0017】
(プライマー層)
上記プライマー層は、上記基材の一方の面上に形成されており、基材と後述する染料層とを好適に接着する役割を果たすとともに、高温、高湿下で保存した後であっても、印画におけるコゲを防止する役割を果たす層である。更に、印画濃度の上昇も期待できる。
本発明の熱転写シートにおいて、上記プライマー層は、カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂を含有する組成物からなるものである。
ここで、カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂を含有する組成物からなるプライマー層を有する熱転写シートが、高温、高湿下で保存した後であっても、印画において、いわゆるコゲの現象を抑制し、熱転写の印画における転写感度が高く、高速印画において高濃度の印画が得られることは、本発明者らが初めて見出した事実である。
【0018】
上記カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂とは、分子内にカチオン基を有する樹脂もしくは分子内に容易にカチオン化する基を有する樹脂からなるディスパージョン又はエマルジョンのことである。
カチオン基又は容易にカチオン化する基としては、例えば、第4級アンモニウム塩構造や置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のピリジル基、等が挙げられる。
これらの樹脂はアルキル基等の置換基を有していても良く、鎖状、環状のいずれであっても良い。
【0019】
本発明の熱転写シートにおいて、上記カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂としては、分子内にカチオン基又は容易にカチオン化する基を有するアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂を好適に用いることができる。これら樹脂は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合せて(例えば、二種以上の混合体として)用いることもできる。
【0020】
上記カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂由来の固形分含有量が、上記組成物の全固形分中50〜100質量%である。50質量%未満であると、本発明の熱転写シートにコゲの問題が発生する。上記含有量は、下限が65質量%であることが、コゲの問題を抑制する観点から好ましく、上限が97質量%であることが、異常転写の抑制や濃度向上の観点から好ましい。
【0021】
また、上記プライマー層は、コロイド状無機顔料超微粒子を含有することが好ましい。
上記プライマー層が、上述のカチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂とコロイド状無機顔料超微粒子とを組み合わせて含有することにより、熱転写画像の鮮明性が高く、高温、高湿下に保存した後であっても、コゲ(黒ベタかすれ)の現象を抑制でき、また、熱転写の印画における転写感度が高く、高速印画において高濃度の印画が得られる熱転写シートとすることができる。
また、上記プライマー層を形成するための組成物を調製する際に、コロイド状無機顔料超微粒子溶液を混合すると、コロイド状無機顔料超微粒子溶液の分散安定性が維持できなくなる場合がある。これは、コロイド状無機顔料超微粒子と他の成分との化学的性質が大きく異なる場合に発生し易い問題である。しかし、コロイド状無機顔料超微粒子は、上述のカチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂と化学的性質が近似しているため、組成物の分散安定性を阻害することなく混合できる。
【0022】
上記コロイド状無機顔料超微粒子としては特に限定されず、従来公知の化合物が挙げられる。具体的には、例えば、シリカ(コロイダルシリカ)、アルミナ又はアルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、カチオン性アルミニウム酸化物又はその水和物、擬ベーマイト等)、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン等が挙げられる。
上記プライマー層には、これらのコロイド状無機顔料超微粒子を、同一種類の条件で使用するだけでなく、異なる種類のものを混合してもよい。
上記コロイド状無機顔料超微粒子としては、なかでも、印画濃度を上げ、異常転写を防止し得る点でアルミナゾルが好ましく用いられる。
【0023】
上記コロイド状無機顔料超微粒子の大きさは、平均粒径で100nm以下、好ましくは50nm以下であり、特に3〜30nmであることが好ましく、これにより、プライマー層の機能を充分に発揮できる。
本発明におけるコロイド状無機顔料超微粒子の形状は、球状、針状、板状、羽毛状や、無定形等、如何なる形状であってもよい。
【0024】
上記コロイド状無機顔料超微粒子は、上記プライマー層中50質量%以下であることが好ましい。
50質量%を超えると、印画においてコゲの問題が発生するおそれがある。上記コロイド状無機顔料超微粒子の含有量は、下限が3質量%であることが、異常転写抑制の観点からより好ましく、上限が40質量%であることが、コゲの問題を抑制する観点からより好ましい。
【0025】
上記プライマー層は、上記カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂と、必要に応じて上記コロイド状無機顔料超微粒子と水系溶媒とを混合して得られたプライマー層用組成物を、上記基材上に塗布し、乾燥させることで形成することができる。
【0026】
上記水系溶媒としては特に限定されず、例えば、水;エタノール、プロパノール等のアルコール類と水との混合物等が挙げられる。更に、上記水系溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等の有機溶剤と水との混合物も使用することができるが、水、又は、水とアルコール類との混合物であることが好ましい。
【0027】
上記塗布の方法としては、グラビアコーティング法、ロールコート法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の従来公知の方法を挙げることができる。
【0028】
上記プライマー層の塗布量は、0.03g/mより多く、0.50g/m未満(乾燥時)であることが好ましい。0.03g/m以下であると、熱転写時に充分な印画濃度が得られず、接着性も悪くなるおそれがある。0.50g/m以上だと、コゲの現象が生じたりするおそれがある。より好ましい下限は0.05g/m、より好ましい上限は0.40g/mである。
【0029】
以上のように形成されるプライマー層は、上記プライマー層用組成物中の上記カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂と上記コロイド状無機顔料超微粒子とが主成分となって、その他の成分は無いか、又は、溶媒が少し残存している程度であることが好ましい。
このようにカチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂を含有する組成物からなるプライマー層を有する熱転写シートは、熱転写画像の鮮明性が高く、高温・高湿下に保存した後であってもイエロー、マゼンタ、シアンの3色の染料を順次重ねた黒色の高濃度部においてコゲ(黒ベタかすれ)の発生を好適に防止することができ、また、熱転写の印画における転写感度が高く、高速印画において高濃度の印画物を得ることができる。
【0030】
(染料層)
本発明の熱転写シートは、基材の一方の面に、上記プライマー層を介して、染料層が設けられたものである。
上記染料層は、1色の単一層で構成したり、あるいは色相の異なる染料を含む複数の染料層を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成することも可能である。
【0031】
上記染料層は、熱移行性染料を任意のバインダーにより担持してなる層である。
使用する染料としては、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料であって、従来公知の昇華転写型熱転写シートに使用されている染料は、いずれも本発明に使用可能であるが、色相、印字感度、耐光性、保存性、バインダーへの溶解性等を考慮して選択することができる。
【0032】
上記染料としては、例えば、ジアリールメタン系、トリアリールメタン系、チアゾール系、メロシアニン、ピラゾロンメチン等のメチン系、インドアニリン、アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチンに代表されるアゾメチン系、キサンテン系、オキサジン系、ジシアノスチレン、トリシアノスチレンに代表されるシアノメチレン系、チアジン系、アジン系、アクリジン系、ベンゼンアゾ系、ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジズアゾ等のアゾ系、スピロピラン系、インドリノスピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系、ナフトキノン系、アントラキノン系、キノフタロン系等のものが挙げられる。
【0033】
上記染料層のバインダーとしては、従来公知の樹脂バインダーがいずれも使用でき、好ましいものを例示すれば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0034】
また、染料層にはシランカップリング剤を添加することができる。上記シランカップリング剤としては、例えば、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランのようなイソシアネート基を含むもの、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−フェニルアミノプロピルトリメトキシシランのようなアミノ基を含むもの、更にγ−グリシドオキシプロピルトリメトキシシランやβ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のようにエポキシ基を含むもの等が挙げられる。これらは単独又は2種以上の混合物として用いることもできる。
【0035】
また、本発明では上記の樹脂バインダーに代えて、次のような離型性グラフトコポリマーを離型剤又はバインダーとして用いることができる。この離型性グラフトコポリマーは、ポリマー主鎖にポリシロキサンセグメント、フッ化炭素セグメント、フッ化炭化水素セグメント又は長鎖アルキルセグメントから選択された少なくとも1種の離型性セグメントをグラフト重合させてなるものである。これらのうち、特に好ましいのはポリビニルアセタール樹脂からなる主鎖にポリシロキサンセグメントをグラフトさせて得られたグラフトコポリマーである。
【0036】
本発明の熱転写シートにおいて、高温、高湿下に放置した後であっても、プライマー層と染料層との接着性を維持することができる点で、染料層を構成するバインダーとして、上記に挙げた中で、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリ酢酸ビニルや、ポリエステル系樹脂、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂等の水酸基やカルボキシル基を有する接着性の高い樹脂の単独及び混合物が好ましく用いられる。
【0037】
染料層は、上記染料、バインダーと、その他必要に応じて従来公知と同様な各種の添加剤を加えてもよい。その添加剤として、例えば、受像シートとの離型性やインキの塗工適性を向上させる、ポリエチレンワックス等の有機微粒子、無機微粒子、シリコーンオイル、シリコーン変性樹脂、脂肪酸アマイド、脂肪酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。このような染料層は、通常、適当な溶剤中に上記染料、バインダーと、必要に応じて添加剤を加えて、各成分を溶解または分散させて塗工液を調製し、その後、この塗工液を基材の上に塗布、乾燥させて形成することができる。
この塗布方法は、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の公知の手段を用いることができる。このように形成された染料層は、0.2〜6.0g/m、好ましくは0.3〜3.0g/m程度の乾燥時の塗工量である。
【0038】
また、本発明の熱転写シートは、上述した基材の一方の面にプライマー層と染料層とが順次形成されたものであるが、本発明の熱転写シートの実施形態はこのような構造に限定されず、例えば、プライマー層の上に保護層や、金色層、銀色層、ホログラム層等の色材層等が、上記染料層と面順次に形成されていてもよい。なお、上記染料層、保護層、色材層等の複数の層がプライマー層上に形成されている場合、これら各層の形成順序は特に限定されない。
【0039】
(耐熱滑性層)
本発明の熱転写シートは、基材のプライマー層を設けた面と反対側の面に、サーマルヘッドの熱によるステッキングや印字しわ等の悪影響を防止するため、耐熱滑性層を設けているものであってもよい。
上記耐熱滑性層を形成する樹脂としては、従来公知のものであればよく、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル− 酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリオール(ポリアルコール高分子化合物等)、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン又はエポキシのプレポリマー、ニトロセルロース樹脂、セルロースナイトレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートヒドロジエンフタレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0040】
これらの樹脂からなる耐熱滑性層に添加あるいは上塗りする滑り性付与剤としては、リン酸エステル、金属石鹸、シリコーンオイル、グラファイトパウダー、シリコーン系グラフトポリマー、フッ素系グラフトポリマー、アクリルシリコーングラフトポリマー、アクリルシロキサン、アリールシロキサン等のシリコーン重合体が挙げられる。
上記耐熱滑性層には、更に、充填剤、架橋剤等の公知の添加剤を配合してなるものであってもよい。
本発明における耐熱滑性層は、好ましくは、ポリオール、例えば、ポリアルコール高分子化合物とポリイソシアネート化合物及びリン酸エステル系化合物からなる層であり、更に充填剤を添加したものがより好ましい。
【0041】
上記耐熱滑性層は、基材シートの上に、上記に記載した樹脂、滑り性付与剤、更に充填剤等を、適当な溶剤により、溶解又は分散させて、耐熱滑性層塗工液を調製し、これを、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の形成手段により塗工し、乾燥して形成することができる。耐熱滑性層の塗工量は、固形分で0.1〜3.0g/mが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明の熱転写シートは、上述した構成からなるものであるため、熱転写画像の鮮明性が高く、高温、高湿下に保存した後であっても、イエロー、マゼンタ、シアンの3色の染料を順次重ねた黒色の高濃度部においてコゲ(黒ベタかすれ)の現象を抑制できる。また、熱転写の印画における転写感度が高く、高速印画において高濃度の印画が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の内容を下記の実施例により説明するが、本発明の内容はこれらの実施態様に限定して解釈されるものではない。また、特別に断りの無い限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0044】
(実施例1)
基材として、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET、コロナ処理)上に、下記組成のプライマー層用組成物をグラビアコーティングにより、乾燥塗布量が0.15g/mになるように塗布、乾燥して、プライマー層を形成した。
そのプライマー層の上に、下記組成の染料層塗工液をグラビアコーティングにより、乾燥塗布量が0.7g/mになるように塗布、乾燥して染料層を形成し、実施例1の熱転写シートを作製した。
なお、上記基材の他方の面には、予め下記組成の耐熱滑性層塗工液をグラビアコーティングにより、乾燥塗布量が1.0g/mになるように塗布、乾燥して、耐熱滑性層を形成しておいた。
【0045】
<プライマー層用組成物>
アルミナゾル 固形分2.5部
カチオン性ウレタン樹脂A 固形分2.5部
水 47.5部
イソプロピルアルコール 47.5部
なお、上記アルミナゾルとして、アルミナゾル200(日産化学工業株式会社製)を使用し、上記カチオン性ウレタン樹脂Aとして、SF−600(第一工業製薬社製)を使用した。
【0046】
<染料層塗工液>
C.I.ソルベントブルー63 4.5部
セルロースアセテートプロピオネート樹脂 3.5部
(イーストマンケミカル社製)
メチルエチルケトン 46.0部
トルエン 46.0部
【0047】
<耐熱滑性層塗工液>
ポリビニルブチラール樹脂 13.6部
(積水化学工業社製)
ポリイソシアネート硬化剤 0.6部
(三井化学ポリウレタン社製)
リン酸エステル 0.8部
(第一工業製薬社製)
メチルエチルケトン 42.5部
トルエン 42.5部
【0048】
(実施例2〜16、参考例1〜2、比較例1〜12)
実施例1で作製した熱転写シートにおける、プライマー層用組成物のアルミナゾル及び樹脂を、それぞれ下記表1に示したコロイド状無機顔料超微粒子及び樹脂とし、これらの配合量(固形分)並びに塗布量を下記表1のとおりにした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜16、参考例1〜2、比較例1〜12の熱転写シートを作製した。また、使用した市販品のコロイド状無機顔料超微粒子及び樹脂は下記のとおりである。
<コロイド状無機顔料超微粒子>
アルミナゾル200(商品名、固形分10%、日産化学工業株式会社製)
<カチオン性樹脂>
カチオン性ウレタン樹脂A:SF−600、第一工業製薬社製
カチオン性ウレタン樹脂B:SF−620、第一工業製薬社製
カチオン性ウレタン樹脂C:SF−650、第一工業製薬社製
カチオン性ウレタン樹脂D:CP−7020、DIC株式会社製
カチオン性ウレタン樹脂E:CP−7050、DIC株式会社製
カチオン性ウレタン樹脂F:CP−7060、DIC株式会社製
カチオン性アクリル樹脂A:AC−117N、新中村化学工業株式会社製
カチオン性アクリル樹脂B:AC−13、新中村化学工業株式会社製
カチオン性アクリル樹脂C:ビニブラン2647、日信化学工業株式会社製
カチオン性アクリル樹脂D:UW−319SX、大成ファインケミカル株式会社製
ポリビニルピロリドン:K−90、アイエスピー・ジャパン株式会社製
酢ビ変性ポリビニルピロリドン:E−335、アイエスピー・ジャパン株式会社製
アニオン性ウレタン樹脂A:AP−40N、DIC株式会社製
アニオン性ポリエステル樹脂:MD−1245、東洋紡績株式会社製
アニオン性ウレタン樹脂B:SF−460、第一工業製薬社製
ヒドロキシエチルセルロース:SP−200、ダイセル化学工業株式会社製
【0049】
(評価)
下記手順にて、上記で得られた各熱転写シートについて以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0050】
<インキ化>
表1に従って、プライマー層用組成物を調整した際に、インキ化できたものを○とし、凝集等によりインキ化できなかったものは×と評価した。
【0051】
(印画適性)
<異常転写評価>
上記の作製した熱転写シートを、40℃90%RHの条件の環境下に、一週間保存した後に、室温に1時間放置後、シチズン・システムズ社製プリンターCW−01用純正リボンのCy部に貼り、シチズン・システムズ社製 CW−01用ポストカードサイズ純正熱転写受像シートと組み合わせて、25℃50%RHと35℃80%RH、40℃90%RHの3環境下で15階調刻み(階調値0、15、30…240、255/255)のCyベタ印画パターンを印画し、熱転写シートの染料層ごと熱転写受像シートに転写する、いわゆる異常転写が生じるか目視にて調べ、下記基準にて評価した。
(評価基準)
◎:いずれの環境下でも異常転写が確認できない。
○:40℃90%RH環境下では異常転写が認められるが、35℃80%RH環境、25℃50%RH環境での印画で異常転写を目視で確認できない。
△:40℃90%RH環境、35℃80%RH環境下では異常転写が認められるが、25℃50%RH環境での印画では異常転写を目視で確認できない。
×:いずれの環境下でも異常転写が認められる。
【0052】
<コゲ(黒ベタかすれ)評価>
次に、上記の作製した熱転写シートを、40℃90%RHの条件の環境下に、一週間保存した後に、室温に1時間放置後、シチズン・システムズ社製プリンター CW−01用純正リボンのYe、Mg、Cy部に貼り、シチズン・システムズ社製 CW−01用ポストカードサイズ純正熱転写受像シートと組み合わせて、25℃50%RH、35℃80%RHと40℃90%RHの3環境下で元Ye部、元Mg部、元Cy部の染料を順次重ねてベタ印画(255/255階調)を行い、目視にてベタ印画物のコゲ発生を確認し、下記基準にて評価した。
(評価基準)
◎:いずれの環境の印画においてもコゲを目視で確認できない。
○:40℃90%RH環境での印画でコゲが認められるが、25℃50%RH環境、35℃80%RH環境での印画でコゲを目視で確認できない。
△:35℃80%RH、40℃90%RH環境での印画でコゲが認められるが、25℃50%RH環境での印画ではコゲを目視で確認できない。
×:いずれの環境の印画においてもコゲが目視で認められる。
ただし、コゲとは、染料層を順次重ねて印画して熱転写画像を形成した時のベタ高濃度部で発生する画質不良、色相変動が起こり、その結果印画物表面がマット化し、光沢感が無くなる現象である。
【0053】
<印画濃度>
次に、上記の作製した熱転写シートを用いて、シチズン・システムズ社製プリンター CW−01用純正リボンのCy部に貼り、シチズン・システムズ社製 CW−01用ポストカードサイズ純正熱転写受像シートと組み合わせて、シアンベタ(階調255/255)の印画パターンを印画して、SpectroLino(グレタグマクベス社製)にて、印画部の最高濃度(シアン)を測定した。そして、比較例8に係る熱転写シートを貼り付けたリボン(以下、基準リボンという)を基準とし、該基準リボンに対する最高濃度の比率を下記基準にて評価した。
(評価基準)
○:基準リボンと比較して、最高濃度が95〜105%
△:基準リボンと比較して、最高濃度が90〜95%
×:基準リボンと比較して、最高濃度が90%未満
【0054】
【表1】

【0055】
表1より、各実施例の熱転写シートは、印画適性(異常転写、コゲ)、印画濃度のいずれにも優れた結果であった。
一方、比較例の熱転写シートは、印画適性(異常転写、コゲ)、印画濃度のいずれにも優れた結果とはならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の熱転写シートは、上記構成よりなるので、熱転写画像の鮮明性が高く、高温、高湿下に保存した後であっても、イエロー、マゼンタ、シアンの3色の染料を順次重ねた黒色の高濃度部においてコゲ(黒ベタかすれ)の発生を好適に防止することができ、また、熱転写の印画における転写感度が高く、高速印画において高濃度の印画が得られる熱転写シートを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面にプライマー層と染料層とが順次形成された熱転写シートであって、
前記プライマー層は、カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂を含有する組成物からなり、
前記カチオン性水系ディスパージョン又はカチオン性水系エマルジョン樹脂由来の固形分含有量が、前記組成物の全固形分中50〜100質量%である
ことを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
プライマー層は、コロイド状無機顔料超微粒子を50質量%以下含有する請求項1記載の熱転写シート。
【請求項3】
コロイド状無機顔料超微粒子は、アルミナゾルである請求項2記載の熱転写シート。
【請求項4】
基材は、接着処理されたものである請求項1、2又は3記載の熱転写シート。



【公開番号】特開2011−212992(P2011−212992A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84011(P2010−84011)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】