説明

熱転写シート

【課題】耐熱滑性層のエージング処理を必要とせず、加熱手段による加熱温度範囲において安定して優れた走行性を有し、かつ、染料の保存安定性及び加熱手段の汚れ防止性に優れた熱転写シートを提供する。
【解決手段】基材シート110の一方の面に形成される熱転写染料層120と、基材シート110の他方の面に形成され、バインダ、潤滑剤及びフィラーを含有する耐熱滑性層130とを有する熱転写シート100において、耐熱滑性層130には、バインダとして、ポリビニルアセトアセタール樹脂に、該ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以下の割合で、常温で粉末状固体の質量平均分子量100,000以上であるアクリルシリコーン樹脂を混合したバインダを含有させ、耐熱滑性層130にはさらに、ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以上30質量部以下のイソシアネートを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートに関し、特に、熱転写シートに関し、特に、熱転写シートに設けられた耐熱滑性層の構成成分に関する。
【背景技術】
【0002】
昇華染料を用いた熱転写方式は、極めて短時間の加熱によって多数の色ドットを被転写材に転写させ、多色の色ドットによりフルカラー画像を再現するものである。この熱転写方式では、熱転写シートとして、ポリエステルフィルム等の基材シートの一方の面に、昇華性染料とバインダとからなる染料層を設けた、いわゆる昇華型熱転写シートが用いられる。
【0003】
また、熱転写方式では、画像情報に応じて、サーマルヘッド等の加熱手段により熱転写シートを背後から加熱し、染料層に含まれる染料を被転写材(印画紙)に転写させて画像を形成する。このとき、熱転写シートのサーマルヘッドと接触する側の面とサーマルヘッドとの摩擦が、低濃度印画から高濃度印画まで安定して低いことが要求される。そのため、一般に、熱転写シートには、サーマルヘッドと融着することを防止し、スムーズな走行性(滑り性)を付与する目的で、染料層が形成される面とは反対側の面に耐熱滑性層が設けられている。
【0004】
耐熱滑性層は、基材シートに耐熱性を付与するために、熱架橋性樹脂からなる層を形成する方法がよく用いられており、この方法により熱転写シートへ耐摩耗性と耐熱性が付与される。この方法を用いることにより、良好な耐熱性を有する耐熱滑性層を得ることができるが、熱架橋性樹脂のバインダのみで滑り性を付与することは難しい。また、50℃で1週間程度のエージング(熱硬化)処理を行い、熱架橋する必要があるために工程が複雑になり、結果として多大な製造時間を要してしまう。
【0005】
このような問題を解決する方法として、ポリアミドイミドとポリアミドイミドシリコーンとの混合物をバインダとして用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。上記のバインダを用いた場合、ポリアミドイミド及びポリアミドイミドシリコーンはTgが200℃以上であるために、熱転写シートに対して耐熱性を付与できる。さらに、上記のバインダを用いた場合、ポリアミドイミドシリコーンのシリコーンユニットの作用により滑り性を付与することができ、熱硬化することなく良好な耐熱滑性層を得ることができる。
【0006】
また、上記問題を解決する他の方法としては、耐熱滑性層のバインダとしてセルロースアセテートブチレート樹脂を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この特許文献2には、実施例において、アクリルシリコーン樹脂を添加する方法が例記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−334760号公報
【特許文献2】特開2008−105373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1のように、ポリアミドイミド及びポリアミドイミドシリコーンをバインダとして使用する場合には、ポリイミド原料を使用するために高コストとなる。さらには、ポリアミドイミド及びポリアミドイミドシリコーンは基材シートへの接着性に乏しいため、粉落ちする可能性があり、塗膜安定性が不十分である。また、ポリアミドイミド及びポリアミドイミドシリコーンをバインダとして使用する場合には、乾燥時に塗膜が白化しやすいため乾燥条件に留意する必要がある。
【0009】
また、ポリアミドイミドをコーティングする際には、ポリアミドイミドを溶解させる有機溶媒が限定されてしまう。その結果、耐熱滑性層の成分として使用する添加剤も限定されてしまうことがある。
【0010】
さらに、耐熱滑性層へ滑り性やサーマルヘッド研磨性(汚れ防止性)を付与する場合に、耐熱滑性層中に潤滑剤やフィラーを添加することがある。これらの添加剤を分散保持する場合には、吸着基および活性点のないポリアミドイミド単独では不利であり、分散性が不十分で、添加剤が凝集しやすい傾向がある。
【0011】
また、上記特許文献2の実施例で用いられているアクリルシリコーン樹脂は、重量平均分子量が低いために耐熱性が不十分である。また、このアクリルシリコーン樹脂は、合成時由来の未反応物を含むため、染料層と接触した際の保存安定性に欠ける点がある。さらには、上記アクリルシリコーン樹脂は、分子中にOH基またはCOOH基を多く含むために、保存時に吸湿する可能性があり、保存安定性に欠ける。
【0012】
そこで、本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、耐熱滑性層のエージング処理を必要とせず、加熱手段による加熱温度範囲において安定して優れた走行性を有し、かつ、染料の保存安定性及び加熱手段の汚れ防止性に優れた熱転写シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、基材シートの一方の面に形成され、染料を含有する熱転写染料層と、前記基材シートの他方の面に形成され、バインダ、潤滑剤及びフィラーを含有する耐熱滑性層と、を有し、前記耐熱滑性層は、前記バインダとして、ポリビニルアセトアセタール樹脂に、該ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以下の割合で、常温で粉末状固体の質量平均分子量100,000以上であるアクリルシリコーン樹脂を混合したバインダを含有し、前記耐熱滑性層はさらに、前記ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以上30質量部以下のイソシアネートを含有し、かつ、前記潤滑剤として融点が50℃以上のリン酸エステルを含む、熱転写シートが提供される。
【0014】
前記熱転写シートにおいて、前記耐熱滑性層のフィラーが、ポリメチルシルセスキオキサンからなる球状粒子、または、ポリメチルシルセスキオキサンからなる球状粒子と平板状粒子であるタルクとの混合物からなっていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱滑性層中に、ポリビニルアセタール樹脂と常温で粉末状のアクリルシリコーン樹脂とを混合したバインダを添加し、架橋剤としてイソシアネートを添加し、かつ、イソシアネートの添加量を、バインダ樹脂の架橋反応を塗布乾燥工程で完結できる程度の量とすることによって、耐熱滑性層のエージング処理を必要とせず、加熱手段による加熱温度範囲において安定して優れた走行性を有し、かつ、染料の保存安定性及び加熱手段の汚れ防止性に優れた熱転写シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適な実施形態に係る熱転写シートの構成例を概略的に示す断面図である。
【図2】同実施形態に係る熱転写シートの構成例を概略的に示す平面図である。
【図3】各染料層の間に検知マーク層を設けた熱転写シートの構成例を概略的に示す平面図である。
【図4】転写保護層を設けた熱転写シートの構成例を概略的に示す平面図である。
【図5】転写受容層を設けた熱転写シートの構成例を概略的に示す平面図である。
【図6】実施例で用いた摩擦測定機の構成を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.熱転写シートの構成
1−1.基材シート110
1−2.染料層120
1−3.検知マーク層140、転写保護層150、転写受容層160等
1−4.耐熱滑性層130
2.熱転写シートの製造方法
【0020】
<1.熱転写シートの構成>
まず、図1〜図5を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係る熱転写シートの構成について説明する。図1は、本発明の好適な実施形態に係る熱転写シートの構成例を概略的に示す断面図である。図2は、本実施形態に係る熱転写シートの構成例を概略的に示す平面図である。図3は、本実施形態において、各染料層の間に検知マーク層を設けた熱転写シートの構成例を概略的に示す平面図である。図4は、本実施形態において、転写保護層を設けた熱転写シートの構成例を概略的に示す平面図である。図5は、本実施形態において、転写受容層を設けた熱転写シートの構成例を概略的に示す平面図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る熱転写シート100は、帯状の基材である基材シート110と、基材シート110の一方の面に形成される熱転写染料層120(以下、単に「染料層120」と称する場合もある。)と、基材シート110の他方の面に形成される耐熱滑性層130とを有する。
【0022】
[1−1.基材シート110]
基材シート110には、ある程度の耐熱性と強度を有する任意の各種基材を用いることができる。具体的には、基材シート110としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム等を使用することができる。この基材シート110の厚みは、任意の厚みとしてよいが、例えば1〜30μm、好ましくは2〜10μmである。
【0023】
[1−2.熱転写染料層120]
熱転写染料層120は、上記基材シート110の印画紙と対向する側の面に形成される。この熱転写染料層120は、単色画像に対応させる場合には、基材シート110の全面に連続層として形成される。また、フルカラー画像に対応させる場合には、図2に示すように、基材シート110上に、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色の染料層120Y、120M、120Cが分離して順次繰り返して形成されるのが一般的である。なお、イエロー、マゼンタ、シアンの各色の染料層120Y、120M、120Cの形成順序は、必ずしも図2に示した通りでなくてもよい。また、フルカラー画像に対応させる場合、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)の4色の染料層120を繰り返し形成してもよい。
【0024】
熱転写染料層120は、少なくとも、各色の染料と、当該染料を担持するバインダとから形成される。
【0025】
(染料)
熱転写染料層120に含有される染料としては、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料であれば任意の材料を使用することができる。例えば、イエロー染料としては、アゾ系、ジスアゾ系、メチン系、ピリドンアゾ系等の染料、及びこれらの染料の混合系を使用できる。マゼンタ染料としては、アゾ系、アントラキノン系、スチリル系、複素環系アゾ色素等の染料、及びこれら染料の混合系を使用できる。シアン染料としては、インドアニリン系、アントラキノン系、ナフトキノン系、複素環系アゾ色素の染料、及びこれらの混合系を使用できる。熱転写染料層120に添加される染料は、これらの染料の色相、印画濃度、耐光性、保存性、バインダへの溶解度等の特性を考慮して決定される。
【0026】
(バインダ)
熱転写染料層120の形成に用いるバインダとしては、任意の材料を使用することができる。具体的には、熱転写染料層120用のバインダとしては、例えば、セルロース系、アクリル酸系、デンプン系等の水溶性樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、アセチルセルロース等の有機溶剤あるいは水に可溶性の樹脂等が挙げられる。これらのうち、記録感度及び転写体の保存安定性の点から言えば、熱変形温度(JIS K7191)が70〜150℃のものがバインダとして優れている。したがって、熱転写染料層120用のバインダとしては、ポリスチレン、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、メタクリル樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が好ましい。
【0027】
なお、染料層120における染料とバインダとの質量比は、熱転写シートの染料層として通常適用されている値を適用することが可能であるが、例えば、乾燥時に、バインダ100質量部に対して染料が30〜300質量部となるようにすればよい。
【0028】
[1−3.検知マーク層140、転写保護層150、転写受容層160等]
また、本実施形態に係る熱転写シート100においては、基材シート110の熱転写染料層120が形成される側の面に、さらに、検知マーク層140、転写保護層150、転写受容層160等が設けられていてもよい。
【0029】
(検知マーク層140)
検知マーク層140は、熱転写を行うプリンタが、染料層120、転写保護層150、転写受容層160等の位置を検知するために設けられる層である。この検知マーク層140は、例えば、図2に示すように、イエロー色染料層120Y、マゼンタ色染料層120M、シアン色染料層120Cを1組の染料層群とした場合に、各染料層群の間に設けられていてもよい。すなわち、この場合、基材シート110の一方の面には、検知マーク層140、イエロー色染料層120Y、マゼンタ色染料層120M、シアン色染料層120Cの順に、これらが繰り返し形成される。また、検知マーク層140は、例えば、図3に示すように、各色の染料層120の間に設けられていてもよい。
【0030】
(転写保護層150)
転写保護層150は、印画後の印画面に転写され、印画物の耐光性、耐擦過性、耐薬品性等が不十分な場合に、印画面を保護する層である。この転写保護層150は、印画面を保護することが可能な公知の材料、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂等の有機ポリマー等で形成される。また、転写保護層150は、各色の染料が転写されて印画紙に印画された後に印画面を保護するため、例えば、図4に示すように、イエロー色染料層120Y、マゼンタ色染料層120M、シアン色染料層120Cの1組の染料層群の後(後に印画紙と接触する側)に設けられる。
【0031】
(転写受容層160)
転写受容層160は、被転写材が普通紙等のように染料層120を直接転写できない媒体の場合に設けられ、各熱転写染料層120よりも先に被転写材に転写される。この転写受容層160は、染料を熱転写可能な公知の材料で形成されるが、その中でも染料が染着しやすい材料を使用することが好ましい。また、転写受容層160は、熱転写染料層120の転写に先だって普通紙等の被転写材表面に受容層を形成するために、例えば、図5に示すように、イエロー色染料層120Y、マゼンタ色染料層120M、シアン色染料層120Cの1組の染料層群の前(先に被転写材と接触する側)に設けられる。
【0032】
(その他の層)
その他、基材シート110の印画紙と対向する側の面には、上述した染料層120、検知マーク層140、転写保護層150及び転写受容層160と、基材シート110との接着力を強化するためのプライマー層(図示せず。)を、上記各層と基材シート110との間に設けてもよい。さらには、プライマー層の形成に代えて、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理等の公知の接着処理を実施してもよい。
【0033】
[1−4.耐熱滑性層130]
耐熱滑性層130は、基材シート110の熱転写染料層120が形成される(印画紙と対向する)側と反対側の面に形成される。熱転写染料層120の転写時には、基材シート110の印画紙と対向する側と反対側の面がサーマルヘッド等の加熱手段と接触しながら、転写シート100が走行する。したがって、耐熱滑性層130は、基材シート110に潤滑性を付与することにより、熱転写シート100と加熱手段との間の摩擦を低下させ、接触走行の走行性を向上させるために設けられる。
【0034】
この耐熱滑性層130は、バインダと、潤滑剤と、フィラーとを含有する。
【0035】
(バインダ)
耐熱滑性層130の形成に用いるバインダとしては、ポリビニルアセトアセタール樹脂とアクリルシリコーン樹脂とを混合したバインダを用いる。樹脂同士の相溶性や耐熱滑性層の性能面を考慮すると、ポリビニルアセトアセタール樹脂とアクリルシリコーン樹脂の組み合わせが好ましい。例えば、相溶性の悪い樹脂同士を混合すると、均一な塗布層を得ることが難しくなり、さらに摩擦が上昇しやすいことから、熱転写シートの走行性に悪影響を及ぼすこととなる。
【0036】
ポリビニルアセトアセタール樹脂は、Tgが100℃以上であり、耐熱滑性層130に優れた耐熱性を付与できることから用いられる。従って、ポリビニルアセタール樹脂であっても、例えば、ポリビニルブチラール樹脂等は含まれない。このように、できるだけ耐熱滑性層130に耐熱性を持たせることによって、熱転写染料層120との接触の際に、染料や潤滑剤の移行を防ぐことができる。また、耐熱滑性層130のバインダとしては、1種類のポリビニルアセトアセタール樹脂を使用したものだけでなく、コーティング時の粘度調整のため、分子量の異なる2種類以上のポリビニルアセトアセタール樹脂を混合したバインダを用いてもよい。なお、2種類以上のポリビニルアセトアセタール樹脂を混合して使用する際の混合比は、特に限定されるものではない。
【0037】
また、ポリビニルアセトアセタール樹脂と混合して用いられるアクリルシリコーン樹脂は、例えば、ポリシロキサン基含有ビニルモノマーとアクリル酸エステルモノマーとの共重合反応や、アクリル樹脂と反応性シリコーンとの反応等により合成することができる。
【0038】
耐熱滑性層130用のアクリルシリコーン樹脂としては、常温で固体であり、質量平均分子量が100,000以上のものを用いる。ここで、常温で固体であるというのは、15℃〜30℃において、軟化や溶出することなく固形状のままで存在している状態を意味する。常温で液体またはワックス状であると、耐熱滑性層130と染料層120とが接触した際に染料が移行しやすくなり、色ずれの原因となる。また、本実施形態における耐熱滑性層130の形成では、エージング処理を必要としないので、アクリルシリコーン樹脂はあらかじめ十分にポリマー化している必要がある。そのため、耐熱滑性層130に用いるアクリルシリコーン樹脂の質量平均分子量は、100,000以上のものを用いる。アクリルシリコーン樹脂の質量平均分子量が100,000未満であると、耐熱滑性層130の充分な膜強度が得られないため、バインダとして用いることは難しく、熱架橋させる等の必要が生じてしまう。なお、一般的に分子量が大きくなれば樹脂の溶解性は低下することから、ポリマー化の度合と樹脂の溶解性とを考慮して、アクリルシリコーン樹脂の質量平均分子量を設定することが好ましい。
【0039】
さらに、耐熱滑性層130に用いるアクリルシリコーン樹脂は、水酸基価、酸価が低いものが好ましい。水酸基価や酸価が高いものは、COOH基またはOH基が多く残存していることを意味している。従って、耐熱滑性層130に水酸基価や酸価の高いアクリルシリコーン樹脂を用いると、耐熱滑性層130は吸湿しやすくなり、摩擦変動が起きやすくなる傾向にある。
【0040】
また、アクリルシリコーン樹脂は、できる限り合成由来の不純物(例えば、低分子のポリマーやオリゴマー等)を除去してあるほうが好ましい。不純物が存在したまま耐熱滑性層130に用いると、耐熱滑性層130と染料層120とが接触した際に染料が移行しやすくなり、かつ、熱転写シート100を繰り返し印画走行させたときにサーマルヘッド等の加熱手段上に焼き付きを生じるおそれがある。アクリルシリコーン樹脂から不純物を除去するための洗浄方法としては、溶媒洗浄、再結晶、濾過等の様々な方法があり、特に限定されるものではない。ポリシロキサン基含有ビニルモノマーとアクリル酸エステルモノマーとの共重合反応によりアクリルシリコーン樹脂が合成される場合には、溶媒中で重合反応を行い、洗浄工程を経ずに溶媒で固形分濃度調整を行う場合が多い。しかし、この合成方法であると、未反応物や副生成物が存在したままの状態になるため、不純物を取り除く必要がある。具体的には、アクリルシリコーン樹脂中の不純物量としては、5質量%以下であることが好ましい。
【0041】
耐熱滑性層130中のアクリルシリコーン樹脂の含有量は、ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以下である。アクリルシリコーン樹脂を10質量部以上含有させると、ポリビニルアセトアセタール樹脂との相溶性が悪くなり、摩擦が上昇しやすい。また、アクリルシリコーン樹脂を必要量以上含有させると、耐熱性が低下し、染料の耐熱滑性層130への転写(移行)量が増加してしまう。一方、アクリルシリコーン樹脂を用いる最低量としては、特に限定されることはなく、少量でも添加すれば摩擦低減に大きな効果が得られる。アクリルシリコーン樹脂を用いる最低量として、好ましくは、ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して0.1質量部以上である。
【0042】
(イソシアネートによる架橋)
また、本実施形態に係る耐熱滑性層130は、イソシアネートを用いてバインダ樹脂を架橋することが必要である。イソシアネートを使用しなければエージング処理、すなわち、耐熱滑性層130形成用の塗料を塗布後に加熱して膜を硬化させる熱硬化処理が不要となる。しかし、イソシアネートを用いることにより染料の耐熱滑性層130への転写を防止することができ、これは他の材料にはないイソシアネートの好適な特徴であることから、本実施形態では、イソシアネートを使用している。
【0043】
耐熱滑性層130に使用可能なイソシアネートの種類は、特に限定されるものではなく、任意のイソシアネートを用いることができ、例えば、分子中に少なくとも2以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物であれば、いずれも好適に使用できる。このようなポリイソシアネート化合物の具体例としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,6−ジイソシアネート、1,3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、トリメチル・ヘキサメチレンジイソシアネート等や、ジイソシアネートとポリオールを部分的に付加反応させたアダクト体(ポリイソシアネートプレポリマー)、例えばトリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとを反応させたアダクト体等が挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物の中でもより好ましく用いられるものは、反応速度の観点から、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体、4,4’−キシレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体である。
【0044】
耐熱滑性層130に用いるイソシアネートは、塗料を基材シートに塗布した後の乾燥工程で架橋反応を終了する程度の量が好ましい。具体的には、イソシアネートの耐熱滑性層中の含有量は、ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以上30質量部以下である。この程度のイソシアネートの量であれば、目安として、90〜120℃程度の乾燥温度で10秒〜40秒乾燥させると、耐熱滑性層130の膜が硬化し、架橋反応を完結させることが可能である。この際、耐熱滑性層130用の塗料の塗布工程時の湿度を高く保つことにより、さらにイソシアネートによる架橋反応が進行しやすくなる。また、乾燥の際に使用するドライヤーの風量によっても架橋反応の進行が大きく変化するため、ドライヤーの風量を適宜最適化することが好ましい。
【0045】
(潤滑剤)
耐熱滑性層130の形成に用いる潤滑剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン酸エステル、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド等を挙げることができる。これらの潤滑剤の中でも、リン酸エステル等が好ましく用いられ、特に、酸性リン酸エステルが好ましく用いられる。これは、酸性リン酸エステルを用いることにより、後述するイソシアネートによる架橋反応が促進されるからである。また、潤滑剤としては、融点が50℃以上のもの、特に、融点が50℃以上のリン酸エステルを含む潤滑剤を用いる。潤滑剤の融点が低いと、耐熱滑性層130の膜硬さが不十分となり、染料層120と接触した際に、染料や潤滑剤が移行し、色ずれの原因になるほか、染料層120とのブロッキングを招く要因となるおそれがある。潤滑剤の好ましい添加量としては、特に限定されるものではなく、バインダの摩擦に応じて適宜調整することが可能である。
【0046】
(フィラー)
耐熱滑性層130に使用できるフィラーとしては、球状粒子のフィラーを用いることができる。このような球状粒子のフィラーとしては、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボン等の無機充填剤や、シリコーン樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等からなる有機充填剤が使用可能である。これらの球状粒子のフィラーの中で最も好ましいのは、ポリメチルシルセスキオキサンからなるシリコーン樹脂である。シリコーン樹脂等の球状粒子の平均粒径としては、0.5μm以上5.0μm以下が好ましい。球状粒子の粒径が小さすぎると、耐熱滑性層130の表面から突出させることが難しく、滑り性を付与することが難しくなる。一方、球状粒子の粒径が大きすぎると、印画時にサーマルヘッド等の加熱手段の熱を伝達することが難しくなる。また、上記範囲の粒径の球状粒子を用いて耐熱滑性層130の表面に凹凸を形成させると、熱転写シート100を巻回して保存した際に、熱転写染料層120と耐熱滑性層130との接触面が少なくなり、染料の移行を防止するとともに滑りを良くすることができる。なお、ここでの平均粒径とは、粒度分布計で測定した際の1次粒子の数平均粒径を指す。
【0047】
また、耐熱滑性層130には、上記球状粒子のフィラーとともに平板状粒子のフィラーを併用してもよい。このような平板状粒子のフィラーとしては、例えば、タルク、クレー、雲母等の無機充填剤や、ポリエチレン樹脂等からなる有機充填剤が使用可能である。これらの平板上粒子のフィラーの中で最も好ましいのは、硬度の観点からタルクである。タルク等の平板上粒子の平均粒径が小さすぎるとフィラーの比表面積が増大し、サーマルヘッド等の加熱手段と接触した際に摩擦抵抗が大きくなるため、平板状粒子の粒径は、球状粒子よりも大きい方が好ましい。一方、平板状粒子の平均粒径が大きすぎると、塗料中にタルク等の平板状粒子を分散することが難しくなり、粒子が沈降してくることがある。また、平板状粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、フィラーの比表面積が減少し、充分なクリーニング効果を得ることができない。従って、平板状粒子としては、平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下のものが好ましく用いられる。なお、ここでの平均粒径とは、レーザー回折法で測定した際の1次粒子の数平均粒径(D50)を指す。
【0048】
また、耐熱滑性層130へのフィラーの添加量が多すぎると、塗料中にフィラーが沈降しやすくなり、耐熱滑性層130用塗料が塗工困難になったり、摩擦が上昇したりしてしまうため、適宜、フィラーの添加量を調整することが好ましい。具体的には、耐熱滑性層130中のフィラーの添加量は、5.0質量%以下であることが好ましい。
【0049】
以上説明したように、本発明の好適な実施形態に係る熱転写シートによれば、耐熱滑性層130の造膜時にエージング等の処理をする必要がない。また、耐熱滑性層130は、耐熱性及び造膜性に優れ、サーマルヘッド等の加熱手段による加熱温度範囲において、安定して低摩擦係数を実現することができ、しかも加熱手段を汚染することなく、熱転写染料層120に悪影響を及ぼすことなく保存安定性に優れている。
【0050】
<2.熱転写シートの製造方法>
以上、本発明の好適な実施形態に係る熱転写シートの構成について詳細に説明したが、続いて、本発明の好適な実施形態に係る熱転写シートの製造方法について説明する。
【0051】
[2−1.耐熱滑性層130の形成]
まず、上述したバインダ、潤滑剤、フィラー及びイソシアネート等の添加剤を所定の溶剤に溶解又は分散させることで、耐熱滑性層130形成用の塗料を調製する。この際、バインダとしては、ポリビニルアセトアセタール樹脂に、常温で粉末状固体の質量平均分子量100,000以上であるアクリルシリコーン樹脂を混合したバインダを使用する。また、アクリルシリコーン樹脂の添加量は、耐熱滑性層130の形成(硬化)後において、耐熱滑性層130中に、ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以下の割合で含まれるような量とする。また、イソシアネートの添加量は、耐熱滑性層130の形成(硬化)後において、耐熱滑性層130中に、ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以上30質量部以下の割合で含まれるような量とする。なお、溶剤の種類や、添加剤と溶剤との質量比は、添加剤が溶剤に十分に溶解又は分散するように適宜決定すればよい。
【0052】
次いで、この塗料を、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の方法を用いて、上述した基材シート110の一方の面に塗布した後に、乾燥させる。このときの乾燥条件としては、特に限定されず、バインダ、潤滑剤及びフィラー等の溶解に用いた溶剤が揮発するように適宜設定すればよい。このようにして、耐熱滑性層130が形成される。なお、本実施形態に係る耐熱滑性層130の形成の際には、いわゆるエージング処理は必要でない。また、耐熱滑性層130は、乾燥時の厚みが0.1μm〜5μmとなるように形成することが好ましい。耐熱滑性層130の厚みが厚過ぎると、耐熱滑性層130の表面から突出させることが難しくなり、滑り性を付与することが難しくなったり、粉打ち等が発生するおそれがある。
【0053】
[2−2.熱転写染料層120の形成]
次に、染料、バインダ、及び必要に応じて加えるその他の添加剤を所定の溶剤に添加し、各成分を溶解または分散させることで、熱転写染料層120形成用の塗料を調製する。なお、溶剤の種類や、染料、バインダ及び添加剤と溶剤との質量比は、添加剤が溶剤に十分に溶解又は分散するように適宜決定すればよい。
【0054】
次いで、この塗料を、上記のようにして耐熱滑性層130が形成された基材シート110の耐熱滑性層130とは反対側の面に塗布した後に、乾燥させる。このときの塗布方法としては、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の公知の方法を利用することができる。また、乾燥条件としては、特に限定されず、染料、バインダ等の溶解に用いた溶剤が揮発するように適宜設定すればよい。このようにして、熱転写染料層120が形成される。なお、熱転写染料層120は、乾燥時の厚みが、好ましくは0.1μm〜5.0μm、特に好ましくは0.1μm〜3.0μmとなるように形成する。また、熱転写染料層120としては、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等の複数の色相からなる染料層を順次形成してもよいし、単一の色相からなる染料層を基材シート110の全面に形成してもよい。
【0055】
ここで、上述した説明では、耐熱滑性層130を形成した後に、熱転写染料層120を形成する場合について説明したが、耐熱滑性層130と熱転写染料層120の形成順序は特に限定されるものではない。すなわち、上記とは逆に、熱転写染料層120を先に形成した後に、耐熱滑性層130を形成してもよい。なお、本実施形態に係る熱転写シート100の製造方法においては、エージング処理が不要になることに伴い、1パスの製造ラインで製造可能となる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を適用した実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。
【0057】
[耐熱滑性層用の材料]
以下の実施例及び比較例では、バインダとして以下の化合物1〜6を用い、潤滑剤として以下の化合物7〜9を用い、イソシアネート(熱架橋剤)として化合物10を用い、フィラーとして以下の化合物11,12を用いた。なお、化合物9は、アルキル鎖の炭素数C18のモノエステルとジエステルが、モノエステル:ジエステル=1.7:1(質量比)で含まれるSC有機化学工業社製の「Phoslex A−18」から、モノエステルを分離抽出したものである。
【0058】
<バインダ(ポリビニルアセタール樹脂)>
化合物1 ポリビニルアセトアセタール樹脂
(積水化学工業社製 商品名:KS−3Z Tg110℃)
化合物2 ポリビニルアセトアセタール樹脂
(積水化学工業社製 商品名:KS−1 Tg107℃)
化合物3
(積水化学工業社製 商品名:BX−1 Tg90℃)
【0059】
<バインダ(アクリルシリコーン樹脂)>
化合物4
(日信化学工業社製 商品名:R−170 固体状
Mw250,000〜300,000、揮発分(不純物)5質量%以下、
酸価0.06mgKOH/g、水酸基価0.1mgKOH/g)
化合物5
(東亜合成社製 商品名:サイマックUS−270 30質量%MEK−TOL溶液
Mw100,000未満、酸価26mgKOH/g、水酸基価0mgKOH/g)
化合物6
(東亜合成社製 商品名:サイマックUS−380 30質量%MEK−TOL溶液
Mw100,000未満、酸価0mgKOH/g、水酸基価65mgKOH/g)
【0060】
<潤滑剤(リン酸エステル)>
化合物7
(東邦化学工業社製 商品名:GF-199 融点44℃)
化合物8
(東邦化学工業社製 商品名:RL-210 融点55℃)
化合物9 リン酸モノオクタデシル
(純度94.2%、融点82℃)
【0061】
<熱架橋剤(イソシアネート)>
化合物10
(日本ポリウレタン社製 商品名:コロネートL 45質量%酢酸エチル溶液)
【0062】
<フィラー>
化合物11 ポリメチルシルセスキオキサンの球状粒子
(東芝シリコーン社製 商品名:XC−99 平均粒径0.7μm)
化合物12 タルク
(日本タルク社製 商品名:SG−95 平均粒径2.5μm)
【0063】
[熱転写シートの製造]
(耐熱滑性層の形成)
上記化合物を用いて、以下の手法により熱転写シートを作成した。まず、厚さ6μmのポリエステルフィルム(東レ社製、商品名ルミラー)を基材シートとして使用した。耐熱滑性層用のバインダ、潤滑剤及びフィラーとしては、表1に示した種類の化合物を、形成後の耐熱滑性層中に含まれる量が表1に示した量となるような添加量で用いた。上記のバインダ、潤滑剤及びフィラーをメチルエチルケトンとトルエンとの混合比が1:2(メチルエチルケトン:トルエン=1:2)の混合溶媒1900質量部に溶解させ、耐熱滑性層用の塗料を調製した。次いで、この塗料を上記の基材シートの一方の面に乾燥後の厚さが0.5μmとなるように塗布した後に乾燥させて、下記の表1に記載の実施例1〜実施例8及び比較例1〜比較例8の耐熱滑性層を得た。
【0064】
なお、表1には、バインダと潤滑剤とフィラーの種類及び耐熱滑性層中の含有量のほか、形成後の耐熱滑性層中のイソシアネートの含有量も示した。また、表1中のバインダと潤滑剤とフィラーの含有量、及び耐熱滑性層中のイソシアネートの含有量は、形成後の耐熱滑性層中に含まれる量の質量割合を示している。
【0065】
【表1】

【0066】
(熱転写染料層の形成)
次に、上記のようにして実施例1〜8及び比較例1〜8の耐熱滑性層を形成してすぐに、耐熱滑性層が形成された各基材シートの反対側の面に、下記の組成からなる3色の熱転写染料層を乾燥後の厚さ1μmとなるように塗布した後に乾燥させて熱転写染料層を得た。以上のようにして、基材シートの一方の面に熱転写染料層を有し、他方の面に耐熱滑性層を有する実施例1〜8及び比較例1〜8の熱転写シートを製造した。なお、耐熱滑性層及び熱転写染料層の形成の際、乾燥温度は105℃とし、乾燥時間は耐熱滑性層塗布時の乾燥時間も含めて合計で30秒とした。
【0067】
<イエロー色染料層>
フォロンイエロー(サンドス社製) 5.0質量部
ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製、商品名BX−1) 5.0質量部
メチルエチルケトン 45.0質量部
トルエン 45.0質量部
【0068】
<マゼンタ色染料層>
フォロンレッド 2.5質量部
アントラキノン系染料(住友化学社製、商品名ESC451) 2.5質量部
ポリビニルブチラール樹脂(積水化学社製、商品名BX−1) 5.0質量部
メチルエチルケトン 45.0質量部
トルエン 45.0質量部
【0069】
<シアン色染料層>
フォロンブルー(サンドス社製) 2.5質量部
インドアニリン染料(構造は、下記構造式1を参照) 2.5質量部
ポリビニラール樹脂(積水化学社製、商品名BX−1) 5.0質量部
メチルエチルケトン 45.0質量部
トルエン 45.0質量部
【0070】
【化1】

【0071】
[熱転写シートの評価]
上記のようにして作成した実施例1〜8及び比較例1〜8の熱転写シートについて、摩擦係数、走行性、スティッキング、染料保存性、及びサーマルヘッド汚染性を評価した。
【0072】
(摩擦係数の評価)
摩擦係数は、図6に示す摩擦測定機10を用いて測定した。この摩擦測定機10は、熱転写シート100及び印画紙Rをサーマルヘッド11及びプラテンロール12で挟み込み、テンションゲージ13で熱転写シート100及び印画紙Rを引き上げ、テンションを測定するものである。測定条件は下記の通りである。
【0073】
<測定条件>
熱転写シートの送りスピード:450mm/分
信号設定
印字パターン:2(Stair Step)
原稿:3(48/672ライン、14ステップ)
ストローブ分割:1
ストローブパルス幅:20.0m秒
印字スピード:22.0m秒/1ライン
クロック:3(4MHz)
ヘッド電圧:18.0V
【0074】
(走行性、サーマルヘッド汚染性の評価)
また、走行性及びサーマルヘッド汚染性は、以下に示す方法を用いて評価した。すなわち、上記で得られた熱転写シートをソニー株式会社製フルカラープリンタ(商品名UP−DR150)に装着し、印画紙(ソニー株式会社製、商品名UPC―R154H)に階調印画(16階調)し、走行性(印画ムラ、しわ発生、印画ずれ、走行音等の有無)及びサーマルヘッド汚染性を調べた。
【0075】
走行性については、印画ムラ、しわ発生等が無く良好なものを○、印画ムラ、しわ発生等があったものを×とした。
【0076】
サーマルヘッド汚染性については、階調印画を10000回繰り返した後、光学顕微鏡にてサーマルヘッドの表面を観察し、良好なものを○、付着物が観察されて汚れていたものを×とした。
【0077】
(染料保存性の評価)
さらに、染料保存性については、上記で得られた熱転写シートを各2枚用意し、これらの2枚の熱転写シート(20cm×20cm)の熱転写染料層と耐熱滑性層とを重ね合わせ、2枚のガラス板に挟み、上から5kgの重りで荷重をかけ、50℃のオーブンに入れて1週間保存した。保存前と保存後の熱転写シートについて、ソニー株式会社製フルカラープリンタ(商品名UP−DR150)に装着して印画紙(ソニー株式会社製、商品名UPC―R154H)に階調印画(16階調)し、各階調の色差をマクベス分光色測計(商品名SpectroEye)によるL*a*b*表色系における色度で測定した。次に、測定された色度から色相ΔEabを算出し、染料保存性を色ずれとして評価した。具体的には、色ずれについては、ΔEab≦4.5であったものを○、ΔEab>4.5であったものを×とした。また、得られた熱転写シートを50℃のオーブンに入れて1週間保存した後の耐熱滑性層の摩擦係数を測定し、高温保存した後の摩擦係数を確認した。
【0078】
以上の評価の結果を下記表2に示す。なお、表2における摩擦係数は、その最小値(min)と最大値(max)を示している。また、表2中の「初期摩擦係数」とは、得られた熱転写シートを保存することなく測定した際の摩擦係数であり、「保存後摩擦係数」とは、高温保存した後に測定した際の摩擦係数である。
【0079】
【表2】

【0080】
表2に示す結果から、実施例1〜実施例8では、いずれも走行性が良好で、低摩擦で、鮮明な画像が得られた。また、50℃で1週間保存した後の走行性に関しても、保存前の摩擦係数と比較して変化が少なく、実施例1〜実施例8においては、問題ないものであった。さらに、実施例1〜実施例8では、染料保存性について色ずれが少なく、問題ないレベルであった。サーマルヘッド汚染性に関しても、実施例1〜実施例8では、サーマルヘッドを観察したところ、サーマルヘッドの表面の汚染は発生せず、また、サーマルヘッドの表面が削られている痕跡もなく、繰り返し印画に影響を与えず良好な画像が得られた。
【0081】
一方、比較例1においては、摩擦係数、サーマルヘッド汚染性の評価は良好であったが、色相の変化が大きく、色ずれが生じていることが確認された。また、比較例2も同様に、摩擦係数、サーマルヘッド汚染性の評価は良好であったが、色ずれが生じていた。耐熱滑性層を目視で確認したところ、染料の転写が観察されたため、この染料の転写が色ずれの原因であることを確認した。
【0082】
比較例3においても、色ずれが生じており、また、耐熱滑性層の表面にブロッキング痕が確認された。このことから、耐熱滑性層についてフーリエ変換赤外分光光度計によるイソシアネートの測定を行ったところ、イソシアネートが残存していることが確認され、耐熱滑性層が十分に硬化していないことが確認できた。
【0083】
比較例4においては、摩擦は低かったものの、色相の変化が大きく、色ずれが生じていた。
【0084】
比較例5においては、初期摩擦係数及び走行性には問題なかったものの、染料保存性の評価のために高温で保存した後の保存後摩擦係数が若干上昇していた。なお、このときの熱転写シートの走行性自体には問題はなかった。
【0085】
比較例6においては、摩擦係数の最小値と最大値との差が大きく、走行時に若干の異音が確認され、また、色相の変化が大きく、色ずれが生じていた。
【0086】
比較例7、8においては、摩擦係数及び走行性には問題なかったが、染料保存性の評価による色ずれが若干大きいことが確認できた。その他の特性については問題なかった。
【0087】
以上の結果より、熱転写シートにおいて、耐熱滑性層が、以下の(A)及び(B)の構成を有することにより、製造時のエージング工程を省略することができ、かつサーマルヘッド等の加熱手段との摩擦係数を低減できることが分かった。また、耐熱滑性層が、以下の(A)及び(B)の構成を有することにより、摩擦の保存環境からの影響が少なく、走行性が良好であり、染料保存性も良く、良好な画像が得られることが分かった。
(A)バインダとして、ポリビニルアセトアセタール樹脂に、該ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以下の割合で、常温で粉末状固体の質量平均分子量100,000以上であるアクリルシリコーン樹脂を混合したバインダを含有する。
(B)ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以上30質量部以下のイソシアネートを含有する。
【0088】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0089】
100 熱転写シート
110 基材シート
120 熱転写染料層
130 耐熱滑性層
140 検知マーク層
150 転写保護層
160 転写受容層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シートの一方の面に形成され、染料を含有する熱転写染料層と、
前記基材シートの他方の面に形成され、バインダ、潤滑剤及びフィラーを含有する耐熱滑性層と、
を有し、
前記耐熱滑性層は、前記バインダとして、ポリビニルアセトアセタール樹脂に、該ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以下の割合で、常温で粉末状固体の質量平均分子量100,000以上であるアクリルシリコーン樹脂を混合したバインダを含有し、
前記耐熱滑性層はさらに、前記ポリビニルアセトアセタール樹脂100質量部に対して10質量部以上30質量部以下のイソシアネートを含有し、かつ、前記潤滑剤として融点が50℃以上のリン酸エステルを含む、熱転写シート。
【請求項2】
前記耐熱滑性層のフィラーが、ポリメチルシルセスキオキサンからなる球状粒子、または、ポリメチルシルセスキオキサンからなる球状粒子と平板状粒子であるタルクとの混合物からなる、請求項1に記載の熱転写シート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−153020(P2012−153020A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14309(P2011−14309)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】