説明

熱転写シート

【課題】高湿環境下における保存性が高く、印画濃度の高い画像を得ることができる熱転写シートを提供すること。
【解決手段】基材の一方の面にプライマー層、染料層がこの順で設けられ、基材の他方の面に背面層が設けられた熱転写シートであって、前記プライマー層が、ガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱転写を利用した画像の形成方法として、記録材としての昇華型染料をプラスチックフィルム等の基材上に担持させた熱転写シートと、紙やプラスチックフィルム等の別の基材上に染料受容層を設けた熱転写受像シートとを互いに重ね合わせてフルカラー画像を形成する昇華型熱転写方式が知られている。この方法は昇華性染料を色材としているため中間調の再現性や階調性に優れており、原稿通りのフルカラー画像を受像シート上に鮮明に表現することができるので、デジタルカメラ、ビデオ、コンピューター等のカラー画像形成に応用されている。その画像は、銀塩写真に匹敵する高品質なものである。
【0003】
昇華型熱転写方式で用いられる熱転写シートの1つとして、基材上に、プライマー層を介して昇華性染料とバインダー樹脂を含む染料層が設けられた熱転写シートが知られている。該プライマー層を備える熱転写シートによれば、基材と染料層との密着性を向上させることができ、転写時に熱転写受像シートに染料層が層ごととられる不良、いわゆる異常転写を防止することができるとされている。
【0004】
ところで、熱転写シートの染料層は、一般的に上記の昇華性染料とバインダーを溶剤に分散、或いは溶解してなる染料層用塗工液を用いて形成される。このとき、プライマー層が溶剤に可溶な樹脂を含有する場合には、染料層の形成時に、プライマー層の樹脂が染料層中に溶け出し染料層とプライマー層とが混合された熱転写シートが製造されることとなる。このようにして製造された熱転写シートを用いて画像形成を行った場合には、形成される画像の印画濃度が低下する問題が生じる。このような問題の対策として、近時、水系の樹脂を含有するプライマー層が採用されつつある。水系の樹脂としては、例えば、特許文献1に開示がされている、PVP(ポリビニルピロリドン)樹脂等が知られている。
【0005】
一方で、水系の樹脂を含むプライマー層、例えば、上記特許文献1に開示がされているPVP樹脂を含むプライマー層は、吸湿しやすく、高湿環境下での保存性が低下する問題がある。このような状況下、耐湿性を向上させる種々の試みがなされており、例えば、特許文献2には、Tgが30℃以上のエマルジョン樹脂を用いて製造されたプライマー層を含む熱転写シートが提案なされている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に提案がされているTgが30℃のエマルジョン樹脂を用いてプライマー層を形成した場合には、耐湿性の向上を図ることはできるものの、耐熱性が不十分となり、印画濃度が低下することとなる。つまり、耐熱性と、耐湿性との関係はトレードオフの関係となっており、双方の要求を満たすプライマー層とすることは困難とされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−262594号公報
【特許文献2】特開2011−104971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、高湿環境下における保存性が高く、印画濃度の高い画像を得ることができる熱転写シートを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、基材の一方の面にプライマー層、染料層がこの順で設けられ、基材の他方の面に背面層が設けられた熱転写シートであって、前記プライマー層が、ガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョンを含むことを特徴とする。
【0010】
また、前記プライマー層が、架橋剤を更に含み、前記ガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョンは、この架橋剤によって架橋されていてもよい。また、前記架橋剤が、カルボジイミド又はオキサゾリンであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱転写シートによれば、高湿環境下における保存性が高く、印画濃度の高い画像を得ることができる
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の熱転写シートの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の熱転写シートについて詳細に説明する。図1は、本発明の熱転写シートの一例を示す概略断面図である。
【0014】
図1に示すように、本発明の熱転写シート10は、基材の一方の面にプライマー層2、染料層3がこの順で設けられ、基材の他方の面に背面層4が設けられた構成をとる。そして、本発明の熱転写シート10は、プライマー層2が、ガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョンを含む点に特徴を有する。以下、本発明の熱転写シート10の各構成について具体的に説明する。
【0015】
(基材)
本発明の熱転写シート10に用いられる基材1としては、耐熱性と取り扱い上支障のない機械的特性を有するものであれば従来公知の基材を適宜選択して用いることができる。このような基材として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース誘導体、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン・エチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等の各種プラスチックフィルムまたはシートを挙げることができる。これらの材料はそれぞれ単独でも使用できるが、他の材料と組合せた積層体として使用してもよい。基材1の厚さは、その強度及び耐熱性が適切になるように材料に応じて適宜設定することができ、2.5〜100μm程度が一般的である。
【0016】
また、基材1は、プライマー層2が形成される面に接着処理が施されていても良い。接着処理を施すことで、基材1とプライマー層2との密着性を向上させることができる。
【0017】
接着処理としては、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、低温プラズマ処理、プライマー処理、グラフト化処理等公知の樹脂表面改質技術をそのまま適用することができる。また、それらの処理を二種以上併用することもできる。
【0018】
(プライマー層)
基材1上にはプライマー層2が設けられている。プライマー層2は、本発明の熱転写シート10における必須の構成である。
【0019】
<アクリル系樹脂エマルジョン>
本発明では、プライマー層2がアクリル系樹脂エマルジョンを含有するとともに、このアクリル系樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)が170℃以上に規定されていることから、以下の理由によって、耐熱性の向上と、耐湿性の向上が図られる。なお、本発明におけるガラス転移温度(Tg)とは、DSC(示差走査熱量測定)による熱量変化の測定(DSC法)に基づき求められる温度である。
【0020】
(i)アクリル系樹脂エマルジョンは、溶剤に不溶、或いは難溶な性質を有する。した
がって、アクリル系樹脂エマルジョンを含むプライマー層2とすることで、バインダー樹脂と昇華性染料を溶剤に分散或いは溶解させた塗工液を、該プライマー層2上に塗工して染料層3を形成するときに、プライマー層2と染料層3とが混ざり合うことがない。これにより、印画濃度が低下することを防止できる。
【0021】
(ii)またアクリル樹脂エマルジョンは、上記(i)の効果とともに、耐湿性に優れ
る性質を有する。したがって、アクリル樹脂エマルジョンを含有するプライマー層2によれば、高湿下であっても保存性が低下することがない。
【0022】
(iii)またさらに、アクリル樹脂エマルジョンは、ガラス転移温度(Tg)が17
0℃以上に規定されていることから、プライマー層2に高い耐熱性が付与され、これにより画像形成時における印画濃度の向上が図られる。プライマー層2の耐熱性を高めることで、印画濃度の向上が図られる正確な理由は現在のところ必ずしも明らかではないが、耐熱性の高いプライマー層2とすることで、画像形成時にサーマルヘッド等の加熱手段によって熱転写シートに熱が与えられたときに該プライマー層2の軟化が抑制され、これにより印画濃度の向上が図られるものと推察される。具体的には、プライマー層2が軟化した場合には、染料層中の染料が受像シートへ移行すると同時に軟化したプライマー層へも染料が移行することとなり印画濃度が低下することとなるが、上述したように、アクリル樹脂エマルジョンのガラス転移温度(Tg)は170℃以上に規定されていることから、印画時の熱によってプライマー層2の軟化が防止され、プライマー層2側へ染料が移行されることを防止できるものと推察される。或いは、プライマー層2の耐熱性の向上に伴い、印画時の熱によってプライマー層2が受けるダメージが低減する。これにより、印画時の熱を効率よく染料層3に伝達させることでき、印画濃度の向上が図られるものと推察される。いずれにせよ、ガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル樹脂エマルジョンを含有させることで、印画濃度の低下の防止が図られる、換言すれば印画濃度が向上することは明らかである。
【0023】
ガラス転移温度(Tg)が170℃以上であるとの条件を満たすものであれば、アクリル系樹脂エマルジョンとしては、従来公知のアクリル系樹脂エマルジョンを適宜選択して用いることができる。公知のアクリル系樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルなどの重合物及びこれらにさらに酢酸ビニル、スチレン、ブタジエンなどを共重合させたエマルジョン等を挙げることができる。エマルジョン化の方法について特に限定はなく、通常の乳化法によりエマルジョンとしたものや、あるいは自己分散型のアクリル樹脂を用いてもよい。
【0024】
また、これ以外にも、例えば、アクリルエステル系、スチレン/アクリル酸エステル系、アクリロニトリル系、スチレン−ブタジエン系、アクリロニトリル−ブタジエン系、アクリル酸エステル−ブタジエン系、塩化ビニル系、酢酸ビニル系等の一般的な高分子エマルジョンの存在下で、例えば、アクリルアミドを主成分とする単量体成分等を共重合させて得られるコア・シェル型のアクリル系樹脂エマルジョン等も使用することができる。
【0025】
ガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョンは、市販品をそのまま使用することができる。例えば、シェル部がアクリルアミド系樹脂(ガラス転移温度:218℃)でコア部がアクリル系樹脂(ガラス転移温度:10℃)からなるコア・シェル型アクリル系樹脂エマルション(三井化学社製、バリアスター(登録商標)B−1000、コア部:シェル部の重量比(1:1.5)、固形分20%)等を好適に用いることができる。なお、本発明において、コア・シェル型アクリル系樹脂エマルションのガラス転移温度とは、シェル部のアクリル系樹脂のガラス転移温度を意味する。
【0026】
アクリル系樹脂エマルジョンは、ガラス転移温度(Tg)が170℃以上であればよいが、200℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度(Tg)が200℃以上のアクリル系樹脂エマルジョンとすることで、プライマー層2により高い耐熱性を付与することができる。
【0027】
<架橋剤>
また、プライマー層2が、上記アクリル系樹脂エマルジョンとともに、架橋剤を含有しており、プライマー層中に存在するアクリル系樹脂エマルジョンはこの架橋剤によって架橋されていることが好ましい。この構成とすることで、プライマー層2により高い耐熱性と、良好な接着性を付与することができる。
【0028】
架橋剤としては、上記のガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョンを架橋することができるものであれば特に限定されることはなく、例えば、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ樹脂等を使用することができるが、本発明においては、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤を架橋剤として好ましく使用することができる。
【0029】
架橋剤の含有量は、ガラス転移温度が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョン100質量部(固形分)に対し、40質量部以上100質量部以下の範囲内で含有されていることが好ましく、60質量部以上90質量部以下の範囲内がより好ましい。架橋剤の含有量をこの範囲とすることで、高い耐熱性と、良好な接着性を付与することができる。架橋剤の含有量が40質量部未満では、架橋構造が形成されずプライマー層2に所望の接着性を付与することができない場合がある。一方、100質量部より多く含有させた場合には、未反応のまま残存した架橋剤の可塑化により塗膜強度を低下させる場合がある。
【0030】
また、プライマー層2に接着助剤を含有してもよい。接着助剤を含有させることで、プライマー層2の接着性を更に向上させることができる。接着助剤としては、従来公知のものを適宜選択して用いることができるが、ガラス転移温度が60℃未満のものを使用した場合には、その含有量によっては、プライマー層2の耐熱性が低下してしまう場合がある。したがって、接着助剤としては、ガラス転移温度が60℃以上のものを好適に使用することができる。このような、接着助剤としては、ガラス転移温度が60℃以上の、水系ポリウレタン、水系ポリエステル、水系アクリル等を挙げることができる。
【0031】
接着助剤の含有量についても特に限定はないが、プライマー層2の固形分総量に対して、5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、10質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
プライマー層2には、これ以外にも各種添加剤、例えば、帯電防止剤等を含有させることもできる。帯電防止剤を含有させた場合には、本発明の熱転写シートに帯電防止性能を付与できる。帯電防止剤としては、例えば、酸化スズ等の金属酸化物の微粉末や、スルホン化ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等のπ電子共役系構造を有する導電性材料を挙げることができる。
【0033】
プライマー層2の形成方法としては、ガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョン、その他必要に応じて、架橋剤、接着助剤、帯電防止剤等の添加剤を、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の溶媒に分散させることで得られたプライマー層用塗工液を、例えば、グラビア印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法、ロールコーター、バーコーター等の形成手段により、基材1上に塗布し、乾燥させることにより形成することができる。
【0034】
プライマー層2の厚さについても特に限定はないが、染料層3への熱伝導性や、耐熱性等を考慮すると0.03g/m2〜1.0g/m2の厚さの範囲内であることが好ましい。
【0035】
(染料層)
図1に示すように基材1の一方の面の少なくとも一部には、昇華性染料とバインダー樹脂を含む染料層3が設けられている。なお、図1に示す形態では、基材1上に単一の染料層3が設けられた構成をとっているが、異なる染料を含む染料層を同一基材の同一面に面順次に繰り返し設けることも可能である。
【0036】
<昇華性染料>
染料層3には昇華性染料が含有されている。昇華性染料としては従来公知のものを適宜選択して用いることができる。昇華性染料としては、例えば、ジアリールメタン系、トリアリールメタン系、チアゾール系、メロシアニン、ピラゾロンメチン等のメチン系、インドアニリン、アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチンに代表されるアゾメチン系、キサンテン系、オキサジン系、ジシアノスチレン、トリシアノスチレンに代表されるシアノメチレン系、チアジン系、アジン系、アクリジン系、ベンゼンアゾ系、ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジズアゾ等のアゾ系、スピロピラン系、インドリノスピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系、ナフトキノン系、アントラキノン系、キノフタロン系等のものが挙げられる。
【0037】
昇華性染料は、染料層3のバインダー樹脂固形分に対し、50質量%以上350質量%、好ましくは80質量%以上300質量%であることが好ましい。昇華性染料の含有量が、上記範囲未満であると印字濃度が低くなることがあり、上記範囲を越えると保存性等が低下することがある。
【0038】
<バインダー樹脂>
染料層3に含有されるバインダー樹脂について特に限定されることはなく、従来公知のバインダー樹脂を適宜選択して用いることができる。好ましいバインダー樹脂としては、エチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、メチルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、染料の移行性等の観点から、ポリビニルアセタール樹脂や、ポリビニルブチラール樹脂を特に好適に使用することができる。
【0039】
染料層3には、無機微粒子、有機微粒子等の添加剤が含有されていてもよい。無機微粒子としては、カーボンブラック、アルミニウム、二硫化モリブデン等が挙げられ、有機微粒子としては、ポリエチレンワックス等が挙げられる。また、染料層3には、本発明の趣旨を妨げない範囲内で、離型剤が含有されていてもよい。離型剤としては、シリコーンオイル、リン酸エステル、シリコーン変性ポリマー等を挙げることができる。
【0040】
染料層3の形成方法についても特に限定はなく、バインダー樹脂、昇華性染料、更に必要に応じて添加剤、例えば、離型剤や無機微粒子などを加えて、トルエン、エチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、エタノール、シクロヘキサノン、DMFなどの適当な有機溶剤に溶解、あるいは有機溶剤や水に分散した塗工液をグラビア印刷、ダイコート印刷、バーコート印刷、スクリーン印刷、又はグラビア版を用いたリバースロールコーティング印刷等の手段により塗布、及び乾燥して形成することができる。染料層3の塗工量は、乾燥固形基準で0.2〜6.0g/m2、好ましくは0.3〜3.0g/m2程度である。
【0041】
上記のように、染料層3は、一般的に溶剤を含む塗工液を用いて形成されるが、アクリル樹脂エマルジョンを含むプライマー層2は、染料層用塗工液に含まれる溶剤に溶けにくい。したがって、熱転写シートの製造時に、プライマー層2と染料層3とが混ざり合うことで発生し得る画像形成時における印画濃度の低下を防止することができる。
【0042】
(背面層)
図1に示すように、基材1の他方の面には、耐熱性、及び印画時におけるサーマルヘッドの走行性等を向上させるための背面層4が設けられている。
【0043】
背面層4は、従来公知の熱可塑性樹脂等を適宜選択して形成することができる。このような、熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、スチレンアクリレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルクロリド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂、これらのシリコーン変性物等が挙げられる。
【0044】
また、上記した樹脂に架橋剤を添加してもよい。架橋剤として機能するポリイソシアネート樹脂としては、特に制限なく従来公知のものを使用できるが、それらのなかでも、芳香族系イソシアネートのアダクト体を使用することが望ましい。芳香族系ポリイソシアネートとしては、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、又は、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、trans−シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェートがあげられ、特に2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、又は、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物が好ましい。このようなポリイソシアネート樹脂は、上記した水酸基含有熱可塑性樹脂をその水酸基を利用して架橋させ、耐熱滑性層の塗膜強度や耐熱性を向上させる。
【0045】
また、背面層4には、上記熱可塑性樹脂に加え、スリップ性を向上させる目的で、ワックス、高級脂肪酸アミド、リン酸エステル化合物、金属石鹸、シリコーンオイル、界面活性剤等の離型剤、フッ素樹脂等の有機粉末、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム等の無機粒子等の各種添加剤が含有されていることが好ましく、リン酸エステル又は金属石鹸の少なくとも1種が含有されていることが特に好ましい。
【0046】
背面層4は、例えば、上記熱可塑性樹脂、必要に応じて添加される各種添加剤を適当な溶媒に分散又は溶解させた塗工液を、基材1の染料層3の反対側の面上に、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング印刷法等の公知の手段により、塗布し、乾燥することにより形成することができる。背面層4の厚みは、耐熱性等の向上等の点から、乾燥後塗工量が0.1〜3g/m2であることがより好ましい。
【0047】
(転写性保護層)
また、本発明の熱転写シート10において、上記で説明した染料層3と転写性保護層(図示しない)とを面順次に設けることもできる。
【0048】
転写性保護層は、多層構造をとっていてもよいし、単層構造をとっていてもよい。多層構造をとる場合には、画像に各種の耐久性を付与するための主体となる主保護層のほか、転写性保護層と印画物の受像面との接着性を高めるために転写性保護層の最表面に配置される接着層や、補助的な保護層や、保護層本体の機能以外の機能を付加するための層などが含まれていてもよい。主保護層とその他の層の順序は任意であるが、通常は、転写後に主保護層が受像面の最表面層となるように、接着層と主保護層との間に他の層を配置する。
【0049】
多層構造の転写性保護層を構成する主保護層又は単層構造の転写性保護層は、従来から保護層形成用樹脂として知られている各種の樹脂で形成することができる。保護層形成用樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、これらの各樹脂をシリコーン変性させた樹脂、これらの各樹脂の混合物、電離放射線硬化性樹脂、紫外線遮断性樹脂等を例示することができる。
【0050】
電離放射線硬化性樹脂を含有する保護層は、耐可塑剤性や耐擦過性が特に優れている。電離放射線硬化性樹脂としては公知のものを使用することができ、例えば、ラジカル重合性のポリマー又はオリゴマーを電離放射線照射により架橋、硬化させ、必要に応じて光重合開始剤を添加し、電子線や紫外線によって重合架橋させたものを使用することができる。
【0051】
紫外線遮断性樹脂を含有する保護層は、印画物に耐光性を付与することを主目的とする。紫外線遮断性樹脂としては、例えば、反応性紫外線吸収剤を熱可塑性樹脂又は上記の電離放射線硬化性樹脂に反応、結合させて得た樹脂を使用することができる。より具体的には、サリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、置換アクリロニトリル系、ニッケルキレート系、ヒンダートアミン系のような従来公知の非反応性の有機系紫外線吸収剤に、付加重合性二重結合(例えばビニル基、アクリロイル基、メタアクリロイル基など)、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基のような反応性基を導入したものを例示することができる。
【0052】
単層構造の転写性保護層又は多層構造の転写性保護層中に設けられた主保護層は、保護層形成用樹脂の種類にもよるが、通常は0.5〜10μm程度の厚さであることが好ましい。
【0053】
転写性保護層の最表面には接着層が形成されていてもよい。接着層は、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂のような加熱時接着性の良好な樹脂で形成することができる。接着層の厚さは、通常0.1〜5μm程度である。また、転写性保護層の多層構造中の任意の場所、または最表面にプライマー層2が形成されていてもよいし、プライマー層2が形成されていなくてもよい。
【0054】
以上、本発明の熱転写シート10について説明を行ったが、本発明は上記各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、上記で説明した層以外にも、必要に応じて任意の他の層を適宜設けることもできる。
【実施例】
【0055】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。以下、特に断りのない限り、部または%は質量基準である。
【0056】
(実施例1)
基材として厚さ4.5μmの易接着処理がされたポリエチレンテレフタレートフィルム(ダイヤホイルK203E 三菱化学ポリエステルフィルム(株)製)を用い、該基材の易接着処理された面上に、下記組成の背面層用塗工液を乾燥塗布量0.8g/m2となるようにバーコーター法で塗工し、100℃で1分間乾燥して背面層を形成した。また、基材の背面層を形成した面とは異なる面上に、下記組成のプライマー層用塗工液1を、乾燥塗布量0.15g/m2となるように塗工し、110℃で1分間乾燥してプライマー層を形成した。次いで、プライマー層上に、下記組成の染料層用塗工液を、乾燥塗布量0.8g/m2となるように塗工し、80℃で1分間乾燥して染料層を形成し、実施例1の熱転写シートを得た。
【0057】
<プライマー層形成用塗工液1>
・アクリル樹脂エマルジョン(固形分20%,Tg=218℃) 10部
(バリアスターB−1000 三井化学(株)製)
・水 15部
・IPA 15部
【0058】
<染料層形成用塗工液>
・C.I.ディスパースイエロー201 2部
・ポリビニルブチラール樹脂 3.5部
(エスレックBX−1 積水化学工業(株)製)
・メチルエチルケトン 47.25部
・トルエン 47.25部
【0059】
<背面層形成用塗工液>
・ポリビニルブチラール樹脂 10部
(エスレックBX−1 積水化学工業(株)製)
・ポリイソシアネート硬化剤 2部
(タケネートD218 武田薬品工業(株)製)
・リン酸エステル 2部
(プライサーフA208S 第一工業製薬(株)製
・メチルエチルケトン 43部
・トルエン 43部
【0060】
(実施例2)
プライマー層用塗工液1を、下記組成のプライマー層塗工液2に変更した以外は、全て実施例1と同様にして、実施例2の熱転写シートを得た。
【0061】
<プライマー層用塗工液2>
・アクリル樹脂エマルジョン(固形分20%,Tg=218℃) 10部
(バリアスターB−1000 三井化学(株)製)
・カルボジイミド系架橋剤(固形分40%) 3.7部
(カルボジライトSV−02 日清紡ケミカル(株)製)
・水 28.4部
・IPA 28.4部
【0062】
(実施例3)
プライマー層用塗工液1を、下記組成のプライマー層塗工液3に変更した以外は、全て実施例1と同様にして、実施例3の熱転写シートを得た。
【0063】
<プライマー層用塗工液3>
・アクリル樹脂エマルジョン(固形分20%,Tg=218℃) 10部
(バリアスターB−1000 三井化学(株)製)
・オキサゾリン架橋剤(固形分25%) 6.4部
(エポクロスWS−700 (株)日本触媒製)
・水 22.8部
・IPA 22.8部
【0064】
(実施例4)
プライマー層用塗工液1を、下記組成のプライマー層塗工液4に変更した以外は、全て実施例1と同様にして、実施例4の熱転写シートを得た。
【0065】
<プライマー層用塗工液4>
・アクリル樹脂エマルジョン(固形分20%,Tg=218℃) 10部
(バリアスターB−1000 三井化学(株)製)
・カルボジイミド系架橋剤(固形分40%) 2部
(カルボジライトSV−02 日清紡ケミカル(株)製)
・水系ポリエステル(固形分30%,Tg=61℃) 1.6部
(バイロナールMD−1245 東洋紡(株)製)
・水 25.5部
・IPA 25.5部
【0066】
(比較例1)
プライマー層用塗工液1を、下記組成のプライマー層用塗工液Aに変更した以外は、全て実施例1と同様にして、比較例1の熱転写シートを得た。
【0067】
<プライマー層用塗工液A>
・ポリビニルピロリドン(固形分100%,Tg=174℃) 10部
(PVP−K90 ISPジャパン社製)
・水 85部
・IPA 85部
【0068】
(比較例2)
プライマー層用塗工液1を、下記組成のプライマー層用塗工液Bに変更した以外は、全て実施例1と同様にして、比較例2の熱転写シートを得た。
【0069】
<プライマー層用塗工液B>
・アクリル樹脂エマルジョン(固形分35%,Tg=60℃) 10部
(AE−173A JSR(株)製)
・水 30部
・IPA 30部
【0070】
(比較例3)
プライマー層用塗工液1を、下記組成のプライマー層用塗工液Cに変更した以外は、全て実施例1と同様にして、比較例3の熱転写シートを得た。
【0071】
<プライマー層用塗工液C>
・アクリル樹脂エマルジョン(固形分35%,Tg=60℃) 10部
(AE−173A JSR(株)製)
・カルボジイミド系架橋剤(固形分40%) 7部
(カルボジライトSV−02 日清紡ケミカル(株)製)
・水 55部
・IPA 55部
【0072】
(比較例4)
プライマー層用塗工液1を、下記組成のプライマー層用塗工液Dに変更した以外は、全て実施例1と同様にして、比較例4の熱転写シートを得た。
【0073】
<プライマー層用塗工液D>
・アクリル樹脂エマルジョン(固形分35%,Tg=60℃) 10部
(AE−173A JSR(株)製)
・オキサゾリン架橋剤(固形分25%) 11.2部
(エポクロスWS−700 (株)日本触媒製)
・水 52.4部
・IPA 52.4部
【0074】
(比較例5)
プライマー層用塗工液1を、下記組成のプライマー層用塗工液Eに変更した以外は、全て実施例1と同様にして、比較例5の熱転写シートを得た。
【0075】
<プライマー層用塗工液E>
・アクリル樹脂エマルジョン(固形分35%,Tg=60℃) 10部
(AE−173A JSR(株)製)
・カルボジイミド系架橋剤(固形分40%) 5.6部
(カルボジライトSV−02 日清紡ケミカル(株)製)
・水系ポリエステル(固形分30%,Tg=61℃) 2.9部
(バイロナールMD−1245 東洋紡(株)製)
・水 48.5部
・IPA 48.5部
【0076】
(印画濃度評価)
CW−01プリンタ用メディアセットCW−MS46のペーパーと、実施例1〜4、比較例1〜5の熱転写シートを用いて、シチズン・システムズ(株)製:MEGA PIXEL III用純正リボンのYe部に貼り、イエローベタ(階調255/255)の印画パターンを印画し、SpectroLino(グレタグマクベス社製)にて、印画部の最高濃度を測定し、下記評価基準に基づいて印画濃度の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0077】
<評価基準>
○・・・比較例1と同等以上の濃度
×・・・比較例1よりも濃度が低い。
【0078】
(高湿保存性評価)
実施例1〜4、比較例1〜5の熱転写シートを40℃90%RHの条件の環境下に、100時間保存したものと保存していないものをそれぞれシチズン・システムズ(株)製:MEGA PIXEL III用純正リボンのYe部に貼り、CW−01プリンタ用メディアセットCW−MS46のペーパーと組合せ、15階調刻み(階調値0、15、30・・・240、255/255)の印画パターンを印画し、SpectroLino(グレタグマクベス社製)にて印画部の印画濃度(イエロー)の測定し、以下の評価基準に基づいて高湿保存性の評価を行った。評価結果を表1に併せて示す。
【0079】
<評価基準>
◎・・・保存前後のOD=0.5付近の濃度変化が5%未満である。
○・・・保存前後のOD=0.5付近の濃度変化が5%以上10%未満である。
×・・・保存前後のOD=0.5付近の濃度変化が10%以上である。
【0080】
(接着性評価)
実施例1〜4、比較例1〜5の熱転写シートを用いて、15階調刻み(階調値0、15、30・・・240、255/255)の印画パターンを印画する操作を1回の工程とし、この工程を、熱転写シートの染料層が層ごと熱転写受像シートに転写する現象、所謂異常転写が発生するまで繰り返し行い、異常転写が生じたときの回数を記録した。この回数を表1に併せて示す。なお、繰り返しの回数は6回を上限とし、表中「7」と記載されている場合には、上記工程を6回繰り返しても異常転写が発生しなかったことを意味する。また異常転写がないということはプライマー層と染料層との接着性が高いことを意味する。
【0081】
【表1】

【0082】
表1からも明らかなように、プライマー層が、ガラス転移温度が170℃以上であるアクリル系樹脂エマルジョンを含む実施例の熱転写シートは、印画濃度、高湿保存性の双方に優れる結果となった。特に、ガラス転移温度が170℃以上であるアクリル系樹脂エマルジョンを架橋剤によって架橋せしめた実施例2〜4の熱転写シートは、接着性に優れる結果となった。
【0083】
一方、プライマー層が、ガラス転移温度が170℃以上であるものの、アクリル系樹脂エマルジョン以外の樹脂を含む比較例1の熱転写シートは、高湿保存性が劣る結果となった。また、プライマー層がアクリル系樹脂エマルジョンを含むものの、そのガラス転移温度が170℃未満の比較例2〜5の熱転写シートは、印画濃度に劣る結果となった。これにより、本発明の熱転写シートの優位性が明らかとなった。
【符号の説明】
【0084】
10・・・熱転写シート
1・・・基材
2・・・プライマー層
3・・・染料層
4・・・背面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面にプライマー層、染料層がこの順で設けられ、基材の他方の面に背面層が設けられた熱転写シートであって、
前記プライマー層が、ガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョンを含むことを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
前記プライマー層は、架橋剤を更に含み、前記ガラス転移温度(Tg)が170℃以上のアクリル系樹脂エマルジョンは、この架橋剤によって架橋されていることを特徴とする請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項3】
前記架橋剤が、カルボジイミド又はオキサゾリンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱転写シート。

【図1】
image rotate