説明

熱転写受像シート

【課題】従来の熱転写受像シートは、転写画像のハイライト部にムラが発生し易い、ブリードアウトが生じ易く表面汚染や導電性付与効果の持続性の低下が起こり易いといった問題があった。
【解決手段】基材の一方の面に、染料染着性を有するバインダ樹脂を主体とした染料受容層を有する熱転写受像シートにおいて、該染料受容層または該一方の面もしくは他方の面に設けられ、樹脂を含む少なくとも一つの他の層が、エーテル結合を有する化合物からなるマトリックス中に有機または無機の電解質リチウム塩が分散されたリチウムイオン伝導剤を含有しており、前記マトリックスが、同一層中の前記バインダ樹脂または前記他の層を構成する樹脂とイソシアネート化合物を介して架橋するよう構成した。これにより、転写画像のハイライト部のムラの発生を抑えることができ、均質な帯電防止性能を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写プリンターに使用される、支持体(以下、基材という)と、該基材上に形成された染料受容層とからなる熱転写受像シートに関し、詳しくは優れた帯電防止性を有する熱転写受像シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、昇華性染料をポリエチレンテレフタレート(PET)等からなる基材上に塗布した熱転写シートと、記録用信号に基づき選択的に電圧を印加する発熱素子を有するサーマルヘッドとを用いて、染着性を有する染料受容層を基材上に設けてなる熱転写受像シートに対し、前記熱転写シートを介して前記サーマルヘッドを圧接させるとともに、記録情報に基づいて前記サーマルヘッドの発熱素子に電圧を印加し、前記染料を前記熱転写受像シートの染料受容層に転写させることにより所望の記録を行ういわゆる昇華型感熱記録方式が知られている。
【0003】
従来、かかる熱転写シートを用いて熱転写受像シート上に画像形成を行う場合、一般的に熱転写受像シートを構成する材料は例えば約1014Ω/□といった高い表面固有抵抗を有するために、製造時、使用時等の摩擦による静電気の発生に伴い帯電し易かった。そのため、熱転写受像シート表面に埃等が付着し易くなり、付着した埃の部分で転写画像に白抜けが発生したり、熱転写受像シートと接触する熱転写シートに皺が発生して解像度の低下を招いたりするといった問題が発生していた。また、帯電により熱転写受像シートと熱転写シートとの間で貼り付きが生じ搬送不良を起こすといった問題も発生していた。
【0004】
かかる問題を解決する手段として、第4級アンモニウム塩基を有するアクリル樹脂等からなる帯電防止層を形成することが提案されている(特許文献1)。しかし、第4級アンモニウム塩のような界面活性剤系の導電性付与剤により導電性を付与しようとする場合、イオン伝導には空気中の水分によるアシストを必要とするため、湿度低下時には導電性が著しく低下してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、湿度低下時でも導電性の低下が少ない熱転写受像シートとして、基材の少なくとも一方の面に少なくとも染料受容層を設けてなる熱転写受像シートであって、リチウムイオン伝導性樹脂を少なくとも最表面層、または最表面層下(基材側)の層に含有することを特徴とする熱転写受像シートが提案されている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−55868号公報
【特許文献2】特開2005−96344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2に開示されたリチウムイオン伝導性樹脂を用いた場合、(1)例えば染料受容層に用いると転写画像のハイライト部にムラが発生し易くなる;(2)ブリードアウトが生じ易く、表面汚染や導電性付与効果の持続性の低下が起こり易いといった問題も生じていた。
本発明者らの種々の検討の結果、上記(1)の問題は、所望の導電性を発現させるために導入したリチウムイオン伝導性樹脂が染料受容層の染料染着性樹脂中に均一に分散しないことに起因するものであり、また上記(2)の問題は、リチウムイオン伝導性樹脂のマトリックス樹脂が末端にヒドロキシル基を有するため、温度や湿度の関与によってブリードアウトが生じ易いことに起因することが明らかになった。
【0008】
本発明は、このような従来の構成が有していた問題点を解決しようとするものであり、画像のハイライト部にムラが発生せず、製造した各受像シートの帯電防止性能がより均一である熱転写受像シート並びにその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明は上記目的を達成するために、 基材の一方の面に、染料染着性を有するバインダ樹脂を主体とした染料受容層を有する熱転写受像シートであって、該染料受容層または該一方の面もしくは他方の面に設けられ、樹脂を含む少なくとも一つの他の層が、エーテル結合を有する化合物からなるマトリックス中に有機または無機の電解質リチウム塩が分散されたリチウムイオン伝導剤を含有しており、前記マトリックスが、同一層中の前記バインダ樹脂または前記他の層を構成する樹脂とイソシアネート化合物を介して架橋しているものである。
【0010】
また、本発明は熱転写受像シートの製造方法であって、基材の一方の面に、染料染着性を有するバインダ樹脂を主体とし、エーテル結合を有する化合物からなるマトリックス中に有機または無機の電解質リチウム塩が分散されたリチウムイオン伝導剤を含有する染料受容層を設ける工程A;あるいは基材の一方の面に、染料染着性を有するバインダ樹脂を主体とする染料受容層を設ける工程A−1及び該一方の面または他方の面に、構成樹脂と該リチウムイオン伝導剤とを含有する少なくとも一つの他の層を設ける工程A−2を含み、さらに該マトリックスを、同一層中の該バインダ樹脂または該他の層を構成する樹脂とイソシアネート化合物を介して架橋させる工程Bを含み、かつ該マトリックスとして常温で液体である化合物を用いるものである。
【発明の効果】
【0011】
上述したように、本発明は、リチウムイオン伝導剤のマトリックスとして液体化合物を用いることで、例えば染料受容層を構成するバインダ樹脂中にリチウムイオン伝導剤をより均一に分散することを可能にする。それにより上述した画像ハイライト部のムラの発生が防止できる。さらには、所望の導電性を付与することができることから、上述した静電気帯電による熱転写受像シート表面への埃等の付着に基づく白抜けの発生、熱転写受像シートと接触する熱転写シートの皺の発生に基づく解像度の低下、及び熱転写受像シートと熱転写シートとの貼り付きに基づく搬送不良を防止することができる。
【0012】
また、リチウムイオン伝導剤を上記の染料受容層以外の層に含有させた場合においても、その層を構成する母材樹脂中に、リチウムイオン伝導剤のマトリックスが均一に分散するので、均一な導電パスを形成でき、帯電防止性能の均等化、均質化を図ることが出来る。
【0013】
なお、上記のマトリックスとしての液体化合物を単独でリチウムイオン伝導剤と共に用いた場合、例えば染料受容層に単独でリチウムイオン伝導剤と共に添加した場合等には、液体化合物が紙等を主材とする基材に滲みだして、いわゆる油紙効果により基材が外から透けて見えてしまい、意匠性が低下する等の不具合が発生する。しかし、かかるマトリックスを、イソシアネート化合物を介して、染料受容層を構成するバインダ樹脂と架橋させることによりこのような問題も防止できる。
【0014】
さらには、上記のようにリチウムイオン伝導剤を染料受容層以外の層に含有させた場合においても、リチウムイオン伝導剤のマトリックスを、イソシアネート化合物を介して、その層を構成する樹脂と架橋させることにより、リチウムイオン伝導剤のブリードアウトを防止することができ、印字時のムラ、滲みを防止でき、且つ導電性の低下を長期に亘って防止することができる。また、均一に分散された状態でマトリックスが固定されることにより、導電パスがより均等に形成され導電性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本願特許請求の範囲及び明細書において用いる「常温」の語は、一般的な製造環境である15℃〜30℃の範囲内の温度をいうものとする。
【0017】
また、「液体」の語は、一定の形態を有さず、流動性があり、ほぼ一定の体積を有するものをいうものとする。
【0018】
本発明の熱転写受像シートに使用する支持体である基材としては、アート紙、コート紙、キャストコート紙、セルロース繊維紙、上質紙、またはこれらの片面もしくは両面に樹脂フィルムをラミネートした合成紙等の紙基材や、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ナイロン、等のフィルム基材が好適に用いられ、これらフィルム基材としては、少なくとも一層が樹脂と無機顔料とを主成分として2軸延伸により製造された、空隙(空孔)を有する発泡層である多層構造のフィルムがより好適に用いられる。ただし、本発明は上述した基材の使用に限定されるものではなく、例えば透明ポリエステルシートを基材として用いてOHP用熱転写受像シートを作製することも本発明の範囲内に含まれる。
【0019】
基材の厚さは80μm〜300μmであることが好ましく、より好ましくは200μm〜250μmである。厚さが80μm未満である場合、必要な剛度を得ようとすると厚さ方向の弾力性が小さくなり、印画濃度が小さくなる恐れがある。一方、厚さが300μmを越えると、支持体としての性能の向上よりも経済性の低下が著しくなる。
【0020】
基材上に設ける染料受容層を形成するための染料染着性を有するバインダ樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ビニル樹脂;ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルエステル等のビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリアミド系樹脂;エチレンやプロピレン等のオレフィンと他のビニルモノマーとの共重合体系樹脂;ポリカーボネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
これらの樹脂には、必要に応じ、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、蛍光増白剤、あるいは酸化チタン、酸化亜鉛、カオリンクレー、炭酸カルシウム等の顔料や充填材を添加することができる。
【0022】
染料受容層の形成は、これら樹脂に必要な添加剤を加えたものを適当な有機溶剤に溶解した溶液や、有機溶剤や水に分散させた分散液を、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、リバースロールコーティング法等の公知の塗膜形成手段により基材上または基材上に設けた中間層上に塗布し、次いで乾燥することにより行うことができる。
【0023】
染料受容層の厚さは特に限定されないが、一般には1μm〜10μmである。
【0024】
基材と染料受容層との間には、必要に応じて、さらにプライマー層、導電性層、紫外線吸収層等の中間層を設けてもよい。また、基材の染料受容層とは反対側の面に滑性層、帯電防止層等の背面層を適宜設けてもよい。
【0025】
本発明において用いるリチウムイオン伝導剤のマトリックスとしては、エーテル結合を有する化合物を好適なものとして挙げることができ、とりわけエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)等のモノマー類、ならびにエチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)等を重合して得られるポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体(poly(EO−PO))やエチレン−エチレングリコールグラフト共重合体等のポリエーテルポリオール類の二量体、三量体等を含むオリゴマーやポリマーが取り扱い性、価格等の観点から好ましい。
【0026】
また、上記のマトリックスは液体化合物であることが好ましい。マトリックスとして液体化合物を用いることにより、例えば染料受容層を構成するバインダ樹脂中に均一に分散させることでより均一な導電パスを形成することができる。
【0027】
例えば、ポリエチレングリコール(PEG)の場合であれば、分子量を約2000以下とすることにより液体ポリマーを得ることができる。
【0028】
また、リチウムイオン伝導剤中に分散される有機または無機の電解質リチウム塩としては、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiAlCl、LiCFSO、LiC(CFSO、LiCSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、およびLiC(CSO等が好適に用いられる。
【0029】
なお、リチウムイオン伝導剤が導電性を発現するメカニズムは以下のように考えられる。すなわち、通常、過塩素酸リチウム等の電解質リチウム塩は水や有機溶媒などの媒体のない状態ではアニオンとカチオンがイオン結合で結合した固体塩の状態で存在し、これをポリマー中に単に練り込んだだけではイオン伝導性は発現しない。リチウムイオン導電剤においては、まず電解質リチウム塩が、マトリックスであるポリアルキレングリコール等のエーテル酵素により溶媒和してイオン解離する。こうして解離したイオン種は、ポリアルキレングリコール等の分子振動により移動しやすい状態となり、外部電場が印加されると相応する極に向かって移動し、イオン伝導を発現する。
【0030】
上記のマトリックス中の電解質リチウム塩の含有量は、マトリックスの重量を基準として5重量%以上40重量%以下であることが好ましい。5重量%未満であると、所望する導電性を得るために多量のリチウムイオン伝導剤を含有させなければならず、経済性に劣ることとなることは勿論、特に染料受容層に含有させる場合には、バインダ樹脂の相対的な量が減少することにより染料染着性に劣ったものとなる傾向がある。一方、40重量%を超える量の電解質リチウム塩を含有させても、リチウムイオン伝導剤の導電性能の向上には繋がらず、結果として経済性に劣るものになる。
【0031】
なお、上述した電解質リチウム塩のうち、LiClO4等の過塩素酸リチウム塩類は消防法に定める危険物第1類に属する酸化性個体であり、可燃物と混合され、熱等によって分解することにより極めて激しい燃焼を起こさせる危険性を有する。この点を考慮すると、これら過塩素酸リチウム塩類の含有量は、マトリックスの重量を基準として20重量%以下が好ましく、15重量%以下であることがより好ましい。
【0032】
また、LiCFSO等の含フッ素有機化合物は一般に高価であり、多量に配合するとコスト面で不利になるが、熱的安定性が向上するという利点がある。従って、電解質リチウム塩として過塩素酸リチウム塩類を使用する場合には、含フッ素有機化合物と組み合わせて使用することが好ましく、その場合、コストと熱的安定性の向上とのバランスを図る観点から、過塩素酸リチウム塩類と含フッ素有機化合物とを質量比1:5〜5:1で配合することが好ましく、質量比1:3〜3:1で配合することがより好ましい。
【0033】
なお、上記リチウムイオン伝導剤は、染料受容層内の全体に均一あるいは不均一に(例えば、濃度勾配をもって)含有させることができることはもちろん、染料受容層の表面部分や、染料受容層と基材との間に設けた中間層、基材の背面側に設けた例えば滑性層、滑性層と基材との間に設けた中間層等の中に含有させることができる。
【0034】
その場合、各層を構成する樹脂に対するリチウムイオン伝導剤の配合量は、各層の構成樹脂(例えば染料受容層のバインダ樹脂)100重量部に対して0.1〜30重量部が目安であるが、これには限定されず、熱転写受像シートの表面固有抵抗が1.0×1013Ω/□以下、好ましくは1.0×1011Ω/□以下となるように適宜配合量を調整すればよい。
【0035】
上述したように、本発明に用いるリチウムイオン伝導剤のマトリックスは末端にヒドロキシル基を有するため、温度、湿度等の関与によって、ブリードアウトが生じやすい。特に、本発明においては液体化合物を用いるため、例えば染料受容層に含有させた場合、表面にブリードし、印字時のムラ、滲みを招いたり、導電性の長期に亘る低下を招いたりする恐れがある。また、基材等に滲みだし、いわゆる油紙効果により基材が透けて見えてしまうという問題が生じる。そのため、例えば染料受容層に含有させる場合、染料受容層を構成する樹脂に、エポキシ、アクリルのごとき放射線活性モノマーやイソシアネート等の架橋剤(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、プロパンジイソシアネート、へキサンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンフルオロプロパンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート等)を添加し、放射線、熱、湿気、触媒等により架橋若しくは硬化させることが好ましい。
【0036】
また、上記文献2に開示された構成を採用した場合や、受容層に一般的な帯電防止剤や界面活性剤を添加した場合には、耐光性に悪影響を及ぼし、とりわけ、特定の色(例えば、イエローやシアン)のみが大きく退色し、特にデジタルカメラで撮影した人物写真や風景写真を印画した場合に、退色後の色バランスが悪くなるという問題があった。しかし、本発明に係る構成を採用することにより、耐光性への悪影響を大幅に減少させることができ、また退色した場合であっても、画像を構成する各色がバランスよく退色するようになるため、写真を印画する際に特に効果的である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、これら実施例は例示であり、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明中において「部」は「重量部」を意味するものとする。
【0038】
[参考例]
市販のA2コート紙(三菱製紙(株)製;厚さ110μm;坪量127g/cm)の両面上に、ウレタン系接着剤(塗布量:5g/m)を介して、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(P4256(商品名);東洋紡績(株)製;厚さ:40μm)をドライラミネーションにより積層して基材を得た。
次いで、以下の組成:
ポリエステル樹脂
(東洋紡績(株)製;バイロン200(商品名)) 10部
イソシアネート化合物
(大日精化工業(株)製;クロスネートD70(商品名)) 5部
トルエン/MEK(重量比1:1) 100部
を有する塗工液1を上記基材の片面にメイヤバーで乾燥時2.5g/cmとなるように塗布し、次いで100℃×30分の条件でオーブンにより乾燥して染料受容層を形成し、熱転写受像シートを得た。
得られた熱転写受像シートを温度60℃、湿度80%の環境下に48時間放置した後、温度25℃、湿度50%の環境条件(以下、通常条件という)下に12時間放置したサンプル及び温度5℃、湿度0%の環境条件(以下、低湿度条件という)下に12時間放置したサンプルについてそれぞれ、東亜ディーケーケー社製の超絶縁/微少電流計(DSM−8140(商品名))を使用して表面固有抵抗を測定したところ、いずれも10×1014Ω/□以上の表面固有抵抗を示した。
【0039】
[実施例1]
市販のA2コート紙(三菱製紙(株)製;厚さ110μm;坪量127g/cm)の両面上に、ウレタン系接着剤(塗布量:5g/m)を介して、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(P4256(商品名);東洋紡績(株)製;厚さ:40μm)をドライラミネーションにより積層して基材を得た。
次いで、以下の組成:
ポリエステル樹脂
(東洋紡績(株)製;バイロン200(商品名)) 10部
イソシアネート化合物
(大日精化工業(株)製;クロスネートD70(商品名)) 5部
リチウムイオン伝導剤(日本カーリット(株)製;PEL−AK−1(商品名);
マトリックス:エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体(poly(EO−
PO);分子量1300);電解質リチウム塩:トリフルオロメタンスルホン酸リチ
ウム(LiCFSO);マトリックスと電解質リチウム塩との重量比=8:2)
0.6部
架橋助剤(トリエチレンジアミン) 0.0006部
トルエン/MEK(重量比1:1) 100部
を有する塗工液2を上記基材の片面にメイヤバーで乾燥時2.5g/cmとなるように塗布し、次いで100℃×30分の条件でオーブンにより乾燥して染料受容層を形成し、熱転写受像シートを得た。
【0040】
<帯電防止性能試験:高温、高湿条件下放置後の表面固有抵抗の測定>
上記参考例におけると同様に、得られた熱転写受像シートを温度60℃、湿度80%の環境下に48時間放置した後、温度25℃、湿度50%の環境条件(通常条件)下に12時間放置したサンプル及び温度5℃、湿度0%の環境条件(低湿度条件)下に12時間放置したサンプルについてそれぞれ、東亜ディーケーケー社製の超絶縁/微少電流計(DSM−8140(商品名))を使用して表面固有抵抗を測定し、帯電防止性能を確認した。測定した表面固有抵抗を表1に示す。
さらに、帯電防止性能の湿度変化に対する耐性を調べるために(低湿度条件下で測定した表面固有抵抗)/(通常条件下で測定した表面固有抵抗)の比(D値)を求め、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
<評価基準>
◎(良):D値が101未満
○(可):D値が101以上10未満
×(不可):D値が10以上
【0041】
<高温、高湿条件下放置後の転写画像の画質の評価>
得られた熱転写受像シートを100mm×140mmのサイズに切断した。切断した各受像シート片を、温度60℃、湿度80%の条件下に48時間放置し、その後、温度25℃、湿度50%以下の環境下に1時間放置したものを測定サンプルとした。ソニー(株)製の昇華型熱転写プリンターCVP−G7(商品名)に専用の昇華型熱転写リボンをセットし、各測定サンプルの受像シートに32階調のグラデーション印画を行い、その後、各印画物を温度60℃、湿度80%の条件下に48時間放置した。その後、各印画物の画質ムラ、滲みを目視で評価した。評価基準は下記のとおりとした。その結果を表1に示す。なお、評価は、1階調から32階調へ移るに従い濃度の薄い領域から濃度の濃い領域になるように行った。
<評価基準>
◎(優良):全ての諧調においてムラも滲みも無かった。
○(良):1〜2階調においてムラが若干有ったものの、その他の階調においては無かった。あるいは、滲みの確認できる箇所があったが、実用上問題のないレベルであった。
×(不可):3階調以降においてもムラが有った。あるいは、実用上問題のあるレベルの滲みが確認された。
【0042】
<支持体の意匠性の評価>
得られた熱転写受像シートの基材を目視で観察し、以下の評価基準で評価した。評価結果を表1に示す。
<評価基準>
○(可):受容層塗布前と比較して変化が無かった。
×(不可):受容層塗布前と比較して透けて見える状態になっている箇所があった。
【0043】
<耐光性の評価>
得られた熱転写受像シートにデジタルカメラ(ソニー(株)製;サイバーショット(商品名))で撮影した人物写真を印画して得たサンプルをキセノンフェードメータ(スガ試験機社(株)製;ブラックパネル温度60℃;試験面放射照度:60W/m)を用いて90MJ/mの積算放射照度で照射し、照射後のサンプルの外観上の退色具合を目視で観察し以下の評価基準で評価した。評価結果を表1に示す。
<評価基準>
○(可):人物の肌の色に退色が見られるが、各色のバランスは維持されている。
×(不可):人物の肌の色に退色が見られ、かつ赤みが強くなって各色のバランスが崩れている。
【0044】
[実施例2]
実施例1でリチウムイオン伝導剤として用いたPEL−AK−1に代えて、リチウムイオン伝導剤PEL20−BBL(商品名;日本カーリット(株)製;マトリックス:エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体(poly(EO−PO);分子量1300);電解質リチウム塩:有機ホウ素錯体リチウム塩;マトリックスと電解質リチウム塩の重量比=7:3)を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受像シートを得た。
【0045】
[実施例3]
実施例1でリチウムイオン伝導剤として用いたPEL−AK−1に代えて、リチウムイオン伝導剤PEL−100(商品名;日本カーリット(株)製;マトリックス:ポリプロピレングリコール(分子量2000);電解質リチウム塩:過塩素酸リチウム(LiClO4);マトリックスと電解質リチウム塩の重量比=9:1)を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受像シートを得た。
【0046】
[実施例4]
実施例1でリチウムイオン伝導剤として用いたPEL−AK−1に代えて、リチウムイオン伝導剤PEL−25(商品名;日本カーリット(株)製;マトリックス:エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体(poly(EO−PO);分子量1300);電解質リチウム塩:過塩素酸リチウム(LiClO4)とトリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)とを5:1の重量比で併用;マトリックスと電解質リチウム塩の重量比=85:15)を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受像シートを得た。
【0047】
[実施例5]
実施例1でリチウムイオン伝導剤として用いたPEL−AK−1に代えて、リチウムイオン伝導剤PEL−20A(商品名;日本カーリット(株)製;マトリックス:エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体(poly(EO−PO);分子量1300);電解質リチウム塩:過塩素酸リチウム(LiClO4);マトリックスと電解質リチウム塩の重量比=9:1)を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受像シートを得た。
【0048】
[比較例1]
実施例1で用いたリチウムイオン伝導剤のマトリックスとして分子量2500の固体状エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体(poly(EO−PO))を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受像シートを得た。
【0049】
[比較例2]
実施例1で用いた塗工液2に代えて、下記組成:
ポリエステル樹脂
(東洋紡績(株)製;バイロン200(商品名)) 15部
リチウムイオン伝導剤(日本カーリット(株)製;PEL−AK−1(商品名);
マトリックス:エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体(poly(EO−
PO);分子量1300);電解質リチウム塩:トリフルオロメタンスルホン酸リチ
ウム(LiCFSO);マトリックスと電解質リチウム塩の重量比=8:2)
0.6部
トルエン/MEK(重量比1:1) 100部
の塗工液3を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受像シートを得た。
【0050】
[比較例3]
実施例1で用いたリチウムイオン伝導剤に代え、界面活性剤であるソルビタンセスキオレート(花王(株)製;商品名:エマノーンS−10V)を用いた以外は実施例1と同様にして熱転写受像シートを得た。
【0051】
実施例2〜5および比較例1〜3で得た各熱転写受像シートについて実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
以上詳述したように、本発明によれば、画像のハイライト部にムラが発生せず、優れた帯電防止性能を有する熱転写受像シート並びにその製造方法を提供することができる。
【0053】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に、染料染着性を有するバインダ樹脂を主体とした染料受容層を有する熱転写受像シートであって、該染料受容層または該一方の面もしくは他方の面に設けられ、樹脂を含む少なくとも一つの他の層が、エーテル結合を有する化合物からなるマトリックス中に有機または無機の電解質リチウム塩が分散されたリチウムイオン伝導剤を含有しており、前記マトリックスが、同一層中の前記バインダ樹脂または前記他の層を構成する樹脂とイソシアネート化合物を介して架橋していることを特徴とする熱転写受像シート。
【請求項2】
前記マトリックスが、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、およびエチレン−エチレングリコールグラフト共重合体から選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の熱転写受像シート。
【請求項3】
前記電解質リチウム塩が、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiAlCl、LiCFSO、LiC(CFSO、LiCSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、およびLiC(CSOからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1または2に記載の熱転写受像シート。
【請求項4】
熱転写受像シートの製造方法であって、基材の一方の面に、染料染着性を有するバインダ樹脂を主体とし、エーテル結合を有する化合物からなるマトリックス中に有機または無機の電解質リチウム塩が分散されたリチウムイオン伝導剤を含有する染料受容層を設ける工程A;あるいは基材の一方の面に、染料染着性を有するバインダ樹脂を主体とする染料受容層を設ける工程A−1及び該一方の面または他方の面に、構成樹脂と該リチウムイオン伝導剤とを含有する少なくとも一つの他の層を設ける工程A−2を含み、さらに該マトリックスを、同一層中の該バインダ樹脂または該他の層を構成する樹脂とイソシアネート化合物を介して架橋させる工程Bを含み、かつ該マトリックスとして常温で液体である化合物を用いることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記マトリックスが、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、およびエチレン−エチレングリコールグラフト共重合体から選ばれた少なくとも1種である請求項4に記載の熱転写受像シートの製造方法。
【請求項6】
前記電解質リチウム塩が、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiAlCl、LiCFSO、LiC(CFSO、LiCSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、およびLiC(CSOからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項4または5に記載の熱転写受像シートの製造方法。