説明

熱間圧延用ロール材

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ホットストリップミルをはじめとした鉄鋼圧延用ロールに適用されるとくに熱間圧延での耐摩耗性に優れ、かつ耐き裂性と耐肌荒れ性を兼備した圧延用ロール材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年この種類のロール材として特開昭58−87249号公報において開示されたC2.4〜3.5%、V6.1〜14%にCr,Mo,W,Coの各合金元素を含有した耐摩耗性鋳鉄ロール材が採用され耐摩耗性の向上が図られた。さらに、本出願人が提案した特開WO9119824A号においてCを1.5〜2.4%にすることにより炭化物量を制限し、耐き裂性の改善がなされた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】圧延用ロールに要求される最も重要な具備特性に耐摩耗性、耐き裂性および耐肌荒れ性がある。ロールの摩耗が少なければ圧延した鉄鋼製品の板厚精度が向上するとともにロールの取替え頻度も少なくなり作業能率が向上する。一方、耐き裂性が不足すると使用中の熱および機械的負荷により割れが発生し、大きなトラブルとなり、圧延作業が中断し、ひいては圧延設備をも損傷させることになる。また、圧延製品の表面品質を向上させるためロール表面肌の美麗な耐肌荒れ性が要求される。したがって前記各具備特性を兼備することが強く望まれている。この点、特開昭58−87249号および特開WO9119824A号公報に開示されたロール材はいずれも生成する炭化物自身が硬く、かつ焼入れ後の硬度も高いため耐摩耗性が極めて良好である。さらに特開WO9119824A号においてはCを1.5〜2.4%に限定することにより脆い炭化物量を制限し、耐き裂性が改善された。
【0004】しかしながら圧延に供した場合、とくに圧延時の熱負荷の大きな使用条件、例えばホットストリップミルの仕上前段圧延機用ワークロールとして大量の圧延に供した場合においてはロール表面が部分的に微小剥離し、これを起点に肌荒れが生じた。これに伴い圧延製品にもロール肌が転写され製品品質を損ない、ロール摩耗が少ないにも拘らず取替えを余儀なくされた。このようにロールの肌荒れにより圧延製品品質と生産性が阻害された。
【0005】そこで本発明はとくに熱間圧延での耐摩耗性を向上させ、かつ良好な耐き裂性と耐肌荒れ性を兼備する高性能の圧延用ロール材を提供せんとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記の課題を解決するために、本発明の圧延用ロール材は化学成分が重量でC 0.8〜2.3%V 3.0〜9.9%Cr 3〜7%Mo,Wの少なくとも1種を1%以上、5%未満含み、残部は実質的に鉄からなり、かつC%−0.235V%なる式で示す炭素当量%が−1.0〜0.5%とし、鋳造後のロールにMC型炭化物のみを晶出させ、その他の炭化物の晶出を抑制させたことを特徴とする熱間圧延用ロール材。
【0007】
【作用】C含有量を前記範囲0.8〜2.3%に限定する理由は次の通りである。すなわち、Cが下限値0.8%未満では硬い炭化物の晶出が少なく耐摩耗性が著しく劣化する。一方、上限値2.3%を超えると耐摩耗性は向上するが炭化物が増加し、かつ粗大な炭化物を形成し結晶粒界に集合する。これが圧延時の熱疲労によりロール表面から脱落し、これを起点にロール表面に生じた酸化被膜が部分的に剥離し肌荒れを引き起こす結果となり、とくに圧延時の熱負荷の大きな使用条件下において本発明の主たる目的である耐肌荒れ性の向上は望めない。
【0008】V含有量は炭化物の形態ならびにその量を決める最も重要なもので、Cとのバランスで選択される。とくに本発明の材質の場合は、粒状で微小な極めて硬いMC型のVC炭化物を生成して耐摩耗性を向上させるとともに、この炭化物は溶湯より初晶の炭化物として直接かつ優先的に晶出し、組織を制御する上でとりわけ重要である。まず、Vが下限値の3.0%未満では、硬いVC炭化物が晶出しにくく、晶出してもその後の熱処理にて基地組織に固溶して析出炭化物となってしまう。一方、上限値の9.9%を超えるとVC炭化物の絶対量が増大し、耐き裂性ならびに耐肌荒れ性を損なう。また、本願発明ではVC炭化物の生成が他の炭化物および基地組織を変化させ、これに伴うロール性能に及ぼす特性値としてC%−0.235V%なる式で示す炭素当量を導入した。前記CならびにV含有量の範囲において、上限値0.5%を超えるとMC型炭化物以外の、例えばM2 C,M3 C,M7 3 等の粗大で脆弱な炭化物が結晶粒界に集合して生成する。この炭化物がロール表面から欠落ちて、その結果耐肌荒れ性を阻害する。また、下限値の−1.0%以下になると前記VC炭化物の晶出が阻害され、その結果、耐摩耗性が低下する。
【0009】Crを3〜7%に限定する理由は次の通りである。CrはCと結合しやすく、M3 C,M236 およびM7 3 炭化物を形成する。とりわけ硬いM7 3 炭化物は従来より使用されているが、共晶炭化物として結晶粒境界に生成され肌荒れならびにき裂を引き起こす結果となる。そこで、本発明のロール材においては粗大な炭化物を抑制かつ分散させるため、Vとともに微小なMC型炭化物を形成させるとともに一部を基地にも固溶させ、ロール材質としての焼入性を付与し基地の硬さをも増し耐摩耗性を向上させた。すなわち硬いMC炭化物を形成させるとともに基地の硬さをも増すため3%以上含有することが不可欠である。一方、上限値は例えばM7 3 ,M3 C等の粗大な炭化物の晶出による前記耐肌荒れ性および耐き裂性を阻害しないため7%以下としなければならない。
【0010】この他の主要な合金元素としてMo,Wを適量添加することがロール性能を向上させるのに有用である。いずれもCrと同様にCと結合しやすく、本発明のロール材においては一部がMC炭化物を形成し一部は基地にも固溶して基地の硬さを向上させるが、とくに熱間圧延においてその効果が顕著である。この効果が実用的に認められる下限値として1%以上とした。しかしながらCr以上に前記粗大なM2 CもしくはM3 C炭化物となるため本発明材の最大の特徴である熱負荷の大きな使用条件下においては前記耐肌荒れ性を損なわせない上限として5%未満に限定した。
【0011】一方、炭化物を生成しやすいV,Cr,Mo,Wに対し基地に優先固溶するNi、もしくはCoはとくに高温での硬度および強度を向上させロール性能を改善する効果を有する。しかしながら、Ni,Coともに非常に高価なものであるためコストとの関連で5%以下添加することも有用である。
【0012】Siは溶湯の脱酸として溶解技術上、有用な元素であり0.3%以上含有させることが必要である。しかしながら、上限とした1.5%を超えて含有した場合は靭性を低下させるため、前記の炭化物の形態および量を適正にしても基地組織を脆化させ本願発明の目的を達成できない。
【0013】また、溶解技術上有用な元素であるMnは0.5%程度、さらにP,Sの不純物についても通常の鋳物に含まれる0.03%以下程度のものであれば含有されても差支えなく、これらは本発明の効果を何等損なわしめるものではない。
【0014】
【実施例】本発明の実施例として、ホットストリップ仕上圧延機用ワークロールを製造した。鋳造は特開平2−152576号公報にて開示された連続鋳掛け法により行い芯材に鍛鋼(SCM440)を採用して複合ロールとした。熱処理は鋳造後、焼鈍、焼入・焼戻しを施した。
【0015】表1に従来例と本発明の実施例との具体的な化学成分および製造品質を示す。また、ロール材の金属顕微鏡組織写真を図1には本発明材、図2に特開WO9119824A公報にて開示された従来例のものを示す。いずれの写真においても白い部分が炭化物である。従来例はいずれも粗大な炭化物の量が多いうえ、結晶粒界に網目状の集合した炭化物が多く認められる。これに対し図1に示した本願発明材には前記の通り非常に微細な粒状の炭化物のみが均一に分散していることが明瞭に確認される。また、表1に示す通りの本願の発明材1,2の結晶粒界の網目状炭化物の量はともに従来例に比し極少量となっている。この結晶粒界の網目状炭化物の量は金属顕微鏡組織写真より画像解析により測定したものである。
【0016】
【表1】


【0017】
【表2】


【0018】表1に示した従来例および本発明の実施例を実際にホットストリップの仕上圧延機で使用し、その結果を表2に示す。本発明のロールは使用中のモーター・トリップによるロール回転の停止等のトラブルにより生じたロールのき裂も浅く、耐摩耗性も極めて良好で、かつロール表面の酸化被膜の剥離の発生により圧延材への転写が生じるまでの圧延耐用トン数が格段に増加し、耐肌荒れ性が向上した。これによりロールを交換する頻度が減少し、圧延操業の生産性が著しく向上したことは明らかである。
【0019】なお、本実施例においては芯材に鍛鋼を使用して連続鋳掛け法により本発明材をその外層材として適用したが本願発明はこの製造方法に限定されるものではなく、例えば遠心鋳造法による外層材、または普通鋳造ならびにエレクトロ・スラグ溶解法等による単一ロール材としても同様な作用・効果を奏するものである。
【0020】
【発明の効果】本発明を、鉄鋼圧延用ロールに適用することにより、耐摩耗性と耐き裂性を著しく向上した高性能ロールを安定的に供給することが可能となるとともに耐肌荒れ性が向上し、圧延製品の品質と圧延操業における生産性ならびに経済性が向上した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で開示したロール材の金属顕微鏡組織写真(×100)を示す。
【図2】特開平2−152576号公報にて開示されたロール材の金属顕微鏡組織写真(×100)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 化学成分が重量でC 0.8〜2.3%V 3.0〜9.9%Cr 3〜7%Mo,Wの少なくとも1種を1%以上、5%未満含み、残部は実質的に鉄からなり、かつ下記式で示す炭素当量%が−1.0〜0.5%とし、鋳造後のロールにMC型炭化物のみを晶出させ、その他の炭化物の晶出を抑制さたことを特徴とする熱間圧延用ロール材。
炭素当量%=C%−0.235V%

【図1】
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【図2】
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【特許番号】第2978384号
【登録日】平成11年(1999)9月10日
【発行日】平成11年(1999)11月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−252715
【出願日】平成5年(1993)10月8日
【公開番号】特開平7−109542
【公開日】平成7年(1995)4月25日
【審査請求日】平成9年(1997)4月15日
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【参考文献】
【文献】特開 平4−180548(JP,A)
【文献】特開 平3−126838(JP,A)
【文献】特開 平2−25205(JP,A)
【文献】特開 昭53−80351(JP,A)