熱電子電気変換器
光電子電気変換器は、陰極エミッタ321の電気出力を増加させるために、レーザービーム376を陰極エミッタ321の放射表面に当てるよう方向付けることのできる陰極出力増大レーザー374を備えている。陰極出力増大レーザー374は、レーザービーム375が、ターゲット構造すなわち陽極306の穴370を通過し、陰極エミッタ321の方向に向くように配置される。陽極306で失われ、陽極306の開口307を通過する電子の数を減らすために、電子反発リング380が、陽極306の開口370の端に設けられる。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
この発明は、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する分野に関するものである。さらに詳しくは、熱電子電気変換器を提供するものである。
【発明の背景】
【0002】
従来、米国特許3,519,864号、3,328,611号、4,303,845号、4,323,808号、5,459,367号、5,780,954号および5,942,834号(これらは全て本願発明者に対して与えられた特許であり、参照してこれら開示を本願に組み込む)に示されるような熱電子変換器が知られている。これら特許は、ネルエネルギーを電気エネルギーに直接変換するための様々な装置や方法を開示している。米国特許3,519,854号では、ホール効果技術を出力電流収集手段として用いた変換器が開示されている。この'854特許は、電子源としての放射陰極表面の熱された(boiled off)電子流の使用を教示する。電子は、ホール効果変換器の向こうに配置された陽極に向かって加速される。'854特許の陽極は、単なる金属板であり、当該金属板を取り囲み、金属板から絶縁され、静電気が十分に蓄積された部材を有している。
【0003】
米国特許3,328,611号は、球状に構成された熱電子変換器を開示している。この熱電子変換器では、球状の放射陰極に熱が供給され、同心円状に配置された球状陽極に向けて、制御部材の影響の下で電子が放出される。球状陽極は、正の高電位を有しており、制御部材から絶縁されている。'854特許と同様に、'611特許の陽極は単なる金属表面である。
【0004】
米国特許4,303,845号は、陰極からの電子流が、横断磁界中に置かれた空芯誘導コイルを通過するような、熱電子変換器を開示している。電子流と横断時間との相互作用によって誘導コイルにEMFが生成される。'845特許の陽極も、絶縁され静電気が十分に蓄積された部材によって取り囲まれた金属板を備えている。
【0005】
米国特許4,323,808号は、'845特許に開示された熱電子変換器と類似したレーザー励起による熱電子変換器を開示している。主たる差異は、'808特許がレーザーを用いることを開示している点である。このレーザーは、電子が集められるグリッドに印加され、これと同時にグリッドの電位が取り除かれる。これにより、横方向磁界中に置かれた空芯誘導コイルを通り、陽極に向かって加速される電子の塊が形成される。'808特許の陽極は、'845特許において開示されたものと同じであり、絶縁され静電気が十分に蓄積された部材によって取り囲まれた単なる金属板である。
【0006】
米国特許5,459,367号は、銅羊毛繊維(copper wool fibers)および硫酸銅ゲルを金属板に代えて有する陽極とともに、改良された集電体(collector element)を効果的に使用している。加えて、この集電体は、絶縁され(静電気が)十分に蓄積された部材によって取り囲まれている。
【0007】
5,780,954号および5,942,834号は、放射表面領域を増加させるため、非2次元的形状を有し、ワイヤーグリッドとして構成される陰極の提供に関するものである。これら特許は、電子が陽極に容易に補足されるようにするため、量子干渉を与えるという方法によって、陽極に達する前に電子流をヒットするためにレーザーを使用する技術も開示している。
【0008】
他の従来技術は、真空室内において、たとえば2ミクロンという比較的近接した陽極および陰極を有している。このような従来技術では、セシウムを陽極・陰極を収納する真空室(チャンバー)に入れること以外には、陰極から陽極に向けて放出された電子を誘引するために、誘因力を用いていない。電子の流れを保つため、セシウムは、正の電荷を持って陽極を覆っている。陰極と陽極がかなり近接しているので、陰極と陽極を実質的に異なる温度に保つことは困難である。たとえば、通常、陰極は1800度ケルビン、陽極は800度ケルビンである。陰極を加熱するために熱源が設けられ、陰極を所定温度に保つために陽極に冷却循環システムが設けられている。真空室は(セシウム源を除いて)真空に保たれているとはいえ、陰極からの熱は陽極に到達し、空間的に接近した陰極と陽極の間に大きな温度差を保つためには、極めて大きなエネルギーが必要となる。
【発明の開示】
【発明の目的および概要】
【0009】
したがって、この発明の目的は、従来設計され開発されたものよりも、改良され向上された特徴をする熱電子変換器を提供することである。
【0010】
この発明のさらなる主目的は、陰極出力を大きくした熱電子電気変換器を提供することである。
【0011】
この発明の他の目的は、陰極出力を大きくした熱電子変換器のための、改良された陰極を提供することである。
【0012】
この発明のさらに他の目的は、陰極の放射能力を向上させるため、レーザによって陰極を照射する熱電子電気変換器を提供することである。
【0013】
この発明のさらに他の目的は、レーザによる陰極の能力向上とともに、陰極からの電子を補足する陽極またはターゲットを提供することである。
【好ましい実施形態の詳細な説明】
【0014】
本発明を図面を参照しながら説明する。図において、同様の要素には同様の符号を付している。
【0015】
図1および図2に、米国特許4,303,845号、4,328,808号に示された従来技術による光電子電気変換器を示す。両特許とも本願発明の発明者であるEdwin D. Davisに付与されたものであり、その開示内容の全体を本願出願に参照して組み込む。これら特許には、光電子変換器の動作が詳細に開示されているが、動作の概要を図1および図2を参照して説明しておく。これによって、本件発明を理解するために必要な背景知識を得られるであろう。
【0016】
図1に、基本的な光電子電気変換器を示す。図2は、レーザー励起による光電子変換器を示している。いずれの変換器の動作も類似したものである。
【0017】
図面には、基本的な光電子電気変換器10が示されている。変換器10は、両端に端部壁14、16が取り付けられた、細長い円筒状の外部筐体12によって形成された閉塞チャンバ18を有している。筐体12は、高温プラスチックやセラミックなどの公知の強固な電気非導体で構成されている。一方、端部壁14、16は、電気接続をなしうる金属板である。チャンバ18の真空が保て、比較的高電位が印加でき、端部壁14と16を横断できるように、これらの要素は機械的に接合されて密閉されている。
【0018】
第1端部壁14は、その内部面に配置された電子放出皮膜(electron emissive coating)を有する成型陰極領域20を有している。一方、第2端部壁16は、わずかに突出した円形面として形成されている。筐体12に結合されるアセンブリを形成するために、この円形面は、絶縁リング21の中に取り付けられる。使用時には、端部壁14、16は、それぞれ、変換器10の陰極端子および集電板として機能する。陰極領域20に始まり集電板16に終わる電子流22は、この2つの壁の間において、円筒チャンバ18の対称軸に実質的に沿うように流れる。
【0019】
環状集中部材24は、チャンバ18内において同心状に、陰極20に近接して配置されている。バッフル部材26は、チャンバ18内において同心状に、集電板16に近接して配置されている。
【0020】
これら2つの要素の間に配置されているのは、ヘリカル誘導コイル30と細長い環状磁石32を備えた誘導アセンブリ28である。コイル30と磁石32は、チャンバ18内において、その中央部を占めるように同心状に配置されている。図2の断面図を参照すれば、各要素およびアセンブリの径方向の位置関係が分かるはずである。明瞭化のため、内部に配置された要素の機械的保持手段については、図に含めていない。集中要素24は、リード34および密閉シールされた給電口36によって、外部の静電気源(source of atatic potential)(図示せず)に電気的に接続されている。同様に、誘導コイル30も、一対のリード38、40および一対の給電口42、44を介して、単純化して抵抗46として示した外部負荷要素に接続されている。
【0021】
種々の要素に印加される電位については、電子流装置に適用される従来からの周知の手段であるので、明示的に示しておらず詳細に述べていない。簡単に述べると、(従来の)陰極領域20を基準電圧レベルとすると、高い正の静電荷が集電板16に印加され、この電圧源を含む外部回路の負極側が陰極20に接続されて回路接続が完成する。この高い正のチャンバ18内において同心状に、陰極20に近接して配置されている。この静電荷は、陰極領域20に始まって集電板16に向けて加速される電子流22に対し、印加された高静電荷の大きさに直接的に依存するように、その大きさに影響を与える。電子は、所定量の反射を生じるに十分な速度をもって、集電板16に衝突する。バッフル部材26は、これらの反射した電子が変換器の主要部に到達するのを防ぐように、構成され配置されており、これらに対する電気的接続(図示せず)が必要である。電子流22を細いビームにするため、低い負電位から適度な負電位が集中部材24に印加される。動作時において、陰極20の電子放出被膜を加熱し、多くの電子をボイルするために、熱源48(化石燃料の燃焼、太陽光装置、原子力装置、既存の原子力設備からの原子廃棄物または熱交換などの様々なソースから導くことができる)が用いられる。放出された電子は、焦点要素24によって細いビームに収束され、集電板16に向けて加速される。誘導アセンブリ28を通過する際に、電子は、磁石32による磁界の影響を受け、相互作用的な動きをして、誘導コイル30の巻線内にEMFを生じさせる。この誘導されたEMFは、小さな環状電流ループを生じる個々の電子の多数の合計である。全体として見ると、変換器の出力電圧は通過する電子の速度に比例し、出力電流は電子源の大きさと温度に依存することとなる。誘起されるEMFのメカニズムは、電子の速度方向に直交する実質的一様磁界に直線初期速度で入射する電子の上に働くローレンツ力によって説明できる。適切に構成された装置では、螺旋状の電子の軌跡(図示せず)によって、誘導EMFを生成するため、ファラデーの法則により必要とされる磁束の全体的変化が所望の割合にされる。
【0022】
この螺旋状の電子軌道は、集電板16の加速作用による直線的な並進軌道(垂直)と、電子の初期速度と磁石32の横断電磁界の相互作用による環状軌(横断)との組み合わせから生じる。集電板16に印加される高電圧の相対的な大きさ、および磁石32による磁界の強さと方向に依存させて、コイル30の中に直接的に電圧を生じさせる他のメカニズムも可能である。しかし、いずれのメカニズムも、ローレンツおよびファラデーの理論の応用の組み合わせによってもたらされるものである。
【0023】
米国特許4,303,845号に示された変換器と、米国特許4,328,808号に示されたレーザー励起による変換器との基本的な相違点は、レーザー励起による変換器は、グリッド176上の陰極表面からボイルドオフ(boiled off)された電子を集める点にある。それは、リード180を介して負電源178によって印加されたわずかな負電位を有し、電子の流れを補足して、多くの電子を補足する。グリッドに印加された電位は除去され、同時に、グリッドは、照射されるべき電子22の塊を生じるレーザーアセンブリ170、173、174、20からの、レーザーパルス除電にさらされる。電子の塊22は、電子的に集中され、横断磁界中に配置された空芯誘導コイルの内部を通るように方向付けられ、これにより、誘導コイル中にEMFが生成される。基本的な熱電子変換器に関して上記に述べたとおり、このEMFは、その動作のために外部回路に印加される。
【0024】
本願発明者の従来技術である米国特許5,485,367号に述べたとおり、単に導電性金属板で構成された集電要素を有することで、多くの問題点が生じている。したがって、集電要素は、硫酸銅ゲルをしみこませた銅ウール繊維による導電層としている。しかしながら、この発明では、発明の他の側面によって問題点を軽減したり無くしたりして、陽極板が別の作用をなして、導電性金板陽極を用いることができる。もちろん、陽極の詳細は、本願発明の好ましい設計の中心的なものではない。
【0025】
図3にあるように、本発明による熱電子電気変換器200は、公知の真空装置(図示せず)によって、真空状態が維持される筐体202を有している。筐体202は、中心軸202Aに関して円筒状であることが好ましい。注記する場合を除いて、中心軸202Aは、筐体202およびそれに収納される部品の対称軸である。
【0026】
コレクタ204は、同軸に配された絶縁リング210を有する静電充電リング208(たとえば1000クーロンに帯電されている)に取り囲まれた、平らな陽極環状板206(たとえば銅で構成される)を有してもよい。リング208およびリング210は、米国特許5,459,367号に述べられたように構築され、動作するものとすることができる。冷媒源214からの冷媒が冷却回路216によって再循環するように、冷却部材212は、板206に対して熱的に結合されている。冷却板212は、陽極板を所望の温度に維持する。他の例においては、冷却部材212を、陽極板206と同じものとしてもよい(換言すると、冷媒が板206を介して循環する)。1つ以上のセンサ(図示せず)を用いたフィードバック構成(図示せず)を、陽極206の温度安定化のために用いることができる。
【0027】
本発明の陰極アセンブリ218は、電子を放出するように、熱源によって加熱される陰極220を有している。放出された電子は、概ね、陽極206に向う移動方向202Aに沿って移動する(米国特許5,459,367号にあるように、充電リング208は、陽極に向かう電子を集めるのを助ける)。加熱回路226を介して(陰極220と熱結合された)加熱部材224に向けて流れる熱流体源222を熱源として示したが、陰極224に印加されるレーザ等のような他のエネルギー源を用いてもよい。ソース222に入力されるエネルギーとしては、化石燃料、太陽エネルギー、レーザ、マイクロ波、放射性物質を用いることができる。さらに、貯蔵にコストがかかりメリットの少ない核燃料を、ソース222を加熱するために用いることもできる。
【0028】
フェルミ準位に励起された陰極220中の電子は、その表面から飛び出し、静電充電リング208によって引きつけられ、第1、第2の集中リングまたは円筒228、230を通るように移動方向202Aに沿って移動する。この第1、第2の集中リング/円筒228、230は、上記にて説明した従来技術の集中要素24と同じ様に構成され、動作する。電子の移動が適切な方向となるように助けるため、シールド232が陰極224を取り囲んでいてもよい。シールド232は、図に示すように、陰極224に近い円筒部と陰極224から離れた円錐部を有する円筒または円錐形状とすることができる。いずれにしても、シールドは、電子の移動を方向202Aに保持する役割を持つ。シールドは(比較的高温の陰極220に近接していることから)比較的高温であり、電子はシールド232から反発されるようになる。シールドの高温によって反発させることに代えて、あるいはこれに加えて、シールド232に負の電位を印加するようにしてもよい。この場合、シールド232と陰極220との間に絶縁材を用いることができる。
【0029】
陰極220から陽極206に向かう電子流に対応して生成された電気エネルギーは、陰極配線234と陽極配線236を介して、外部回路238に供給される。
【0030】
効果的な側面を明らかにするため、変換器200の全体的な動作から離れていうと、電子240のような電子群は、陽極206に向かうので、高エネルギーレベルを持とうとする傾向にある。したがって、それらの一部は、表面で反射されて捕獲されないという一般的傾向を有する。これは、通常、電子散乱をもたらし、変換器の変換効率を低下させる。このような問題を防止または大きく低減させるために、この発明では、陽極206に衝突する直前に電子を照射(電子をレーザービーム244で叩く)するようにレーザー242を用いている。レーザービーム244のフォトンと電子240との間の量子干渉は、電子が陽極206の表面に安定的に補足されるように、電子のエネルギー状態を低下させる。
【0031】
物理学における波動・粒子の二重性理論から理解できるように、レーザービームを照射された電子は、波動および/または粒子の性質を示す。もちろん、本発明のクレームの範囲は、クレームにおいて明白に光子干渉などの動作理論に言及されていない限り、特定の動作理論に制限されるものではない。
【0032】
ここで用いたように、電子が陽極206に到達する「直前」に、レーザー242が電子を照射するという文言は、電子は陽極206まで続いているので、電子は他のいずれの要素(たとえば焦点部材など)も通過しないという意味である。詳しくいうと、電子は、陽極206に到達する2ミクロン以内で照射されることが好ましい。さらには、電子は、陽極206に到達する1ミクロン以内で照射されることが好ましい。実際、第2集中部材230から陽極206までの距離は、1ミクロンとできるので、レーザーは陽極206の近くで電子を照射する。このような構成(すなわち、陽極に到達する直前に電子を照射する)により、低減されたエネルギーが最も好ましく有用である点において、電子のエネルギーが減じられる。
【0033】
筐体202は不透明でもよいが、レーザビーム244がレーザー242から部材202内のチャンバに入射可能なように、レーザー窓246は透明部材で構成される。レーザー242は、チャンバ内に配置してもよい。
【0034】
陽極206に到達する直前の電子のエネルギーレベルを低減させるため、レーザー242の使用による変換効率を向上することに加えて、本発明の陰極220は、陰極220の電子放出領域を増加させて効率を改良するように、特別な設計がなされている。
【0035】
図4に示すように、円形グリッドワイヤ248として、陰極220が示されている。並行ワイヤのトップ層または第1層のワイヤ250は、方向252に伸びており、第2層のワイヤ254は、方向252を横切り、好ましくは方向252に垂直な方向256に伸びている。平行ワイヤ(説明を容易にするためワイヤ262のみを示した)の第3層は、方向260に伸びている(方向252および256に対し45度である)。平行ワイヤ(説明を容易にするためワイヤ262のみを示した)の第4層は、方向264に伸びている(方向260に対して90度である)。
【0036】
図4は、ワイヤ間の距離を比較的大きく示しているが、これも説明を容易にするためであることに注意されたい。好ましくは、ワイヤは微細に延長されたワイヤであり、同一層における並行ワイヤ間の距離は、ワイヤの直径と同程度である。ワイヤは極細サイズの2ミリメートル以下の直径を有することが好ましい。ワイヤは、陽極に用いられているタングステンや他の金属とすることができる。
【0037】
図5に示すように、ワイヤ250と254は、お互いにずらせて(オフセット)配置されている。共通面に配置された全てのワイヤ250(図では1つのみ示す)は、全てのワイヤ254が配置される他の共通面からずらせて配置されている。図6に示す他の構成では、ワイヤ250’(1つのみ示す)およびワイヤ254’は、布のように織り合わされている。
【0038】
図7に示すように、陽極220’が、3つの部分266、268、270を有するようにしてもよい。各部分266、268、270は、250、254のような(あるいは250’、254’のような)2つの垂直なワイヤ層(図7には示していない)を有している。部分266は、図7の面に入っていくワイヤおよび図7の面に平行なワイヤである。部分268は2つのワイヤ層を有し、それぞれのワイヤ層は、部分266のワイヤの方向の一つに対して30度の角度を持って伸びるワイヤを有している。
【0039】
図7は、異なる方向に伸びるワイヤを有する複数の層を使用できるというポイントを示している。
【0040】
陰極のための様々なワイヤグリッド構造において、ワイヤの形状および複数層により、効果的な電子放出表面領域の増大がもたらされる。図8に、他の方法による表面領域の増大方法を示す。図8は、概ね移動方向220A’にそって電子を放出することのできるパラボラ型陰極280の側断面図である。陰極280は、移動方向202Aの法線方向に、平面的な横断面領域Aを有している。注目すべきは、陰極280は、陽極に向けて電子を放出するための(陰極の湾曲による)電子放出表面領域EAを有していることである。この領域は、平面横断面領域Aより、少なくとも30%大きい。したがって、所与の陽極サイズにおいて、高密度の電子が生成される。陰極280はパラボラとして示されているが、他のカーブ表面を用いることもできる。陰極280は、個体部材で形成してもよく、図4〜7に示したような複数層を組み合わせたワイヤグリッド構造であってもよい。ただし、各層は平面ではなくカーブしたものとする。
【0041】
図8のカーブした陰極構造は、側横断面領域Aよりも30%大きい電子放出表面領域EAをもたらすが、図4に示すような様々なワイヤグリッド構造は、(図8に定義した)側横断面領域の、少なくとも2倍の電子放出表面をもたらす。実際、グリッド構造での電子放出表面領域は、側横断面領域の少なくとも10倍とすべきである。
【0042】
本発明では、陰極220と陽極206を、4ミクロンから5センチまで、互いに離すことができるという効果を有する。より詳細には、その離す距離は、1センチから3センチまでである。したがって、陰極と陽極は十分に離されているので、陰極と陽極を近接して配置しなければならない構造と比較して、陰極からの熱は陽極に伝達されにくい。したがって、多くの従来技術に比べると高度な冷却が求められないので、冷媒源214を要求度の低い冷媒構造とすることができる。
【0043】
図9〜11は、本発明による熱電子電気変換器の他の実施形態を示す。この実施形態では、陰極からの電子放出がさらに増加され、変換効率と変換器の電流生成が向上されている。
【0044】
図9〜11の実施形態による熱電子電気変換器300は、図3〜8にて示した変換器200の部品と同一もしくは類似の部品を多数用いることができる。特に、変換器300は、少なくとも長手方向に伸びる部分に沿った円筒状の筐体302を有していることが好ましい。さらに、変換器300は、構造の詳細を後述する電子ターゲットサブアセンブリまたはコレクタ304を備えている。冷却部312は、ターゲットサブアセンブリ304またはその個々の部品を、所定の温度に保つために設けられている。なお、一般には、この所定の温度は、陰極サブアセンブリ318の動作温度よりも低い温度である。陰極アセンブリ318は、陰極エミッタ321を有する陰極320を備えることが好ましい。陰極は、陰極に熱的に結合された熱源322によって加熱され、陰極の加熱によって、電子が励起されて陰極エミッタ321の表面から飛び出す。
【0045】
熱源322は、図に示すように、陰極に結合された加熱部材324と、加熱流体(液体またはガス)を陰極320に供給する加熱回路326とを備えている。図3〜図8に開示した実施形態と同じように、陰極を外部から加熱するための熱エネルギー源として、太陽エネルギー、化石燃料、レーザーエネルギー、マイクロ波エネルギー、放射性廃棄物や使用済放射性物質等のような放射性物質から得られる熱エネルギーを用いてもよいことは、この分野の専門家にとって理解できるところである。保管にコストを要する使用済核燃料を、熱源322のための熱エネルギー供給に用いることができる。様々なタイプの熱エネルギーを供給するための基本システムやサブアセンブリの構成は、この分野の専門家によって自明である。
【0046】
変換器300は、図3に示すものと同じような方法で、第1および第2の集中リング328、330を備えることができる。図3の実施形態におけるシールド232と実質的に同じ機能を果たすように、シールド332を、陰極320の周りに設けることができる。
【0047】
陰極エミッタ321からターゲットアセンブリ304の陽極306への電子流に対応して生成された電気エネルギーは、陰極配線334、陽極配線336を介して外部回路338に供給される。したがって、回路338は、変換器300によって熱エネルギーから生成された、電気形式のエネルギーを受け取る。回路338は、回路戻り線(図9において陰極配線334として示される)に接続されたトランジスタ337を備えており、回路電流は一方向にのみ流れるように規制される。すなわち、筐体302の供給口339を介して陰極エミッタ321に戻る方向に規制される。
【0048】
変換器300は、さらに、電子干渉レーザー342を備えてもよい。電子干渉レーザ342は、量子干渉または他の粒子相互作用現象によって、陰極306に到達する電子のエネルギー状態を低くするように動作する。レーザービーム344は、レーザー窓346を通過し、入ってきた電子の通路を横切って(あるいは”衝突する”)、電子の中に蓄積されたエネルギーを低減させる。本発明のこの側面についての考察につき、動作原理が関係する限りにおいて、レーザー242、レーザービーム244、図3を参照されたい。陽極306に接触する直前になされる電子のエネルギーレベルの低減により、電子が陽極306に衝突して反射し、衝突散乱する傾向が防止される。したがって、陽極306は、入ってきた電子の大部分を補足することができる。
【0049】
ターゲット・サブアセンブリすなわちコレクタ304は、中央穴370を有するように構成することが好ましい。この中央穴304は、レーザー374による陰極出力増大装置すなわち補助陰極増大器372が、陰極320の放出表面へ向かう376aの方向にレーザービーム376を放出できるように、大きさその他が適切に形成されている。また、ターゲット・サブアセンブリは、中央からずれた位置に開口を有していてもよく、レーザー374が、ターゲット・サブアセンブリ外周の外からのレーザービーム376を方向付けられるように、大きさが決められて筐体302内に配置されていてもよい。
【0050】
図9〜11の全ての図を参照すると、ターゲット・サブアセンブリ304は、便宜上図の中央に示した貫通穴307を有する陽極306を備えていることが好ましい。絶縁(電気的絶縁)リング378は、貫通穴307の端部に設けられており、陽極306の端部に固定されている。電子反発リング380は、絶縁リング378の内周に配置されている。この反発リング380は、電子が陰極320から散乱し、反発リング380の穴を通過して経路302aを移動することを実質的に防止し、あるいは、通過する電子の数を最小化するために設けられている。電子反発リング380は、供給口379を介して反発リングに結合された外部ソース(図示せず)によって、負電位に充電されていることが好ましい。あるいは、他の方法によって電子を反発するように構成されていてもよい。リング380は、電子がターゲット・アセンブリ304の陽極306に衝突するように、電子の少なくとも一部を偏向させるように動作する。
【0051】
陽極306は、図に示すように、円形平板であってもよく、陰極324に向かって突出するカーブやその反対に突出するカーブであってもよい。また、陰極320から陽極に接する経路に沿って移動する電子を効果的に補足できるように設計された他の形状であってもよい。陽極306は、その外周に、外部および内部絶縁リング310によって境界付けられる、高い静電荷で充電されたファラデーリング308を有していることが好ましい。ターゲント・サブアセンブリのこの部分は、図3の実施形態において開示したものと実質的に同じである。電流生成のための電子の捕捉において、陽極306に向かう電子の捕捉を補助するため、概ね図3の実施形態と同じように動作する。図11の382として概要を示す給電口は、所望の高い静電荷を伝えるために、ファラデーリング308と結合される。絶縁リング310は、陽極306と主電気回路338を、リング308に印加される静電荷から、電気的に絶縁するように機能する。
【0052】
陽極板306は、図3の陽極206と同じ材料によって構成することができる。あるいは、従来知られている使用目的にかなった他のタイプのものでもよい。陰極320は、図3〜8に示して説明した陰極220と同じ材料で同じ様に構成することができる。あるいは、背景技術において述べた従来特許に開示された他の陰極構造を用いてもよい。
【0053】
図9〜11の実施形態では、図3〜8の実施形態で得られるよりも、陰極の出力は大きく増加する。前述のように、レーザー374による補助陰極増大器372は、レーザービーム376を、陰極の放出表面321に方向付け、熱源322によって熱エネルギーを供給され励起した当該表面の電子をさらに励起させる。
【0054】
好ましい実施形態として示したように、レーザー374は、筐体302の内部に配置され、陰極320の反対側の陽極306の側に配置される。レーザー374は、レーザービーム376を方向付け、陰極302から陽極306に移動する電子の経路302aと実質的に反対の方向である経路376aに沿うように光子を移動させる。レーザービーム376は、電子へのエネルギー移動を最大化するため、陰極の放出表面321を、正射するように、あるいは小さな入射角で照射する。
【0055】
レーザー374は、たとえば周波数10〜100MHzで数ピコ秒オーダーの間隔を有するショットまたはパルスを放出するように、制御器400によって制御される。他の動作体制(パラメータ)も適切に選択され、パラメータは主として目的に沿って与えられる。
【0056】
補助陰極増大器372は、図11の382として概要を示すラスター装置を備えることが好ましい。ラスター装置382は、本明細書の記述によってこの分野の専門家にとって明らかな方法により、レーザービーム376を水平(横から横)、垂直(上から下、またはその逆)の双方向に掃引(スイープ)させる制御器400によって制御されることが好ましい。ラスター装置382は、陰極320の放出表面の固定的にあるいは頻繁に衝突する部分の消耗を防いで、陰極の寿命を延ばすために用いられる。ラスター装置は、陰極の横方向および上下方向の掃引を、1〜数ナノ秒オーダーの周期で完了することが好ましい。この周期は、既に述べた所望の範囲とは異なっており、陰極表面の電子を補助的に励起する異なる所望の度合いを提供するように、レーザーパルスの周波数や間隔に調和させることができる。
【0057】
開示したタイプの補助陰極増大器の使用は、図3〜8の補助増大器を使用しない変換器の陰極出力に比べ、陰極出力を20〜25倍に増加させる。増大器の動作パラメータは、陰極出力の増大レベルを大きくしたり小さくしたりするために、変化させることができる。
【0058】
図10では、補助陰極増大器372のレーザー374の配置可能な位置として、
A、B、Cが示されている。これらA、B、Cは、陽極306の開口を中心からずらして設けておき、レーザー374を、ターゲット・サブアセンブリ304に対する中心からずれた位置に配置しうること、あるいは、ターゲット・サブアセンブリ304の外周の外に配置しうることを示している。後者の場合において、陽極に穴を設ける必要はなく、電子反発リングの必要もない。前述のように、エネルギーの伝達効率を維持するためには、陰極の放出表面321に対するレーザービームの入射角は、比較的小さく維持することが好ましい。中心からずらせた配置(オフセンター配置)は、陰極出力の増大効率を低下させるが、オフセンター配置を採用すれば、他の設計的配慮を単純化することができ、それほど大きくない低効率を補うものがある。
【0059】
さらに、この点、レーザーの配置について注目すべきは、レーザーをターゲット・サブアセンブリ304の後ろ、すなわち、陰極が配置される側の反対側に配置することである。このような配置は、陰極表面に対するレーザービームの入射角を小さく維持するために有効であるが、陰極から陽極へ向かう電子移動の軌跡の半径方向への外側に置くという前提で、レーザー374を陽極306の前(すなわち、陽極と陰極の縦方向の間)に位置させることも可能である。
【0060】
図11に示す本発明のさらなる特徴は、陽極306で反射してはぐれた電子その他の陽極で捕捉され損なった電子の除去を助けるために、筐体302の内径の周りに、複数のエレクトレット398を設けた点にある。このようなはぐれた電子は、真空チャンバ内に空間電荷をもたらしてしまう。エレクトレット398は接地され、空間電荷が形成されることを実質的に防いでいる。
【0061】
本発明を特定の実施形態に関連して詳細に説明したが、この分野の専門家にとって、その代替、修正、変更は自明なことである。したがって、ここに示した本発明の好ましい実施形態を、説明されたものに限定する趣旨ではない。上記記述ならびに請求項において定義する発明の範囲と精神を逸脱しないように、様々な変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、従来の熱電子電気変換器の概略図である。
【図2】図2は、レーザー励起による熱電子電気変換器の概略図である。
【図3】図3は、本発明に係る光電子電気変換器の概略図および断面における部品を示した側面図である。
【図4】図4は、陰極に用いるためのワイヤグリッド構造の上面図である。
【図5】図5は、ワイヤグリッド構造の部分側面図である。
【図6】図6は、他の例によるワイヤグリッド構造の部分側面図である。
【図7】図7は、ワイヤーグリッド構造の複数の層を示す概略図である。
【図8】図8は、その他の例による陰極構造の単純化した側面図である。
【図9】図9は、本発明の他の実施形態による熱電子変換器の概略図および部品を示した横断面における側面図である。
【図10】図10は、図9の実施形態におけるターゲットの部分構成を示す実質的概略正面図である。
【図11】図11は、図10のターゲットの部分構成を示す実質概略側面図である。
【発明の分野】
【0001】
この発明は、熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する分野に関するものである。さらに詳しくは、熱電子電気変換器を提供するものである。
【発明の背景】
【0002】
従来、米国特許3,519,864号、3,328,611号、4,303,845号、4,323,808号、5,459,367号、5,780,954号および5,942,834号(これらは全て本願発明者に対して与えられた特許であり、参照してこれら開示を本願に組み込む)に示されるような熱電子変換器が知られている。これら特許は、ネルエネルギーを電気エネルギーに直接変換するための様々な装置や方法を開示している。米国特許3,519,854号では、ホール効果技術を出力電流収集手段として用いた変換器が開示されている。この'854特許は、電子源としての放射陰極表面の熱された(boiled off)電子流の使用を教示する。電子は、ホール効果変換器の向こうに配置された陽極に向かって加速される。'854特許の陽極は、単なる金属板であり、当該金属板を取り囲み、金属板から絶縁され、静電気が十分に蓄積された部材を有している。
【0003】
米国特許3,328,611号は、球状に構成された熱電子変換器を開示している。この熱電子変換器では、球状の放射陰極に熱が供給され、同心円状に配置された球状陽極に向けて、制御部材の影響の下で電子が放出される。球状陽極は、正の高電位を有しており、制御部材から絶縁されている。'854特許と同様に、'611特許の陽極は単なる金属表面である。
【0004】
米国特許4,303,845号は、陰極からの電子流が、横断磁界中に置かれた空芯誘導コイルを通過するような、熱電子変換器を開示している。電子流と横断時間との相互作用によって誘導コイルにEMFが生成される。'845特許の陽極も、絶縁され静電気が十分に蓄積された部材によって取り囲まれた金属板を備えている。
【0005】
米国特許4,323,808号は、'845特許に開示された熱電子変換器と類似したレーザー励起による熱電子変換器を開示している。主たる差異は、'808特許がレーザーを用いることを開示している点である。このレーザーは、電子が集められるグリッドに印加され、これと同時にグリッドの電位が取り除かれる。これにより、横方向磁界中に置かれた空芯誘導コイルを通り、陽極に向かって加速される電子の塊が形成される。'808特許の陽極は、'845特許において開示されたものと同じであり、絶縁され静電気が十分に蓄積された部材によって取り囲まれた単なる金属板である。
【0006】
米国特許5,459,367号は、銅羊毛繊維(copper wool fibers)および硫酸銅ゲルを金属板に代えて有する陽極とともに、改良された集電体(collector element)を効果的に使用している。加えて、この集電体は、絶縁され(静電気が)十分に蓄積された部材によって取り囲まれている。
【0007】
5,780,954号および5,942,834号は、放射表面領域を増加させるため、非2次元的形状を有し、ワイヤーグリッドとして構成される陰極の提供に関するものである。これら特許は、電子が陽極に容易に補足されるようにするため、量子干渉を与えるという方法によって、陽極に達する前に電子流をヒットするためにレーザーを使用する技術も開示している。
【0008】
他の従来技術は、真空室内において、たとえば2ミクロンという比較的近接した陽極および陰極を有している。このような従来技術では、セシウムを陽極・陰極を収納する真空室(チャンバー)に入れること以外には、陰極から陽極に向けて放出された電子を誘引するために、誘因力を用いていない。電子の流れを保つため、セシウムは、正の電荷を持って陽極を覆っている。陰極と陽極がかなり近接しているので、陰極と陽極を実質的に異なる温度に保つことは困難である。たとえば、通常、陰極は1800度ケルビン、陽極は800度ケルビンである。陰極を加熱するために熱源が設けられ、陰極を所定温度に保つために陽極に冷却循環システムが設けられている。真空室は(セシウム源を除いて)真空に保たれているとはいえ、陰極からの熱は陽極に到達し、空間的に接近した陰極と陽極の間に大きな温度差を保つためには、極めて大きなエネルギーが必要となる。
【発明の開示】
【発明の目的および概要】
【0009】
したがって、この発明の目的は、従来設計され開発されたものよりも、改良され向上された特徴をする熱電子変換器を提供することである。
【0010】
この発明のさらなる主目的は、陰極出力を大きくした熱電子電気変換器を提供することである。
【0011】
この発明の他の目的は、陰極出力を大きくした熱電子変換器のための、改良された陰極を提供することである。
【0012】
この発明のさらに他の目的は、陰極の放射能力を向上させるため、レーザによって陰極を照射する熱電子電気変換器を提供することである。
【0013】
この発明のさらに他の目的は、レーザによる陰極の能力向上とともに、陰極からの電子を補足する陽極またはターゲットを提供することである。
【好ましい実施形態の詳細な説明】
【0014】
本発明を図面を参照しながら説明する。図において、同様の要素には同様の符号を付している。
【0015】
図1および図2に、米国特許4,303,845号、4,328,808号に示された従来技術による光電子電気変換器を示す。両特許とも本願発明の発明者であるEdwin D. Davisに付与されたものであり、その開示内容の全体を本願出願に参照して組み込む。これら特許には、光電子変換器の動作が詳細に開示されているが、動作の概要を図1および図2を参照して説明しておく。これによって、本件発明を理解するために必要な背景知識を得られるであろう。
【0016】
図1に、基本的な光電子電気変換器を示す。図2は、レーザー励起による光電子変換器を示している。いずれの変換器の動作も類似したものである。
【0017】
図面には、基本的な光電子電気変換器10が示されている。変換器10は、両端に端部壁14、16が取り付けられた、細長い円筒状の外部筐体12によって形成された閉塞チャンバ18を有している。筐体12は、高温プラスチックやセラミックなどの公知の強固な電気非導体で構成されている。一方、端部壁14、16は、電気接続をなしうる金属板である。チャンバ18の真空が保て、比較的高電位が印加でき、端部壁14と16を横断できるように、これらの要素は機械的に接合されて密閉されている。
【0018】
第1端部壁14は、その内部面に配置された電子放出皮膜(electron emissive coating)を有する成型陰極領域20を有している。一方、第2端部壁16は、わずかに突出した円形面として形成されている。筐体12に結合されるアセンブリを形成するために、この円形面は、絶縁リング21の中に取り付けられる。使用時には、端部壁14、16は、それぞれ、変換器10の陰極端子および集電板として機能する。陰極領域20に始まり集電板16に終わる電子流22は、この2つの壁の間において、円筒チャンバ18の対称軸に実質的に沿うように流れる。
【0019】
環状集中部材24は、チャンバ18内において同心状に、陰極20に近接して配置されている。バッフル部材26は、チャンバ18内において同心状に、集電板16に近接して配置されている。
【0020】
これら2つの要素の間に配置されているのは、ヘリカル誘導コイル30と細長い環状磁石32を備えた誘導アセンブリ28である。コイル30と磁石32は、チャンバ18内において、その中央部を占めるように同心状に配置されている。図2の断面図を参照すれば、各要素およびアセンブリの径方向の位置関係が分かるはずである。明瞭化のため、内部に配置された要素の機械的保持手段については、図に含めていない。集中要素24は、リード34および密閉シールされた給電口36によって、外部の静電気源(source of atatic potential)(図示せず)に電気的に接続されている。同様に、誘導コイル30も、一対のリード38、40および一対の給電口42、44を介して、単純化して抵抗46として示した外部負荷要素に接続されている。
【0021】
種々の要素に印加される電位については、電子流装置に適用される従来からの周知の手段であるので、明示的に示しておらず詳細に述べていない。簡単に述べると、(従来の)陰極領域20を基準電圧レベルとすると、高い正の静電荷が集電板16に印加され、この電圧源を含む外部回路の負極側が陰極20に接続されて回路接続が完成する。この高い正のチャンバ18内において同心状に、陰極20に近接して配置されている。この静電荷は、陰極領域20に始まって集電板16に向けて加速される電子流22に対し、印加された高静電荷の大きさに直接的に依存するように、その大きさに影響を与える。電子は、所定量の反射を生じるに十分な速度をもって、集電板16に衝突する。バッフル部材26は、これらの反射した電子が変換器の主要部に到達するのを防ぐように、構成され配置されており、これらに対する電気的接続(図示せず)が必要である。電子流22を細いビームにするため、低い負電位から適度な負電位が集中部材24に印加される。動作時において、陰極20の電子放出被膜を加熱し、多くの電子をボイルするために、熱源48(化石燃料の燃焼、太陽光装置、原子力装置、既存の原子力設備からの原子廃棄物または熱交換などの様々なソースから導くことができる)が用いられる。放出された電子は、焦点要素24によって細いビームに収束され、集電板16に向けて加速される。誘導アセンブリ28を通過する際に、電子は、磁石32による磁界の影響を受け、相互作用的な動きをして、誘導コイル30の巻線内にEMFを生じさせる。この誘導されたEMFは、小さな環状電流ループを生じる個々の電子の多数の合計である。全体として見ると、変換器の出力電圧は通過する電子の速度に比例し、出力電流は電子源の大きさと温度に依存することとなる。誘起されるEMFのメカニズムは、電子の速度方向に直交する実質的一様磁界に直線初期速度で入射する電子の上に働くローレンツ力によって説明できる。適切に構成された装置では、螺旋状の電子の軌跡(図示せず)によって、誘導EMFを生成するため、ファラデーの法則により必要とされる磁束の全体的変化が所望の割合にされる。
【0022】
この螺旋状の電子軌道は、集電板16の加速作用による直線的な並進軌道(垂直)と、電子の初期速度と磁石32の横断電磁界の相互作用による環状軌(横断)との組み合わせから生じる。集電板16に印加される高電圧の相対的な大きさ、および磁石32による磁界の強さと方向に依存させて、コイル30の中に直接的に電圧を生じさせる他のメカニズムも可能である。しかし、いずれのメカニズムも、ローレンツおよびファラデーの理論の応用の組み合わせによってもたらされるものである。
【0023】
米国特許4,303,845号に示された変換器と、米国特許4,328,808号に示されたレーザー励起による変換器との基本的な相違点は、レーザー励起による変換器は、グリッド176上の陰極表面からボイルドオフ(boiled off)された電子を集める点にある。それは、リード180を介して負電源178によって印加されたわずかな負電位を有し、電子の流れを補足して、多くの電子を補足する。グリッドに印加された電位は除去され、同時に、グリッドは、照射されるべき電子22の塊を生じるレーザーアセンブリ170、173、174、20からの、レーザーパルス除電にさらされる。電子の塊22は、電子的に集中され、横断磁界中に配置された空芯誘導コイルの内部を通るように方向付けられ、これにより、誘導コイル中にEMFが生成される。基本的な熱電子変換器に関して上記に述べたとおり、このEMFは、その動作のために外部回路に印加される。
【0024】
本願発明者の従来技術である米国特許5,485,367号に述べたとおり、単に導電性金属板で構成された集電要素を有することで、多くの問題点が生じている。したがって、集電要素は、硫酸銅ゲルをしみこませた銅ウール繊維による導電層としている。しかしながら、この発明では、発明の他の側面によって問題点を軽減したり無くしたりして、陽極板が別の作用をなして、導電性金板陽極を用いることができる。もちろん、陽極の詳細は、本願発明の好ましい設計の中心的なものではない。
【0025】
図3にあるように、本発明による熱電子電気変換器200は、公知の真空装置(図示せず)によって、真空状態が維持される筐体202を有している。筐体202は、中心軸202Aに関して円筒状であることが好ましい。注記する場合を除いて、中心軸202Aは、筐体202およびそれに収納される部品の対称軸である。
【0026】
コレクタ204は、同軸に配された絶縁リング210を有する静電充電リング208(たとえば1000クーロンに帯電されている)に取り囲まれた、平らな陽極環状板206(たとえば銅で構成される)を有してもよい。リング208およびリング210は、米国特許5,459,367号に述べられたように構築され、動作するものとすることができる。冷媒源214からの冷媒が冷却回路216によって再循環するように、冷却部材212は、板206に対して熱的に結合されている。冷却板212は、陽極板を所望の温度に維持する。他の例においては、冷却部材212を、陽極板206と同じものとしてもよい(換言すると、冷媒が板206を介して循環する)。1つ以上のセンサ(図示せず)を用いたフィードバック構成(図示せず)を、陽極206の温度安定化のために用いることができる。
【0027】
本発明の陰極アセンブリ218は、電子を放出するように、熱源によって加熱される陰極220を有している。放出された電子は、概ね、陽極206に向う移動方向202Aに沿って移動する(米国特許5,459,367号にあるように、充電リング208は、陽極に向かう電子を集めるのを助ける)。加熱回路226を介して(陰極220と熱結合された)加熱部材224に向けて流れる熱流体源222を熱源として示したが、陰極224に印加されるレーザ等のような他のエネルギー源を用いてもよい。ソース222に入力されるエネルギーとしては、化石燃料、太陽エネルギー、レーザ、マイクロ波、放射性物質を用いることができる。さらに、貯蔵にコストがかかりメリットの少ない核燃料を、ソース222を加熱するために用いることもできる。
【0028】
フェルミ準位に励起された陰極220中の電子は、その表面から飛び出し、静電充電リング208によって引きつけられ、第1、第2の集中リングまたは円筒228、230を通るように移動方向202Aに沿って移動する。この第1、第2の集中リング/円筒228、230は、上記にて説明した従来技術の集中要素24と同じ様に構成され、動作する。電子の移動が適切な方向となるように助けるため、シールド232が陰極224を取り囲んでいてもよい。シールド232は、図に示すように、陰極224に近い円筒部と陰極224から離れた円錐部を有する円筒または円錐形状とすることができる。いずれにしても、シールドは、電子の移動を方向202Aに保持する役割を持つ。シールドは(比較的高温の陰極220に近接していることから)比較的高温であり、電子はシールド232から反発されるようになる。シールドの高温によって反発させることに代えて、あるいはこれに加えて、シールド232に負の電位を印加するようにしてもよい。この場合、シールド232と陰極220との間に絶縁材を用いることができる。
【0029】
陰極220から陽極206に向かう電子流に対応して生成された電気エネルギーは、陰極配線234と陽極配線236を介して、外部回路238に供給される。
【0030】
効果的な側面を明らかにするため、変換器200の全体的な動作から離れていうと、電子240のような電子群は、陽極206に向かうので、高エネルギーレベルを持とうとする傾向にある。したがって、それらの一部は、表面で反射されて捕獲されないという一般的傾向を有する。これは、通常、電子散乱をもたらし、変換器の変換効率を低下させる。このような問題を防止または大きく低減させるために、この発明では、陽極206に衝突する直前に電子を照射(電子をレーザービーム244で叩く)するようにレーザー242を用いている。レーザービーム244のフォトンと電子240との間の量子干渉は、電子が陽極206の表面に安定的に補足されるように、電子のエネルギー状態を低下させる。
【0031】
物理学における波動・粒子の二重性理論から理解できるように、レーザービームを照射された電子は、波動および/または粒子の性質を示す。もちろん、本発明のクレームの範囲は、クレームにおいて明白に光子干渉などの動作理論に言及されていない限り、特定の動作理論に制限されるものではない。
【0032】
ここで用いたように、電子が陽極206に到達する「直前」に、レーザー242が電子を照射するという文言は、電子は陽極206まで続いているので、電子は他のいずれの要素(たとえば焦点部材など)も通過しないという意味である。詳しくいうと、電子は、陽極206に到達する2ミクロン以内で照射されることが好ましい。さらには、電子は、陽極206に到達する1ミクロン以内で照射されることが好ましい。実際、第2集中部材230から陽極206までの距離は、1ミクロンとできるので、レーザーは陽極206の近くで電子を照射する。このような構成(すなわち、陽極に到達する直前に電子を照射する)により、低減されたエネルギーが最も好ましく有用である点において、電子のエネルギーが減じられる。
【0033】
筐体202は不透明でもよいが、レーザビーム244がレーザー242から部材202内のチャンバに入射可能なように、レーザー窓246は透明部材で構成される。レーザー242は、チャンバ内に配置してもよい。
【0034】
陽極206に到達する直前の電子のエネルギーレベルを低減させるため、レーザー242の使用による変換効率を向上することに加えて、本発明の陰極220は、陰極220の電子放出領域を増加させて効率を改良するように、特別な設計がなされている。
【0035】
図4に示すように、円形グリッドワイヤ248として、陰極220が示されている。並行ワイヤのトップ層または第1層のワイヤ250は、方向252に伸びており、第2層のワイヤ254は、方向252を横切り、好ましくは方向252に垂直な方向256に伸びている。平行ワイヤ(説明を容易にするためワイヤ262のみを示した)の第3層は、方向260に伸びている(方向252および256に対し45度である)。平行ワイヤ(説明を容易にするためワイヤ262のみを示した)の第4層は、方向264に伸びている(方向260に対して90度である)。
【0036】
図4は、ワイヤ間の距離を比較的大きく示しているが、これも説明を容易にするためであることに注意されたい。好ましくは、ワイヤは微細に延長されたワイヤであり、同一層における並行ワイヤ間の距離は、ワイヤの直径と同程度である。ワイヤは極細サイズの2ミリメートル以下の直径を有することが好ましい。ワイヤは、陽極に用いられているタングステンや他の金属とすることができる。
【0037】
図5に示すように、ワイヤ250と254は、お互いにずらせて(オフセット)配置されている。共通面に配置された全てのワイヤ250(図では1つのみ示す)は、全てのワイヤ254が配置される他の共通面からずらせて配置されている。図6に示す他の構成では、ワイヤ250’(1つのみ示す)およびワイヤ254’は、布のように織り合わされている。
【0038】
図7に示すように、陽極220’が、3つの部分266、268、270を有するようにしてもよい。各部分266、268、270は、250、254のような(あるいは250’、254’のような)2つの垂直なワイヤ層(図7には示していない)を有している。部分266は、図7の面に入っていくワイヤおよび図7の面に平行なワイヤである。部分268は2つのワイヤ層を有し、それぞれのワイヤ層は、部分266のワイヤの方向の一つに対して30度の角度を持って伸びるワイヤを有している。
【0039】
図7は、異なる方向に伸びるワイヤを有する複数の層を使用できるというポイントを示している。
【0040】
陰極のための様々なワイヤグリッド構造において、ワイヤの形状および複数層により、効果的な電子放出表面領域の増大がもたらされる。図8に、他の方法による表面領域の増大方法を示す。図8は、概ね移動方向220A’にそって電子を放出することのできるパラボラ型陰極280の側断面図である。陰極280は、移動方向202Aの法線方向に、平面的な横断面領域Aを有している。注目すべきは、陰極280は、陽極に向けて電子を放出するための(陰極の湾曲による)電子放出表面領域EAを有していることである。この領域は、平面横断面領域Aより、少なくとも30%大きい。したがって、所与の陽極サイズにおいて、高密度の電子が生成される。陰極280はパラボラとして示されているが、他のカーブ表面を用いることもできる。陰極280は、個体部材で形成してもよく、図4〜7に示したような複数層を組み合わせたワイヤグリッド構造であってもよい。ただし、各層は平面ではなくカーブしたものとする。
【0041】
図8のカーブした陰極構造は、側横断面領域Aよりも30%大きい電子放出表面領域EAをもたらすが、図4に示すような様々なワイヤグリッド構造は、(図8に定義した)側横断面領域の、少なくとも2倍の電子放出表面をもたらす。実際、グリッド構造での電子放出表面領域は、側横断面領域の少なくとも10倍とすべきである。
【0042】
本発明では、陰極220と陽極206を、4ミクロンから5センチまで、互いに離すことができるという効果を有する。より詳細には、その離す距離は、1センチから3センチまでである。したがって、陰極と陽極は十分に離されているので、陰極と陽極を近接して配置しなければならない構造と比較して、陰極からの熱は陽極に伝達されにくい。したがって、多くの従来技術に比べると高度な冷却が求められないので、冷媒源214を要求度の低い冷媒構造とすることができる。
【0043】
図9〜11は、本発明による熱電子電気変換器の他の実施形態を示す。この実施形態では、陰極からの電子放出がさらに増加され、変換効率と変換器の電流生成が向上されている。
【0044】
図9〜11の実施形態による熱電子電気変換器300は、図3〜8にて示した変換器200の部品と同一もしくは類似の部品を多数用いることができる。特に、変換器300は、少なくとも長手方向に伸びる部分に沿った円筒状の筐体302を有していることが好ましい。さらに、変換器300は、構造の詳細を後述する電子ターゲットサブアセンブリまたはコレクタ304を備えている。冷却部312は、ターゲットサブアセンブリ304またはその個々の部品を、所定の温度に保つために設けられている。なお、一般には、この所定の温度は、陰極サブアセンブリ318の動作温度よりも低い温度である。陰極アセンブリ318は、陰極エミッタ321を有する陰極320を備えることが好ましい。陰極は、陰極に熱的に結合された熱源322によって加熱され、陰極の加熱によって、電子が励起されて陰極エミッタ321の表面から飛び出す。
【0045】
熱源322は、図に示すように、陰極に結合された加熱部材324と、加熱流体(液体またはガス)を陰極320に供給する加熱回路326とを備えている。図3〜図8に開示した実施形態と同じように、陰極を外部から加熱するための熱エネルギー源として、太陽エネルギー、化石燃料、レーザーエネルギー、マイクロ波エネルギー、放射性廃棄物や使用済放射性物質等のような放射性物質から得られる熱エネルギーを用いてもよいことは、この分野の専門家にとって理解できるところである。保管にコストを要する使用済核燃料を、熱源322のための熱エネルギー供給に用いることができる。様々なタイプの熱エネルギーを供給するための基本システムやサブアセンブリの構成は、この分野の専門家によって自明である。
【0046】
変換器300は、図3に示すものと同じような方法で、第1および第2の集中リング328、330を備えることができる。図3の実施形態におけるシールド232と実質的に同じ機能を果たすように、シールド332を、陰極320の周りに設けることができる。
【0047】
陰極エミッタ321からターゲットアセンブリ304の陽極306への電子流に対応して生成された電気エネルギーは、陰極配線334、陽極配線336を介して外部回路338に供給される。したがって、回路338は、変換器300によって熱エネルギーから生成された、電気形式のエネルギーを受け取る。回路338は、回路戻り線(図9において陰極配線334として示される)に接続されたトランジスタ337を備えており、回路電流は一方向にのみ流れるように規制される。すなわち、筐体302の供給口339を介して陰極エミッタ321に戻る方向に規制される。
【0048】
変換器300は、さらに、電子干渉レーザー342を備えてもよい。電子干渉レーザ342は、量子干渉または他の粒子相互作用現象によって、陰極306に到達する電子のエネルギー状態を低くするように動作する。レーザービーム344は、レーザー窓346を通過し、入ってきた電子の通路を横切って(あるいは”衝突する”)、電子の中に蓄積されたエネルギーを低減させる。本発明のこの側面についての考察につき、動作原理が関係する限りにおいて、レーザー242、レーザービーム244、図3を参照されたい。陽極306に接触する直前になされる電子のエネルギーレベルの低減により、電子が陽極306に衝突して反射し、衝突散乱する傾向が防止される。したがって、陽極306は、入ってきた電子の大部分を補足することができる。
【0049】
ターゲット・サブアセンブリすなわちコレクタ304は、中央穴370を有するように構成することが好ましい。この中央穴304は、レーザー374による陰極出力増大装置すなわち補助陰極増大器372が、陰極320の放出表面へ向かう376aの方向にレーザービーム376を放出できるように、大きさその他が適切に形成されている。また、ターゲット・サブアセンブリは、中央からずれた位置に開口を有していてもよく、レーザー374が、ターゲット・サブアセンブリ外周の外からのレーザービーム376を方向付けられるように、大きさが決められて筐体302内に配置されていてもよい。
【0050】
図9〜11の全ての図を参照すると、ターゲット・サブアセンブリ304は、便宜上図の中央に示した貫通穴307を有する陽極306を備えていることが好ましい。絶縁(電気的絶縁)リング378は、貫通穴307の端部に設けられており、陽極306の端部に固定されている。電子反発リング380は、絶縁リング378の内周に配置されている。この反発リング380は、電子が陰極320から散乱し、反発リング380の穴を通過して経路302aを移動することを実質的に防止し、あるいは、通過する電子の数を最小化するために設けられている。電子反発リング380は、供給口379を介して反発リングに結合された外部ソース(図示せず)によって、負電位に充電されていることが好ましい。あるいは、他の方法によって電子を反発するように構成されていてもよい。リング380は、電子がターゲット・アセンブリ304の陽極306に衝突するように、電子の少なくとも一部を偏向させるように動作する。
【0051】
陽極306は、図に示すように、円形平板であってもよく、陰極324に向かって突出するカーブやその反対に突出するカーブであってもよい。また、陰極320から陽極に接する経路に沿って移動する電子を効果的に補足できるように設計された他の形状であってもよい。陽極306は、その外周に、外部および内部絶縁リング310によって境界付けられる、高い静電荷で充電されたファラデーリング308を有していることが好ましい。ターゲント・サブアセンブリのこの部分は、図3の実施形態において開示したものと実質的に同じである。電流生成のための電子の捕捉において、陽極306に向かう電子の捕捉を補助するため、概ね図3の実施形態と同じように動作する。図11の382として概要を示す給電口は、所望の高い静電荷を伝えるために、ファラデーリング308と結合される。絶縁リング310は、陽極306と主電気回路338を、リング308に印加される静電荷から、電気的に絶縁するように機能する。
【0052】
陽極板306は、図3の陽極206と同じ材料によって構成することができる。あるいは、従来知られている使用目的にかなった他のタイプのものでもよい。陰極320は、図3〜8に示して説明した陰極220と同じ材料で同じ様に構成することができる。あるいは、背景技術において述べた従来特許に開示された他の陰極構造を用いてもよい。
【0053】
図9〜11の実施形態では、図3〜8の実施形態で得られるよりも、陰極の出力は大きく増加する。前述のように、レーザー374による補助陰極増大器372は、レーザービーム376を、陰極の放出表面321に方向付け、熱源322によって熱エネルギーを供給され励起した当該表面の電子をさらに励起させる。
【0054】
好ましい実施形態として示したように、レーザー374は、筐体302の内部に配置され、陰極320の反対側の陽極306の側に配置される。レーザー374は、レーザービーム376を方向付け、陰極302から陽極306に移動する電子の経路302aと実質的に反対の方向である経路376aに沿うように光子を移動させる。レーザービーム376は、電子へのエネルギー移動を最大化するため、陰極の放出表面321を、正射するように、あるいは小さな入射角で照射する。
【0055】
レーザー374は、たとえば周波数10〜100MHzで数ピコ秒オーダーの間隔を有するショットまたはパルスを放出するように、制御器400によって制御される。他の動作体制(パラメータ)も適切に選択され、パラメータは主として目的に沿って与えられる。
【0056】
補助陰極増大器372は、図11の382として概要を示すラスター装置を備えることが好ましい。ラスター装置382は、本明細書の記述によってこの分野の専門家にとって明らかな方法により、レーザービーム376を水平(横から横)、垂直(上から下、またはその逆)の双方向に掃引(スイープ)させる制御器400によって制御されることが好ましい。ラスター装置382は、陰極320の放出表面の固定的にあるいは頻繁に衝突する部分の消耗を防いで、陰極の寿命を延ばすために用いられる。ラスター装置は、陰極の横方向および上下方向の掃引を、1〜数ナノ秒オーダーの周期で完了することが好ましい。この周期は、既に述べた所望の範囲とは異なっており、陰極表面の電子を補助的に励起する異なる所望の度合いを提供するように、レーザーパルスの周波数や間隔に調和させることができる。
【0057】
開示したタイプの補助陰極増大器の使用は、図3〜8の補助増大器を使用しない変換器の陰極出力に比べ、陰極出力を20〜25倍に増加させる。増大器の動作パラメータは、陰極出力の増大レベルを大きくしたり小さくしたりするために、変化させることができる。
【0058】
図10では、補助陰極増大器372のレーザー374の配置可能な位置として、
A、B、Cが示されている。これらA、B、Cは、陽極306の開口を中心からずらして設けておき、レーザー374を、ターゲット・サブアセンブリ304に対する中心からずれた位置に配置しうること、あるいは、ターゲット・サブアセンブリ304の外周の外に配置しうることを示している。後者の場合において、陽極に穴を設ける必要はなく、電子反発リングの必要もない。前述のように、エネルギーの伝達効率を維持するためには、陰極の放出表面321に対するレーザービームの入射角は、比較的小さく維持することが好ましい。中心からずらせた配置(オフセンター配置)は、陰極出力の増大効率を低下させるが、オフセンター配置を採用すれば、他の設計的配慮を単純化することができ、それほど大きくない低効率を補うものがある。
【0059】
さらに、この点、レーザーの配置について注目すべきは、レーザーをターゲット・サブアセンブリ304の後ろ、すなわち、陰極が配置される側の反対側に配置することである。このような配置は、陰極表面に対するレーザービームの入射角を小さく維持するために有効であるが、陰極から陽極へ向かう電子移動の軌跡の半径方向への外側に置くという前提で、レーザー374を陽極306の前(すなわち、陽極と陰極の縦方向の間)に位置させることも可能である。
【0060】
図11に示す本発明のさらなる特徴は、陽極306で反射してはぐれた電子その他の陽極で捕捉され損なった電子の除去を助けるために、筐体302の内径の周りに、複数のエレクトレット398を設けた点にある。このようなはぐれた電子は、真空チャンバ内に空間電荷をもたらしてしまう。エレクトレット398は接地され、空間電荷が形成されることを実質的に防いでいる。
【0061】
本発明を特定の実施形態に関連して詳細に説明したが、この分野の専門家にとって、その代替、修正、変更は自明なことである。したがって、ここに示した本発明の好ましい実施形態を、説明されたものに限定する趣旨ではない。上記記述ならびに請求項において定義する発明の範囲と精神を逸脱しないように、様々な変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、従来の熱電子電気変換器の概略図である。
【図2】図2は、レーザー励起による熱電子電気変換器の概略図である。
【図3】図3は、本発明に係る光電子電気変換器の概略図および断面における部品を示した側面図である。
【図4】図4は、陰極に用いるためのワイヤグリッド構造の上面図である。
【図5】図5は、ワイヤグリッド構造の部分側面図である。
【図6】図6は、他の例によるワイヤグリッド構造の部分側面図である。
【図7】図7は、ワイヤーグリッド構造の複数の層を示す概略図である。
【図8】図8は、その他の例による陰極構造の単純化した側面図である。
【図9】図9は、本発明の他の実施形態による熱電子変換器の概略図および部品を示した横断面における側面図である。
【図10】図10は、図9の実施形態におけるターゲットの部分構成を示す実質的概略正面図である。
【図11】図11は、図10のターゲットの部分構成を示す実質概略側面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を備えた熱電子電気変換器:
筐体と;
前記筐体内に収納され、加熱されると電子源としての役割を果たすことのできる陰極エミッタを有する陰極と;
前記筐体内に収納され、前記陰極エミッタから放出された電子を受け取ることのできる陽極を有するターゲット構造と;
前記陰極エミッタに配置され、電子の励起エネルギーを増加させることのできる陰極出力増大装置。
【請求項2】
請求項1の熱電子電気変換器において、
前記陰極出力増大装置は、レーザービームを、陰極エミッタの放射表面に当たるように方向付けるよう配置された陰極増大レーザーを備えていることを特徴とするもの。
【請求項3】
請求項2の熱電子電気変換器において、
前記陰極増大レーザーは、前記筐体の内部に配置されていることを特徴とするもの。
【請求項4】
請求項3の熱電子電気変換器において、
前記陰極増大レーザーは、レーザビームを前記陰極の放射面を横切るように掃引することのできるラスター装置によって制御されることを特徴とするもの。
【請求項5】
請求項4の熱電子電気変換器において、
前記ラスター装置は、レーザービームを、前記陰極の放射面の実質的に全面を掃引することができることを特徴とするもの。
【請求項6】
請求項2の熱電子電気変換器において、
前記陰極は、陽極の第1の側に配置され、前記陰極増大レーザーは、陽極の第1の側とは反対の第2の側に配置されることを特徴とするもの。
【請求項7】
請求項6の熱電子電気変換器において、
前記陽極は、レーザービームが陰極増大レーザーが通過して放射を可能とするような開口を有していることを特徴とするもの。
【請求項8】
請求項7の熱電子電気変換器において、
前記陽極の開口は、当該陽極の実質的に中央に位置していることを特徴とするもの。
【請求項9】
請求項7の熱電子電気変換器において、
前記ターゲット構造は、前記陽極の開口の中に配置され、貫通穴を有する電子反発リングをさらに備えていることを特徴とするもの。
【請求項10】
請求項9の熱電子電気変換器において、
前記電子反発リングは、前記陽極の開口の端部に設けられた電気絶縁リングによって、陽極に結合されていることを特徴とするもの。
【請求項11】
請求項10の熱電子電気変換器において、
前記電子反発リングは、当該リング上に負充電をもたらすソースと結合できることを特徴とするもの。
【請求項12】
請求項7の熱電子電気変換器において、
前記ターゲット構造は、さらに、前記陽極の外径に高静電荷リングを備えていることを特徴とするもの。
【請求項13】
請求項12の熱電子電気変換器において、
前記陽極および高静電荷リングは、内部絶縁リングによって互いに結合されており、前記高静電荷リングは、前記筐体内部の前記ターゲット構造に搭載できるように外部絶縁リングを有していることを特徴とするもの。
【請求項14】
請求項1の熱電子電気変換器において、
前記陰極エミッタは、少なくとも互いに横切る2方向に貼られたワイヤを有するワイヤグリッドを備えている。
【請求項15】
請求項1の熱電子電気変換器において、
前記陽極は、実質的に平面板陽極であることを特徴とするもの。
【請求項16】
請求項1の熱電子電気変換器において、
前記陰極と陽極との間において電子に当てることのできる電子干渉レーザーをさらに備えたことを特徴とするもの。
【請求項17】
請求項2の熱電子電気変換器において、
前記陰極と陽極との間において電子に当てることのできる電子干渉レーザーをさらに備えたことを特徴とするもの。
【請求項18】
請求項1の熱電子電気変換器において、
筐体内に設けられ、筐体内に存在するはぐれた電子を除去することのできる、少なくとも1つのエレクトレットを備えたことを特徴とするもの。
【請求項19】
下記を備えた熱電子電気変換器:
筐体と;
前記筐体内に収納され、加熱されると電子源としての役割を果たすことのできる陰極エミッタを有する陰極と;
前記筐体内に収納され、前記陰極エミッタから放出された電子を受け取ることのできる陽極を有するターゲット構造と;
レーザービームが前記陰極エミッタの放射表面に当たるように方向付けて配置された陰極増大レーザーと;
前記陰極エミッタの放射表面をレーザービームが横切るように軌道付けすることのできる制御器。
【請求項20】
請求項19の熱電子電気変換器において、
前記陰極および陰極増大レーザーは、前記ターゲット構造の反対側に配置されており、
前記陽極は、レーザービームが、陰極増大レーザーからそれを通過することのできる穴を有しており、
前記ターゲット構造は、筐体中で陽極に向かう電子の捕獲を助けるため、前記陽極の開口に配置された電子反発リングと、前記陽極の外径に配置された高静電荷リングとを、さらに備えていることを特徴とするもの。
【請求項21】
請求項20の熱電子電気変換器において、
前記陰極と陽極との間の電子に当てることのできる電子干渉レーザーをさらに備えたことを特徴とするもの。
【請求項1】
以下を備えた熱電子電気変換器:
筐体と;
前記筐体内に収納され、加熱されると電子源としての役割を果たすことのできる陰極エミッタを有する陰極と;
前記筐体内に収納され、前記陰極エミッタから放出された電子を受け取ることのできる陽極を有するターゲット構造と;
前記陰極エミッタに配置され、電子の励起エネルギーを増加させることのできる陰極出力増大装置。
【請求項2】
請求項1の熱電子電気変換器において、
前記陰極出力増大装置は、レーザービームを、陰極エミッタの放射表面に当たるように方向付けるよう配置された陰極増大レーザーを備えていることを特徴とするもの。
【請求項3】
請求項2の熱電子電気変換器において、
前記陰極増大レーザーは、前記筐体の内部に配置されていることを特徴とするもの。
【請求項4】
請求項3の熱電子電気変換器において、
前記陰極増大レーザーは、レーザビームを前記陰極の放射面を横切るように掃引することのできるラスター装置によって制御されることを特徴とするもの。
【請求項5】
請求項4の熱電子電気変換器において、
前記ラスター装置は、レーザービームを、前記陰極の放射面の実質的に全面を掃引することができることを特徴とするもの。
【請求項6】
請求項2の熱電子電気変換器において、
前記陰極は、陽極の第1の側に配置され、前記陰極増大レーザーは、陽極の第1の側とは反対の第2の側に配置されることを特徴とするもの。
【請求項7】
請求項6の熱電子電気変換器において、
前記陽極は、レーザービームが陰極増大レーザーが通過して放射を可能とするような開口を有していることを特徴とするもの。
【請求項8】
請求項7の熱電子電気変換器において、
前記陽極の開口は、当該陽極の実質的に中央に位置していることを特徴とするもの。
【請求項9】
請求項7の熱電子電気変換器において、
前記ターゲット構造は、前記陽極の開口の中に配置され、貫通穴を有する電子反発リングをさらに備えていることを特徴とするもの。
【請求項10】
請求項9の熱電子電気変換器において、
前記電子反発リングは、前記陽極の開口の端部に設けられた電気絶縁リングによって、陽極に結合されていることを特徴とするもの。
【請求項11】
請求項10の熱電子電気変換器において、
前記電子反発リングは、当該リング上に負充電をもたらすソースと結合できることを特徴とするもの。
【請求項12】
請求項7の熱電子電気変換器において、
前記ターゲット構造は、さらに、前記陽極の外径に高静電荷リングを備えていることを特徴とするもの。
【請求項13】
請求項12の熱電子電気変換器において、
前記陽極および高静電荷リングは、内部絶縁リングによって互いに結合されており、前記高静電荷リングは、前記筐体内部の前記ターゲット構造に搭載できるように外部絶縁リングを有していることを特徴とするもの。
【請求項14】
請求項1の熱電子電気変換器において、
前記陰極エミッタは、少なくとも互いに横切る2方向に貼られたワイヤを有するワイヤグリッドを備えている。
【請求項15】
請求項1の熱電子電気変換器において、
前記陽極は、実質的に平面板陽極であることを特徴とするもの。
【請求項16】
請求項1の熱電子電気変換器において、
前記陰極と陽極との間において電子に当てることのできる電子干渉レーザーをさらに備えたことを特徴とするもの。
【請求項17】
請求項2の熱電子電気変換器において、
前記陰極と陽極との間において電子に当てることのできる電子干渉レーザーをさらに備えたことを特徴とするもの。
【請求項18】
請求項1の熱電子電気変換器において、
筐体内に設けられ、筐体内に存在するはぐれた電子を除去することのできる、少なくとも1つのエレクトレットを備えたことを特徴とするもの。
【請求項19】
下記を備えた熱電子電気変換器:
筐体と;
前記筐体内に収納され、加熱されると電子源としての役割を果たすことのできる陰極エミッタを有する陰極と;
前記筐体内に収納され、前記陰極エミッタから放出された電子を受け取ることのできる陽極を有するターゲット構造と;
レーザービームが前記陰極エミッタの放射表面に当たるように方向付けて配置された陰極増大レーザーと;
前記陰極エミッタの放射表面をレーザービームが横切るように軌道付けすることのできる制御器。
【請求項20】
請求項19の熱電子電気変換器において、
前記陰極および陰極増大レーザーは、前記ターゲット構造の反対側に配置されており、
前記陽極は、レーザービームが、陰極増大レーザーからそれを通過することのできる穴を有しており、
前記ターゲット構造は、筐体中で陽極に向かう電子の捕獲を助けるため、前記陽極の開口に配置された電子反発リングと、前記陽極の外径に配置された高静電荷リングとを、さらに備えていることを特徴とするもの。
【請求項21】
請求項20の熱電子電気変換器において、
前記陰極と陽極との間の電子に当てることのできる電子干渉レーザーをさらに備えたことを特徴とするもの。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2007−521788(P2007−521788A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−510952(P2005−510952)
【出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2003/034501
【国際公開番号】WO2005/052983
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506133943)サーモコン,インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Thermocon, Inc.
【住所又は居所原語表記】523 N. Peninsula Drive, Suite 1, Daytona Beach, FL 32118−4000, U.S.A.
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【国際出願番号】PCT/US2003/034501
【国際公開番号】WO2005/052983
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(506133943)サーモコン,インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Thermocon, Inc.
【住所又は居所原語表記】523 N. Peninsula Drive, Suite 1, Daytona Beach, FL 32118−4000, U.S.A.
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