説明

熱電対の製造方法および熱電対

【課題】 微細な被測温部を正確に測温可能であり、製造性にも優れた熱電対の製造方法等を提供する。
【解決手段】 熱電対素線3a、3bを電極11a、11bで挟み込む際には、接触部9が電極11aの略中央に来るように設置し、さらに、熱電対素線3a、3bの挟持部への挿入方向が逃げ部15側となるように配置する。電極11a、11bは、熱電対素線3a、3bを挟み込んだ状態で、熱電対素線3a、3bを押しつぶす方向(図中矢印A方向)に連続的に荷重が負荷される。たとえば、電極11aまたは電極11bの後方にばねを配置して、ばねによって荷重を付加してもよい。電極11a、11bの間に挟まれる熱電対素線3a、3b(接触部9)には、パルス電流が流される。電極11a、11b間に通電されるパルス電流は、低電流側から徐々に段階的に電流が上げられて複数階負荷される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極小部位の温度を正確に測定することが可能な熱電対の製造方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の部品等の温度を測定するために、ゼーベック効果(熱起電力)を原理とする熱電対が使用されている。熱電対は、異種合金線の先端を接触あるいは接合させて、接触部あるいは接合部における起電力から温度を計測するものである。
【0003】
一方、電子部品を基板等への搭載する場合には、半田等が用いられる。このような電子部品の接合には、通常、半田ペースト等を供給した後、電子部品を所定位置に配置し、リフロー炉を通して半田を溶融することで半田接合が行われる。近年では、環境問題から半田としては鉛フリー半田が用いられる。
【0004】
鉛フリー半田としては、例えばSn系の半田が用いられる。Sn系の半田は、通常220℃近辺で溶融するが、半田接合に際しては溶融した半田の流動性が問題となり、1〜2℃の温度誤差が接合不良等の原因となる場合がある。たとえば、Sn−Ag−Cu合金の半田の液相線温度は、217〜219℃である。この場合、半田づけ部の温度は半田の液相線温度よりも5〜10℃以上高めに設定される。一方で、実装部品の耐熱温度は240℃程度である。したがって、温度管理としては、従来のSn−Pb半田と比較して温度許容範囲が著しく狭い。すなわち、高精度な温度制御を行う上で、精度の良い温度測定が重要となっている。
【0005】
通常、半田接合を行う部分の温度を計測するためには、前述した熱電対を被測定部に固定して、温度測定を行う。図9は、被測温部37に熱電対30を設置した状態を示す図である。熱電対30は、熱電対素線31a、31bの先端を電気的に接触させた状態で測温部33が形成される。測温部33は被測温部37に接触するように、固定部材35で固定される。測温部33では、被測温部37の温度によって熱起電力が生じ、この熱起電力を計測することで、被測温部37の温度を知ることができる。
【0006】
測温部33を形成するための方法としては、熱電対素線31a、31bをねじることで接触させる方法や、ガス(アーク)溶接等によって溶接する方法、抵抗加熱により溶接する方法等が採られている。熱電対素線31a、31bをねじって接触させる方法は、接点が定まらず、正確な測定には適さない。一方、従来の溶接による方法では、図示したように、測温部33は、通常略球状に形成される。
【0007】
しかし、このような形状の測温部33は、被測温部37との接触が点接触となるため、直接被測温部と接触していない浮いた状態になりやすく正確な測温が難しい傾向にある。さらに、リフロー炉内では、被測温部37よりも雰囲気温度が高くなるが、通常、熱電対はより高温部の温度の影響を受けるため、雰囲気温度の影響によって被測温部37の温度を正確に知ることが困難である。また、固定部材35の設置範囲が限られることが多く、固定部材35によって測温部33を完全に被覆することが困難である場合があり、この場合、雰囲気温度の影響を抑制することが困難である。したがって、より正確な測温が可能な熱電対が要求される。
【0008】
このような、熱電対としては、測温部を溶接で形成した後、圧延によって当該測温部を潰し、円盤状とした熱電対がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−344178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1のような熱電対は、溶接後に圧延を行うため、圧延によって測温部自体の大きさが大きくなるという問題がある。このため、微細な被測温部の測温が困難である。また、圧延工程を別途要するため、製造工数が増加する。また、溶接後の溶接状態は完全に同一ではなく、このため適切な圧延条件が毎回同一とは限られない。このため、圧延時に、測温部の破断や亀裂の発生などが起こる恐れがある。また、素線径よりも薄くなるように圧延を行った場合、素線の一部が圧延により破断する恐れもある。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、微細な被測温部を正確に測温可能であり、製造性にも優れた熱電対の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、測温部に平面部を有する熱電対の製造方法であって、一対の熱電対素線の先端近傍を接触させ、前記熱電対素線同士の接触部を一対の電極で挟み込み、前記一対の電極によって前記接触部に荷重を負荷しつつ、前記一対の電極の間にパルス電流を複数回通電し、前記接触部を加圧しながら溶接することを特徴とする熱電対の製造方法である。
【0013】
前記パルス電流は、段階的に電流値が高くなるように各段階で一パルス以上の電流を複数段階通電することが望ましい。
【0014】
前記パルス電流の最終段階前の段階において、前記接触部を仮止めし、前記パルス電流の最終段階において前記接触部における全断面を溶接してもよい。
【0015】
前記接触部に荷重を負荷する際の前記一対の電極の間の間隙が、前記熱電対素線の線径と略同等よりも狭くならないように制御されてもよい。また、前記一対の熱電対素線を、前記一対の電極の挟持方向に対して略垂直な方向に併設して接触させ、前記接触部に荷重を負荷する前記一対の電極の間の間隙が前記熱電対素線の線径よりも狭くなるように制御されてもよい。
【0016】
前記一対の電極の一方の側の電極は、前記接触部に対して十分に広い平面部を有する平面電極で、他方の側の電極の少なくとも一方の側面にはテーパ形状等の幅狭の状態が形成されて先端部が縮径しており、前記他方の側の電極の端縁部の少なくとも一部には曲線状(例えば、断面円弧状)の逃げ部が形成されている。
【0017】
前記熱電対素線を前記一対の電極に挟みこむ際に、前記熱電対素線が前記逃げ部に位置するように、前記接触部を前記一対の電極の間に配置する。
【0018】
第1の発明によれば、一対の電極で荷重を付与しながらパルス電流を複数回通電することで、測温部に微細な平面部を有する熱電対を容易に製造することができる。特に、複数回のパルス電流を通電して抵抗加熱溶接を行うことで、溶接条件の制御が容易であり、熱電対素線の成分や電極への設置状態などによる溶接条件ばらつきの影響に伴う過熱溶断等を防止することができる。
【0019】
また、電極間に荷重が付与されるため、溶接時に溶融部が押しつぶされて平面部を容易に形成することができる。また、パルス電流による溶接と過重負荷が同時であるため、接続部の溶融開始と同時に接続部を潰すことが可能であるため、接続部を過剰に溶融することがなく、測温部が過剰に大きくなることを防止することができる。
【0020】
また、パルス電流を段階的に電流値が高くなるように付与することで、接続部の過熱が防止でき、溶接条件のばらつき等の影響を抑制することができる。特に、このようにすることで、例えば所定の電流でのパルス電流負荷時に、熱電対素線表面のみを部分溶融させて仮止めを行うことができ、次にやや高い電流でのパルス電流負荷時に、熱電対素線の断面の一部分を溶融させ、この際に電極間の荷重によって接続部の形状を平面への加工が開始され、さらにパルス電流値を上げることで、完全に熱電対素線同士を溶接することができる。したがって、過剰な溶融や溶融不足が生じにくい。
【0021】
また、接続部を平面状にする際に、接続部の厚さが、熱電対素線の径と略同等となるように制御されれば、接続部を過剰に押し潰すことによる、断線や接続不良等を防止でき、また、熱電対素線自体を押しつぶすこともない。
【0022】
また、一方の電極の形状が、側面にテーパ部を有して縮径し、端縁部の一部に断面曲線状の逃げ部(例えばR部)が形成されることで、集中電流の流れ込みが防止される。特に、逃げ部側に熱電対素線が位置するように、電極間に熱電対素線を配置することで、熱電対素線の溶断を防止することができる。この曲線状の逃げ部は、必ずしも円弧状と限る必要はなく、集中電流を緩和できるものであればどのような曲線でも良い。端縁部の逃げ部を除く幅は、熱電対素線径の10倍以下に設定されることが望ましい。このようにすることにより、溶接部の溶接後の形状(測温部)を安定させることができる。
【0023】
第2の発明は、第1の発明にかかる熱電対の製造方法を用いて製造され、測温部に平面部を有することを特徴とする熱電対である。
【0024】
前記熱電対の測温部の厚さが熱電対素線の線径と略同じであり、前記測温部の幅が、前記熱電対素線の線径の2倍以下であってもよい。
【0025】
第2の発明によれば、微細な平面部を有するため、微小な被測温部に対しても正確に温度を測定することができる。すなわち、測温部が微細な被測温部の形状に沿って面接触することによって、固定部材が介在することのない被測温部との直接的な微細接触点を確実に確保することができるため、少ない固定部材で(小さな固定部材範囲で)均一な固定状態を得ることができる。測温の応答時間が短いため、被測定部の微細な温度変化に精度よく追従することもできる。測温部が浮き上がって露出すこともないため、誤差要因である雰囲気温度の影響も受けにくい。
【0026】
測温部の厚さが熱電対素線の線径と略同一であることはまた、被測温部に設置した際に、測温部が浮き上がったりすることもなく、また、熱電対素線が潰されることによる断線等の恐れもない。また、この場合、測温部の幅が熱電対素線の線径の2倍程度(線径以上)であれば、微小な被測温部へも設置するのに好都合であり、2倍以下であればより微小な被測温部にも適用可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、微細な被測温部を正確に測温可能であり、製造性にも優れた熱電対の製造方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】熱電対1を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図2】熱電対1の製造工程を示す図。
【図3】熱電対1の製造工程を示す図で、(a)は電極11a、11bの正面図、(b)は電極を透視した平面図。
【図4】パルス電流の負荷状態を示す図。
【図5】測温部5の形状を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図6】熱電対素線3a、3bの他の接触方法を示す図。
【図7】電子部品17aを示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(b)のB部拡大図であり、熱電対1を接続端子19に設置した状態を示す図。
【図8】電子部品17bを示す図。
【図9】従来の熱電対30を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態にかかる熱電対1について説明する。図1は、熱電対1を示す図で、図1(a)は熱電対1の平面図、図1(b)は正面図である。熱電対1は、主に一対の熱電対素線3a、3b、被覆部7、測温部5等から構成される。なお、熱電対1は、図示を省略した起電力測定器と接続されて用いられる。
【0030】
熱電対素線3a、3bは、熱電対の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、一方の熱電対素線3aをクロメル線(Crを10%含むNi−Cr合金)とし、他方の熱電対素線3bとしてアルメル線(Al、Mnを含むNi合金)を適用したKタイプ熱電対が使用できる。
【0031】
なお、熱電対素線が要因となる測温誤差をできるだけ小さくするためには、JIS規格におけるクラス1の規定品やANSI規格(米国規格協会:American National Standards Institute)の特別規定品(SLE規格品)を用いることが望ましく、また、製品固有のばらつきに対して選別された熱電対素線を用いてもよい。
【0032】
熱電対素線3a、3bの径は略同一である。なお、熱電対素線3a、3bの線径としては、測定対象部の大きさに応じて設定されるが、小型化が進む電子部品等の微細接続部の温度を正確に測定するためには、例えば、0.08mm〜0.2mm程度のものが適用可能である。
【0033】
被覆部7は、熱電対素線の絶縁や機械的な強度向上のために用いられる。被覆部7としては、耐熱温度等に応じて選択され、フッ化樹脂やガラス繊維等を用いることができる。
【0034】
測温部5は、熱電対素線3a、3bが接触する部位であり、熱起電力が生じる部位である。すなわち、測温部5が測温対象物の温度を計測する部位となる。
【0035】
測温部5は、表裏面(熱電対素線3a、3bを水平方向に配設した場合における鉛直方向の両面)が略平面となる。例えば、測温部5の形状は、図1のような素線配置で溶接した場合は、平面図において(平面部形状が)略矩形状となるが、その他の形状に溶接したものでも良い。なお、X字状に熱電対素線3a、3bを重ねる際の互いのクロスする角度を変化させることで、測温部5の平面部の形状を略正方形とすることもできる。このように角度と電流値の調整により、測温部の大きさや形状を適宜設計できる。この時測温部の断面形状は、側面中央部が僅かに外側に広がった略矩形状になる。測温部5の平面部を被測温部に密着させることで、測温部5は、被測温部の熱に直ちに応答して熱起電力を発生し、この熱起電力を測定することで被測温部の温度を測定することができる。この際、測温部5は極めて微細であるため熱容量が小さく、被測温部と面接触するため、熱応答性が極めて高く、正確な温度測定を行うことができる。
【0036】
次に、熱電対1の製造方法について説明する。図2は熱電対1の製造工程を示す図である。まず、図2(a)に示すように、熱電対素線3a、3bそれぞれの先端部の被覆部7を除去し、必要に応じて油成分の汚れ等を除去し、熱電対素線3a、3bのそれぞれの先端が略同一方向に向くように略平行に配置する。
【0037】
次に、図2(b)に示すように、熱電対素線3a、3bの先端部近傍が互いに重なるようにX字型にクロスさせる。この際、互いに重なり合う部位(X字における交点近傍)には、熱電対素線3a、3bが互いに接触する接触部9が形成される。
【0038】
図3は、X字型に接触部9が形成された熱電対素線3a、3bを電極に挟み込んだ状態を示す図で、図3(a)は正面図、図3(b)は平面図(電極11aを透視した図)である。図3(a)に示すように、電極11a、11bは互いに対向するように設けられ、熱電対素線3a、3bを挟み込む対向面が略平行な平面で構成される。熱電対素線3a、3bは、電極11a、11b方向(図中上下)X字型に重ねられた状態で電極間に挟み込まれる。したがって、この状態における電極11a、11b間の間隙は、熱電対素線3a(3b)の線径の2倍程度となる。
【0039】
電極11bは、接合する熱電対素線3a、3bの接合部の大きさに対して十分な領域の平面を有し、熱電対素線の位置合わせ、仮押さえのためのテーブルの役目も兼ねる。電極11aは、上方から熱電対素線3a、3b(接触部9)を挟み込む。電極11aは、側面の少なくとも一部にテーパ部13(幅狭部)が形成される。すなわち、電極11aは先端が先端部に向かって徐々に縮径する。尚、本発明において、縮径するとは、単に直径を意味するのではなく、電極の特定方向における幅が縮小することを意味するものとする。なお、電極11aにおける熱電対素線3a、3bの矩形の2辺の両端に円弧の一部を組み合わせた形状をした挟持面(熱電対素線3a、3bとの接触面であって図中下面)は、電極11bに対して略平行であり、電極11bの挟持面よりも面積が小さい。電極11aの挟持面の狭幅方向の長さは、熱電対素線3a、3bの接続部の大きさ(溶接後の測温部の幅方向の大きさに略相当)の10倍以下であることが望ましく、更に望ましくは5倍以下である。電極11aの挟持面の面積が広すぎると、電流が接合部以外に分散して流れてしまい、また、熱電対素線のセッティングの状態、接触部および溶接部の位置合わせ、通電時放電状態、および溶接状態の視認性が悪くなるためである。
【0040】
熱電対素線として0.13mmφのものを接合する際には、電極11aとしては、例えば4mmφ程度の円柱状素材を用いた棒状電極で、例えば、挟持面がテーパ部13により徐々に縮径して構成され、挟持面の幅は1.5〜2.5mm程度とすればよい。すなわち、電極11aの先端部の幅は、電極11aの基部における直径の35〜65%程度とすれば良い。ここで、テーパ部13は対向して対称に同一形状で形成されることが望ましいが、対向する2つのテーパのテーパ角度が異なって形成されても良い。この場合には、電極11aの基部の形状も対象となるため、熱電対素線のセッティング時の位置合わせがしやすいが、テーパ角度を異なって形成して、電極11aの基部の形状を、後述する図6のように非対称に形成しても良い。
【0041】
電極11aの端縁部の少なくとも一部(挟持面と側面との縁部の少なくとも一部)には、逃げ部15が形成される。逃げ部15は、断面円弧状のR形状を有する部位である。すなわち、逃げ部15では、挟持面と側面とがなだらかに接続される。なお、逃げ部は例えば0.5mm程度の曲率半径程度であれば良い。
【0042】
なお、熱電対素線3a、3bを電極11a、11bで挟み込む際には、接触部9が電極11a(挟持面)の略中央に来るように設置し、さらに、熱電対素線3a、3bの挟持部への挿入方向が逃げ部15側となるように配置する。すなわち、熱電対素線3a、3bの根本側(図中右側であって、先端側とは逆側)が位置する電極11aの端縁部(電極11aの図中右側)には逃げ部15が形成される。熱電対素線3a、3bは、なだらかな端縁部である逃げ部15と接触するため、集中電流によって熱電対素線3a、3bが断線することを防止することができる。
【0043】
電極11a、11bは、熱電対素線3a、3bを挟み込んだ状態で、熱電対素線3a、3bを押しつぶす方向(図中矢印A方向)に連続的に荷重が負荷される。たとえば、電極11aまたは電極11bの後方にばねを配置して、ばねによって荷重を付加してもよい。荷重としては、例えば2kgf程度である。
【0044】
図4は、電極11a、11bに流される電流を示す概念図である。電極11a、11bの間に挟まれる熱電対素線3a、3b(接触部9)には、複数回のパルス電流が流される。パルス電流としては、例えば、50Hzの交流の1Hz分をパルス電流発生用の電力としてコンデンサ等に蓄電し、コンデンサに蓄積された電力の1Hz分の一部の電力を取り出してパルス電流として取り出して供給することにより発生させればよい。この場合、例えば1パルスの通電時間は1/50秒以下となる。
【0045】
電極11a、11b間に通電されるパルス電流は、低電流側から徐々に段階的に電流が上げられて複数回負荷される。パルス電流の段階としては、溶接機の最大電流を略10等分して、10段階に電流を変化させるようにしてもよく、または、さらに細かく段階を変化させるようにしてもよい。
たとえば、図4(a)のように、最大電流の450Aの溶接機に対して、1段階(図中S1)を3Aとし、段階1(3A)から段階n(図中Sn)(3nA)までのパルス電流を流しても良いが、通常は、図4(b)のように、各段階において複数回ずつパルス電流を流すこともできる。また、上記の図4(a)、図4(b)を複合することもでき、パルス電流を電流値の各段階において少なくとも1回以上通電することができる。
【0046】
通電条件としては、熱電対素線の材質や線径等に応じて適宜設定されるが、例えば、0.2mmφのアルメル−クロメル線を用いた場合には、電流値が100ボルト商用電源の電極短絡時実効450Aの通電量に対して、サイリスタ位相制御方式の1サイクルを100%とした場合の40%レベルの通電量以上では溶断するため、電流値を最大電流の10%レベルの第1段階から最大電流の35%レベルの第4段階までに設定して、所定時間段階的に複数回づつ流して、熱電対素線の溶接状況を確認しながら溶接を行う。この場合、必要に応じて、段階5(最大電流の40%レベル)の電流を繰り返し2〜3回流して完全に溶接を行ってもよい。ここで、サイリスタ位相制御方式での通電は、最大電流値に対する電流調整つまみの目盛り位置と電流の大きさの関係は必ずしも直線状にはならない。また、溶接時の電流値は当然、溶接する素線径よっても異なる。
【0047】
そこで、例えば0.13mmφのアルメル−クロメル線を用いる場合には、電流値が25%レベル以上では溶断するため、それより、低い電流値で溶接するが、溶接機の最大電流の約20%をこの場合の最大電流値に設定して、例えば、電流値を最大電流の10%レベルの第1段階から最大電流の20%レベルの第4段階に分けて、段階的に複数回づつ流して、熱電対素線の溶接状況を確認しながら溶接を行う。
【0048】
このように、段階的にパルス電流を付与する理由は以下のとおりである。通常、電極間へ通電すると、熱電対素線の抵抗によってジュール熱が発生する。この熱によって熱電対素線が溶融して接合される。ここで、通電を連続して行うと、熱電対素線の温度が急激に上昇し、溶融が一気に進行する。このため、溶断の恐れがあり、また、広範囲にわたって溶融部が形成されることとなる。
【0049】
一方、パルス電流とすることで、熱電対素線が完全に溶融するだけの熱量が生じないように、1パルスごとの電流を付与することで、溶接状態をより細かく制御することが可能である。この際、電流を徐々に上げることで、予熱段階〜仮止め段階〜一部溶融段階〜完全溶接段階までを、1または複数の段階に分けて制御することも可能である。このため、一気に溶融部が形成されず、溶断の恐れもない。また、溶融を段階的に行うため、溶融範囲が過剰に大きくなったり、溶融形状が制御できなくなることを防止できる。
【0050】
たとえば、図4において、S1の通電により熱電対素線の余熱がおこなわれ、S2において熱電対素線の表面のみが溶融して仮止めがなされ、Snにおいて熱電対素線の部分溶接または全断面の溶接が行われるように制御することができる。このようなパルス電流条件は、あらかじめ、使用する熱電対素線等に対して実験等で定めておき、製造時には、溶接状態を見ながらパルス電流の付与条件を調整すれば良い。この際、電流がパルスであるため、過剰な発熱を防止することができる。
【0051】
なお、前述の通り、パルス電流が付与される際にも、電極11a、11b間には連続して荷重が付与される。したがって、熱電対素線3a、3bの一部が溶融され始めると、溶融部が押しつぶされる。
【0052】
図5は、熱電対素線3a、3bの溶接が完了した状態を示す図であり、図5(a)は平面図(電極11a透視図)、図5(b)は正面図である。溶接が完了すると、測温部5の先端の余長部16は除去される。図5(b)は余長部16が除去された状態を示す図である。
【0053】
熱電対素線3a、3bの接触部は、パルス電流により徐々に溶融しながら電極11a、11bによって押しつぶされる。したがって、電極11a、11b間の間隙は、熱電対素線3a(3b)の線径の2倍程度から、徐々に狭くなる。一方、電極11a、11b間の厚みは、熱電対素線3a(3b)の線径よりも狭くならないように制御される。たとえば、熱電対素線の線径と略同厚さの絶縁性スペーサを電極11a、11b間に設置しておき、それ以上は電極間の距離が狭くならないように制限される。
【0054】
したがって、図5(b)に示すように、溶接された測温部5の厚さTは、熱電対素線3a(3b)の線径と略同一である。なお、測温部5の幅Wおよび長さLは、熱電対素線3a(3b)の線径の2倍程度とする。大きくしすぎると、微小な被測温部への設置が困難となるためである。以上の方法により、熱電対1が形成される。
【0055】
図6は、電極11a、11b間へ設置する際の、熱電対素線3a、3b同士の接触方法の他の形態を示す図である。前述したように、X字状に接触させる方法に代えて、図6(a)に示すように、電極11a、11bの挟持方向に対して垂直な方向に熱電対素線3a、3bの側面同士をI字状に併設して接触させて接触部9を形成してもよい。
【0056】
また、図6(b)に示すように、電極11a、11bの挟持方向に対して垂直な方向に併設し、熱電対素線3a、3bの端面同士を突き合わせて接触させ略C字状とし、接触部9を形成してもよい。図6(a)、図6(b)の場合、それぞれ熱電対素線3a(3b)の側面あるいは端面を突き合わせて接触させるが、上下に対向させないため、溶接後の接点の高さは素線径よりも低く、溶接部は加圧力により平面部形状を矩形状にすることができ、このときの断面形状は、断面の側面中央が僅かに外側に広がった形状の断面となる。また、図示しないが、図6(a)、図6(b)のように位置合わせを行なうことは、X字型溶接の場合と比較して、位置合わせが難しいため、先端部の位置部を仮止め溶接するとか、軽く捻り接触させた後に溶接したりすることもできる。これらの場合においても測温部平面を矩形状にすることができる。以上のように、接触面双方が溶融して素線径より若干薄い接点となるが、これらの場合にも同様の溶接接点が形成できる。さらに、C型接触の場合でも、先端を極僅かに潰して、潰した部分を重ねて溶接することも可能である。この場合でも、平面部が略矩形状である溶接接点が得られる。なお、熱電対素線の端部を重ねて溶接する場合には、重ねられる熱電対素線が完全に同一線上に重ねられなくてもよく、それぞれの軸線方向が多少の角度となるように重ねられてもよい。
【0057】
次に、熱電対の使用方法について説明する。図7は、電子部品17aを示す図であり、図7(a)は平面図、図7(b)は正面図である。電子部品17aは、いわゆるQFP(Quad Flat Package)であり、四方に複数の接続端子19が形成される。接続端子19は、基板等に対してそれぞれ半田接合される。ここで、接続端子19の幅w1としては、例えば、0.2〜0.25mm程度である。
【0058】
図7(c)は図7(b)のB部拡大図である。熱電対1は、半田温度を計測、制御するため、例えば接続端子19に直接設置される。被測温部23(接続端子19の測温対象部位)上には、測温部5の平面部が接触するように配置され、固定部材21で被覆固定される。固定部材21としては、耐熱接着テープ、ペースト状の樹脂やAgペーストなどが用いられる。固定部材21としては、測定時に熱電対を固定でき、また、容易に熱電対が撤去でき、雰囲気温度等の影響を抑制することができればよい。
【0059】
測温部5は、熱電対素線3a(3b)の線径の2倍程度の幅(長さ)であるため、例えば、0.08〜0,13mmφの熱電対素線を用いれば、概ね0.16〜0.26mm程度の大きさである。したがって、微細な接続端子19上にも設置が可能であり、隣り合う他の接続端子等に短絡することもない。
【0060】
図8は、同様にBGA(Ball Grid Array)である電子部品17bを示す図である。電子部品17bの下面には、複数の半田ボール25が形成される。半田ボール25の幅w2は、0.2〜0.3mm程度である。したがって、このような半田ボール25に対しても、熱電対1の測温部5は十分に小さく、確実に測温することができる。
【0061】
以上、本実施の形態によれば、平面が形成される微小な測温部を有する熱電対を容易に得ることができる。また、溶接と押しつぶしを同時に行うため、工程が簡潔であり、パルス電流による溶接と相まって、測温部5を極めて微小に形成することができる。また、確実に平面部を有する測温部を形成可能である。
【0062】
測温部5は、厚さが熱電対素線と略同等であるため、被測温部に設置した際に、測温部の浮き上がりがない。また、測温部は微小であるため熱容量も小さく、さらに面接触するために、熱の応答性に優れ、固定部材等により容易に被覆することができるため、雰囲気の影響も受けにくい。このため、従来の熱電対精度(±2℃)に対して±1℃程度の高精度な測温が可能である。
【0063】
また。電極の先端が縮径するように形成されることで、被溶接部位への通電を最小限に抑え、さらに、被接合部である熱電対素線との接触部に逃げ部を形成することで、集中電流の流れ込みを抑制することができる。このため、熱電対素線の溶断等を防止することができる。
【0064】
また、電極先端が縮径するため、熱電対素線の溶接状態を容易に視認できる。このため、例えば、熱電対素線の余長部等を目視で確認しながら、パルス電流を通電し、余長部が動いた時点を溶接時と判断することもできる。
【0065】
以上のように、微細かつ平面を有する測温部によって、微細な電子部品の半田条件(温度)をより正確に把握することができ、温度条件による電子部品の半田不良等を防止することができる。特に、加圧しながらパルス電流を負荷するため測温部の体積および形状の制御が容易であり、また、測温部の平面が略矩形であるため、測温部と被測温部との接触面積が同一であれば、円形に対して、測温部の全幅(全長)を小さくすることができ、より微細な被測温部に対応可能である。
【0066】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0067】
たとえば、パルス電流の各段階は、常に一定電流幅で上昇させる必要はなく、段階ごとに上げ幅を変化させてもよい。また、所定段階において、同一電流値で複数回のパルス電流を付与してもよい。一定電流を連続して流す場合と比較して、パルス電流とすることで、急激な加熱および溶融を防止することができ、溶融状態を制御することができる。なお、本発明は、Kタイプ熱電対のみならず、他の種類であるEタイプやJタイプ、Tタイプなどいずれの熱電対の種類にも適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0068】
1………熱電対
3a、3b………熱電対素線
5………測温部
7………被覆部
9………接触部
11a、11b………電極
13………テーパ部
15………逃げ部
16………余長部
17a、17b………電子部品
19………接続端子
21………固定部材
23………被測温部
25………半田ボール
30………熱電対
31a、31b………熱電対素線
33………測温部
35………固定部材
37………被測温部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測温部に平面部を有する熱電対の製造方法であって、
一対の熱電対素線の先端近傍を接触させ、
前記熱電対素線同士の接触部を一対の電極で挟み込み、
前記一対の電極によって前記接触部に荷重を負荷しつつ、前記一対の電極の間にパルス電流を複数回通電し、前記接触部を加圧しながら溶接することを特徴とする熱電対の製造方法。
【請求項2】
前記パルス電流は、段階的に電流値が高くなるように各段階で一パルス以上の電流を複数段階通電することを特徴とする請求項1記載の熱電対の製造方法。
【請求項3】
前記パルス電流の最終段階前の段階において、前記接触部を仮止めし、前記パルス電流の最終段階において前記接触部における全断面を溶接することを特徴とする請求項2記載の熱電対の製造方法。
【請求項4】
前記接触部に荷重を負荷する前記一対の電極の間の間隙が、前記熱電対素線の線径と略同等よりも狭くならないように制御されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱電対の製造方法。
【請求項5】
前記一対の熱電対素線を、前記一対の電極の挟持方向に対して略垂直な方向に併設して接触させ、前記接触部に荷重を負荷する前記一対の電極の間の間隙が前記熱電対素線の線径よりも狭くなるように制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱電対の製造方法。
【請求項6】
前記一対の電極の一方の側の電極は、前記接触部に対して十分に広い平面部を有する平面電極であり、他方の側の電極の少なくとも一方の側面は、先端に行くにつれて幅狭状となるように形成されており、前記他方の側の電極の端縁部の少なくとも一部には断面曲線状の逃げ部が形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の熱電対の製造方法。
【請求項7】
前記熱電対素線を前記一対の電極に挟みこむ際に、前記熱電対素線が前記逃げ部に位置するように、前記接触部を前記一対の電極の間に配置することを特徴とする請求項6記載の熱電対の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の熱電対の製造方法を用いて製造され、測温部に平面部を有することを特徴とする熱電対。
【請求項9】
前記熱電対の測温部の厚さが熱電対素線の線径と略同じであり、前記測温部の幅が、前記熱電対素線の線径の2倍以下であることを特徴とする請求項8記載の熱電対。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−232232(P2011−232232A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103862(P2010−103862)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(509257972)日本テクノビジョン株式会社 (2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)