説明

熱音響機関

【課題】自励発振を起こすことができない程度の低温熱源をも回生することができ、さらには温度の異なる熱源であっても回生することが可能な熱音響機関を提供する。
【解決手段】ループ管1に、熱エネルギをループ管1内の音響エネルギに変換する原動機2が設けられた熱音響機関において、ループ管1に、原動機2で自励発振した進行波の音響強度を増幅するための増幅用原動機6を配置してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自励発振を起こすことができない程度の低温熱源をも回生することができ、さらには温度の異なる熱源であっても回生することが可能な熱音響機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃熱からエネルギを取り出すためにスターリングエンジンの開発研究が活発に行われている。スターリングエンジンの形式には、α型、β型、γ型、フリーピストン型などがある。これに対し、最近では、ピストン等の可動部を有さない熱音響機関の開発研究が活発に行われるようになった。
【0003】
熱音響機関は、管と熱源で構成される。管内の気柱を局部的に加熱又は冷却すると、熱エネルギの一部が力学的エネルギに変換され、気柱が自励振動を起こす。すなわち、管内に音響振動が発生する。この作用は、熱力学的には、プライムムーバ(原動機)と見ることができる。この作用を用いたものが熱音響機関である。この熱音響機関に、気柱の振動を熱エネルギに変換する受動機(冷凍機、冷却器)を組み込むと、冷凍装置(冷却装置)が構成される。
【0004】
図3に示した熱音響機関31は、ループ管1に薄板や細管を束ねたスタックからなる原動機2を取り付けたものである。原動機2は、高温部3と再生部4と低温部5とから構成される。この熱音響機関31に図示しない受動機を組み込むと、冷凍装置となる。
【0005】
原動機2が高温部3と再生部4と低温部5とから構成されるのと同様に、受動機も高温部と再生部と低温部とから構成される。受動機の高温部を基準温度とすると、原動機2から伝搬した音響エネルギが熱エネルギに変換される際に、低温部の温度が低下する。
【0006】
熱音響機関31は、建造物や移動体において居室の冷房装置や物品の冷蔵・冷凍装置に応用される。例えば、熱音響機関31を車両に搭載する場合、原動機2においてエンジンの排気熱を高温源として高温部3に供給し、大気を低温源として低温部5に供給すると共に、受動機において大気を高温源として高温部に供給することで、受動機の低温部から大気より低い温度の冷熱出力を取り出すことができる。この冷熱出力を用いて、例えば、車両に搭載された各種クーラ(例えば、車室冷房用クーラ、オイルクーラ、キャニスタなど)を機能させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3050543号公報
【特許文献2】特開2006−149176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、熱音響機関31において原動機2で自励発振を発生させるには、低温部5に供給する低温源を大気とした場合、高温部3に供給する高温源として300℃程度の熱源が必要となる。そのため、熱音響機関31を車両に適用する場合、エンジンの排気熱により加熱するしかなく、例えば、100℃以下である冷却水廃熱では熱音響機関31を自励発振させることができず、冷却水廃熱を熱音響機関31で利用することができなかった。すなわち、自励発振を起こすことができない程度の低温熱源は、熱音響機関31では回生できないという問題がある。
【0009】
したがって、自励発振を起こすことができない程度の低温熱源をも回生することができ、さらには、温度の異なる熱源であっても回生することが可能な熱音響機関が望まれている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、自励発振を起こすことができない程度の低温熱源をも回生することができ、さらには温度の異なる熱源であっても回生することが可能な熱音響機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、ループ管に、熱エネルギをループ管内の音響エネルギに変換する原動機が設けられた熱音響機関において、前記ループ管に、前記原動機で自励発振した進行波の音響強度を増幅するための増幅用原動機を配置してなる熱音響機関である。
【0012】
前記増幅用原動機の高温部に、自励発振を起こすことができない程度の低温熱源を供給してもよい。
【0013】
前記増幅用原動機は、前記ループ管の前記原動機が配置された位置の対向位置に配置されてもよい。
【0014】
前記原動機の高温源として、車両の排気熱を用い、前記増幅用原動機の高温源として、前記車両のラジエータを通過する前の冷却水の廃熱を用いてもよい。
【0015】
前記ループ管に所定の長さの共鳴管を設けてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自励発振を起こすことができない程度の低温熱源をも回生することができ、さらには温度の異なる熱源であっても回生することが可能な熱音響機関を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る熱音響機関の構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る熱音響機関の構成図である。
【図3】従来の熱音響機関の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る熱音響機関の構成図である。
【0020】
図1に示すように、熱音響機関11は、所定の気体(作業ガス)を封入したループ管1に、熱エネルギをループ管1内の音響エネルギに変換する原動機2が設けられた熱音響機関11において、ループ管1に、原動機2で自励発振した進行波の音響強度を増幅するための増幅用原動機6を配置したものである。
【0021】
原動機2は、薄板や細管を束ねたスタックからなり、高温部3と再生部4と低温部5とから構成される。増幅用原動機6は、原動機2と同様に、薄板や細管を束ねたスタックからなり、高温部7と再生部8と低温部9とから構成される。つまり、熱音響機関11は、2つのスタック(原動機2と増幅用原動機6)を1つのループ管1に配置したものである。スタックの詳しい構造については、従来技術に属するので、ここでは省略する。
【0022】
増幅用原動機6は、ループ管1の原動機2が配置された位置の対向位置に配置されることが望ましい。換言すれば、原動機2と増幅用原動機6は、ループ管1におけるループ長の1/2ずつに区切る2箇所に配置されることが望ましい。
【0023】
熱音響機関11は、例えば、車両に搭載される。熱音響機関11が車両に搭載される場合、原動機2の高温部3には、エンジンの排気熱が高温源として供給され、低温部5には大気が低温源として供給される。
【0024】
増幅用原動機6の高温部7には、自励発振を起こすことができない程度の低温熱源、例えば、100℃以下であるラジエータ通過前のエンジンの冷却水が高温源として供給される。増幅用原動機6の低温部9には、原動機2と同様に、大気が低温源として供給される。
【0025】
増幅用原動機6は、その高温部7が原動機2の低温部5側、その低温部9が原動機2の高温部3側となるようにループ管1内に配置される。すなわち、増幅用原動機6は、原動機2で発生した進行波に対して、増幅用原動機6内に形成される温度勾配が正の温度勾配となるように(原動機2で発生した進行波が増幅用原動機6の低温部9側から入力され、高温部7側から出力されるように)される。
【0026】
本実施の形態の作用を説明する。
【0027】
熱音響機関11では、原動機2の高温部3に高温源としてのエンジンの排気熱が供給されると、熱エネルギの一部が力学的エネルギに変換され、ループ管1内に自励発振(音響振動)が発生する。この自励発振に伴い、ループ管1内には進行波が発生する。原動機2で発生した進行波はループ管1内を周回する。
【0028】
原動機2で発生した進行波が増幅用原動機6を通過すると、進行波が増幅用原動機6内の温度勾配(正の温度勾配)の影響を受け、進行波の音響強度が増幅される。なお、進行波が正の温度勾配を有するスタックを通過すると音響強度が増幅されることは実験的に確認されている。
【0029】
このように、増幅用原動機6では、その高温部7に自励発振を起こすことができない程度の低温熱源が供給されるため、自身で自励発振を発生させることはできないものの、原動機2での自励発振により発生した進行波の音響強度を増幅させることができる。
【0030】
つまり、熱音響機関11では、高温のエンジンの排気熱が供給される高温熱源側の原動機2で作動(自励発振)させ、100℃以下の冷却水が供給される低温熱源側の増幅用原動機6でさらにループ管1内の音響強度を増幅させる。
【0031】
以上説明したように、本実施の形態に係る熱音響機関11では、ループ管1に、原動機2で自励発振した進行波の音響強度を増幅するための増幅用原動機6を配置している。
【0032】
これにより、単独では自励発振を起こすことができない程度の低温熱源の熱エネルギであっても、増幅用原動機6により回生することが可能となる。なお、実験においては、手の平の温度程度でも音響強度を増幅できることが確認されている。
【0033】
また、増幅用原動機6をループ管1に配置することによって、温度の異なる熱源であっても、それらの熱エネルギを1つの熱音響機関11で回生することが可能となる。
【0034】
さらには、増幅用原動機6をループ管1に配置して、低温熱源(ここでは、冷却水の廃熱)も利用することによって、原動機2のみで作動させた場合(排気熱のみで作動させた場合)よりも、熱音響機関11の音響強度を増加させることが可能となる。
【0035】
上記実施の形態では、ループ管1に共鳴管(枝管)を設けなかったが、より出力(音響強度)を向上させるためには、図2に示す熱音響機関21のように、ループ管1に適当な長さの共鳴管(枝管)22を取り付けることが望ましい。共鳴管22の反対端は開放してもよく閉鎖してもよいが、開放か閉鎖かで発振周波数が異なる。共鳴管22の位置や長さは発振周波数に関係するため、発振周波数を考慮して決定するようにすればよい。共鳴管22を設けることにより、自励発振が起こりやすくなり、発振開始温度(原動機2における高温部3と低温部5の温度差)を低くすることができる。
【0036】
また、上記実施の形態では、増幅用原動機6の高温部7に、自励発振を起こすことができない程度の低温熱源を供給したが、自励発振を発生させることが可能な高温熱源を供給するようにしても、同様の効果が得られる。
【0037】
さらに、上記実施の形態では、ループ管1に増幅用原動機6を1つ設ける場合を説明したが、これに限らず、増幅用原動機6を2つ以上設けるようにしてもよい。
【0038】
また、上記実施の形態では、受動機について述べなかったが、ループ管1に受動機を配置して冷凍機として使用するようにしてもよい。この場合、受動機の高温部に大気を高温源として供給し、受動機の低温部から大気より低い温度の冷熱出力を取り出すようにすればよい。
【0039】
本発明の熱音響機関11,21は、例えば車両に搭載され、当該車両に搭載された各種クーラ(例えば、車室冷房用クーラ、オイルクーラ、キャニスタなど)などを機能させるために用いられる。
【符号の説明】
【0040】
1 ループ管
2 原動機
3,7 高温部
4,8 再生部
5,9 低温部
6 増幅用原動機
11 熱音響機関

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループ管に、熱エネルギをループ管内の音響エネルギに変換する原動機が設けられた熱音響機関において、
前記ループ管に、前記原動機で自励発振した進行波の音響強度を増幅するための増幅用原動機を配置してなることを特徴とする熱音響機関。
【請求項2】
前記増幅用原動機の高温部に、自励発振を起こすことができない程度の低温熱源を供給する請求項1記載の熱音響機関。
【請求項3】
前記増幅用原動機は、前記ループ管の前記原動機が配置された位置の対向位置に配置される請求項1または2記載の熱音響機関。
【請求項4】
前記原動機の高温源として、車両の排気熱を用い、前記増幅用原動機の高温源として、前記車両のラジエータを通過する前の冷却水の廃熱を用いる請求項1〜3いずれかに記載の熱音響機関。
【請求項5】
前記ループ管に所定の長さの共鳴管を設けた請求項1〜4いずれかに記載の熱音響機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−261688(P2010−261688A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114884(P2009−114884)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)