説明

熱音響発電装置

【課題】質量流束の抑制と発電機能を併せ持ち、簡単な構造で装置の出力を一層向上できる電場応答性高分子膜を用いた熱音響発電装置を提供する。
【解決手段】作動流体を充填する環状中空円筒管10内に、原動機11と電場応答性高分子膜15を少なくとも一つ配置し、環状中空円筒管10に開閉弁21a、21bを介して加圧気体を供給する供給装置20を接続して構成する。環状中空円筒管10内に電場応答性高分子膜15にて隔てられた空間が存在する場合は、それざれの空間に開閉弁を介して加圧気体を供給する供給装置を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱音響発電装置に係り、特に振動発電部に電場応答性高分子を用いた熱音響発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場等の産業プロセスで発生し、外部に排出されてしまう廃熱の温度は、殆どは200℃以下である。この低温の廃熱の殆どは、低温であるがために利用されないまま捨てられているのが現状である。
【0003】
廃熱の利用例としては、シリンダーとピストンとを組み合せ、シリンダーの両端に温度差を作ってピストンを動かすスターリングエンジンが知られている。このスターリングエンジンを利用した発電装置は、廃熱を利用できる利点はあるが、製造費用が高くなってしまい、また500℃以上の温度差が必要な場合が多い。
【0004】
また、低温の廃熱を利用した発電の例としては、熱エネルギーを音響エネルギーに変換する熱音響エンジンと、音響エネルギーを電気エネルギーに変換する振動発電デバイスとを組み合わせた熱音響発電装置が知られている。その振動発電デバイスには、振動等が加わると電圧が発生する圧電素子(別名ピエゾ素子)や小型で高出力にできるリニア発電機が用いられている。
【0005】
振動発電が可能な媒体として、近年電場応答性高分子が注目を集めている。例えば特許文献1には、電場応答性高分子を用いた発電装置が記載されている。この発電装置は、アクリル系樹脂やシリコーン系樹脂等の高分子膜の両面に電極を配置した電場応答性高分子を用い、電場応答性高分子に波力や水力や風力等の外部的圧力を加えて変形させ、変形状態に応じた電気エネルギーを取り出して発電する。
【0006】
また特許文献2には、内燃機関の排気ガスを有効に活用する熱音響発電装置が記載されている。この熱音響発電装置は、ヘリウムやアルゴン等の作動流体が充填された環状の密封中空管内に、作動流体が通過可能な蓄熱器と、この蓄熱器の一面側に内燃機関の排気ガスで作動流体を加熱する高温側熱交換器、及び蓄熱器の他面側に冷却水を循環させて作動流体を冷却するための低温側熱交換器を設けている。しかも、密封中空管に連なる中空延長部を設けており、中空延長部の先端に音波−電気変換器を配置し、密封中空管で生じた音波を用いて発電する。
【0007】
更に特許文献3には、質量流束を抑制する熱音響装置が記載されている。質量流束は、環状中空管内を循環する熱流であり、熱損失の一員である。この質量流束を抑制するため、環状中空管内に柔軟性ある膜で形成した質量流束制限器を配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−141840号公報
【特許文献2】特開2006−144746号公報
【特許文献3】特表2002−535597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載の電場応答性高分子を用いた発電装置では、電場応答性高分子を使用する振動発電部分の構造が不明確であるため、特許文献2に記載されているような熱音響発電装置の電源部として簡単に適用できない問題がある。
【0010】
また、特許文献3に記載の質量流束を抑制する機構を持つ熱音響装置では、質量流束制限器の追加による部品点数の増加と製造コストの上昇は避けられなくなる。
【0011】
本発明の目的は、質量流束の抑制と発電機能を併せ持つ簡単な構造の熱音響発電装置を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、簡単な構造で発電装置の出力を一層向上できる熱音響発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の熱音響発電装置は、作動流体を充填する環状中空円筒管内に、蓄熱器と、前記蓄熱器の一端面に配置する高温側熱交換器及び他端面に配置する低温側熱交換器とを備えてなる原動機を少なくとも一つ配置し、前記作動流体の自励振動にて駆動される振動発電部を有して構成する際に、前記振動発電部には電場応答性高分子膜を用いたことを特徴としている。
【0014】
好ましくは、前記環状中空円筒管には加圧気体供給系統を接続し、前記環状中空円筒管内に前記電場応答性高分子膜にて隔てられた空間が存在する場合は、それぞれの空間に開閉弁を介して加圧気体を供給する供給装置を接続して構成したことを特徴としている。
【0015】
また本発明の熱音響発電装置は、作動流体を充填する環状中空円筒管の一部にバッファタンクを取付けた直線中空延長管を接続し、前記環状中空円筒管内に、蓄熱器と、前記蓄熱器の一端面に配置する高温側熱交換器及び他端面に配置する低温側熱交換器とを備えてなる原動機を少なくとも一つ配置し、前記作動流体の自励振動にて駆動される振動発電部を有して構成する際に、前記バッファタンクと前記直線中空延長管の間に前記振動発電部となる電場応答性高分子膜を設け、前記電場応答性高分子膜にて区画された前記直線中空延長管側と前記バッファタンク側に、それぞれ開閉弁を介して加圧気体を供給する供給装置を接続して構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1の熱音響発電装置によれば、振動発電部に電場応答性高分子膜を用いたため、簡単な構造で管内を循環する質量流束を抑制して、熱損質を低減しながら発電することができる。
【0017】
また、請求項2及び3の熱音響発電装置によれば、作動流体封入空間が、電場応答性高分子膜によって隔てられている場合も、電場応答性高分子膜を破壊することなくヘリウムやアルゴン等の加圧気体を封入することが可能になるため、作動流体の封入圧力を高めて発電装置の出力を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例である熱音響発電装置を示す概略構成図である。
【図2】(a)から(c)は、本発明の熱音響発電装置の異なる例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の他の実施例である熱音響発電装置を示す概略構成図である。
【図4】本発明の別の実施例である熱音響発電装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の熱音響発電装置は、作動流体を充填する環状中空円筒管内に、蓄熱器と、この蓄熱器の一端面に配置する高温側熱交換器及び他端面に配置する低温側熱交換器とを備えてなる原動機を少なくとも一つ配置し、作動流体の自励振動にて駆動される振動発電部に電場応答性高分子膜を用いている。以下、本発明の熱音響発電装置について、図1から図4を用いて順に説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の熱音響発電装置は、図1に示すように左右の長辺部と上下の短辺部からなる環状中空円筒管10を用いている。この環状中空円筒管10の内部には、ヘリウムやアルゴン等の作動流体を封入する。また、環状中空円筒管10内の任意の箇所には、蓄熱器12と、この蓄熱器12の一端面に配置する高温側熱交換器13及び他端面に配置する低温側熱交換器14を組み合せた原動機11を配置している。
【0021】
その上、環状中空円筒管10の内部には、高分子膜の両面にそれぞれ伸縮可能な電極を設けた電場応答性高分子膜15を、温側熱交換器12の近傍に配置して振動発電部とし、各電極に接続したリード線(図示せず)で電力を取り出し、負荷に供給する。電場応答性高分子膜15は、音響エネルギーに応じて複数枚を積層して一体にして使用することでより多くの電力を取り出すことができる。
【0022】
蓄熱器12の一端を、高温側熱交換器13を介して工場排熱や温泉水や太陽光で加熱し、また蓄熱器12の他端を、低温側熱交換器14を介して冷却水等で一定温度を保持する。このようにすることで、蓄熱器12の両端の温度比を一定値以上にすれば、周知の如く作動流体が自励振動を起し、熱エネルギーから音響エネルギーに変換される。この音響エネルギーエネルギーで、振動発電部である電場応答性高分子膜15を振動させて電気エネルギーを得る。
【0023】
電場応答性高分子膜15を、高温側熱交換器13の近傍に配置しているため、高温側熱交換器13から蓄熱器12方向とは逆向きに流れる熱流である質量流束を抑制し、熱損失を低減することができる。
【0024】
また、図2(b)の如く低温熱源の利用及び音響エネルギーの増幅のため、環状中空円筒管10内の複数箇所に原動機11を配置した場合も、原動機11毎に電場応答性高分子膜15を複数箇所に配置することによって、質量流束を抑制し、熱損失を低減することができる。
【0025】
このように、環状中空円筒管10内に配置した原動機11で作動流体を自励振動させ、電場応答性高分子膜15で電力を発させるようにすると、簡単な構造で低温の熱源を利用して効率良く電力を発生させることができる。
【0026】
電場応答性高分子膜15を振動発電部に使用した熱音響発電装置は、図2(b)の如く原動機11を配置する環状中空円筒管10の一部に直線中空延長管10Aを設け、この直線中空延長管10A内に電場応答性高分子膜15を配置する、または図2(c)の如く直線中空延長管10Aの先端にベローズ16を設け、ベローズ16と外部に配置した電場応答性高分子膜15とを連結棒17にて結合等の種々な構成で利用できる。
【実施例2】
【0027】
本発明の熱音響発電装置の図3に示す例は、環状中空円筒管10に原動機11と電場応答性高分子膜15を、それぞれ二箇所に配置している。電場応答性高分子膜15で隔たれた環状中空円筒管10双方、即ち一方側に開閉弁21aを、また他方側に開閉弁21bを接続している。そして、これら二つの開閉弁21a、21bは、開閉弁22を介して供給装置20と接続し、開閉弁21a及び21bと開閉弁22との間に、開閉弁23及び真空ポンプVPを設けている。
【0028】
上記のように、電場応答性高分子膜15で隔たれた環状中空円筒管10双方を、同圧に保ちながら作動流体を封入することで、電場応答性高分子膜15の破壊を防止することができる。
【0029】
また、本発明の熱音響発電装置の図4に示す例は、原動機11を配置した環状中空円筒管10に、バッファシリンダ24を取り付けた直線中空延長管10Aを接続し、バッファシリンダ24と直線中空延長管10Aの間に電場応答性高分子膜15を配置したものである。そして、電場応答性高分子膜15を境にして、バッファタンク24側に開閉弁21aを、また直線中空延長管10A側に開閉弁21bを接続し、二つの開閉弁21a、21bは、開閉弁22を介して供給装置20と接続し、しかも開閉弁21a及び21bと開閉弁22との間に、上記と同様に開閉弁23及び真空ポンプVPを設けている。
【0030】
なお、図3及び図4に示す加圧気体供給系統には、開閉弁23及び真空ポンプVPを有する真空引き系統を備えているから、作動流体を封入する際には、供給装置20に連なる開閉弁22のみを閉じ、他の開閉弁21a、21b及び23を開き、真空ポンプVPを動作させた後、開閉弁23を閉じ供給装置20の開閉弁22を開き、供給装置20に保管された加圧ヘリウム等の作動流体を封入してから、全ての開閉弁を閉じて運転する。
【0031】
上記の図3及び図4に示した熱音響発電装置の如く構成すると、電場応答性高分子膜15を破壊せずに作動流体の圧力を高めることが可能になるため、発電装置の出力を一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0032】
10…環状中空円筒管、10A…直線中空延長管、11…原動機、12…蓄熱器、13…高温側熱交換器、14…低温側熱交換器、15…電場応答性高分子膜、20…供給装置、21、21a、21b、22、23…開閉弁、24…バッファタンク、VP…真空弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を充填する環状中空円筒管内に、蓄熱器と、前記蓄熱器の一端面に配置する高温側熱交換器及び他端面に配置する低温側熱交換器とを備えてなる原動機を少なくとも一つ配置し、前記作動流体の自励振動にて駆動される振動発電部を有する熱音響発電装置において、前記振動発電部には電場応答性高分子膜を少なくとも一つ用いて構成したことを特徴とする熱音響発電装置。
【請求項2】
請求項1において、前記環状中空円筒管には加圧気体供給系統を接続し、前記環状中空円筒管内に前記電場応答性高分子膜にて隔てられた空間が存在する場合は、それぞれの空間に開閉弁を介して加圧気体を供給する供給装置を接続して構成したことを特徴とする熱音響発電装置。
【請求項3】
作動流体を充填する環状中空円筒管の一部にバッファタンクを取付けた直線中空延長管を接続し、前記環状中空円筒管内に、蓄熱器と、前記蓄熱器の一端面に配置する高温側熱交換器及び他端面に配置する低温側熱交換器とを備えてなる原動機を少なくとも一つ配置し、前記作動流体の自励振動にて駆動される振動発電部を有する熱音響発電装置において、前記バッファタンクと前記直線中空延長管の間に前記振動発電部となる電場応答性高分子膜を設け、前記電場応答性高分子膜にて区画された前記直線中空延長管側と前記バッファタンク側に、それぞれ開閉弁を介して加圧気体を供給する供給装置を接続して構成したことを特徴とする熱音響発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−239627(P2011−239627A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110937(P2010−110937)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)