説明

燃料用付臭剤

【課題】燃料ガス等への添加量が従来の付臭剤と同等量、或いは、それよりも少ない添加量で十分な感知効果が得られたまま、化学的安定性に優れ、凝固点の低い燃料ガス等用付臭剤を提供する。
【解決手段】有効成分として、メルカプタン類と脂肪族飽和炭化水素を含有することを特徴とする燃料用付臭剤を用いる。前記メルカプタン類がt−ブチルメルカプタンであり、前記脂肪族飽和炭化水素の炭素数がC5−C7であり、具体的にはn−ペンタン、イソヘキサン、n−ヘプタンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は常温でガスまたは液状の燃料に臭いを付けるための燃料用付臭剤に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス、都市ガス、工業用ガス、或いは、液化石油ガス等の燃料ガス等は臭気が極めて少ないので、これら燃料ガス等の漏洩による引火、爆発、或いは、中毒等の災害を未然に防止するための最も簡便な方法として、これらガス類にその漏洩を人間の嗅覚で容易に感知し得るように特有な臭気を有する化合物を付臭剤として添加することが行われている。
従来から、前記燃料ガスに添加する付臭剤として、メルカプタン類を単独で使用したり、メルカプタン類、スルフィド類及び不飽和炭化水素との混合物を使用したりしてきた。
しかし、一般的な付臭剤であるメルカプタン類、特にt−ブチルメルカプタンは、単独で使用すると、低温で凝固するため寒冷地などでは取り扱いが困難であるという問題点がある。また、メルカプタン類、スルフィド類は硫黄化合物であるため、燃料ガスの燃焼の際、これら硫黄化合物が亜硫酸ガス等となって大気中に飛散し、大気汚染物質となる問題点もある。
【0003】
そこで最近、低温でも凝固しないようにするとともに硫黄化合物を低減する目的で様々な手段が提案されており、例えば、特許文献1にはメルカプタン類とシクロヘキセンの混合物からなる付臭剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭2007−112969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記メルカプタン類とシクロヘキセンのような脂肪族不飽和炭化水素との混合物からなる付臭剤は、メルカプタン類とシクロヘキセンが反応を起こすため、化学的安定性が十分ではない。そこで、これら硫黄系付臭剤と同等量、或いは、それよりも少ない添加量で十分な感知効果が得られ、また、化学的安定性に優れ、凝固点が低い付臭剤の開発が求められている。
本発明は、前記問題点を解消し、燃料ガス等への添加量が従来の付臭剤と同等量、或いは、それよりも少ない添加量で十分な感知効果が得られ、また、化学的安定性に優れ、凝固点の低い燃料ガス等用の付臭剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究の結果、メルカプタン類に凝固点の低い脂肪族飽和炭化水素を混合すると、硫黄の含有量を増加させることなく、十分な臭気強度と化学的安定性を保持したまま、凝固点を下げることができることを知見した。
本発明の燃料用付臭剤は、前記知見に基づきなされたもので、請求項1記載の通り、有効成分として、メルカプタン類と脂肪族飽和炭化水素を含有することを特徴とする。
また、請求項2記載の燃料用付臭剤は、請求項1記載の燃料用付臭剤において、有効成分として、前記メルカプタン類と前記脂肪族飽和炭化水素を含有し、その混合比が重量比で90〜10:10〜90の範囲であることを特徴とする。
また、請求項3記載の燃料用付臭剤は、請求項1または2記載の燃料用付臭剤において、前記メルカプタン類がt−ブチルメルカプタンであることを特徴とする。
また、請求項4記載の燃料用付臭剤は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料用付臭剤において、前記脂肪族飽和炭化水素の炭素数がC5−C7であることを特徴とする。
また、請求項5記載の燃料用付臭剤は、請求項4記載の燃料用付臭剤において、前記脂肪族飽和炭化水素がn−ペンタンであることを特徴とする。
また、請求項6記載の燃料用付臭剤は、請求項4記載の燃料用付臭剤において、前記脂肪族飽和炭化水素がイソヘキサンであることを特徴とする。
また、請求項7記載の燃料用付臭剤は、請求項4記載の燃料用付臭剤において、前記脂肪族飽和炭化水素がn−ヘプタンであることを特徴とする。
また、請求項8記載の燃料用付臭剤は、請求項1記載の燃料用付臭剤において、前記メルカプタン類がt−ブチルメルカプタンであり、前記脂肪族飽和炭化水素がn−ペンタンであって、これらt−ブチルメルカプタンとn−ペンタンの混合比が重量比で35:65〜65:35であることを特徴とする。
また、請求項9記載の燃料用付臭剤は、請求項1記載の燃料用付臭剤において、前記メルカプタン類がt−ブチルメルカプタンであり、前記脂肪族飽和炭化水素がイソヘキサンであって、これらt−ブチルメルカプタンとイソヘキサンとの混合比が重量比で35:65〜65:35であることを特徴とする。
また、請求項10記載の燃料用付臭剤は、請求項1記載の燃料用付臭剤において、前記メルカプタン類がt−ブチルメルカプタンであり、前記脂肪族飽和炭化水素がn−ヘプタンであって、これらt−ブチルメルカプタンとn−ヘプタンとの混合比が重量比で35:65〜65:35であることを特徴とする。
また、請求項11記載の燃料用付臭剤は、請求項1乃至10の何れか1項に記載の燃料用付臭剤において、前記燃料用付臭剤の燃料が、都市ガス、液化天然ガス、工業用ガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル、水素ガス、燃料電池用ガス、ガソリン、ナフサ及び灯油の何れかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メルカプタン類に脂肪族飽和炭化水素を混合しても反応が起こらないので、化学的安定性に優れ、燃料ガス等に添加しても安定で、貯蔵安定性もよい。メルカプタン類に凝固点の低い脂肪族飽和炭化水素を含有させることから、凝固点が下がるので、低温環境下でも容易に使用できる。従来のメルカプタン類及びスルフィド類を混合した付臭剤と比較して、硫黄含有量が少なく、燃焼時の亜硝酸ガスの発生を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の付臭剤の実施の形態について説明する。
本発明の燃料用付臭剤は、有効成分としてメルカプタン類と脂肪族飽和炭化水素を含有するものである。また、有効成分として、メルカプタン類と脂肪族飽和炭化水素を含有し、その混合比が重量比で90〜10:10〜90の範囲で配合することにより、化学的安定性に優れ、低温環境下でも取り扱うことができる燃料用付臭剤を得ることができる。
さらに、メルカプタン類と脂肪族飽和炭化水素を含有し、その混合比が重量比で35〜65:65〜35の範囲で配合することで、化学的安定性に優れ、低温環境下での取り扱いが容易である上に、従来の付臭剤と比較して、硫黄含有量が少なく、燃焼時の亜硫酸ガスの発生も低減できる燃料用付臭剤を得ることができる。
【0009】
メルカプタン類と脂肪族飽和炭化水素の配合比において、メルカプタン類が90重量%を超えると、低温で凝固しやすくなり、装置の保温等が必要となる。また、脂肪族飽和炭化水素が90重量%を超えると、臭いが認知されなくなり、付臭剤の役目を果たさなくなる。
【0010】
本発明におけるメルカプタン類の例としては、エチルメルカプタン、n−プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、セカンダリブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン(TBM)、n−ペンチルメルカプタン、2−ペンチルメルカプタン、3−ペンチルメルカプタン、2−メチルブチルメルカプタン、3−メチルブチルメルカプタン、1,1−ジメチルプロピルメルカプタン、2,2−ジメチルプロピルメルカプタン、1,2−ジメチルプロピルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、2−ヘキシルメルカプタン、3−ヘキシルメルカプタン、1−メチルペンチルメルカプタン、2−メチルペンチルメルカプタン、3−メチルペンチルメルカプタン、1−メチルペンチルメルカプタン、3−メチル−2−ペンチルメルカプタン、4−メチル−2−ペンチルメルカプタン、2−メチル−3−ペンチルメルカプタン、3−メチル−3−ペンチルメルカプタン、1,1−ジメチルブチルメルカプタン、2,2−ジメチルブチルメルカプタン、3,3−ジメチルブチルメルカプタン、1,2−ジメチルブチルメルカプタン、1,3−ジメチルブチルメルカプタン、2,3−ジメチルブチルメルカプタン、1,1,2−トリメチルプロピルメルカプタン、1,2,2−トリメチルプロピルメルカプタン、フルフリルメルカプタン等が挙げられる。その中でも臭質の点及び経済的な点から、t−ブチルメルカプタン(TBM)が好ましい。
【0011】
本発明における脂肪族飽和炭化水素の例としては、凝固点を下げるために、炭素数がC5〜C7のものが好ましい。具体的には、n−ペンタン、イソヘキサン、n−ヘプタンなどが好ましい。t−ブチルメルカプタン(TBM)と、n−ペンタン、イソヘキサン、n−ヘプタンのそれぞれとの混合比は、重量比で90:10〜10:90、好ましくは35:65〜65:35である。
燃料に対する付臭剤の添加割合は、付臭効果が発揮される範囲にあれば特に限定されるものではないが、液化石油ガスには10〜40重量ppm、その他のガスや液体燃料には、1〜5mg/Nmとすることが認知濃度として好ましい。
【0012】
本発明の燃料用付臭剤が適用される燃料ガスは特に限定されるものではないが、具体的には、都市ガス、液化天然ガス、工業用ガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル、水素ガス、燃料電池用ガス、ガソリン、ナフサ、灯油等が挙げられる。
【実施例】
【0013】
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明する。但し、本発明はこれら実施例のみに限られるものではない。
【0014】
実施例1
(1)試料の調製
本発明の実施例として、次のようにして試料1乃至10を調製した。
試料1は、t−ブチルメルカプタン(TBM)とイソヘキサンを重量比で90:10の割合で攪拌混合し、調製したものである。
試料2は、TBMとイソヘキサンを重量比で70:30の割合で攪拌混合し、調製したものである。
試料3は、TBMとイソヘキサンを重量比で50:50の割合で攪拌混合し、調製したものである。
試料4は、TBMとイソヘキサンを重量比で30:70の割合で攪拌混合し、調製したものである。
試料5は、TBMとイソヘキサンを重量比で10:90の割合で攪拌混合し、調製したものである。
試料6は、TBMとn−ヘプタンを重量比で90:10の割合で攪拌混合し、調製したものである。
試料7は、TBMとn−ヘプタンを重量比で70:30の割合で攪拌混合し、調製したものである。
試料8は、TBMとn−ヘプタンを重量比で50:50の割合で攪拌混合し、調製したものである。
試料9は、TBMとn−ヘプタンを重量比で30:70の割合で攪拌混合し、調製したものである。
試料10は、TBMとn−ヘプタンを重量比で10:90の割合で攪拌混合し、調製したものである。
【0015】
(2)感知濃度試験
上記調製した試料1乃至10の付臭剤の感知濃度を下記の試験方法により評価した。
(感知濃度試験)
表2に示す所定量の燃料に前記試料1乃至10の付臭剤を添加して、それぞれ、温度20〜25℃の無臭空気で置換した15mの無臭室内に注入する。この時、燃料は無臭空気で1000倍希釈されるように調製する(燃料濃度0.1vol%)。その後、室内を1分間程度攪拌して燃料濃度を均一化する。希釈された燃料の臭気を選定された6名のパネラーにより、下記の表1に示す6段階臭気強度表示法による臭気強度が2になった時点の無臭室内の濃度を感知濃度とする。
【0016】
【表1】

【0017】
燃料は液化石油ガス及び燃料ガスを用いて、感知濃度試験を行った。その結果を表2に示した。
【0018】
(3)化学的安定性試験
上記調製した試料1乃至10の付臭剤の化学的安定性を下記の試験方法により評価した。その結果を表2に示した。
(化学的安定性試験)
ネスラー管に付臭剤を30ml採取し、温度50℃で1週間加熱した後、ガスクロマトグラフィーで付臭剤の組成を測定し、加熱前後の付臭剤の組成変化の有無を調べた。ガスクロマトグラフィー上に新たなピークが検出されると、付臭剤が何らかの反応で別の化合物が生成されたものとして、化学的安定性が劣ると判断し、新たなピークが検出されなければ、付臭剤の組成に変化が全くないものとして、安定と判断した。
【0019】
(4)物性試験
上記調製した試料1乃至10の付臭剤の凝固点を−30℃のフリーザーで確認を行った。その結果を表2に示した。
【0020】
比較例1
(1)試料の調製
本発明の比較例として、次のようにして試料11及び12を調製した。
試料11は、TBMのみのものとした。
試料12は、TBMとシクロヘキセンを重量比で30:70の割合で攪拌混合し、調製したものである。
上記試料11及び12についても、前記同様に感知濃度試験、化学的安定性試験及び物性試験を行った。その結果を表2に示した。
【0021】
【表2】

【0022】
感知濃度試験について、試料の臭気強度が2となったときの各試料の濃度は、液化石油ガスに対して、試料1及び6では10重量ppm、試料2及び7では15重量ppm、試料3及び8では20重量ppm、試料4及び9では30重量ppm、試料5及び10では40重量ppmであった。試料11では10重量ppm、試料12では30ppmであった。これら濃度は基準値の範囲であり、試料1乃至10は使用可能であることが認められた。
また、燃料ガスに対して、試料1及び6では1.1mg/Nm、試料2及び7では1.5mg/Nm、試料3及び8では2.1mg/Nm、試料4及び9では2.9mg/Nm、試料5及び10では5mg/Nmであった。試料11では1.1mg/Nm、試料12では2.9mg/Nmであった。これら濃度は基準値の範囲であり、試料1乃至10は使用可能であることが認められた。
【0023】
化学的安定性について、化学的安定性が劣るものについては×とし、安定または良好なものについては○とした。試料12については、試料溶液の黄変が目視で確認され、また、ガスクロマトグラフィーで反応物が確認されたことから、化学的安定性に劣ることが確認された。試料1乃至11については、組成変化が見られず、安定であった。試料1乃至10について、TBMにイソヘキサンまたはn−ヘプタンを混合しても、化学的安定性が優れていた。
【0024】
試料1乃至10及び試料12の凝固点は−30℃以下であった。試料11のTBMのみからなる付臭剤の凝固点は1.1℃であった。試料1乃至10はTBMにイソヘキサンまたはn−ヘプタンを混合することにより凝固点が下がることが確認された。
【0025】
以上の試験結果より、メルカプタン類にイソヘキサンやn−ヘプタンのような脂肪族飽和炭化水素を混合した試料1乃至10の付臭剤は、従来の付臭強度を保ったまま、化学的に安定し、凝固点もTBMのみの試料と比較して、−30℃と低くなるので低温環境下での取り扱いが容易にできることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、有効成分としてメルカプタン類に飽和脂肪族炭化水素を含有する付臭剤であり、各種燃料に対する付臭剤をはじめとして広く産業上利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、メルカプタン類と脂肪族飽和炭化水素を含有することを特徴とする燃料用付臭剤。
【請求項2】
有効成分として、前記メルカプタン類と前記脂肪族飽和炭化水素を含有し、その混合比が重量比で90〜10:10〜90の範囲であることを特徴とする請求項1記載の燃料用付臭剤。
【請求項3】
前記メルカプタン類がt−ブチルメルカプタンであることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料用付臭剤。
【請求項4】
前記脂肪族飽和炭化水素の炭素数がC5−C7であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の燃料用付臭剤。
【請求項5】
前記脂肪族飽和炭化水素がn−ペンタンであることを特徴とする請求項4記載の燃料用付臭剤。
【請求項6】
前記脂肪族飽和炭化水素がイソヘキサンであることを特徴とする請求項4記載の燃料用付臭剤。
【請求項7】
前記脂肪族飽和炭化水素がn−ヘプタンであることを特徴とする請求項4記載の燃料用付臭剤。
【請求項8】
前記メルカプタン類がt−ブチルメルカプタンであり、前記脂肪族飽和炭化水素がn−ペンタンであって、これらt−ブチルメルカプタンとn−ペンタンとの混合比が重量比で35:65〜65:35であることを特徴とする請求項1記載の燃料用付臭剤。
【請求項9】
前記メルカプタン類がt−ブチルメルカプタンであり、前記脂肪族飽和炭化水素がイソヘキサンであって、これらt−ブチルメルカプタンとイソヘキサンとの混合比が重量比で35:65〜65:35であることを特徴とする請求項1記載の燃料用付臭剤。
【請求項10】
前記メルカプタン類がt−ブチルメルカプタンであり、前記脂肪族飽和炭化水素がn−ヘプタンであって、これらt−ブチルメルカプタンとn−ヘプタンとの混合比が重量比で35:65〜65:35であることを特徴とする請求項1記載の燃料用付臭剤。
【請求項11】
前記燃料用付臭剤の燃料が、都市ガス、液化天然ガス、工業用ガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル、水素ガス、燃料電池用ガス、ガソリン、ナフサ及び灯油の何れかであることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載の燃料用付臭剤。

【公開番号】特開2011−74158(P2011−74158A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225410(P2009−225410)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(390015853)理研香料工業株式会社 (11)