説明

燃料組成物

燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、この燃料組成物で作動しているか、または作動することが意図される内燃エンジンに存在する潤滑流体の酸性成分の蓄積速度を低減するための使用。フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分はまた、潤滑流体の酸化および/もしくはニトロ化速度を低減するため、エンジンにおいて酸誘発性エンジン摩耗速度を低減するため、ならびに/またはエンジンにおいて潤滑流体交換の頻度を低減するために用いることができる。燃料組成物は、好ましくはディーゼル燃料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン潤滑剤の酸蓄積速度を低減するための、燃料組成物におけるある種の燃料成分の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
可動部品間の摩擦を低減し、それによって可動部品の摩耗を低減するために、エンジンに潤滑流体を用いることが知られている。
【0003】
しかしながら、エンジンの使用中、潤滑剤の特性は経時的に、この性能が損なわれ、交換しなければならない程度まで徐々に劣化することがある。この潤滑剤の変質の多くは、燃焼室からサンプに送られる不純物によるものである。例えば、ススが潤滑剤に蓄積することがあり、それにつれて、流体がもはや有効に機能できなくなるまで、流体の粘度を増大させる。スス粒子は凝集し、研磨性となることもあり、これもエンジン摩耗の一因となる。
【0004】
潤滑剤は酸化によっても劣化することがある。これにより潤滑剤のカルボン酸含有量は増大する。加えて、エンジンからの窒素酸化物が、典型的に硝酸塩、ならびに硝酸および亜硝酸として、潤滑剤に溶解するにつれて、潤滑剤のニトロ化が起こることがあり、これも全体的な酸性度の上昇をもたらす。酸性成分は腐食性の傾向があり、従って、さらなるエンジン摩耗を引き起こすことがある。
【0005】
潤滑剤は典型的に、使用中に潤滑剤に蓄積する酸性成分を中和するように塩基「リザーバ(reservoir)」と共に製剤化されるが、急速過ぎる酸含有量の増加、または同様に急速過ぎる塩基含有量の減少は、エンジン腐食に影響を与える可能性があるため、明らかに望ましくない。
【0006】
さらに、酸化およびニトロ化はいずれもスラッジ前駆体生成物の形成をもたらすことがある。油の酸化は高度に粘性の凝集炭化水素を生じ、これは「スラッジ」として内部エンジン表面に付着し、油流量の低い領域に沈着することがある。これにより有効な油容量が低減し、結果として摩耗が増大する。従って、潤滑剤におけるスラッジの蓄積もこの性能を低下させ、潤滑剤交換の間隔を短縮する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジン潤滑剤の排出および交換は、コストがかかり、また時間を要することがある。従って、潤滑剤の劣化速度を低減し、それによって潤滑剤交換の間隔を増大できることが望ましい。また、エンジン自体を変える必要なしに、潤滑流体の性質にかかわりなく、これらの改善を達成できることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、内燃エンジンにおけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、この燃料成分またはこの成分を含有する燃料組成物で作動している間に、エンジンに存在する潤滑流体の酸性成分の蓄積速度を低減するための使用が提供される。
【0009】
第2の態様によれば、本発明は、燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、この燃料組成物で作動しているか、または作動することが意図される内燃エンジンに存在する潤滑流体の酸性成分の蓄積速度を低減するための使用を提供する。
【0010】
酸性成分は、特に潤滑流体の酸化および/またはニトロ化に由来するものであることができる。酸性成分は、例えば、カルボン酸、硝酸および亜硝酸、ならびにこれらの混合物から選択することができる。このような成分の「蓄積速度」は、潤滑流体においてこれらの濃度が変化する(上昇する)速度である。場合によって、本発明は、スス、例えば不完全燃焼によって形成されたススに存在するもの以外の酸性成分の蓄積速度を低減するために用いられる。
【0011】
従って、本発明の第3の態様によれば、内燃エンジンにおけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、この燃料組成物で作動している間に、エンジンに存在する潤滑流体の酸化および/またはニトロ化速度を低減するための使用が提供される。
【0012】
第4の態様によれば、本発明は、燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、この燃料組成物で作動しているか、または作動することが意図される内燃エンジンに存在する潤滑流体の酸化および/またはニトロ化速度を低減するための使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本文脈において、内燃エンジンは、例えば、火花点火(「ガソリン」)エンジンまたは圧縮点火(「ディーゼル」)エンジンであることができる。本発明の一実施形態において、エンジンはディーゼルエンジンである。
【0014】
燃料組成物は、内燃エンジンでの使用に適した任意の燃料組成物であることができる。例えば、ガソリン(gasoline、petrol)燃料組成物またはディーゼル燃料組成物であることができる。フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分に加えて、燃料組成物は、1種以上の(典型的にディーゼル)ベース燃料、および/または1種以上の非フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を含有することができる。
【0015】
フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、全燃料組成物に対して、1%v/v以上、または2または5または10%v/v以上、例えば50%v/v以上、または80または90%v/v以上の濃度で用いることができる。全組成物中のこの濃度は、100%v/vまで、例えば99.8%v/vまで、または99.5%v/vもしくは99%v/vまでであることができる。
【0016】
本発明の一実施形態において、燃料組成物は、主としてフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分からなり、例えば、必要に応じて1種以上の燃料添加剤と共に、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分98%v/v以上、または99%v/v以上、または99.5もしくは99.8%v/v以上を含有することができる。
【0017】
従って、本発明はまた、内燃エンジンにおける燃料組成物としてのフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、この燃料組成物(即ち、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分)で作動する間に、エンジンに存在する潤滑流体の酸性成分蓄積速度、および/または酸化もしくはニトロ化速度を低減するための使用も包含する。
【0018】
本発明の一実施形態において、フィッシャー・トロプシュ由来成分が用いられる燃料組成物は、ディーゼルエンジンでの使用に適し、および/またはこの使用に適応され、および/またはこの使用が意図されるディーゼル燃料組成物である。従って、燃料組成物は、非フィッシャー・トロプシュ由来(例えば、石油由来「留分」)燃料であることのできる、1種以上のディーゼルベース燃料、典型的に軽油を含むことができる。例えば、自動車車両の駆動に用いるための、自動車ディーゼル燃料組成物であることができる。
【0019】
本発明に従って調製されたディーゼル燃料組成物は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分に加えて、従来型の1種以上のディーゼル燃料組成物を含有することができる。このような成分は典型的に、液体炭化水素中間留分燃料油、例えば石油由来の軽油を含む。一般に、このような燃料成分は、有機由来または合成由来であることができ、適切には原油から所望範囲の画分を蒸留することによって得られる。これらの燃料成分は典型的に、等級および用途に応じて、通常のディーゼル範囲内の沸点150から410℃、または170から370℃を有する。典型的には、燃料組成物は、重質炭化水素を分割することによって得られた1種以上の分解生成物を含む。
【0020】
石油由来の軽油は、例えば、粗石油源を精製し、必要に応じて(水素)処理することによって得ることができる。石油由来軽油は、このような精製工程から得られる単一軽油流、または種々の処理経路による精製工程から得られる幾つかの軽油画分の配合物であることができる。このような軽油画分の例は、直留軽油、真空軽油、熱分解工程で得られた軽油、流動接触分解装置で得られた軽質および重質循環油、ならびに水素添加分解装置で得られた軽油である。必要に応じて、石油由来の軽油は、いくらかの石油由来の灯油画分を含むことができる。
【0021】
このような軽油は、ディーゼル燃料組成物に混入されるのに適したレベルに硫黄含有量を低減するために、水素化脱硫(HDS)装置で処理することができる。
【0022】
本発明に従って調製された組成物に含有されるディーゼル燃料成分は典型的に、15℃での密度750から900kg/m、好ましくは800から860kg/m(ASTM D−4052またはEN ISO3675)、および/または40℃での動粘度(VK40)1.5から6.0センチストークス(mm/s)(ASTM D−445またはEN ISO3104)を有する。
【0023】
本明細書において粘度への言及は、別段の指示のないかぎり、動粘度を意味することが意図される。
【0024】
本発明に従って調製されたディーゼル燃料組成物において、ベース燃料自体、2種以上の上記の種類のディーゼル燃料成分の混合物を含むことができる。これは、植物油、水素添加植物油、または植物油誘導体(例えば、脂肪酸エステル、特に脂肪酸メチルエステル)、または酸、ケトン、もしくはエステルなどの他の酸素化物などの、いわゆる「バイオディーゼル」燃料成分であるか、またはこの成分を含有することができる。このような成分は必ずしも生物由来である必要はない。
【0025】
本発明に従って調製された燃料組成物、具体的にはディーゼル燃料、より具体的には自動車ディーゼル燃料は、適切には硫黄5000ppmw(重量百万分率)以下、典型的には2000から5000ppmw、または1000から2000ppmw、または1000ppmwまでを含有する。組成物は、例えば硫黄最大500ppmw、好ましくは350ppmw以下、もっとも好ましくは100または50、またはさらに10ppmw以下を含有する、例えば低硫黄もしくは超低硫黄燃料、または硫黄不含燃料であることができる。
【0026】
本発明の文脈において、用語「フィッシャー・トロプシュ由来」は、ある材料がフィッシャー・トロプシュ縮合工程の合成生成物であるか、これに由来することを意味する。用語「非フィッシャー・トロプシュ由来」は、これに応じて解釈することができる。従って、フィッシャー・トロプシュ由来燃料または燃料成分は、付加された水素を除いて、相当部分が直接または間接的にフィッシャー・トロプシュ縮合工程に由来する炭化水素流となる。
【0027】
フィッシャー・トロプシュ由来生成物は、GTL生成物と称することもできる。
【0028】
フィッシャー・トロプシュ反応は、適切な触媒の存在下、典型的には高温(例えば、125から300℃、好ましくは175から250℃)および/または高圧(例えば、0.5から10MPa、好ましくは1.2から5MPa)で、一酸化炭素および水素を、より長鎖の炭化水素、通常パラフィン系炭化水素に転化する:
n(CO+2H)=(−CH−)+nHO+熱
所望であれば、2:1以外の水素:一酸化炭素比を用いることができる。
【0029】
一酸化炭素および水素自体は、有機、無機、天然、または合成源から、典型的には天然ガス、または有機由来メタンから誘導することができる。
【0030】
本発明において有用なフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、精製またはフィッシャー・トロプシュ反応から直接得ることができ、または、例えば精製または合成生成物を分留または水素化処理して、分留または水素化生成物を生じることによって間接的に得ることもできる。水素化処理は、沸点範囲を調節するための水素化分解(例えば、GB−B−2077289およびEP−A−0147873参照)および/または分枝パラフィンの比率を上げることによって、低温流動特性を改善することのできる水素異性化を含むことができる。EP−A−0583836は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物を最初に、実質的に異性化または水素化分解を受けないような条件下で水素化転化に供し(これによりオレフィン性および酸素含有成分が水素化される。)、次いで得られた生成物の少なくとも一部を、水素化分解および異性化が起こるような条件下で水素化転化して、実質的にパラフィン系の炭化水素燃料を得る、2段階水素化処理工程を記載している。その後、所望の画分、典型的には軽油画分を、例えば蒸留によって単離することができる。
【0031】
例えばUS−A−4125566およびUS−A−4478955に記載されているとおり、重合、アルキル化、蒸留、分解−脱カルボキシル化、異性化、および水素化改質などの他の合成後処理を用いて、フィッシャー・トロプシュ縮合生成物の特性を改変することができる。
【0032】
パラフィン系炭化水素をフィッシャー・トロプシュ合成するための典型的な触媒は、触媒活性成分として、元素周期表のVIII族の金属、特にルテニウム、鉄、コバルト、またはニッケルを含む。このような適切な触媒は、例えばEP−A−0583836に記載されている。
【0033】
フィッシャー・トロプシュに基づく方法の一例は、Shell(商標)「Gas−to−liquids(ガス液化)」または「GTL」技術である(以前はSMDS(Shell Middle Distillate Synthesis(シェル中間留分合成)として知られており、「The Shell Middle Distillate Synthesis Process」、van der Burgt等、第5回Synfuels Worldwide Symposium、Washington DC、1985年11月で発表された論文、およびShell International Petroleum Company Ltd、London、UKによる同表題の1989年11月の刊行物に記載されている。)。後者の場合、水素化転化工程の好ましい特徴は、文献に開示のとおりであることができる。この工程は、天然ガスを、後に水素化転化および分留することのできる重質長鎖炭化水素(パラフィン)ロウに転化することによって、中間留分範囲の生成物を生成する。
【0034】
フィッシャー・トロプシュ工程のおかげで、フィッシャー・トロプシュ由来燃料または燃料成分は、本質的に硫黄および窒素を含まないか、または検出不能なレベルの硫黄および窒素を含む。これらのヘテロ原子を含有する化合物は、フィッシャー・トロプシュ触媒の毒物として作用する傾向があり、従って合成ガス供給材料から除去される。このことが、本発明に従って調製された燃料組成物にさらなる利益をもたらす。
【0035】
一般的に述べると、フィッシャー・トロプシュ由来炭化水素生成物は、例えば石油由来燃料と比較して、比較的低いレベルの極性成分、特に極性界面活性剤を有する。このことが消泡性能および曇り除去(dehazing)性能の向上に寄与する可能性がある。このような極性成分には、例えば、酸素化物、ならびに硫黄および窒素含有化合物を含むことができる。フィッシャー・トロプシュ由来生成物における低レベルの硫黄は一般に、酸素化物および窒素含有化合物の両方が低レベルであることを示すものであり、これはすべてが同じ処理工程で除去されるためである。
【0036】
さらに、通常行われるフィッシャー・トロプシュ工程は、芳香族成分を生成しないか、または実質的に芳香族成分を生成しない。
【0037】
本発明に用いるためのフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、ガス液化合成から誘導された任意の適切な成分(以下、GTL成分)、または、例えばガス、バイオマス、または石炭を液体に転化する類似フィッシャー・トロプシュ合成から誘導された任意の適切な成分(以下、XTL成分)であることができる。フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、好ましくはGTL燃料成分である。これはBTL(バイオマス液化)成分であることができる。一般に、適切なXTL成分は、当分野で知られているとおり、例えばナフサ、灯油、ディーゼル、および軽油画分から選択された中間留分燃料成分であることができ、このような成分は、包括的に合成プロセス燃料または合成プロセス油に分類されることができる。好ましくは、本発明に用いるためのXTL成分は、軽油である。
【0038】
フィッシャー・トロプシュ由来軽油は通常、典型的なディーゼル燃料(「軽油」)範囲内の沸点、即ち約150から400℃、または170から370℃を有する主要成分(例えば、95%v/v以上)を含有することになる。この成分は、適切には90%v/v蒸留温度300から370℃を有する。
【0039】
フィッシャー・トロプシュ由来軽油は典型的に、15℃での密度(ASTM D−4052またはEN ISO3675)0.76から0.79g/cm、セタン価(ASTM D−613)70超、適切には74から85、VK40(ASTM D−445またはEN ISO3104)2から4.5、好ましくは2.5から4.0、より好ましくは2.9から3.7センチストークス(mm/s)、および硫黄含有量(ASTM D−2622またはEN ISO20846)5mg/kg以下、好ましくは2mg/kg以下を有する。
【0040】
一実施形態において、本発明に用いられるフィッシャー・トロプシュ由来軽油は、水素/一酸化炭素比2.5未満、好ましくは1.75未満、より好ましくは0.4から1.5を用い、理想的にはコバルト含有触媒を用いる、フィッシャー・トロプシュメタン縮合反応によって調製された生成物である。この生成物は、水素化分解フィッシャー・トロプシュ合成生成物から得られたもの(例えば、GB−B−2077289および/またはEP−A−0147873に記載のとおり)、より好ましくはEP−A−0583836に記載されているような2段階水素化転化工程の生成物(上記参照)であることができる。後者の場合、水素化転化工程の好ましい特徴は、EP−A−0583836の第4から6頁および実施例に開示のとおりであることができる。
【0041】
適切には、本発明によれば、フィッシャー・トロプシュ由来軽油は、パラフィン系成分少なくとも70%w/w、好ましくは少なくとも80%w/w、より好ましくは少なくとも90または95または98%w/w、もっとも好ましくは少なくとも99または99.5またはさらに99.8%w/wからなる。イソパラフィンとノルマルパラフィンの重量比は、適切には1:1または2:1超、例えば1:1から10:1、または1:1から5:1となる。この比率の実際の値は、部分的には、フィッシャー・トロプシュ合成生成物から軽油を調製するために用いられる水素化転化工程によって決定されることになる。
【0042】
フィッシャー・トロプシュ由来軽油のオレフィン含有量は、適切には0.5%w/w以下である。この芳香族含有量は、適切には0.5%w/w以下である。
【0043】
本発明によれば、2種以上のフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の混合物を、燃料組成物および/または内燃エンジンに用いることができる。
【0044】
本発明の文脈において、内燃エンジンにおけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の「使用」は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分をエンジンに、典型的には燃焼室に導入することを意味する。従って、フィッシャー・トロプシュ由来燃料は、1種以上の他の燃料成分および/または添加剤を含有する燃料組成物の一部として導入することができる。この使用は、エンジンをこのような燃料組成物、またはフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分単独で作動することを含む。
【0045】
燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の「使用」は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を、典型的には1種以上の他の燃料成分(典型的にはディーゼルベース燃料)および任意に1種以上の燃料添加剤との配合物(即ち、物理的混合物)として組成物に組み入れることを意味する。フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は好都合には、この組成物で作動される内燃エンジンに組成物を導入する前に組み入れられる。その代わりまたはそれに加えて、この使用は、典型的に組成物をエンジンの燃焼室に導入することによって、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を含有する燃料組成物で内燃エンジンを作動することを含むことができる。
【0046】
本発明によるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の「使用」は、本明細書に記載の1つ以上の目的を達成するため、特に内燃エンジンにおいて潤滑流体の酸性成分の蓄積速度を低減するため、および/または潤滑流体の酸化もしくはニトロ化速度を低減するために、燃料組成物および/または内燃エンジンで用いるための使用説明書と共にこのような成分を供給することを包含することもできる。
【0047】
フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分自体を、燃料添加剤、特にディーゼル燃料添加剤としての使用に適したおよび/またはこの使用が意図される製剤の成分として提供することができ、その場合、フィッシャー・トロプシュ由来成分は、燃料組成物が導入されるかまたはこの導入が意図される内燃エンジンにおける潤滑流体の酸性成分の蓄積速度、ならびに/またはこのような潤滑流体の酸化および/もしくはニトロ化速度に、この成分が添加される燃料組成物の影響を与える目的のために、このような製剤に加えることができる。
【0048】
従って、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、1種以上の燃料添加剤と共に添加剤製剤またはパッケージに組み入れることができる。フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、例えば、添加剤製剤において、洗浄剤、抗腐食添加剤、エステル、ポリαオレフィン、長鎖有機酸、アミンまたはアミド活性中心を含有する成分、およびこれらの混合物から選択された1種以上の燃料添加剤と組み合わせることができる。特に、1種以上のいわゆる機能添加剤(performance additive)と組み合わせることができ、これには典型的に少なくとも洗浄剤が含まれる。
【0049】
フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、例えば精製装置(refinery)において、燃料組成物の1種以上の他の成分と直接配合することができる。
【0050】
本発明に従って調製された燃料組成物、またはこのような組成物に用いるベース燃料は、他の成分、例えば1種以上の燃料添加剤を含有することができる。
【0051】
例えば精製装置において、添加剤を加えた(添加剤を含有する)場合、燃料組成物または成分は、例えば、帯電防止剤、パイプライン抵抗低減剤、流動性向上剤(例えば、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、またはアクリラート/無水マレイン酸コポリマー)、潤滑添加剤、抗酸化剤、およびロウ沈降防止剤から選択された少量の1種以上の添加剤を含有することができる。従って、燃料組成物は、小さい比率(好ましくは1%w/w以下、より好ましくは0.5%w/w(5000ppmw)以下、もっとも好ましくは0.2%w/w(2000ppmw)以下)の1種以上の燃料添加剤を含有することができる。
【0052】
本発明に従って調製された燃料組成物は、例えば洗浄剤を含有することができる。洗浄剤含有燃料添加剤は知られており、市販され入手可能である。このような添加剤は、エンジン沈降物の蓄積を低減、除去、または遅延することを意図したレベルで燃料に添加することができる。
【0053】
本発明の目的のために燃料添加剤に用いるのに適した洗浄剤の例には、ポリオレフィン置換スクシンイミドまたはポリアミンのスクシンアミド、例えばポリイソブチレンスクシンイミドまたはポリイソブチレンアミンスクシンアミド、脂肪族アミン、マンニッヒ塩基またはアミン、およびポリオレフィン(例えば、ポリイソブチレン)無水マレイン酸が含まれる。スクシンイミド分散剤添加剤は、例えばGB−A−960493、EP−A−0147240、EP−A−0482253、EP−A−0613938、EP−A−0557516、およびWO−A−98/42808に記載されている。特に好ましいのは、ポリイソブチレンスクシンイミドなどのポリオレフィン置換スクシンイミドである。
【0054】
本発明に従って調製された燃料組成物に使用できる燃料添加剤混合物は、洗浄剤に加えて、他の成分を含有することができる。この例、特にディーゼル燃料組成物に用いるための例は、潤滑性増強剤、曇り除去剤(dehazer)、例えばアルコキシル化フェノールホルムアルデヒドポリマー、消泡剤(例えば、ポリエーテル変性ポリシロキサン)、点火向上剤(セタン向上剤)(例えば、硝酸2−エチルヘキシル(EHN)、硝酸シクロヘキシル、ジ−tert−ブチルペルオキシド、およびUS−A−4208190の2欄27行から3欄21行に開示されているもの)、防錆剤(例えば、テトラプロペニルコハク酸のプロパン−1,2−ジオール半エステル、またはコハク酸誘導体の多価アルコールエステル(コハク酸誘導体はα炭素原子の少なくとも1つに炭素原子20から500個を含有する非置換または置換脂肪族炭化水素基を有する。)、例えばポリイソブチレン置換コハク酸のペンタエリトリトールジエステル)、腐食抑制剤、付香剤、耐摩耗添加剤、抗酸化剤(例えば、2,6−ジ−tert−ブチルフェノールなどのフェノール類、またはN,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン)、金属不活性化剤、助燃剤、帯電防止添加剤、低温流動性向上剤、粘度向上剤、およびロウ沈降防止剤である。
【0055】
このような燃料添加剤混合物は、特に燃料組成物が低い(例えば、500ppmw以下)硫黄含有量を有するとき、潤滑性増強剤を含有することができる。添加剤を加えた燃料組成物において、潤滑性増強剤は好都合には、1000ppmw未満、好ましくは50から1000ppmw、より好ましくは70から1000ppmwの濃度で存在する。適切な市販の潤滑性増強剤には、エステルおよび酸をベースとする添加剤が含まれる。他の潤滑性増強剤は、特に低硫黄含有量ディーゼル燃料におけるこれらの使用に関して、特許文献に記載されており、例えば以下のものである:
Danping WeiおよびH.A.Spikesの論文、「The Lubricity of Diesel Fuels」、Wear、III(1986)217から235、
WO−A−95/33805−低硫黄燃料の潤滑性を増強するための低温流動性向上剤、
WO−A−94/17160−ディーゼルエンジン噴射装置において摩耗を低減するための燃料添加剤としての、ある種のカルボン酸およびアルコールのエステル(酸は2から50個の炭素原子を有し、アルコールは1個以上の炭素原子を有する。)、特にモノオレイン酸グリセロールおよびアジピン酸ジイソデシル、
US−A−5490864−低硫黄ディーゼル燃料の耐摩耗潤滑性添加剤として、ある種のジチオリン酸ジエステル−ジアルコール、および
WO−A−98/01516−特に低硫黄ディーゼル燃料において、耐摩耗潤滑性効果を付与するための、芳香核に結合した少なくとも1つのカルボキシル基を有するある種のアルキル芳香族化合物。
【0056】
燃料組成物が消泡剤を含有するのが好ましい可能性もあり、防錆剤および/または腐食抑制剤および/または潤滑性増強添加剤との組み合わせがより好ましい。
【0057】
別段の記載のないかぎり、添加剤を加えた燃料組成物におけるこのような各添加剤成分の(活性物質)濃度は、好ましくは10000ppmwまで、より好ましくは0.1から1000ppmw、有利には0.1から300ppmw、例えば0.1から150ppmwの範囲である。
【0058】
燃料組成物中の任意の曇り除去剤の(活性物質)濃度は、好ましくは0.1から20ppmw、より好ましくは1から15ppmw、さらに好ましくは1から10ppmw、有利には1から5ppmwの範囲となる。存在する任意の点火向上剤の(活性物質)濃度は、好ましくは2600ppmw以下、より好ましくは2000ppmw以下、好都合には300から1500ppmwとなる。燃料組成物中の任意の洗浄剤の(活性物質)濃度は、好ましくは5から1500ppmw、より好ましくは10から750ppmw、もっとも好ましくは20から500ppmwの範囲となる。
【0059】
所望であれば、上に記載したものなどの1種以上の添加剤成分を、好ましくは適切な希釈剤と共に、添加剤濃縮物に共混合することができ、その後、この添加剤濃縮物をベース燃料または燃料組成物に分散することができる。
【0060】
ディーゼル燃料組成物の場合、例えば、燃料添加剤混合物は典型的に、必要に応じて上記の他の成分と共に、洗浄剤、およびディーゼル燃料適合性希釈剤を含有し、この希釈剤は、鉱物油、Shell社から商標「SHELLSOL」で販売されているもの、極性溶媒、例えばエステル、および特にアルコール、例えばヘキサノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、イソトリデカノール、およびアルコール混合物、例えばShell社から商標「LINEVOL」で販売されているもの、特にC7−9第一級アルコールの混合物であるLINEVOL79アルコール、または市販され入手可能であるC12−14アルコール混合物などの溶媒であることができる。
【0061】
燃料組成物中の添加剤総含有量は、適切には0から10000ppmw、好ましくは5000ppmw未満であることができる。
【0062】
本明細書において、成分の量(濃度、%v/v、ppmw、%w/w)は、活性物質の量、即ち揮発性溶媒/希釈剤材料を除いた量である。
【0063】
本発明の文脈において、潤滑流体は、内燃エンジン、特にディーゼルエンジンでの使用に適し、および/またはこの使用に適応され、および/またはこの使用が意図される任意の潤滑流体、典型的には油であることができる。
【0064】
典型的な潤滑流体は、主として1種以上のベース油からなり、これは合成(潤滑)油、鉱物油、天然油、またはこれらの混合物のいずれかから選択することができる。鉱物油には、液体石油、パラフィン系、ナフテン系、またはパラフィン系/ナフテン系混合型の溶媒処理または酸処理鉱物潤滑油が含まれ、これらは水素化仕上げ工程および/または脱ロウによってさらに精製することができる。合成ベース油には、フィッシャー・トロプシュ由来ベース油、ならびにオレフィンオリゴマー(PAO)、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、脱ロウしたロウ状ラフィネートが含まれる。
【0065】
内燃エンジンに用いるために、ベース油は、適切には、例えばASTM D−2622、D−4294、D−4927、またはD−3120によって求められた、硫黄1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満を含有する。ベース油は、適切には、ASTM D−2270に従って測定された粘度指数80超、好ましくは120超を有する。ベース油は、好都合には3.8から26センチストークス(mm/s)のVK100を有する(ASTM D−445)。
【0066】
内燃エンジンに用いるための潤滑流体は、適切には2から80センチストークス(mm/s)、好ましくは3から70センチストークス(mm/s)、または4から50センチストークス(mm/s)のVK100を有することができる。
【0067】
ベース油として用いるのに適した天然油には、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油またはラード油)、液体石油、ならびにパラフィン系、ナフテン系、およびパラフィン系/ナフテン系混合型の水素化精製溶媒処理または酸処理鉱物潤滑油が含まれる。石炭または頁岩由来の潤滑粘性の油も有用なベース油である。
【0068】
アルキレンオキシドポリマーおよびインターポリマー、ならびに末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化などによって修飾されているこれらの誘導体は、知られている合成潤滑油の別の種類を構成する。これらの例は、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドの重合によって調製されたポリオキシアルキレンポリマー、これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびアリールエーテル(例えば、平均分子量1000を有するメチル−ポリイソプロピレングリコールエーテル、分子量500から1000を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、分子量1000から1500を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテル)、およびこれらのモノおよびポリカルボン酸エステル、例えばテトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3−C8脂肪酸エステル、およびC13オキソ酸ジエステルである。
【0069】
別の適切な合成潤滑油の種類は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、およびアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と種々のアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)との反応によって形成されたエステルを含む。
【0070】
これらのエステルの具体的な例には、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジ−n−ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル、ならびにセバシン酸1モルとテトラエチレングリコール2モルおよび2−エチレンヘキサン酸との反応によって形成された複合エステルが含まれる。
【0071】
合成油として有用なエステルには、C5からC12モノカルボン酸、およびポリオール、ならびにネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、およびトリペンタエリトリトールなどのポリオールエーテルから製造されたものが含まれる。
【0072】
ポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ、またはポリアリールオキシシロキサン油およびケイ酸エステル油などのシリコン系油は、合成潤滑油の別な有用な種類を含み、これらの合成潤滑油には、ケイ酸テトラエチル、ケイ酸テトライソプロピル、ケイ酸テトラ−(2−エチルヘキシル)、ケイ酸テトラ−(4−メチル−2−エチル−ヘキシル)、ケイ酸テトラ−(p−テトラブチルフェニル)、ヘキサ−(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、およびポリ(メチルフェニル)シロキサンが含まれる。他の合成潤滑油には、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレシル、リン酸トリオクチル、デシルホスホン酸のジエチルエステル)、およびポリマーテトラヒドロフランが含まれる。
【0073】
潤滑流体は典型的に、当分野で知られている添加剤を含有することができ、例えば、酸化抑制剤(抗酸化剤)、分散剤、シール固定またはシール適合性剤、および/または洗浄剤である。潤滑流体はまた、主成分によって提供されない特定の機能を果たす他の潤滑剤添加剤を含むことができる。これらの追加添加剤には、これに限定されるものではないが、腐食抑制剤、粘度指数向上剤(または調整剤)、流動点降下剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、抗摩耗剤、消泡剤、および/または摩擦調整剤が含まれる。適切な添加剤は、US−A−5320765およびUS−B−6528461に記載されている。適切な酸化抑制剤には、例えば、銅抗酸化剤、フェノール化合物、および/またはアミン化合物が含まれる。適切な分散剤には、例えば、スクシンイミドが含まれる。適切な洗浄剤には、例えば、サリチラート、フェノラート、およびスルホナート洗浄剤が含まれる。適切な抗摩耗添加剤には、ジチオリン酸亜鉛が含まれる。
【0074】
潤滑ベース油、および潤滑流体に用いる添加剤の例は、WO−A−2007/128740の15から23頁、およびWO−A−2004/003116にも記載されている。
【0075】
本発明の文脈において、潤滑流体における酸性成分の蓄積速度の「低減」は、ゼロ(即ち、成分濃度増加の防止)を含む、任意の程度の低減を包含する。低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を混入する前に燃料組成物を使用したときの酸性成分蓄積速度との比較であることができる。低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を添加する前の、内燃エンジン(典型的にはディーゼル)に用いることが意図される(例えば、そのために市販される)他の点では類似の燃料組成物で同じエンジンを作動したときに測定された当該速度との比較であることができる。
【0076】
本発明は、例えば、所望の目標を達成するために、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分によって、酸性成分蓄積速度に対する燃料組成物の影響を調節することを含むことができる。
【0077】
同様に、潤滑流体における酸化またはニトロ化速度の「低減」は、ゼロ(即ち、当該過程の防止)を含む、任意の程度の低減を包含する。低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を混入する前に燃料組成物を使用したときの酸化またはニトロ化速度との比較であることができる。低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を添加する前の、内燃エンジン(典型的にはディーゼル)に用いることが意図される(例えば、そのために市販される)他の点では類似の燃料組成物で同じエンジンを作動したときに測定された当該速度との比較であることができる。
【0078】
本発明は、例えば、所望の目標を達成するために、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分によって、潤滑流体酸化および/またはニトロ化速度に対する燃料組成物の影響を調節することを含むことができる。
【0079】
潤滑流体の酸性成分蓄積速度、または酸化もしくはニトロ化速度の低減は、別の原因(即ち、エンジン燃料の性質以外の原因)による当該速度の少なくともある程度の増大の軽減を包含することもできる。
【0080】
酸性成分蓄積速度、または酸化もしくはニトロ化速度は、所定の期間(即ち、エンジン作動時間)、具体的には(以前に未使用の)潤滑流体をエンジンに導入する時点から開始される期間にわたって測定することができる。当該速度は、例えば、潤滑流体のエンジンへの導入後、エンジン作動時間100時間以上、または200時間以上、または250時間以上、例えば300または400または500時間以上にわたって測定することができる。
【0081】
または、当該速度は、具体的には(以前に未使用の)潤滑流体をエンジンに導入する時点から開始される、所定のエンジン作動距離にわたって測定することができる。この速度は、例えば、潤滑流体のエンジンへの導入後、5000エンジンマイル以上、または8000エンジンマイル以上、または10000エンジンマイル以上、または13000もしくは15000エンジンマイル以上にわたって測定することができる。
【0082】
従って当該速度は、単位エンジン作動時間当たりの変化として、または単位エンジン作動距離当たりの変化として表わすことができる。
【0083】
潤滑流体中の酸性成分の濃度は、例えば、標準試験法ASTM D−664(「電位差滴定による石油製品の酸価の標準試験法」)を用いて、この酸価を測定することによって評価することができる。2以上のこのような測定から、特定の期間にわたる酸性成分の蓄積速度を算出できる。
【0084】
潤滑流体の塩基価、およびひいては塩基価の減少速度も、流体における酸性成分蓄積の指標を提供できる。塩基価は、標準試験法ASTM D−4739(「電位差滴定による塩基価決定の標準試験法」)、またはASTM D−2896(「電位差過塩素酸滴定による石油製品の塩基価の標準試験法」)を用いて測定することができる。
【0085】
従って、本発明は、潤滑流体の酸価の増加速度、および/または塩基価の減少速度を低減するために用いることができる。
【0086】
潤滑流体の酸化度は、例えば、標準試験法ASTM E−2412(「FTIR分光法を用いるトレンド分析による使用潤滑剤の状態監視の標準実施」)を用いて、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法によって測定することができる。ここでも、酸化速度は、特定の期間にわたる2以上のこのような測定から算出できる。
【0087】
潤滑流体のニトロ化の程度および/または速度も、例えばASTM E−2412を用いて、FTIR分光法によって測定することができる。
【0088】
本発明が潤滑流体の酸性成分蓄積速度を低減するために用いられる場合、この低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の混入前の燃料組成物でエンジンが作動しているときに観察された速度と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、例えば少なくとも15または20または25または30、または場合によってさらに35または40%の低減であることができる。この低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を添加する前の、内燃エンジン(典型的にはディーゼル)に用いることが意図される(例えば、そのために市販される)他の点では類似の燃料組成物で同じエンジンを作動したときの、同じ潤滑流体における酸性成分の蓄積速度との比較であることができる。
【0089】
本発明が潤滑流体の塩基価の減少速度を低減するために用いられる場合、この低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の混入前の燃料組成物でエンジンを作動しているときに観察された速度と比較して、少なくとも0.5または1%、好ましくは少なくとも2%、例えば少なくとも3または4または5%の低減であることができる。この低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を添加する前の、内燃エンジン(典型的にはディーゼル)に用いることが意図される(例えば、そのために市販される)他の点では類似の燃料組成物で同じエンジンを作動したときの、同じ潤滑流体における塩基価値の減少速度との比較であることができる。
【0090】
本発明が潤滑流体の酸化速度を低減するために用いられる場合、この低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の混入前の燃料組成物でエンジンを作動しているときに観察された速度と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10または15または20%、または場合によって少なくとも25またはさらに30%の低減であることができる。この低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を添加する前の、内燃エンジン(典型的にはディーゼル)に用いることが意図される(例えば、そのために市販される)他の点では類似の燃料組成物で同じエンジンを作動したときの、同じ潤滑流体における酸化速度との比較であることができる。
【0091】
本発明が潤滑流体のニトロ化速度を低減するために用いられる場合、この低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の混入前の燃料組成物でエンジンを作動しているときに観察された速度と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10または12または15%、または場合によって少なくとも17または18%の低減であることができる。この低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を添加する前の、内燃エンジン(典型的にはディーゼル)に用いることが意図される(例えば、そのために市販される)他の点では類似の燃料組成物で同じエンジンを作動したときの、同じ潤滑流体におけるニトロ化速度との比較であることができる。
【0092】
本発明はさらに、潤滑流体の硫酸化速度を低減するために用いることができ、その場合、低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の混入前の燃料組成物でエンジンを作動しているときに観察された速度と比較して、少なくとも5または10%、好ましくは少なくとも20または30%、または場合によって少なくとも35またはさらに40%の低減であることができる。
【0093】
フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、本発明に従って、潤滑流体交換の頻度を低減するため、および/または潤滑流体交換の間隔を増大するために用いることができる。上記のとおり、潤滑流体の交換は、潤滑にするためにこの流体が用いられているエンジンの性能を損ない、および/または満足できる機能を妨げる程度にまで流体の特性および/または性能が劣化したときに必ず必要とされる。具体的には、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、流体中の酸性成分の濃度変化および/または酸化度もしくはニトロ化度の変化のために必要とされる潤滑流体交換の頻度を低減するために用いることができる。
【0094】
本発明が、必要とされる潤滑流体交換の間隔を増大するために用いられる場合、この増大は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の混入前の燃料組成物でエンジンを作動しているときに必要とされる間隔と比較して、少なくとも10または20%、好ましくは少なくとも50または60または70または80%、場合により少なくとも90またはさらに100%の増大であることができる。この増大は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を添加する前の、内燃エンジン(典型的にはディーゼル)に用いることが意図される(例えば、そのために市販される)他の点では類似の燃料組成物で同じエンジンを作動したときの、同じ潤滑流体の潤滑剤交換間隔との比較であることができる。
【0095】
潤滑剤交換が必要であるとみなされる時点は、いずれの場合も同じ基準を用いて評価されるべきであり、典型的に流体の動粘度(例えば、100℃の動粘度)が含まれる。従って、あるパラメータが所定の値に到達したとき流体を交換する必要があることが決定される場合(例えば、使用者によって、または取締機関によって、または潤滑流体もしくはエンジンの製造業者によって)、本発明は、これが起こる前の間隔を増大するために用いることができる。パラメータは、例えば、流体の動粘度、流体が含有する酸性成分の濃度、酸化度もしくはニトロ化度、および/または酸価もしくは塩基価であることができる。パラメータは、流体中の金属などの不純物の濃度であることができる。
【0096】
潤滑流体交換の間隔は、例えば、エンジン作動時間および/またはこのエンジンによって駆動される車両が走行した距離に関して測定することができる。
【0097】
フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の燃料組成物における使用または燃料組成物としての使用は、本発明によって提供されるものに加えて、他の利点をもたらし得る。フィッシャー・トロプシュ由来燃料は一般に「クリーンな」燃料とみなされ、より少ないエンジン排出物を生じる傾向がある。フィッシャー・トロプシュ由来燃料はまた、ディーゼルエンジンでの使用において、比較的高いセタン価を有し、多くの場合低いレベルの性能増強添加剤を必要とする傾向がある。さらに、フィッシャー・トロプシュ由来燃料は、生分解性で非毒性であり、従って自然保護区および自然公園などの環境的に敏感な区域で比較的に優しい作用主体である。本発明は、潤滑剤劣化に関して上に論じたものに加えて、1つ以上のこれらの利点を得るために用いることができる。
【0098】
潤滑流体中の腐食性酸性成分の蓄積は、エンジン摩耗を増大することがある。流体の酸化およびニトロ化は、酸のレベルを上昇させるため、同様にエンジン摩耗に影響を与えることがある。エンジン摩耗は、スラッジ形成、およびその結果としての潤滑剤性能の低下によっても増大することがあり、スラッジの形成もまた潤滑剤の酸化に関連している。増大した摩耗の結果として、エンジンの成分の粒子、特に鉄および銅などの金属が、潤滑流体中のさらなる不純物として蓄積することがある。
【0099】
従って、本発明の第5の態様は、内燃エンジンにおけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、この燃料成分で作動している間に、エンジンでのエンジン摩耗速度を低減するための使用を提供する。
【0100】
第6の態様は、燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、この燃料組成物で作動しているか、または作動することが意図される内燃エンジンにおいて、エンジン摩耗速度を低減するための使用を提供する。
【0101】
本発明の第5および第6の態様において、エンジン摩耗は、特に酸に誘発されたエンジン摩耗であることができ、これはエンジンに存在する潤滑流体中の酸性成分の存在によって誘発されるか、または悪化する。その代わりまたはそれに加えて、エンジン摩耗は、このような潤滑流体の酸化もしくはニトロ化によって、および/または流体中のスラッジ形成によって誘発されるか、または悪化する摩耗であることができる。エンジン摩耗には、例えば可動部品間の摩擦、または可動部品と潤滑流体との間の摩擦による、例えば鉄および銅などの金属の粒子の脱離を含み、これらの粒子はその後、不純物として(典型的にはエンジンベアリングから)潤滑流体に入ることがある。これには、潤滑流体中の腐食性材料、特に酸の存在による、エンジン成分の腐食を含むことができる。
【0102】
エンジン摩耗の度合い、従って同様にエンジン摩耗の速度は、エンジンの成分を目視により検査することによって、および/または潤滑流体中の摩耗由来不純物の濃度を測定することによって評価することができる。このような不純物には、エンジン成分に由来する銅、アルミニウム、クロム、スズ、リン、および特に鉄などの金属を含むことができる。
【0103】
従って、本発明は、潤滑流体中の摩耗誘発不純物、特に鉄の蓄積速度を低減するために用いることができる。
【0104】
ここでも、本発明を用いて達成可能なエンジン摩耗、特に酸誘発性エンジン摩耗の低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の混入前の燃料組成物を使用したときのエンジン摩耗速度との比較であることができる。この低減は、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を添加する前の、内燃エンジン(典型的にはディーゼル)に用いることが意図される(例えば、そのために市販される)他の点では類似の燃料組成物で同じエンジンを作動したときに測定された当該速度との比較であることができる。
【0105】
潤滑流体の動粘度は、エンジンがフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を含有する燃料組成物で作動するとき、比較的安定なままであり得ることが見出された。従って、本発明によれば、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分は、本発明の第1から第6の態様に関して上に記載されたいずれか1つの目的のため、およびそれと同時に、例えば所定の期間中、潤滑流体の動粘度の変動(特に増加)を低減するために用いることができる。
【0106】
第7の態様によれば、本発明は、本発明の第1から第6の態様に関して上に記載された1つ以上の目的のため、特にエンジンに存在する潤滑流体の酸性成分の蓄積速度を低減するため、および/またはこのような潤滑流体の酸化もしくはニトロ化速度を低減するための、内燃エンジンにおけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を含有する燃料組成物の使用を提供する。ここでも、エンジンはディーゼルエンジンであることができる。
【0107】
第8の態様は、内燃エンジン、および/またはこのようなエンジンによって駆動される系(例えば、自動車車両)を操作する方法を提供し、この方法は、本発明の第1から第6の態様のいずれか1つに定義された1つ以上の目的のために、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を含有する燃料組成物をエンジンの燃焼室に導入することを含む。このエンジンは、好ましくは、エンジンに存在する潤滑流体の酸性成分の蓄積速度を低減するため、および/またはこの酸化もしくはニトロ化速度を低減するための燃料組成物を用いて操作される。
【0108】
ここでも、エンジンは特にディーゼルエンジンであることができる。これは、直接噴射式、例えばロータリーポンプ、インラインポンプ、ユニットポンプ、電子制御ユニットインジェクタ、もしくはコモンレール式、または間接噴射式のものであることができる。
【0109】
本明細書の記載および特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」および「含有する(contain)」という語、ならびにこれらの語の変形、例えば「含んでいる(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むが、これに限定されない」ことを意味し、他の部分、添加剤、成分、整数、またはステップを排除しない。
【0110】
本明細書の記載および特許請求の範囲を通じて、文脈上別の解釈を要する場合を除き、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が用いられる場合、文脈上別の解釈を要する場合を除き、この記述は複数および単数を企図するものとして理解される。
【0111】
本発明の各態様の好ましい特徴は、他の態様のいずれかに関して記載されたとおりであってよい。
【0112】
本発明の他の特徴は、下記の実施例から明らかとなる。一般的に述べると、本発明は、本明細書(添付の任意の請求の範囲および図面を含む。)に開示された特徴の任意の新規な特徴、または任意の新規な組み合わせに及ぶ。従って、本発明の特定の態様、実施形態、または実施例と併せて記載された特徴、整数、特質、化合物、化学部分、または基は、矛盾しないかぎり、本明細書に記載された他の任意の態様、実施形態、または実施例に適用可能であると理解される。
【0113】
さらに、別段の記載のないかぎり、本明細書に開示された任意の特徴は、同一または類似の目的にかなう別の特徴と置き換えることができる。
【0114】
以下の実施例は、本発明による、燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用を例示するものであり、この燃料組成物で作動するエンジンにおいて、潤滑油の特性に対するこれらの影響を評価する。
【実施例1】
【0115】
ディーゼル駆動装置を、従来の石油由来ディーゼル燃料F1、続いてフィッシャー・トロプシュ由来(GTL)ディーゼル燃料F2で、一定期間操作した。従来型の燃料からGTL燃料に交換した後、装置で使用された潤滑油から週1回の間隔でサンプルを採取し、潤滑剤劣化に対する燃料交換の影響を評価するために、サンプルの特性を分析した。燃料交換前には、油交換と合わせて、250時間ごとにのみ油サンプルを分析した。
【0116】
動力装置は、Caterpillar(商標)3408C Marine Generator Set(DITA、直接噴射、ターボチャージャーおよびアフタークーラー)であった。エンジン容量は18リットル、出力定格320kWであった。
【0117】
2種の試験燃料は、下記の表1に示す特性を有した。従来型の(石油由来)燃料F1は、Gulf Oil Nederland BVから入手した市販の燃料であった。GTL燃料F2は、Shell Bintulu工場から入手した。
【0118】
【表1】

【0119】
潤滑油は、市販のCaterpillar(登録商標)製品、Cat(登録商標)DEO(商標)15W−40であった。製造業者の仕様書によれば、この鉱物油は、VK100(ASTM D−445)14.2センチストークス、流動点(ASTM D−97)−30℃、粘度指数(ASTM D−2270)141、および全塩基価(ASTM D−2896)11.3mgKOH/gを有する。
【0120】
実験の初期段階中、油を250時間ごとに交換した。しかしながら、GTL燃料で一定期間作動した後、この半分の頻度で、即ち500時間ごとに油の交換を実施できることが判明した。このこと自体、潤滑流体の劣化速度を低減し、それにより潤滑剤交換の間隔を増大する本発明の可能性を例示している。
【0121】
それぞれの油サンプルに関して、以下の特性を測定した:
a)100℃の動粘度(VK100、標準試験法ASTM D−445を使用)
b)酸化度(FTIR分光法による。)
c)ニトロ化度(FTIR分光法による。)
d)鉄含有量、ASTM D−5185(「誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)によって、使用した潤滑油中の添加元素、摩耗金属、および不純物を測定ならびにベース油中の選択元素を測定するための標準試験法」)を使用
e)銅含有量(ASTM D−5185)。
【0122】
銅および鉄は一般に、エンジン摩耗の結果として存在すると考えられる。従って、より低い含有量は、エンジン摩耗の低減を示し、従って潤滑油性能の向上を示すことになる。油サンプルにおいて、アルミニウム、クロム、鉛、ケイ素、ナトリウム、およびスズを含む他のこのような「摩耗元素」も、同様にICP−AES(ASTM D−5185)を用いて分析した。
【0123】
これらのすべての分析結果を表2aおよび2bを示す。表の上部の数字はエンジン作動時間である。油交換は太字で強調している。VK100値は、mm/sで示す。酸化およびニトロ化値は、吸収/cmの単位である。
【0124】
【表2】

【0125】
【表3】

【0126】
このデータは、動力装置がGTL燃料によって燃料供給されるとき、石油由来燃料F1で作動しているときと比べて、潤滑油の酸化およびニトロ化速度が著しく低下していることを示している。7030エンジン時間において、油交換の500時間後であっても、油の酸化レベルは、F1を用いて250時間で油交換したときに観察される速度より低い。250エンジン時間後、潤滑剤酸化レベルは、石油由来燃料を用いたときから29単位であったが、GTL燃料を用いたときにはわずかから21単位であり、このようにGTL燃料は酸化レベルの約27%の低減をもたらす。同様に、250エンジン時間後、潤滑剤ニトロ化レベルは、石油由来燃料を用いたときから38単位であったが、GTL燃料を用いたときにはわずかから31単位であり、約18%の低減であった。
【0127】
潤滑剤硫酸化レベルも、GTL燃料を用いたとき、著しく低下することが見出され、250エンジン時間後、硫酸化レベルは、石油由来燃料を用いたとき約37単位であったが、GTL燃料を用いたときにはわずかから22単位であり、約40%の低減を示した。
【0128】
油の鉄含有量も、モーターをGTL燃料で作動したとき、著しく低下する。7030エンジン時間において、油交換の500時間後であっても、鉄含有量は、石油由来燃料の使用時に見出されたレベルに到達しなかった。油の鉄含有量はエンジン摩耗レベルを反映する傾向があり、この少なくとも一部は油の酸化レベルの増加(およびこれによる酸誘発性腐食)に起因することが見込まれるため、この結果は油が引き続き良好に機能しており、長期間の使用後であっても、GTL(フィッシャー・トロプシュ由来)燃料と共に用いたとき、より少ない摩耗をもたらすことを示している。
【0129】
同様に、油中の銅レベルは、モーターがGTL燃料で作動しているとき、より従来型の燃料で作動しているときほど急速に増加しないようである。低い銅レベルは、動力装置の冷却系およびベアリングに問題が生じていないことを示している。アルミニウムレベルも低く、低いピストン摩耗レベルを示している。
【0130】
油の硫黄含有量も、GTL燃料使用時、著しく低下している。
【0131】
一方で油の動粘度は、GTL燃料使用時、比較的安定なままであり、これは観察された低い酸化およびニトロ化レベル、ならびに低い不純物濃度と矛盾しない。粘度の過度な増大が油交換の主たる動機であるため、GTL燃料の使用時に観察される比較的低く一貫した油の粘度は、より長い油交換の間隔の可能性を示している。低い粘度は燃料経済性の改善とも関連する可能性がある。
【0132】
従ってこれらの測定された特性に基づいて、エンジンをフィッシャー・トロプシュ由来燃料で作動するとき、この性能または起こり得るエンジン摩耗のレベルを過度に損なうことなく、潤滑油を明らかに500時間ごとより低い頻度で交換できる。
【実施例2】
【0133】
ディーゼルエンジンを備えた2台の試験車にそれぞれ、従来の石油由来低硫黄ディーゼル燃料F3およびフィッシャー・トロプシュ由来軽油F4を燃料供給した。一定の間隔で、2つのエンジンで使用した潤滑油からサンプルを採取し、これらの酸価および塩基価を分析した。サンプルの粘度ならびに幾つかの摩耗元素の濃度も測定した。
【0134】
試験車は、2001年に登録された、Peugeot(商標)206 1.9リットルIDI乗用車であった。これらのエンジンは、間接噴射(IDI)技術を用いる軽負荷ディーゼルエンジンであり、いずれも試験開始時に低走行距離であった(石油由来燃料F3で作動した車は14535マイル、フィッシャー・トロプシュ由来燃料F4で作動した車は18645マイル)。
【0135】
2種の試験燃料は、下記の表3に示す特性を有した。石油由来燃料は、市販のHungarianディーゼル燃料(例えばShell)であった。フィッシャー・トロプシュ由来燃料は、Shell(例えばBintulu)から入手し、試験前に2種の添加剤、Stadis(商標)450(帯電防止添加剤、例えばInnospec、処理率2ppmw)およびParadyne(商標)655(潤滑性向上剤、例えばInfineum、処理率200ppmw)を加えた。
【0136】
【表4】

(芳香族はIP156(「石油製品および関連材料−炭化水素種の測定−蛍光指示薬吸着法」)を用いて測定した。)
【0137】
両方の試験エンジンで用いた潤滑流体は、Shell Helix(商標)Diesel SuperD 15W40(例えばShell)であった。バッチ間の組成変動を回避するために、試験を通じて同じバッチの潤滑剤を用いた。
【0138】
試験の開始直前、両方の車を市販のUK留出ディーゼル燃料で1週間動かした。この事前調整期間の最後に、すべての燃料をタンクから排出し、次いで、それぞれの試験燃料をタンクに再充填した。存在する留出ディーゼル燃料は、系から洗い流さなかった。
【0139】
その後、それぞれの試験車を11カ月の期間にわたって18000マイル(典型的な油排出間隔より多少長い。)走らせた。両方の車で類似した道路および条件を用いた。フィッシャー・トロプシュ由来燃料F4は、零下周囲温度での車両操作に適合しない低温流動特性を有する「サマーグレード」ディーゼルであったため、この試験設計は、低温操作性の問題を低減するために、寒冷な気候の間、車を車庫に入れることを可能にした。いずれの車でも運転性の問題は報告されなかった。
【0140】
試験開始時、最初のサンプルを採取する前に、潤滑油を循環させるために、それぞれの車のエンジンを一時的に1マイル作動させた。その後、2000マイル間隔で潤滑剤サンプルを採取した。可能なかぎり、サンプルは2台の試験車に関して類似の走行距離で採取した。
【0141】
特に、各サンプルで以下の特性を測定した:
a)100℃の動粘度(VK100、標準試験法ASTM D−445を使用)
b)全酸価(TAN、ASTM D−664)、潤滑剤に存在する酸の量を示し、潤滑剤1g当たりの水酸化カリウムのミリグラムで表わされる(mgKOH/g)
c)全塩基価(TBN、ASTM D−4739)
d)鉄含有量(ICP−AESを使用(ASTM D−5185))
【0142】
留出ディーゼル燃料で作動する車(車A)の結果を表4に示し、フィッシャー・トロプシュ由来燃料で作動する車(車B)の結果を表5に示す。油サンプルの採取およびサンプレベルを維持するための時折の油補給に対処する、測定した特性の調整を行わなかったことに留意されたい。各表の第1列は、新しい潤滑油の特性を示す。
【0143】
これらのデータは、車B(フィッシャー・トロプシュ由来燃料で作動する車)において、油の塩基価が良好に保持されていること(即ち、より遅い塩基価の減少)を実証している。この傾向は、10000マイルの標準油排出間隔において明らかであり、試験を通じて継続した。同様に、酸価は概して、車Bの油に関して低いままであった。試験期間中、TAN値は、車Aでは1000マイル当たり0.052mgKOH/gの割合、車Bでは1000マイル当たり0.033mgKOH/gの割合で増加し、GTL燃料の車で約38%低減された。同じ期間中、TBN値は、車Aでは1000マイル当たり0.094mgKOH/gの割合、車Bでは1000マイル当たり0.089mgKOH/gの割合で減少し、約5%低減された。
【0144】
従って、標準的な油排出間隔期間中、フィッシャー・トロプシュ由来燃料は油劣化の低減をもたらすことができ、それどころかこの利益は標準的な油排出間隔をはるかに超えて継続することがわかる。このことがひいては、フィッシャー・トロプシュ由来燃料を用いて燃料供給されたエンジンに、油排出間隔の延長の可能性を提供する。
【0145】
車Bの油の低い酸含有量は、少なくとも部分的には、実施例1で実証された、この油の低い酸化およびニトロ化速度によるものであると考えられる。
【0146】
より遅い塩基価の減少、およびこれに相応するより遅い酸価の増加もまた、酸腐食による(例えば、硝酸およびカルボン酸による)エンジン摩耗速度を低減することが見込まれる。これは、車Bで用いた潤滑油で観察された、低い鉄含有量および遅い鉄蓄積速度と矛盾せず、このエンジンにおける摩耗の低減を示している。
【0147】
【表5】

【0148】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、燃料組成物で作動しているか、または作動することが意図される内燃エンジンに存在する潤滑流体の酸性成分の蓄積速度を低減するための使用。
【請求項2】
燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、燃料組成物で作動しているか、または作動することが意図される内燃エンジンに存在する潤滑流体の酸化および/またはニトロ化速度を低減するための使用。
【請求項3】
燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、燃料組成物で作動しているか、または作動することが意図される内燃エンジンにおいて酸誘発性エンジン摩耗速度を低減するための使用。
【請求項4】
燃料組成物におけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の使用であって、燃料組成物で作動しているか、または作動することが意図される内燃エンジンにおいて潤滑流体交換の頻度を低減するための使用。
【請求項5】
請求項1から4に定義された1つ以上の目的のための、内燃エンジンにおけるフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を含有する燃料組成物の使用。
【請求項6】
燃料組成物がディーゼル燃料組成物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
燃料組成物中のフィッシャー・トロプシュ由来燃料成分の濃度が10%v/v以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分が軽油である、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
内燃エンジン、および/または当該エンジンによって駆動される系を操作する方法であって、請求項1から8のいずれか一項に定義された1つ以上の目的のために、フィッシャー・トロプシュ由来燃料成分を含有する燃料組成物をエンジンの燃焼室に導入することを含む、方法。

【公表番号】特表2011−521062(P2011−521062A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509976(P2011−509976)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056129
【国際公開番号】WO2009/141375
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)