説明

燃料電池システム及びその制御方法

【課題】 燃料電池の電解質膜における歪みの発生を充分に抑制して発電効率を向上させる。
【解決手段】 電解質膜及びこの電解質膜を挟持するセパレータを有する燃料電池10と、セパレータを電解質膜に押し付けるような締結荷重を作用させる電動アクチュエータ20(締結手段)と、を備える燃料電池システム1において、電解質膜の面内方向における伸縮を許容する第1の締結荷重と、この第1の締結荷重よりも大きく電解質膜の面内方向における伸縮を許容しない第2の締結荷重と、を切り替えて作用させるように電動アクチュエータ20を制御する制御装置30(制御手段)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の単電池を積層した積層体を有する燃料電池が提案されている。燃料電池の積層体を構成する単電池は、電極(アノード極及びカソード極)が設けられた電解質膜と、この電解質膜を挟持するセパレータと、を備えており、各単電池のアノード極にアノードガスを、カソード極にカソードガスを、各々供給して電気化学反応を起こすことにより発電を行っている。
【0003】
かかる燃料電池の電解質膜には、ガスが電解質膜に到達する前にガスを拡散させる拡散層が設けられているが、これら電解質膜と拡散層との間の接触抵抗が増大すると発電効率が低下する。このため、現在においては、燃料電池の単電池ないし積層体に対して積層方向に所定の圧縮力(以下「締結荷重」という)を作用させることにより、電解質膜と拡散層との間の接触抵抗の増大を抑制する技術が提案されている。
【0004】
ところで、燃料電池の電解質膜は、温度や湿度に応じて面内方向に伸縮するため、前記したような締結荷重を作用させると、電解質膜の面内方向に応力が発生し、電解質膜に歪みが生じる場合がある。このため、近年においては、電解質膜の面内方向応力を緩和する緩衝機構をセパレータに設けることにより、電解質膜の歪みの発生を抑制しながらガスシール性を維持する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平11−7967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術を採用すると、電解質膜の周縁部の面内方向における伸縮を許容することはできる。しかし、電解質膜の周縁部以外の部分には依然として締結荷重が作用し続けることとなるため、電解質膜における歪みの発生を充分に抑制することができず、拡散層によって電解質膜が損傷してクロスリークが発生したり、間隙が生じて生成水が詰まったりすることに起因して発電効率が低下する場合があった。
【0006】
本発明は、燃料電池の電解質膜における歪みの発生を充分に抑制して発電効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明に係る燃料電池システムは、電解質膜及びこの電解質膜を挟持するセパレータを有する燃料電池と、セパレータを電解質膜に押し付けるような締結荷重を作用させる締結手段と、を備える燃料電池システムであって、電解質膜の面内方向における伸縮を許容する第1の締結荷重と、この第1の締結荷重よりも大きく電解質膜の面内方向における伸縮を許容しない第2の締結荷重と、を切り替えて作用させるように締結手段を制御する制御手段を備えるものである。
【0008】
かかる構成によれば、燃料電池に対して、電解質膜の面内方向における伸縮を許容する第1の締結荷重と、この第1の締結荷重よりも大きく電解質膜の面内方向における伸縮を許容しない第2の締結荷重と、を切り替えて作用させることができる。すなわち、状況(燃料電池の運転状態、温度、湿度等)に応じて、燃料電池に対して作用させる締結荷重を変化させることができるので、電解質膜の歪みを充分に抑制することができ、発電効率を向上させることができる。
【0009】
前記燃料電池システムにおいて、制御手段は、燃料電池の発電を停止させる際に燃料電池に対して第1の締結荷重を作用させる一方、燃料電池の発電を開始させる際に燃料電池に対して第2の締結荷重を作用させるように締結手段を制御することもできる。
【0010】
かかる構成を採用することにより、燃料電池の発電停止に起因して電解質膜が冷却される場合においても、電解質膜の面内方向における収縮を許容して、電解質膜の歪みを抑制することができる。一方、燃料電池の発電を開始させる際においては、所要の締結荷重(第2の締結荷重)を作用させることができ、燃料電池の電解質膜と拡散層との間の接触抵抗の増大を抑制することができる。
【0011】
また、前記燃料電池システムにおいて、制御手段は、燃料電池の発電時における温度に応じて、燃料電池に対して作用させる締結荷重を切り替えるように締結手段を制御することもできる。特に、制御手段は、燃料電池の発電時における温度が所定の閾値を超える場合に、燃料電池に対して作用させる締結荷重を第2の締結荷重から第1の締結荷重に切り替え、燃料電池に対して第1の締結荷重を所定時間作用させた後に第2の締結荷重に切り替えるように締結手段を制御することが好ましい。
【0012】
かかる構成を採用することにより、燃料電池の発電時における温度が上昇して電解質膜が加温された場合においても、電解質膜の面内方向における膨張を許容して電解質膜の歪みを抑制することができる。そして、電解質膜の膨張を許容した後、速やかに第2の締結荷重を作用させて接触抵抗の増大を抑制することができる。
【0013】
また、前記燃料電池システムにおいて、制御手段は、燃料電池の発電時における湿度に応じて、燃料電池に対して作用させる締結荷重を切り替えるように締結手段を制御することもできる。
【0014】
かかる構成を採用することにより、燃料電池の発電時における湿度の変動に起因して電解質膜に面内方向における応力が作用した場合においても、電解質膜の面内方向における伸縮(膨張又は収縮)を許容して電解質膜の歪みを抑制することができる。
【0015】
また、本発明に係る燃料電池システムは、電解質膜及びこの電解質膜を挟持するセパレータを有する燃料電池と、セパレータを電解質膜に押し付けるような締結荷重を作用させる締結手段と、を備え、締結荷重を発電中に間欠的に変化させるように構成したものである。
【0016】
また、本発明に係る燃料電池システムの制御方法は、電解質膜及びこの電解質膜を挟持するセパレータを有する燃料電池と、セパレータを電解質膜に押し付けるような締結荷重を作用させる締結手段と、を備え、締結手段は、電解質膜の面内方向における伸縮を許容する第1の締結荷重と、この第1の締結荷重よりも大きく電解質膜の面内方向における伸縮を許容しない第2の締結荷重と、を切り替えて作用させるように構成された燃料電池システムの制御方法であって、燃料電池の発電を停止させる際に、燃料電池に対して第1の締結荷重を作用させる第1の工程と、燃料電池の発電を開始させる際に、燃料電池に対して第2の締結荷重を作用させる第2の工程と、燃料電池の発電時における温度が所定の閾値を超える場合に、燃料電池に作用させる締結荷重を第2の締結荷重から第1の締結荷重に切り替え、燃料電池に対して第1の締結荷重を所定時間作用させた後に第2の締結荷重に切り替える第3の工程と、を含むものである。
【0017】
かかる方法によれば、燃料電池の発電停止に起因して電解質膜が冷却される場合において、電解質膜の面内方向における収縮を許容して、電解質膜の歪みを抑制することができる。一方、燃料電池の発電を開始させる際においては、所要の締結荷重(第2の締結荷重)を作用させることができ、燃料電池の電解質膜と拡散層との間の接触抵抗の増大を抑制することができる。また、燃料電池の温度が上昇して電解質膜が加温された場合においても、電解質膜の面内方向における膨張を許容して電解質膜の歪みを抑制することができる。そして、電解質膜の膨張を許容した後、速やかに第2の締結荷重を作用させて接触抵抗の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料電池の電解質膜における歪みの発生を充分に抑制して、発電効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1について説明する。以下の実施形態に係る燃料電池システム1は、燃料電池に対する締結荷重を間欠的に変化させることができるものである。
【0020】
まず、図1を用いて、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1の構成について説明する。燃料電池システム1は、図1に示すように、燃料電池10、燃料電池10のスタック本体12に対して締結荷重を作用させる電動アクチュエータ20、燃料電池10の発電時における温度を検出する温度計、燃料電池10の発電時における湿度を検出する湿度計、各種電子機器の動作を制御する制御装置30、等を備えて構成されている。なお、温度計及び湿度計については、図示を省略している。
【0021】
燃料電池10は、図1に示すように、複数の単電池11を積層したスタック本体12を備えており、スタック本体12の両端に位置する単電池11の外側に、導電プレート13、出力端子付のターミナルプレート14、インシュレータ15及びエンドプレート16がこの順に配置されて構成されている。両エンドプレート16の間にはロッド17が配置されており、下方のエンドプレート16にロッド17の一端が固定されている。上方のエンドプレート16には、ロッド17を挿通させる図示されていない孔が設けられており、ロッド17に対する上方のエンドプレート16の上下動が許容されるようになっている。
【0022】
燃料電池10を構成する単電池11は、イオン交換膜からなる電解質膜、この電解質膜の両面に設けられた一対の電極、電解質膜を外側から挟持する一対のセパレータ、で電解質膜とセパレータとの間に配置されるシール部材、等を備えて構成されている。電解質膜の電極には、ガスが電極に到達する前にガスを拡散させる拡散層が積層されている。セパレータは、例えば金属を基材とする導通体であり、各電極に空気等のカソードガス及び水素ガス等のアノードガスを供給するための流体流路を有し、互いに隣接する単電池11に供給される異種流体の混合を遮断する役割を果たす。かかる構成により、単電池11の電解質膜で電気化学反応が生じて起電力が得られることとなる。なお、この電気化学反応は発熱反応であることから、セパレータには、燃料電池冷却用の冷媒を流すための流体流路が設けられている。
【0023】
通電プレート13は、カーボンやメタル等を基材として形成された導電性を有する板状体であり、図1に示すようにスタック本体12の両端に位置する単電池11と、ターミナルプレート15と、の間に設けられている。燃料電池10の各単電池11で発生した電気は、通電プレート13を介してターミナルプレート14に集電される。ターミナルプレート14は、鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属で板状に形成されており、集電機能を有するものである。インシュレータ15は、ポリカーボネートなどの樹脂材料により板状に形成されており、ターミナルプレート14とエンドプレート16とを絶縁する機能を果たすものである。エンドプレート16は、ターミナルプレート14と同様に、各種金属(鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等)で板状に形成される。
【0024】
電動アクチュエータ20は、図1に示すように、上方のエンドプレート16の上面に取り付けられている。電動アクチュエータ20は制御装置30の制御の下で駆動され、上方のエンドプレート16を上下方向に移動させることにより、燃料電池10のスタック本体12に対して締結荷重(各単電池11においてセパレータを電解質膜に押し付けるような力)を作用させるものである。すなわち、電動アクチュエータ20は、本発明における締結手段の一実施例である。
【0025】
本実施形態における電動アクチュエータ20は、各単電池11の電解質膜の面内方向における伸縮を許容する第1の締結荷重「P1」と、この第1の締結荷重「P1」よりも大きく電解質膜の面内方向における伸縮を許容しない第2の締結荷重「P2」と、を燃料電池10のスタック本体12に対して作用させるように構成されている。なお、第1の締結荷重「P1」の大きさは、各単電池11の電解質膜の面内方向における伸縮を許容すると同時に、アノードガスやカソードガスを各単電池11から外部に漏出させないような値に設定しておく。
【0026】
温度計及び湿度計は、燃料電池10の発電時における温度及び湿度を各々検出するものである。これら温度計及び湿度計で検出された温度及び湿度に係る情報は、制御装置30に伝送され、電動アクチュエータ20の制御に使用される。
【0027】
制御装置30は、燃料電池システム1の各種電子機器の動作を統合制御するものである。制御装置30は、燃料電池10の発電を停止させる際に燃料電池10に対して第1の締結荷重「P1」を作用させる一方、燃料電池10の発電を開始させる際に燃料電池10に対して第2の締結荷重「P2」を作用させるように電動アクチュエータ20を制御する。
【0028】
また、制御装置30は、燃料電池10の発電時における温度及び湿度に応じて、燃料電池10に対して作用させる締結荷重を切り替えるように電動アクチュエータ20を制御する。例えば、制御装置30は、燃料電池10の発電時における温度が所定の閾値を超える場合に、燃料電池10に対して作用させる締結荷重を第2の締結荷重「P2」から第1の締結荷重「P1」に切り替え、燃料電池10に対して第1の締結荷重「P1」を所定時間作用させた後に第2の締結荷重「P2」に切り替えるように電動アクチュエータ20を制御する。すなわち、制御装置30は本発明における制御手段の一実施例である。
【0029】
次に、図2〜図5を用いて、本実施形態に係る燃料電池システム1の締結荷重制御方法について説明する。
【0030】
<温度参照型制御>
最初に、燃料電池10の運転状態及び発電時における温度に基づいた締結荷重制御方法を、図2及び図3を用いて説明する。図2は、温度参照型の締結荷重制御方法を説明するためのグラフであり、縦軸に締結荷重及び温度を、横軸に時間を、各々とることとしている。また、図3は、温度参照型の締結荷重制御方法を説明するためのフローチャートである。
【0031】
まず、制御装置30は、燃料電子システム1の各種機器を制御して燃料電池10による発電を開始させると同時に、燃料電池10のスタック本体12に対して第2の締結荷重「P2」を作用させるように電動アクチュエータ20を制御する(高荷重印加工程:S1)。
【0032】
次いで、制御装置30は、燃料電池10が発電を継続しているか否かを判定し(発電継続判定工程:S2)、燃料電池10が発電を継続していると判定した場合には、引き続き第2の締結荷重「P2」を作用させて、後述する温度判定工程S6に移行する。一方、発電継続判定工程S2で燃料電池10が発電を停止したと判定した場合には、制御装置30は、燃料電池10のスタック本体12に対して第1の締結荷重「P1」を作用させるように電動アクチュエータ20を制御する(低荷重印加工程:S3)。燃料電池10が発電を停止すると、図2に示すように燃料電池10の温度が低下していく。
【0033】
その後、制御装置30は、燃料電池10が発電を再開したか否かを判定し(発電再開判定:S4)、発電を再開したと判定した場合には、燃料電池10のスタック本体12に対して第2の締結荷重「P2」を作用させるように電動アクチュエータ20を制御する(高荷重再印加工程:S5)。一方、発電を再開しないと判定した場合には、そのまま制御を終了する。燃料電池10が発電を再開すると、図2に示すように燃料電池10の温度が上昇していく。
【0034】
発電継続判定工程S2で燃料電池10が発電を継続していると判定した場合、又は、発電再開判定工程S4で燃料電池10が発電を再開して第2の締結荷重「P2」を再印加した場合において、制御装置30は、燃料電池10の発電時における温度を検出し、検出した温度が所定の閾値T0を超えるか否かを判定する(温度判定工程:S6)。
【0035】
そして、検出した温度が所定の閾値T0を超える場合には、制御装置30は、燃料電池10に作用させる締結荷重を第2の締結荷重「P2」から第1の締結荷重「P1」に切り替え、燃料電池10に対して第1の締結荷重「P1」を所定時間Δtだけ作用させた後、第2の締結荷重「P2」に切り替える(一時荷重低減工程:S7)。一方、検出した温度が所定の閾値T0以下の場合には、一時荷重低減工程S7を経ることなく制御を終了する。
【0036】
<湿度参照型制御>
続いて、燃料電池10の発電時における湿度に基づいた締結荷重制御方法を、図4及び図5を用いて説明する。図4は、湿度参照型の締結荷重制御方法を説明するためのグラフであり、縦軸に締結荷重及び湿度を、横軸に時間を、各々とることとしている。また、図5は、湿度参照型の締結荷重制御方法を説明するためのフローチャートである。本方法においては、燃料電池10による発電が継続していることとする。
【0037】
まず、制御装置30は、燃料電子システム1の各種機器を制御して燃料電池10による発電を開始させると同時に、燃料電池10のスタック本体12に対して第2の締結荷重「P2」を作用させるように電動アクチュエータ20を制御する(高荷重印加工程:S11)。発電を開始すると、燃料電池10の各温度が上昇して、図4に示すように燃料電池10の湿度が低下していく。
【0038】
次いで、制御装置30は、燃料電池10の発電時における湿度を検出し、検出した湿度が所定の閾値H0未満であるか否かを判定する(湿度判定工程:S12)。そして、検出した湿度が所定の閾値H0未満である場合には、制御装置30は、燃料電池10に作用させる締結荷重を第2の締結荷重「P2」から第1の締結荷重「P1」に切り替え、燃料電池10に対して第1の締結荷重「P1」を所定時間Δtだけ作用させた後、第2の締結荷重「P2」に切り替える(一時荷重低減工程:S13)。一方、検出した湿度が所定の閾値H0以上の場合には、一時荷重低減工程S13を経ることなく制御を終了する。
【0039】
一時荷重低減工程S13を経た後においても、燃料電池10の各単電池11における発電に伴って生成される水分(生成水)により、図4に示すように燃料電池10の湿度が上昇する。このため、制御装置30は、燃料電池10の発電時における湿度を再び検出し、検出した湿度が所定の閾値H0を超えるか否かを判定する(湿度再判定工程:S14)。
【0040】
そして、検出した湿度が所定の閾値H0を超える場合には、制御装置30は、燃料電池10に作用させる締結荷重を第2の締結荷重「P2」から第1の締結荷重「P1」に切り替え、燃料電池10に対して第1の締結荷重「P1」を所定時間Δtだけ作用させた後、第2の締結荷重「P2」に切り替える(一時荷重低減工程:S15)。一方、検出した湿度が所定の閾値H0以上の場合には、一時荷重低減工程S15を経ることなく制御を終了する。
【0041】
なお、以上の方法における低荷重印加工程S4は、本発明における第1の工程の一実施例に相当し、高荷重印加工程S1、S11及び高荷重再印加工程S5は、本発明における第2の工程の一実施例に相当する。また、温度判定工程S6及び一時荷重低減工程S7は、本発明における第3の工程の一実施例に相当する。
【0042】
以上説明した実施形態に係る燃料電池システム1においては、燃料電池10に対して、電解質膜の面内方向における伸縮を許容する第1の締結荷重「P1」と、この第1の締結荷重「P1」よりも大きく電解質膜の面内方向における伸縮を許容しない第2の締結荷重「P2」と、を切り替えて作用させることができる。
【0043】
具体的には、燃料電池10の発電を停止させる際に燃料電池10に対して第1の締結荷重「P1」を作用させるので、発電停止に起因して電解質膜が冷却される場合においても、電解質膜の面内方向における収縮を許容して、電解質膜の歪みを抑制することができる。一方、燃料電池10の発電を開始させる際に燃料電池10に対して第2の締結荷重「P2」を作用させるので、燃料電池10の電解質膜と拡散層との間の接触抵抗の増大を抑制することができる。
【0044】
また、燃料電池10の発電時における温度が上昇して電解質膜が加温された場合においても、電解質膜の面内方向における膨張を許容して電解質膜の歪みを抑制することができる。そして、電解質膜の膨張を許容した後、速やかに第2の締結荷重「P2」を作用させて接触抵抗の増大を抑制することができる。さらに、燃料電池10の発電時における湿度の変動に起因して電解質膜に面内方向における応力が作用した場合においても、電解質膜の面内方向における伸縮(膨張又は収縮)を許容して電解質膜の歪みを抑制することができる。
【0045】
すなわち、燃料電池10の運転状態、温度及び湿度に応じて、燃料電池10に対して作用させる締結荷重を変化させることができるので、電解質膜の歪みを充分に抑制することができ、発電効率を向上させることができる。
【0046】
なお、以上の実施形態においては、複数の単電池を積層したスタック本体に対して締結荷重を作用させる燃料電池システムに本発明を適用した例を示したが、単電池のみに対して締結荷重を作用させる燃料電池システムにも本発明を適用することができる。
【0047】
また、以上の実施形態においては、締結手段として電動アクチュエータを採用した例を示したが、燃料電池のスタック本体に締結荷重を作用させることができるものであればこれに限られるものではなく、例えば油圧アクチュエータや空気圧アクチュエータを締結手段として採用することもできる。
【0048】
また、以上の実施形態においては、締結手段及び制御手段として電動アクチュエータ及び制御装置を採用した例を示したが、これら電動アクチュエータ及び制御装置に代えて、温度(又は湿度)に応じて長さがセル積層方向に伸縮する特定の部材を燃料電池の両エンドプレートの間に配置し、この部材を両エンドプレートに締結することもできる。かかる構成を採用した場合においても、燃料電池の発電時における温度(又は湿度)に応じて、燃料電池に対して作用させる締結荷重を切り替えることができ、前記実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、かかる場合には、前記した特定の部材が本発明における締結手段及び制御手段として機能することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムを示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの温度参照型の締結荷重制御方法を説明するためのグラフである。
【図3】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの温度参照型の締結荷重制御方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの湿度参照型の締結荷重制御方法を説明するためのグラフである。
【図5】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの湿度参照型の締結荷重制御方法を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1…燃料電池システム、10…燃料電池、20…電動アクチュエータ(締結手段)、30…制御装置(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜及びこの電解質膜を挟持するセパレータを有する燃料電池と、前記セパレータを前記電解質膜に押し付けるような締結荷重を作用させる締結手段と、を備える燃料電池システムであって、
前記電解質膜の面内方向における伸縮を許容する第1の締結荷重と、この第1の締結荷重よりも大きく前記電解質膜の面内方向における伸縮を許容しない第2の締結荷重と、を切り替えて作用させるように前記締結手段を制御する制御手段を備える燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記燃料電池の発電を停止させる際に前記燃料電池に対して前記第1の締結荷重を作用させる一方、前記燃料電池の発電を開始させる際に前記燃料電池に対して前記第2の締結荷重を作用させるように前記締結手段を制御する請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記燃料電池の発電時における温度に応じて、前記燃料電池に対して作用させる締結荷重を切り替えるように前記締結手段を制御する請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記燃料電池の発電時における温度が所定の閾値を超える場合に、前記燃料電池に対して作用させる締結荷重を前記第2の締結荷重から前記第1の締結荷重に切り替え、前記燃料電池に対して前記第1の締結荷重を所定時間作用させた後に前記第2の締結荷重に切り替えるように前記締結手段を制御する請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記燃料電池の発電時における湿度に応じて、前記燃料電池に対して作用させる締結荷重を切り替えるように前記締結手段を制御する請求項1から4の何れか一項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
電解質膜及びこの電解質膜を挟持するセパレータを有する燃料電池と、前記セパレータを前記電解質膜に押し付けるような締結荷重を作用させる締結手段と、を備え、前記締結荷重を発電中に間欠的に変化させるように構成した燃料電池システム。
【請求項7】
電解質膜及びこの電解質膜を挟持するセパレータを有する燃料電池と、前記セパレータを前記電解質膜に押し付けるような締結荷重を作用させる締結手段と、を備え、前記締結手段は、前記電解質膜の面内方向における伸縮を許容する第1の締結荷重と、この第1の締結荷重よりも大きく前記電解質膜の面内方向における伸縮を許容しない第2の締結荷重と、を切り替えて作用させるように構成された燃料電池システムの制御方法であって、
前記燃料電池の発電を停止させる際に、前記燃料電池に対して前記第1の締結荷重を作用させる第1の工程と、
前記燃料電池の発電を開始させる際に、前記燃料電池に対して前記第2の締結荷重を作用させる第2の工程と、
前記燃料電池の発電時における温度が所定の閾値を超える場合に、前記燃料電池に作用させる締結荷重を前記第2の締結荷重から前記第1の締結荷重に切り替え、前記燃料電池に対して前記第1の締結荷重を所定時間作用させた後に前記第2の締結荷重に切り替える第3の工程と、
を含む燃料電池システムの制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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