説明

燃料電池システム

【課題】全ての燃料電池スタックの温度が効率よく発電可能な温度域に達するまでに要する時間を短縮する。
【解決手段】ECU5が、温度センサ3の検出結果に従って燃料電池スタック1a,1b,1cの発電電力を供給する加温装置2を切り換えることにより、加温する燃料電池スタックを切り換える。これにより、燃料電池スタック1a,1b,1cの温度が効率よく発電可能な温度域に達するまでに要する時間を短縮することができる。また、ECU5は、温度センサ3の検出結果に従って加温する燃料電池スタックを決定するので、加温する燃料電池スタックを適切に選択することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料電池スタックを積層した燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複数の燃料電池スタックを積層した燃料電池システムを車両に搭載する場合、積層方向の寸法を小さく抑えて大きい発電電圧を得るために、燃料電池の積層数が少ない複数の燃料電池スタックを直列に接続して使用している。また、積層方向の寸法を小さくする必要がない場合であっても、燃料電池システムの効率や信頼性を確保するために、積層方向以外の方向の寸法が小さい複数の燃料電池スタックを並列に接続して使用している(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開平5−315001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、複数の燃料電池スタックを積層することにより燃料電池システムを構成した場合、燃料電池スタック間に温度分布が生じてしまうために、寒冷時における始動直後等の冷機状態下では、全ての燃料電池スタックの温度が効率よく発電可能な温度域に達するまでに多くの時間を要する。
【0004】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、全ての燃料電池スタックの温度が効率よく発電可能な温度域に達するまでに要する時間を短縮することが可能な燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するために、本発明に係る燃料電池システムは、各燃料電池スタックの状態を検出するセル状態監視手段と、燃料電池スタック毎に設けられ、燃料電池スタックの発電電力を利用して燃料電池スタックを加温する加温手段と、セル状態監視手段の検出結果に従って燃料電池スタックの発電電力を供給する加温手段を切り換えることにより、加温する燃料電池スタックを切り換える加温制御手段とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る燃料電池システムによれば、燃料電池スタックの発電電力を利用して各燃料電池スタックを加温することができるので、全ての燃料電池スタックの温度が効率よく発電可能な温度域に達するまでに要する時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる燃料電池システムの構成について説明する。
【0008】
〔燃料電池システムの構成〕
本発明の実施形態となる燃料電池システムは、車両に搭載され、図1に示すように、鉛直方向に積層された複数の燃料電池スタック1a,1b,1cと、各燃料電池スタックの上面側及び下面側に配設された加温装置2と、各燃料電池スタックの上面側及び下面側に配設された温度センサ3と、燃料電池スタック1a,1b,1cを収容するケース4と、燃料電池システム全体の動作を制御するECU5とを主な構成要素として備える。なお、上記加温装置2,温度センサ3,及びECU5はそれぞれ、図2に示す本発明に係る加温手段13,温度計測手段11,及び加温制御手段12として機能する。
【0009】
上記燃料電池スタック1a,1b,1cは、水平方向に積層された複数の燃料電池を集電板及び絶縁板で挟持することにより形成され、各燃料電池は、燃料極及び酸化剤極にそれぞれ水素及び空気の供給を受けて発電する。なお、燃料極及び酸化剤極における電気化学反応及び燃料電池スタック全体としての電気化学反応は以下に示す式(1)〜(3)による。また、この実施形態では、燃料電池スタック1a,1b,1cは、鉛直方向1列に積層されているが、水平方向や複数列に積層してもよい。また、燃料電池スタックを構成する燃料電池は、水平方向に積層されているが、鉛直方向に積層してもよい。また、燃料電池スタックの積層数は3つに限られることはない。
【0010】
〔化1〕
〔燃料極〕 H2 → 2H+ +2e- …(1)
〔酸化剤極〕 1/2 O2 +2H+ +2e- → H2O …(2)
〔全体〕 H2 +1/2 O2 → H2O …(3)
上記加温装置2は、ラバーシートにヒータ線を埋め込むことにより形成されたラバーヒータにより構成され、加温装置2と各燃料電池スタック間はラバーシートにより絶縁性が確保されている。そして、加温装置2は、ECU5の制御に従って燃料電池スタック1a,1b,1cの発電電力を利用して燃料電池スタックを加温する。なお、加温装置2の構成は、燃料電池スタック1a,1b,1cを加温可能、且つ、加温装置2と各燃料電池スタック間の絶縁性を確保可能な構成であればどのような構成であってもよい。
【0011】
上記温度センサ3は、各燃料電池スタックの温度を計測する。なお、この実施形態では、温度センサ3は、各燃料電池スタックの表面温度を計測するが、燃料電池スタックの内部温度を計測するようにしてもよい。また、温度センサ3を加温装置2内部に埋め込み、温度センサ3の検出値を加温装置2に接する燃料電池スタックの表面温度として推定することにより、燃料電池スタックの温度を計測してもよい。
【0012】
上記ケース4には、図示しないが、燃料電池スタック1a,1b,1cと外部との間で水素,空気,冷却水等の媒体の供給/排出を行うための配管や、ECU5がケース内部の構成要素の制御を行うための制御線が設けられている。
【0013】
そして、このような構成を有する燃料電池システムが、ECU5が以下に示す加温制御処理を実行することにより、燃料電池スタック1a,1b,1cの暖機に要する時間を短縮する。以下、図3を参照して、この加温制御処理を実行する際のECU5の動作について説明する。
【0014】
〔加温制御処理〕
一般に、燃料電池スタックの温度は、燃料電池システムが暖機状態で運転停止後、放熱により時間の経過に伴い低下する。そして、複数の燃料電池スタックが図1に示すような構成を有する場合、外側に位置する燃料電池スタック1a,1cの温度はケース4を通して外気に放出される熱量が大きいために早く低下し、逆に、内側に位置する燃料電池スタック1bの温度は外気への放熱がしにくいために遅く低下する。このため、再起動時には、燃料電池スタック1bの温度が燃料電池スタック1a,1cの温度より高い状態であることが多い。また、再起動後も、燃料電池スタック1a,1cの外気への放熱量は多いために、燃料電池スタック1a,1cは燃料電池スタック1bと比較して暖機に多くの時間を要する。このため、ECU5は以下の加温制御処理により燃料電池スタック1a,1b,1cの暖機に要する時間を短縮する。
【0015】
この加温制御処理では、燃料電池システムが再起動(燃料電池への水素と空気の供給開始)されるのに応じて、ECU5が、温度センサ3を介して各燃料電池スタックの温度を検出する。そして、ECU5は、検出結果に従って、効率よく発電可能な温度域より低い温度(以下、低温状態と表記)の燃料電池スタックがあるか否かを判別し、低温状態の燃料電池スタックがある場合、加温装置2を制御することによりその燃料電池スタックを加温する。具体的には、燃料電池スタック1a,1b,1cの全てが低温状態である場合、ECU5は、図3に示すように、燃料電池スタック1a,1b,1cの発電電力を全ての加温装置2に供給することにより、燃料電池スタック1a,1b,1cを加温する。一方、燃料電池スタック1a,1cが低温状態である場合には、ECU5は、図4に示すように、燃料電池スタック1a,1b,1cの発電電力を燃料電池スタック1a上面側の加温装置2と燃料電池スタック1c下面側の加温装置2に供給することにより、燃料電池スタック1a,1cを加温する。そして、ECU5は、温度センサ3の検出結果に従って低温状態の燃料電池スタックがあるか否かを周期的に監視し、低温状態の燃料電池スタックがなくなるのに応じて、図5に示すように、加温装置2への電力供給を停止し、燃料電池システムの運転状態を通常の運転状態に移行させる。
【0016】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態となる燃料電池システムによれば、ECU5が、温度センサ3の検出結果に従って燃料電池スタック1a,1b,1cの発電電力を供給する加温装置2を切り換えることにより、加温する燃料電池スタックを切り換えるので、燃料電池スタック1a,1b,1cの温度が効率よく発電可能な温度域に達するまでに要する時間を短縮することができる。また、ECU5は、温度センサ3の検出結果に従って加温する燃料電池スタックを決定するので、加温する燃料電池スタックを適切に選択することができる。
【0017】
また、本発明の実施形態となる燃料電池システムによれば、ECU5は、燃料電池スタックの積層位置に応じて加温する燃料電池スタックを切り換えるので、低温になりやすい燃料電池スタックを重点的に加温し、燃料電池スタック1a,1b,1cの温度が効率よく発電可能な温度域に達するまでに要する時間を効率的に短縮することができる。
【0018】
ここで、上記実施形態では、ECU5は、燃料電池スタック1a,1b,1cが低温状態である場合において加温装置2に電力を供給したが、図6に示すように、温度計測手段11の代わりに、燃料電池システム周部の温度を計測する環境温度判断手段21と燃料電池スタック1a,1b,1cの発電効率を演算する発電効率演算手段22を燃料電池システムに設け、燃料電池システム周部の温度が低く、且つ、燃料電池スタック1a,1b,1cの発電効率が低い場合に、加温装置2に電力を供給するようにしてもよい。このような構成によれば、温度センサ3を用いることなく、加温する燃料電池スタックを適切に選択することができる。なお、この場合、環境温度判断手段21としては、外気温を検出する温度センサを用いることが一般的であるが、車両にナビゲーション装置が搭載されている場合には、GPS情報や地図情報から得られる車両の位置,日付,時刻等の情報により燃料電池システム周部の温度を算出する等、その他の方法により燃料電池システム周部の温度を計測するようにしてもよい。また、発電効率演算手段22は、燃料電池スタック1a,1b,1cに供給される水素量及び空気量の少なくとも一方と燃料電池スタック1a,1b,1cの発電電力量から燃料電池スタック1a,1b,1cの発電効率を算出するとよい。
【0019】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態となる燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図3】全ての燃料電池スタックが低温状態である時の燃料電池スタックと加温装置の接続関係を示す図である。
【図4】上面側及び下面側の燃料電池スタックが低温状態である時の燃料電池スタックと加温装置の接続関係を示す図である。
【図5】全ての燃料電池スタックの暖機が完了した時の燃料電池スタックと加温装置の接続関係を示す図である。
【図6】図2に示す燃料電池システムの応用例の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0021】
1a,1b,1c:燃料電池スタック
2:加温装置
3:温度センサ
4:ケース
5:ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料電池スタックを積層した燃料電池システムであって、
各燃料電池スタックの状態を検出するセル状態監視手段と、
燃料電池スタック毎に設けられ、燃料電池スタックの発電電力を利用して燃料電池スタックを加温する加温手段と、
前記セル状態監視手段の検出結果に従って燃料電池スタックの発電電力を供給する加温手段を切り換えることにより、加温する燃料電池スタックを切り換える加温制御手段と
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記加温制御手段は、燃料電池スタックの積層位置に応じて加温する燃料電池スタックを切り換えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記セル状態監視手段は、各燃料電池スタックの温度を検出することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記セル状態監視手段は、燃料電池システム周囲の温度を検出する環境温度判断手段と、燃料電池スタックに供給される燃料ガス及び酸化剤ガスの少なくとも一方と燃料電池スタックの発電電力に基づいて各燃料電池スタックの発電効率を演算する発電効率演算手段とを備えることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−216362(P2006−216362A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−27664(P2005−27664)
【出願日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】