説明

燃料電池システム

【課題】 燃料電池スタック内からの生成水の排出が良好な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】 円盤状の単位燃料電池の複数個が中心部から円周方向に広がった流路を有する流路形成部材を介して積層され、燃料極側の流体の流路は円盤の中央に設けた燃料気体供給路と連通し、燃料極側流路形成部材の周囲はガスケットによって周囲が封口され、酸素極側流路形成部材の外周部は外部へ開放されており、前記燃料気体供給路は、燃料電池スタックの両端板の中央から燃料電池スタックの積層方向に取り出された燃料気体供給管および燃料気体排出管に連通し、燃料気体供給管および燃料気体排出管は水平に配置され、該燃料気体供給管および燃料気体排出管は、燃料電池スタックの積層方向と垂直な面内方向のみへの燃料電池スタックを変位可能とする燃料電池スタック保持部材によって保持された燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関し、特に電池反応で生成した水の排出が良好な燃料電池システムに関し、自動車等の移動式の燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料極と酸素極を電解質膜等を介して配置した単位燃料電池を複極板を介在させて電気的に直列に積層したものの複数個を直列、あるいは直並列に接続して、燃料電池スタックを形成している。
燃料電池スタックの燃料極には燃料供給手段によって水素等の燃料が供給されており、酸素極に供給される空気中の酸素との電池反応によって発電し、燃料電池内において生成した水が外部へ排出されている。ところが、燃料電池スタック内部の流路に発生した水分が滞留し、空気の流通が阻害され、燃料電池の性能の低下等の問題を生じる可能性があった。
この問題を解決するものとしては、燃料電池スタックに回転軸を設け、この回転軸をモータで駆動して振動を与えることで流路に滞留した水を排出する振動装置を設けた燃料電池システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−208423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の発明は、電力を必要とするために現実的ではない。そこで、本発明は、燃料電池スタック内部から電池反応によって生成した水が速やかに排出され、空気の円滑な供給が可能な燃料電池システムを提供することを課題とするものであって、特に電力を必要とする振動装置を必要とせず、速やかな水の排出と空気の円滑な供給を可能とする燃料電池システムを供給することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、円盤状の単位燃料電池の複数個が中心部から円周方向に広がった流路を有する流路形成部材を介して積層され、燃料極側の流体の流路は円盤の中央に設けた燃料気体供給路と連通し、燃料極側流路形成部材の周囲はガスケットによって周囲が封口され、酸素極側流路形成部材の外周部は外部へ開放されており、前記燃料気体供給路は、燃料電池スタックの両端板の中央から燃料電池スタックの積層方向に取り出された燃料気体供給管および気体排出管に連通し、燃料気体供給管および燃料気体排出管は水平に配置され、該燃料気体供給管および燃料気体排出管は、燃料電池スタックの積層方向と垂直な面内方向のみへの燃料電池スタックを変位可能とする燃料電池スタック保持部材によって保持された燃料電池システムである。
燃料電池スタック保持部材が、燃料気体供給管および燃料気体排出管と係合するガイドレールからなる前記の燃料電池システムである。
燃料気体供給管および燃料気体排出管には、可撓性の気体配管が結合されている前記の燃料電池システムである。
前記気体配管が接合部が気密を保持した状体で回転可能な継手によって結合されている前記の燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の構成によれば、円盤状であってあって酸素極側の周囲が開放した単位燃料電池の複数個を積層した燃料電池スタックを積層方向と垂直な面内方向のみへの燃料電池スタックを変位可能とする燃料電池スタック保持部材によって保持したので、自動車に装着した場合に加わる振動、遠心力等によって燃料電池スタックを移動させることによって燃料電池内で生成した水を速やかに排出させ、水による閉塞が生じない燃料電池システムを提供することができる。
また、請求項2の構成によれば、燃料電池スタックを振動等によって円滑に変位させることが可能となるので、燃料電池内で生成した水を速やかに排出させ、水による閉塞が生じない燃料電池システムを提供することができる。
【0006】
また、請求項3の構成によれば、燃料電池スタックの円滑な動きを可能とする。
請求項4記載の構成によれば、気体の漏洩を防止し、燃料電池スタックの円滑な動きを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、自動車用の燃料電池として好適な固体高分子燃料電池を使用した小型の燃料電池システムにおいて、単位燃料電池の複数個を積層した燃料電池スタック内部から生成した水の排出が円滑に行われ、水の滞留による燃料電池反応あるいは空気の供給の阻害が生じることがなく、冷却水による冷却および燃料電池スタックの周囲からの空気の流入および流出、冷却水の供給を行う構造とすることが可能であることを見出したものである。
また、燃料電池を装着した自動車の走行時の振動、あるいは遠心力等を積極的に活用し、燃料電池スタックに自転的運動あるいは公転的運動をさせることによって、電池反応で生成した水滴を速やかに排出させることが可能であることを見出したものである。
【実施例】
【0008】
以下に実施例を示し、本発明の燃料電池システムを説明する。
図1は、本発明の燃料電池システムを説明する図である
燃料電池システム1は、筐体1A内に取り付けた燃料電池スタック2、燃料供給系31、燃料排出系32、空気供給系4、冷却水供給系51、および冷却水排出系52から構成されている。
燃料供給系31は圧縮水素ボンベ、水素吸蔵合金等の水素貯蔵手段、調圧弁、圧力センサ等から構成されており、可撓性燃料配管33Aを、回転自在で気密性を保持することが可能な回転自在継手34Aによって燃料電池スタック2の燃料供給管23へ結合されれて、燃料電池スタック2へ所定の流量で水素が供給される。
また、燃料電池スタック2から排出される水素は、燃料排出管24に結合された回転自在継手34Bによって可撓性燃料配管33Bに接続されて、燃料排出系32によって処理される。
【0009】
空気供給系4から、ファン41によって空気42が供給される。また、空気供給系4には、冷却水供給系51から燃料電池スタック2を冷却する冷却水53が冷却水供給ノズル54から噴射される。
燃料電池スタック2の内部の燃料供給路から供給された水素と、燃料電池スタックの周囲から供給された空気中の酸素は、電池反応によって電気を発生するとともに水を生成する。また、酸素濃度が低下した空気は筐体1Aの壁面の空気排出口43から排出される。更に、冷却水および電池反応で生成した水は冷却水排出系52から排出され再利用される。
【0010】
本発明の燃料電池スタック2は、両端部に端板21を配置し、複数個の単位燃料電池22をセパレータを介して積層したものであって、燃料供給管23および燃料排出管24は、水平に配置されてガイドレールを備えた保持部材8によって保持されている。また、燃料供給管23および燃料排出管24には、変位制限部材81が装着されており、燃料電池スタック2は、積層方向と垂直な面内方向に移動できる構造となっている。
【0011】
本発明の燃料電池システムは、自動車の振動、遠心力等を受けると燃料電池スタックは、燃料供給管23および燃料排出管24の周囲に回転する自転的運動と、保持部材8のガイドレール上を移動する公転的運動とを行って、燃料電池スタック内で生成した水を周囲へ円滑に排出する。
【0012】
図2は、酸素極側流路形成部材の一例を説明する図であり、流路形成部材がセパレータを兼ねた例を説明している。
酸素極側流路形成部材25Bは、円盤の中央部に燃料通路27を有し、燃料が酸素極側に漏洩しないようにするガスケット装着部28を有している。
円盤状の部材の中央部から周辺部に向かって、酸素の供給および排出を行う流路26を形成する周辺部ほど相互の間隔が大きくなった水車状の凸条部29が形成されている。酸素極側流路形成部材25Bは、各単位燃料電池の電極に対して気体を供給するセパレータに所定の形状の凸条部を形成したり、あるいは複極板の表面に同様に凸条部を形成することによって製造することができる。
このように、酸素極側流路形成部材25Bにおいて、中央部から周辺部に向かって幅が大きくなる流路26を形成したので、自動車の振動等に応じて燃料電池スタック2が保持部材上を移動するとそれに伴って、酸素極側流路形成部材25Bの周辺部25Cから水が外部へ排出される。
その結果、燃料電池で生成した水が円滑に排出されるので、燃料電池内部において水による閉塞が生じることを防止することができる。
【0013】
図3は、本発明の燃料電池スタックの一例を説明する図である。
燃料電池スタック2は、両端部に端板21を配置して、単位燃料電池22を、燃料極側流路形成部材25A、酸素極側流路形成部材25Bを介して積層し、両側の端板21を締め付けボルト2Aによって固定されている。
燃料電池スタック2の上部から供給される空気42と冷却水53が、燃料電池スタック2の周囲から供給されるとともに、電池反応で生成した生成水55も周囲に排出される。
【0014】
図4は、本発明の燃料電池スタックの流路を説明する図である。
図4(A)は、燃料電池スタックの一部を拡大した断面図である。 図4(B)は、燃料極側流路形成部材を説明する図であり、図4(C)は、酸素極側流路形成部材を説明する図である。
単位燃料電池22は、固体高分子電解質膜22Bの両面に負極22A、正極22Cを配置し、中央部に燃料流路27を有している。
負極室の外周部22Dにはガスケット22Eが配置されて、負極室内を外部から封口している。一方、酸素極側流路形成部材の外周部25Cは外部へ開放している。
【0015】
また、酸素極側流路形成部材25Bには、中央部に燃料極側の気体の侵入を防ぐガスケット装着部28が形成されており、燃料電池スタックを組み立てた際には、燃料極側と酸素極側の気体が混合しないようにされている。
酸素極側流路形成部材、燃料極側流路形成部材のいずれも、遠心力、振動による作用により水が排出しやすい構造、すなわち円盤状の部材の中央部から周辺部に向かって、流路26を形成する周辺部ほど相互の間隔が大きくなった水車状の凸条部29が形成されている。
【0016】
図5は、本発明の燃料電池システムにおける燃料電池スタックの変位を説明する図である。
図5(A)は、本発明の燃料電池システムを説明する側面図であり、図5(B)および図5(C)は、保持部材側から積層方向から見た図である。
図5(A)に示すように、燃料電池スタック2が水平方向に保持部材8に装着されると、保持部材に設けた変位制限部材81の作用によって、積層方向と垂直な面内のみの変位に制限される。
図5(B)に示すように保持部材8には、円弧状部82にガイドレールが形成されている。燃料電池スタック2に力が加わらない場合には、燃料電池スタックに装着した燃料配管による力とつり合った状態、すなわち図5(B)においてAで示すように保持部材8に形成した円弧上部の下部83において保持される。
その結果、燃料電池スタックは、自動車の振動によって下部83を中心にして燃料電池スタックの軸を中心とした自転的な回転運動を行う。
【0017】
次いで、自動車の走行時の大きな振動が加わると、燃料電池スタックへ結合された燃料配管による抗力との平衡関係が維持されなくなり、図5(B)においてBで示すように円弧の水平な弦に相当する位置に配置した水平ガイドレール84の部分に達するが、やがては元の下部83へと落下する。
このように、上昇および落下する際に加わる力が燃料電池スタックに作用する結果、燃
料電池内部から水が排出される。
【0018】
図5(C)は、自動車が旋回等を行った際に遠心力が作用した場合を説明する図である。下部83において平衡した燃料電池スタックに遠心力が作用すると円弧の端部であって、円弧の弦に相当する部分に配置した水平ガイドレールとの交点85まで達し、遠心力が作用しなくなると再び下部83まで落下する。
このように自動車の走行による振動、あるいは遠心力によって燃料電池スタックを変位させる力が作用し、その結果燃料電池スタック内から水をはじき飛ばす力が作用する。
【0019】
本発明の燃料電池システムにおいては、燃料電池に対して大きな衝撃が加わったり、急坂等の長時間走行によって一方向に押しつけられる状態が長く継続する場合には、振動、傾斜角、加速度等をセンサーによって検出して燃料電池スタックを一時的に固定する固定手段86を設けても良い。
また、急ブレーキ時や、滑りやすい路面状態等のように自動車の動きが不安定となる場合にも、燃料電池スタックの動きが自動車の操縦安定性に悪影響を及ぼす可能性があるので、このような場合にも加速度センサー等の検出信号によって、同様に固定手段86によって固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の燃料電池システムは、燃料電池スタックを自動車に搭載した場合に、燃料電池に加わる自動車の振動あるいは衝撃を燃料電池スタックを制限された条件の元で加わるようにすることによって燃料電池内で生成した水を燃料電池外へ円滑に排出することができるようにしたので、水による燃料電池の閉塞を防止することが可能となり、燃料電池システムに極めて有用である
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の燃料電池システムを説明する図である
【図2】図2は、酸素極側流路形成部材の一例を説明する図である。
【図3】図3は、本発明の燃料電池スタックの一例を説明する図である。
【図4】図4は、本発明の燃料電池スタックの流路を説明する図である。
【図5】図5は、本発明の燃料電池システムにおける燃料電池スタックの変位を説明する図である。
【符号の説明】
【0022】
1…燃料電池システム、1A…筐体、2…燃料電池スタック、2A…締め付けボルト、21…端板、22…単位燃料電池、22A…負極、22B…固体高分子電解質膜、22C…正極、22D…外周部、22E…ガスケットが配置されて、23…燃料供給管、24…燃料排出管、25A…燃料極側流路形成部材、25B…酸素極側流路形成部材、25C…外周部、26…流路、27…燃料通路、28…ガスケット装着部、29…凸条部、31…燃料供給系、32…燃料排出系、33A,33B…可撓性燃料配管、34A,34B…回転自在継手、4…空気供給系、41…ファン、42…空気、43…空気排出口、51…冷却水供給系、52…冷却水排出系、53…冷却水、54…冷却水供給ノズル、55…生成水、8…保持部材、81…変位制限部材、82…円弧状部、83…円弧状部の下部、84…水平ガイドレール、85…水平ガイドレールとの交点、86…固定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤状の単位燃料電池の複数個が中心部から円周方向に広がった流路を有する流路形成部材を介して積層され、燃料極側の流体の流路は円盤の中央に設けた燃料気体供給路と連通し、燃料極側流路形成部材の周囲はガスケットによって周囲が封口され、酸素極側流路形成部材の外周部は外部へ開放されており、前記燃料気体供給路は、燃料電池スタックの両端板の中央から燃料電池スタックの積層方向に取り出された燃料気体供給管および気体排出管に連通し、燃料気体供給管および燃料気体排出管は水平に配置され、該燃料気体供給管および燃料気体排出管は、燃料電池スタックの積層方向と垂直な面内方向のみへの燃料電池スタックを変位可能とする燃料電池スタック保持部材によって保持されたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
燃料電池スタック保持部材が、燃料気体供給管および燃料気体排出管と係合するガイドレールからなることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
燃料気体供給管および燃料気体排出管には、可撓性の気体配管が結合されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記気体配管が接合部が気密を保持した状体で回転可能な継手によって結合されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−257889(P2008−257889A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95575(P2007−95575)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】