説明

燃料電池システム

【課題】始動直後の燃料電池の出力性能を改善することが可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】燃料電池システム1の運転開始が指令されると、制御装置7は、測定インピーダンスメモリ70にアクセスし、前回システム停止時に格納した測定インピーダンスを読み出す。そして、制御装置7は、読み出した測定インピーダンスと、基準インピーダンスメモリ51に格納されている基準インピーダンスとを比較する。制御装置7は、測定インピーダンスが基準インピーダンスを上回っていることから、システム停止時に乾燥処理を行っていると判断すると湿潤処理を実行した後、Ready Onする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の乾燥処理を実行することができる燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
外部温度が低い場合には、燃料電池システムの停止後にその内部で発生した水が凍結し、配管や弁などが破損するといった問題や、凍結した水がガス流路を塞いでしまい、次回燃料電池を起動したときにガスの供給が妨げられて電気化学反応が十分に進行しないといった問題が発生する。
【0003】
このような問題に鑑み、外気温度の低い環境下でシステムの停止要求があった場合に、燃料電池の乾燥処理(掃気処理など)を実行することで、配管や弁などの凍結を防止する技術が提案されている(例えば下記特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−108832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、短時間システムを停止する場合(高速道路走行中に休憩する場合など)も同様に乾燥処理を実行し、その後、何ら処理を施すことなくそのまま次の始動を行うと、燃料電池の電解質膜が乾燥しすぎてしまい(いわゆるドライアップの発生)、燃料電池の出力が低下する等の問題が発生していた。
【0006】
本発明は、以上説明した事情を鑑みてなされたものであり、始動直後の燃料電池の出力性能を改善することが可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る燃料電池システムは、所定タイミングで燃料電池の乾燥処理を行う燃料電池システムであって、システム停止前の燃料電池のインピーダンス、および燃料電池の周辺部品の温度や外気温度を測定する測定手段と、前記測定結果に基づいて、システム停止時に前記乾燥処理を実行するか否かを判断する判断手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明の燃料電池システムによれば、始動直後の燃料電池の出力性能を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】システム停止時の処理フローを示すフローチャートである。
【図3】システム始動時の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】FC電流とFC電圧との関係を示すグラフである。
【図5】変形例1に係るシステム始動時の処理フローを示すフローチャートである。
【図6】変形例2に係るシステム始動時の処理フローを示すフローチャートである。
【図7】変形例3に係るシステム停止時の処理フローを示すフローチャートである。
【図8】ドライアップ関数を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0011】
A.本実施形態
図1は、燃料電池システム1の構成図である。
燃料電池システム1は、燃料電池自動車(FCHV)、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両100に搭載できる。ただし、燃料電池システム1は、車両100以外の各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボット等)や定置型電源、携帯型の燃料電池システムにも適用可能である。
【0012】
燃料電池システム1は、燃料電池2と、酸化ガスとしての空気を燃料電池2に供給する酸化ガス配管系3と、燃料ガスとしての水素ガスを燃料電池2に供給する燃料ガス配管系4と、燃料電池2に冷媒を供給する冷媒配管系5と、システム1の電力を充放電する電力系6と、システム1の運転を統括制御する制御装置7と、を備える。なお、酸化ガス及び燃料ガスは、反応ガスと総称できる。
【0013】
燃料電池2は、例えば固体高分子電解質型で構成され、多数の単セルを積層したスタック構造を備える。単セルは、イオン交換膜からなる電解質の一方の面に空気極(カソード)を有し、他方の面に燃料極(アノード)を有し、さらに空気極及び燃料極を両側から挟みこむように一対のセパレータを有する。一方のセパレータの酸化ガス流路2aに酸化ガスが供給され、他方のセパレータの燃料ガス流路2bに燃料ガスが供給される。供給された燃料ガス及び酸化ガスの電気化学反応により、燃料電池2は電力を発生する。燃料電池2での電気化学反応は発熱反応であり、固体高分子電解質型の燃料電池2の温度は、およそ60〜80℃となる。
【0014】
酸化ガス配管系3は、燃料電池2に供給される酸化ガスが流れる供給路11と、燃料電池2から排出された酸化オフガスが流れる排出路12と、酸化ガスが燃料電池2をバイパスして流れるバイパス路17と、を有する。供給路11は、酸化ガス流路2aを介して排出路12に連通する。酸化オフガスは、燃料電池2の電池反応により生成された水分を含むため高湿潤状態となっている。
【0015】
供給路11には、エアクリーナ13を介して外気を取り込むコンプレッサ14と、コンプレッサ14により燃料電池2に圧送される酸化ガスを加湿する加湿器15と、が設けられる。加湿器15は、供給路11を流れる低湿潤状態の酸化ガスと、排出路12を流れる高湿潤状態の酸化オフガスとの間で水分交換を行い、燃料電池2に供給される酸化ガスを適度に加湿する。
【0016】
燃料電池2の空気極側の背圧は、カソード出口付近の排出路12に配設された背圧調整弁16によって調整される。背圧調整弁16の近傍には、排出路12内の圧力を検出する圧力センサP1が設けられる。酸化オフガスは、背圧調整弁16及び加湿器15を経て最終的に排ガスとしてシステム外の大気中に排気される。
【0017】
バイパス路17は、供給路11と排出路12とを接続する。バイパス路17と供給路11との供給側接続部Bは、コンプレッサ14と加湿器15との間に位置する。また、バイパス路17と排出路12との排出側接続部Cは、加湿器15の下流側に位置する。バイパス路17には、モータ又はソレノイドなどで駆動する開閉弁(シャット弁)であるバイパス弁18が設けられる。バイパス弁18は、制御装置7に接続されており、バイパス路17を開閉する。なお、以下の説明では、バイパス弁18の開弁により、バイパス弁18を通ってバイパス路17の下流へとバイパスされる酸化ガスを「バイパスエア」と称呼する。
【0018】
燃料ガス配管系4は、水素供給源21と、水素供給源21から燃料電池2に供給される水素ガスが流れる供給路22と、燃料電池2から排出された水素オフガス(燃料オフガス)を供給路22の合流点Aに戻すための循環路23と、循環路23内の水素オフガスを供給路22に圧送するポンプ24と、循環路23に分岐接続されたパージ路25と、を有する。元弁26を開くことで水素供給源21から供給路22に流出した水素ガスは、調圧弁27その他の減圧弁、及び遮断弁28を経て、燃料電池2に供給される。パージ路25には、水素オフガスを水素希釈器(図示省略)に排出するためのパージ弁33が設けられている。
【0019】
循環路23には、循環系アノード圧力センサ(検知手段)P2が設けられている。循環系アノード圧力センサP2は、制御装置7による制御のもと、低温始動時(後述)の水素ガスの圧力を検知する。制御装置7は、循環系アノード圧力センサP2からのセンサ値に基づき、燃料ガス配管系4の圧力損失(以下、アノード系圧力損失)の変化を検知する(詳細は後述)。
【0020】
冷媒配管系5は、燃料電池2内の冷却流路2cに連通する冷媒流路41と、冷媒流路41に設けられた冷却ポンプ42と、燃料電池2から排出される冷媒を冷却するラジエータ43と、ラジエータ43をバイパスするバイパス流路44と、ラジエータ43及びバイパス流路44への冷却水の通流を設定する切替え弁45と、を有する。冷媒流路41は、燃料電池2の冷媒入口の近傍に設けられた温度センサ46と、燃料電池2の冷媒出口の近傍に設けられた温度センサ47と、を有する。温度センサ47が検出する冷媒温度は、燃料電池2の内部温度(以下、燃料電池2の温度という。)を反映する。冷却ポンプ42は、モータ駆動により、冷媒流路41内の冷媒を燃料電池2に循環供給する。
【0021】
電力系6は、高圧DC/DCコンバータ61、バッテリ62、トラクションインバータ63、トラクションモータ64、及び各種の補機インバータ65,66,67を備えている。高圧DC/DCコンバータ61は、直流の電圧変換器であり、バッテリ62から入力された直流電圧を調整してトラクションインバータ63側に出力する機能と、燃料電池2又はトラクションモータ64から入力された直流電圧を調整してバッテリ62に出力する機能と、を有する。高圧DC/DCコンバータ61のこれらの機能により、バッテリ62の充放電が実現される。また、高圧DC/DCコンバータ61により、燃料電池2の出力電圧が制御される。
【0022】
トラクションインバータ63は、直流電流を三相交流に変換し、トラクションモータ64に供給する。トラクションモータ64(動力発生装置)は、例えば三相交流モータである。トラクションモータ64は、燃料電池システム1が搭載される例えば車両100の主動力源を構成し、車両100の車輪101L,101Rに連結される。補機インバータ65、66、67は、それぞれ、コンプレッサ14、ポンプ24、冷却ポンプ42のモータの駆動を制御する。
【0023】
制御装置7は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プラグラムに従って所望の演算を実行して、通常運転の制御及び後述する低効率運転の制御など、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶する。RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。
【0024】
制御装置7は、各種の圧力センサ(P1,P2)や温度センサ(46,47)、燃料電池システム1が置かれる環境の外気温を検出する外気温センサ51、並びに、車両100のアクセル開度を検出するアクセル開度センサなどの各種センサからの検出信号を入力し、各構成要素(コンプレッサ14、背圧調製弁16及びバイパス弁18など)に制御信号を出力する。
【0025】
また、制御装置7は、燃料電池システム1の運転停止(終了も含む)時に、所定条件を満たす場合に乾燥処理を行う。なお、以下に示す実施例では、乾燥処理として燃料電池2内を掃気する掃気処理を例に説明する。
【0026】
さらに、制御装置(判断手段、制御手段)7は、燃料電池システム1を始動する際、前回システム停止時に乾燥処理を実行したか否かを判断し、乾燥処理を実行していた場合には後述する湿潤処理を実行する。
【0027】
ここで、前回システム停止時に乾燥処理を実行したか否かの判断は、前回システム停止時に測定した燃料電池2のインピーダンスに基づいて行う。詳述すると、まず、制御装置(測定手段)7は、システム停止毎に燃料電池2のインピーダンス測定を行う。燃料電池2のインピーダンス測定を行う際、制御装置7は、電圧センサ72によって検出される燃料電池2の電圧(FC電圧)及び電流センサ73によって検出される燃料電池2の電流(FC電流)を所定のサンプリングレートでサンプリングし、フーリエ変換処理(FFT演算処理やDFT演算処理)などを施す。そして、制御装置7は、フーリエ変換処理後のFC電圧信号をフーリエ変換処理後のFC電流信号で除するなどして燃料電池2のインピーダンスを測定(導出)する。
【0028】
制御装置7は、このようにして測定した燃料電池2のインピーダンス(測定インピーダンス)を、測定インピーダンスメモリ(記憶手段)70に格納し、当該システムを停止する。その後、イグニッションスイッチのON操作などによってシステムの始動命令が入力されると、制御装置7は、測定インピーダンスメモリ70に格納されている前回システム停止時の測定インピーダンスを読み出すとともに、基準インピーダンスメモリ51に格納されている基準インピーダンスを読み出し、両インピーダンスを比較する。
【0029】
ここで、基準インピーダンスは、システム停止時に乾燥処理を行ったか否かを判断するための基準値であり、予め実験などによって求められる。なお、実験などによって乾燥処理を行ったときの測定インピーダンスをマップ化し、これを基準インピーダンスとして基準インピーダンスメモリ51に格納しても良い。制御装置7は、両インピーダンスを比較した結果、前回システム停止時に乾燥処理を実行したと判断すると、湿潤処理を行う。このように、前回システム停止時に乾燥処理を行った場合には始動時に湿潤処理を実行することで、燃料電池2内の水分量を適正に保った状態で発電を開始することができる。以下、燃料電池システム1の運転停止時、および運転始動時における制御について説明する。
【0030】
<運転終了時の処理フロー>
図2は、燃料電池システム1の停止時の処理フローを示すフローチャートである。
車両100の運転手によるイグニッションスイッチのOFF操作等によって、燃料電池システム1の運転停止が指令されると、制御装置7は、温度センサ46,47などを利用して燃料電池2の温度(以下、FC温度)を測定する(ステップS10→ステップS20)なお、本実施形態では、FC温度を測定するが、燃料電池2の周辺部品の温度や外気温度(燃料電池の関連温度)を測定し、これを利用しても良い。
【0031】
制御装置7は、測定したFC温度をメモリ(図示略)などに設定されている基準温度と比較する(ステップS30)。制御装置7は、測定したFC温度が基準温度以上である場合には、掃気処理を行うことなくステップS50に進む。一方、制御装置7は、測定したFC温度が基準温度を下回っている場合には、次回の低温始動に備えるべく、掃気処理を行った後(ステップS40)、ステップS50に進む。
【0032】
ここで、掃気処理とは、燃料電池システム2の運転終了時に燃料電池2内の水分を外部に排出することで燃料電池2内を掃気することをいい、カソード系統(酸化ガス配管系3)の掃気処理は、燃料電池2への水素ガスの供給を停止した状態でコンプレッサ14によって酸化ガスを酸化ガス流路2aに供給し、この供給した酸化ガスによって酸化ガス流路2aに残る生成水を含む水分を排出路12へ排出することで行われる。なお、これに加えて(あるいは代えて)アノード系統(燃料ガス配管系4)の掃気処理も行われるが、同様に説明することができるため、ここでは説明を割愛する。
【0033】
ステップS50に進むと、制御装置7は、上述したように燃料電池2のインピーダンス測定を行う。そして、制御装置7は、インピーダンス測定によって得られた測定インピーダンスを測定インピーダンスメモリ70に格納した後(ステップS60)、当該システムを停止する。
【0034】
<運転始動時の処理フロー>
図3は、燃料電池システム1の始動時の処理フローを示すフローチャートである。
図3に示すように、例えば車両100の運転手によるイグニッションスイッチのON操作等によって、燃料電池システム1の運転開始が指令されると(ステップS100)、制御装置7は、測定インピーダンスメモリ70にアクセスし、前回システム停止時に格納した測定インピーダンスを読み出す(ステップS200)。そして、制御装置7は、読み出した測定インピーダンスと、基準インピーダンスメモリ51に格納されている基準インピーダンスを読み出し、両インピーダンスを比較する(ステップS300)。前述したように、基準インピーダンスは、システム停止時に乾燥処理を行ったか否かを判断するための基準値であり、予め実験などによって求められる。
【0035】
制御装置7は、測定インピーダンスが基準インピーダンス以下であることから、システム停止時に乾燥処理を行っていないと判断すると(ステップS400;NO)、湿潤処理を行うことなくステップS600に進む。一方、制御装置7は、測定インピーダンスが基準インピーダンスを上回っていることから、システム停止時に乾燥処理を行っていると判断すると(ステップS400;YES)、湿潤処理を実行した後(ステップS500)、ステップS600に進む。
【0036】
ここで、湿潤処理は各種の方法により実行でき、代表的な処理としては、(1)暖機運転の実施、(2)空気極側の背圧アップが挙げられる。以下、それぞれについて説明する。
【0037】
(1)暖機運転
暖機運転とは、燃料電池2を自己発熱させることで、通常運転に比して短時間で燃料電池2を昇温可能な運転をいい、通常運転に比して反応ガスを不足気味にして電力損失を大きくする低効率運転などが含まれる。本実施形態では、湿潤処理として、このような低効率運転、すなわち燃料電池2の発電効率を低下させて発熱量を増やす低効率運転を行う。
【0038】
図4は、燃料電池2の出力電流(以下、「FC電流」という。)と出力電圧(以下、「FC電圧」という。)との関係を示す図である。図4は、燃料電池システム1が通常運転を行った場合を実線で示し、低効率運転を行った場合を点線で示している。
【0039】
燃料電池システム1を通常運転する場合には、電力損失を抑えて高い発電効率が得られるように、エアストイキ比を1.0以上(理論値)に設定した状態で燃料電池2を運転する(図4の実線部分参照)。ここで、エアストイキ比とは酸素余剰率をいい、水素と過不足なく反応するのに必要な酸素に対して供給される酸素がどれだけ余剰であるかを示す。
【0040】
これに対し、燃料電池2を暖機する場合には、電力損失を大きくして燃料電池2の温度を上昇させるべく、エアストイキ比を1.0未満(理論値)に設定した状態で燃料電池2を運転する(図4の点線部分参照)。エアストイキ比を低く設定して低効率運転を行うと、水素と酸素との反応によって取り出せるエネルギーのうち、電力損失分(すなわち熱損失分)が積極的に増大される。このように、低効率運転では通常運転に比してエアストイキ比が低く設定されるため、エアによる持ち去り水量は低減され、通常運転時に比して湿潤度は高くなる。
【0041】
(2)空気極側の背圧アップ
空気極側の背圧は、背圧調整弁16により調整可能である。本実施形態では、湿潤処理として、燃料電池2の空気極側の背圧が通常運転時に比して高くなるように、背圧調整弁16の開度を小さくする。これにより、燃料電池2の空気極側の入口圧と出口圧とに差圧が生じ、圧力の高い出口側に燃料電池2内の残水が移動し難くなり、通常運転時に比して湿潤度は高くなる。なお、空気極側の背圧を間欠的に高くしても良い。その場合には、背圧調整弁16の開度増大と開度減少とを繰り返せばよい。
【0042】
ここで、上記(1)、(2)の各湿潤処理は単体で実行してもよいし、互いに組み合わせて実行しても良い。組み合わせる場合には、処理を並行して又は連続して行ってもよい。例えば、(1)暖機運転を行った後、必要に応じて(2)空気極側の背圧アップを実行しても良い。
【0043】
制御装置7は、ステップS500に進むと、通常運転が可能となった旨を運転手に報知することで「Ready On」を実行する。具体的には、インジケータ等に「Ready On」の文字メッセージを点灯したり、効果音を鳴らすなどして通常運転が可能となった旨を運転手に報知する。制御装置7は、「Ready On」を実行すると、以上説明した処理を終了する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態によれば、前回システム停止時に乾燥処理を実行したか否かを、前回システム停止時に測定した燃料電池のインピーダンスに基づいて判断する。そして、前回システム停止時に乾燥処理を実行したと判断した場合には始動時に湿潤処理を実行することで、燃料電池内の水分量を適正に保った状態で発電を開始することができ、始動直後の燃料電池の出力性能を改善することが可能となる。
【0045】
B.変形例
<変形例1>
上述した本実施形態では、前回システム停止時に乾燥処理を実行した場合は始動時に常に湿潤処理を実行したが、更なる条件を追加してもよい。図5は、変形例1に係る燃料電池システム1の始動時の処理フローを示すフローチャートである。なお、図3に対応するステップには同一符号を付し、詳細な説明は割愛する。
【0046】
制御装置7は、前回システム停止時に乾燥処理を行ったと判断すると、制御装置7に内蔵されたタイマ(計時手段)などを利用して、前回システム停止時から今回システム始動時までの経過時間を導出する(ステップS410)。制御装置7は、導出した経過時間とメモリ(図示略)に設定されている基準時間を比較し、経過時間が設定された基準時間以上である場合には(ステップS411;NO)、前回の走行から今回の走行まで十分時間が経過していると判断し、湿潤処理を行うことなくステップS600に進む。一方、制御装置(制御装置)7は、計測した経過時間が設定された基準時間未満である場合には(ステップS411;YES)、前回の走行から今回の走行まで十分時間が経過していない(例えば、高速道路走行中の休憩時など)と判断し、ステップS500に進み、湿潤処理を行う。なお、この後の動作は本実施形態と同様に説明することができるため、説明を割愛する。
【0047】
<変形例2>
上述した変形例1では、更なる条件として前回システム停止時から今回始動時までの経過時間を例示したが、これに代えて(あるいは加えて)異なる条件を追加しても良い。図6は、変形例2に係る燃料電池システム1の始動時の処理フローを示すフローチャートである。なお、図3に対応するステップには同一符号を付し、詳細な説明は割愛する。
【0048】
制御装置7は、前回システム停止時に乾燥処理を行ったと判断すると、温度センサ(温度測定手段)46,47などを利用してFC温度を測定する(ステップS420)。なお、変形例2では、FC温度を測定するが、燃料電池2の周辺部品の温度や外気温度(燃料電池の関連温度)を測定し、これを利用しても良い。制御装置7は、測定したFC温度とメモリ(図示略)に設定されている標準運転温度を比較し、測定したFC温度が設定された標準温度未満である場合には(ステップS421;NO)、ドライアップの危険はないと判断し、湿潤処理を行うことなくステップS600に進む。一方、制御装置(制御手段)7は、測定したFC温度が設定された標準温度以上である場合には(ステップS421;YES)、ドライアップの危険があると判断し、ステップS500に進み、湿潤処理を行う。なお、この後の動作は本実施形態と同様に説明することができるため、説明を割愛する。
【0049】
<変形例3>
上述した実施形態では、FCシステム停止時に乾燥処理を行うか否かをFC温度に基づいて判断したが、FC温度及び測定インピーダンスに基づいて判断しても良い。図7は、変形例3に係る燃料電池システム1の停止時の処理フローを示すフローチャートである。なお、図2に対応するステップには同一符号を付し、詳細な説明は割愛する。
【0050】
車両100の運転手によるイグニッションスイッチのOFF操作等によって、燃料電池システム1の運転停止が指令されると、制御装置(測定手段)7は、温度センサ(測定手段)46,47などを利用してFC温度を測定するとともに、燃料電池2の測定インピーダンスを求める(ステップS10→ステップS20')。なお、測定インピーダンスの導出方法については、本実施形態において説明したため、説明を割愛する。また、FC温度を測定する代わりに燃料電池2の周辺部品の温度や外気温度(燃料電池の関連温度)を測定し、これを利用しても良い。そして、制御装置(判断手段)7は、ドライアップ関数を参照することにより、電解質膜のドライアップの危険性を判断する(ステップS30')。図8は、ドライアップ関数を例示した図であり、縦軸に測定インピーダンス、横軸にFC温度を示す。
【0051】
図8の領域Aは、電解質膜のドライアップの危険がある領域(ドライアップ危険領域)を示しており、予め実験などによって求められる。このドライアップ関数は、製造出荷時などに制御装置7のメモリ(図示略)などに設定される。もちろん、ドライアップ関数に示される値や領域Aは適宜設定・変更可能である。
【0052】
制御装置7は、測定したFC温度及び導出した測定インピーダンスが図8の領域Aに存在することから、ドライアップの危険があると判断すると(ステップS30';YES)、掃気処理及び燃料電池2のインピーダンス測定を行うことなく、ステップS60に進む。一方、制御装置7は、測定したFC温度及び導出した測定インピーダンスが図8の領域Aから下側に外れていることから、ドライアップの危険がないと判断すると(ステップS30';NO)、掃気処理を行うべくステップS40に進む。この後の動作については、本実施形態と同様に説明することができるため、説明を割愛する。
【0053】
以上説明したように、変形例3によれば、システム停止時にFC温度および燃料電池2の測定インピーダンスを検出し、検出結果に基づいて電解質膜のドライアップの危険性を判断する。ここで、ドライアップの危険性がない場合には、システム停止時に掃気処理などの乾燥処理を行う一方、ドライアップの危険性がある場合にはシステム停止時に掃気処理などの乾燥処理を行わない。このため、システムの始動、停止が短時間に繰り返し行われたとしても、電解質膜がドライアップしてしまうといった問題を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1・・・燃料電池システム、2・・・燃料電池、7・・・制御装置、46,47・・・
温度センサ、51・・・基準インピーダンスメモリ、70・・・測定インピーダンスメモ
リ、72・・・電圧センサ、73・・・電流センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定タイミングで燃料電池の乾燥処理を行う燃料電池システムであって、
システム停止前の燃料電池のインピーダンス、および燃料電池の周辺部品の温度や外気温度を測定する測定手段と、
前記測定結果に基づいて、システム停止時に前記乾燥処理を実行するか否かを判断する判断手段と
を具備することを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−227159(P2012−227159A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160902(P2012−160902)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【分割の表示】特願2007−162608(P2007−162608)の分割
【原出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】