説明

燃料電池及び燃料電池の製造方法

【課題】電解質膜の疲労を抑制し、耐久性を向上させる。
【解決手段】燃料電池であって、電解質膜121と、前記電解質膜121の両面に形成される第1、第2の触媒層123、122と、前記電解質膜121と前記第1、第2の触媒層123、122とを挟持する第1、第2の補強層140、130と、を備え、前記第1の触媒層123と前記第1の補強層140とが電解質膜121の膨張収縮を抑制できる所定の結合力以上の力で接合され、前記第2の触媒層122と前記第2の補強層130とが電解質膜121の膨張収縮による応力を逃すことができる所定の結合力未満の力で接合されているか、または、前記第2の触媒層122と前記第2の補強層130とが接合されていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池の電解質膜の両面に形成されている触媒層と、ガス拡散層とが非接合である燃料電池と、ガス拡散層を触媒層よりも一回り大きく形成し、触媒層よりも外側にはみ出たガス拡散層部分と、電解質膜の触媒層よりも外側に突出する部分と、の間を接着した燃料電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−251290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術では、電解質膜の膨張収縮を抑制できないため、電解質膜に疲労が生じ燃料電池の性能が低下する恐れがあった。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、電解質膜の耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池であって、電解質膜と、前記電解質膜の両面に形成される第1、第2の触媒層と、前記電解質膜と前記第1、第2の触媒層とを挟持する第1、第2の補強層と、を備え、前記第1の触媒層と前記第1の補強層とが電解質膜の膨張収縮を抑制できる所定の結合力以上の力で接合され、前記第2の触媒層と前記第2の補強層とが電解質膜の膨張収縮による応力を逃すことができる所定の結合力未満の力で接合されているか、または、前記第2の触媒層と前記第2の補強層とが接合されていない、燃料電池。
この適用例によれば、第1の触媒層と第1の補強層とが電解質膜の膨張収縮を抑制できる所定の結合力以上の力で接合されているので、電解質膜の膨張収縮の程度を低減させることができ、電解質膜の疲労破壊、折れジワの発生を抑制し、その結果クロスリークの発生を抑制できる。第2の触媒層と第2の補強層とが電解質膜の膨張収縮による応力を逃すことができる所定の結合力未満の力で接合されているか、または、前記第2の触媒層と前記第2の補強層とが接合されていないので、第1の触媒層と第1の補強層との接合及び第2の触媒層と第2の補強層との接合の2つの接合がされているものと比較すると、電解質膜の膨張収縮による応力を逃すことができる。その結果、触媒層に掛かる力を低減し、触媒層の損傷を防止することができる。したがって、この実施例によれば、電解質膜の耐久性を向上させることが可能となる。さらに、触媒層の耐久性を向上させることができる。そのため、燃料電池の性能低下も抑制することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池において、前記第1、第2の触媒層及び前記第1、第2の補強層はそれぞれ樹脂を含んでおり、前記第1の触媒層の前記第1の補強層側の表面における前記樹脂の空間占有率と、前記第1の補強層の前記第1の触媒層側の表面における前記樹脂の空間占有率とが、熱圧もしくは燃料電池発電中に生じる熱により前記第1の触媒層と前記第1の補強層とを接合可能な値以上であり、前記第2の触媒層の前記第2の補強層側の表面における前記樹脂の空間占有率と、前記第2の補強層の前記第2の触媒層側の表面における前記樹脂の空間占有率と、が熱圧もしくは燃料電池発電中に生じる熱によっても前記第2の触媒層と前記第2の補強層とを非接合状態を維持可能な値未満である、燃料電池。
【0009】
[適用例3]
適用例2に記載の燃料電池において、前記第1、第2の触媒層及び前記第1、第2の補強層の接合前における、前記第1の触媒層の前記樹脂の空間占有率が35%以上、かつ、前記第1の補強層の前記樹脂の空間占有率が18%以上を満たし、前記第2の触媒層の前記樹脂の空間占有率が35%未満、もしくは、前記第2の補強層の前記樹脂の空間占有率が18%未満のいずれかを満たす、燃料電池。
第1の触媒層における樹脂の空間占有率及び第1の補強層における樹脂の空間占有率について上記条件を満たすことにより、電解質膜の両面に同様の熱圧を加えたとき、あるいは、燃料電池の運転中に、第1の触媒層と第1の補強層とを所定の結合力以上の力で接合させることができる。一方、第2の触媒層と第2の補強層との接合については、所定の結合力未満の力での接合、または、結合されていない状態を維持させることができる。
また、触媒層、補強層には樹脂が含まれているので、新たな結合材を用いなくても、触媒層及び補強層の樹脂の空間占有率を調整することで、触媒層と補強層との間の結合力を調整することができる。
【0010】
[適用例4]
適用例3に記載の燃料電池において、前記第1の触媒層の前記樹脂の空間占有率が38%以上である燃料電池。
この条件をさらに満たすことにより、第1の触媒層と第1の補強層とをより強く接合し易い。
【0011】
[適用例5]
適用例3または適用例4に記載の燃料電池において、前記第1の補強層の前記樹脂の空間占有率が20%以上である、燃料電池。
この条件をさらに満たすことにより、第1の触媒層と第1の補強層とをより強く接合し易い。
【0012】
[適用例6]
適用例3から適用例5のうちのいずれか一つの適用例に記載の燃料電池において、前記第1、第2の触媒層、及び前記第1、第2の補強層の樹脂の空間占有率は、フーリエ変換赤外分光 減衰全反射法を用いて算出されている、燃料電池。
フーリエ変換赤外分光 減衰全反射法を用いれば、第1、第2の触媒層、及び第1、第2の補強層の樹脂の空間占有率を容易に算出することができる。
【0013】
[適用例7]
適用例1から適用例6のうちのいずれか一つの適用例に記載の燃料電池において、前記第1の触媒層はアノード側触媒層であり、前記第2の触媒層はカソード側触媒層である、燃料電池。
アノード側を接合し、カソード側を非接合状態にした方が燃料電池のクロスリークの防止及び性能向上の観点から好ましい。また、発電性能に対する寄与率が高いカソード側について、所定値未満の力(電解質膜の膨張収縮による応力を逃すことが出来る力)で結合させるので、電解質膜の膨張収縮による触媒層の損傷を抑制し、燃料電池の性能低下を防止できる。
【0014】
[適用例8]
適用例1から適用例7のうちのいずれか一つの適用例に記載の燃料電池において、前記補強層は、ガス拡散層である、燃料電池。
ガス拡散層が補強層を兼ねることが好ましい。
【0015】
[適用例9]
燃料電池の製造方法であって、(a)電解質膜を準備する工程と、(b)前記電解質膜の第1の面に、包含する樹脂の空間占有率が35%以上である第1の触媒層を形成し、第2の面に、包含する樹脂の空間占有率が所定の値である第2の触媒層を形成する工程と、(c)包含する樹脂の空間占有率が18%以上である第1のガス拡散層と、包含する樹脂の空間占有率が所定の値である第2のガス拡散層と、を準備する工程と、(d)前記第1の触媒層と前記第1のガス拡散層とを熱圧で接合し、前記第2の触媒層と前記第2のガス拡散層とを熱圧で接合する工程と、を備え、前記工程(b)(c)において、前記第2の触媒層が包含する樹脂の空間占有率が35%未満、あるいは、前記第2のガス拡散層が包含する樹脂の空間占有率が18%未満の2つの条件のうち少なくとも一方を満たしている、燃料電池の製造方法。
この適用例によれば、第1の触媒層と第1の補強層とが接合され、第2の触媒層と第2の補強層とが接合されていない燃料電池を容易に製造することができる。
【0016】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池の他、燃料電池の製造方法等、様々な形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施例に掛かる燃料電池の構成を示す説明図である。
【図2】発電ユニットの膜電極接合体とガス拡散層の接合部分を拡大して示す説明図である。
【図3】触媒層とガス拡散層の表面の樹脂の空間占有率を示す説明図である。
【図4】触媒層とガス拡散層の表面の樹脂の空間占有率と触媒層−ガス拡散層の接合強度の関係を示す説明図である。
【図5】樹脂の空間占有率の測定方法を示す説明図である。
【図6】FT−IR ATR法により得られたスペクトルの一例である。
【図7】燃料電池の発電テストの各ステップを示す説明図である。
【図8】触媒層−ガス拡散層の接合強度の測定方法を示す説明図である。
【図9】電解質膜のクロスリーク量の判定結果を示す説明図である。
【図10】燃料電池の性能低下率を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本実施例に掛かる燃料電池の構成を示す説明図である。燃料電池10は、直列電池100と、集電板200、201と、絶縁板210、211と、押圧プレート220と、エンドプレート230、231と、テンションロッド240と、ナット250と、押圧バネ260と、を備える。
【0019】
直列電池100は、複数の発電ユニット110を備えている。各発電ユニット110は、それぞれが1個の単電池である。発電ユニット110は、積層されて直列に接続されており、直列電池100として高電圧を発生させる。集電板200、201は、直列電池100の両側にそれぞれ配置されており、直列電池100が発生した電圧、電流を外部に取り出すために用いられる。絶縁板210、211は、それぞれ集電板200、201のさらに外側に配置されており、集電板200、201と、他の部材、例えばエンドプレート230、231やテンションロッド240と、の間に電流が流れないように、絶縁する。エンドプレート230と押圧プレート220は、それぞれ絶縁板210、211のさらに外側に配置されている。押圧プレート220のさらに外側には、押圧バネ260が配置され、押圧バネ260のさらに外側にエンドプレート231が配置されている。エンドプレート231は、テンションロッド240とナット250により、エンドプレート230から所定の間隔となるように配置される。この場合、押圧バネ260により、押圧プレート220は、絶縁板211方向に押圧され、発電ユニット110に所定の締結力を与える。
【0020】
図2は、発電ユニットの膜電極接合体とガス拡散層の接合部分を拡大して示す説明図である。発電ユニット110は、膜電極接合体120と、カソード側ガス拡散層130と、アノード側ガス拡散層140と、を備える。
【0021】
膜電極接合体120は、電解質膜121と、カソード側触媒層122と、アノード側触媒層123と、を備える。電解質膜121は、固体高分子材料、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマなどのフッ素系樹脂から成るプロトン伝導性のイオン交換膜である。カソード側触媒層122とアノード側触媒層123は、プロトン伝導性電解質と、電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金触媒、あるいは白金と他の金属から成る白金合金触媒とを含んでいる。白金触媒あるいは白金合金触媒は、カーボンなどの導電性担体に担持されている。カソード側触媒層122は電解質膜121の一方の面に形成され、アノード側触媒層123は、電解質膜121の他方の面に形成されている。
【0022】
カソード側ガス拡散層130は、カソード側触媒層122に接するように配置されている。カソード側ガス拡散層130、酸化ガスを通過させるとともに、酸化ガスを拡散してカソード側触媒層122に供給するための部材である。カソード側ガス拡散層130は、カソード側触媒層122側から、マイクロポーラス層(MPL)131と、カーボン基材層132と、金属多孔体層133と、を有する。マイクロポーラス層131は、微細カーボン粉末とフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)とを混練して形成されている。マイクロポーラス層131は、例えばカーボンクロスで形成されたカーボン基材層132に塗布されている。カーボンクロスの材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ピッチ、レーヨンを採用することができる。また、カーボンクロスの他、カーボンペーパー、不織布の形状であってもよい。金属多孔体層133は、チタンなどの金属で構成された金属多孔体を用いている。なお、金属多孔体層133として、金属多孔体の代わりにエキスパンドメタルを用いてもよい。アノードについても、同様に、マイクロポーラス層(MPL)141と、カーボン基材層142と、金属多孔体層143と、を有するアノード側ガス拡散層140を備えている。ここで、カソード側のカソード側触媒層122と、マイクロポーラス層131とは、非接合状態にあり、アノード側のアノード側触媒層123と、マイクロポーラス層141とは接合状態にある。
【0023】
図3は、触媒層とガス拡散層の表面の樹脂の空間占有率を示す説明図である。カソード側については、カソード側触媒層122における樹脂の空間占有率が35%未満と、マイクロポーラス層131の樹脂の空間占有率が18%未満と、のいずれかを満たせばよい。また、アノード側については、アノード側触媒層123における樹脂の空間占有率が35%以上、且つマイクロポーラス層141の樹脂の空間占有率が18%以上を満たせばよい。なお、アノード側触媒層123における樹脂の空間占有率は、38%以上が好ましく、マイクロポーラス層141の樹脂の空間占有率は20%以上が好ましい。樹脂の空間占有率は、樹脂の空間占有率+樹脂以外の空間占有率+気孔率=100%となる関係を有している。ここで、樹脂以外の物質とは、例えば、マイクロポーラス層131、141では微細カーボン粉末であり、カソード側触媒層122、アノード側触媒層123では、触媒を担持するカーボンである。数値の根拠については、後述する。
【0024】
図4は、触媒層とガス拡散層の表面の樹脂の空間占有率と、触媒層−ガス拡散層の接合強度の関係を示す説明図である。マイクロポーラス層131を形成する微細カーボン粉末とフッ素樹脂の比率及びカーボン粒子の粒径を調整することにより、マイクロポーラス層131の表面樹脂占有率を調整することができる。例えば、微細カーボン粉末に対するフッ素樹脂の比率を上げることにより、表面樹脂占有率を上げることができる。また、カーボン基材層132に、微細カーボン粉末とフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)とを混練したものを塗ることによりアノード側ガス拡散層130を形成する。このとき、微細カーボン粉末に対するフッ素樹脂の比率を一定とした場合、カーボン粉末の粒径を大きくするとマイクロポーラス層131形成時にフッ素樹脂がカーボン基材層132(図2)側に沈降し易いため表面樹脂占有率を下げることができ、カーボン粉末の粒径を小さくするとマイクロポーラス層131形成時にフッ素樹脂がカーボン基材層132(図2)側に沈降し難いため表面樹脂占有率を上げることができる。アノード側ガス拡散層140のマイクロポーラス層141についても同様である。
【0025】
カソード側触媒層122は、上述したように、プロトン伝導性電解質と触媒を担持した導電性担体とを含んでいる。ここで、プロトン伝導性電解質と触媒を担持した導電性担体との重量比率を変更すること、あるいは、カソード側触媒層122形成時における乾燥時間を調整することによりカソード側触媒層122の表面樹脂占有率を調整することができる。ここで、触媒層における樹脂とは、プロトン伝導性電解質のことである。導電性担体に対するプロトン伝導性電解質の比率を上げることにより、表面樹脂占有率を上げることができる。また、カソード側触媒層122形成時における乾燥を急速に行うと、樹脂が沈降する前に乾燥するので、表面樹脂占有率を上げることが出来る。逆にカソード側触媒層122形成時における乾燥をゆっくり行うと、表面樹脂占有率を下げることが出来る。アノード側触媒層123についても同様である。
【0026】
なお、上述した例は表面樹脂占有率を調整するための調整方法の一例であり、上記記載の項目を調整する他、マイクロポーラス層131、132形成時の乾燥時間、触媒層122、123の導電性担体の粒径、フッ素樹脂やプロトン伝導性電解質の長さ(分子量)等を調整することにより、表面樹脂占有率を調整することができる。
【0027】
図5は、樹脂の空間占有率の測定方法を示す説明図である。本実施例では、樹脂の空間占有率を、FT−IR ATR法を用いて算出する。FT−IR ATR法(フーリエ変換型赤外分光 減衰全反射法)では、ゲルマニウム結晶(ATR結晶)を測定対象である触媒層(例えばカソード側触媒層122)に密着させ、臨界角よりも大きな入射角θで赤外光を照射する。このとき、赤外光は、ATR結晶とカソード側触媒層122との界面で全反射するが、一部は、エバネッセント波としてカソード側触媒層122側に浸透し、カソード側触媒層122で反射される。このとき、エバネッセント波のエネルギーの一部はカソード側触媒層122により吸収されて減衰する。このときの減衰が起こる周波数により、カソード側触媒層122の構造を同定でき、減衰量の大きさから定量を行うことが出来る。本実施例では、赤外光の波長をC−F結合(炭素−フッ素結合)に由来するピークが現れる値8.30μm(波数=1206cm-1)、ゲルマニウム結晶の屈折率n1を4.00、カソード側触媒層122の屈折率n2を1.75、赤外光の入射角θを60°とすると、エバネッセント波の浸透深さdpは、440nmとなる。したがって、カソード側触媒層122の表面から440nmまでの深さの構造を同定することができる。
【0028】
図6は、FT−IR ATR法により得られたスペクトルの一例である。波数=1206cm-1(波長=8.30μm)の赤外線の吸光度は、サンプル中のC−F結合の存在量に比例する。したがって、膜全部がフッ素樹脂で構成されている標準サンプル(表面樹脂占有率を100%)のFT−IRスペクトルを測定し、波数=1206cm-18.30μmにおけるベースラインからのピーク高さh1を求める。次に、サンプルについても同様に、8.30μmにおけるベースラインからのピーク高さh2を求める。h1/h2を規格化して、サンプルの表面樹脂占有率を算出する。
【0029】
様々な触媒表面樹脂占有率を有する膜電極接合体120と、ガス拡散層130、140を準備し、表面樹脂占有率を算出した。次に、膜電極接合体120と、ガス拡散層130、140とを、温度100℃、圧力1.2MPaの熱圧で4分保持し、表面樹脂占有率と接合状態との関係を判断した。結果を図4に示す。ガス拡散層130、140の表面樹脂占有率が20%以上、且つ、触媒層122、123の表面樹脂占有率が38%以上であれば、結合強度15N/m以上の結合強度を有する。ここで、ガス拡散層130、140の表面樹脂占有率が20%以上の場合、触媒層122、123の表面樹脂占有率が35%以上であれば、結合強度10N/m以上の結合強度を有し、触媒層122、123の表面樹脂占有率が38%以上の場合、ガス拡散層130、140の表面樹脂占有率が18%以上であれば、結合強度10N/m以上の結合強度を有する。また、ガス拡散層130、140の表面樹脂占有率が18%であり、触媒層122、123の表面樹脂占有率が35%あるいは36%の場合には、温度100℃、圧力1.2MPaの熱圧で4分保持しただけでは接合しなかったが、燃料電池を図7に示す発電テストを行った後に接合強度を測定した場合には、結合強度10N/m以上の結合強度で接合していた。結合強度の測定法については、後述する。
【0030】
図7は、燃料電池の発電テストの各ステップを示す説明図である。燃料電池10(図1)を2MPaの締結圧力で締結した。反応ガスの流量を水素ガス500Ncc/min、空気を2000Ncc/min、反応ガスの温度を85℃、反応ガスの露点を80℃、背圧を水素0.04Mpa、空気0.04Mpa、冷却水温度80℃の条件で、燃料電池を発電させた。このとき、5分ごとに燃料電池から引く電流の電流密度を0.2A/cm2から、0.5、1.0、1.2、1.5A/cm2と、大きくしていった。このときの燃料電池10の温度は80℃以上であった。この2MPaの締結圧力、温度80℃以上の条件は、膜電極接合体120と、ガス拡散層130、140とを接合する熱圧の条件(1.2Mpa、100℃)に近い値であり、燃料電池10の発電テスト中に接合することが十分に期待される。
【0031】
図4に示すように、ガス拡散層130、140の表面樹脂占有率が18%未満、あるいは、触媒層122、123の表面樹脂占有率が35%未満の場合、熱圧の条件(1.2Mpa、100℃)あるいは、発電中の条件(2MPa、80℃以上)では触媒層122、123と、ガス拡散層130、140と、を接合することができなかった。一方、ガス拡散層130、140の表面樹脂占有率が18%以上、且つ、触媒層122、123の表面樹脂占有率が35%以上の場合、熱圧の条件(1.2Mpa、100℃)あるいは、発電中の条件(2MPa、80℃以上)において、触媒層122、123と、ガス拡散層130、140と、を接合することができた。さらに、ガス拡散層130、140の表面樹脂占有率が20%以上、且つ、触媒層122、123の表面樹脂占有率が35%以上の場合、熱圧の条件(1.2Mpa、100℃)で、ガス拡散層130、140と、を接合することができた。また、ガス拡散層130、140の表面樹脂占有率が18%以上、且つ、触媒層122、123の表面樹脂占有率が38%以上の場合、熱圧の条件(1.2Mpa、100℃)で、ガス拡散層130、140と、を接合することができた。さらに、ガス拡散層130、140の表面樹脂占有率が20%以上、且つ、触媒層122、123の表面樹脂占有率が38%以上の場合、熱圧の条件(1.2Mpa、100℃)で、ガス拡散層130、140と、を強く接合(15N/m)することができた。
【0032】
図8は、触媒層−ガス拡散層の接合強度の測定方法を示す説明図である。まず、膜電極接合体120とカソード側ガス拡散層130とを接合したサンプル400を15mm×15mm角の大きさに切る。このとき、膜電極接合体120からアノード側触媒層123を予め削除しておくか、あるいは、電解質膜121にカソード側触媒層122のみを形成し、アノード側触媒層123を形成しておかない状態にしておくことが好ましい。
【0033】
次に、サンプル400のガス拡散層130を、両面テープ420を用いて基板410に貼り付けて固定する。次いで、サンプル400の膜電極接合体120にテープ430を貼り付ける。島津製作所製のオートグラフ(登録商標)を用いて速度1mm/secでテープ430を引っ張り、応力−変位曲線を測定した。得られた応力−変位曲線から、膜電極接合体120とカソード側ガス拡散層130との接合強度を算出した。
【0034】
図9は、電解質膜のクロスリーク量の判定結果を示す説明図である。膜電極接合体120にカソード側ガス拡散層130とアノードガス拡散層を接合し、冷熱サイクル試験を行った。冷熱サイクル試験では、−20℃で60分保持し、次いで、70℃で30分保持した。これを800回繰り返した。そして、水素ガスのクロスリークの判定値を100nmol/(cm2×sec×atm)としてクロスリークの有無を判定した。アノードについて、アノード側ガス拡散層140と、アノード側触媒層123とが接合されていれば(図の◎、○、□)、カソード側ガス拡散層130とカソード側触媒層122との接合状態に関わらずクロスリークが生じなかった。
【0035】
図10は、燃料電池の性能低下率を示す説明図である。冷熱サイクル試験を行う前のOCVをV1、冷熱サイクル試験後のOCVをV2とし、燃料電池10の性能低下率を(V2−V1)/V1×100(%)で算出した。カソード側ガス拡散層130と、カソード側触媒層122とが接合され、かつ、アノード側ガス拡散層140と、アノード側触媒層123とが接合されている場合には、冷熱サイクル試験による性能低下率が14%以上であるのに対し、カソード側ガス拡散層130と、カソード側触媒層122との間、あるいは、アノード側ガス拡散層140と、アノード側触媒層123との間について、少なくとも一方が接合されていない場合には、冷熱サイクル試験による性能低下率は6%以下であった。
【0036】
図9、図10に示す結果から、カソード側ガス拡散層130と、カソード側触媒層122との間を接合し、アノード側ガス拡散層140と、アノード側触媒層123との間について接合しない状態にすると、冷熱サイクル試験を行っても、クロスリークが起こりにくく、性能も低下し難い。すなわち、カソード側ガス拡散層130と、カソード側触媒層122との間、及び、アノード側ガス拡散層140と、アノード側触媒層123との間について、両方を接合状態にする場合あるいは、両方を非接合状態にする場合に比べて、膜電極接合体120、すなわち燃料電池10の耐久性を向上させることができる。
【0037】
以上本実施例によれば、膜電極接合体120は、電解質膜121と、電解質膜121の両面にそれぞれ形成されるカソード側触媒層122とアノード側触媒層123と、膜電極接合体を挟持するカソード側ガス拡散層130とアノード側ガス拡散層140と、を備え、アノード側触媒層123とアノード側ガス拡散層140とが接合され、カソード側触媒層122とカソード側ガス拡散層130が接合されていないので、カソード側ガス拡散層130と、カソード側触媒層122との間、及び、アノード側ガス拡散層140と、アノード側触媒層123との間について、両方を接合状態にする場合あるいは、両方を非接合状態にする場合に比べて、膜電極接合体120、すなわち燃料電池10の耐久性を向上させることができる。
【0038】
なお、本実施例では、ガス拡散層130、140を用いたが、ガス拡散層130、140は膜電極接合体120を補強するために用いられているため、補強層を用いてもよい。
【0039】
アノード側触媒層123の樹脂の空間占有率が35%以上、かつ、アノード側ガス拡散層140の樹脂の空間占有率が18%以上を満たし、カソード側触媒層122の樹脂の空間占有率が35%未満、もしくは、カソード側ガス拡散層130の樹脂の空間占有率が18%未満のいずれかを満たすことが好ましく、より好ましくは、アノード側触媒層123の樹脂の空間占有率が38%以上、あるいは、アノード側ガス拡散層140の樹脂の空間占有率が20%以上である。
【0040】
本実施例では、電解質膜121の膨張収縮を抑制できる所定の結合力以上の力としてX[N/m]以上、電解質膜121の膨張収縮による応力を逃すことができる所定の結合力未満の力としてY[N/m]未満としたとき、X=Y=10を用いているが、電解質膜121の構成により、X、Yの値として10以外の値を採用してもよい。また、X≧Yでああれば、XとYの値は異なっていてもよい。
【0041】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0042】
10…燃料電池
100…直列電池
110…発電ユニット
120…膜電極接合体
121…電解質膜
122…カソード側触媒層
123…アノード側触媒層
130…カソード側ガス拡散層
131…マイクロポーラス層
132…カーボン基材層
133…金属多孔体層
140…アノード側ガス拡散層
141…マイクロポーラス層
142…カーボン基材層
143…金属多孔体層
200…集電板
210…絶縁板
220…押圧プレート
230…エンドプレート
231…エンドプレート
240…テンションロッド
250…ナット
260…押圧バネ
400…サンプル
410…基板
420…面テープ
430…テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜と、
前記電解質膜の両面に形成される第1、第2の触媒層と、
前記電解質膜と前記第1、第2の触媒層とを挟持する第1、第2の補強層と、
を備え、
前記第1の触媒層と前記第1の補強層とが電解質膜の膨張収縮を抑制できる所定の結合力以上の力で接合され、
前記第2の触媒層と前記第2の補強層とが電解質膜の膨張収縮による応力を逃すことができる所定の結合力未満の力で接合されているか、または、前記第2の触媒層と前記第2の補強層とが接合されていない、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記第1、第2の触媒層及び前記第1、第2の補強層はそれぞれ樹脂を含んでおり、
前記第1の触媒層の前記第1の補強層側の表面における前記樹脂の空間占有率と、前記第1の補強層の前記第1の触媒層側の表面における前記樹脂の空間占有率とが、熱圧もしくは燃料電池発電中に生じる熱により前記第1の触媒層と前記第1の補強層とを接合可能な値以上であり、
前記第2の触媒層の前記第2の補強層側の表面における前記樹脂の空間占有率と、前記第2の補強層の前記第2の触媒層側の表面における前記樹脂の空間占有率と、が熱圧もしくは燃料電池発電中に生じる熱によっても前記第2の触媒層と前記第2の補強層とを非接合状態を維持可能な値未満である、燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池において、
前記第1、第2の触媒層及び前記第1、第2の補強層の接合前における、
前記第1の触媒層の前記樹脂の空間占有率が35%以上、かつ、前記第1の補強層の前記樹脂の空間占有率が18%以上を満たし、
前記第2の触媒層の前記樹脂の空間占有率が35%未満、もしくは、前記第2の補強層の前記樹脂の空間占有率が18%未満のいずれかを満たす、
燃料電池。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池において、
前記第1の触媒層の前記樹脂の空間占有率が38%以上である燃料電池。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の燃料電池において、
前記第1の補強層の前記樹脂の空間占有率が20%以上である、燃料電池。
【請求項6】
請求項3から請求項5のうちのいずれか一項に記載の燃料電池において、
前記第1、第2の触媒層、及び前記第1、第2の補強層の樹脂の空間占有率は、フーリエ変換赤外分光 減衰全反射法を用いて算出されている、燃料電池。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちのいずれか一項に記載の燃料電池において、
前記第1の触媒層はアノード側触媒層であり、
前記第2の触媒層はカソード側触媒層である、燃料電池。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちのいずれか一項に記載の燃料電池において、
前記補強層は、ガス拡散層である、燃料電池。
【請求項9】
燃料電池の製造方法であって、
(a)電解質膜を準備する工程と、
(b)前記電解質膜の第1の面に、包含する樹脂の空間占有率が35%以上である第1の触媒層を形成し、第2の面に、包含する樹脂の空間占有率が所定の値である第2の触媒層を形成する工程と、
(c)包含する樹脂の空間占有率が18%以上である第1のガス拡散層と、包含する樹脂の空間占有率が所定の値である第2のガス拡散層と、を準備する工程と、
(d)前記第1の触媒層と前記第1のガス拡散層とを熱圧で接合し、前記第2の触媒層と前記第2のガス拡散層とを熱圧で接合する工程と、
を備え、
前記工程(b)(c)において、前記第2の触媒層が包含する樹脂の空間占有率が35%未満、あるいは、前記第2のガス拡散層が包含する樹脂の空間占有率が18%未満の2つの条件のうち少なくとも一方を満たしている、燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−99393(P2012−99393A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247491(P2010−247491)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】