説明

燃料電池用の膜電極接合体とこれを有する燃料電池

【課題】電解質膜のより確実な湿潤を図ることで発電能力を向上させる。
【解決手段】単セル15は、電解質膜20と、その両側に膜周縁を除いて接合したアノード21とカソード22の両電極とで膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。また、単セル15は、MEAを構成する電解質膜20の電極面領域部20sから周縁領域部20eを周縁側に延ばし、この周縁領域部20eをその表裏で保護フィルム30で被覆する。その上で、電解質膜20は、膨潤に伴う膜厚方向の伸び割合が電解質膜20の膜面方向の破断伸度より小さい性状とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜を含む燃料電池用の膜電極接合体とこの膜電極接合体を有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料とその酸化剤、例えば、水素と酸素の電気化学反応によって発電する。こうした燃料電池では、プロトン伝導性を有する電解質膜(例えば、固体高分子膜)の両膜面にアノードとカソードの両電極を形成し、この両電極に、ガス拡散層を経て燃料ガスと酸化ガス、例えば水素ガスと空気を供給する。このように電解質膜の両電極に異なるガスを供給することから、通常、電解質膜は、少なくとも一方の膜面の側で膜周縁においてシールされる。こうしてシールされる電解質膜は、薄葉状であることから、電解質膜の耐久性の向上を図るため、種々の手法が提案されている(例えば、下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−242897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電解質膜は電気化学反応に伴ってカソード側で生成される生成水やガス加湿用の水蒸気に晒され、生成水量や水蒸気量は電池運転に伴い変動することから、電解質膜は膨潤を繰り返す。こうした膨潤の繰り返しは、電解質膜の伸びとなって現れ、機械的な負荷となり得る。しかしながら、上記公報で提案された技術では、シール箇所における電解質膜の機械的強度を補強材により高めるものの、電解質膜の膨潤に伴う負荷についての配慮に欠けており、電解質膜の耐久性の改善の余地が残されていた。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、電解質膜の耐久性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的としてなされたものであり、以下の構成を採用した。
【0007】
[適用1:燃料電池用の膜電極接合体]
電解質膜の周縁を除く両膜面に形成された電極と、前記電解質膜を少なくとも一方の膜面の側で前記周縁において被覆する被覆部材とを備えた燃料電池用の膜電極接合体であって、
前記電解質膜は、膨潤に伴う膜厚方向の伸び割合が電解質膜の膜面方向の破断伸度より小さい性状を有する
ことを要旨とする。
【0008】
上記構成を備える膜電極接合体では、電解質膜を少なくとも一方の膜面の側で膜周縁において被覆する被覆部材を、電解質膜周縁の機械的強度の向上に寄与させる。その上で、上記構成の膜電極接合体は、電解質膜を、膨潤に伴う膜厚方向の伸び割合が電解質膜の膜面方向の破断伸度より小さい性状のものとするので、次の利点がある。
【0009】
被覆部材による電解質膜の被覆範囲は膜周縁の側であることから、膜周縁から被覆部材による被覆範囲までは被覆部材と電解質膜とが接合し、電極の側における被覆範囲境界(以下、これを電極側境界と称する)では、被覆部材と電解質膜との接合が解かれることになる。こうした現象は、被覆部材が電解質膜だけを膜周縁で被覆する場合でも、被覆部材が電極の周縁を含んで電解質膜をその膜周縁で被覆する場合でも起きる。被覆部材と電解質膜とが接合した被覆範囲においては、その電解質膜は、上記したように機械的強度の向上に寄与し得る強度を有する被覆部材による膜厚方向の拘束を受ける。その一方、電解質膜は、電極側境界よりも電極の側では被覆部材による膜厚方向の拘束を受けない。
【0010】
膨潤に伴う電解質膜の伸びは、被覆部材による被覆範囲を含め電極側境界から電極の側でも電解質膜に生じる。そして、被覆部材による被覆範囲では、電解質膜は被覆部材による膜厚方向の拘束を受けていることから、膜厚方向の伸びは抑制され、膜面方向にしかほぼ伸びない。その一方、電極側境界から電極の側では、被覆部材による拘束がないぶん、膜面方向は元より膜厚方向にも伸びることになる。よって、電解質膜は、電極側境界において膜面方向の伸びによる負荷と膜厚方向の伸びによる負荷とを受けることになる。このため、電極側境界から電極の側で受ける膜厚方向の負荷が大きいと、電解質膜は、こうした負荷の掛かり方から、電極側境界において損傷する可能性がある。
【0011】
こうした電解質膜の伸びとその負荷の掛かり方の解析の観点から、上記構成を備える膜電極接合体では、膨潤に伴う膜厚方向の伸び割合が電解質膜の膜面方向の破断伸度より小さい性状の電解質膜を用いるので、電極側境界から電極の側で受ける膜厚方向の負荷を小さくして、電極側境界における電解質膜の損傷の抑制、延いては、耐久性を向上することが可能となる。この場合、電解質膜は膨潤に伴って膜厚方向に伸びるものの、その伸びの割合は電解質膜の膜面方向の破断伸度より小さいので、膜厚方向の伸びだけで電解質膜が損傷を受けるものではない。
【0012】
上記構成を備える膜電極接合体において、膨潤に伴う膜厚方向の伸び割合が電解質膜の膜面方向の破断伸度より小さい性状の電解質膜とするには、電解質樹脂の重合を経た電解質膜の製膜過程において、例えばスルホン酸基といったイオン交換基(極性基)のイオン交換当量や分子量を電解質樹脂の配合量で調整したり、重合のために調合する架橋剤の調合程度を調整すればよい。そして、こうした調整を経て、膨潤に伴う膜厚方向の伸び割合が電解質膜の膜面方向の破断伸度より小さい性状の電解質膜を得ることができる。
【0013】
本発明は、上記した燃料電池用の膜電極接合体の他、この膜電極接合体の製造方法や、膜電極接合体を有する燃料電池としても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例の燃料電池10を構成する単セル15を断面視して概略的に示す説明図である。
【図2】単セル15が有するMEAを平面視して電極領域と周縁領域の区別を示す説明図である。
【図3】単セル15の周縁における各部材の構成を断面視して概略的に示す説明図である。
【図4】本実施例の燃料電池10とその比較例燃料電池の性状の相違を示す説明図である。
【図5】本実施例の燃料電池10と比較例燃料電池の性能評価を説明するための説明図である。
【図6】変形例の単セル15Aの周縁における各部材の構成を断面視して概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本実施例の燃料電池10を構成する単セル15を断面視して概略的に示す説明図である。本実施例の燃料電池10は、図1に示す構成の単セル15を複数積層したスタック構造の固体高分子型燃料電池である。
【0016】
単セル15は、電解質膜20の両側にアノード21とカソード22の両電極を備える。このアノード21とカソード22は、電解質膜20の両膜面に形成され電解質膜20と共に膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。この他、単セル15は、電極形成済みの電解質膜20を両側から挟持するアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とガスセパレーター25,26を備え、両ガス拡散層は、対応する電極に接合されている。
【0017】
電解質膜20は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード21およびカソード22は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。アノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成される。
【0018】
ガスセパレーター25は、アノード側ガス拡散層23の側に、水素を含有する燃料ガスを流すセル内燃料ガス流路47を備える。ガスセパレーター26は、カソード側ガス拡散層24の側に、酸素を含有する酸化ガス(本実施例では、空気)を流すセル内酸化ガス流路48を備える。なお、図には記載していないが、隣り合う単セル15間には、例えば、冷媒が流れるセル間冷媒流路を形成することができる。これらガスセパレーター25,26は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成されている。
【0019】
図1では図示していないが、ガスセパレーター25,26の外周近傍の所定の位置には、複数の孔部が形成されている。これらの複数の孔部は、ガスセパレーター25,26が他の部材と共に積層されて燃料電池10が組み立てられたときに互いに重なって、燃料電池10内を積層方向に貫通する流路を形成する。すなわち、上記したセル内燃料ガス流路47やセル内酸化ガス流路48、あるいはセル間冷媒流路に対して、燃料ガスや酸化ガス、あるいは冷媒を給排するためのマニホールドを形成する。
【0020】
本実施例の燃料電池10は、ガスセパレーター25のセル内燃料ガス流路47からの水素ガスを、アノード側ガス拡散層23で拡散ししつつアノード21に供給する。空気については、ガスセパレーター26のセル内酸化ガス流路48からの空気を、カソード側ガス拡散層24で拡散ししつつカソード22に供給する。
【0021】
次に、単セル15の周縁の構成について説明する。図2は単セル15が有するMEAを平面視して電極領域と周縁領域の区別を示す説明図、図3は単セル15の周縁における各部材の構成を断面視して概略的に示す説明図である。
【0022】
図2に示すように、MEAは、平面視で矩形形状をなし、その矩形形状に倣った中央領域を電極面領域100とし、当該領域をその外側で取り囲む枠状の領域を周縁領域110とする。図2は、MEAの一方の側、例えばアノード21の側の平面視を示すが、他方の側であるカソード22の側でも同様である。図3に示すように、この電極面領域100と周縁領域110の連続した範囲、即ち図2における縦方向周縁、或いは横方向周縁を断面視すると、単セル15においてMEAを構成する電解質膜20は、電極面領域100に該当する範囲を電極面領域部20sとし、周縁領域110に該当する範囲を周縁領域部20eとして、この周縁領域部20eを電極面領域部20sから周縁側に延ばしている。MEAは、電解質膜20の電極面領域部20sの両膜面にアノード21とカソード22とを接合形成して備え、周縁領域110に当たる周縁領域部20eをその表裏で保護フィルム30で被覆する。本実施例では、ガスのシールをアノード側とカソード側でも確保するため表裏で保護フィルム30で被覆したが、保護フィルム30をアノードとカソードの一方とするようにすることもできる。
【0023】
保護フィルム30は、MEA、詳しくは電解質膜20における周縁領域110の周縁領域部20eの保護の要をなす。例えば、保護フィルム30は、電解質膜20に勝る機械的強度を有するポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)のような樹脂製のフィルムから形成され、周縁領域部20eの表面に周縁領域110に亘って接合している。
【0024】
単セル15は、上記したように保護フィルム30を接合済みのMEAにアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とを重ね、シール機能を有する樹脂製のシール材32にて、周縁領域部20eとその表裏の保護フィルム30および上記の両ガス拡散層の周縁端部を含んでシールする。その上で、単セル15は、ガスセパレーター25とガスセパレーター26とで、MEAを両ガス拡散層およびシール材32と共に挟持する。これにより、図1にて説明したように、ガスセパレーター25のセル内燃料ガス流路47(図1参照)から流入した水素ガスは、アノード側ガス拡散層23を経てアノード21に供給され、ガスセパレーター26のセル内酸化ガス流路48(図1参照)から流入した空気は、カソード側ガス拡散層24を経てカソード22に供給され、電解質膜20にて電気化学反応が進行する。そして、上記したガス供給は、シール材32にてMEA周縁でシールされた状態で継続されることになる。
【0025】
上記した本実施例の単セル15における電解質膜20は、プロトン伝導性を備えるフッ素系樹脂を用いた製造過程において、イオン交換基(極性基)であるスルホン酸基を有するスルホン系樹脂の配合調整を経たイオン交換当量の調整や分子量の調整、或いは、樹脂重合に関与する架橋剤の配合調整等により、膨潤に伴う膜厚方向の伸び割合が電解質膜20の膜面方向の破断伸度より小さい性状とされている。図4は本実施例の燃料電池10とその比較例燃料電池の性状の相違を示す説明図である。
【0026】
図4に示すように、実施例の燃料電池10では、電解質膜20は、膨潤による膜厚方向の伸び割合(116%)が、膜面方向(面内方向)の破断伸度(伸び割合225%)より小さくされているのに対し、比較例1および比較例2では、その電解質膜の膨潤による膜厚方向の伸び割合は、膜面方向(面内方向)の破断伸度を超えている。この場合、比較例1および比較例2の電解質膜についても、上記したような調整を経て、図4に示すような膨潤による伸び割合とした。なお、図4における膨潤による膜厚方向の伸び割合は、各比較例および実施例の電解質膜20を、80℃の温水に2時間浸漬させた場合の膨潤による伸び割合であり、破断伸度は、80℃で相対湿度80%の環境において電解質膜20を引っ張り試験に処した場合に、膜の破断が起きた際の伸び割合(破断伸度)である。
【0027】
そして、各比較例および実施例の燃料電池の単セル15を、乾湿サイクル試験に処して性能評価を行った。この乾湿サイクル試験では、セル温度を80℃とした上で、8分間の乾燥状態でのガス供給・発電と、2分間の相対湿度100%でのガス供給・発電とを1サイクルとして、このサイクルを繰り返すこととした。図5は本実施例の燃料電池10と比較例燃料電池の性能評価を説明するための説明図である。本実施例の燃料電池10では、電解質膜20の膨潤による膜厚方向の伸びの割合を規定することで、電解質膜20の耐久性の向上を図ることとした。仮に、電解質膜20に損傷が起きれば、その損傷箇所からのガスリークが起き得る。よって、性能評価として、図5に示すように、サイクル試験のサイクル回数とガスリーク量との関係を調べた。
【0028】
この図5から明らかなように、本実施例の燃料電池10では、4000回を超える乾湿サイクルにあっても、初期のリーク量をほぼ維持できたのに対し、比較例2では、膨潤による膜厚方向の伸び割合(331%)が、膜面方向(面内方向)の破断伸度(伸び割合150%)を大きく超えていることから、500回に満たない乾湿サイクルで、実用上求められるリーク量(30n mol/sec/cm/100kPa:N)を超えてしまった。また、比較例1では、膨潤による膜厚方向の伸び割合(153%)が膜面方向(面内方向)の破断伸度(伸び割合150%)を超えている程度は比較例2より小さいことから、比較例2よりもリークの改善は見られるものの、3400回程度の乾湿サイクルで実用上の上記のリーク量を超えてしまった。このことから、本実施例の電解質膜20のように、膨潤による膜厚方向の伸び割合(116%)を膜面方向(面内方向)の破断伸度(伸び割合225%)より小さくすることには大きな意義があり、このように規定することで、電解質膜20の耐久性を高めることができることが確認できた。
【0029】
比較例と実施例での電解質膜20の耐久性の相違は、次のように説明できる。図3に示すように、電解質膜20は、その周縁領域部20eにおいてその表裏で保護フィルム30に接合する。そして、アノード21とカソード22の両電極側の保護フィルム30のエッジ部31では、保護フィルム30と周縁領域部20eとの接合が解かれる。保護フィルム30による被覆範囲(周縁領域110)は、MEAのシール箇所に相当するためにシールに伴う力を局所的に受け、当該被覆範囲の電解質膜20、詳しくは周縁領域部20eは、この力に抗する強度を有する保護フィルム30による膜厚方向の拘束を受ける。その一方、電解質膜20は、保護フィルム30のエッジ部31よりもアノード21とカソード22の両電極では保護フィルム30による膜厚方向の拘束は受けない。
【0030】
上記した乾湿サイクル試験では、膨潤に伴う電解質膜20の伸びが繰り返され、こうした膨潤による電解質膜の伸びは、保護フィルム30による被覆範囲(周縁領域110)を含め保護フィルム30のエッジ部31から電極の側(電極面領域100、電極面領域部20s)でも生じる。そして、保護フィルム30による被覆範囲(周縁領域110)では、電解質膜20(周縁領域部20e)は保護フィルム30による膜厚方向の拘束を受けていることから、膜厚方向の伸びは抑制され、膜面方向にしかほぼ伸びない。この伸びの様子は、図3において水平方向の白抜き矢印で示されている。その一方、エッジ部31から電極の側(電極面領域部20s)では、保護フィルム30による拘束がないぶん、膜面方向は元より膜厚方向にも伸びることになる。よって、電解質膜20は、保護フィルム30のエッジ部31において、図3で水平方向の白抜き矢印で示す膜面方向の伸びによる負荷と図3で鉛直方向の白抜き矢印で示す膜厚方向の伸びによる負荷とを受けることになる。このため、エッジ部31から電極の側(電極面領域部20s)で受ける膜厚方向の負荷が大きいと、電解質膜20は、エッジ部31において損傷する可能性がある。
【0031】
保護フィルム30のエッジ部31における電解質膜損傷は、ガスリークに繋がる。図5に示した両比較例では、ガスリークが増加したことから、乾湿サイクルの繰り返しに伴い、電解質膜は、エッジ部31において損傷が起きたと予想される。これに対し、本実施例の燃料電池10では、図5に示すように、4000回を超える上記の乾湿サイクルの繰り返しを経ても、ガスリークの増加を来さないので、エッジ部31における電解質膜損傷が抑制され、電解質膜20の耐久性は向上したと言える。こうした耐久性の向上は、図4に示した性状対比から、膨潤による膜厚方向の伸び割合を膜面方向(面内方向)の破断伸度より小さくすることで得られることになる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、上記の実施例では、電解質膜20の周縁領域部20eのみを保護フィルム30で被覆するようにしたが、アノードおよびカソードの電極についてもその周縁で保護フィルム30で被覆するようにすることもできる。図6は変形例の単セル15Aの周縁における各部材の構成を断面視して概略的に示す説明図である。この変形例の単セル15Aは、保護フィルム30Aにて周縁領域部20eをその表裏で被覆すると共に、保護フィルム30Aにより、アノード21およびカソード22の両電極の周縁も被覆している。よって、この変形例では、保護フィルム30で被覆された電解質膜20の周縁領域部20eと両電極周縁を周縁領域110とし、電極周縁を除く領域を電極面領域100とする。
【0033】
そして、この変形例の単セル15Aにあっても、保護フィルム30Aと周縁領域部20eとの接合が解かれるエッジ部31で、電解質膜20は、図3で説明したように膜面方向の伸びによる負荷と膜厚方向の伸びによる負荷とを受けることになり、何らの対処をしないとすれば、エッジ部31での損傷が危惧される。ところが、この変形例の単セル15Aにあっても、電解質膜20の膨潤による膜厚方向の伸びの割合を上記のように規定することで、エッジ部31での損傷を抑制して、電解質膜20の耐久性を高めることができる。
【0034】
また、上記の実施例では、アノード21とカソード22の両電極側で保護フィルム30により周縁領域部20eを被覆したが、上記の両電極の一方側だけを保護フィルム30で被覆するようにすることもできる。
【符号の説明】
【0035】
10…燃料電池
15…単セル
15A…単セル
20…電解質膜
20e…周縁領域部
20s…電極面領域部
21…アノード
22…カソード
23…アノード側ガス拡散層
24…カソード側ガス拡散層
25…ガスセパレーター
26…ガスセパレーター
30…保護フィルム
30A…保護フィルム
31…エッジ部
32…シール材
47…セル内燃料ガス流路
48…セル内酸化ガス流路
100…電極面領域
110…周縁領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の周縁を除く両膜面に形成された電極と、前記電解質膜を少なくとも一方の膜面の側で前記周縁において被覆する被覆部材とを備えた燃料電池用の膜電極接合体であって、
前記電解質膜は、膨潤に伴う膜厚方向の伸び割合が電解質膜の膜面方向の破断伸度より小さい性状を有する
膜電極接合体。
【請求項2】
燃料電池であって、
請求項1に記載の膜電極接合体と、
該膜電極接合体の前記電極に接合されたガス拡散層と、
前記保護フィルムを介在させて、前記膜電極接合体の周縁をシールするシール部材と、
該シール部材と前記ガス拡散層を含んで、前記膜電極接合体を挟持するセパレーターとを備える
燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−64377(P2012−64377A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206428(P2010−206428)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】