説明

燃料電池用セパレータの製造方法

【課題】セパレータの変形を抑制し、シール性の高いセパレータを提供することを目的とする。
【解決手段】金属板をプレス加工して発電に寄与する領域に凹凸形状からなる流路を形成する予備成形工程と、予備成形工程で形成した流路を所定形状に成形する仕上げ工程と、仕上げ工程で得られた金属板の不要部分を切り落とすトリミング工程と、仕上げ工程またはトリミング工程と同時またはこれらの工程後に、前記流路の長手方向に沿って連続する第1切欠き部を形成する形状矯正工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータの製造方法に関し、詳細には、金属板をプレス加工して流路を形成した時に発生したセパレータの変形(反りやうねり)を矯正するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、高分子電解質膜の両面に水素と酸素を供給して起電力を発生させる燃料電池では、単位体積当たりの起電力をより一層高めるために、金属製の薄板をプレス加工して凹凸形状の流路を形成する、いわゆる薄板金属セパレータの開発がなされている(例えば、特許文献1など参照)。
【0003】
通常、金属セパレータは、プレスマシン及び金型を用いたプレス成形にて形成され、予備成形、仕上げ成形及びトリミング工程を経て製造される。そして、このようにして得られた金属セパレータは、2枚重ね合わせることで、燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却水(冷媒)をそれぞれ流通させる燃料ガス流路、酸化剤ガス流路及び冷媒流路を形成してなるセパレータとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−367665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プレス工程の予備成形及び仕上げ工程は何れも材料を引き延ばして成形する張り出し成形であるため、引き延ばされた材料が戻ろうとし、プレス成形後の変形(反りやうねり)が発生する。
【0006】
特に、燃料電池に使用されるセパレータでは、凹凸形状をなす規則性を持った流路とされていることから、流路と交差する方向に大きく曲がり易い。このように変形したセパレータ同士を重ね合わせて接合一体化した場合、接合部分に隙間が生じて流路からガスや冷媒が漏れる可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、セパレータの変形を抑制し、シール性の高いセパレータを提供し得る燃料電池用セパレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る燃料電池用セパレータの製造方法は、金属板をプレス加工して発電に寄与する領域に凹凸形状からなる流路を形成する予備成形工程と、予備成形工程で形成した流路を所定形状に成形する仕上げ工程と、仕上げ工程で得られた金属板の不要部分を切り落とすトリミング工程と、仕上げ工程またはトリミング工程と同時またはこれらの工程後に、前記流路の長手方向に沿って連続する第1切欠き部を形成する形状矯正工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の燃料電池用セパレータの製造方法によれば、仕上げ工程またはトリミング工程と同時またはこれらの工程後に、流路の長手方向に沿って連続する第1切欠き部を形成することで、これらプレス加工時に材料に残る引っ張りの残留応力が、この第1切欠き部を形成することによって相殺され、残留する応力を無くすことができる。したがって、本発明方法によれば、反りやうねりの発生が抑制された燃料電池用セパレータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】燃料電池スタックの全体構成を示す斜視図である。
【図2】燃料電池単セルの拡大断面図である。
【図3】燃料電池単セルの要部拡大断面図である。
【図4】セパレータ製造工程のうち予備成形工程を示し、(A)はその工程におけるセパレータの平面図、(B)はその流路部分の要部拡大断面図である。
【図5】セパレータ製造工程のうち仕上げ工程を示し、(A)はその工程におけるセパレータの平面図、(B)はその流路部分の要部拡大断面図である。
【図6】セパレータ製造工程のうちトリミング工程を示し、その工程におけるセパレータの平面図である。
【図7】形状矯正工程で使用する金型を示し、(A)はその金型の斜視図、(B)はその金型に形成された突起の要部拡大図である。
【図8】ワークに引っ張り応力が残存していることを示す図である。
【図9】第1切欠き部及び第2切欠き部の形成状態を示す図である。
【図10】セパレータに残存する応力が第1切欠き部及び第2切欠き部によって打ち消された状態を示す図である。
【図11】予備成形高さと歪みとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
「燃料電池スタックの全体構成」
先ず、本発明の燃料電池用セパレータが使用される燃料電池スタックの全体構成について簡単に説明する。図1は燃料電池スタックの全体構成を示す斜視図、図2は燃料電池単セルの拡大断面図、図3は燃料電池単セルの要部拡大断面図である。
【0013】
燃料電池スタック1は、図1に示すように、燃料ガス(水素ガス)と酸化剤ガス(酸素)の反応により起電力を生じる単位電池としての燃料電池単セル2を所定数だけ積層した積層体3とされ、その積層体3の両端に集電板4、絶縁板5およびエンドプレート6を配置し、該積層体3をタイロッド7で締め付け、そのタイロッド7の端部にナット100を螺合させることで構成されている。
【0014】
この燃料電池スタック1では、燃料ガス、酸化剤ガスおよび冷媒(冷却水)をそれぞれ各燃料電池単セル2のセパレータ(図示は省略する)に形成された各流路に流通させるための燃料ガス導入口8、燃料ガス排出口9、酸化剤ガス導入口10、酸化剤ガス排出口11、冷媒導入口12および冷媒排出口13を、一方のエンドプレート6に形成している。
【0015】
かかる構成の燃料電池スタック1においては、燃料ガスは、燃料ガス導入口8より導入されてセパレータに形成された燃料ガス流路を流れ、燃料ガス排出口9より排出される。酸化剤ガスは、酸化剤ガス導入口10より導入されてセパレータに形成された酸化剤ガス流路を流れ、酸化剤ガス排出口11より排出される。冷媒は、冷媒導入口12より導入されてセパレータに形成された冷媒流路を流れ、冷媒排出口13より排出される。
【0016】
燃料電池単セル2は、図2に示すように、膜電極接合体(MEA:membrane electrode assembly)14と、この膜電極接合体14の両面にそれぞれ配置される燃料電池用セパレータ(以下、単にセパレータという)15とから構成される。
【0017】
膜電極接合体14は、例えば水素イオンを通す高分子電解質膜である固体高分子電解質膜と、アノード触媒とガス拡散層からなるアノード電極と、カソード触媒とガス拡散層からなるカソード電極(何れも図示は省略する)とからなる。かかる膜電極接合体14は、アノード電極とカソード電極によって、固体高分子電解質膜をその両側から挟み込んだ積層構造とされている。
【0018】
セパレータ15は、例えば厚みの薄いステンレスなどの金属板からなり、発電に寄与するアクティブ領域(膜電極接合体14と接する中央部分の領域)に、プレス加工によって凹条部16と凸条部17を交互に形成した凹凸形状(いわゆるコルゲート形状)を形成している。
【0019】
膜電極接合体14のアノード側に接して配置された凹条部16は、膜電極接合体14との間に燃料ガス(水素H)を流通させる燃料ガス流路18を形成する。一方、膜電極接合体14のカソード側に接して配置された凹条部16は、膜電極接合体14との間に酸化剤ガス(酸素O)を流通させる酸化剤ガス流路19を形成する。そして、セパレータ15、15同士が接合された凸条部17、17で囲まれた空間部は、冷却水(LLC)を流通させる冷媒流路20を形成する。
【0020】
また、セパレータ15には、前記した燃料ガス導入口8、燃料ガス排出口9、酸化剤ガス導入口10、酸化剤ガス排出口11、冷却水導入口12および冷却水排出口13と連通するそれぞれのマニホールド(図示は省略する)が形成されている。そして、特に本実施形態では、セパレータ15の反りやうねりを無くすために、凹凸形状をなす凹条部16と凸条部17に、図3に示すように流路の長手方向(図3の紙面と直交する方向)に沿って連続する第1切欠き部25を形成してある。
【0021】
第1切欠き部25は、断面略V字状の溝として、燃料ガス、酸化剤ガスまたは冷媒が流れる側とは反対側の面、すなわち流路の裏面に形成されている。この実施形態では、2つの第1切欠き部25を互いに平行に形成している。なお、図示は省略するが、第1切欠き部25と交差する方向(ガス及び冷媒の流れ方向と直角に交差する方向)にも同様の断面略V字状の溝を第2切欠き部として形成してある。全体から見ると、凹条部16と凸条部17には、第1切欠き部25と第2切欠き部とにより菱目形状の溝が形成されていることになる。
【0022】
このように構成された膜電極接合体14とセパレータ15とからなる燃料電池単セル2は、一対のセパレータ15、15で膜電極接合体14を挟み込むようにして積層され、当該膜電極接合体14の平坦面とされた外周縁部に設けられた第1シール部材23を介して上下のセパレータ15、15同士を結合一体化してある。そして、この燃料電池単セル2は、外周縁部に第2シール部材24を介在させることにより複数層積層されて燃料電池スタック1を構成する。
【0023】
「セパレータの製造方法」
図4はセパレータ製造工程のうち予備成形工程を示し、(A)はその工程におけるセパレータの平面図、(B)はその流路部分の要部拡大断面図、図5はセパレータ製造工程のうち仕上げ工程を示し、(A)はその工程におけるセパレータの平面図、(B)はその流路部分の要部拡大断面図、図6はセパレータ製造工程のうちトリミング工程を示し、その工程におけるセパレータの平面図、図7は形状矯正工程で使用する金型を示し、(A)はその金型の斜視図、(B)はその金型に形成された突起の要部拡大図、図8はワークに引っ張り応力が残存していることを示す図、図9は第1切欠き部及び第2切欠き部の形成状態を示す図、図10はセパレータに残存する応力が第1切欠き部及び第2切欠き部によって打ち消された状態を示す図、図11は予備成形高さと歪みとの関係を示す図である。
【0024】
本実施形態のセパレータ15を製造するには、先ず、金属板をプレス加工してアクティブ領域に凹凸形状からなる流路を形成する予備成形工程行う。予備成形工程では、図4に示すように、ステンレスからなる金属板26に、前記凹条部16と凸条部17からなる凹凸形状をなす流路をなだらかに形成する。
【0025】
この予備成形工程では、通常の成形高さ(図4(B)の点線で示す)よりもその成形高さH1を十分高くして成形する。このときの成形高さH1は、予備成形時と仕上げ成形時それぞれの周長における比率である周長比(予備成形周長/仕上げ成形周長)が100%近辺で歪みが極小となることから(図11参照)、そのときの予備成形高さH1(0.8mm)以上で予備成形を行う。
【0026】
次に、予備成形工程で形成した流路を所定形状に成形する仕上げ工程を行う。仕上げ工程では、予備成形工程で成形高さH1を十分高くして成形してあるため、図5に示すように引っ張り成形ではなく材料を潰しながらの圧縮成形となる。そのため、ワーク内部に残存する引っ張りの残留応力が圧縮加工によって相殺され、加工部分が未加工部分を引っ張ろうとすることで生じる歪みの影響が抑制される。
【0027】
次に、仕上げ工程で得られた金属板26の不要部分を切り落とすトリミング工程を行う。トリミング工程では、金属板26の不要部分(図6の斜線部分)を切り落とすと共に、各流路に燃料ガス、酸化剤ガスまたは冷媒を供給するためのマニホルド孔27を形成する。
【0028】
次に、トリミング工程と同時またはトリミング工程後に、流路の長手方向に沿って連続する第1切欠き部25と、第1切欠き部25と交差する方向に第2切欠き部を形成する形状矯正工程を行う。形状矯正工程で使用する金型27は、図7に示すように、流路に沿う方向に連続する2本の逆V字状をなす第1突起部28と、この第1突起部28と交差する方向に連続する逆V字状をなす第2突起部29とを有している。第1突起部28は、流路の数だけ形成されており、第2突起部29は、適当数設けられている。第1突起部28としては、例えば突起高さ0.2mm、先端角度45度、突起間ピッチ0.2mmにて形成されている。
【0029】
トリミング工程後では、その前の工程で図8に示すようにセパレータ15の内部に引っ張りの残留応力(同図中矢印で示す)が残っているが、これを図9に示すように第1突起部28と第2突起部29が形成された金型27でセパレータ15に第1切欠き部25と第2切欠き部30を形成する。第1突起部28と第2突起部29をワークに押し付けて溝を形成すれば、引っ張り残留応力を打ち消す方向に力が作用するので、図10に示すようにセパレータ15に反りやうねり等による変形(歪み)が無くなる。それにより、加工部分が未加工部分を引っ張ろうとする歪みが無くなる。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、トリミング工程後に、流路の長手方向に沿って連続する第1切欠き部25及び第2切欠き部30を形成することで、これらプレス加工によって材料に残る引っ張りの残留応力が、この第1切欠き部25及び第2切欠き部30を形成することによって相殺され、残留する応力を無くすことができる。したがって、本発明方法によれば、反りやうねりの発生が抑制された燃料電池用セパレータを得ることができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、第1切欠き部25だけで十分に引っ張り残留応力を打ち消すことができるが、この第1切欠き部25に加えて第2切欠き部30を形成し菱目形状とすることで、さらにセパレータの変形をより一層抑制することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態によれば、通常の予備成形とは異なり、その成形高さを十分に高くして成形した後に仕上げ成形を行うため、この仕上げ成形では引っ張り成形ではなく圧縮成形となることからワーク内部に残存する縮もうとする力を無くすことができ、セパレータの歪みを解消することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、流路のうち燃料ガス、酸化剤ガスまたは冷却水が流れる側とは反対側の面(流体が流れる面とは反対側の裏面)に第1切欠き部25及び第2切欠き部30を形成しているので、流路を流れるガスや冷却水に流体抵抗が掛からない。
【0034】
以上、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に制限されることなく種々の変更が可能である。
【0035】
上記した実施の形態では、トリミング工程後に形状矯正工程を行ったが、このトリミング工程と同時に形状矯正工程を行っても良いし、或いは仕上げ工程と同時、或いは仕上げ工程後に形状矯正工程を行っても良い。
【符号の説明】
【0036】
1…燃料電池スタック
2…燃料電池単セル
14…膜電極接合体
15…セパレータ
16…凹条部(凹凸形状)
17…凸条部(凹凸形状)
18…燃料ガス流路(流路)
19…酸化剤ガス流路(流路)
20…冷媒流路(流路)
25…第1切欠き部
27…形状矯正工程で使用する金型
28…第1突起部
29…第2突起部
30…第2切欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板をプレス加工して発電に寄与する領域に凹凸形状からなる流路を形成する予備成形工程と、
予備成形工程で形成した流路を所定形状に成形する仕上げ工程と、
仕上げ工程で得られた金属板の不要部分を切り落とすトリミング工程と、
仕上げ工程またはトリミング工程と同時またはこれらの工程後に、前記流路の長手方向に沿って連続する第1切欠き部を形成する形状矯正工程とを備えた
ことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、
前記形状矯正工程において、前記第1切欠き部と交差する方向に第2切欠き部を形成する
ことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、
前記予備成形工程において、前記凹凸形状からなる流路の高さは、前記仕上げ工程で形成する流路の高さよりも高く形成する
ことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、
前記仕上げ工程では、前記金属板を潰して成形する圧縮成形とする
ことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−8701(P2013−8701A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222843(P2012−222843)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【分割の表示】特願2006−117874(P2006−117874)の分割
【原出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】