説明

燃料電池用固形燃料

燃料電池で用いる固形燃料が提供される。この固形燃料としては、固形オキシジェネート、及び固形燃料から気体燃料を発生させるための混合物がある。この固形燃料をカートリッジ内に収容し、液体反応物と反応させ、燃料電池で用いられる気体燃料を発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池で用いるための固形燃料に関するものである。この固形燃料は、金属オキシジェネート、ゲル化オキシジェネート、及び凍結オキシジェネートから選択される固形オキシジェネートによって構成される。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学物質による発電の方法として開発されてきた。初期の開発の中には、電力を生成するための清浄な燃料源として、水素を利用する方法にその焦点があてられたものもあった。燃料電池で用いる水素の貯蔵及び生成についての研究がなされてきた。これについては、米国特許第6,057,051号、同6,267,229号、同6,251,349号、同6,459,231号、及び同6,514,478号の各明細書にその内容が開示されている。水素は高エネルギーで低公害な燃料であるが、この燃料は、エネルギー密度、安全性といった観点からその貯蔵が困難である。
【0003】
水素の貯蔵が困難であるため、より有用な燃料から水素を生成する方法が求められてきた。水素の含有量が相対的に多く、そして改質処理を通じてその水素を生成することが可能な液体燃料が大いに注目されてきた。燃料の改質処理は、コストが高く、燃料電池を利用した発電用設備の複雑さ及びそのサイズを増大させる。米国特許第4,716,859号、同第6,238,815号、及び同第6,277,330号の各明細書に述べられているように、液体燃料を改質するための改質装置及び改質方法が開発されてきた。その結果、燃料電池電極に対して直接作用することのできる水素リッチな燃料を用いた燃料電池に多大な関心が寄せられている。この燃料電池は、一般に、燃料、通常は有機燃料を改質処理し、そして燃料電池に対して、水素を豊富に含み、実質上一酸化炭素(CO)を含まない供給ストリームを生成する間接又は改質装置燃料電池、及び有機燃料を、直接燃料電池に供給し、そして化学改質処理を行わずに酸化する直接酸化燃料電池、の2つの種類に分けられる。直接酸化燃料電池は、液体供給設計又は気体供給設計のいずれかを採ることが可能で、また燃料は、燃料電池内で酸化させた後、水や二酸化炭素(CO2)のような清浄な燃焼生成物を生成するのが好ましい。
【0004】
直接メタノール型燃料電池(DMFC)の初期の開発においては、気体状メタノールの利用に高い温度が必要とされ、この高温が燃料電池膜の劣化を引き起こした。このため、米国特許第5,599,638号明細書及び同第6,248,460号明細書に開示されているように、液相のメタノールを利用したDMFCが開発された。しかしこの液相には不利な点もある。特筆すべきは、メタノールによる膜のクロスオーバー及びカソードの汚染である。
【0005】
気相燃料電池と同様に、液相燃料電池にも取扱い上の問題点がある。具体的には、排ガス放出のための開口から液体燃料が流出できるよう、燃料電池又は携帯機器を方向付けするといった問題、また液体燃料電池において、透過する高濃度の液体メタノールがカソードで酸化され、これが燃料電池の効率を低下させるといった問題である。
【発明の開示】
【発明の概要】
【0006】
本発明は、燃料電池で用いるための固形燃料に関するものである。この固形燃料は、金属オキシジェネート、ゲル化オキシジェネート、及び凍結オキシジェネートから選択される固形オキシジェネートによって構成される。本発明には特に、固体ゲル生成のために必要な量の、固形燃料としての、メタノール又はアセトアルデヒドなどのオキシジェネートの混合物、及びアクリルポリマーなどのポリマーが含まれる。
【0007】
1つの実施の形態において、本発明には金属又は金属化合物の追加が含まれる。ここでこの金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びそれらの混合物から成る群より選択される。特に好ましい金属化合物は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムメトキシド、水素化マグネシウム、及びそれらの混合物などのマグネシウム化合物である。好ましい金属はマグネシウムである。この金属化合物は、オキシジェネートの作用を強め、アノードで発生した二酸化炭素を吸着する物質を提供する。
【0008】
もう1つの実施の形態において、本発明には酸化剤の追加が含まれる。この酸化剤は、過炭酸ナトリウム、過酸化水素カルバミド、有機過酸化物、過酸化カルシウム、過酸化マグネシウム、及びそれらの混合物から成る群より選択される。酸化剤の追加によって、直接メタノール型燃料電池における燃料の出力密度が高められる。
【0009】
本発明のその他の目的、利点及び応用については、以下の詳細な説明を参照することによって、当業者には明らかとなることであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明には、燃料電池で用いるための新しい燃料が含まれる。この新しい燃料は固形燃料であって、それらが使用される燃料電池の型によって制限されることはない。この燃料電池の型には、固体高分子型(PEM)燃料電池、固体電解質型燃料電池(SOFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、直接メタノール型燃料電池(DMFC)、熔融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、及びアルカリ型燃料電池(AFC)がある。
【0011】
液体燃料電池の取扱いに伴う難点を克服するため、液体燃料の取扱いのための代替的方法が開発された。これらの方法には、米国特許第4,493,878号明細書に開示されているような、液体燃料を結合させ非流動性の状態となし、燃料が必要となった場合に元の液体燃料に復帰させるといった方法も含まれる。しかしこの方法には、液体燃料がアノードを通って浸透することによってカソード効率が低下するといった、液体燃料に関する難点がさらに伴う。膜を透過するメタノールクロスオーバーは、電池の部分短絡を引き起こし、これが電位低下の原因となる。この拡散の過程を軽減する膜の開発が現在進行中である。また一方で、メタノールの濃度は通常、1〜2moles/l、つまり7重量%に制限される。この結果として、電流−電圧(I-V)曲線の急激な低下、ポンプアラウンドのための寄生電力の著しい損失を招き、そしてアノード供給調整のため、比較的多量の工程段階及び燃料電池の構成要素が必要とされることとなる。
【0012】
必要とされるのは、取扱いが容易で、燃料電池で用いる気体成分を容易に生成できる燃料である。固形燃料はエネルギー密度が大きく、取扱いも容易である。固形燃料は、燃料電池への充填、除去及び交換が容易である。固形燃料は、液体又は気体燃料ではしばしば起こり得るような、漏洩及び流出といったリスクを低減する。そして固形燃料には、気体燃料で用いられるような容器に比べ、より軽質な容器を使用することが可能である。またさらに、固体であるので、燃料電池に充填した後に独立して移動することがなく、アノードに対して固定した位置を保ち続けることができるため、燃料電池の配向の問題がない。この燃料は、燃料電池のアノードでの直接酸化に適した、オキシジェネート又は水素等の燃料を生成する任意の固形化学物質であってよい。この燃料はいくつかの燃料成分の混合物から成り、この燃料成分は燃料混合物に加えられる任意の化合物である。オキシジェネートは、炭化水素化合物に少なくとも1つの酸素原子を加えて変性したものである。オキシジェネートには、アルコール、ジオール、トリオール、アルデヒド、エーテル、ケトン、ジケトン、エステル、カーボネート、ジカーボネート、オキサレート、有機酸、糖、及びそれらの混合物等がある。固形オキシジェネートの反応において、燃料電池で反応させるための、メタノールなどの気体オキシジェネートが生成される。
【0013】
オキシジェネートの1つの好ましい群は、水と反応して、燃料電池のアノードで反応させるためのオキシジェネートを気相に生成する金属アルコキシドである。オキシジェネートを気相に生成することによって、燃料は、液体燃料が燃料電池に過剰に充填され、カソードへと浸潤する液相燃料電池による限界を克服することができる。好ましい金属オキシジェネートには、金属アルコキシドがある。好ましい金属はアルカリ及びアルカリ土類金属などであり、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、及びカルシウム(Ca)から選択される。その他の好ましい金属は、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びアルミニウム(Al)である。燃料電池で用いるために生成されるオキシジェネートの沸点は100℃未満であるのが好ましい。オキシジェネートは、低分子量のアルコール、アルデヒド、有機酸、及びエーテルであるのが好ましい。
【0014】
アルカリアルコキシド、特にアルカリメトキシド及びエトキシドは、非常に反応性の強い自燃性の物質である。水を追加することによって、激しい反応が引き起こされ、またこの反応から生じる、アルコールを気化するのに十分な熱が生成される。
【0015】
特に研究されたアルコキシドはリチウムメトキシド(LiOCH3)であった。次の式1に示すように、リチウムメトキシドは、水と反応し、メタノールを気相に生成するのに十分な熱を伴って、水酸化リチウム及びメタノールを生成する。

【0016】
複数の酸化剤の安定性とともに、リチウムメトキシドの安定性を調べた。この実験は、室温で、水で飽和された空気中で行われた。時間をかけて、試料の重量を測定した。図1にその結果に示すように、試料の重量は一旦減少し、その後増加するということが分かった。特定の理論への限定を意図するものではないが、固形燃料(リチウムメトキシド)は水蒸気と反応してメタノールを生成し、その後に重量が減少するものと考えられる。その後に重量が増加するのは、次の式2に示すように、水酸化リチウムと二酸化炭素が空気中で反応しカーボネートを形成するためである。

【0017】
燃料は、空気に曝されることによる消費を防ぐため、湿分不透過性の容器内に密封される。この燃料容器は使用する際には開封されるが、アノードに対しては密封されており、空気から遮断された分室が形成される。これは余剰湿分が燃料に影響を及ぼすのを防ぐと同時に、燃料の損失を防ぐためである。つまり、燃料の消費はこの分室に浸潤する湿分によって制御される。
【0018】
さらにその他の組成物についても調べたところ、図1に示した結果と同じように、重量の減少とその後の増加とを示した。この組成物を表1に示す。実験に用いた燃料の内のいくつかには、発熱反応剤の分解を円滑化するため、少量の触媒MnO2を含ませた。この発熱反応剤は、燃料を気化するための熱を発生させる。

【0019】
以上のことから、固形燃料は、気相中においても含めて、水分に曝されることで活性化し、燃料及び熱を生成し、その後廃ガスを吸着して固相を形成するものと考えられる。その他の活性化手段は、熱の利用、電流の利用、及び二酸化炭素への曝露などである。燃料がアノードで反応する際、廃ガスが生成される。例えば、次の式3に示すように、メタノールがアノードで反応し、この反応の際に生成される電気に加え、二酸化炭素及び水を生成する。

【0020】
この二酸化炭素は、何らかの方法で処理しなければならない廃ガスである。本発明においては、この二酸化炭素は、金属水酸化物などの燃料廃棄物と反応し、固体を形成する。好ましい燃料は、燃料電池から生じる廃ガスを吸着、又はそれと反応する成分を含んでいる。燃料成分は、金属酸化物、及び金属水酸化物などである。この廃ガスは反応して固体生成物を形成、又は固体上に吸着される。直接メタノール型燃料電池の主要な廃ガスは二酸化炭素及び水である。水は燃料と反応して気相中により多くのオキシジェネートを形成する。燃料が、金属がアルカリ又はアルカリ土類金属である金属アルコキシドである場合、この金属は、水と反応して水酸化物を形成して、アルコールを放出する。次にこの金属水酸化物は、アノードで生成される二酸化炭素と反応し、気相から生じる二酸化炭素を除去して、カーボネート固体生成物を形成する。
【0021】
その他の好ましい燃料は、ゲル化オキシジェネート及び凍結オキシジェネートである。ゲル化オキシジェネートは、加えられ、固体を形成するポリマーを有するオキシジェネートである。ゲル化オキシジェネートの1つの例は、5重量%のカルボポール(登録商標)981ポリマーと95重量%のメタノールとの混合物によって構成されている。カルボポール981は、Akron, OhioのB.F. Goodrichによってつくられたアクリルポリマーである。ゲル化オキシジェネートは加熱するとメタノールを放出する。このメタノールは気化され、アノードでの利用が可能となる。固形燃料中のオキシジェネートは、燃料の重量比で、その少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%を占めている。ゲル化又は凍結オキシジェネートにおいて、この燃料は、アノードから生じる廃ガスを吸着するための、さらなる化合物を含んでいる。ゲル化及び凍結オキシジェネートのためのさらなる追加燃料成分とは、金属、金属酸化物、金属水酸化物、又は金属水素化物である。この金属、金属酸化物、金属水酸化物、又は金属水素化物は、アルカリ元素又はアルカリ土類金属元素を含んでいることが好ましい。これらの追加成分は、オキシジェネートを気化するための熱を提供し、また吸着又は反応を通じてアノードの廃ガスを除去し、固体廃棄物を形成する成分を提供する。
【0022】
固形オキシジェネートに加えられる、さらなる追加の物質は、水を加えることによって熱を生成する水反応性物質である。この物質によって、水素、及び/又は二酸化炭素を吸着するための過酸化物などのさらなる追加の燃料が提供されるのが好ましい。好ましい物質は、水素化リチウム、水素化マグネシウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化アルミニウム、及びそれらの混合物等の金属水素化物である。
【0023】
固形燃料は、選択された化学物質を用いて有機溶液を重合させて有機化合物をゲル化することによって形成される。この重合化学物質は、固形燃料中の少なくとも3重量%を占める。ゲルを形成するための化学物質は、アクリル酸/アクリルアミド系ポリマー、ポリオールのコポリマー、アミン乳化剤を有するエチレン/アクリル酸コポリマー、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ポリマー、オレフィン−無水マレイン酸コポリマー、及びホルムアルデヒドを有するOH基を含むオリゴマーのコポリマーなどである。OH基を含むオリゴマーのコポリマーとしては、高融点アルコール(つまり12個以上の炭素を有するアルコール)、高融点グリコール、高融点炭化水素、糖エステル(つまりモノステアリン酸ソルビタン(S-MAZ 60))、及びアルカリアルコキシドがある。さらなる重合物質については、米国特許第3,759,674号、同第3,148,958号、同第3,214,252号、同第4,261,700号、及び同第4,865,971号の各明細書において述べられている。
【0024】
特定のゲル化燃料についての試験を行い、ゲル化燃料の利用形態を示した。この燃料は、メタノール、酸化カルシウム(CaO)、及びカルボポール981ポリマーによって、各32:56:5の割合で構成された。この燃料をDMFCに充填し、この燃料電池を稼動させた。燃料電池は、異なる温度下、また大気圧力下で水性メタノール燃料と比較するためのI-V曲線を示した。図2は、液体燃料と比較したI-V曲線の結果を示している。
【0025】
燃料の組成は、燃料によって生成又は吸着される追加の水、及び水分に曝された際に燃料を確実に気化させるために必要な追加の熱を補うために、調整することができる。追加の熱は、水を加えた際に強い発熱反応を示す化学物質、又は分解に際して熱を発生する適切な化学物質を使用することによって生成することができる。適切な化学物質の例は、有機過酸化物、及び過酸化水素カルバミドなどである。また燃料の組成は、前述した燃料の組み合わせを利用することによって、例えば金属水素化物を金属オキシジェネートと混合させ、燃料電池のアノードで反応させるための水素及びアルコールを生成する燃料を形成することによって調整することもできる。代わりの混合物としては、アノードで生成される二酸化炭素をより迅速に反応させるための、追加の金属水酸化物がある。
【0026】
リチウム化合物は、実用性があり且つその特性も好ましいが、コストの問題がある。リチウム及びリチウム化合物は、その他のアルカリ又はアルカリ土類金属及びそれらの化合物と比べ、はるかにそのコストが高い。適切な化合物を求めて、種々のマグネシウム化合物を利用してさらに試験を行った。試験した混合物の内のいくつかの組成を表2に示す。

【0027】
試験は、マグネシウム化合物をマグネシウムメトキシド(Mg(OCH3)2)の場合のように単独で用いて、又は固形メタノールとの混合物として用いて行った。この固形メタノールは、メタノールとカルボポール981の混合物で構成された。図3〜6は、燃料電池において、マグネシウム又は固形メタノールと種々のマグネシウム化合物を用いて行った試験の結果を示す。このマグネシウム化合物は、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化マグネシウム(MgO)、マグネシウムメトキシド(Mg(OCH3)2)、及び水素化マグネシウム(MgH2)などである。これらの図は、種々の組成物について測定されたI-V、又は電流と電位の相関を表す曲線を示している。これらの試験において、アノード室に湿気を与えるため、少量の水を加えた。少量の湿分を加えことで固形燃料の反応が始まり、続いてアノードでの反応が湿分を生成し始めると、自己発生的に反応し続ける。またこのマグネシウム化合物は、メタノールが反応して電流を生成すると、アノードで生成された二酸化炭素(CO2)を吸着する。
【0028】
代替的な固形燃料としてアセトアルデヒド固形燃料を試験した。この燃料は、50 gmのアセトアルデヒドと0.5 gmのカルボポール981との混合物によって構成された。この燃料はゲル化させることが可能であり、この固形燃料を3.2 gmの酸化マグネシウムと混合させた。MgOを加えた固形アセトアルデヒドのI-V曲線を測定し、MgOを加えた固形メタノールの結果と比較した。この結果を図7に示す。この結果は、固形メタノールに対しての改善を示している。
【0029】
固形オキシジェネート燃料に加えて、燃料の性能は、酸化剤の追加によって向上するということが分かった。特に、燃料を活性化するプロセスにおいて水素を生成する酸化剤が好ましい。直接メタノール型燃料電池を、パルスモードで、酸化剤を用いて試験した。酸化剤、この場合は過酸化水素(H2O2)のパルスを加えた後、燃料電池は希釈効果を示したが、その後に、図8に示すように出力密度に向上が見られた。最終的に、出力密度に14%の向上が見られた。1〜3重量%の過酸化水素溶液を3重量%のメタノール溶液に加え、そのI-V曲線を測定した。図9に示すように、酸化剤をこのメタノールに加えることによって、I-V曲線に向上が見られた。過酸化水素については、2重量%の溶液が、最も顕著な向上を示した。
【0030】
過酸化水素は液体だが、同等の性質を有する固形酸化剤を利用することもできる。代替的酸化剤は、過炭酸ナトリウム、過酸化水素カルバミド、tert−ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)、tert−ペンチルヒドロペルオキシド等の有機過酸化物、及び過酸化マグネシウム及び過酸化カルシウム等のアルカリ土類金属過酸化物などである。
【0031】
さらに、強い酸化剤を加えて試験を行い、直接メタノール型燃料電池の発電に及ぼされる影響について確認した。試験は、硫酸(H2SO4)を固形メタノールに注入する、パルスモードで行った。硫酸を加えることで、マグネシウム金属から追加の水素が生成され、DMFCの性能が向上した。図10〜12に示す結果は、出力密度の向上、及び燃料電池のアノード分室の圧力の上昇を示している。さらなる追加の利用可能な酸は、塩酸(HCl)、及び硝酸(HNO3)などである。
【0032】
酸化剤を加えることによって性能は向上し、このような酸化剤を固形で加えることも可能であり、この場合この酸化剤は湿分の存在下で固形燃料と反応する。燃料に対する水の追加を制御することによって、燃料電池のための気体燃料の生成を制御することができ、また断続的な発電が可能となる。別の方法として、燃料が燃料電池のアノード分室と流体連通して配置される場合、強力な液体酸化剤を、固形燃料への制御的な追加のため、分離及び密封された分室内に保持することも可能である。
【0033】
過酸化物のような化合物を追加することのもう1つの側面として、この過酸化物が反応、又は分解する際の放熱がある。この放熱によって、メタノールの気化、又は燃料電池のアノードで、気相中で反応するその他の有機化合物の気化が円滑化される。この過酸化物の分解は、少量の触媒を追加することによって円滑化される。酸化剤の分解のための触媒は、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタニウム(Ti)、バナジウム(V)、クロミウム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオビウム(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、カドミウム(Cd)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、及び水銀(Hg)から選択される1つ又は複数の金属から成る化合物である。この触媒は、金属の酸化物、金属の硫化物及び他の硫黄化合物、及び金属から成るゾルなどである。好適な触媒は、バナジウム、鉄、コバルト、ルテニウム、銅、ニッケル、マンガン、モリブデン、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、レニウム、オスミウム、及びイリジウムから選択される1つ又は複数の金属から成る。より好ましい触媒は、鉄、コバルト、ニッケル及びマンガンから成る。より好ましい化合物は酸化マンガン(MnO2)である。
【0034】
本発明を、目下好ましいと考えられる実施の形態によって説明してきたが、本発明は、本明細書において開示された内容に制限されるものではなく、添付特許請求の範囲に含まれる、種々の変形、また同意義の構成をもその範囲に含むことが理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】複数の化合物及び混合物の安定性の試験を示す図である。
【図2】DMFCでの液体と固形燃料の比較を示す図である。
【図3】組成の異なる固形燃料及び液体メタノールの、電池電位と電流の相関を示す図である。
【図4】組成の異なる固形燃料及び液体メタノールの、電池電位と電流の相関を示す図である。
【図5】組成の異なる固形燃料の、電池電位と電流の相関を示す図である。
【図6】組成の異なる固形燃料の、電池電位と電流の相関を示す図である。
【図7】固形アセトアルデヒド燃料と固形メタノール燃料の比較を示す図である。
【図8】直接メタノール型燃料電池において、メタノールに酸化剤をさらに追加した際の効果を示す図である。
【図9】直接メタノール型燃料電池において、過酸化水素とメタノールとの混合比率を変えた場合のI-V(電流−電圧)曲線を示す図である。
【図10】硫酸のパルスを用い、マグネシウム及び固形メタノールを用いた燃料電池における電圧及びアンペア数を示す図である。
【図11】硫酸のパルスを用いた、燃料電池におけるマグネシウム及び固形メタノールの電圧、アンペア数及び出力密度を示す図である。
【図12】硫酸のパルスを用いた、燃料電池におけるマグネシウム及び固形メタノールの出力密度及び圧力を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池で用いる気体燃料を生成するための固形燃料であって、前記固形燃料が、金属オキシジェネート、ゲル化オキシジェネート、凍結オキシジェネート、及びそれらの混合物から成る群から選択されるオキシジェネート化合物で構成されることを特徴とする固形燃料。
【請求項2】
オキシジェネートが、アルコール、アルデヒド、有機酸、エーテル、ジオール、トリオール、ケトン、ジケトン、エステル、カーボネート、オキサレート、糖、金属アルコキシド、金属アルデヒド、及びそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項1記載の固形燃料。
【請求項3】
さらに、過炭酸ナトリウム、過酸化水素カルバミド、有機過酸化物、及びそれらの混合物から成る群から選択される固形酸化剤で構成されることを特徴とする請求項1又は2記載の固形燃料。
【請求項4】
ゲル化オキシジェネートが、
オキシジェネート、及び
アクリル酸系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、ポリオールのコポリマー、ホルムアルデヒドを有するOH基を含むオリゴマーのコポリマー、アミン乳化剤を有するエチレン/アクリル酸コポリマー、カルボニルビニルポリマー、ポリアクリル酸ポリマー、オレフィン−無水マレイン酸コポリマー、及びそれらの混合物から成る群から選択されるポリマー混合物
で構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の固形燃料。
【請求項5】
ゲル化オキシジェネートが、
メタノール、アセトアルデヒド、及びそれらの混合物から成る群から選択される、少なくとも30重量%の量のオキシジェネート、及び
少なくとも3重量%の量のアクリルポリマー
で構成されることを特徴とする請求項4記載の固形燃料。
【請求項6】
ゲル化オキシジェネートが、さらに金属又は金属化合物で構成され、ここで前記金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の固形燃料。
【請求項7】
金属又は金属化合物が、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化マグネシウム(MgO)、マグネシウムメトキシド(Mg(OCH3)2)、マグネシウム(Mg)、水素化マグネシウム(MgH2)、及びそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項6記載の固形燃料。
【請求項8】
さらに、遷移金属、遷移金属の酸化物、及びそれらの混合物から成る群から選択される固体触媒で構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の固形燃料。
【請求項9】
金属オキシジェネートが、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、アルミニウム(Al)、及びそれらの混合物から成る群から選択される金属で構成されることを特徴とする請求項1記載の固形燃料。
【請求項10】
金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びそれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項9記載の固形燃料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2008−519418(P2008−519418A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540292(P2007−540292)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/037099
【国際公開番号】WO2006/052243
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】