説明

燃料電池用電極およびその製造方法、並びにこれを用いた燃料電池

【課題】高分子電解質と触媒粒子との接触面積を拡大することで、三相界面の面積を大きくして触媒粒子表面の利用率を向上させ、高い発電特性を有する電極を提供すること
【解決手段】燃料電池用電極であって、電解質層は、(RO)Si−R−SOH(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜15のアルキレン基を表す)で表される重合性電解質前駆体と、(RO)SiR(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは−(CH−(CF−CF(式中、xは、0、1又は2を表す。yは、4〜18の整数を表す。)を表す。mは2又は3を表し、nは1又は2を表す。ただしmとnの合計は4である。)で表される重合性スペーサー前駆体との共重合体を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極およびその製造方法、並びにこれを用いた燃料電池に関し、特に高分子電解質型燃料電池に用いる電極及びその製造方法、並びにこれを用いた高分子電解質型燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、プロトンを生成可能な燃料(例えば水素)と、酸素を含有する酸化剤(例えば空気)とを、電気化学的に反応させることで、電力を発生させるものである。
【0003】
燃料電池のカソード極は、炭素微粉末などの導電性の多孔性微粉末に、粒径が小さな貴金属触媒粒子を担持することで構成されている。燃料電池の作動時には、導電性微粉末から触媒粒子に電子が移動するとともに、電解質膜から触媒粒子にプロトンが移動し、触媒粒子表面で、前記電子と、気体の酸素と、前記プロトンとが反応して水が生成する触媒反応が進行する。
【0004】
前記触媒反応が生起する反応中心は三相界面と一般に呼ばれている。この三相界面の面積は、プロトンが効率的に接触可能な触媒粒子の有効面積であり、この面積が大きいほど触媒の利用率が向上し、電池の性能が向上する。
【0005】
燃料電池用電極の製造においては、高分子電解質と、触媒粒子の担持された導電性微粉末とを攪拌混合することで、触媒粒子表面を高分子電解質で被覆する方法が提案されている(例えば特許文献1の段落0002を参照)。
【0006】
しかしながら、触媒粒子の担持された導電性微粉末と高分子電解質材料を攪拌混合して形成した触媒層中では、触媒表面が高分子電解質材料中に埋もれてしまうため、三相界面の面積が小さくなってしまうという課題を有していた。
【0007】
そこで、触媒粒子を最表面に出すために、触媒微粒子を担持した多孔質電極層を形成した後、この電極層上に高分子電解質の分散液を塗布することで、電極を形成する方法が提案されている(例えば特許文献2の段落0008−0011を参照)。
【0008】
燃料電池用電解質膜ならびに電極中の電解質層として、Nafion(R)(DuPont社製商品名
)に代表されるパーフルオロスルホン酸系高分子電解質が一般的に使用されている。
【0009】
これらの高分子電解質材料は、分散溶媒中での粒子径が大きいため、多孔質電極層に含まれる小さな空隙に充填されない。そのため、触媒微粒子の近傍に電解質材料が到達しておらず、その結果、三相界面の面積が小さくなってしまうという課題は依然として解決されていなかった。
【0010】
その他の高分子電解質材料として、炭化水素ポリマー系スルホン酸電解質やポリシロキサン系スルホン酸電解質などが報告されている(例えば特許文献3及び4を参照)。または、表面にスルホン酸基などのイオン性官能基を修飾した無機酸化物粒子を用いた電解質材料なども提案されている(例えば特許文献2及び5を参照)。
【0011】
これらの高分子電解質材料は、分散溶媒中での粒子径が大きいため、多孔質電極層に含まれる小さな空隙に充填されない。そのため、触媒微粒子の近傍に電解質材料が到達しておらず、その結果、三相界面の面積が小さくなってしまうという課題は依然として解決されていなかった。
【0012】
このように触媒微粒子と電解質材料の接触面積が十分でないため、三相界面の面積が小さく、結果、触媒粒子の有効面積が小さいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−109608号公報
【特許文献2】特開2005−026005号公報
【特許文献3】特開2007−123259号公報
【特許文献4】特開2006−114277号公報
【特許文献5】特許第3889436号公報
【特許文献6】国際公開第2003/026051号公報
【特許文献7】国際公開第2004/040679号公報
【特許文献8】特開2006−179412号公報
【特許文献9】特開平07−105991号公報
【特許文献10】特開平08−255619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述した従来技術では、高分子電解質と触媒粒子との接触面積が十分でなかったために、三相界面の面積が小さく、触媒粒子の近傍にプロトンが十分に供給されなかった。そのため、触媒の利用率が低くなってしまうことが課題であった。
【0015】
本発明は、前記課題を解決するもので、高分子電解質と触媒粒子との接触面積を拡大することで、三相界面の面積を大きくして触媒粒子表面の利用率を向上させ、高い発電特性を有する電極を製造することができる、燃料電池用電極の製造方法、さらには当該方法により得ることができる燃料電池用電極、並びに、これを含む燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記従来の課題を解決するために、本発明の燃料電池用電極は、触媒粒子と多孔性炭素粒子とを、基材に結着することにより触媒多孔構造体を形成する工程と、
(RO)Si−R−SOH(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜15のアルキレン基を表す)で表される重合性電解質前駆体と、(RO)SiR(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは−(CH−(CF−CF(式中、xは、0、1又は2を表す。yは、4〜18の整数を表す。)を表す。mは2又は3を表し、nは1又は2を表す。ただしmとnの合計は4である。)で表される重合性スペーサー前駆体と、溶媒と、を含む電解質前駆体混合物を調製する工程と、
前記触媒多孔構造体に前記電解質前駆体混合物を含浸することにより、触媒−電解質前駆体複合体を形成する工程と、
前記触媒−電解質前駆体複合体中で前記重合性電解質前駆体と前記重合性スペーサー前駆体との共重合反応を行うことで、前記重合性電解質前駆体と前記重合性スペーサー前駆体との共重合体からなる水不溶性の重合体電解質層を形成して、前記基材と前記触媒粒子と前記多孔性炭素粒子と前記重合体電解質層とを含む燃料電池用電極を得る工程と、を含む。
【0017】
本構成によって、多孔性炭素粒子中の微細構造の内部に配置された触媒粒子の近傍まで電解質層を十分に配置することができ、触媒多孔構造体表面に、プロトン輸送パスとなる電解質層を高密度、かつ高分散で形成することができる。
【0018】
本発明の燃料電池用電極は、上記製造方法によって得ることができるものであり、基材と触媒粒子と多孔性炭素粒子とを含む触媒多孔構造体と、前記触媒多孔構造体の表面に設けられた水不溶性の電解質層と、を含む燃料電池用電極であって、
前記電解質層は、(RO)Si−R−SOH(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜15のアルキレン基を表す)で表される重合性電解質前駆体と、(RO)SiR(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは−(CH−(CF−CF(式中、xは、0、1又は2を表す。yは、4〜18の整数を表す。)を表す。mは2又は3を表し、nは1又は2を表す。ただしmとnの合計は4である。)で表される重合性スペーサー前駆体との共重合体を含む。
【0019】
本発明の燃料電池は、前記燃料電池用電極からなるカソード極と、アノード極と、前記カソード極と前記アノード極との間に設けられた電解質層と、を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明の燃料電池用電極の製造方法によれば、三相界面の面積を大きくして触媒粒子表面の利用率を向上させ、高い発電特性を有する電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態における燃料電池用電極の製造方法を示した工程図
【図2】実施例と比較例の燃料電池用電極の触媒反応面積評価において測定されたサイクリックボルタモグラムを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
本実施の形態においては、工程S11−S14を実施することにより燃料電池用電極を製造する。
【0024】
まず工程S11では、触媒粒子(1)と多孔性炭素粒子(2)とを、基材(11)に結着することにより触媒多孔構造体(3)を形成する。
【0025】
触媒粒子(1)とは、燃料電池、特に高分子電解質型燃料電池の電極で使用されている金属触媒粒子のことをいう。特に、プロトンと酸素と電子とが反応して水を生成するカソード極での反応を触媒する粒子のことをいう。具体的には、白金ナノ粒子を用いることができる。白金ナノ粒子の平均粒径は一般に1〜5nm程度であり、その比表面積は50〜200m/g程度である。
【0026】
多孔性炭素粒子(2)は、燃料電池用電極において触媒粒子(1)を担持する担体として機能すると共に、電子を触媒粒子に伝導する役割を果たす導電性の多孔性材料である。多孔性炭素粒子には、最小で数nmサイズの細孔が存在し、その細孔の内部に触媒粒子(1)を担持することができる。多孔性炭素粒子の平均粒径は触媒粒子の平均粒径より大きく、通常20〜100nm程度であり、比表面積100〜800m/g程度である。
【0027】
多孔性炭素粒子は、基材(11)の表面に結着させて使用する。基材(11)としては、燃料や酸化剤ガスを触媒粒子に拡散させ、生成した水を排出できるよう、カーボンペーパーやカーボンクロス等のガス拡散性の基材を使用することができる。多孔性炭素粒子を基材の表面に結着させるには、有機高分子を焼成して形成されるカーボン薄膜を利用すればよい。
【0028】
触媒多孔構造体(3)では、基材(11)の表面に多孔性炭素粒子(2)が結着しており、多孔性炭素粒子(2)の表面(微細細孔の表面を含む)に触媒粒子(1)が担持されている。この構造体を形成する方法は特に限定されないが、例えば、基材の表面に多孔性炭素粒子を結着させ、別途、白金を含む化合物を含有する溶液を調製し、この溶液を、基材表面に結着した多孔性炭素粒子に含浸させた後、加熱等の手段によって白金を多孔性炭素粒子の表面に析出させることで、構造体(3)を形成することが可能である。
【0029】
工程S12では、重合性電解質前駆体(4)と重合性スペーサー前駆体(5)と溶媒(6)とを含む電解質前駆体混合物(7)を調製する。
【0030】
重合性電解質前駆体(4)とは、高分子電解質型燃料電池を構成する重合体電解質の前駆体であって、重合性を有するモノマーである。重合性電解質前駆体(4)が重合することで重合体電解質を形成することができる。具体的には、プロトン伝導性官能基と縮合重合性官能基とを有する化合物であり、式:(RO)Si−R−SOHで表される。式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜15のアルキレン基を表す。1分子中に3個存在するRは同一でもよく、異なっていてもよい。
【0031】
前記式中のスルホン酸基−SOHはプロトン伝導性官能基であり、高分子電解質型燃料電池においてアノード極とカソード極の間に挟まれアノード極からカソード極へプロトンを伝達する役割を果たす。
【0032】
前記式中の(RO)Si−で表される縮合重合性官能基は、加熱及び/又は減圧等の条件により容易に相互と反応して縮合重合反応が進行する官能基である。重合性電解質前駆体(4)はこの縮合重合性官能基を有するために、後に説明する工程S14で重合して、重合体を形成することができる。重合の際には、珪素原子同士が酸素原子を介して結合することでシロキサン結合を形成し、水又はROHを放出する。
【0033】
前記式における炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。なかでも、反応性の高さや重合後の除去の容易さから、メチル基が好ましい。
【0034】
によって表されるアルキレン基は炭素数1〜15のアルキレン基の中から適宜選択することができる。このアルキレン基は鎖状でも分岐状でもよい。好ましくは炭素数2〜10のアルキレン基である。この炭素数により、得られる高分子電解質の水不溶性を制御することができる。
【0035】
重合性電解質前駆体(4)は1種類のみを用いてもよいし、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
上記式:(RO)Si−R−SOHで表される化合物は、例えば、まずスルホン酸基の代わりにチオール基を有する化合物(RO)Si−R−SHを準備し、このチオール基含有化合物を有機溶媒により希釈した後、酸化剤を用いて酸化することにより製造できる。チオール基含有化合物を希釈するために使用する有機溶媒は、後述するような極性溶媒であることが望ましい。
【0037】
得られる重合体電解質の水への不溶性を制御するため、重合性電解質前駆体(4)と共に、重合性スペーサー前駆体(5)を併用する。重合性スペーサー前駆体(5)は、重合性電解質前駆体(4)との共重合性を有しているため、共重合することにより、得られる重合体電解質の中に取り込まれるが、プロトン伝導性官能基は有していない化合物であり、式:(RO)SiRによって表される。式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは−(CH−(CF−CFを表す。mは2又は3を表し、nは1又は2を表す。ただしmとnの合計は4である。すなわち重合性スペーサー前駆体(5)は、プロトン伝導性官能基を持たず縮合重合性官能基を有する化合物であり、この縮合重合性官能基によって重合性電解質前駆体(4)との共重合が可能になる。1分子中に2又は3個存在するRは同一でもよく、異なっていてもよい。また、1分子中にRが2個存在する場合、それらRは同一でもよく、異なっていてもよい。
【0038】
を表す炭素数1〜4のアルキル基としては、Rの場合と同様、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。なかでも、反応性の高さや重合後の除去の容易さから、メチル基が好ましい。
【0039】
は−(CH−(CF−CFによって表され、xは、0、1又は2を表す。yは、4〜18の整数を表す。Rは、電解質前駆体混合物(7)と触媒多孔構造体(3)表面とのなじみを改善できるよう選択される。
【0040】
重合性電解質前駆体(4)と重合性スペーサー前駆体(5)の使用割合は、製造する重合体電解質のEW値や、水不溶性等を考慮して適宜決定することができるが、通常モル比で0.5〜15:1の範囲が望ましい。特に1〜10:1の範囲がより好ましい。
【0041】
上記EWとはEquivalent Weightの略称であり、スルホン酸基1モルあたりの乾燥電解
質膜重量を表す。EW値が小さいほど、その電解質に含まれるスルホン酸基の比率が大きくなる。本発明における電解質層は、高いプロトン伝導度を達成するため、燃料電池用電解質として多用されているNafion(R)と同程度か、又は、それ以下のEW値を持つことが
好ましい。具体的には、本発明における電解質層は1100以下のEW値が持つことが好ましいので、この範囲を満たすよう、重合性電解質前駆体(4)と重合性スペーサー前駆体(5)の使用割合を調整することが好ましい。
【0042】
重合性スペーサー前駆体(5)は1種類のみを用いてもよいし、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
触媒多孔構造体(3)中に含まれる全触媒粒子(1)の表面に対しプロトンが均一かつ効率良く供給されるには、重合性電解質前駆体(4)と重合性スペーサー前駆体(5)とがランダムに共重合することが望ましい。そのようなランダムな共重合反応が実現できるよう、各材料の組合せを選択することが望ましい。
【0044】
溶媒(6)は重合性電解質前駆体(4)と重合性スペーサー前駆体(5)を溶解するのに用いられる。このような溶媒としては各化合物を溶解できるよう極性溶媒が好ましく、具体的には、アセトン、炭素数1〜4のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール)、ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、酢酸ブチル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。溶媒(6)は1種類のみを用いてもよいし、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
溶媒(6)の使用量は重合性電解質前駆体(4)と重合性スペーサー前駆体(5)を溶解できる限り特に限定されない。
【0046】
電解質前駆体混合物(7)を調製するには、以上の各成分を混合、撹拌すればよい。
【0047】
工程S13では、工程S11で形成した触媒多孔構造体(3)に、工程S12で調製した電解質前駆体混合物(7)を含浸することで、触媒−電解質前駆体複合体(8)を形成する。これにより、触媒多孔構造体(3)中の微細構造内部に電解質前駆体を侵入させる。
【0048】
含浸させる手法は特に限定されず、触媒多孔構造体(3)表面に混合物(7)をスプレー又は塗布した後、必要に応じて静置すればよい。
【0049】
この工程では触媒多孔構造体(3)表面に高分子の電解質を塗布するのではなく、重合前の低分子状態にある電解質前駆体を塗布するので、触媒多孔構造体(3)表面の微細な凹凸や細孔の内部にまで効率よく当該前駆体が侵入することが可能になる。
【0050】
工程S14では、工程S13で形成した触媒−電解質前駆体複合体(8)中で重合性電解質前駆体(4)と重合性スペーサー前駆体(5)とを共重合させて、水不溶性の重合体電解質層(9)を形成する。これにより、基材(11)と触媒粒子(1)と多孔性炭素粒子(2)と重合体電解質層(9)とを含む燃料電池用電極(10)を形成する。
【0051】
前記共重合では、重合性電解質前駆体(4)と重合性スペーサー前駆体(5)が有する縮合重合性官能基間で縮合重合反応が進行するよう、加熱及び/又は減圧等といった条件を適宜選択する。これにより、溶媒(6)や、重合反応の進行に伴い発生する揮発性副産物が除去され、重合性電解質前駆体と重合性スペーサー前駆体との共重合体からなる水不溶性の重合体電解質層が形成される。
【0052】
以上により製造された燃料電池用電極(10)は、基材表面に結着した多孔性炭素粒子の表面に、微細な触媒粒子が担持され、さらにその上から、重合反応により形成された電解質層が均一に形成された構造を有する。この電極では、触媒多孔構造体(3)表面に高分子の電解質を塗布して製造されたものとは異なり、重合前の低分子状態にある電解質前駆体を触媒多孔構造体(3)表面に塗布した後、重合反応を行って電解質層が形成されるので、触媒多孔構造体(3)表面の微細な凹凸や細孔の内部にまで均一に、かつ高分散で電解質層が形成されている。このため、多孔性炭素粒子中の微細構造の内部に配置された
触媒粒子の近傍まで電解質層を十分に配置することができ、触媒多孔構造体表面に、プロトン輸送パスとなる電解質層を高密度、かつ高分散で形成することができる。
【0053】
触媒多孔構造体(3)表面の多孔性炭素粒子(2)には最小で数nmサイズの細孔も存在するが、本発明の製造方法によると、これらの細孔の内部にも電解質層を形成できる。一方、従来法により触媒多孔構造体(3)表面に高分子電解質の分散溶液を塗布すると、溶媒中での高分子電解質の粒径が微細細孔の孔径よりも大きいために、そのような微細な細孔の内部に電解質層を形成することは極めて困難である。
【0054】
また、燃料電池のカソード極では作動中、継続的に水が発生するため、本発明における電解質層は水に不溶性を示すものであることが求められる。この水不溶性は、使用する重合性電解質前駆体(4)の構造、及び、重合性スペーサー前駆体(5)の構造や使用割合等によって制御される。
【0055】
本発明により製造される電極は、燃料電池のカソード極として使用される。このカソード極は、Nafion(R)(DuPont社製商品名)等のパーフルオロスルホン酸系高分子から形成
される電解質膜を介在して、アノード極と対向させて配置され、さらにセパレータで挟み込むことにより燃料電池として構成することができる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
(参考例)本発明における重合体電解質層の製造及び評価
前述した方法に従って、まず、チオール基と縮合重合性珪素基とを有する化合物の希釈溶液を酸化剤で処理することにより、スルホン酸基と縮合重合性珪素基とを有する重合性電解質前駆体(4)に変換する。その後、ここに、スルホン酸基は有しないが縮合重合性珪素基を有する重合性スペーサー前駆体(5)を加えて混合して電解質前駆体混合物(7)とする。最後に減圧及び/又は加熱による乾燥により溶媒等の揮発成分を除去することで共重合反応を進行させて、水に不溶な電解質層を得る。
【0058】
具体的には、以下の手順の通りである。チオール基を持つトリアルコキシシラン化合物((MeO)3Si-(CH2)3-SH、東京化成社製)30mmolをt−ブタノール(和光純薬社製)で希釈して、10wt%溶液を調製した。このチオール化合物溶液に30%過酸化水素水を加え、窒素雰囲気下室温で15時間攪拌混合させることにより、酸化反応を行った。その後、(EtO)3Si-(CH2)2-(CF2)5CF3(シグマアルドリッチ社製)15mmolを加えて15分間攪拌し
、さらに超純水を加えて混合することで、無色透明均一な溶液として電解質前駆体混合物(7)を得た。この工程により、前記チオール化合物中のチオール基が酸化されて変換されたスルホン酸基を有するシラン化合物((RO)3Si-(CH2)3-SO3H (RO=HO又はMeO))と(EtO)3Si-(CH2)2-(CF2)5CF3のモル比2:1の均一混合溶液が得られた。
【0059】
なお、上記の電解質前駆体混合物(7)の調製法として次のような方法も考えられる。例えば、あらかじめt−ブタノールを溶媒として、チオール基を持つトリアルコキシシラン化合物((MeO)3Si-(CH2)3-SH)と、(EtO)3Si-(CH2)2-(CF2)5CF3を所望のモル比で混合し
た溶液に対して、30%過酸化水素水を加える。過酸化水素による酸化反応によりチオール基をスルホン酸基に変換することができる。
【0060】
次に、電解質前駆体混合物(7)である上記溶液をシャーレに展開したのち、減圧下で溶媒等の揮発成分を徐々に留去することで、珪素基間の縮合反応に基づいた共重合反応を進行させ、結果、固体塊状で水に不溶性の電解質層を得た。上記物質はシロキサン(Si-O
-Si)骨格を有すると思われる。
【0061】
得られた固体塊状の電解質層の水への不溶性を確認するために、水にこの固体塊状を浸漬させ1昼夜攪拌した。上澄み液を採取して水を減圧留去したが、ポリシロキサン膜の形成は観察されなかったことから、上記電解質層の水への不溶性が確認された。
【0062】
また、合成したこの固体塊状の物質について固体NMR測定を行ったところ、13C-DDMAS-NMR(single pulse & 1Hdecouple)および29Si-CPMAS-NMR(1H→13C cross polarization &1H decouple)において実測されたシグナルピークの化学シフト値が、目的の分子構造から予想される理論値と良く一致したため、合成した物質が目的の分子構造を有する共重合物であることが判明した。
【0063】
以上と同様の方法に従って、(RO)3Si-(CH2)3-SO3Hと(EtO)3Si-(CH2)2-(CF2)5CF3の各種モル比n:1(n=20,15,10,8,6,4,2又は1)で混合した電解質前駆体混合物(7)を調製した。各電解質前駆体混合物をシャーレへ展開後、溶媒の減圧留去による重合反応を経て膜状物質の電解質層を得た。
【0064】
上記と同様に電解質層の水への不溶性を確認したところ、n=1〜10の電解質層は水への不溶性を有することがわかった。一方、n=15又は20の電解質層は、水に溶解することがわかった。
【0065】
また、上記のn=1〜10の電解質層の有機溶剤への溶解性を確認した。アセトン、アルコール、又は、含塩素系溶媒に上記電解質層を浸漬し、一昼夜攪拌したところ、いずれの溶媒中でも上記電解質層は全く溶解しないことが判明した。
【0066】
(実施例)
(1)触媒多孔構造体の作製
粒径約50nmのアセチレンブラック4.0g(電気化学工業社製)、ポリアクリロニトリル2.0g(シグマアルドリッチ社製)およびジメチルアセトアミド(和光純薬社製)をボールミルにより混合した。この混合分散液を面積19.6cmのカーボンペーパー上に1.69g滴下し、室温下、真空容器中で溶媒を蒸発させた。次に恒温真空乾燥器を用いて、前記カーボンペーパーを120℃で2時間加熱処理した。最後にこのカーボンペーパーをアルゴン雰囲気下の赤外線イメージ炉内に移し、毎秒20℃で室温から昇温させていき、到達温度800℃で30分間の加熱処理を行った。以上により、多孔性炭素微粉末をカーボン薄膜で結着した層が表面に形成されたカーボンペーパーを得た。
【0067】
塩化白金酸(IV)・6水和物(和光純薬社製)0.95g、ポリアミド酸溶液7.85g、ジメチルアセトアミド(和光純薬社製、特級)17.5gを混合して調製される含白金ポリアミド酸溶液を、前記で得られたカーボンペーパー上に1.26g滴下し、真空中で溶媒を除去した。次に恒温真空乾燥器を用いて、200℃で2時間カーボンペーパーを乾燥した。最後にアルゴン雰囲気下の赤外線イメージ炉内で、昇温速度毎秒10℃、到達温度800℃で加熱を30分間行った。以上により、カーボンペーパーに結着した多孔性炭素微粉末に対して、白金ナノ粒子が高分散固定された構造を有する触媒多孔構造体を作製した。
【0068】
なお前記ポリアミド酸溶液は、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(東京化成社製)5.00gとピロメリット酸無水物(東京化成社製)5.45gとを、溶媒ジメチルアセトアミド120gを用いて重合反応して調製したものである。
【0069】
(2)燃料電池用電極A〜Cの製造
まず、上述した方法に従って、表1に示した組成を有する電解質前駆体混合物を3種類調製した。この3種類の電解質前駆体混合物(7)は、重合性電解質前駆体(RO)3Si-(CH2)3-SO3Hと重合性スペーサー前駆体(EtO)3Si-(CH2)2-(CF2)5CF3を、表1に示した所定のモル比で含有する。これら電解質前駆体混合物に含有される(RO)3Si-(CH2)3-SO3H及び(EtO)3Si-(CH2)2-(CF2)5CF3は、低分子状態で溶媒和されている。
【0070】
次に、上記で得られた触媒多孔構造体に対して、上記の各電解質前駆体混合物を滴下し、1時間静置して浸漬させた。その後、減圧下で揮発成分の除去及び加熱下での真空乾燥による重合反応を経て、電解質層を含む燃料電池用電極A〜Cを作製した。
【0071】
なお、上記の重合反応では、一般的なポリシロキサンの合成反応条件に従い、80℃・2時間の真空乾燥条件で電解質層を形成させた。
【0072】
【表1】


(比較例1)比較電極aの製造
市販の高分子電解質である、EW値1100のパーフルオロスルホン酸系電解質Nafion(R)のエタノール分散液を用いて、比較電極aを作製した。作製手順は、以下のとおりで
ある。実施例で得た触媒多孔構造体を、シャーレの上に静置し、この触媒多孔構造体に対して、Nafion(R)のエタノール分散液を滴下し、1時間静置して浸漬させた。その後、減
圧下で揮発成分の除去及び加熱下での真空乾燥を経て、Nafion(R)からなる電解質層を含
む比較電極aを作製した。
【0073】
(比較例2)比較電極bの製造
上記電解質前駆体混合物から乾燥工程を経て重合した電解質層を用いて比較電極bの作製を試みた。
【0074】
具体的には、まず電解質材料(RO)3Si-(CH2)3-SO3Hと重合性スペーサー材料(EtO)3Si-(CH2)2-(CF2)5CF3を、モル比2:1で混合して得られるEW値380の電解質前駆体混合物(電極Aと同じ組成を持つ)を調製した。テフロン(登録商標)製シャーレ上に、上記電解質前駆体混合物を展開したのち、減圧下で揮発成分の除去及び加熱下での真空乾燥を経て、固体粉状の電解質層を合成した。
【0075】
この固体粉状の電解質層を各種溶媒に添加して分散溶液を調製することを試みたが、上記電解質層は各種溶媒に不溶性であり、分散溶液を調製できなかった。すなわち、一旦電解質前駆体混合物から重合反応を経由して合成した固体塊状の電解質層を、再度分散溶液化したうえで触媒多孔構造体に含浸塗布することが不可能であるため、比較電極bを作製できなかった。
【0076】
このように、燃料電池用電極Aを構成するものと同様の組成を持つ電解質前駆体混合物
を用いたとしても、一旦重合反応を進行させ電解質層を形成した後には、この電解質層を溶媒に溶解させて触媒多孔構造体に含浸させることができないため、燃料電池様電極を製造することができない。
【0077】
(比較例3)比較電極cの製造
重合性電解質前駆体(RO)3Si-(CH2)3-SO3Hを含有し、重合性スペーサー前駆体(MeO)3Si-Rを含有しない電解質前駆体混合物を用いて、比較電極cの作製を試みた。
【0078】
具体的には、重合性電解質前駆体(RO)3Si-(CH2)3-SO3Hと溶媒のみで構成される電解質
前駆体混合物を調製して、比較電極cを作製した。なお、それ以外の作製条件は、実施例と同様であった。
【0079】
製造した比較電極cを60℃の熱水中に2時間浸漬したところ、形成された電解質層が水に溶けて、触媒多孔構造体中から除去された。そのため、適当な電流−電圧特性を示さず、燃料電池用電極として利用できなかった。
【0080】
(評価方法)燃料電池用電極の触媒反応面積評価
上記の方法で作製した電極A−G及び比較電極aをそれぞれカソード極として燃料電池セルに組み込んだ上、サイクリックボルタンメトリー法により触媒反応面積を評価した。アノード極としてPt2.0mg/cm担持カーボンペースト電極を用いた。アノード極に水素ガス(65℃、100%RH)およびカソード極に窒素ガス(65℃、100%RH)を供給しながら、サイクリックボルタンメトリー測定を行った。このとき、掃印速度を10mV/sec、掃印電位幅を下限:自然電位から上限:1.0Vまでに設定して測定を行った。なお自然電位は、上記のような両極でのガス条件下で開回路状態での極間電位を意味する。
【0081】
図2には、燃料電池用電極B(実線)および比較電極a(破線)についての測定で得られたサイクリックボルタモグラムを示している。
【0082】
各電極について得られたボルタモグラムから白金上でのプロトン脱吸着に関与する電荷量を算出し、さらに電荷量から単位白金量当たりの触媒反応面積を算出した。たとえば、比較電極aにおける電荷量は、破線のサイクル上部曲線と実線の水準線で囲まれた斜線領域の面積から算出した。
【0083】
表1には各電極についての触媒反応面積と限界電流密度の結果を示した。
【0084】
従来の燃料電池用電極の電解質材料としてよく利用されるパーフルオロスルホン酸系高分子電解質分散液を触媒多孔構造体に塗布して形成された比較電極aについては、単位白金量当たりの触媒反応面積は23m/gであり、カソード極の自然電位については、100mV(vs.SHE)程度で高くとどまる結果となった。ここで自然電位とは、白金表面でのプロトンの脱吸着反応に関する両極間での平衡電位である。すなわち正に大きい値を取る今回の場合は、カソード極においてプロトンが十分に白金表面に到達できていないためと考えられる。
【0085】
また、アノード極に水素ガス(65℃、100%RH)およびカソード極に酸素ガス(65℃、100%RH)を供給しながら、発電試験を行った。電流−電圧特性を調べたところ、出力電位が0となる点における電流密度、いわゆる限界電流密度は300mA/cmとなった。
【0086】
これに対して、低分子量状態で重合性電解質前駆体と重合性スペーサー前駆体とが分散
している電解質前駆体混合物を、触媒多孔構造体に塗布した後重合させて電解質層を形成した電極Bでは、飛躍的に触媒反応面積が拡大し50m/gという結果が得られた。また電極Bの自然電位が著しく低下し、25mV(vs.SHE)程度となった。 限界電流密度は650mA/cmであり、高分子電解質分散液を塗布して形成された比較電極aの2倍以上の値となった。
【0087】
表1に示したように、その他の燃料電池用電極Aおよび電極Cについても、比較電極aよりも大きな触媒反応面積と限界電流密度を示すことがわかった。
【0088】
触媒反応面積の拡大と限界電流密度の増大という二つの効果発現についての要因は以下のように考察する。
【0089】
従来使用されてきた高分子電解質の分散液では、高分子の分散粒子サイズが大きいために、より小さいサイズ(数nmから数十nmのオーダー)の細孔構造を持つ触媒多孔構造体内に高分子電解質を均一かつ十分に配置することは極めて困難である。これに対して、低分子量状態の重合性電解質前駆体を用いることで、触媒粒子が担持された細孔構造内への重合性電解質前駆体の導入が容易におこり、更に導入されたその場での重合反応を経由して固定化することによって、触媒粒子近傍で十分な電解質層の形成が実現される。これにより触媒粒子近傍でのプロトン濃度が向上し、三相界面面積の向上と限界電流密度の増大に繋がったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る燃料電池用電極の製造方法は、大きな三相界面面積と高い発電特性を有し、燃料電池用電極、並びにこれを用いた燃料電池を製造するのに有用である。また、多孔質構造体中に微分散された電極粒子や触媒粒子への電解質の高密度固定化に有効であり、安価な電気化学電極等の用途にもひろく応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と触媒粒子と多孔性炭素粒子とを含む触媒多孔構造体と、前記触媒多孔構造体の表面に設けられた水不溶性の電解質層と、を含む燃料電池用電極であって、
前記電解質層は、(RO)Si−R−SOH(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは炭素数1〜15のアルキレン基を表す)で表される重合性電解質前駆体と、(RO)SiR(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは−(CH−(CF−CF(式中、xは、0、1又は2を表す。yは、4〜18の整数を表す。)を表す。mは2又は3を表し、nは1又は2を表す。ただしmとnの合計は4である。)で表される重合性スペーサー前駆体との共重合体を含む、燃料電池用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用電極からなるカソード極と、アノード極と、前記カソード極と前記アノード極との間に設けられた電解質層と、を含む燃料電池。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−277993(P2010−277993A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94737(P2010−94737)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【分割の表示】特願2009−552955(P2009−552955)の分割
【原出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】