説明

燃料電池用電極触媒およびその製造方法

【課題】活性に優れた電極触媒を提供する。
【解決手段】白金と遷移金属とを含む白金合金粒子が炭素材料に担持されてなる燃料電池用電極触媒であって、CuKα線を用いたX線回折分析によるPt(111)に由来するピークが2θにして40.3〜40.8°の格子面に帰属される、燃料電池用電極触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動し高出力密度が得られる固体高分子形燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。固体高分子形燃料電池は、フィルム状の固体高分子膜からなる電解質層を用い、一般的には、膜−電極接合体(以下、「MEA」とも称する)をセパレータを介して積層した構造を内蔵している。
【0003】
MEAは、電解質層がカソードとアノードとにより挟持されてなり、従って、電極触媒層は少なくとも片面が電解質層に接する構造となっている。
【0004】
従来、カソードおよびアノードには、ともに白金または白金合金等の触媒金属を微細化して、カーボンブラック等の比表面積の大きい炭素担体に高分散担持させた電極触媒が用いられている。かような電極触媒は、触媒金属表面の電極反応面積が大きいため、触媒活性を高くすることができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、白金ルテニウム合金のナノ粒子をカーボン微粒子に担持させた白金ルテニウム合金触媒の製造方法が開示され、ルテニウムを合金化することで白金原子間距離が短縮されることが記載されている。白金原子間距離を短縮させることによって電子密度が増加するため、酸化還元能力が向上し、発電性能の向上に寄与しうる。
【特許文献1】特開2007−27096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、触媒活性を最大にするための白金原子間距離に関しては開示されていない。そのため、高活性な白金合金触媒を開発する際には、合金化する金属の種類や原子比を変えながら試行錯誤を重ねる必要があり、十分な触媒活性を有する電極触媒を得ることは困難であった。
【0007】
そこで本発明は、触媒活性に優れた電極触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、CuKα線を用いたX線回折分析によるPt(111)面に由来するピークが2θにして40.3〜40.8°の格子面に帰属される白金合金触媒を用いた場合に触媒活性が最大になることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極触媒は、触媒活性に優れた電極触媒であるため、燃料電池に適用した場合に自動車用、家庭用、電子機器用などに幅広く応用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を適用した最良の実施形態を説明する。
【0011】
本発明の電極触媒は、白金(Pt)と遷移金属との固溶体合金を炭素材料に担持して構成される。合金の粒子が炭素材料に担持されていることは、X線回折分析で確認することができる。炭素材料の粉末上の個々の金属粒子を構成するPtと遷移金属との組成比は、触媒全体のPtと遷移金属との原子比に略一致している。本発明の電極触媒においては、CuKα線による粉末X線回折(XRD)で測定したとき、2θ=40.3〜40.8°にPt(111)に由来する回折ピークを示す。上記ピークの角度は、結晶格子定数d111が、0.221≦d111≦0.224nmに相当する。
【0012】
炭素材料にPtを単独で担持した場合、Ptの面心立方晶の(111)回折ピーク位置は2θ=39.2°にあるので、Ptは遷移金属と合金を形成することによって結晶格子定数が縮小する。
【0013】
しかしながら、2元系の白金合金触媒において、Pt−Pt原子間距離を制御して触媒を作製することは困難であり、Pt−Pt原子間距離と触媒活性との関係は報告されていない。本願発明者は、触媒活性に及ぼすPt−Pt原子間距離と触媒活性との関係を検討し、従来の方法では調製が困難であった、Pt(111)に由来する回折ピークが2θ=40.3〜40.8°の範囲の触媒を調製した。その結果、Pt(111)に由来する回折ピークが2θ=40.3〜40.8°の範囲内の場合に触媒活性が最大となることを見出した。2θが40.3°以上であれば、Pt−Pt原子間距離が十分に短縮され、酸素分子吸着に適したPt−Pt原子間距離になり、酸素還元反応の活性の上昇に寄与しうる。一方、2θが40.8°以上となると、Pt−Pt原子間距離が短くなりすぎ酸素分子吸着力が強くなり、酸素が還元した水分子の脱着に大きなエネルギーが必要となり、酸素還元反応の活性は低下する。
【0014】
炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;カーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;カーボンナノホーン;カーボンフィブリルなどの導電性炭素材料が挙げられる。カーボンブラックは、黒鉛化処理が施されていてもよい。中でも、低コストで大量生産に向いていることから、カーボンブラックを原材料となる炭素材料として用いることが好ましい。また、上記炭素材料は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記炭素材料は自ら調製してもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、バルカン、ケッチェンブラック(登録商標)、BlackPearl(登録商標)などが挙げられる。
【0015】
炭素材料のBET比表面積は、特に限定されないが、触媒粒子の分散性、触媒利用率などの点から、好ましくは100〜2000m/gであり、より好ましくは200〜1000m/gである。
【0016】
また、前記炭素材料の平均粒子径は、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率の観点から、平均粒子径は、好ましくは10〜500nmであり、より好ましくは10〜100nmである。なお、炭素材料の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡によって観察される一次粒子径によって規定される。
【0017】
本発明の電極触媒の触媒成分は、触媒活性、一酸化炭素などに対する耐被毒性、耐熱性の観点から、触媒成分100原子%に対して、白金が30〜90原子%、合金化する遷移金属が10〜70原子%とするのが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。
【0018】
合金化する遷移金属としては、触媒作用を有するものであれば特に制限はなく、例えば、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、銅、亜鉛などが挙げられる。好ましくは、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの第4周期遷移金属である。上記遷移金属は、白金との親和性が高く、白金原子より原子サイズが小さいため、Pt−Pt原子間距離を短縮させるために有効である。
【0019】
Pt合金粒子の形状は、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状が使用できるが、粒状であることが好ましい。
【0020】
炭素材料に担持されるPt合金粒子の担持量は、特に限定されず、触媒の種類、燃料電池の性能、炭素材料の種類などに応じて、所望の発電特性が得られるように決定すればよい。好ましくは、炭素材料100質量%に対して、30〜70質量%である。触媒金属の担持量が上記範囲であれば、質量活性、比活性に優れた電極触媒が作製されうる。
【0021】
Pt合金粒子は、平均結晶子径が、好ましくは1〜8nmであり、より好ましくは2〜7nmであり、さらに好ましくは3〜6nmである。平均結晶子径が8nm以下であれば、十分な有効電極面積が得られ、高い触媒活性が得られる。また、平均結晶子径が1nm以上であれば、白金面積あたりの活性が高い触媒が得られうる。本発明において、平均結晶子径は、X線回折法(XRD)によって測定される回折ピークの半値幅により求められるものを採用する。具体的には、実施例中で採用された方法によって求められる。
【0022】
かような2θ値を持つ触媒の製造方法は、特に制限されるものではない。炭素材料に触媒金属を担持させる方法としては、例えば、含浸法、液相還元法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル法等を利用することができる。好ましくは、触媒成分を低コストで高分散担持可能な、液相還元法が用いられる。
【0023】
白金の合金触媒においては、Pt(111)の2θの値を上述の値に制御するためには、例えば遷移金属元素を2種類含む3元系の合金触媒を作製する方法が考えられる。しかしながら、3元系の合金触媒を作製するためには調製の複雑さが増し、コストも上昇しうる。そこで、2元系の合金触媒でPt(111)の2θの値を上述の値に制御するためには、液相還元法によって触媒金属を炭素材料に担持させた後、熱処理、酸処理を順次行う方法が適する。
【0024】
以下、本発明の電極触媒の製造方法を、担持方法に液相還元法を用いた場合を例にして、工程順に説明する。
【0025】
(担持工程)
担持工程では、液相還元法によって、炭素材料に白金前駆体または遷移金属前駆体を溶媒中で含浸させた後、還元剤を溶媒に添加して白金または遷移金属を析出させる。白金および遷移金属の担持は、順次行ってもよく、溶媒中に白金前駆体および遷移金属前駆体を共に溶解、分散させ、同一の還元剤を用いて同時に還元を行ってもよい。特に液相同時還元法を用いると、白金と遷移金属とができるだけ隣り合った状態が得られるため好ましい。
【0026】
白金前駆体としては、白金の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩、重炭酸塩、ハロゲン塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩などの無機塩類、ギ酸塩などのカルボン酸塩および水酸化物、アルコキサイド、酸化物などが例示でき、これらを溶解する溶媒の種類やpHなどによって適宜選択することができる。好ましくは塩化物、硝酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩である。具体的には、ジニトロジアンミン白金硝酸、塩化白金酸(ヘキサクロロ白金酸)、硝酸白金などが挙げられる。これらの原料は、担持される触媒金属の粒子径を制御しやすく、また触媒金属の分散性を向上させやすい。
【0027】
上記の白金前駆体は、溶媒に溶解または分散される。白金前駆体を添加する溶媒としては、特に限定されず、水、アルコール、または水とアルコールとの混合溶媒などが用いられるが、アルコールを用いることが好ましい。溶媒にアルコールを用いることで、炭素材料のエッジ面部分で核生成が起こりやすくなり、白金が高分散に担持されうる。これは、カーボンが黒鉛化するにつれ撥水性が上がるため、溶媒としてアルコールを用いることで、溶媒とカーボンとの親和性が向上し、触媒が均一に担持されるためと考えられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどが好適に用いられる。
【0028】
白金の還元剤としては、例えば、水素、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、ホルムアルデヒド、エチレン、一酸化炭素などが挙げられる。ヒドラジンなどの水溶液として調製しうるものは、濃度0.1〜30質量%の水溶液として直接白金前駆体を含む溶液に添加してもよい。なお、水素化ホウ素ナトリウムなどの粉末状の物質は、そのまま白金前駆体を含む溶液に供給することができる。水素などの常温でガス状の物質は、バブリングで供給することもできる。還元剤を溶媒に溶解させて用いる場合は、白金前駆体を溶解させた溶媒と同じ溶媒を用いることが好ましい。還元剤の添加量は、用いる還元剤により適宜調節すればよい。
【0029】
還元剤を添加混合する際の温度は、好ましくは15〜40℃、より好ましくは20〜30℃であり、混合時間は、好ましくは30分間〜6時間、より好ましくは1〜3時間である。この際、還元剤の添加混合処理は、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0030】
用いられうる遷移金属の種類に関しては上記と同様である。遷移金属の供給源としては、これらの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩、重炭酸塩、ハロゲン塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩などの無機塩類、ギ酸塩などのカルボン酸塩および水酸化物、アルコキサイド、酸化物などが例示でき、これらを溶解する溶媒の種類やpHなどによって適宜選択することができる。具体的には、塩化コバルト、硝酸コバルト、塩化鉄などが用いられうる。
【0031】
遷移金属の還元剤、還元剤を混合する際の条件は上記と同様である。
【0032】
(熱処理工程)
熱処理工程では、白金および遷移金属が担持された炭素材料を熱処理して、白金および遷移金属を固溶化させる。
【0033】
熱処理の温度は、好ましくは1000〜1200℃であり、より好ましくは1000〜1100℃である。熱処理温度が1000℃以上であれば、Ptおよび遷移金属の固溶化が促進されうる。また、熱処理温度が1200℃以下であれば、触媒粒子の凝集、担持体であるカーボンと水素のメタン化反応を抑制できる。また、上記熱処理温度まで昇温する際の昇温速度は、好ましくは5〜20℃/分であり、より好ましくは10〜15℃/分である。昇温速度が上記範囲であれば、触媒金属粒子の凝集を防ぐことができる。また、熱処理時間は、好ましくは10分間〜1時間であり、より好ましくは10〜30分であり、さらに好ましくは10〜20分である。かような範囲の熱処理時間であれば、固溶体化が促進されて触媒活性が向上し、さらに触媒成分の粒子径も適切な範囲となる。ここで、熱処理時間は、温度が上記範囲の熱処理温度に保たれている時間を意味する。
【0034】
降温速度は、少なくとも10℃/分以上が望ましく、それより低いと高温状態に長時間曝すこととなり、触媒粒子の凝集、担持体であるカーボンのメタン化反応などを起こすことになる場合がある。
【0035】
また、熱処理時は、窒素ガス雰囲気下、または窒素ガスと水素ガスとの混合雰囲気下で行うことが好ましい。熱処理時の窒素ガスと水素ガスとの混合雰囲気下は、窒素ガスおよび水素ガスの流量が全混合ガス流量100体積%中、好ましくは100体積%である。水素ガスおよび窒素ガス以外に、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスが含まれうる。さらに、水素ガスの流量は、水素ガスおよび窒素ガスの全流量(N+H)に対して、流量比でH/(N+H)=0〜20体積%であることが好ましく、5〜10体積%であることがさらに好ましい。かような範囲であれば、粒子径が適切な範囲となり、高い活性が得られうる。
【0036】
(酸処理)
酸処理工程では、熱処理後の触媒前駆体を酸に接触させる。酸処理によって触媒金属の表面の遷移金属を溶解させ、表面近傍の白金の存在比を高めることでXRD測定で得られるPt(111)に由来するピークの角度を制御できる。さらにこの方法によれば、上記ピークの角度の分布も狭くすることができる。
【0037】
酸処理の条件は、特に限定されない。酸としては、特に制限されないが、好ましくは硫酸、硝酸などの強酸が用いられる。酸の濃度は特に制限がなく、好ましくは0.1〜3.0M、より好ましくは0.5〜2.0M、特に好ましくは0.5〜1.0Mの水溶液として使用される。
【0038】
酸処理は、例えば、熱処理後の触媒前駆体を、好ましくは20〜100℃、より好ましくは50〜100℃、特に好ましくは70〜100℃に加熱した酸の水溶液中に懸濁させることで行うことができる。酸処理時間は、好ましくは10〜20時間であり、より好ましくは10〜15時間であり、特に好ましくは10〜12時間である。酸処理の温度および時間が上記範囲であれば、Pt(111)に由来する2θのピークの角度を所定の範囲にし、ピークの角度の分布を狭くすることができる。その後、沈殿物をろ過し、得られた固形物を好ましくは減圧下で、50〜80℃で2〜5時間乾燥させることによって、電極触媒が完成される。上記酸処理は、1回であっても、同一または異なった条件で複数回行ってもよい。
【0039】
本発明はまた、本発明の燃料電池用電極触媒を用いた燃料電池を提供する。本発明の電極触媒は、アノードおよびカソードの双方の電極触媒として好適に用いられる。しかしながら、アノードにおける水素の酸化反応に対してカソードでの還元反応が遅く、過電圧が大きい。したがって、前記電極触媒は少なくともカソードに使用される形態が効果が大きく好ましい。
【0040】
本発明による電極触媒をMEAに用いることにより、発電性能に優れるMEAとすることが可能となる。
【0041】
MEAの基本的な構成としては、特に限定されず、従来一般的なものであればよい。すなわち、カソード側電極触媒層およびアノード側電極触媒層が固体電解質膜の両面に対向して配置され、さらにこれをガス拡散層で挟持した構成である。
【0042】
MEAに用いられる固体高分子電解質膜としては、特に限定されず、電極触媒層に用いたものと同様の固体高分子電解質からなる膜が挙げられる。また、デュポン社製の各種のNafion(登録商標)やフレミオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜など、一般的に市販されている固体高分子型電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。前記固体高分子電解質膜に用いられる固体高分子電解質と、電極触媒層に用いられる固体高分子電解質とは、同じであっても異なっていてもよい。電極触媒層と固体高分子電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
【0043】
前記固体高分子電解質膜の厚さとしては、得られるMEAの特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜150μmである。製膜時の強度やMEA作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、MEA作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
【0044】
MEAに用いられるガス拡散層としては、特に限定されず、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とするものなどが挙げられる。
【0045】
前記ガス拡散層の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。厚さが、30μm未満であると十分な機械的強度などが得られない恐れがあり、500μmを超えるとガスや水などが透過する距離が長くなり望ましくない。
【0046】
前記ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐために、前記基材に撥水剤が含まれているのが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0047】
また、撥水性をより向上させるために、前記ガス拡散層は、前記基材上に撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層を有するものであってもよい。
【0048】
前記カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。
【0049】
前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、電極触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0050】
前記カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、前記基材に用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。
【0051】
前記カーボン粒子層における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。
【0052】
前記カーボン粒子層の厚さは、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0053】
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では固体高分子型燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、リン酸型燃料電池、直接メタノール型燃料電池などが挙げられる。
【0054】
前記燃料電池の構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用すればよいが、一般的にはMEAをセパレータで挟持した構造を有する。
【0055】
ここで、本発明の好ましい一実施形態である燃料電池を図1を用いて説明する。固体高分子型燃料電池260は、固体高分子電解質膜210の両側にMEA200を有する。MEA200は、アノード側電極触媒層220aおよびアノード側ガス拡散層230aと、カソード側電極触媒層220bおよびカソード側ガス拡散層230bとが、それぞれ対向して配置されてなる。さらにMEA200を、アノード側セパレータ250aおよびカソード側セパレータ250bで挟持することで構成されている。また、MEAに供給される燃料ガスおよび酸化剤ガスは、アノード側セパレータ250aおよびカソード側セパレータ250bに、それぞれ複数箇所設けられたガス供給溝251a、251bなどを介して供給される。
【0056】
MEAを挟持するセパレータとしては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、従来公知のものであれば制限なく用いることができる。セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するための流路溝が形成されてもよい。セパレータなどの厚さや大きさ、流路溝の形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0057】
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してMEAを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0058】
上述の燃料電池は、自動車用燃料電池、家庭用燃料電池、電子機器用燃料電池など幅広く適用可能である。
【実施例】
【0059】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本願の技術的範囲が以下の実施例に示す形態のみに制限されるわけではない。
【0060】
<実施例1>
(触媒金属担持)
炭素材料としてケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)を用いた。ジニトロジアンミン白金硝酸水溶液(Pt濃度2質量%)を準備した。白金担持量が炭素材料100質量%に対して30質量%となるように炭素材料を秤量し、この溶液100mLと混合し、25℃にて8時間撹拌し、分散させた。その後、このPt/C溶液を撹拌しながらArガスを流した。
【0061】
還元剤として、10mLの無水エタノールに水素化ホウ素ナトリウムを飽和量混合した。次に、この水素化ホウ素ナトリウム溶液をゆっくりとPt/C溶液に入れ、そのままArガスを流しながら約1時間撹拌した。その後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金が担持された炭素材料を得た。
【0062】
次いで、コバルト溶液として、Co濃度1質量%の塩化コバルト水溶液を準備した。この塩化コバルト水溶液10mLに、上記の白金が担持された炭素材料100mgを浸漬させて25℃にて3時間撹拌し、分散させた。コバルト担持量は、炭素材料100質量%に対して3質量%となるようにした。この溶液に、Arガス雰囲気中で上記と同様の水素化ホウ素ナトリウム溶液5mLを添加して、約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金およびコバルトが担持された炭素材料を得た。
【0063】
(熱処理)
以上の工程により白金およびコバルトを担持させた炭素につき、熱処理を行って合金化させた。この熱処理は、100%Nガス中で、10℃/分の昇温速度で1200℃まで昇温し、10分間保持することにより行った。
【0064】
(酸処理)
上述のような熱処理を行った後、Pt−Co合金が担持された炭素材料を0.5Mの硫酸水溶液に浸漬させ、90℃で20時間保持した。その後、沈殿物をろ過し、得られた固形物を超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、Pt−Co合金触媒を得た。
【0065】
<実施例2>
上記(熱処理)の工程を、HとNの混合雰囲気下(10体積%H、90体積%N)で、10℃/分の昇温速度で1000℃まで昇温し、10分間保持することにより行った。また、上記(酸処理)の工程の酸処理時間を10時間とした。その他の条件は上記実施例1と同様の手法で電極触媒を作製した。
【0066】
<実施例3>
(触媒金属担持)
炭素材料としてケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)を用いた。塩化白金酸を無水エタノールに溶解させて塩化白金酸無水エタノール溶液(Pt濃度2質量%)を準備した。白金担持量が炭素材料100質量%に対して30質量%となるように炭素材料を秤量し、この溶液100mLと混合し、25℃にて8時間撹拌し、分散させた。その後、このPt/C溶液を撹拌しながらArガスを流した。
【0067】
還元剤として、10mLの無水エタノールに水素化ホウ素ナトリウムを飽和量混合した。次に、この水素化ホウ素ナトリウム溶液をゆっくりとPt/C溶液に入れ、そのままArガスを流しながら約1時間撹拌した。その後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金が担持された炭素材料を得た。
【0068】
次いで、コバルト溶液として、Co濃度1質量%の塩化コバルト水溶液を準備した。この塩化コバルト水溶液10mLに、上記の白金が担持された炭素材料100mgを浸漬させて25℃にて3時間撹拌し、分散させた。コバルト担持量は、炭素材料100質量%に対して3質量%となるようにした。この溶液に、Arガス雰囲気中で上記と同様の水素化ホウ素ナトリウム溶液5mLを添加して、約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金およびコバルトが担持された炭素材料を得た。
【0069】
(熱処理)
とNの混合雰囲気下(20体積%H、80%体積N)で、10℃/分の昇温速度で1000℃まで昇温し、10分間保持したこと以外は、上記実施例1と同様の手法で行った。
【0070】
(酸処理)
上記実施例1と同様の手法で行った。
【0071】
<実施例4>
(触媒金属担持)
炭素材料としてケッチェンブラックEC(一次粒子径40nm、比表面積800m/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)を用いた。塩化白金酸を無水エタノールに溶解させて塩化白金酸無水エタノール溶液(Pt濃度2質量%)を準備した。白金担持量が炭素材料100質量%に対して30質量%となるように炭素材料を秤量し、この溶液100mLと混合し、25℃にて8時間撹拌し、分散させた。その後、このPt/C溶液を撹拌しながらArガスを流した。
【0072】
還元剤として、10mLの無水エタノールに水素化ホウ素ナトリウムを飽和量混合した。次に、この水素化ホウ素ナトリウム溶液をゆっくりとPt/C溶液に入れ、そのままArガスを流しながら約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金が担持された炭素材料を得た。
【0073】
次いで、Fe濃度1質量%の塩化鉄水溶液を準備した。この塩化鉄水溶液10mLに、上記の白金が担持された炭素材料100mgを25℃にて3時間含浸させた。鉄担持量は、炭素材料100質量%に対して3質量%となるようにした。この溶液に、Arガス雰囲気中で上記と同様の水素化ホウ素ナトリウム溶液5mLを添加して、約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金および鉄が担持された炭素材料を得た。
【0074】
(熱処理)
とNの混合雰囲気下(10体積%H、90%体積%N)で、10℃/分の昇温速度で800℃まで昇温し、10分間保持したこと以外は、上記実施例1と同様の手法で行った。
【0075】
(酸処理)
酸処理時間を10時間としたことを除いては上記実施例1と同様の手法で行った。
【0076】
<比較例1>
(熱処理)の工程を20%水素ガス中で、800℃で30分行い、(酸処理)の工程を行わなかったことを除いては、上記実施例1と同様の手法を用いて電極触媒を作製した。
【0077】
<比較例2>
(触媒金属担持)
炭素材料としてケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)を用いた。ジニトロジアンミン白金硝酸溶液(Pt濃度2質量%)を準備した。白金担持量が炭素材料100質量%に対して30質量%となるように炭素材料を秤量し、この溶液と混合し、25℃にて8時間撹拌し、分散させた。その後、このPt/C溶液を撹拌しながらArガスを流した。
【0078】
還元剤として、10mLの無水エタノールに水素化ホウ素ナトリウムを飽和量混合した。次に、この水素化ホウ素ナトリウム溶液をゆっくりとPt/C溶液に入れ、そのままArガスを流しながら約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金が担持された炭素材料を得た。
【0079】
なお、(熱処理)(酸処理)の工程は行わなかった。
【0080】
<比較例3>
(触媒金属担持)
炭素材料としてケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)を用いた。塩化白金酸を無水エタノールに溶解させて塩化白金酸無水エタノール溶液(Pt濃度2質量%)を準備した。白金担持量が炭素材料100質量%に対して30質量%となるように炭素材料を秤量し、この溶液100mLと混合し、25℃にて8時間撹拌し、分散させた。その後、このPt/C溶液を撹拌しながらArガスを流した。
【0081】
還元剤として、10mLの無水エタノールに水素化ホウ素ナトリウムを飽和量混合した。次に、この水素化ホウ素ナトリウム溶液をゆっくりとPt/C溶液に入れ、そのままArガスを流しながら約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金が担持された炭素材料を得た。
【0082】
次いで、Ti濃度1質量%の硫酸チタン水溶液を準備した。この硫酸チタン水溶液10mLに、上記の白金が担持された炭素材料100mgを25℃にて3時間含浸させた。チタン担持量は、炭素材料100質量%に対して3質量%となるようにした。この溶液に、Arガス雰囲気中で上記と同様の水素化ホウ素ナトリウム溶液5mLを添加して、約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金およびチタンが担持された炭素材料を得た。
【0083】
(酸処理)
上述のような熱処理を行った後、Pt−Ti合金が担持された炭素材料を0.5Mの硫酸水溶液に浸漬させ、90℃で20時間保持した。その後、沈殿物をろ過し、得られた固形物を超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、Pt−Ti合金触媒を得た。なお、(熱処理)の工程は行わなかった。
【0084】
<比較例4>
炭素材料としてケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)を用いた。塩化白金酸を無水エタノールに溶解させて塩化白金酸無水エタノール溶液(Pt濃度2質量%)を準備した。白金担持量が炭素材料100質量%に対して30質量%となるように炭素材料を秤量し、この溶液100mLと混合し、25℃にて8時間撹拌し、分散させた。その後、このPt/C溶液を撹拌しながらArガスを流した。
【0085】
還元剤として、10mLの無水エタノールに水素化ホウ素ナトリウムを飽和量混合した。次に、この水素化ホウ素ナトリウム溶液をゆっくりとPt/C溶液に入れ、そのままArガスを流しながら約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金が担持された炭素材料を得た。
【0086】
次いで、Mn濃度1質量%の硝酸マンガン水溶液を準備した。この硝酸マンガン水溶液10mLに、上記の白金が担持された炭素材料100mgを25℃にて3時間含浸させた。マンガン担持量は、炭素材料100質量%に対して3質量%となるようにした。この溶液に、Arガス雰囲気中で上記と同様の水素化ホウ素ナトリウム溶液5mLを添加して、約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金およびマンガンが担持された炭素材料を得た。
【0087】
(酸処理)
上述のような熱処理を行った後、Pt−Mn合金が担持された炭素材料を0.5Mの硫酸水溶液に浸漬させ、90℃で20時間保持した。その後、沈殿物をろ過し、得られた固形物を超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、Pt−Mn合金触媒を得た。なお、(熱処理)の工程は行わなかった。
【0088】
<比較例5>
炭素材料としてケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)を用いた。塩化白金酸を無水エタノールに溶解させて塩化白金酸無水エタノール溶液(Pt濃度2質量%)を準備した。白金担持量が炭素材料100質量%に対して30質量%となるように炭素材料を秤量し、この溶液100mLと混合し、25℃にて8時間撹拌し、分散させた。その後、このPt/C溶液を撹拌しながらArガスを流した。
【0089】
還元剤として、10mLの無水エタノールに水素化ホウ素ナトリウムを飽和量混合した。次に、この水素化ホウ素ナトリウム溶液をゆっくりとPt/C溶液に入れ、そのままArガスを流しながら約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金が担持された炭素材料を得た。
【0090】
次いで、Cr濃度1質量%の硝酸クロム水溶液を準備した。この硝酸クロム水溶液10mLに、上記の白金が担持された炭素材料100mgを25℃にて3時間含浸させた。クロム担持量は、炭素材料100質量%に対して3質量%となるようにした。この溶液に、Arガス雰囲気中で上記と同様の水素化ホウ素ナトリウム溶液5mLを添加して、約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金およびクロムが担持された炭素材料を得た。
【0091】
(酸処理)
上述のような熱処理を行った後、Pt−Cr合金が担持された炭素材料を0.5Mの硫酸水溶液に浸漬させ、90℃で20時間保持した。その後、沈殿物をろ過し、得られた固形物を超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、Pt−Cr合金触媒を得た。なお、(熱処理)の工程は行わなかった。
【0092】
<比較例6>
炭素材料としてケッチェンブラック(一次粒子径40nm、比表面積800m/g)(ライオン社製、ケッチェンブラックEC)を用いた。塩化白金酸を無水エタノールに溶解させて塩化白金酸無水エタノール溶液(Pt濃度2質量%)を準備した。白金担持量が炭素材料100質量%に対して30質量%となるように炭素材料を秤量し、この溶液100mLと混合し、25℃にて8時間撹拌し、分散させた。その後、このPt/C溶液を撹拌しながらArガスを流した。
【0093】
還元剤として、10mLの無水エタノールに水素化ホウ素ナトリウムを飽和量混合した。次に、この水素化ホウ素ナトリウム溶液をゆっくりとPt/C溶液に入れ、そのままArガスを流しながら約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金が担持された炭素材料を得た。
【0094】
次いで、Ni濃度1質量%の硝酸ニッケル水溶液を準備した。この硝酸ニッケル水溶液10mLに、上記の白金が担持された炭素材料100mgを25℃にて3時間含浸させた。ニッケル担持量は、炭素材料100質量%に対して3質量%となるようにした。この溶液に、Arガス雰囲気中で上記と同様の水素化ホウ素ナトリウム溶液5mLを添加して、約1時間撹拌した。1時間後、そのままの状態で超純水を約2倍量入れ、ろ過し、超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、白金およびニッケルが担持された炭素材料を得た。
【0095】
(酸処理)
上述のような熱処理を行った後、Pt−Ni合金が担持された炭素材料を0.5Mの硫酸水溶液に浸漬させ、90℃で20時間保持した。その後、沈殿物をろ過し、得られた固形物を超純水で洗浄し、80℃で3時間乾燥させ、Pt−Ni合金触媒を得た。なお、(熱処理)の工程は行わなかった。
【0096】
<比較例7>
(熱処理)の工程を10%水素ガス中で、800℃で30分行い、(酸処理)の工程を行わなかったことを除いては、上記実施例4と同様の手法を用いて電極触媒を作製した。
【0097】
(触媒金属の結晶格子定数、結晶子径の測定)
上記各実施例1〜6および比較例1〜7で作製した電極触媒について、触媒金属の結晶格子定数、結晶子径をXRD法によって測定した。40°近傍のPt(111)に帰属される2θのピークの角度から面間隔を求め、シェラー式を用いて結晶子径を算出した。
【0098】
XRDの測定条件は、以下の通りである;
測定機器:マックサイエンス製 広角X線回折装置(MXP18VAHF型)
X線源:CuKα
出力設定:印加電圧40kV、印加電流300mA、発散スリット1.00°、散乱スリット1.00°、受光スリット:0.30mm、走査範囲5〜90°。
【0099】
図2に、実施例1および比較例1で作製した電極触媒のXRDの測定結果を示す。実施例1の電極触媒は、比較例1の電極触媒に比べ、2θのピーク値が低角度側にシフトし(図中の矢印)、ピーク幅も狭くなっている。このように、実施例1の方法によればピーク角を制御でき、触媒金属の結晶度も高くなることがわかった。
【0100】
さらに、図3に、(a)実施例1および(b)比較例1で作製した電極触媒の透過電子顕微鏡(TEM)像を示す。実施例1で作製した電極触媒では、粒子径もより均一になっていることがわかる。
【0101】
(触媒担持量の測定)
触媒担持量は、熱天秤を用いて測定した。
【0102】
(電極触媒層の作製)
上記実施例にて得られた電極触媒30mgを純水15mLに混合し、5質量%Nafion溶液(Aldrich社製)1mlと、イソプロピルアルコール10mLをさらに添加した後、超音波撹拌を20分間行った。得られた溶液80μLを金板電極1.6cmに塗布して一晩乾燥させ、電極触媒層を得た。乾燥後、塗布した触媒重量を測定した。
【0103】
上記各実施例1〜4および比較例1〜7で作製した電極触媒層を評価用作用極として、下記に示す手順で電気化学的活性表面積(ECA:Electrochemical Area)、質量活性を算出した。
【0104】
(評価方法)
3極式セルを用い、電解質溶液として0.5M硫酸水溶液、対極にカーボン電極、参照極にはRHE(Reversible Hydrogen Electrode)を用い25℃で測定した。
【0105】
<電気化学的活性表面積(ECA)の測定>
電解質水溶液を窒素パージし、CV(サイクリックボルタンメトリー)を0〜1.2V(vs.RHE)の範囲で15サイクルした波形の水素吸着電流からPt比表面積を求め、上記で測定した触媒担持質量を用いてECA値を算出した。なお、ECA値は、電気化学的に測定したPt比表面積(cm/g−Pt)を表す。
【0106】
<質量活性(MA)>
電解質水溶液を酸素パージし、0.9V(vs.RHE)のときの酸素還元電流値を触媒担持質量で割ることにより、質量活性を算出した。
【0107】
以上の結果を表1および図4に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
各実施例と比較例とを比較すると、2θのピーク値が40.3〜40.8°の範囲である実施例1〜4の触媒は、比較例1〜7の触媒に比べて質量活性が高い値であることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の一実施形態である固体高分子電解質型燃料電池の断面模式図である。
【図2】実施例1および比較例1で製造された電極触媒のXRD測定結果を示す図である。
【図3】(a)実施例1および(b)比較例1で製造された電極触媒のTEM像を示す図である。
【図4】実施例1〜4および比較例1〜7で製造された電極触媒のXRDによる2θのピークの角度と触媒活性の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0111】
200 MEA、
210 固体高分子電解質膜、
220a アノード側電極触媒層、
120b、220b カソード側電極触媒層、
230a、230b ガス拡散層、
260 固体高分子電解質型燃料電池、
250a、250b セパレータ、
251a、251b ガス供給溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金と遷移金属とを含む白金合金粒子が炭素材料に担持されてなる燃料電池用電極触媒であって、
CuKα線を用いたX線回折分析によるPt(111)に由来するピークが2θにして40.3〜40.8°の格子面に帰属される、燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
前記遷移金属が、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、および亜鉛からなる群から選択される1以上である、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項3】
前記白金合金粒子の平均結晶子径が1〜8nmである、請求項1または2に記載の燃料電池用電極触媒。
【請求項4】
白金および遷移金属を炭素材料に担持させる担持工程と、
白金および遷移金属が担持された炭素材料を熱処理する熱処理工程と、
熱処理後の触媒前駆体を酸に接触させる酸処理工程と、
を含む、燃料電池用電極触媒の製造方法。
【請求項5】
前記担持工程は、液相還元法によって行われる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理は、N雰囲気下、または20体積%以下のHを含むHおよびNの混合雰囲気下で、1000〜1200℃で10分間〜1時間行われる、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記酸処理は、0.5〜2.0Mの硫酸水溶液を用いて、50〜100℃で10〜20時間行われる、請求項4〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用電極触媒を用いた燃料電池。
【請求項9】
請求項8の燃料電池を搭載した車両。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−27364(P2010−27364A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186915(P2008−186915)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】