説明

燃料電池用電極触媒層およびそれを用いた燃料電池

【課題】触媒層において、触媒の利用率と水の排出性を向上し、優れた発電特性および低コストな燃料電池用電極触媒層を提供する。
【解決手段】触媒担体は炭素基材の表面から炭素繊維を成長させた複合炭素材料であり、前記炭素基材と前記炭素繊維は、その一方の炭素結晶平面が粒子または繊維の表面に対して平行に配向し、他方の炭素結晶平面が粒子または繊維の表面に対して平行には配向していない炭素材料であり、前記炭素結晶平面が表面に対して平行には配向していない炭素材料が親水化処理されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関し、特にその触媒層を好適な構成にした燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ノートPC、ビデオカメラ等の携帯用小型電子機器の多機能化に伴う消費電力の増大や連続使用時間の増加に対応するために、搭載電池の高エネルギー密度化が強く要望されている。現在、これらの電源として、主にリチウムイオン二次電池が使用されているが、エネルギー密度の点で近い将来に限界を迎えると予測されており、これに替わる電源として、固体高分子電解質膜を用いた燃料電池の早期実用化が期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、高分子電解質膜の両面に、触媒層とガス拡散層からなるアノード、カソードをそれぞれ接合して膜電極接合体(MEA)とし、さらに、その両側を一対のセパレータで挟み込んだセル構造を有しており、アノード側に水素やメタノールなどの燃料を供給し、カソード側に酸素や空気などの酸化剤を供給することで発電する燃料電池である。
【0004】
この中で、燃料を水素に改質せずに直接セル内部に供給して電極酸化し、発電するタイプの直接型燃料電池が、有機燃料の持つ理論エネルギー密度の高さ、システムの簡素化、燃料貯蔵のしやすさの面から注目され、活発な研究開発が行われている。例えば、直接メタノール型燃料電池は、燃料としてメタノールまたはメタノール水溶液を直接アノードに供給する。
【0005】
しかしながら、これら固体高分子型燃料電池の実用化にはいくつかの問題点が存在している。
【0006】
その1つは、触媒層における触媒と電解質との接触率が低いことによる触媒利用率の低さである。電解質と接触していない触媒は、プロトン伝導パスがないため不活性となる。触媒利用率が低ければ、白金などの高価な貴金属触媒が無駄に使われていることになり、燃料電池のコストが高くなる。一般的には、触媒利用率は30%程度であると言われており、これを改善するための様々な技術が提案されている。
【0007】
触媒や、これを担持する触媒担体の表面を親水化処理し、電解質との親和性を向上させることも、その技術の一例である。触媒担体は一般的にカーボンブラックなど炭素材料が用いられており、元来は疎水性である。このために電解質との親和性が低く、触媒と電解質との接触率の低さの原因となっている。従来の技術では、担持触媒の表面を親水化処理することで、触媒利用率を向上している。
【0008】
しかし一方で、担持触媒の表面が親水性であると、触媒層からの水の排出性が低下し、触媒層中でのガスの拡散性が低下する。直接メタノール型燃料電池では、アノードにメタノール水溶液が供給され、固体高分子型燃料電池でも、燃料は加湿されて供給される。さらに、カソードでは電極反応によって水が生成する。水の排出性が確保されていなければ、これらの水が触媒層中で溜まり、ガスの拡散パスを塞ぐことになる。
【0009】
このような問題点を解決する技術として、触媒担体を親水性炭素材料とし、さらに撥水性炭素材料を含む触媒層が提案されている。触媒と電解質との接触率を向上させ、触媒層の水の排出性も確保することで、発電特性を向上している。
【0010】
また、親水化の技術とは別に、触媒担体に関する技術として、炭素材料から成長させたナノカーボンを用いる技術が提案されている(例えば特許文献1または2など)。
【特許文献1】特開2006−156366号公報
【特許文献2】特開2006−156387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の親水材料と撥水材料を用いる技術のような構成でも、触媒層の親水性と撥水性の両立により、従来の構成に対して一定の特性向上は見込める。しかし、親水性炭素材料と撥水性炭素材料とは親和性が乏しいため、触媒層中で均質に分散した状態となりにくい。触媒層を形成するには、一般的に担持触媒と電解質とを分散媒中で混合した触媒層ペーストを調製し、これを塗布、乾燥させる。触媒層ペーストの調製において、親水性炭素材料と撥水性炭素材料を均質に混合させることは困難である。このため触媒の近傍では、触媒担体が親水性であるため局所的に親水性となっており、水の排出性が低くガスの拡散性が低いという問題点は解決されていない。
【0012】
また、特許文献1および2においてもこの課題は認識されていない。
【0013】
そこで本発明では、上記のような従来の課題を解決するため、触媒層において、親水性炭素材料と撥水性炭素材料とを均質に分散させ、触媒と電解質との接触率の向上と水の排出性の向上とを局所的にも両立させることが可能な燃料電池用電極触媒層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、触媒と、炭素材料からなる触媒担体と、高分子電解質とを含む燃料電池用電極触媒層であって、前記触媒担体は炭素基材の表面から炭素繊維を成長させた複合炭素材料であり、前記炭素基材と前記炭素繊維は、その一方の炭素結晶平面がその表面に対して平行に配向し、他方の炭素結晶平面がその表面に対して平行には配向していない炭素材料であり、前記炭素結晶平面がその表面に対して平行には配向していない炭素材料が親水化処理されているものである。
【0015】
本発明の構成によると、1つの触媒担体の中に親水性の部分と撥水性の部分の両方が存在するため、触媒層ペーストの調製において、親水性炭素材料と疎水性炭素材料とを均質に混合することが可能となる。これにより、触媒層の中で、局所的にも親水性と疎水性とを両立させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、触媒の近傍に親水性炭素材料が存在するため、電解質との接触率を向上し触媒利用率を向上することができると同時に、触媒の近傍には撥水性炭素材料も存在するため、水の排出性をも向上しガスの拡散性を向上することができる。これらの効果から、使用する触媒量を低減することによってコストを低減することができ、ガスの拡散抵抗を低減することによって過電圧を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態における燃料電池用電極触媒層は、触媒と、炭素材料からなる触媒担体と、高分子電解質から構成される。触媒としては活性の高い貴金属などが用いられ、中でも白金が好ましい。特にアノード触媒としては、一酸化炭素による触媒の被毒を低減するために、白金とルテニウムの合金触媒が好ましく用いられる。触媒担体としては、電子伝導性や耐酸性の高さから、カーボンブラックなど炭素材料が好ましく用いられる。高
分子電解質としては、プロトン伝導性、耐熱性、耐酸化性に優れることから、パーフルオロスルホン酸系高分子が好ましい。
【0018】
本発明による触媒層では、触媒担体は炭素基材の表面から炭素繊維を成長させた複合炭素材料であり、炭素基材と炭素繊維は、粒子または繊維状であるそれらの表面に対する炭素結晶平面の配向性が異なるものとする。
【0019】
炭素基材としては、粒子状のカーボンブラックが好ましく用いられるが、合成方法や熱処理温度などによって炭素結晶平面の配向性を制御することが可能である。また、炭素繊維を炭素基材として用いることもできる。炭素繊維としては、繊維径が細く比表面積の大きいカーボンナノファイバやカーボンナノチューブが好ましい。これらの炭素繊維はその合成条件によって繊維径や繊維長、および炭素結晶平面の配向性などを制御することが可能であり、種々の形状のものがある。
【0020】
カーボンナノファイバやカーボンナノチューブを合成するためには、表面に触媒元素を含む化合物を担持させた基材を、不活性ガス中で昇温させたのち、炭素含有ガスと水素ガスとの混合ガスを流入して反応させる方法がある。触媒元素としては、特に限定はされないが、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Moなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上が混合されてもよい。また、炭素含有ガスとしては、こちらも特に限定はされないが、メタン、エタン、ブタン、エチレン、アセチレン、一酸化炭素、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。触媒元素と炭素含有ガスおよび反応温度の選択によって、合成されるカーボンナノファイバの形状などがそれぞれに異なる。
【0021】
炭素基材に粒子状のカーボンブラックを用いる場合、アセチレンブラックやケッチェンブラックなど通常のものであれば、炭素結晶平面が成長していないため配向性が低く、粒子表面に対して平行に配向してはいない。これに対し、カーボンブラックを不活性雰囲気下にて1500〜2500℃で熱処理を行うと、炭素結晶の黒鉛化が起こって炭素結晶平面が成長し、粒子表面に対して平行に配向する。これらは、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察などから確認することができる。
【0022】
本発明における「粒子表面」とは、微小な細孔や凹凸などまでは考慮せず略球体として粒子を捉えた場合の表面を指し、「平行に配向」とは、前記略球体としての粒子の断面を考えた場合に、炭素結晶平面が粒子表面に沿って配向されていることを指す。カーボンブラックの場合には、上記のような熱処理を行うと、微小な細孔や凹凸が減少し、粒子は球体と表現するよりも多面体と表現する方が適切な形状となる。このとき、粒子の断面を考えた場合に、炭素結晶平面は多面体の平面を形成するように粒子表面に沿って平行に配向されている。
【0023】
カーボンナノファイバには、炭素結晶平面の配向性から、プレート状、ヘーリングボーン状、カップスタック状などがあり、炭素結晶平面が繊維平面に対して平行に配向しているチューブ状のものは特にカーボンナノチューブと呼ばれる。プレート状、ヘーリングボーン状、カップスタック状のカーボンナノファイバは、いずれも炭素結晶平面は繊維平面に対して一定の角度を持って配向している。これらもTEMによる観察などから確認することができる。
【0024】
本発明における「繊維表面」とは、微小な細孔や凹凸などまでは考慮せず略円筒として繊維を捉えた場合の長さ方向の壁面を指し、端部にある円筒の上面と下面は含まない。「平行に配向」とは、前記略円筒としての繊維の長さ方向に平行な断面を考えた場合に、炭素結晶平面が繊維表面に沿って配向されていることを指す。カーボンナノファイバの場合には、チューブ状のものが上記のように平行な配向性となっている。
【0025】
上記のような炭素基材の表面から炭素繊維を成長させることで、粒子または繊維の表面に対する炭素結晶平面の配向性が異なる複合炭素材料を得ることができる。炭素基材に、
炭素結晶平面が粒子表面に対して平行には配向していないカーボンブラックや繊維表面に対して平行には配向していないカーボンナノファイバを用いる場合には、成長させる炭素繊維としては炭素結晶平面が繊維表面に対して平行に配向しているカーボンナノチューブが好ましい。また、炭素基材に、炭素結晶平面が粒子表面に対して平行に配向している黒鉛化カーボンブラックや繊維表面に対して平行に配向しているカーボンナノチューブを用いる場合には、成長させる炭素繊維としては炭素結晶平面が繊維表面に対して平行には配向していないカーボンナノファイバが好ましい。
【0026】
炭素結晶平面は共有結合による六員環を形成しており、化学的に安定な状態にある。これに対して、炭素結晶平面のエッジ部分は共有結合が崩れているため化学的に不安定である。炭素材料に親水化処理を行うと、不安定な炭素結晶平面のエッジ部分から優先的に親水化が起こる。このため、上記のような、粒子や繊維の表面に対する炭素結晶平面の配向性が異なる複合炭素材料である場合には、炭素結晶平面が粒子や繊維の表面に対して平行には配向していない炭素材料が優先的に親水化される。ここで言う親水化とは、粒子や繊維の表面に露出している炭素結晶平面のエッジ部分に親水性官能基が付着することである。親水性官能基としては、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0027】
本発明における「炭素結晶平面が平行に配向している」という記述は、全ての炭素結晶平面が平行に配向している場合だけではなく、部分的に平行には配向していない箇所が存在する場合も含む。また、本発明における「炭素結晶平面が平行には配向していない」という記述は、全ての炭素結晶平面が平行には配向していない場合だけでなく、部分的に平行に配向している箇所が存在する場合も含む。
【0028】
上述したような親水化処理においては、炭素基材と成長させる炭素繊維との大部分の炭素結晶平面の配向性が異なっていれば親水化の優先度に明確に差異を持たせることが可能であるため、本発明の効果が得られる。例えば、TEMによる観察で確認できる炭素結晶平面のうち7割以上が粒子または繊維の表面に対して平行に配向している炭素材料と、7割以上が平行には配向していない炭素材料との組み合わせなどでは、本発明の効果が得られる。
【0029】
また、炭素結晶平面が明確に確認できないような非晶質な炭素材料は、配向性自体が乏しいことに加えて、表面に親水性官能基が付着しやすいことからも、本発明における「炭素結晶平面が平行には配向していない」炭素材料に含むものである。
【0030】
図1は、本発明による燃料電池用触媒担体の一例である。炭素基材として、炭素結晶平面が粒子表面に対して平行には配向していないカーボンブラック1を用い、炭素繊維として、炭素結晶平面が繊維表面に対して平行に配向しているカーボンナノチューブ2を用いたものである。図2も、本発明による燃料電池用触媒担体の一例である。炭素基材として、炭素結晶平面が粒子表面に対して平行には配向していないカーボンナノファイバ3を用い、炭素繊維として、炭素結晶平面が繊維表面に対して平行に配向しているカーボンナノチューブ4を用いたものである。
【0031】
親水化処理の方法としては特に限定されることはなく、公知となっている種々の方法を用いることができる。酸や酸化剤と混合することで表面を改質する方法、プラズマを照射することで表面を改質する方法、親水基を有するシランカップリング剤を表面に付着する方法など、様々な方法がある。これらの中でも、発煙硫酸などでの処理によって表面にスルホン酸基を付着させる方法が、簡便であり好ましい。
【0032】
親水性の評価として、表面に付着している親水性官能基をイオン交換量として定量する方法がある。本発明の複合炭素材料の親水性と撥水性を両立させるためには、親水性官能基は10meq/g以上含有されていることが好ましい。親水性官能基の含有量が10meq/g未満である場合には、電解質との親和性が低下し、触媒利用率を向上する効果が低下する場合がある。また、親水性官能基の含有量は100meq/g以下であることが好ましい。親水性官能基の含有量が100meq/gを超える場合には、水の排出性が低下し、ガス拡散性を向上する効果が低下する場合がある。
【0033】
親水性官能基のイオン交換量としての定量方法としては、例えば中和滴定による方法などが挙げられる。複合炭素材料を塩化ナトリウム水溶液中に分散させて撹拌したのち、濾過した濾液を水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定することで、ナトリウムと交換された親水性官能基のプロトン量を定量するなど、公知となっている種々の方法を用いることができる。
【0034】
本発明の複合炭素材料における、炭素結晶平面が粒子や繊維の表面に対して平行には配向していない炭素材料の重量比率は、20〜80重量%であることが好ましい。この範囲になければ、親水性官能基を10〜100meq/gとすることが難しくなる場合がある。
【0035】
本発明における燃料電池の構造としては、固体高分子型燃料電池または直接メタノール型燃料電池として知られているものであれば特に限定されることはなく、公知の構造を取ることができる。一般的には、高分子電解質膜と、それを挟むように配置された一対の触媒層と、さらにそれらを挟むように配置された一対のガス拡散層からなる膜電極接合体(MEA)が構成要素となる。
【0036】
高分子電解質膜としては、プロトン伝導性、耐熱性、耐酸化性に優れたものであれば良く、その材質は特に限定されるものではない。一般的にはパーフルオロスルホン酸系高分子膜が使用されているが、直接メタノール型燃料電池などではメタノールクロスオーバーを低減できる炭化水素系高分子膜も好ましい。
【0037】
触媒層の作製プロセスとしては、まず、担持触媒粉末と、高分子電解質を分散させたディスパージョン液とを溶媒中で混合した触媒層ペーストを作製する。次に、これをスプレーやドクターブレードなどを使用して直接電解質膜の表面に塗布し、乾燥して触媒層を形成する。あるいは、支持体であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのシート上に前記の触媒層ペーストを塗布し、乾燥して支持体上に触媒層を形成したのち、それを電解質膜の表面にホットプレス法などで熱転写するという方法もある。
【0038】
ガス拡散層としては、燃料や酸化剤の拡散性、発電により生成した水の排出性、電子伝導性を併せ持つ、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等の導電性多孔質材料を用いることができる。また、水の排出性を高めるため、これら導電性多孔質材料をPTFEディスパージョンなどに浸漬し、乾燥して、撥水性を付与しても良い。
【0039】
さらに、ガス拡散層表面のうち触媒層に接触する側の表面には、触媒層との結着性や水の排出性を向上させるために、多孔質の導電性撥水層を設けても良い。導電性撥水層は、カーボンブラックなどの電子伝導性のカーボン粉末と、PTFEやテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水性材料から構成される。導電性撥水層の作製プロセスとしては、カーボンブラックと撥水性材料ディスパージョンとを溶媒中で混合したペーストを作製し、これをドクターブレードなどを使用してガス拡散層の表面に塗布し、乾燥する方法などがある。
【0040】
MEAの作製方法としては、高分子電解質膜の両面に触媒層を形成させた触媒層付き電解質膜(CCM)の両面を一対のガス拡散層で挟み込み、ホットプレス法などで熱溶着する方法などがある。また、一般的には、MEAのうち両極の触媒層およびガス拡散層は同じ面積とし電解質膜のみ一回り大きくする構成となっているが、その電解質膜のみの部分には、燃料や酸化剤が電極外へリークすることを防ぐため、ゴム製シートなど一対のガスケットが電解質膜を挟むように配置される。
【0041】
セパレータは、燃料および酸化剤を分離するガス不透過性、燃料および酸化剤の流路を形成できる加工性、および電子伝導性、耐酸性などの面から、一般的には黒鉛などのカーボン材料から構成される。セパレータの表面のうちMEAに接触する面には、燃料または酸化剤を供給する流路が形成される。また、セパレータ材料として金属を用いる場合には、腐蝕を防止するコーティングが施される。
【0042】
MEAを、それぞれ一対となるガスケット、セパレータで挟み込み、必要であれば複数のMEAとセパレータを交互に積層し、さらにそれぞれ一対となる集電板、ヒーター、絶縁板、端板で順に挟み込んで、燃料電池セルとする。
【0043】
なお、本発明の燃料電池用電極触媒層における触媒の担持方法や触媒層ペーストの調製方法、電解質膜と触媒層の接合方法などは特に限定されるものではなく、公知となっている種々のものを使用することが可能である。さらに、本発明の固体高分子型燃料電池における集電板やセパレータなどの構成部材、セルの構造、また補器を含むシステム構造なども特に限定されることなく、公知となっている種々のものを使用することが可能である。
【実施例】
【0044】
本発明の具体的な実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
(複合炭素材料の合成)
炭素基材として、カーボンブラックであるアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)を用いた。TEMによる観察の結果、炭素結晶平面は微小であり、配向性に乏しかった。
【0046】
硝酸鉄(関東化学社製、試薬)をイオン交換水に溶解させ、ここにアセチレンブラックを混合して分散させた。これを1時間撹拌したのち、エバポレーターで水分を除去することで、アセチレンブラックに硝酸鉄を担持させた。
【0047】
この炭素基材をセラミック製反応容器にセットし、ヘリウムガス雰囲気中において800℃まで昇温させたのち、水素ガス50%とアセチレンガス50%の混合ガスに置換して800℃で10分間保持することでカーボンナノチューブを成長させた。これを塩酸で処理して鉄を除去し、イオン交換水で洗浄することで、複合炭素材料を得た。
【0048】
複合炭素材料におけるカーボンナノチューブの重量比率は50重量%であった。カーボンナノチューブをTEMによって観察した結果、全ての炭素結晶平面は繊維表面に対して平行に配向していた。
【0049】
この複合炭素材料を5mol/Lの硫酸水溶液に分散させ、1時間撹拌することで、表面を親水化した。滴定法による複合炭素材料の親水性官能基の量は、20meq/gであった。
【0050】
(触媒層の形成)
上記の複合炭素材料に平均粒径5nmの白金を30重量%担持させたものをカソード触媒とし、同様に平均粒径5nmの白金ルテニウム合金(原子比Pt:Ru=1:1)を30重量%担持させたものをアノード触媒とした。
【0051】
上記の担持触媒をそれぞれイソプロパノール水溶液に分散させた液と、高分子電解質であるナフィオン(登録商標)を溶媒に分散させた液(アルドリッチ社製、試薬、5重量%溶液)を混合し十分に撹拌させることにより、触媒層ペーストをそれぞれ作製した。この際、触媒層ペースト中の触媒担体と高分子電解質の重量比は1:1とした。これらの触媒層ペーストを、ドクターブレードを用いてギャップ200μmでPTFEシート(ニチアス社製、ナフロンPTFEシート)上に塗布した後、大気中常温で6時間乾燥させることで、触媒層シートを形成した。
【0052】
(MEAの作製)
上記の触媒層シートをそれぞれ6cm×6cmのサイズに切断した後、12cm×12cmのサイズに切断された高分子電解質膜であるナフィオン(デュポン社製、ナフィオン112)を中心にして、各触媒層シートの塗布面が電解質膜と接触するようにして積層し、ホットプレス法により熱転写した。
【0053】
両面に触媒層を形成した電解質膜を中心にして、6cm×6cmのサイズに切断されたガス拡散層を積層し、ホットプレス法により接合することで、MEAを得た。
【0054】
(燃料電池セルの作製)
12cm×12cmに切断され、中央に6cm×6cmの穴が設けられた一対のゴム製ガスシール材を、上記で得たMEAを挟み込むようにして積層し、さらにこれをそれぞれ一対のセパレータ、集電板、ヒーター、絶縁板、端板で順に挟み込むようにして積層し、締結ロッドで固定した。この際、セパレータには、幅1.5mm、深さ1mmのサーペンタイン型流路が形成されており、集電板および端板は金メッキ処理を施したステンレス板を使用している。
【0055】
(実施例2)
実施例1で用いたアセチレンブラックをセラミック製反応容器にセットし、ヘリウムガス雰囲気中において2000℃まで昇温させ、5時間保持して熱処理を行い、黒鉛化カーボンブラックを得た。これをTEMにより観察した結果、炭素結晶平面は粒子表面に対して平行に配向していた。
【0056】
硝酸ニッケル(関東化学社製、試薬)をイオン交換水に溶解させ、ここに上記の黒鉛化カーボンブラックを混合して分散させた。これを1時間撹拌したのち、エバポレーターで水分を除去することで、黒鉛化アセチレンブラックに硝酸ニッケルを担持させた。
【0057】
この炭素基材をセラミック製反応容器にセットし、ヘリウムガス雰囲気中において500℃まで昇温させたのち、水素ガス50%とエチレンガス50%の混合ガスに置換して500℃で10分間保持することでカーボンナノファイバを成長させた。これを塩酸で処理してニッケルを除去し、イオン交換水で洗浄することで、複合炭素材料を得た。
【0058】
複合炭素材料におけるカーボンナノファイバの重量比率は50重量%であった。カーボンナノファイバをTEMによって観察した結果、全ての炭素結晶平面が繊維表面に対して一定の角度を持って配向したヘーリングボーン状であった。
【0059】
この複合炭素材料を5mol/Lの硫酸水溶液に分散させ、1時間撹拌することで、表面を親水化した。滴定法による複合炭素材料の親水性官能基の量は、20meq/gであった。
【0060】
触媒担体として上記の複合炭素材料を用いたこと以外、実施例1と同様にしてMEAを作製した。このMEAを用いて、実施例1と同様の固体高分子型燃料電池を作製した。
【0061】
(実施例3)
シリコンウエハを、スパッタ装置のチャンバー内の基板にセットし、チャンバー内の圧力が1×10-6Paに到達したのち、チャンバー内にスパッタガスであるアルゴンガスを導入した。ニッケル製ターゲット上でグロー放電させることで、シリコンウエハ上に厚さ4nmのニッケル薄膜を形成した。
【0062】
ニッケル薄膜を形成したシリコンウエハをセラミック製反応容器にセットし、実施例2と同様にしてカーボンナノファイバを合成した。シリコンウエハ上からカーボンナノファイバを掻き落とし、粉砕したのち、塩酸で処理してニッケルを除去し、イオン交換水で洗浄することで、カーボンナノファイバを得た。
【0063】
このカーボンナノファイバをTEMによって観察した結果、全ての炭素結晶平面が繊維表面に対して一定の角度を持って配向したヘーリングボーン状であった。
【0064】
炭素基材として上記のカーボンナノファイバを用いたこと以外、実施例1と同様にして複合炭素材料を作製した。複合炭素材料におけるカーボンナノチューブの重量比率は50重量%であった。カーボンナノチューブをTEMによって観察した結果、全ての炭素結晶平面は粒子表面に対して平行に配向していた。
【0065】
この複合炭素材料を5mol/Lの硫酸水溶液に分散させ、1時間撹拌することで、表面を親水化した。滴定法による複合炭素材料の親水性官能基の量は、20meq/gであった。
【0066】
この複合炭素材料を触媒担体として用いたこと以外、実施例1と同様にしてMEAを作製し、実施例1と同様の固体高分子型燃料電池を作製した。
【0067】
(実施例4)
シリコンウエハを、スパッタ装置のチャンバー内の基板にセットし、チャンバー内の圧力が1×10-6Paに到達したのち、チャンバー内にスパッタガスであるアルゴンガスを導入した。鉄製ターゲット上でグロー放電させることで、シリコンウエハ上に厚さ4nmの鉄薄膜を形成した。
【0068】
鉄薄膜を形成したシリコンウエハをセラミック製反応容器にセットし、実施例1と同様にしてカーボンナノチューブを合成した。シリコンウエハ上からカーボンナノチューブを掻き落とし、粉砕したのち、塩酸で処理して鉄を除去し、イオン交換水で洗浄することで、カーボンナノチューブを得た。
【0069】
このカーボンナノチューブをTEMによって観察した結果、全ての炭素結晶平面は粒子表面に対して平行に配向していた。
【0070】
炭素基材として上記のカーボンナノチューブを用いたこと以外、実施例2と同様にして複合炭素材料を作製した。複合炭素材料におけるカーボンナノファイバの重量比率は50重量%であった。カーボンナノファイバをTEMによって観察した結果、全ての炭素結晶
平面が繊維表面に対して一定の角度を持って配向したヘーリングボーン状であった。
【0071】
この複合炭素材料を5mol/Lの硫酸水溶液に分散させ、1時間撹拌することで、表面を親水化した。滴定法による複合炭素材料の親水性官能基の量は、20meq/gであった
この複合炭素材料を触媒担体として用いたこと以外、実施例1と同様にしてMEAを作製し、実施例1と同様の固体高分子型燃料電池を作製した。
【0072】
(比較例1)
実施例1で用いたアセチレンブラックを5mol/Lの硫酸水溶液に分散させ、1時間撹拌することで、表面を親水化した。滴定法による親水性官能基の量は、30meq/gであった。
【0073】
このアセチレンブラックを触媒担体として用いたこと以外、実施例1と同様にしてMEAを作製し、実施例1と同様の固体高分子型燃料電池を作製した。
【0074】
(比較例2)
実施例1で用いたアセチレンブラックを5mol/Lの硫酸水溶液に分散させ、1時間撹拌することで、表面を親水化した。また、実施例4と同様にして、カーボンナノチューブを作製し、全ての炭素結晶平面が繊維表面に対して一定の角度を持って配向したヘーリングボーン状であることを確認した。
【0075】
上記のアセチレンブラックに平均粒径5nmの白金を30重量%担持させたものをカソード触媒とし、同様に平均粒径5nmの白金ルテニウム合金(原子比Pt:Ru=1:1)を30重量%担持させたものをアノード触媒とした。
【0076】
上記の担持触媒をそれぞれイソプロパノール水溶液に分散させた液と、ナフィオンを溶媒に分散させた液と、上記のカーボンナノチューブを混合し十分に撹拌させることにより、触媒層ペーストをそれぞれ作製した。この際、触媒層ペースト中のアセチレンブラックとカーボンナノチューブと高分子電解質の重量比は1:1:2とした。これらの触媒層ペーストを、ドクターブレードを用いてギャップ200μmでPTFEシート(ニチアス社製、ナフロンPTFEシート)上に塗布した後、大気中常温で6時間乾燥させることで、触媒層シートを形成した。
【0077】
上記の触媒層シートを用いたこと以外、実施例1と同様にしてMEAを作製し、実施例1と同様の固体高分子型燃料電池を作製した。
【0078】
(比較例3)
親水化処理を行わなかったこと以外、実施例1と同様にして複合炭素材料を作製した。この複合炭素材料を触媒担体として用いたこと以外、実施例1と同様にしてMEAを作製し、実施例1と同様の固体高分子型燃料電池を作製した。
【0079】
(電解質の接触面積の評価)
上記で作製した実施例1〜4および比較例1〜3の固体高分子型燃料電池について、触媒と電解質の接触面積を評価した。
【0080】
各燃料電池セルの作用極に加湿した窒素を150cm3/minで供給し、対極に加湿した水素を150cm3/minで供給した。サイクリックボルタンメトリーによって作用極における0.4V〜0.05Vの電気量を測定し、そこから電解質の接触面積を算出した。
【0081】
なお、実施例1〜4および比較例1〜3の担持触媒の、COガス吸着量測定による触媒の比表面積はいずれも、カソードで70m2/g、アノードで55m2/gであった。
(発電特性の評価)
上記で作製した実施例1〜4および比較例1〜3の固体高分子型燃料電池について、発電特性を評価した。
【0082】
各燃料電池セルの温度は60℃に制御した。各燃料電池セルのアノードに2mol/Lのメタノール水溶液を2cm3/minで供給し、カソードに無加湿の空気を400cm3/minで供給した。定電流制御で電流密度が150mA/cm2となるように設定し、8時間連続で発電させた後の実効電圧を測定した。
【0083】
これによって得られたデータを表1に示す。なお、表中では、カーボンブラックをCB、カーボンナノチューブをCNT、カーボンナノファイバをCNFと示した。
【0084】
【表1】

【0085】
触媒担体に親水化処理を行った実施例1〜4および比較例1〜2は、親水化処理を行っていない比較例3に比べて、電解質との接触面積が向上している。親水化により電解質との親和性が向上したためである。しかし、親水化処理を行った炭素材料のみを用いた比較例1や、撥水性炭素材料を混合しただけの比較例2では、発電電圧が低下している。親水化のため触媒層での水の排出性が低下し、ガス拡散性が低下したためである。これに対して、触媒担体を複合炭素材料とし、部分的に親水化を行った実施例1〜4では、電解質との接触面積の向上と水の排出性の向上とを両立し、良好な発電特性が得られている。
【0086】
以上の結果から、本発明の触媒層によって、触媒の利用率を向上し、過電圧を低減して良好な発電特性が得られることが分かった。この触媒層を備えた燃料電池用膜電解質接合体を用いることで、優れた発電特性および低コストな固体高分子型燃料電池を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の固体高分子型燃料電池は、優れた発電特性を持ち、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ノートPC、ビデオカメラ等の携帯用小型電子機器用の電源として有用である。また、電動スクータ用電源等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明にかかる燃料電池用触媒担体の一例の模式図
【図2】本発明にかかる燃料電池用触媒担体の他の例の模式図
【符号の説明】
【0089】
1 カーボンブラック
2 カーボンナノチューブ
3 カーボンナノファイバ
4 カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒と、前記触媒を担持する触媒担体と、高分子電解質とを含む燃料電池用電極触媒層であって、前記触媒担体は炭素基材の表面から炭素繊維を成長させた複合炭素材料からなり、前記炭素基材は、前記炭素基材中の炭素結晶平面が前記炭素基材の表面に対して平行に配向している炭素材料であり、前記炭素繊維は、前記炭素繊維中の炭素結晶平面が前記炭素繊維の表面に対して平行には配向していない炭素材料であり、さらに前記炭素繊維が親水化処理されている燃料電池用電極触媒層。
【請求項2】
触媒と、前記触媒を担持する触媒担体と、高分子電解質とを含む燃料電池用電極触媒層であって、前記触媒担体は炭素基材の表面から炭素繊維を成長させた複合炭素材料からなり、前記炭素繊維は、前記炭素繊維中の炭素結晶平面が前記炭素繊維の表面に対して平行に配向している炭素材料であり、前記炭素基材は、前記炭素基材中の炭素結晶平面が前記炭素基材の表面に対して平行には配向していない炭素材料であり、さらに前記炭素基材が親水化処理されている燃料電池用電極触媒層。
【請求項3】
前記炭素基材は、粒子状炭素材料であり、その炭素結晶平面がその粒子表面に対して平行には配向していないカーボンブラックとし、前記炭素繊維は、その炭素結晶平面がその繊維表面に対して平行に配向しているカーボンナノチューブとした請求項2記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項4】
前記炭素基材は、粒子状炭素材料であり、その炭素結晶平面がその粒子表面に対して平行に配向している黒鉛化カーボンブラックとし、前記炭素繊維は、その炭素結晶平面がその繊維表面に対して平行には配向していないカーボンナノファイバとした請求項1記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項5】
前記炭素基材は、繊維状炭素材料であり、その炭素結晶平面がその繊維表面に対して平行には配向していないカーボンナノファイバとし、前記炭素繊維は、その炭素結晶平面が繊維表面に対して平行に配向しているカーボンナノチューブとした請求項2記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項6】
前記炭素基材は、繊維状炭素材料であり、その炭素結晶平面がその繊維表面に対して平行に配向しているカーボンナノチューブとし、前記炭素繊維は、その炭素結晶平面がその繊維表面に対して平行には配向していないカーボンナノファイバとした請求項1記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項7】
前記複合炭素材料は、親水性官能基を10meq/g以上含有することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒層。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の燃料電池用電極触媒層を備えた燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−235156(P2008−235156A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−76326(P2007−76326)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】