説明

燃料電池用3元系電極触媒の製造方法、及びそれを用いた固体高分子型燃料電池

【課題】四電子還元性能が高く高活性な燃料電池用電極触媒の製造方法を提供することで、高価な白金使用量の低減を目指す。
【解決手段】白金、コバルト、及びコバルトより融点の低い少なくとも1種の金属Mとからなる触媒成分がカーボン担体上に担持された燃料電池用3元系電極触媒の製造方法であって、触媒成分中の白金:コバルト:金属Mの組成(原子割合)を1:0.11〜0.19:0.02〜0.11とし、これら白金、コバルト及び金属Mを、金属Mの融点より高くコバルトの融点より低い温度で合金化することを特徴とする燃料電池用3元系電極触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金合金触媒の性能向上を図った燃料電池用3元系電極触媒の製造方法、及びそれを用いた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池に使用されるガス拡散性の電極は、イオン交換樹脂で被覆された触媒担持カーボンを含有する触媒層と、この触媒層に反応ガスを供給すると共に電子を集電するガス拡散層とからなる。そして、触媒層内には、構成材料となるカーボンの二次粒子間或いは三次粒子間に形成される微小な細孔からなる空隙部が存在し、当該空隙部が反応ガスの拡散流路として機能している。
【0003】
従来、高分子電解質型燃料電池の電極触媒のカソード及びアノード触媒としては、白金又は白金合金等の貴金属をカーボンブラックに担持した触媒が用いられてきた。白金担持カーボンブラックは、塩化白金酸水溶液に、亜硫酸水素ナトリウムを加えた後、過酸化水素水と反応させ、生じた白金コロイドをカーボンブラックに担持させ、洗浄後、必要に応じて熱処理することにより調製するのが一般的である。高分子電解質型燃料電池の電極は、白金担持カーボンブラックを高分子電解質溶液に分散させてインクを調製し、そのインクをカーボンペーパーなどのガス拡散基材に塗布し、乾燥することにより作製される。この2枚の電極で高分子電解質膜を挟み、ホットプレスをすることにより電解質膜−電極接合体(MEA)が組み立てられる。
【0004】
白金は高価な貴金属であり、少ない担持量で十分な性能を発揮させることが望まれている。そのため、より少量で触媒活性を高める検討がなされており、例えば、下記特許文献1には、運転中の白金粒子の成長が抑制され、高い耐久性能を有する燃料電池用電極触媒を提供することを目的として、導電性炭素材料、前記導電性炭素材料に担持された、酸性条件下で白金より酸化されにくい金属粒子、および前記金属粒子の外表面を覆う白金からなる電極触媒が開示されている。具体的には、金属粒子として、金、クロム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、バナジウム、銅、およびマンガンより選ばれた少なくとも一種の金属と白金とからなる合金が例示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、優れたカソード分極特性を有し、高い電池出力を得ることを目的として、カソードの触媒層に白金及び白金合金からなる群から選ばれる金属触媒に加えて所定量の鉄又はクロムを有する金属錯体を含有させることが記載されており、これによりカソードにおける分極特性を向上させている。具体的には、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に配置された高分子電解質膜とを備えた固体高分子型燃料電池であって、カソードが、ガス拡散層と、当該ガス拡散層と高分子電解質膜との間に配置される触媒層とを備えており、白金及び白金合金からなる群から選ばれる貴金属触媒と、鉄又はクロムを含む金属錯体とが前記触媒層に含有されており、かつ、金属錯体は、当該金属錯体と貴金属触媒との合量の1〜40モル%含まれる。
【0006】
更に、下記特許文献3には、カーボン担体上に白金−金合金を析出させ、次いでニッケル、コバルト及びマンガンから選択される2種以上の金属の有機酸アミンを添加し且つ低温で加熱して、白金−金合金とニッケル、コバルト及びマンガンから選択される2種以上の金属を合金させることによって得られる白金合金触媒が開示されている。なお、特許文献3で具体的に開示されている触媒成分は、白金:コバルト:金:マンガン=40〜90:4〜28:1〜8:4〜28である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−289208号公報
【特許文献2】特開2002−15744号公報
【特許文献3】特開平4−141236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に記載の触媒は、四電子還元性能が十分ではなく、より高性能の触媒の開発が望まれていた。
【0009】
また、コバルトは電気特性がよく、従来から合金触媒として利用されている。しかしコバルトの融点が高いため、白金と合金化するためには大量のエネルギーが必要であり、さらに高融点であるため白金と混合しにくい。また大量のエネルギーを付与する際、高温で固溶化すると、触媒金属の粒径が大きくなるため発電性能が低下する。よって、特許文献3に記載の白金合金触媒の製造方法では、大量のエネルギーを必要とする上に、合金化が十分でなく、触媒活性も高くなかった。
【0010】
本発明は、白金、コバルト、及び第3金属Mとからなる触媒成分がカーボン担体上に担持された燃料電池用3元系電極触媒の、少ないエネルギーで合金化を達成し、得られた燃料電池用触媒を高性能とする製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特定の第3金属Mを選択し、且つ特定の温度で合金化することで上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、第1に、本発明は、白金、コバルト、及びコバルトより融点の低い少なくとも1種の金属Mとからなる触媒成分がカーボン担体上に担持された燃料電池用3元系電極触媒の製造方法の発明であって、触媒成分中の白金:コバルト:金属Mの組成(原子割合)を1:0.11〜0.19:0.02〜0.11とし、これら白金、コバルト及び金属Mを、金属Mの融点より高くコバルトの融点より低い温度で合金化することを特徴とする。
【0013】
本発明により製造された燃料電池用3元系電極触媒は十分に合金化され、触媒成分の粒径が肥大化していないことから、発電性能に優れている。つまり、コバルトより融点の低い金属Mを利用し、金属Mの融点より高くかつコバルトの融点より低い温度で処理することで、液体化した金属Mがコバルトを固溶化し、更に白金を固溶化することで3元系合金が得られ、低エネルギー(低温)で3元系触媒を作製することかできる。この結果、触媒成分の粒径が増大することが防がれるため、発電性能が向上する。
【0014】
また、コバルトと金属Mのモル比が1:9.5〜1:1であるとき、発電特性が向上する3元系電極触媒が得られ、白金の使用量を低減することができる。コバルトと金属Mのモル比が1:9.5未満のとき(=コバルトの量が少ないとき)は、活性に寄与する金属が低下するため、電気特性が低下する。コバルトと金属Mのモル比が1:1より大きいとき(=コバルトの量が多いとき)は、コバルトを固溶化できる金属Mの量が少ないため、コバルト全てを固溶化することができず、さらには白金全てを固溶化することができないため、3元系触媒としての効果が得られない。
【0015】
本発明で製造する3元系電極触媒の触媒成分の1つである金属Mはコバルトより融点の低い金属から選択される。コバルトの融点が1495℃であることから、マンガン(融点:1246℃)、銅(融点:1084.4℃)、金(融点:1064.2℃)、銀(融点:961℃)、ニッケル(融点:1455℃)、及び亜鉛(融点:419.5℃)などが好ましく例示される。なお、本発明は燃料電池用3元系電極触媒の製造方法にかかるものであるが、金属Mは1種以上用いてもよい。
【0016】
本発明では、上記金属Mを用いた場合、合金化温度として962〜1495℃が具体的範囲として好ましい。
【0017】
第2に、本発明は、上記の方法により製造された燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の燃料電池用電極触媒は、従来の白金合金触媒と比べて、四電子還元性能が高く高活性である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例と比較例で用いたPtとCo以外の金属の融点を示す。
【図2】金属種と初期性能の結果を示す。
【図3】Co:Mnの比率と触媒性能の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0021】
[実施例:Pt−Co−Mn/C触媒の調製]
下記の手順により、Pt−Co−Mn/C触媒を調製した。
[実施例1]
市販品KetjenEC(ケッチェンブラックインターナショナル製)5.0gと白金4.54gを含むヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液と硝酸CoをCo量0.4gとし、硝酸MnをMn量0.08gとなるように純水0.5Lに加え分散させた。これに0.1Nアンモニア約100mLを添加してpHを約10とし、それぞれ水酸化物を形成させカーボン上に析出させた。
【0022】
この分散液をろ過し、得られた粉末を100℃で10時間真空乾燥させた。次に水素ガス中で400℃、2時間保持して還元処理した後、窒素ガス中で1000℃、10時間保持して合金化し、触媒粉末を得た。
【0023】
得られた触媒粉末の廃液分析からはPtは検出されず、すべてのPtが担持されたことを確認した。この触媒粉末を1.0N硝酸で攪拌した。攪拌は室温で2時間行った。攪拌した溶液をろ過し、ろ液の廃液分析(Pt、Co、Mnの定量)から、Pt:45.40wt%、Co:1.57wt%、Mn:1.43wt%、C:51.00wt%であった。ここで、コバルトとマンガンをモル比で比較すると1.0:1.0であった。さらに、触媒の粒径はXRDのPt(111)面のピーク位置から算出(シェラー式)し5.0nmであった。添加元素の固溶はEDX分析での粒子の組成から確認した。
【0024】
[実施例2]
硝酸Mnの添加量を低減させ、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:45.50wt%、Co:1.75wt%、Mn:1.25wt%、C:51.50wt%であった。ここでコバルトとマンガンをモル比で比較すると1.3:1.0であった。
【0025】
[実施例3]
硝酸Mnの添加量を低減させ、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:46.50wt%、Co:2.6wt%、Mn:0.4wt%、C:50.50wt%であった。ここでコバルトとマンガンをモル比で比較すると6.1:1.0であった。
【0026】
[実施例4]
硝酸Mnの添加量を低減させ、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:46.70wt%、Co:2,72wt%、Mn:0.28wt%、C:50.30wt%であった。ここでコバルトとマンガンをモル比で比較すると9.1:1.0であった。
【0027】
[比較例1]
硝酸Coの添加量を低減させ、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:46.50wt%、Co:0.3wt%、Mn:2.7wt%、C:50.50wt%であった。ここでコバルトとマンガンをモル比で比較すると0.1:1.0であった。
【0028】
[比較例2]
硝酸Coの添加量を低減させ、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:46.00wt%、Co:1.35wt%、Mn:1.65wt%、C:51.00wt%であった。ここでコバルトとマンガンをモル比で比較すると0.8:1.0であった。
【0029】
[比較例3]
硝酸Mnの添加量を低減させ、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:47.00wt%、Co:2.75wt%、Mn:0.25wt%、C:50.00wt%であった。ここでコバルトとマンガンをモル比で比較すると10.3:1.0であった。
【0030】
[比較例4]
硝酸Mnの添加量を低減させ、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:45.40wt%、Co:2.78wt%、Mn:0.22wt%、C:51.60wt%であった。ここでコバルトとマンガンをモル比で比較すると11.8:1.0であった。
【0031】
[実施例5]
硝酸Mnを塩化Auとし、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:45.80wt%、Co:1.84wt%、Au:1.16wt%、C:51.20wt%であった。ここでコバルトと金をモル比で比較すると5.3:1.0であった。
【0032】
[実施例6]
硝酸Mnを硫酸Cuとし、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:45.40wt%、Co:2.48wt%、Cu:0.52wt%、C:51.60wt%であった。ここでコバルトと銅をモル比で比較すると5.1.:1.0であった。
【0033】
[実施例7]
硝酸Mnを硝酸Agとし、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:45.90wt%、Co:2.24wt%、Ag:0.76wt%、C:51.10wt%であった。ここでコバルトと銀をモル比で比較すると5.4:1.0であった。
【0034】
[比較例5]
硝酸Mnを硝酸Feとし、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:47.00wt%、Co:2.53wt%、Fe:0.47wt%、C:50.00wt%であった。ここでコバルトと鉄をモル比で比較すると5.1:1.0であった。
【0035】
[比較例6]
硝酸Mnを硝酸Crとし、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。得られた触媒組成はPt:46.30wt%、Co:2.56wt%、Cr:0.44wt%、C:50.70wt%であった。ここでコバルトとクロムをモル比で比較すると5.1:1.0であった。
【0036】
[比較例7]
硝酸Mnを硝酸Rhとし、実施例1の触媒作製と同様な方法で触媒を作製した。触媒組成はPt:47.30wt%、Co:2.22wt%、Rh:0.78wt%、C:49.30wt%であった。ここでコバルトとロジウムをモル比で比較すると5.3:1.0であった。
【0037】
[初期性能測定]
初期段階での触媒性能を比較するため初期電圧測定を以下に示すように実施した。単セルのセル温度を80℃に設定し、カソード側の電極に加湿バブラを通過させた加湿空気をRH100、ストイキ比7.5、アノード側の電極に加湿バブラを通過させた加湿水素をRH100、ストイキ比7.5で供給し、電子負荷を用いて電流電圧特性を測定した。各電極のPt量はともに0.3mg/cmとした。
【0038】
表1に、上記実施例1〜7、比較例1〜7について、触媒組成とその数値処理結果、及び電池性能をまとめる。
【0039】
【表1】

【0040】
図1に、実施例と比較例で用いたPtとCo以外の金属の融点を示す。3元系合金化の課題は3つの元素が完全に固溶することである。本発明ではPtとCoの高活性種に第3の元素を合金化させることを特徴としている。ここで、第3の金属Mとして、Coより融点の低い金属を選択することで、低融点で且つ3つの元素を固溶させ、高活性な触媒を得ることができる。
【0041】
次にPtとCoの高活性種に第3の元素を合金化させた触媒の評価結果を示す。サンプルは表1より、実施例3、4、5、6、比較例5、6、7を選んだ。図2に、金属種と初期性能の結果を示す。なお、サンプル間の評価はCo:金属M=5:1を狙って作製した。比率の違いによる性能差が起こらない範囲で測定した。
【0042】
図2の結果、図1に示すCoよりも低融点の金属では高活性な触媒であることがわかる。3元合金の合金化効果によるものと推測される。
【0043】
また、表2に、PtとCoとMnを固定し、Co:Mnの比率を変化させた触媒の性能を調べた。図3に、Co:Mnの比率と触媒性能の関係を示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2及び図3から、Co:Mnの比率が1:1〜9.5:1の範囲で特異的に高性能を得ることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の燃料電池用電極触媒は、四電子還元性能が高く高活性であり、高価な白金使用量の低減に役立つ。これにより、燃料電池の実用化と普及に貢献する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金、コバルト、及びコバルトより融点の低い少なくとも1種の金属Mからなる触媒成分がカーボン担体上に担持された燃料電池用3元系電極触媒の製造方法であって、触媒成分中の白金:コバルト:金属Mの組成(原子割合)を1:0.11〜0.19:0.02〜0.11とし、これら白金、コバルト及び金属Mを、金属Mの融点より高くコバルトの融点より低い温度で合金化することを特徴とする燃料電池用3元系電極触媒の製造方法。
【請求項2】
前記金属Mが、マンガン、銅、金、銀、ニッケル、及び亜鉛から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用3元系電極触媒の製造方法。
【請求項3】
前記合金化温度が962〜1495℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用3元系電極触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた燃料電池用電極触媒を備えた固体高分子型燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−150867(P2011−150867A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10634(P2010−10634)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【Fターム(参考)】