説明

燃料電池電極触媒層用インク及びその製造方法

【課題】燃料電池電極触媒層用インクにおいて、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出せるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性を有すること。
【解決手段】Pt50%担持カーボンブラック、20%Nafionディスパージョン、蒸留水及びエタノールを混合し(S10)、第1分散工程として混合物をビーズミルに入れて混合・分散を行う(S11)。続いて、流動処理装置としてスリーワンモーター+5cmスクエア攪拌羽を用いて、150rpm〜300rpmで流動処理を行った(S12)。そして、第2分散工程として、ビーズミルまたは超音波ホモジナイザーを使用して、分散処理を行った(S13)。得られた燃料電池電極触媒層用インク1は、連続自動塗工に対応できる分散安定性、耐攪拌性及び耐シェア性を有することが明らかとなった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる電極の触媒層を形成する燃料電池電極触媒層用インク及びその製造方法に関し、特に分散安定性が高く連続自動塗布することができる燃料電池電極触媒層用インク及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池においては、高分子電解質膜の両面にカソード側電極及びアノード側電極を形成しており、通常、これらのカソード側電極及びアノード側電極は、白金等の触媒を担持したカーボンブラックとイオン交換樹脂からなる電極触媒層と、カーボンクロスやカーボンペーパー等のカーボン基材に導電性を付与するためのカーボンブラック粉末等と撥水性を付与するためのポリテトラフルオロエチレンディスパージョン等を混練した撥水ペーストを塗布してなるガス拡散層によって構成されている。
【0003】
ここで、固体高分子型燃料電池を実用化するためには、電極触媒層を量産する必要があるが、電極触媒層を連続的に製造するために触媒層用インクを連続自動塗布する場合、従来の触媒層用インクは安定性が悪く、塗工作業性に問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された発明においては、高分子分散剤を用いて触媒層用インクの分散安定性を改善している。また、特許文献2に開示された発明においては、触媒層用インクの作製時にイオン交換樹脂を二段階に分けて添加することによって、触媒層用インクの分散安定性が改善されるとしている。
【特許文献1】特開2003−077479号公報
【特許文献2】特開2003−197205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術においては高分子分散剤を用いており、分散剤を用いずに同程度まで分散した場合と燃料電池性能を比較すると、触媒担持カーボンと高分子分散剤が優先的に接触している部分があり、その部分の触媒が利用されていないため、電池性能が低下してしまう。また、上記特許文献2に記載された技術においては、イオン交換樹脂を二回に分けて添加しても分散工程は一回だけであり、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が接触していない部分が多数存在し、充分な触媒性能を引き出すことができないという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出すことができるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性を有する燃料電池電極触媒層用インク及びその製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクは、高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池の触媒層を形成するための燃料電池電極触媒層用インクであって、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液を分散して、得られた分散液を1時間〜30時間流動状態にした後に更に分散処理をしてなるものである。
【0008】
請求項2の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクは、請求項1の構成において、前記触媒担持カーボンと前記イオン交換樹脂と前記溶媒とを含有する混合液をビーズミルを用いて分散したものである。
【0009】
請求項3の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクは、請求項1または請求項2の構成において、前記流動状態にする時間は3時間〜20時間の範囲内であるものである。
【0010】
請求項4の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法は、高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池の触媒層を形成するための燃料電池電極触媒層用インクの製造方法であって、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液をビーズミルを用いて分散処理する第1分散工程と、前記第1分散工程において得られた分散液を1時間〜30時間流動状態に保持する流動状態保持工程と、更に分散処理を行う第2分散工程とを具備するものである。
【0011】
請求項5の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法は、請求項4の構成において、前記流動状態保持工程における流動状態に保持する時間は3時間〜20時間の範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクは、高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池の触媒層を形成するための燃料電池電極触媒層用インクであって、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液を分散して、得られた分散液を1時間〜30時間流動状態にした後に更に分散処理をしてなる。
【0013】
本発明者は、鋭意実験研究を積み重ねた結果、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液を分散して、得られた分散液を1時間以上流動状態に保持して、その後更に分散処理をすることによって、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂とが充分に均一混合されて、しかも連続自動塗工に対応するための貯蔵安定性と耐攪拌性と耐シェア性とを有する燃料電池電極触媒層用インクが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0014】
ここで、特に重要なのは、一度得られた分散液を一旦流動状態に保持した後に、再度分散させることである。流動状態に保持する時間は1時間未満では不足であり、30時間を超えると生産性が悪くなるので、1時間〜30時間の範囲内であることが好ましい。
【0015】
このようにして、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出すことができるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性を有する燃料電池電極触媒層用インクとなる。
【0016】
請求項2の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクにおいては、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液をビーズミルを用いて分散した。
【0017】
本発明者は、鋭意実験研究を積み重ねた結果、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液を、まずビーズミルを用いて分散して、得られた分散液を1時間以上流動状態に保持して、その後更に分散処理をすることによって、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂とが充分に均一混合されて、しかも連続自動塗工に対応するための貯蔵安定性と耐攪拌性と耐シェア性とを有する燃料電池電極触媒層用インクが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0018】
このようにして、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出すことができるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性を有する燃料電池電極触媒層用インクとなる。
【0019】
請求項3の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクにおいては、流動状態にする時間が3時間〜20時間の範囲内である。流動状態に保持する時間を3時間以上とすることによって、より確実に連続自動塗工に対応するための貯蔵安定性と耐攪拌性と耐シェア性とを有する燃料電池電極触媒層用インクが得られ、20時間以内とすることによって生産性が向上する。
【0020】
このようにして、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出すことができるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性を有する燃料電池電極触媒層用インクとなる。
【0021】
請求項4の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法は、高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池の触媒層を形成するための燃料電池電極触媒層用インクの製造方法であって、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液をビーズミルを用いて分散処理する第1分散工程と、第1分散工程において得られた分散液を1時間〜30時間流動状態に保持する流動状態保持工程と、更に分散処理を行う第2分散工程とを具備する。
【0022】
本発明者は、鋭意実験研究を積み重ねた結果、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液を、まずビーズミルを用いて分散して、得られた分散液を1時間以上流動状態に保持して、その後更に分散処理をすることによって、触媒担持カーボンとイオン交換樹脂とが充分に均一混合されて、しかも連続自動塗工に対応するための貯蔵安定性と耐攪拌性と耐シェア性とを有する燃料電池電極触媒層用インクが得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成したものである。
【0023】
ここで、特に重要なのは、一度得られた分散液を一旦流動状態に保持した後に、再度分散させることである。流動状態に保持する時間は1時間未満では不足であり、30時間を超えると生産性が悪くなるので、1時間〜30時間の範囲内であることが好ましい。
【0024】
このようにして、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出すことができるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性を有する燃料電池電極触媒層用インクの製造方法となる。
【0025】
請求項5の発明にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法においては、流動状態保持工程における流動状態に保持する時間が3時間〜20時間の範囲内である。
【0026】
流動状態保持工程における流動状態に保持する時間を3時間以上とすることによって、より確実に連続自動塗工に対応するための貯蔵安定性と耐攪拌性と耐シェア性とを有する燃料電池電極触媒層用インクが得られ、20時間以内とすることによって、より生産性を向上させることができる。
【0027】
このようにして、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出すことができるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性を有する燃料電池電極触媒層用インクの製造方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極触媒層用インク及びその製造方法について、図1を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法を示すフローチャートである。
【0029】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法について、説明する。本実施の形態1にかかる燃料電池電極触媒層用インクは、空気極(アノード電極)用触媒層用インクである。
【0030】
本実施の形態1にかかる燃料電池電極触媒層用インクとしての空気極用触媒層用インクは、触媒担持カーボンとしてのPt(白金)50%担持カーボンブラック、イオン交換樹脂としての和光純薬(株)製の20%Nafionディスパージョン、溶媒としての蒸留水及びエタノールを含有するペースト状混合物である。本実施の形態1にかかる空気極用触媒層用インクの配合を、表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
次に、本実施の形態1にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法について、図1のフローチャートを参照して説明する。最初に、Pt50%担持カーボンブラック、20%Nafionディスパージョン、蒸留水及びエタノールを、表1の配合にしたがって混合する(ステップS10)。そして、第1分散工程として、混合物をビーズミルに入れて混合・分散を行う(ステップS11)。
【0033】
ビーズミルとしては、浅田鉄工(株)製のPCM−L0.5mmジルコニアビーズミル(分散機A)、またはバッチSG・2mmジルコニアビーズミル(分散機B)を使用した。続いて、分散液を流動処理装置によって所定時間流動処理を行った。流動処理装置としては、スリーワンモーター+5cmスクエア攪拌羽を用いて、150rpm〜300rpmで流動処理を行った(ステップS12)。
【0034】
そして、第2分散工程として、上記分散機A、またはSMT製超音波ホモジナイザーUH−300(分散機C)を使用して、分散処理を行った(ステップS13)。以上の工程によって、本実施の形態1にかかる燃料電池電極触媒層用インク1を製造した。なお、バッチスケールは、第1分散工程が300g、流動処理工程が200g、第2分散工程が200gである。使用した分散機について、表2にまとめて示す。
【0035】
【表2】

【0036】
このような製造工程において、分散条件または流動処理時間を変化させて、実施例1乃至実施例5にかかる燃料電池電極触媒層用インク1を製造した。また、比較のために、図1のフローチャートに示される製造工程と一部異なる製造工程によって、比較例1乃至比較例6にかかる燃料電池電極触媒層用インクを製造した。実施例1乃至実施例5、及び比較例1乃至比較例6にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造条件について、表3の上段にまとめて示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3の上段に示されるように、実施例1乃至実施例5にかかる燃料電池電極触媒層用インク1の製造工程においては、第1分散処理を全てビーズミル(分散機Aまたは分散機B)によって行っており、流動処理を3時間以上行っており、第2分散処理を必ず行っている。したがって、実施例1乃至実施例5にかかる燃料電池電極触媒層用インク1及びその製造方法は、本発明の請求項1乃至請求項4にかかる条件を全て満たしている。
【0039】
これに対して、表3の上段に示されるように、比較例1乃至比較例6にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造工程においては、第1分散処理を超音波分散(分散機C)で行っていたり、流動処理を1時間未満しか、または全く行っていなかったり、第2分散処理を行っていなかったりしており、本発明の請求項1及び請求項3にかかる条件から、いずれかの条件が外れている。
【0040】
これらの実施例1乃至実施例5、及び比較例1乃至比較例6にかかる燃料電池電極触媒層用インクについて、特性評価を行った。具体的には、製造完了時のメジアン径及び保存安定性を評価するために20℃で2週間静置後のメジアン径を測定し、連続自動塗工に対する適正評価としては耐攪拌性を評価し、送液ポンプ内での耐シェア性を見るためには粘度上昇を測定した。
【0041】
メジアン径は、(株)堀場製作所製のHORIBA・LA−910を用いて測定した。耐攪拌性は、燃料電池電極触媒層用インク150gをPTFE製5cmスクエア羽にて150rpmで10時間攪拌し、凝集及び粘度上昇の有無を調べて、凝集及び粘度上昇の見られなかったものを○、凝集または粘度上昇の見られたものを×と評価した。耐シェア性は、E型粘度計で200s−1(1°34′R24ローター53rpm)のせん断を3分間かけて、粘度上昇の見られなかったものを○、粘度上昇の見られたものを×と評価した。各評価結果を、表3の下段にまとめて示す。
【0042】
表3の下段に示されるように、実施例1乃至実施例5にかかる燃料電池電極触媒層用インク1においては、20℃で2週間静置後のメジアン径は製造完了時のメジアン径といずれも全く変化しておらず、分散安定性に優れていることが分かった。また、製造1日後の耐攪拌性も製造2週間後の耐攪拌性もいずれも○の評価であり、製造1日後の耐シェア性も製造2週間後の耐シェア性もいずれも○の評価であり、総合判定で全て○の評価となった。
【0043】
これに対して、比較例1乃至比較例6にかかる燃料電池電極触媒層用インクにおいては、表3の下段に示されるように、比較例4を除いて、20℃で2週間静置後のメジアン径は製造完了時のメジアン径よりもいずれも増加しており、また比較例4においては20μm程度の未分散粒子が残っていた。更に、比較例3及び比較例4を除いて、製造1日後の耐攪拌性も製造2週間後の耐攪拌性もいずれも×の評価であり、製造1日後の耐シェア性も製造2週間後の耐シェア性もいずれも×の評価であった。これによって、総合判定は全て△または×の評価となった。
【0044】
このようにして、本実施の形態1にかかる実施例1乃至実施例5の製造方法による燃料電池電極触媒層用インク1においては、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出すことができるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性、連続自動塗工に対する適正を示す耐攪拌性及び送液ポンプ内での耐シェア性を有することが明らかとなった。
【0045】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法について、説明する。本実施の形態2にかかる燃料電池電極触媒層用インクは、燃料極(カソード電極)用触媒層用インクである。
【0046】
本実施の形態2にかかる燃料電池電極触媒層用インクとしての燃料極用触媒層用インクは、触媒担持カーボンとしてのPt(白金)50%担持カーボンブラック、イオン交換樹脂としての和光純薬(株)製の20%Nafionディスパージョン、溶媒としての蒸留水及びエタノールを含有するペースト状混合物である。本実施の形態2にかかる燃料極用触媒層用インクの配合を、表4に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
製造手順は、図1のフローチャートに示される上記実施の形態1の製造手順と同様である。なお、バッチスケールは、第1分散工程が300g、流動処理工程が200g、第2分散工程が200gである。使用した分散機について、表5にまとめて示す。
【0049】
【表5】

【0050】
このような製造工程において、分散条件または流動処理時間を変化させて、実施例6乃至実施例10にかかる燃料電池電極触媒層用インクを製造した。また、比較のために、図1のフローチャートに示される製造工程と一部異なる製造工程によって、比較例7乃至比較例10にかかる燃料電池電極触媒層用インクを製造した。実施例6乃至実施例10、及び比較例7乃至比較例10にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造条件について、表6の上段にまとめて示す。
【0051】
【表6】

【0052】
表6の上段に示されるように、実施例6乃至実施例10にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造工程においては、第1分散処理を全てビーズミル(分散機Aまたは分散機B)によって行っており、流動処理を3時間以上行っており、第2分散処理を必ず行っている。したがって、実施例6乃至実施例10にかかる燃料電池電極触媒層用インク及びその製造方法は、本発明の請求項1乃至請求項4にかかる条件を全て満たしている。
【0053】
これに対して、表6の上段に示されるように、比較例7乃至比較例10にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造工程においては、第1分散処理を超音波分散(分散機C)で行っていたり、流動処理を1時間未満しか、または全く行っていなかったり、第2分散処理を行っていなかったりしており、本発明の請求項1及び請求項3にかかる条件から、いずれかの条件が外れている。
【0054】
これらの実施例6乃至実施例10、及び比較例7乃至比較例10にかかる燃料電池電極触媒層用インクについて、特性評価を行った。具体的には、製造完了時のメジアン径及び保存安定性を評価するために20℃で2週間静置後のメジアン径を測定し、連続自動塗工に対する適正評価としては耐攪拌性を評価し、送液ポンプ内での耐シェア性を見るためには粘度上昇を測定した。
【0055】
メジアン径は、(株)堀場製作所製のHORIBA・LA−910を用いて測定した。耐攪拌性は、燃料電池電極触媒層用インク150gをPTFE製5cmスクエア羽にて150rpmで10時間攪拌し、凝集及び粘度上昇の有無を調べて、凝集及び粘度上昇の見られなかったものを○、凝集または粘度上昇の見られたものを×と評価した。耐シェア性は、E型粘度計で200s−1(1°34′R24ローター53rpm)のせん断を3分間かけて、粘度上昇の見られなかったものを○、粘度上昇の見られたものを×と評価した。各評価結果を、表6の下段にまとめて示す。
【0056】
表6の下段に示されるように、実施例6乃至実施例10にかかる燃料電池電極触媒層用インクにおいては、20℃で2週間静置後のメジアン径は製造完了時のメジアン径といずれも全く変化しておらず、分散安定性に優れていることが分かった。また、製造1日後の耐攪拌性も製造2週間後の耐攪拌性もいずれも○の評価であり、製造1日後の耐シェア性も製造2週間後の耐シェア性もいずれも○の評価であり、総合判定で全て○の評価となった。
【0057】
これに対して、比較例7乃至比較例10にかかる燃料電池電極触媒層用インクにおいては、表6の下段に示されるように、比較例9及び比較例10を除いて、20℃で2週間静置後のメジアン径は製造完了時のメジアン径よりもいずれも増加しており、また比較例10においては20μm程度の未分散粒子が残っていた。更に、比較例7乃至比較例10のいずれにおいても、製造1日後の耐攪拌性も製造2週間後の耐攪拌性も×の評価であり、製造1日後の耐シェア性も製造2週間後の耐シェア性も×の評価であった。これによって、総合判定は全て×の評価となった。
【0058】
このようにして、本実施の形態2にかかる実施例6乃至実施例10の製造方法による燃料電池電極触媒層用インクにおいては、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出すことができるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性、連続自動塗工に対する適正を示す耐攪拌性及び送液ポンプ内での耐シェア性を有することが明らかとなった。
【0059】
実施の形態3
次に、本発明の実施の形態3にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法について、説明する。本実施の形態3にかかる燃料電池電極触媒層用インクは、実施の形態1と同様の空気極(アノード電極)用触媒層用インクである。
【0060】
本実施の形態3にかかる燃料電池電極触媒層用インクとしての空気極用触媒層用インクは、触媒担持カーボンとしてのPt(白金)50%担持カーボンブラック、イオン交換樹脂としての和光純薬(株)製の20%Nafionディスパージョン、溶媒としての蒸留水及びエタノールを含有するペースト状混合物である。本実施の形態3にかかる燃料極用触媒層用インクの配合を、表7に示す。
【0061】
【表7】

【0062】
製造手順は、図1のフローチャートに示される上記実施の形態1の製造手順と同様である。バッチスケール及び使用した分散機A,分散機Cについては、上記実施の形態1及び上記実施の形態2と同様である。
【0063】
このような製造工程において、比較のために流動処理時間を変化させて、実施例11及び比較例11にかかる燃料電池電極触媒層用インクを製造した。実施例11及び比較例11にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造条件について、表8の上段にまとめて示す。
【0064】
【表8】

【0065】
表8の上段に示されるように、実施例11及び比較例11にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造工程においては、第1分散処理をビーズミル(分散機A)によって行っており、流動処理を行っており、第2分散処理も行っている(分散機C)。実施例11と比較例11との相違点は、実施例11の流動処理時間が10時間であるのに対して、比較例11の流動処理時間が0.5時間で、本発明の請求項1及び請求項3にかかる条件を満たしていない点のみである。
【0066】
これらの実施例11及び比較例11にかかる燃料電池電極触媒層用インクについて、特性評価を行った。具体的には、製造完了時のメジアン径及び保存安定性を評価するために20℃で2週間静置後のメジアン径を測定し、連続自動塗工に対する適正評価としては耐攪拌性を評価し、送液ポンプ内での耐シェア性を見るためには粘度上昇を測定した。
【0067】
メジアン径は、(株)堀場製作所製のHORIBA・LA−910を用いて測定した。耐攪拌性は、燃料電池電極触媒層用インク150gをPTFE製5cmスクエア羽にて150rpmで10時間攪拌し、凝集及び粘度上昇の有無を調べて、凝集及び粘度上昇の見られなかったものを○、凝集または粘度上昇の見られたものを×と評価した。耐シェア性は、E型粘度計で200s−1(1°34′R24ローター53rpm)のせん断を3分間かけて、粘度上昇の見られなかったものを○、粘度上昇の見られたものを×と評価した。評価結果を、表8の下段にまとめて示す。
【0068】
表8の下段に示されるように、実施例11にかかる燃料電池電極触媒層用インクにおいては、20℃で2週間静置後のメジアン径は製造完了時のメジアン径といずれも全く変化しておらず、分散安定性に優れていることが分かった。また、製造1日後の耐攪拌性も製造2週間後の耐攪拌性も○の評価であり、製造1日後の耐シェア性も製造2週間後の耐シェア性も○の評価であり、総合判定で全て○の評価となった。
【0069】
これに対して、比較例11にかかる燃料電池電極触媒層用インクにおいては、表8の下段に示されるように、20℃で2週間静置後のメジアン径は製造完了時のメジアン径よりも増加しており、製造1日後の耐攪拌性も製造2週間後の耐攪拌性も×の評価であり、製造1日後の耐シェア性も製造2週間後の耐シェア性も×の評価であった。これによって、総合判定は×の評価となった。
【0070】
このようにして、本実施の形態3にかかる実施例11の製造方法による燃料電池電極触媒層用インクにおいては、触媒担持カーボンにイオン交換樹脂が充分に接触して良好な電池性能を引き出すことができるとともに、連続自動塗工に対応できる分散安定性、連続自動塗工に対する適正を示す耐攪拌性及び送液ポンプ内での耐シェア性を有することが明らかとなった。
【0071】
上記各実施の形態においては、触媒担持カーボンとしてPt(白金)50%担持カーボンブラックを、イオン交換樹脂として和光純薬(株)製の20%Nafionディスパージョンを、溶媒として蒸留水及びエタノールを用いた場合について説明したが、触媒担持カーボン、イオン交換樹脂、溶媒としては、これらに限られるものではない。
【0072】
本発明を実施するに際しては、燃料電池電極触媒層用インクのその他の構成、成分、材料、配合、形状、大きさ、製造方法等についても、燃料電池電極触媒層用インクの製造方法のその他の工程についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。
なお、本発明の実施の形態で上げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更しても実施を否定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる燃料電池電極触媒層用インクの製造方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0074】
1 燃料電池電極触媒層用インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池の触媒層を形成するための燃料電池電極触媒層用インクであって、
触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液を分散して、得られた分散液を1時間〜30時間流動状態にした後に更に分散処理をしてなることを特徴とする燃料電池電極触媒層用インク。
【請求項2】
前記触媒担持カーボンと前記イオン交換樹脂と前記溶媒とを含有する混合液をビーズミルを用いて分散したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池電極触媒層用インク。
【請求項3】
前記流動状態にする時間は3時間〜20時間の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池電極触媒層用インク。
【請求項4】
高分子電解質膜を中心として構成される固体高分子型燃料電池の触媒層を形成するための燃料電池電極触媒層用インクの製造方法であって、
触媒担持カーボンとイオン交換樹脂と溶媒とを含有する混合液をビーズミルを用いて分散処理する第1分散工程と、
前記第1分散工程において得られた分散液を1時間〜30時間流動状態に保持する流動状態保持工程と、
更に分散処理を行う第2分散工程と
を具備することを特徴とする燃料電池電極触媒層用インクの製造方法。
【請求項5】
前記流動状態保持工程における流動状態に保持する時間は3時間〜20時間の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池電極触媒層用インクの製造方法。

【図1】
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