説明

燃料電池

【課題】異なる長さの荷重調整ネジを用意することなく、セル積層体の長さあるいはエンドプレートなどの厚さの違いに対応してセル積層体へ荷重を付与することが可能な燃料電池を提供する。
【解決手段】複数のセル21が積層されてなるセル積層体22の積層方向の外側に配置されたエンドプレート16に、セル積層体22の積層方向に沿って移動してセル積層体22に与える圧縮荷重を調整する荷重調整ネジ41を設ける。エンドプレート16に、荷重調整ネジ41が螺合する雌ネジ34がセル積層体22側に突出するまで形成してなるストッパ31を、エンドプレート16のエンドプレート本体30に対して軸回りの回動が規制された状態に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電セルを積層させたセル積層体の圧縮荷重を調整する荷重調整ネジを有する燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池をエネルギ源とした燃料電池自動車等が注目されている。
【0003】
このような燃料電池は、通常、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって発電するセルを所要数積層したセル積層体と、このセル積層体の積層方向の外側に配置されるとともに荷重調整ネジで調整された圧縮荷重をセル積層体に与えるエンドプレートとを備えた燃料電池スタックとして構成されている。
【0004】
また、この種の燃料電池としては、雌ネジが形成された板状の部材をエンドプレートに形成された孔部にはめ込み、この板状部材の雌ネジにねじ込んだ荷重調整ネジのねじ込み量を調整することにより、セル積層体側に設けた加圧部材のセル積層体への押し付け力を調整するものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−171926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、燃料電池スタックを構成するセル積層体は、セルの厚さや積層量によって、その積層長さが異なる。このため、荷重調整ネジとしては、セル積層体の長さに合わせて、エンドプレートあるいはエンドプレートにはめ込まれた板状部材の雌ネジのネジ山にかかる長さのものを複数種類設定する必要があった。
【0006】
また、エンドプレートあるいは板状部材の厚さの違いによっても、その厚さに応じてネジ山数が異なるため、この場合も、雌ネジのネジ山にかかる長さの荷重調整ネジを複数種類用意する必要があった。
【0007】
そこで、本発明は、異なる長さの荷重調整ネジを用意することなく、セル積層体の長さあるいはエンドプレートなどの厚さの違いに対応してセル積層体へ荷重を付与することが可能な燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池は、複数のセルが積層されてなるセル積層体と、該セル積層体の積層方向の外側に配置されたエンドプレートとを有し、該エンドプレートに前記セル積層体の積層方向に沿って移動して前記セル積層体に与える圧縮荷重を調整する荷重調整ネジが設けられた燃料電池であって、前記エンドプレートには、前記荷重調整ネジが螺合する雌ネジを前記セル積層体側に突出するまで形成してなる雌ネジ部材が、前記エンドプレートに対して軸回りの回動が規制された状態に設けられている。
【0009】
この構成によれば、荷重調整ネジが螺合可能なネジ山のレンジを十分に確保することができ、これにより、セルの厚さや積層量によって変化するセル積層体の積層長さあるいはエンドプレートなどの厚さなどに対応して異なる長さの各種の荷重調整ネジを用意することなく、所定長さの荷重調整ネジによってセル積層体へ圧縮荷重を付与することができる。
【0010】
前記雌ネジ部材としては、例えば、内側に雌ネジが形成され前記エンドプレートを貫通するボス部と、このボス部の軸線方向の途中位置から半径方向外側に延出し前記エンドプレートに当接するフランジ部とを有し、前記フランジ部を、前記ボス部から離れるほど厚さが薄くなるように傾斜する形状としたものを採用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の燃料電池によれば、異なる長さの荷重調整ネジを用意することなく、セル積層体の長さあるいはエンドプレートなどの厚さの違いに対応してセル積層体へ荷重を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明に係る燃料電池の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、燃料電池10を示すものである。この燃料電池10は、燃料電池自動車の車載発電システムや船舶、航空機、電車あるいは歩行ロボット等のあらゆる移動体用の発電システム、さらには、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システム等に適用可能であるが、具体的には自動車用となっている。
【0014】
燃料電池10は、燃料電池スタック11と、この燃料電池スタック11の外側を覆う合成樹脂等の絶縁材料からなるスタックケース12とを有している。なお、スタックケース12は、合成樹脂等の絶縁材料で被覆された金属からなる場合もある。
【0015】
燃料電池スタック11は、一対の矩形状のエンドプレート15,16同士を互いの外縁部同士をテンションプレート17で連結して外側部分が構成されており、これらエンドプレート15,16及びテンションプレート17は例えばジュラルミン等で形成されている。
【0016】
また、燃料電池スタック11には、一方のエンドプレート15の他方のエンドプレート16側に、一方のエンドプレート15側から順に、矩形状の絶縁プレート18、ターミナルプレート19及びカバープレート20が配置され、このカバープレート20の他方のエンドプレート16の側に、燃料ガス及び酸化ガスの供給を受けて発電する平面視矩形状のセル21を所要数積層してなるセル積層体22がセル21の積層方向をエンドプレート15,16同士を結ぶ方向にして配置されている。
【0017】
さらに、燃料電池スタック11には、セル積層体22の他方のエンドプレート16の側に、セル積層体22側から順に、矩形状のカバープレート24、ターミナルプレート25及び絶縁プレート26が配置され、この絶縁プレート26の他方のエンドプレート16側に、平面視矩形状のスプリングボックス27が配置されている。
【0018】
スプリングボックス27には、図示略の複数のコイルスプリングが設けられており、これらのコイルスプリングを介して絶縁プレート26つまりセル積層体22を積層方向に押圧するようになっている。また、スプリングボックス27には、その中央位置に、球面状をなしてセル積層体22とは反対側に突出する突起部28が形成されている。
【0019】
そして、上記実施形態においては、他方のエンドプレート16が、テンションプレート17に連結される矩形状のエンドプレート本体30と、このエンドプレート本体30のテンションプレート17への連結位置よりも内側の範囲に設けられるストッパ(雌ネジ部材)31とで構成されている。
【0020】
エンドプレート本体30には、その中央部に、厚さ方向に貫通する貫通穴32が形成されている。
【0021】
また、エンドプレート本体30には、セル積層体22側に、貫通穴32と平行に回転規制穴部33が形成されている。この回転規制穴部33は、軸線方向から見て円形状をなしている。
【0022】
ストッパ31は、エンドプレート本体30のスプリングボックス27側に当接することで、エンドプレート本体30を含むエンドプレート16を補強する。このストッパ31は、内側に雌ネジ34が形成された円筒状のボス部35と、このボス部35の軸線方向の略中間位置から全周にわたって半径方向外側に延出する、ボス部35と同軸の一定厚の略円板状のフランジ部36とを有している。
【0023】
そして、ストッパ31は、ボス部35のうちフランジ部36から軸線方向一方側に突出する一方の円筒部37においてエンドプレート本体30の貫通穴32に挿入され、フランジ部36の全面がエンドプレート本体30に当接されている。このとき、ストッパ31の一方の円筒部37の軸方向長はエンドプレート本体30の貫通穴32の軸方向長と同等とされており、円筒部37の端面がエンドプレート本体30の外側の端面と面一となっている。
【0024】
また、ストッパ31の他方の円筒部38は、セル積層体22側へ向かって突出されている。フランジ部36は、円筒部38から離れるほど厚さが薄くなるようになだらかに傾斜する形状をなしている。なお、フランジ部36を補強するために円筒部38から放射状にリブを形成しても良い。
【0025】
また、ストッパ31には、フランジ部36から軸線方向の円筒部37側に、これと平行に突出する円柱状の回転規制ピン部40が形成されている。ボス部35の中心と回転規制ピン部40の中心との距離は、エンドプレート本体30における貫通穴32の中心と回転規制穴部33の中心との距離と等しくされている。
【0026】
このようなストッパ31がエンドプレート本体30に、ボス部35の一方の円筒部37を貫通穴32に挿入しつつ、回転規制ピン部40を回転規制穴部33に挿入することで、ストッパ31が、エンドプレート本体30に対して回転が規制された状態に設置される。
【0027】
そして、エンドプレート16は、上記ストッパ31の雌ネジ34に螺合される荷重調整ネジ41を有しており、この荷重調整ネジ41がスプリングボックス27の突起部28に当接する。ここで、荷重調整ネジ41には、突起部28側に凹部43が形成され、この凹部43が突起部28に係合するようになっている。
【0028】
また、荷重調整ネジ41には突起部28とは反対側に六角ボルト等の工具を嵌合させる工具嵌合部42が形成されており、荷重調整ネジ41は、この工具嵌合部42に嵌合する工具を介して回転させられることで、その軸線方向に沿って移動して、セル積層体22への荷重を調整する。
【0029】
ここで、この荷重調整ネジ41の回転時に、ストッパ31も連れ回りしようとするが、回転規制ピン部40がエンドプレート本体30の回転規制穴部33の内壁面に当接することでエンドプレート本体30に対する回転が規制されることになり、スプリングボックス27の荷重が高くなると、エンドプレート本体30とフランジ部36との摩擦でも回転が規制されることになって、荷重調整ネジ41のみがエンドプレート本体30に対して回転する。
【0030】
以上、説明したように、本実施形態に係る燃料電池によれば、荷重調整ネジ41が螺合可能な雌ネジ34を有し、セル積層体22側へ突出するストッパ31をエンドプレート16に設けたので、荷重調整ネジ41が螺合可能なネジ山のレンジを十分に確保することができる。
【0031】
これにより、セル21の厚さや積層量によって変化するセル積層体22の積層長さやエンドプレート16の厚さなどに対応して、異なる長さの各種の荷重調整ネジ41を用意することなく、所定長さの荷重調整ネジ41によってスプリングボックス27を押圧してセル積層体22へ圧縮荷重を付与することができ、特に、エンドプレート16の厚さが薄く、雌ネジの形成が困難な場合に有効である。
【0032】
しかも、エンドプレート16に対してストッパ31の回転が規制されているため、ストッパ31が荷重調整ネジ41と連れ回りしてしまうことがなく、良好に荷重調整ネジ41を軸線方向に移動させることができる。
【0033】
また、ストッパ31をエンドプレート16側に係合させたことにより、荷重調整ネジ41を回動させることによる捻れをエンドプレート16側へ逃がしてテンションプレート17にて吸収させ、セル積層体22への捻れの作用を抑えることができ、捻れによるセル積層体22への影響を極力抑えることができる。
【0034】
また、ストッパ31の円筒部38は、セル積層体22側へ向かって突出されており、フランジ部36は、円筒部38から離れるほど厚さが薄くなるようになだらかに傾斜する形状をなしているので、例えば、荷重調整ネジ41によって押圧されるスプリングボックス27が傾斜していたとしても、ストッパ31との干渉を抑制することができる。
【0035】
なお、エンドプレート本体30に回転規制ピン部を形成し、ストッパ31のフランジ部36にこれを挿通させる回転規制穴部を形成しても良い。
【0036】
図2に示すものは、他の実施形態を示すもので、図2に示すように、この例では、貫通穴32が円筒部38よりも大径で、回転規制穴部33が回転規制ピン部40よりも大径となっている。これにより、ストッパ31は、エンドプレート本体30に対して、雌ネジ34の径方向つまりこれに螺合する荷重調整ネジ41の径方向に移動可能な遊びを有しており、しかも360度全ての径方向に移動可能となっている。その結果、これに螺合する荷重調整ネジ41も、エンドプレート16に対して径方向に移動可能となっており、しかも360度全ての径方向に移動可能となっている。
【0037】
そして、このような構造とすれば、エンドプレート16に対して荷重調整ネジ41が径方向に移動可能であり、その結果、互いに荷重調整ネジ41の径方向における位置を合わせて係合する荷重調整ネジ41の凹部43とスプリングボックス27の突起部28とが、エンドプレート16に対して荷重調整ネジ41の径方向に移動可能であるため、荷重調整ネジ41の径方向つまりセル積層体22の積層方向に直交する方向においてエンドプレート16とスプリングボックス27との位置合わせが可能となり、組み立て精度を向上できる。
【0038】
なお、エンドプレート本体30にストッパ31のフランジ部36よりも大径の座ぐり穴部を形成し、この座ぐり穴部内にストッパ31のフランジ部36を挿入しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る燃料電池の実施形態を示す正断面図である。
【図2】燃料電池の他の実施形態を示す正断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10…燃料電池、16…エンドプレート、21…セル、22…セル積層体、31…ストッパ(雌ネジ部材)、34…雌ネジ、41…荷重調整ネジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセルが積層されてなるセル積層体と、該セル積層体の積層方向の外側に配置されたエンドプレートとを有し、該エンドプレートに前記セル積層体の積層方向に沿って移動して前記セル積層体に与える圧縮荷重を調整する荷重調整ネジが設けられた燃料電池であって、
前記エンドプレートには、前記荷重調整ネジが螺合する雌ネジを前記セル積層体側に突出するまで形成してなる雌ネジ部材が、前記エンドプレートに対して軸回りの回動が規制された状態に設けられている燃料電池。
【請求項2】
前記雌ネジ部材は、内側に雌ネジが形成され前記エンドプレートを貫通するボス部と、このボス部の軸線方向の途中位置から半径方向外側に延出し前記エンドプレートに当接するフランジ部とを有してなり、
前記フランジ部は、前記ボス部から離れるほど厚さが薄くなるように傾斜する形状とされた請求項1に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−4306(P2008−4306A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170518(P2006−170518)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】