説明

燃料電池

【課題】燃料収容部上に膜電極接合体等がカバー部材によって一体的に固定された燃料電池において、カバー部材内部に効率的かつ安定的に空気を導入することによって、出力特性の向上および安定化を図ること。
【解決手段】燃料極と空気極とによって電解質膜が挟持されてなる膜電極接合体と、前記膜電極接合体の前記燃料極側に配置される燃料収容部と、前記膜電極接合体を覆うカバー部材とを有する燃料電池であって、前記カバー部材は、前記膜電極接合体上の空気極側に配置されるカバー本体と、このカバー本体の周縁部分に設けられ、少なくとも前記膜電極接合体の側面側に配置されるカバー側面とからなり、かつ、前記カバー側面にはその両主面を貫通する空気導入孔が形成されているもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパッシブ型やアクティブ型等の液体燃料を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を長時間充電なしで使用可能とするために、これら携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料を補給すれば連続して長時間発電することができるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
直接メタノール型燃料電池(DMFC:direct methanol fuel cell)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯機器用の電源として有望視されている。DMFCにおける液体燃料の供給方式としては、気体供給型や液体供給型等のアクティブ方式、また燃料タンク等の燃料収容部内の液体燃料を電池内部で気化させて燃料極に供給する内部気化型等のパッシブ方式が知られている。これらのうち、パッシブ方式はDMFCの小型化に対して特に有利である。
【0004】
内部気化型等のパッシブ型DMFCとして、例えば樹脂製の箱状容器からなる燃料収容部上に、燃料極、電解質膜および空気極からなる膜電極接合体等が配置された構造のものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開第2005/112172号パンフレット(例えば、図1参照。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したようなDMFCについては、燃料収容部上に膜電極接合体等をカバー部材によって包み込むようにして一体的に固定することが検討されている。このようなカバー部材としては、例えば膜電極接合体等の上面を覆う板状のカバー本体と、このカバー本体の周縁部分に略直角に設けられ、膜電極接合体等の側面を覆うカバー側面とからなり、外観が略箱状のものが挙げられる。
【0006】
そして、膜電極接合体等はその上面を覆う板状のカバー本体によって燃料収容部へと押し付けられている。また、このカバー本体には複数の空気導入孔が形成されており、これら複数の空気導入孔を通してカバー部材の外部から内部へと空気(酸素)が導入されている。カバー部材の内部に導入された空気は膜電極接合体へと供給され、発電反応に利用される。
【0007】
このように燃料収容部上に膜電極接合体等がカバー部材によって一体的に固定されたDMFCについては、カバー本体に設けられた複数の空気導入孔から導入された空気を利用して発電反応を行っているが、さらに空気を効率的かつ安定的に導入し、出力特性の向上および安定化を図ることが求められている。
【0008】
本発明は上記したような課題を解決するためになされたものであって、燃料収容部上に膜電極接合体等がカバー部材によって一体的に固定された燃料電池において、カバー部材内部に効率的かつ安定的に空気を導入することによって、出力特性の向上および安定化が図られた燃料電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料電池は、燃料極と空気極とによって電解質膜が挟持されてなる膜電極接合体と、前記膜電極接合体の前記燃料極側に配置される燃料収容部と、前記膜電極接合体を覆うカバー部材とを有する燃料電池であって、前記カバー部材は、前記膜電極接合体上の空気極側に配置されるカバー本体と、このカバー本体の周縁部分に設けられ、少なくとも前記膜電極接合体の側面側に配置されるカバー側面とからなり、かつ、前記カバー側面にはその両主面を貫通する空気導入孔が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の燃料電池においては、前記膜電極接合体の空気極側と前記カバー本体との間に少なくとも保湿層が設けられていることが好ましく、前記カバー側面に形成される空気導入孔は前記保湿層に対応する位置またはそれよりもカバー本体側の位置に形成されていることが好ましい。
【0011】
前記カバー側面に形成される空気導入孔は円形状であることが好ましく、その直径は0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。また、前記カバー側面には前記空気導入孔が複数形成されていることが好ましく、前記複数の空気導入孔は前記カバー側面の垂直方向の等位置に形成されると共に、水平方向に等間隔で形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、膜電極接合体の空気極側を覆うカバー本体に空気導入孔を設けると共に、カバー側面にも空気導入孔を設けることで、空気を効率的かつ安定的にカバー部材内部に導入することができ、燃料電池の出力特性の向上および安定化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の燃料電池について、パッシブ型DMFCを例に挙げて説明する。以下、まずパッシブ型DMFCの全体構造について説明する。図1は、パッシブ型DMFC1の外観を示す外観図である。また、図2は、図1に示すパッシブ型DMFC1のA−A線断面を示す断面図である。
【0014】
図2に示すように、このパッシブ型DMFC1は内部気化方式を適用したものであり、起電部を構成する燃料電池セルとも呼ばれる膜電極接合体2と、この膜電極接合体2に液体燃料(メタノール燃料等)Fを供給する燃料収容部3と、これら膜電極接合体2と燃料収容部3との間に介在された気液分離膜(気液分離層)4とから主として構成されている。
【0015】
膜電極接合体2は、アノード触媒層5とアノードガス拡散層6とを有するアノード(燃料極)と、カソード触媒層7とカソードガス拡散層8とを有するカソード(空気極/酸化剤極)と、アノード触媒層5とカソード触媒層7とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜9とを有している。
【0016】
アノード触媒層5およびカソード触媒層7に含有される触媒としては、例えばPt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層5にはメタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒層7には白金やPt−Ni等を用いることが好ましい。触媒は炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0017】
電解質膜9を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、プロトン伝導性の電解質膜9はこれらに限られるものではない。
【0018】
アノード触媒層5に積層されるアノードガス拡散層6は、アノード触媒層5に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層5の集電体も兼ねている。一方、カソード触媒層7に積層されるカソードガス拡散層8は、カソード触媒層7に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層7の集電体も兼ねている。
【0019】
アノードガス拡散層6にはアノード導電層10が積層され、カソードガス拡散層8にはカソード導電層11が積層されている。これら導電層10、11は、例えば金のような導電性金属材料からなるメッシュ、多孔質膜、薄膜等で構成される。なお、電解質膜9とアノード導電層10およびカソード導電層11との間には、それぞれゴム製のOリング12、13が介在されており、これらによって膜電極接合体2からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。
【0020】
上述した膜電極接合体2のアノード(燃料極)側には、燃料収容部3が配置されている。膜電極接合体2は例えば矩形の平面形状を有し、燃料収容部3も同一矩形の平面形状を有している。燃料収容部3は膜電極接合体2のアノードと対向する面に開口部3aが設けられた形状を有している。すなわち、燃料収容部3は上面全面が開口された箱状容器で構成されている。このような燃料収容部3の内部には、液体燃料Fとしてメタノール燃料等が収容されている。
【0021】
メタノール燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等が用いられる。なお、液体燃料Fは必ずしもメタノール燃料に限られるものではなく、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部3には膜電極接合体2に対応した液体燃料Fが収容される。
【0022】
燃料収容部3には、例えば樹脂製容器が用いられる。燃料収容部3は液体燃料Fの残量を外部から目視することが可能なように、透明樹脂で構成することが好ましい。燃料収容部3を構成する透明樹脂は、耐メタノール性等を有していることが好ましい。燃料収容部3は全体を透明樹脂で形成してもよいし、その一部を透明樹脂で形成してもよい。
【0023】
上記した透明樹脂としては、例えばポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、環状オレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテン、ポリフェニルサルホン等が挙げられる。ただし、一般的なポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂等で構成した燃料収容部3を除外するものではない。
【0024】
燃料収容部3の開口部3aと膜電極接合体2との間には、気液分離膜4が設置されている。気液分離膜4は、液体燃料(メタノール燃料等)Fの気化成分のみを透過し、液体成分は透過させないものである。燃料収容部3内で気化した液体燃料Fの気化成分は、燃料収容部3の開口部3aおよび気液分離膜4を介して膜電極接合体2のアノード(燃料極)に供給される。
【0025】
気液分離膜4の構成材料としては、例えばポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂が挙げられる。ここで、液体燃料Fの気化成分とは、例えば液体燃料Fとしてメタノール水溶液を使用した場合にはメタノールの気化成分と水の気化成分からなる混合気、純メタノールを使用した場合にはメタノールの気化成分を意味する。
【0026】
膜電極接合体2のカソード導電層11上には保湿層15が積層されており、さらにその上には表面層16が積層されている。表面層16は酸化剤である空気の取入れ量を調整する機能を有し、複数の空気導入口17が設けられている。表面層16による空気の取入れ量は空気導入口17の個数や大きさ等で調整される。
【0027】
保湿層15はカソード触媒層7で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑制する役割を果たすと共に、カソードガス拡散層8に酸化剤を均一に導入することで、カソード触媒層7への酸化剤の均一拡散を促進する機能を有している。保湿層15は例えば多孔質構造の部材で構成され、具体的な構成材料としてはポリエチレンやポリプロピレンの多孔質体等が挙げられる。
【0028】
そして、気液分離膜4、膜電極接合体2、保湿層15および表面層16はカバー部材20によって覆われ、燃料収容部3に一体的に固定されている。カバー部材20は、膜電極接合体2等の上面を覆う板状のカバー本体21と、その周縁部分に略直角に設けられ、膜電極接合体2等の側面を覆う4つのカバー側面22とから主としてなるものであり、外観が略箱状のものである。
【0029】
各カバー側面22の燃料収容部3側の端部には、燃料収容部3へ固定するための爪部24が設けられている。一方、燃料収容部3には、その側面3sに底面3b側に開口する凹部(溝部)3mが設けられている。そして、この凹部3m内に爪部24が折り返されることによって、カバー部材20は燃料収容部3に固定されている。また、膜電極接合体2等は、このカバー本体21によって燃料収容部3へと押し付けられている。
【0030】
次に、本発明の主要部であるカバー部材20についてさらに詳細に説明する。図1、2に示すように、カバー本体21には、その両主面を貫通するように空気導入孔21aが設けられている。このカバー本体21の空気導入孔21aは、例えば図2に示されるように、表面層16に形成された空気導入口17と対応するように設けられている。また、各カバー側面22にもその両主面を貫通するように空気導入孔22aが設けられている。
【0031】
本発明では、カバー本体21に空気導入孔21aを設ける他に、さらにカバー側面22にも空気導入孔22aを設けることで、カバー部材20の外部から内部へと空気を効率的かつ安定的に導入することができる。このため、膜電極接合体2、特にカソード触媒層7へと空気を効率的かつ安定的に供給することが可能となり、パッシブ型DMFC1の出力特性の向上および安定化が可能となる。
【0032】
すなわち、カバー側面22にも空気導入孔22aを設けることで、カバー本体21のみに空気導入孔21aを設けた場合に比べ、空気を導入する部分の面積を増加させることができ、カバー部材20内部への空気導入量を増加させることができる。さらに、発電の際に発生する熱によりカバー本体21上には膜電極接合体2からその上方へと向かう空気の対流が生じるが、この上方へと向かう空気の対流に伴いカバー側面22に設けられた空気導入孔22aからは内部へと空気が吸い込まれることとなり、単に空気を導入する部分の面積を増加させた以上に空気導入量を増加させることができる。
【0033】
また、例えばパッシブ型DMFC1が上下逆に置かれたときのように、カバー本体21の空気導入孔21aが何らかの原因で塞がれた場合でも、カバー側面22に設けられた空気導入孔22aから空気を導入することができ、カバー部材20内部へ安定して空気を導入することができる。従って、カバー本体21に空気導入孔21aを設ける他に、カバー側面22にも空気導入孔22aを設けることで、パッシブ型DMFC1の出力特性の向上および安定化が可能となる。
【0034】
このような空気導入孔22aは4つあるカバー側面22の少なくとも1つに形成されていればよいが、例えば図1に示されるように、各カバー側面22に形成されていることが好ましい。各カバー側面22に空気導入孔22aが形成されていることで、カバー部材20の内部に空気を導入しやすくなり、また空気を均等に導入することができる。
【0035】
また、1つのカバー側面22には少なくとも1つの空気導入孔22aが設けられていればよいが、例えば図1に示されるように、複数設けられていることが好ましい。1つのカバー側面22に複数の空気導入孔22aが設けられていることで、空気導入量の増加や安定化といった効果を容易に得ることができる。具体的には、例えば図3に示すように、カバー側面22の水平方向の一方の端部から他方の端部にかけて等間隔で空気導入孔22aが形成されていることが好ましい。
【0036】
また、隣接する空気導入孔22aどうしの間隔をWとした場合、間隔Wは5mm以下であることが好ましい。間隔Wが5mmを超えるような場合、隣接する空気導入孔22aどうしの間隔が広すぎるために、カバー部材20の内部に空気を均等に導入することが難しく、また形成できる空気導入孔22aの個数も減少することとなる。間隔Wは、空気導入量を増加させる観点から、より好ましくは3mm以下である。なお、間隔Wが過度に狭くなるとカバー側面22の強度が不十分となりやすいことから、間隔Wは0.5mm以上であることが好ましい。
【0037】
空気導入孔22aは例えば円形状であり、その直径Dは0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。直径Dが0.5mm未満であると空気を導入することが困難となり、5mmを超えると複数形成した場合にカバー側面22の強度が不十分となりやすい。空気導入孔22aの直径Dは、空気導入量の増加とカバー側面22の強度確保とから、より好ましくは1mm以上3mm以下である。
【0038】
空気導入孔22aの垂直方向における位置は、例えば図2に示されるように、保湿層15がある場合、この保湿層15に対応する位置に設けられていることが好ましい。なお、垂直方向とは、膜電極接合体2、保湿層15および表面層16等の積層方向のことであり、図2においては上下方向のことである。空気導入孔22aが保湿層15に対応する位置に設けられていることで、空気導入孔22aからの水の蒸散を抑制することができる。例えば、空気導入孔22aが膜電極接合体2に対応する位置に形成されていると、膜電極接合体2から空気導入孔22aを通って水が蒸散するおそれがある。また、空気導入孔22aが保湿層15に対応する位置に設けられていることで、空気導入孔22aから導入された空気が保湿層15で拡散されてからカソード導電層11等に供給されるため好ましい。
【0039】
なお、空気導入孔22aは上記したような水の蒸散等の観点から膜電極接合体2に達しないものであることが好ましいが、カバー本体21側については表面層16に達していても構わない。しかし、カバー本体21とカバー側面22とからなる角部20rに空気導入孔22aが達するとこの角部20rの強度が低下することから、空気導入孔22aは角部20rに達しないものであることが好ましい。また、個々の空気導入孔22aの垂直方向の位置については、通常は同位置されることが好ましいが、上記したような範囲内であれば必ずしも同位置でなくてもよい。
【0040】
また、空気導入孔22aの直径Dは上記したような垂直方向の位置関係も考慮して決定されていることが好ましい。すなわち、膜電極接合体2に達することがなく、また角部20rにも達しないものであることが好ましいことから、空気導入孔22aの直径Dは保湿層15と表面層16との厚さを足したもの以下であることが好ましい。
【0041】
空気導入孔22aの形状は図1あるいは図3に示されるような円形状のものの他、例えば図4に示すような矩形状や、図5に示すような楕円形状であってもよい。このような矩形状あるいは楕円形状の空気導入孔22aについても、空気導入孔22aどうしの間隔Wは円形状のものと同様に0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。また、矩形状あるいは楕円形状の空気導入孔22aの水平方向の長さあるいは径Daについても、円形状のものと同様に0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。さらに、矩形状あるいは楕円形状の空気導入孔22aの垂直方向の長さあるいは径Dbについても、円形状のものと同様に0.5mm以上5mm以下であることが好ましく、最大で保湿層15と表面層16との厚さを足したもの以下であることが好ましい。
【0042】
次に、上記したようなパッシブ型DMFC1の発電動作について説明する。まず、図2に示されるようなものにおいて、燃料収容部3内のメタノール燃料等の液体燃料Fが気化し、この気化成分が気液分離膜4を透過して膜電極接合体2に供給される。膜電極接合体2内において、メタノール燃料Fの気化成分はアノードガス拡散層6で拡散されてアノード触媒層5に供給される。アノード触媒層5に供給された気化成分は、下記の(1)式に示したメタノールの内部改質反応を生じさせる。
CHOH+HO → CO+6H+6e …(1)
【0043】
なお、メタノール燃料Fとして純メタノールを使用した場合には、燃料収容部3から水蒸気が供給されないため、カソード触媒層7で生成した水や電解質膜9中の水をメタノールと反応させて(1)式の内部改質反応を生起するか、あるいは上記した(1)式の内部改質反応によらず、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。内部改質反応で生成されたプロトン(H)は電解質膜9を伝導し、カソード触媒層7に到達する。
【0044】
一方、カバー本体21に設けられた空気導入孔21aおよび表面層16の空気導入口17からは空気(酸化剤)が導入され、この空気は保湿層15、カソード導電層11およびカソードガス拡散層8を通過し、カソード触媒層7へと供給される。また、カバー側面22に設けられた空気導入孔22aからも空気が導入され、この空気も同様にして保湿層15、カソード導電層11およびカソードガス拡散層8を通過し、カソード触媒層7へと供給される。カソード触媒層7に供給された空気は、次の(2)式に示した反応を生じさせる。この反応によって、水の生成を伴う発電反応が生じる。
(3/2)O+6H+6e → 3HO …(2)
【0045】
なお、液体燃料は必ずしもメタノール燃料に限られるものではなく、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料電池に応じた液体燃料が収容される。
【0046】
次に、パッシブ型DMFC1の製造方法について説明する。以下では、図1、3に示されるようなカバー側面22に円形状の空気導入孔22aが形成されたパッシブ型DMFC1について説明する。
【0047】
まず、カバー部材20は、以下のようにして製造することができる。なお、以下では、カバー部材の各部分と対応する部分については、カバー部材の符号と同一の符号を付して説明する。まず、図6に示すようなステンレス板20を用意する。このステンレス板20はカバー部材20となるものであって、カバー本体21となる中央の矩形状部分21と、その外側のカバー側面22となる周辺部分22とからなるものである。そして、矩形状部分21と周辺部分22との境界部分が、角部20rとなる折曲部20rである。
【0048】
そして、図7に示すように、矩形状部分21に孔あけ加工を施すことにより複数の空気導入孔21aを形成すると共に、周辺部分22にも孔あけ加工を施すことにより複数の空気導入孔22aを形成する。また、周辺部分22の端部を所定の形状に切断して爪部24等を形成する。空気導入孔22aの直径Dや配置はこの周辺部分22への孔あけ加工の際に調整することができ、最終的に形成されるパッシブ型DMFC1の大きさや、保湿層15、表面層16の厚さ、位置等を考慮して適宜決定される。その後、矩形状部分21に対して折曲部20rで周辺部分22を略直角に折り曲げることによって、略箱状のカバー部材20とする。
【0049】
一方、カバー部材20を除く他の部材、すなわち膜電極接合体2、燃料収容部3、気液分離膜4、保湿層15、表面層16は、この種のパッシブ型DMFCに一般に用いられるものを特に制限なく用いることができる。
【0050】
そして、図1、2に示されるように、燃料収容部3上に、気液分離膜4、膜電極接合体2、保湿層15、表面層16を順に配置する。その後、表面層16側からこれらを覆うようにしてカバー部材20を被せ、その爪部24を燃料収容部3の側面3sに設けられた凹部3mに折り返して固定する。このようにすることで、燃料収容部3上に、気液分離膜4、膜電極接合体2、保湿層15、表面層16が一体的に固定されたパッシブ型DMFC1を製造することができる。
【0051】
以上、パッシブ型DMFC1の製造について、図1、3に示されるようなカバー側面22に円形状の空気導入孔22aが形成されたものを例に挙げて説明したが、図4、5に示されるような矩形状あるいは楕円形状の空気導入孔22aが形成されたものについても、ステンレス板20の周辺部分22への孔あけ加工の際に、矩形状あるいは楕円形状の空気導入孔22aを形成することで円形状の空気導入孔22aが形成されたものと同様にして製造することができる。
【0052】
また、上記実施の形態ではパッシブ型DMFCを例に挙げて説明したが、パッシブ型に限られず膜電極接合体等がカバー部材によって覆われるもの、すなわち膜電極接合体の空気極側にカバー本体が設けられ、膜電極接合体の側面にカバー側面が設けられる構造のものであれば、何らその燃料電池の方式について限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の燃料電池の一例を示す外観図。
【図2】図1に示す燃料電池のA−A線断面を示す断面図。
【図3】本発明の燃料電池の一例を示す側面図。
【図4】本発明の燃料電池の他の例を示す側面図。
【図5】本発明の燃料電池の他の例を示す側面図。
【図6】カバー部材の製造方法を説明するための模式図。
【図7】カバー部材の製造方法を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0054】
1…燃料電池(パッシブ型DMFC)、2…膜電極接合体、3…燃料収容部(3a…開口部、3b…底面、3m…凹部、3s…側面)、4…気液分離膜、5…アノード触媒層、6…アノードガス拡散層、7…カソード触媒層、8…カソードガス拡散層、9…電解質膜、10…アノード導電層、11…カソード導電層、12、13…リング、15…保湿層、16…表面層、17…空気導入口、20…カバー部材(20r…角部)、21…カバー本体(21a…空気導入孔)、22…カバー側面(22a…空気導入孔)、24…爪部、D…カバー側面の円形状の空気導入孔の直径、Da…カバー側面の矩形状または楕円形状の空気導入孔の水平方向の長さまたは径、Db…カバー側面の矩形状または楕円形状の空気導入孔の垂直方向の長さまたは径、W…カバー側面の空気導入孔どうしの間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と空気極とによって電解質膜が挟持されてなる膜電極接合体と、前記膜電極接合体の前記燃料極側に配置される燃料収容部と、前記膜電極接合体を覆うカバー部材とを有する燃料電池であって、
前記カバー部材は、前記膜電極接合体上の空気極側に配置されるカバー本体と、このカバー本体の周縁部分に設けられ、少なくとも前記膜電極接合体の側面側に配置されるカバー側面とからなり、かつ、前記カバー側面にはその両主面を貫通する空気導入孔が形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記膜電極接合体の空気極側と前記カバー本体との間に少なくとも保湿層が設けられたものであって、前記カバー側面に形成される空気導入孔は前記保湿層に対応する位置またはそれよりもカバー本体側の位置に形成されていることを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記カバー側面に形成される空気導入孔は円形状であって、その直径は0.5mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池。
【請求項4】
前記カバー側面には前記空気導入孔が複数形成され、前記複数の空気導入孔は前記カバー側面の垂直方向の等位置に形成されると共に、水平方向に等間隔で形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−77935(P2008−77935A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254596(P2006−254596)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】