説明

燃料電池

【課題】カバープレートによる膜電極接合体と燃料収容部との固定力を長期間にわたって維持できる液体燃料を用いた燃料電池の提供。
【解決手段】燃料電池は、燃料極、空気極および電解質膜を有する燃料電池セル(膜電極接合体)と、開口部を介して燃料極に液体燃料を供給する燃料収容部3とを具備する。カバープレートの爪部19を燃料電池セルの端面や燃料収容部3の壁面に沿って折り曲げつつかしめることによって、燃料電池セルは燃料収容部3に固定されている。爪部19の先端19aは傾斜形状とされており、さらに燃料収容部3には爪部先端19aの傾斜形状と係合する底部形状を有するかしめ受け部20が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体燃料を用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンや携帯電話等の各種携帯用電子機器を長時間充電なしで使用可能とするために、これら携帯用電子機器の電源に燃料電池を用いる試みがなされている。燃料電池は燃料と空気を供給するだけで発電することができ、燃料を補給すれば連続して長時間発電することができるという特徴を有している。このため、燃料電池を小型化できれば、携帯用電子機器の電源として極めて有利なシステムといえる。
【0003】
直接メタノール型燃料電池(DMFC:direct methanol fuel cell)は小型化が可能であり、さらに燃料の取り扱いも容易であるため、携帯機器用の電源として有望視されている。DMFCにおける液体燃料の供給方式としては、気体供給型や液体供給型等のアクティブ方式、また燃料収容部内の液体燃料を電池内部で気化させて燃料極に供給する内部気化型等のパッシブ方式が知られている。これらのうち、パッシブ方式はDMFCの小型化に対して特に有利である。
【0004】
内部気化型等のパッシブ型DMFCでは、例えば燃料極、電解質膜および空気極を有する膜電極接合体(燃料電池セル)を、樹脂製の箱状容器からなる燃料収容部上に配置した構造が適用されている(例えば特許文献1参照)。膜電極接合体と燃料収容部との固定方法としては、これらをカバープレートで挟み込んで固定することが試みられている。例えば、膜電極接合体の空気極側から金属材料からなるカバープレートを取り付けると共に、カバープレートの周縁部を膜電極接合体の端面および燃料収容部の壁面に沿って折り曲げつつかしめることによって、膜電極接合体と燃料収容部とを挟み込んで固定する。
【0005】
ところで、パッシブ型DMFCの膜電極接合体(燃料電池セル)は発電動作時に膨張と収縮を繰り返すため、この膜電極接合体の膨張収縮の繰り返しに基づいてカバープレートの周縁部のかしめ部が緩むおそれがある。カバープレートによるかしめ部が緩んで膜電極接合体と燃料収容部との固定力が低下すると、これらの接触部から燃料リークが発生したり、また燃料リークが発生しないまでも発電特性が劣化する等、DMFCの信頼性や特性等を低下させる要因となる。
【特許文献1】国際公開第2005/112172号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カバープレートによる膜電極接合体と燃料収容部との固定力を長期間にわたって安定して維持することを可能にした燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る燃料電池は、燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜とを有する膜電極接合体と、前記膜電極接合体の前記燃料極側に配置され、前記燃料極と対向する面に設けられた開口部を介して液体燃料を前記燃料極に供給する燃料収容部と、前記膜電極接合体の前記空気極側から取り付けられるカバープレート本体と、前記カバープレート本体の周縁部に設けられ、前記膜電極接合体と前記燃料収容部とを挟み込むように、前記膜電極接合体の端面および前記燃料収容部の壁面に沿って折り曲げつつかしめる爪部とを有するカバープレートとを具備し、前記爪部の先端を傾斜形状とすると共に、前記燃料収容部に前記爪部先端の傾斜形状と係合する底部形状を有するかしめ受け部を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の態様に係る燃料電池は、カバープレートの周縁部の先端を傾斜形状とすると共に、爪部先端の傾斜形状と係合する底部形状を有するかしめ受け部を燃料収容部に設けているため、カバープレートによる膜電極接合体と燃料収容部との固定力を長期間にわたって安定して維持することができる。従って、信頼性や特性安定性等に優れる燃料電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。なお、以下では本発明の実施形態を図面に基づいて説明するが、それらの図面は図解のために提供されるものであり、本発明はそれらの図面に限定されるものではない。
【0010】
図1は本発明の燃料電池をパッシブ型DMFCに適用した実施形態の概略構成を示す斜視図、図2は図1のA−A線に沿った断面図である。これらの図に示すパッシブ型DMFC1は内部気化方式を適用したものであり、起電部を構成する燃料電池セル2と、この燃料電池セル2に液体燃料Fを供給する燃料収容部3と、これら燃料電池セル2と燃料収容部3との間に介在された気液分離膜4とから主として構成されている。
【0011】
燃料電池セル2は、アノード触媒層5とアノードガス拡散層6とを有するアノード(燃料極)と、カソード触媒層7とカソードガス拡散層8とを有するカソード(空気極/酸化剤極)と、アノード触媒層5とカソード触媒層7とで挟持されたプロトン(水素イオン)伝導性の電解質膜9とから構成される膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を有している。
【0012】
アノード触媒層5およびカソード触媒層7に含有される触媒としては、例えばPt、Ru、Rh、Ir、Os、Pd等の白金族元素の単体、白金族元素を含有する合金等が挙げられる。アノード触媒層5にはメタノールや一酸化炭素に対して強い耐性を有するPt−RuやPt−Mo等を用いることが好ましい。カソード触媒層7には白金やPt−Ni等を用いることが好ましい。触媒は炭素材料のような導電性担持体を使用した担持触媒、あるいは無担持触媒のいずれであってもよい。
【0013】
電解質膜9を構成するプロトン伝導性材料としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロスルホン酸重合体のようなフッ素系樹脂(ナフィオン(商品名、デュポン社製)やフレミオン(商品名、旭硝子社製)等)、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。ただし、プロトン伝導性の電解質膜9はこれらに限られるものではない。
【0014】
アノード触媒層5に積層されるアノードガス拡散層6は、アノード触媒層5に燃料を均一に供給する役割を果たすと同時に、アノード触媒層5の集電体も兼ねている。一方、カソード触媒層7に積層されるカソードガス拡散層8は、カソード触媒層7に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層7の集電体も兼ねている。
【0015】
アノードガス拡散層6にはアノード導電層10が積層され、カソードガス拡散層8にはカソード導電層11が積層されている。これら導電層10、11は、例えば金のような導電性金属材料からなるメッシュ、多孔質膜、薄膜等で構成される。なお、電解質膜9とアノード導電層10およびカソード導電層11との間には、それぞれゴム製のOリング12、13が介在されており、これらによって燃料電池セル(膜電極接合体)2からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。
【0016】
上述した燃料電池セル2のアノード(燃料極)側には、燃料収容部3が配置されている。燃料電池セル2は例えば矩形の平面形状を有している。燃料収容部3も同一矩形の平面形状を有している。燃料収容部3は燃料電池セル2のアノードと対向する面に開口部3aが設けられた容器形状を有している。すなわち、燃料収容部3は上面全面が開口された箱状容器で構成されている。このような燃料収容部3の内部には、液体燃料Fとしてメタノール燃料等が収容されている。
【0017】
メタノール燃料としては、各種濃度のメタノール水溶液や純メタノール等が用いられる。なお、液体燃料Fは必ずしもメタノール燃料に限られるものではなく、例えばエタノール水溶液や純エタノール等のエタノール燃料、プロパノール水溶液や純プロパノール等のプロパノール燃料、グリコール水溶液や純グリコール等のグリコール燃料、ジメチルエーテル、ギ酸、その他の液体燃料であってもよい。いずれにしても、燃料収容部3には燃料電池セル2に対応した液体燃料Fが収容される。
【0018】
燃料収容部3には、例えば樹脂製容器が用いられる。燃料収容部3は液体燃料Fの残量を外部から目視することが可能なように、透明樹脂で構成することが好ましい。燃料収容部3を構成する透明樹脂は、耐メタノール性等を有していることが好ましい。燃料収容部3は全体を透明樹脂で形成してもよいし、その一部を透明樹脂で形成してもよい。
【0019】
燃料収容部3を構成する透明樹脂としては、例えばポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、環状オレフィンコポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルペンテン、ポリフェニルサルホン等の耐メタノール性を有する樹脂を使用することが好ましい。ただし、一般的なポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂等で構成した燃料収容部3を除外するものではない。
【0020】
燃料収容部3の開口部3aと燃料電池セル2との間には、気液分離膜4が設置されている。気液分離膜4は、液体燃料(メタノール燃料等)Fの気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気体選択透過膜である。燃料収容部3内で気化した液体燃料Fの気化成分は、燃料収容部3の開口部3aおよび気液分離膜4を介して燃料電池セル2のアノード(燃料極)に供給される。
【0021】
気液分離膜4の構成材料としては、例えばポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂が挙げられる。ここで、液体燃料Fの気化成分とは、例えば液体燃料Fとしてメタノール水溶液を使用した場合にはメタノールの気化成分と水の気化成分からなる混合気、純メタノールを使用した場合にはメタノールの気化成分を意味する。
【0022】
燃料電池セル2のカソード導電層11上には保湿層14が積層されており、さらにその上には表面層15が積層されている。表面層15は酸化剤である空気の取入れ量を調整する機能を果たすものであり、複数の空気導入口16を有している。表面層15による空気の取入れ量は空気導入口16の個数や大きさ等で調整される。
【0023】
保湿層14はカソード触媒層7で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑制する役割を果たすと共に、カソードガス拡散層8に酸化剤を均一に導入することで、カソード触媒層7への酸化剤の均一拡散を促進する機能を有するものである。保湿層14は例えば多孔質構造の部材で構成され、具体的な構成材料としてはポリエチレンやポリプロピレンの多孔質体等が挙げられる。
【0024】
燃料収容部3は上述したように矩形の平面形状を有し、その上に燃料収容部3と同一の平面形状を有する気液分離膜4、燃料電池セル2、保湿層14、表面層15が順に積層されている。そして、燃料収容部3上に燃料電池セル2等を積層した構造体に対して、燃料電池セル2のカソード(空気極)側からカバープレート17が取り付けられており、このカバープレート17で燃料電池セル2等を燃料収容部3に固定している。
【0025】
カバープレート17は保湿層14や表面層15を含む燃料電池1の構成要素全体を覆うように取り付けられており、燃料電池1全体がカバープレート17で保持されている。カバープレート17は例えばステンレスのような金属材料で形成されている。カバープレート17には表面層15に形成された空気導入口16と対応する部分に開口が設けられており、これにより酸化剤の取り入れ並びにカソード触媒層7への拡散を可能としている。
【0026】
カバープレート17は、燃料収容部3上に積層された燃料電池セル2等を覆うカバープレート本体18とその周縁部に設けられた複数の爪部19とを有している。カバープレート本体18は燃料電池セル2等と同様な矩形状の内形状を有し、この内形状に基づいて燃料電池セル2等を覆っている。カバープレート本体18の各周縁部、すなわち燃料電池セル2等の矩形平面の四辺に相当する部分には、それぞれ爪部19が設けられている。
【0027】
カバープレート17の周縁部に設けられた複数の爪部19は、燃料電池セル2等の端面および燃料収容部3の壁面に沿って折り曲げられつつかしめられており、これによって燃料電池セル2等と燃料収容部3とを挟み込んで固定している。すなわち、複数の爪部19を折り曲げつつかしめて構成要素全体を挟み込むことによって、燃料収容部3上に気液分離膜4、燃料電池セル2、保湿層15および表面層16の積層物を固定している。
【0028】
カバープレート17の各周縁部に設けられた爪部19は、燃料電池セル2等の矩形平面の四辺を挟み込むように折り曲げられている。爪部19は矩形状のカバープレート本体18の対向する二辺に設け、これら爪部19で燃料電池セル2等の対向する二辺を挟み込むようにしてもよい。爪部19は燃料電池セル2等の対向する二辺を少なくとも挟み込むものであればよく、これによりカバープレート17による締付け力を得ることができる。
【0029】
カバープレート17で燃料電池セル2や燃料収容部3等を挟み込むにあたって、爪部19を単にかしめただけでは、燃料電池セル(膜電極接合体)2の発電動作に伴う膨張・収縮(例えば0.5〜1mm程度)の繰り返しで爪部19によるかしめ力が緩むおそれがある。そこで、この実施形態の燃料電池1においては、図3ないし図7に示すように、カバープレート17の爪部19の先端19aを傾斜形状とすると共に、燃料収容部3に爪部先端19aの傾斜形状と係合する底部形状を有するかしめ受け部20を設けている。
【0030】
カバープレート17の爪部19の先端19aは、図4(a)に示すように、爪部19の突出方向(爪部19の長手方向)に対して、爪部19の先端角αが鋭角となるように傾斜させている。言い換えると、燃料収容部3の外壁面に対して平行な面を有し、かつ下方に向けて突出させた平板状の爪部19は、その幅方向に対して傾斜させて切断した傾斜形状を有する先端19aを備えている。
【0031】
一方、燃料収容部3の外周面の底面近傍部分には、図5および図6に示すように、爪部19をかしめた際に係合する溝部21が設けられている。溝部21は燃料収容部3の外周面に設けられたフランジ部22のフランジ面に形成されており、下方に向けて開口された凹部とされている。この溝部21の底面に爪部19のかしめ受け部20が形成されている。溝部21の複数の爪部19に対応した位置には、それぞれ凹部形状のかしめ受け部20が設けられている。
【0032】
かしめ受け部20は図4(b)に示すように、爪部19をかしめた際に爪部先端19aの傾斜形状と係合する傾斜状の底部形状を有している。すなわち、かしめられた爪部19の先端19aは、その傾斜形状と合致する底部形状を有するかしめ受け部20と係合する。爪部19の傾斜された先端19aは、図7に示すように、かしめ受け部20の傾斜底面と嵌め合わされることになる。
【0033】
ここで、燃料電池セル(膜電極接合体)2の発電動作に伴う膨張・収縮による応力は、燃料収容部3の溝部21と係合するようにかしめられた爪部19に対し、そのかしめ力を緩める方向に作用する。具体的には、爪部19はかしめ形状に基づいて爪部19の厚さ方向への反力を受けることになる。この際、爪部19を単にかしめただけの場合には、燃料電池セル2の膨張・収縮に基づく反力を、爪部19の例えば1mm程度の厚さだけで受けることになるため、爪部19によるかしめ力が緩みやすい。
【0034】
この実施形態の燃料電池1においては、上述したように傾斜形状とした爪部先端19aを、それと合致する傾斜状の底部形状を有するかしめ受け部20に係合させているため、図7に矢印で示すように、燃料電池セル2の膨張・収縮に基づく反力を爪部19の幅方向でも受けることになる。言い換えると、爪部19への反力を傾斜係合させた爪部先端19aとかしめ受け部20とによって、爪部19の幅方向に逃がすことができる。
【0035】
爪部19は例えば2〜8mm程度の幅を有するため、上記した1mm程度の厚さに比べて、例えば下記の断面2次モーメント(I)の関係式より、明らかに耐力に優れることが分かる。すなわち、横方向の長さをb、縦方向の長さをhとしたとき、断面2次モーメントIは下記の式で表される。
I=bh3/12
従って、爪部19によるかしめ力の緩みを抑制することが可能となる。
【0036】
傾斜形状を有する爪部先端19aとそれと合致する傾斜底部形状を有するかしめ受け部20とによって、爪部19によるかしめ力の緩みを抑制する上で、爪部19の先端角αは
45〜75度の範囲とすることが好ましい。爪部19の先端角αが75度を超えると、爪部先端19aとかしめ受け部20との傾斜係合に基づく爪部19の剛性を向上させる効果を十分に得ることができない。一方、爪部19の先端角αを45度未満に設定した場合には、爪部19の機械的強度等が低下してかしめ力自体が劣化するおそれがある。
【0037】
上述したように、爪部先端19aとかしめ受け部20とを傾斜係合させることによって、燃料電池セル2の膨張・収縮に基づく反力を爪部19の厚さに加えて、爪部19の幅方向の剛性で受けることができ、さらに傾斜面間のずれに基づいて爪部19の幅方向に逃がすことができる。これらによって、爪部19によるかしめ力(固定力)が緩むことを抑制することができるため、カバープレート17による燃料電池セル2と燃料収容部3との固定力を長期間にわたって安定して維持することが可能となる。従って、長期間にわたって信頼性や特性安定性等を維持することが可能な燃料電池1を提供することができる。
【0038】
図3ないし図7ではかしめ受け部20を溝部21の底面に設けた構造を示したが、かしめ受け部20は図8および図9に示すように、燃料収容部3の外周面に設けたフランジ部22に直接形成するようにしてもよい。すなわち、図8および図9に示す燃料収容部3は、かしめられた爪部19を受けるフランジ部22のフランジ面に、爪部先端19aの傾斜形状と合致する傾斜底部形状を有する凹部状のかしめ受け部20が形成されている。このようなかしめ受け部20で爪部19を受けることによっても、爪部19によるかしめ力の緩みを抑制することができる。従って、カバープレート17による燃料電池セル2と燃料収容部3との固定力を長期間にわたって安定して維持することが可能となる。
【0039】
上述した構成を有するパッシブ型DMFC1においては、燃料収容部3内のメタノール燃料等の液体燃料Fが気化し、この気化成分が気液分離膜4を透過して燃料電池セル2に供給される。燃料電池セル2内において、メタノール燃料Fの気化成分はアノードガス拡散層6で拡散されてアノード触媒層5に供給される。アノード触媒層5に供給された気化成分は、下記の(1)式に示すメタノールの内部改質反応を生じさせる。
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(1)
【0040】
なお、メタノール燃料Fとして純メタノールを使用した場合には、燃料収容部3から水蒸気が供給されないため、カソード触媒層7で生成した水や電解質膜9中の水をメタノールと反応させて(1)式の内部改質反応を生起するか、あるいは上記した(1)式の内部改質反応によらず、水を必要としない他の反応機構により内部改質反応を生じさせる。
【0041】
内部改質反応で生成されたプロトン(H+)は電解質膜9を伝導し、カソード触媒層7に到達する。表面層16の空気導入口17から取り入れられた空気(酸化剤)は、保湿層15、カソード導電層11、カソードガス拡散層8を拡散して、カソード触媒層7に供給される。カソード触媒層7に供給された空気は、次の(2)式に示す反応を生じさせる。この反応によって、水の生成を伴う発電反応が生じる。
(3/2)O2+6H++6e- → 3H2O …(2)
【0042】
なお、本発明は燃料収容部に収容した液体燃料を燃料電池セルの燃料極に供給する燃料電池であればその方式や機構等に何等限定されるものではないが、特に小型化が進められているパッシブ型DMFCに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態による燃料電池の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図である。
【図3】図1に示す燃料電池の一部を拡大して示す断面図である。
【図4】図1に示す燃料電池におけるカバープレートの爪部を拡大して示す正面図であって、(a)は爪部をかしめる前の状態を示す図、(b)は爪部をかしめた状態を示す図である。
【図5】図1に示す燃料電池の燃料収容部の一部を拡大して示す断面図である。
【図6】図4のB−B線に沿った断面図である。
【図7】図3のC−C線に沿った断面図である。
【図8】図3に示す燃料電池の変形例を示す断面図である。
【図9】図8のD−D線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1…パッシブ型DMFC、2…燃料電池セル、3…燃料収容部、3a…開口部、4…気液分離膜、5…アノード触媒層、6…アノードガス拡散層、7…カソード触媒層、8…カソードガス拡散層、9…電解質膜、10…アノード導電層、11…カソード導電層、14…保湿層、12,13…Oリング、15…表面層、17…カバープレート、19…爪部、19a…爪部先端、20…かしめ受け部、21…溝部、22…フランジ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極とに挟持された電解質膜とを有する膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の前記燃料極側に配置され、前記燃料極と対向する面に設けられた開口部を介して液体燃料を前記燃料極に供給する燃料収容部と、
前記膜電極接合体の前記空気極側から取り付けられるカバープレート本体と、前記カバープレート本体の周縁部に設けられ、前記膜電極接合体と前記燃料収容部とを挟み込むように、前記膜電極接合体の端面および前記燃料収容部の壁面に沿って折り曲げつつかしめる爪部とを有するカバープレートとを具備し、
前記爪部の先端を傾斜形状とすると共に、前記燃料収容部に前記爪部先端の傾斜形状と係合する底部形状を有するかしめ受け部を設けたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池において、
前記カバープレートは複数の爪部を備え、かつ前記燃料収容部は前記複数の爪部に対応する複数の前記かしめ受け部を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池において、
前記膜電極接合体と前記燃料収容部とは同一矩形の平面形状を有し、前記複数の爪部は前記矩形の少なくとも対向する二辺に相当する部分に設けられていると共に、前記対向する二辺を少なくとも挟み込むようにかしめられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記燃料収容部はかしめられた前記爪部と係合する溝部を有し、前記かしめ受け部は前記溝部の底面に設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記燃料収容部はかしめられた前記爪部を受けるフランジ部を有し、前記かしめ受け部は前記フランジ部のフランジ面に設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記膜電極接合体の前記燃料極と前記燃料収容部との間に配置され、前記燃料収容部から気化した前記液体燃料の気化成分を通過させる気液分離膜を具備することを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記膜電極接合体の前記空気極上に順に配置された保湿層および表面層を具備し、前記カバープレートは前記表面層上から取り付けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の燃料電池において、
前記液体燃料はメタノール燃料であることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−84608(P2008−84608A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261456(P2006−261456)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】