説明

燃料電池

【課題】シール部材を新たに設けることなく多孔体とフレームとの隙間へのガスの流れを抑制し、ガスが隙間に流れることによる燃料電池の発電効率の低下を防止することを目的とする。
【解決手段】膜電極接合体30と、前記膜電極接合体30に隣接し所定方向に流れるガスを拡散する多孔体350であって、前記ガスが流れる方向に対して斜めに分割された第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cを有する多孔体350と、前記膜電極接合体30と前記多孔体30とを内部に支持する開口部320を有するフレーム300とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関するものであり、特に燃料ガスあるいは酸化ガスを拡散する多孔体の形状及びその配置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスあるいは酸化ガスの流路として多孔体を用い、多孔体において燃料ガスあるいは酸化ガスを拡散し、膜電極接合体に燃料ガスあるいは酸化ガスが供給されて発電する燃料電池が知られている(特許文献1)。しかし、従来の構成では、フレームの開口部内に多孔体を組み付ける際の組み付け誤差により、フレームの開口部と多孔体の間に隙間が生じる。生じた隙間を流れる燃料ガスあるいは酸化ガスは発電反応に用いられることなく排出されるため、燃料電池の発電効率が低下するという問題があった。これに対し、フレームと多孔体の隙間にシール部材を挿入する技術が知られている(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−87318号公報
【特許文献2】特開2004−119121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、シール部材が新たに必要になるという問題がある。また、シール部材を用いた場合、シール部材の経年劣化により隙間にガスが漏れた場合には、燃料電池の発電効率が低下する恐れもある。
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも1つを解決し、シール部材を用いることなく多孔体とフレームとの隙間にガスが流れることを抑制し、燃料電池の発電効率の低下を防止、抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る燃料電池は、膜電極接合体と、前記膜電極接合体に隣接し所定方向に流れるガスを拡散する多孔体であって、前記ガスが流れる方向に対して斜めに分割された第1の多孔体部と第2の多孔体部を有する多孔体と、前記膜電極接合体と前記多孔体とを内部に支持する開口部を有するフレームとを備える。本発明に係る燃料電池によれば、多孔体を第1の多孔体部と第2の多孔体部に分割するので、ガスが流れる方向について隙間が生じないように第1の多孔体部と第2の多孔体部を配置できる。したがって、ガスの隙間流れを抑制するためのシール部材が不要となる。さらに、ガスの隙間流れを抑制できるので、燃料電池の発電効率の低下を防止、抑制することができる。
【0007】
本発明に係る燃料電池において、 前記多孔体の形状及び前記開口部の形状は矩形状である。本発明に係る燃料電池によれば、多孔体の形状及び開口部の形状は矩形状なので、例えば、第1の多孔体部と第2の多孔体部を分割線に沿ってずらして配置することにより、多孔体部の辺と開口部の辺とを容易に密着できる。その結果、隙間を生じなくできるので、ガスの隙間流れを抑制するためのシール部材が不要となる。さらに、ガスの隙間流れを抑制できるので、燃料電池の発電効率の低下を防止、抑制できる。
【0008】
本発明に係る燃料電池において、前記第1の多孔体部と第2の多孔体部は、前記第1の多孔体部の一辺は、前記ガスが流れる方向と平行な前記開口部の2つの辺のうちの第1の辺と接し、前記第2の多孔体部の一辺は、前記ガスが流れる方向と平行な前記開口部の2つの辺のうち前記第1の辺と異なる第2の辺と接し、前記第1の多孔体部と第2の多孔体部とが接するように、前記開口部内に配置される。本発明に係る燃料電池によれば、第1の多孔体部と開口部が密着し、第2の多孔体部と開口部が密着し、第1の多孔体部と第2の多孔体部が密着している。その結果、ガスが流れる方向について、隙間が生じないので、ガスの隙間流れを抑制するためのシール部材が不要となる。さらに、ガスの隙間流れを抑制できるので、燃料電池の発電効率の低下を防止、抑制できる。
【0009】
本発明に係る燃料電池において、前記ガスが流れる方向と前記分割線とがなす角度は、前記ガスが流れる方向と前記多孔体の対角線がなす角度よりも小さく、かつ、前記第1の多孔体部の形状と前記第2の多孔体部の形状は台形である。本発明に係る燃料電池によれば、ガスが流れる方向について、第1の多孔体部と開口部との密着部のシール長及び第2の多孔体部と開口部との密着部のシール長は、多孔体のガス流れ方向の長さと同じ長さとなり、シール長を最も長くできる。その結果、多孔体と開口部との隙間を最小にでき、燃料電池の発電効率を高めることができる。
【0010】
本発明に係る燃料電池において、前記分割線は前記多孔体の対角線と一致する。本発明に係る燃料電池によれば、ガスが流れる方向について、第1の多孔体部と開口部とのシール長及び第2の多孔体部と開口部とのシール長は、多孔体のガス流れ方向の長さと同じ長さとなり、第1の多孔体部と開口部とのシール長及び第2の多孔体部と開口部とのシール長を最も長くできる。さらに、ガスが流れる方向と垂直な方向について開口部と多孔体の間の隙間の長さに対する許容度を高めることができる。すなわち、ガスが流れる方向と垂直な方向について開口部と多孔体の間の隙間の長さが所定の長さ以上になると、第1の多孔体部と第2の多孔体部をいかに配置しても、ガス流れ方向についての隙間が生じてしまうが、本発明に係る燃料電池によれば、ガスが流れる方向と垂直な方向における開口部と多孔体の間の隙間の長さについて、ガス流れ方向についての隙間が生じないための限界を大きくすることができる。
【0011】
本発明に係る燃料電池において、前記ガスが流れる方向と前記分割線のなす角度θは、その角度に対する正接の値が、前記ガスが流れる方向と垂直な方向における前記多孔体と前記開口部との間の隙間の長さx1を、前記ガスが流れる方向と平行な方向における前記多孔体と前記開口部の隙間の長さy1で割った値以上となる角度である。本発明に係る燃料電池によれば、tanθ≧x1/y1を満たすような角度θで多孔体を第1の多孔体部と第2の多孔体部に分割するので、ガスが流れる方向についての隙間を生じなくさせることができる。
【0012】
本発明に係る燃料電池において、前記ガスが流れる方向と平行な方向における前記多孔体と前記開口部の間の隙間の長さy1が、前記ガスが流れる方向と垂直な方向における前記多孔体と前記開口部の間の隙間の長さx1を、前記ガスが流れる方向と前記分割線のなす角度θの正接の値で割った値以上になるような大きさに形成されている。本発明に係る燃料電池によれば、ガスが流れる方向と前記分割線のなす角度θを一定とした場合、前記ガスが流れる方向と平行な方向における前記多孔体と前記開口部の間の隙間の長さy1が、y1≧x1/tanθを満たすように、多孔体を形成するので、ガスが流れる方向についての隙間を生じなくさせることができる。
【0013】
本発明に係る燃料電池は、さらに、前記第2の多孔体部は、複数の多孔体部に分割されている。本発明に係る燃料電池によれば、多孔体部の配置自由度がさらに増すので、ガスが流れる方向について隙間がなくなるように多孔体部配置することが容易になる。その結果、ガスの隙間流れを抑制するためのシール部材が不要となる。また、ガスの隙間流れを抑制できるので、燃料電池の発電効率の低下を防止、抑制することができる。
【0014】
本発明に係る燃料電池において、さらに、前記フレームは、前記分割された多孔体部の位置を決めるための位置決め手段を備える。本発明に係る燃料電池によれば、前記フレームは、前記分割された多孔体部位置を決める位置決め手段を備えるので、多孔体部とフレームとの間に隙間が生じないように、多孔体部を配置することが容易になる
【0015】
本発明に係る燃料電池において、前記位置決め手段は、フレームの一辺であって、前記分割された多孔体部におけるガスが流れる方向に対して垂直な辺に備えられ、前記第1の多孔体部を押圧し、前記第1の多孔体部と異なる多孔体部をフレームの一辺であって、ガスが流れる方向に対して平行な辺に押しつける。本発明に係る燃料電池によれば、多孔体部におけるガスが流れる方向に対して垂直な辺に対する圧力と他の多孔体部からの垂直抗力の合力により、多孔体部はガスが流れる方向に対して垂直な方向に力が加わりフレームに押しつけられる。その結果、多孔体部とフレームが強く密着し隙間が生じにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施例について、図面を用いて説明する。本実施例に係る燃料電池の概要について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施例に係る燃料電池10の外観を模式的に示す斜視図である。燃料電池10は、セパレータ部20と膜電極接合体部30とが交互に積層されて構成される。燃料電池10は、図1に示す燃料電池の上方側(z軸プラス側)に酸化ガス供給マニホールド102、下方側(z軸マイナス側)に酸化ガス排出マニホールド104、左方側(x軸マイナス側)に燃料ガス供給マニホールド106と冷却水供給マニホールド110、右方側(x軸プラス側)に燃料ガス排出マニホールド108と冷却水排出マニホールド112を備える。これらのマニホールド102〜112は、積層方向(y軸方向)に貫通する。
【0017】
図2を用いて本発明に係る燃料電池10の構造について説明する。図2は、図1に示す燃料電池10をyz平面と平行な面で切った断面を模式的に示す説明図である。
【0018】
本実施例において、セパレータ部20は、例えば、樹脂製ラミネートフィルムでできている中間プレート200と、中間プレート200を両側から挟持する、例えば、金属材料でできているアノード側プレート220とカソード側プレート240とを備える。
【0019】
膜電極接合体部30は、膜電極接合体40と、膜電極接合体40の両面にそれぞれ隣接する多孔体350及び多孔体351と、膜電極接合体40と多孔体350と多孔体351とを支持するフレーム300とを備える。膜電極接合体40は、電解質膜400と、電解質膜400の両面にそれぞれ隣接する触媒層420、421とを備える。
【0020】
多孔体350と多孔体351は、それぞれ酸化ガス、燃料ガスの流路をなす部材である。多孔体350と多孔体351は、さらに、それぞれ中を流れる酸化ガス、燃料ガスを拡散する部材でもある。本実施例では、多孔体350及び多孔体351として、例えば、ステンレス製の多孔体を用いている。フレーム300として、例えば、シリコンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴムなどの絶縁性樹脂材料によって形成されるフレームを用いている。電解質膜400として、固体高分子材料、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマなどのフッ素系樹脂からなるプロトン伝導性のイオン交換膜を用いている。触媒層420及び触媒層421として、電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金触媒、あるいは白金と他の金属とからなる白金合金触媒を、例えば、カーボンブラックのような担持体に担持した触媒層を用いている。
【0021】
中間プレート200、アノード側プレート220、カソード側プレート240、フレーム300には、酸化ガス供給マニホールド102を形成するための酸化ガス供給マニホールド形成用孔202、222、242、302が、それぞれ形成されている。アノード側プレート220、カソード側プレート240、フレーム300には、酸化ガス排出マニホールド104を形成するための酸化ガス排出マニホールド形成用孔204、224、244、304が、それぞれ形成されている。
【0022】
カソード側プレート240には、酸化ガス供給マニホールド102から供給された酸化ガスをセパレータ部20の内部を経由してセパレータ部20の外部に隣接する多孔体350に導くための酸化ガス導入用孔256と、未反応の酸化ガスを多孔体350からセパレータ部20の内部を経由して酸化ガス排出マニホールド104に導くための酸化ガス導出用孔258とが形成されている。
【0023】
中間プレート200には、酸化ガス供給マニホールド形成用孔202に、酸化ガス供給マニホールド形成用孔202と酸化ガス導入用孔256とを連通する酸化ガス供給用連通部216が形成され、酸化ガス排出マニホールド形成用孔204に、酸化ガス排出マニホールド形成用孔204と酸化ガス導出用孔258を連通する酸化ガス排出用連通部218が形成されている。
【0024】
酸化ガスは、酸化ガス供給マニホールド102から酸化ガス供給マニホールド形成用孔202、酸化ガス供給用連通部216、酸化ガス導入用孔256を経由して多孔体350に供給され、未反応の酸化ガスは、酸化ガス導出用孔258、酸化ガス排出用連通部218、酸化ガス排出マニホールド形成用孔204を経由して酸化ガス排出マニホールド104に排出される。
【0025】
図3を用いて、膜電極接合体部30の構造について説明する。図3は、膜電極接合体部30を模式的に示す平面図である。図3においては、膜電極接合体40と奥側の多孔体351は、手前側の多孔体350により隠れるため、図面上に示していない。
【0026】
フレーム300の中央部には、辺320a、辺320b、辺320c、辺320dの4つの辺で囲まれる矩形状の開口部320が形成されている。図3において、フレーム300の開口部320の上側には酸化ガス供給マニホールド形成用孔302が形成され、下側には酸化ガス排出マニホールド形成用孔304が形成され、左側には燃料ガス供給マニホールド形成用孔306と冷却水供給マニホールド形成用孔310が形成され、右側には燃料ガス排出マニホールド形成用孔308と冷却水排出マニホールド形成用孔312が形成されている。
【0027】
手前側の多孔体350は、矩形状をしており、酸化ガスが流れる方向となす角の大きさが、酸化ガスが流れる方向と多孔体350の対角線とがなす角よりも小さくなる分割線350aにより、第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cに分割されている。ここで、本実施例では、酸化ガスは酸化ガス供給マニホールド形成用孔302から供給され、第1の多孔体部350b、第2の多孔体部350cを通って、酸化ガス排出マニホールド形成用孔304に排出される。したがって、酸化ガスが流れる方向は、図3において、図面の上方から下方に向かう方向である。
【0028】
第1の多孔体部350bは、台形形状を有し、第1の多孔体部350bの上部に底辺350dを、下部に底辺350eを、左部に側辺350fを、右上部に分割部350gを備える。第2の多孔体部350cは、台形形状を有し、第2の多孔体部350cの上部に底辺350hを、下部に底辺350iを、左下部に分割部350jを、右部に側辺350kを備える。第1の多孔体部350bの側辺350fと開口部の辺320cとは、密着し、第2の多孔体部350cの側辺350kと開口部の辺320dとは、密着し、第1の多孔体部350bの分割部350gと第2の多孔体部350cの分割部350jとは、密着している。その結果、酸化ガスが流れる方向に関して、酸化ガス供給マニホールド形成用孔302から酸化ガス排出マニホールド形成用孔304に至る隙間は生じない。したがって、隙間を埋めるためのシール部材が不要となる。
【0029】
また、酸化ガスは、酸化ガス供給マニホールド形成用孔302から酸化ガス排出マニホールド形成用孔304に至る経路上で必ず第1の多孔体部350b、第2の多孔体部350cの少なくとも一方あるいは双方を通過する。一般的に、酸化ガスが流れる場合において、第1の多孔体部350bあるいは第2の多孔体部350cのいずれも通過せずに酸化ガスが流れる隙間が生じた場合、隙間を流れる酸化ガスは、燃料電池の発電反応に用いられることなく排出されるため、燃料電池の発電効率が低下する。しかし、本実施例によれば、酸化ガスの流れ方向に関して、第1の多孔体部350bあるいは第2の多孔体部350cのいずれをも通過せずに酸化ガスが流れる隙間が生じないため、燃料電池10の発電効率の低下が起こりにくい。
【0030】
さらに、酸化ガスが流れる方向となす角の大きさが、酸化ガスが流れる方向と多孔体350の対角線とがなす角よりも小さくなる分割線350aにより、第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cに分割することにより、開口部320の辺320dと第2の多孔体部350cの側辺350kとの間のシール長を多孔体350の酸化ガス流れ方向の長さと同じ長さにできる、すなわち、シール長を最も長くできる。その結果、多孔体と開口部との隙間を最小にできるので、燃料電池の発電効率を高めることができる。
【0031】
また、酸化ガスが流れる方向に対して、多孔体350を斜めに分割することにより、例えば、燃料電池10の電気化学反応により発生する熱により第1の多孔体部350b、第2の多孔体部350cが膨張しても、分割線方向に移動して吸収できるので、隙間が生じにくい。
【0032】
多孔体350を2つに分割する場合、第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cを同じ形状に分割するのが好ましい。例えば、図3において、第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cを同じ形状に分割することにより、左右の通気抵抗のバランスをとることができるので、燃料電池10の発電効率をよくすることができる。
【0033】
図4を用いて、多孔体350と開口部320の隙間の大きさと多孔体350を分割する分割線と酸化ガスの流れる方向とのなす角度の関係について説明する。図4は、多孔体350と開口部320の間の隙間の大きさと多孔体350を分割する分割線350aと酸化ガスの流れ方向とのなす角度の関係を示す説明図である。図4においては、開口部320及び開口部320の内側のみを描いている。
【0034】
多孔体350を分割しない状態で開口部320内に配置する場合には、例えば、開口部320に多孔体350を、辺320bと辺320cとが接するように配置する。このとき、多孔体350と開口部320の辺320dとの間には、長さx1の隙間が生じる。一方、多孔体350と開口部320の辺320aとの間には長さy1の隙間が生じる。
【0035】
多孔体350をガス流れ方向とθの角度をなす分割線350aで分割した第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cを配置する場合には、例えば、第2の多孔体部350cを側辺350kが辺320dに接し、底辺350iが辺320bに接するように配置し、第1の多孔体部350bの側辺350fが辺320cに接する状態を維持させたまま、第1の多孔体部350bを配置する。
【0036】
多孔体350と開口部320の辺320aとの間の隙間の長さy1の値が、A=x1/tanθで示される値よりも大きければ、底辺350dと辺320aとが接しない状態で、分割部350gと分割部350jとが接するように第1の多孔体部350bを配置することができる。一方、多孔体350と開口部320の辺320aとの間の隙間の長さy1の値がAの値よりも小さい場合には、分割部350gと分割部350jとが接するように第1の多孔体部350bを配置すると、底辺350dが辺320aから図面上方に突き出る。すなわち、底辺350dが辺320aから突き出ないように第1の多孔体部350bを配置すれば、分割部350gと分割部350jとの間に隙間が生じる。
【0037】
したがって、底辺350dと辺320aとが接しない状態で、かつ、分割部350gと分割部350jとが接して隙間を生じさせないためには、y1≧x1/tanθを満たさなければならない。すなわち、分割線350aが酸化ガスの流れる方向となす角θは、tanθ≧x1/y1を満たす角度、すなわちarctan(x1/y1)以上の角度があればよい。ただし、θの値は90度以下である。
【0038】
分割線350aは、多孔体350の対角線と一致させてもよい。分割線350aを多孔体350の対角線と一致させることにより、第1の多孔体部350bと開口部320とのシール長及び第2の多孔体部350cと開口部320とのシール長は、多孔体350のガス流れ方向の長さと同じ長さとなり、シール長を最も長くできる。その結果、多孔体と開口部との隙間を最小にでき、燃料電池の発電効率を良くすることができる。
【0039】
さらに、分割線350aを多孔体350の対角線と一致させることにより、ガスが流れる方向と垂直な方向について開口部320と多孔体350の間の隙間の長さに対する許容度を高めることができる。すなわち、ガスが流れる方向と垂直な方向について開口部320と多孔体350の間の隙間の長さが所定の長さ以上になると、第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cをいかに配置しても、どこかにガス流れ方向についての隙間が生じてしまう。しかし、分割線350aを多孔体350の対角線と一致させることにより、ガスが流れる方向と垂直な方向についての開口部と多孔体の間の隙間の長さに関して、ガス流れ方向についての隙間が生じないための限界値を大きくすることができる。
【0040】
ここで、多孔体350を対角線と一致する分割線350aで分割した場合において、y1≧x1/tanθを満たさない場合には、側辺350kと辺320dの間の隙間の長さx1を小さくするか、底辺350dと辺320aの間の隙間y1を大きくする必要がある。ここで、一旦、多孔体350と開口部320を形成した後、側辺350kと辺320dの間の隙間の長さx1を小さくすることは、多孔体350を大きくするか、開口部320を小さくする必要があり、困難である。一方、底辺350dと辺320aの間の隙間y1を大きくすることは、例えば、多孔体350を削って酸化ガスの流れる方向の大きさを小さくするか、開口部320を削って酸化ガスの流れる方向の大きさを大きくすればよいため、容易である。
【0041】
以上、本実施例によれば、酸化ガスが流れる方向に対して斜めに分割された第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cを有する多孔体350を備えている。したがって、酸化ガスが流れる方向について隙間が生じないように第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cを配置できる。その結果、酸化ガスの隙間流れを防止、抑制するためのシール部材が不要となる。また、酸化ガスの隙間流れが発生しないため、燃料電池の効率低下を防止、抑制できる。
【0042】
(変形例)
なお、図5に示すように、多孔体350を酸化ガスが流れる方向となす角の大きさが、酸化ガスが流れる方向と多孔体350の対角線とがなす角よりも大きくなる分割線350tで分割してもよい。図5は、多孔体350を酸化ガスが流れる方向となす角の大きさが、酸化ガスが流れる方向と多孔体350の対角線とがなす角よりも大きくなる分割線350tで分割する場合の実施例を示す説明図である。
【0043】
図5に示す実施例では、多孔体350は、酸化ガスが流れる方向となす角の大きさが、酸化ガスが流れる方向と多孔体350の対角線とがなす角よりも大きくなる分割線350tにより第3の多孔体部350mと第4の多孔体部350nに分割される。図5に示す実施例においても、酸化ガスは、酸化ガス供給マニホールド形成用孔302から酸化ガス排出マニホールド形成用孔304に至る経路上で必ず第3の多孔体部350m及び第4の多孔体部350nの少なくとも一方を通過し、隙間のみを通過することはない。したがって、酸化ガスの流れ方向に関して第3の多孔体部350mあるいは第4の多孔体部350nのいずれも通過せずに酸化ガスが流れる隙間が生じないため、燃料電池10の発電効率の低下が起こりにくい。
【0044】
本実施例では、酸化ガスが流れる多孔体350を分割する場合について説明したが、燃料ガスが流れる多孔体351についても分割することにより燃料ガスの隙間流れを抑制できるのは言うまでもない。
【0045】
本実施例では、多孔体350を2つに分割する場合について説明したが、例えば、図6に示すように3つに分割してもよい。図6は、多孔体350を3つの多孔体部に分割する実施例を示す説明図である。図6に示す実施例では、第2の多孔体部350cを、さらに分割線350qで分割することにより、第5の多孔体部350rと第6の多孔体部350sに分割し、多孔体350を3つに分割している。多孔体350を3つに分割することによっても、酸化ガスが流れる方向について、隙間が生じないように、第1の多孔体部350b、第5の多孔体部350r、第6の多孔体部350sを配置できる。したがって、酸化ガスの隙間流れを防止抑制できる。その結果、燃料電池10の発電効率の低下を起こりにくくできる。なお、多孔体350を4つ以上の多孔体部に分割してもよい。多孔体部の配置の自由度が増し、酸化ガスの隙間流れを抑制し易くなる。
【0046】
多孔体350を3つに分割する場合において、分割線350aと分割線350qは、酸化ガスの流れる方向について対称であってもよい。例えば、第1の多孔体部350bと第6の多孔体部350sを、酸化ガス流れ方向の位置(y座標)が同じになるように配置すれば、第1の多孔体部350bと第5の多孔体部350rが接する部分と、第5の多孔体部350rと第6の多孔体部350sが接する部分の長さを同じにできるため、例えば図7において、接する部分について左右の通気抵抗を同じにできる。その結果、電気化学反応の左右のバランスがとれるので燃料電池の発電効率をよくすることができる。
【0047】
多孔体350を3つに分割する場合、さらに、分割線350aと分割線350qの対称軸は、多孔体350の中心線A−Aを通ってもよい。例えば、図6において、分割線350aと分割線350qの対称軸が多孔体350の中心線A−Aを通るように多孔体350を分割すれば、酸化ガスの流れについて、より左右のバランスをとることができるため、通気抵抗についても、より左右のバランスをとることができる。その結果、電気化学反応についても、より左右のバランスをとれるので燃料電池の発電効率をよりよくすることができる。
【0048】
本実施例では、開口部320に酸化ガスの流れる方向と垂直な辺には何も設けていなかったが、図7に示すように、第1の多孔体部350b、第2の多孔体部350cをフレーム300に押しつけるためのバネ部322を設けてもよい。図7は、フレーム300の開口部320に第1の多孔体部350b、第2の多孔体部350cを押しつけるためのバネ部322を備える実施例を示す説明図である。図7において、酸化ガスが流れる方向と垂直な辺である、フレーム300の開口部320の辺320aと辺320bにはバネ部322が備えられている。バネ部322として、例えば、板バネを用いることができる。
【0049】
第1の多孔体部350bは、バネ部322から押される力と、第2の多孔体部350cからの垂直抗力により、開口部320の辺320cの方向に押しつけられる。したがって、側辺350fと辺320cとは、強く密着し、側辺350fと辺320cとの間には、隙間が生じない。第2の多孔体部350cは、バネ部322から押される力と、第1の多孔体部350bからの垂直抗力により、開口部320の辺320dの方向に押しつけられる。したがって、側辺350kと辺320dとは、強く密着し、側辺350kと辺320dとの間には、隙間が生じない。また、第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cは相互に垂直抗力により押しつけられている。したがって、分割部350gと分割部350jとは、強く密着し、分割部350gと分割部350jとの間には、隙間が生じない。すなわち、酸化ガス供給マニホールド形成用孔302から酸化ガス排出マニホールド形成用孔304に至る経路上で必ず第1の多孔体部350b及び第2の多孔体部350cの一方あるいは双方を通過し、隙間のみを通過することはない。
【0050】
バネ部322は、ガスが流れる方向に対して垂直な辺である、第1の多孔体部350bの2つの底辺350d、350eのうち長い方の底辺である底辺350eを押すように設けられている。これにより、分割部350gと分割部350jとが押し合うようにすることができる。なお、本変形例では、バネ部322を用いたが、例えば、第1の多孔体部350b及び第2の多孔体部350cの位置決めをするための突起であってもよい。突起を備えることにより、例えば、第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cの位置決めが容易になる。
【0051】
なお、実施例の説明では、第1の多孔体部350b、第2の多孔体部350cの製造方法については説明しなかったが、多孔体部として直接製造するのではなく、一旦矩形状の多孔体350を製造した後に分割して製造することが好ましい。第1の多孔体部350bと第2の多孔体部350cとを別個に製造する場合には、例えば、第1の多孔体部350bの分割部350gと酸化ガスが流れる方向のなす角の角度と、第2の多孔体部350cの分割部350jと酸化ガスが流れる方向のなす角の角度を同じにすることは難しい。角度を完全に同じにできないと、例えば、第1の多孔体部350bの分割部350gと第2の多孔体部350cの分割部350jとを密着させることが困難となる。すなわち、第1の多孔体部350bの分割部350gと第2の多孔体部350cの分割部350jとの間に隙間が生じ、その隙間に酸化ガスが流れることにより多孔体を流れる酸化ガス量、すなわち、電池反応に用いられる酸化ガス量が減少し、燃料電池の発電効率が低下するからである。
【0052】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例に係る燃料電池の外観を模式的に示す斜視図。
【図2】図1に示す燃料電池をyz平面と平行な面で切った断面を模式的に示す説明図。
【図3】膜電極接合体部を模式的に示す平面図。
【図4】多孔体と開口部の間の隙間の大きさと多孔体を分割する分割線と酸化ガスの流れ方向とのなす角度の関係を示す説明図。
【図5】図3に示す多孔体を切る分割線の位置を変えた実施例を模式的に示す説明図。
【図6】多孔体を3つの多孔体部に分割する場合の実施例を説明する図。
【図7】フレームの開口部に多孔体部を押しつけるためのバネ部を備える実施例を示す説明図。
【符号の説明】
【0054】
10…燃料電池
20…セパレータ部
30…膜電極接合体部
40…膜電極接合体
102…酸化ガス供給マニホールド
104…酸化ガス排出マニホールド
106…燃料ガス供給マニホールド
108…燃料ガス排出マニホールド
110…冷却水供給マニホールド
112…冷却水排出マニホールド
200…中間プレート
202…酸化ガス供給マニホールド形成用孔
204…酸化ガス排出マニホールド形成用孔
216…酸化ガス供給用連通部
218…酸化ガス排出用連通部
220…アノード側プレート
240…カソード側プレート
256…酸化ガス導入用孔
258…酸化ガス導出用孔
300…フレーム
302…酸化ガス供給マニホールド形成用孔
304…酸化ガス排出マニホールド形成用孔
306…燃料ガス供給マニホールド形成用孔
308…燃料ガス排出マニホールド形成用孔
310…冷却水供給マニホールド形成用孔
312…冷却水排出マニホールド形成用孔
320…開口部
320a…辺
320b…辺
320c…辺
320d…辺
322…バネ部
350…多孔体
350a…分割線
350b…第1の多孔体部
350c…第2の多孔体部
351…多孔体
350d…底辺
350e…底辺
350f…側辺
350g…分割部
350h…底辺
350i…底辺
350j…分割部
350k…側辺
350m…第3の多孔体部
350n…第4の多孔体部
350q…分割線
350r…第5の多孔体部
350s…第6の多孔体部
350t…分割線
400…電解質膜
420…触媒層
421…触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
膜電極接合体と、
前記膜電極接合体に隣接し所定方向に流れるガスを拡散する多孔体であって、前記ガスが流れる方向に対して斜めに分割された第1の多孔体部と第2の多孔体部を有する多孔体と、
前記膜電極接合体と前記多孔体とを内部に支持する開口部を有するフレームと、
を備える燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記多孔体の形状及び前記開口部の形状は矩形状である、燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池において、
前記第1の多孔体部と第2の多孔体部は、
前記第1の多孔体部の一辺は、前記ガスが流れる方向と平行な前記開口部の2つの辺のうちの第1の辺と接し、
前記第2の多孔体部の一辺は、前記ガスが流れる方向と平行な前記開口部の2つの辺のうち前記第1の辺と異なる第2の辺と接し、
前記第1の多孔体部と第2の多孔体部とが接するように、
前記開口部内に配置される、燃料電池。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池において、
前記ガスが流れる方向と前記多孔体を分割する分割線とがなす角度は、前記ガスが流れる方向と前記多孔体の対角線がなす角度よりも小さく、
かつ、前記第1の多孔体部の形状と前記第2の多孔体部の形状は台形である、燃料電池。
【請求項5】
請求項3に記載の燃料電池において、
前記分割線は前記多孔体の対角線と一致する、燃料電池。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載の燃料電池において、
前記ガスが流れる方向と前記分割線のなす角度は、その角度に対する正接の値が、前記ガスが流れる方向と垂直な方向における前記多孔体と前記開口部との間の隙間の長さを、前記ガスが流れる方向と平行な方向における前記多孔体と前記開口部の隙間の長さで割った値以上となる角度である、燃料電池。
【請求項7】
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の燃料電池において、
前記ガスが流れる方向と平行な方向における前記多孔体と前記開口部の間の隙間の長さが、前記ガスが流れる方向と垂直な方向における前記多孔体と前記開口部の間の隙間の長さを、前記ガスが流れる方向と前記分割線のなす角度の正接の値で割った値以上になるような大きさに形成されている、燃料電池。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池において、さらに、
前記第2の多孔体部は、複数の多孔体部に分割されている、燃料電池。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載に燃料電池において、さらに、
前記フレームは、前記分割された多孔体部の位置を決めるための位置決め手段を備える、燃料電池。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料電池において、
前記位置決め手段は、フレームの一辺であって、前記分割された多孔体部におけるガスが流れる方向に対して垂直な辺に備えられ、前記第1の多孔体部を押圧し、前記第1の多孔体部と異なる多孔体部をフレームの一辺であって、ガスが流れる方向に対して平行な辺に押しつける、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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