説明

燃料電池

【課題】燃料電池の発電領域における温度分布を改善する技術を提供する。
【解決手段】燃料電池は、膜電極接合体60と、膜電極接合体60を狭持するセパレータとを備える。膜電極接合体60は、電解質膜61と、電解質膜61の両面に配置された電極62,63とを備える。電極62,63は、触媒層70と、ガス拡散層72と、それらを接合する接合層75とを有する。セパレータには、膜電極接合体60の電極面に沿って冷媒を流すための冷媒流路が設けられている。接合層75には、冷媒の上流側に、冷媒の下流側の領域より触媒層70とガス拡散層72との間の熱の移動が抑制されている熱移動抑制領域が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池としては、電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体と、膜電極接合体を狭持する2枚の板状部材であるセパレータとを備えるものが知られている。セパレータには、通常、膜電極接合体の各電極に反応ガスを誘導するためのガス流路と、各電極面に沿って冷媒を流すための冷媒流路とが設けられる(下記特許文献1等)。
【0003】
ここで、燃料電池の発電効率を向上させるためには、膜電極接合体の発電領域における温度分布が適切に制御されていることが好ましい。しかし、膜電極接合体の発電領域では、冷媒の上流側の方が下流側に比較して、より冷却される傾向にあるため、温度分布が不均一となってしまう可能性がある。特に、氷点下などの低温環境下において燃料電池を起動させる際には、冷媒の上流側が著しく低温となり、燃料電池の起動性が悪化してしまう場合がある。
【0004】
また、低温環境下に限らず、複数の膜電極接合体が積層された燃料電池の場合には、積層方向の端部に配置された膜電極接合体の運転温度は低くなる傾向にある。そのため、当該膜電極接合体では、発電領域における冷媒の上流側の温度が著しく低くなってしまう可能性がある。これまで、冷媒の冷却効率の不均一性によって、発電領域における運転温度の温度分布が不均一となってしまうことについて、十分な工夫がなされてこなかったのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−176974号公報
【特許文献2】特開2009−081117号公報
【特許文献3】特開2009−099402号公報
【特許文献4】特開2004−214045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃料電池の発電領域における温度分布を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
燃料電池であって、電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体と、前記膜電極接合体を狭持するセパレータと、を備え、前記セパレータには、前記電極の面に沿って冷媒を流すための冷媒流路が設けられており、前記膜電極接合体の電極は、発電反応を促進させるための触媒が担持された触媒層と、反応ガスを前記触媒層の全体に拡散させるためのガス拡散層と、を備え、前記電極の少なくとも一方には、前記触媒層と前記ガス拡散層とを接合するための接合層が設けられており、前記接合層には、前記冷媒の上流側に、前記冷媒の下流側の領域より前記触媒層と前記ガス拡散層との間の熱の移動が抑制されている熱移動抑制領域が設けられている、燃料電池。
この燃料電池によれば、熱移動抑制領域によって、触媒層で生じた反応熱が冷媒によって奪われることを抑制できる。従って、燃料電池の起動時など、燃料電池が低温である場合であっても、熱移動抑制領域が設けられている領域が、冷媒によって冷却されすぎてしまうことを抑制でき、電極面(発電領域)における温度分布を改善することができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池であって、前記熱移動抑制領域は、前記冷媒の下流側の領域よりも伝熱性が低い領域である、燃料電池。
この燃料電池によれば、熱移動抑制領域が設けられた領域において、接合層を介して触媒層からガス拡散層へと反応熱が伝導することを抑制でき、冷媒による当該領域の温度低下が抑制される。
【0010】
[適用例3]
適用例1記載の燃料電池であって、前記熱移動抑制領域は、前記冷媒の下流側の領域よりも熱容量が高い領域である、燃料電池。
この燃料電池によれば、熱移動抑制領域が設けられた領域における触媒層の保温性を向上させることができ、冷媒による当該領域の温度低下が抑制される。
【0011】
[適用例4]
適用例1〜3のいずれか一つに記載の燃料電池であって、前記熱移動抑制領域は、前記冷媒の下流側の領域に対して、予め選択された材料の含有量を変えることにより、前記触媒層と前記ガス拡散層との間の熱の移動を抑制している、燃料電池。
この燃料電池によれば、熱移動抑制領域に含まれる予め選択された材料の含有量によって、熱移動抑制領域における熱の移動が抑制される度合いを調整することができる。
【0012】
[適用例5]
適用例4に記載の燃料電池であって、前記接合層は、熱可塑性を有する高分子材料を含み、前記熱移動抑制領域は、前記予め選択された材料として前記高分子材料を、前記冷媒の下流側の領域よりも多く含むことにより、前記触媒層と前記ガス拡散層との間の熱の移動を抑制する、燃料電池。
この燃料電池によれば、接合層の冷媒上流側の領域に含まれる高分子材料の量を、冷媒下流側の領域より多くすることにより、接合層の冷媒上流側の領域に熱移動抑制領域を設けることができる。
【0013】
[適用例6]
適用例4に記載の燃料電池であって、前記接合層は、炭素系材料を含み、前記熱移動抑制領域は、前記予め選択された材料として前記炭素系材料を、前記冷媒の下流側の領域よりも少なく含むことにより、前記触媒層と前記ガス拡散層との間の熱の移動を抑制する、燃料電池。
この燃料電池によれば、接合層の冷媒上流側の領域に含まれる炭素系材料の量を、冷媒下流側の領域より少なくすることにより、接合層の冷媒上流側の領域に熱移動抑制領域を設けることができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池、その燃料電池を備えた燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】燃料電池の構成を示す概略図。
【図2】シール一体型膜電極接合体の構成を示す概略図。
【図3】シール一体型膜電極接合体の構成を示す概略断面図。
【図4】膜電極接合体の電極の形成工程を工程順に示す模式図。
【図5】セパレータのカソードプレートの構成を示す概略図。
【図6】セパレータのアノードプレートの構成を示す概略図。
【図7】セパレータの中間プレートの構成を示す概略図。
【図8】膜電極接合体の接合層の構成例を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池の構成を示す概略図である。この燃料電池100は、反応ガスとして酸素(カソードガス)と水素(アノードガス)の供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池100は、シール一体型膜電極接合体10とセパレータ20とが交互に積層されたスタック構造を有する。
【0017】
セパレータ20は、いわゆる3層式セパレータであり、カソードプレート30と、中間プレート40と、アノードプレート50とを備える。カソードプレート30およびアノードプレート50はそれぞれ、シール一体型膜電極接合体10のカソード側およびアノード側に配置され、中間プレート40は、カソードプレート30とアノードプレート50とで狭持されている。
【0018】
図2は、シール一体型膜電極接合体10の構成を示す概略図であり、シール一体型膜電極接合体10のカソード側の面が図示されている。なお、シール一体型膜電極接合体10のアノード側の面の構成は、カソード側の面の構成と同様であるため、その図示および説明は省略する。シール一体型膜電極接合体10は、発電反応が行われる略四角形状の発電領域11と、発電領域11の外周に設けられたシール部12とを有する。シール部12には、反応ガスのためのマニホールドM1,M2,M3a,M3b,M4a,M4b,M5,M6が貫通孔として設けられている。具体的には、水素供給用マニホールドM1と水素排出用マニホールドM2とが、発電領域11を挟んで対角する位置に形成されている。
【0019】
冷媒供給用マニホールドM5と冷媒排出用マニホールドM6とはそれぞれ、発電領域11の互いに対向する二辺(紙面左右方向の二辺)のそれぞれに沿って略長方形形状を有するように設けられている。なお、冷媒供給用マニホールドM5と水素供給用マニホールドM1とは同じ側に一列に配置されている。また、冷媒排出用マニホールドM6と水素排出用マニホールドM2とは、その反対側に一列に配置されている。
【0020】
第1と第2の酸素供給用マニホールドM3a,M3bは、それぞれが略長方形形状を有しており、発電領域11の紙面下側の辺に沿って一列に配列されている。第1と第2の酸素排出用マニホールドM4a,M4bは、第1と第2の酸素供給用マニホールドM3a,M3bと同様に、発電領域11の紙面上側の辺に沿って一列に配列されている。
【0021】
シール部12の外表面には、流体の漏洩を防止するためのシールラインSL(一点鎖線で図示)が設けられている。シールラインSLは、発電領域11と、各マニホールドM1,M2,M3a,M3b,M4a,M4b,M5,M6とを囲むように、カソード側の面とアノード側の面のそれぞれに対称に形成されている。
【0022】
図3(A)は、図2に示す3−3切断におけるシール一体型膜電極接合体10の断面を示す概略断面図である。図3(B)は、図3(A)に示された膜電極接合体60の一部を拡大して示した概略断面図である。シール一体型膜電極接合体10の発電領域11には、膜電極接合体60が配置されている。膜電極接合体60は、電解質膜61の両面に電極62,63(カソード62およびアノード63)が一体的に配置された発電体である。
【0023】
電解質膜61は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す高分子薄膜によって構成することができる。カソード62およびアノード63はそれぞれ、触媒層70と、ガス拡散層72と、接合層75とが積層された積層構造を有している。触媒層70は、電解質膜61の外表面に配置される導電性とガス拡散性とを有する多孔質層であり、燃料電池反応を促進するための触媒が配置されている。触媒層70は、例えば、触媒である白金(Pt)が担持されたカーボン(C)によって構成することができる。
【0024】
ガス拡散層72は、カソード62およびアノード63の外表面に配置される導電性とガス拡散性とを有する多孔質層である。ガス拡散層72は、例えば、カーボンの焼結体やカーボンペーパによって構成することが出来る。接合層75は、触媒層70とガス拡散層72との間に設けられ、触媒層70とガス拡散層72とを接着するための層である。接合層75には、熱可塑性を有する樹脂部材と、カーボンとが含まれている。
【0025】
図4(A)〜(D)は、膜電極接合体60のカソード62の形成工程を工程順に示す模式図である。なお、アノード63の形成工程については、カソード62と同様であるため、その図示および説明は省略する。第1工程では、電解質膜61を準備する(図4(A))。第2工程では、電解質膜61の一方の面に触媒層70を形成する(図4(B))。具体的には、電解質膜61の一方の面に、水溶性溶媒または有機溶媒に触媒担持カーボンと電解質膜と同種の高分子電解質を分散させた混合溶液である触媒インクを、ダイコータなどによって塗布し、乾燥させる。
【0026】
第3工程では、ガス拡散層72の基材であるカーボンペーパを準備し、その一方の外表面に、接合層75の材料であるカーボンと樹脂材料とを含有する混合溶液を塗布する(図4(C))。そして、その塗布面と触媒層70とを接触させてホットプレスする。これによって、触媒層70とガス拡散層72とが接合層75によって接着されたカソード62が形成される(図4(D))。なお、触媒層70とガス拡散層72とは、接合層75によって、0.03N/cm(90度剥離強度試験による測定値)以上の強度で互いに接合されていることが好ましい。
【0027】
このように、カソード62およびアノード63において、接合層75が設けられていることにより、触媒層70とガス拡散層72との間の電気抵抗を低下させることができる。また、接合層75を設けることにより、触媒層70とガス拡散層72との間の空隙が低減され、触媒層70とガス拡散層72との間に燃料電池反応の生成水が滞留してしまう、いわゆるフラッディングの発生が抑制される。さらに、接合層75を設けることにより、電解質膜61の膨潤・収縮に伴って生じる触媒層70とガス拡散層72との剥離などの電極の劣化を抑制することができる。ところで、本実施例のシール一体型膜電極接合体10では、触媒層70とガス拡散層72との間の熱の移動しやすさが、領域ごとに不均一となるように、接合層75を構成しているが、その詳細については後述する。
【0028】
シール部12(図3(A))は、膜電極接合体60の外周端部を被覆するように形成されている。これによって、膜電極接合体60とシール部12とが一体化されている。なお、シール部12の外表面には、突起部13が設けられている。突起部13は、セパレータ20によって押圧されたときにシールラインSL(図2)を形成する。
【0029】
シール部12によって囲まれたカソード62とアノード63の外表面には、ガス流路部材65が配置されている。ガス流路部材65は、導電性およびガス拡散性を有する多孔質部材である。ガス流路部材65は、発電領域11全体に反応ガスを行き渡らせるためのガス流路として機能するとともに、発電領域11で発電された電気をセパレータ20へと導く導電パスとして機能する。なお、ガス流路部材65としては、例えば、エキスパンドメタルやパンチングメタルなどの金属板を加工した部材が用いられるものとしても良い。
【0030】
図5は、セパレータ20のカソードプレート30の構成を示す概略図である。図5は、カソードプレート30を図2と同様な方向から見たときの図であり、発電領域11と重なる領域が二点鎖線により図示されている。カソードプレート30は、金属板などの導電性を有するガス不透過の板状部材によって構成することができる。カソードプレート30には、シール一体型膜電極接合体10と同様にマニホールドM1,M2,M3a,M3b,M4a,M4b,M5,M6が貫通孔として設けられている。
【0031】
また、カソードプレート30には、発電領域11内に、複数の酸素用の連通孔31,32が設けられている。酸素供給用の連通孔31は、第1と第2の酸素供給用マニホールドM3a,M3bの側において、発電領域の一辺(紙面下側の辺)に沿って一列に配列されている。酸素排出用の連通孔32は、第1と第2の酸素排出用マニホールドM4a,M4bの側に、酸素供給用の連通孔31と同様に配列されている。
【0032】
図6は、セパレータ20のアノードプレート50の構成を示す概略図である。図6は、酸素用の連通孔31,32に換えて、水素用の直線流路51,52が形成されている点以外は、図5とほぼ同じである。アノードプレート50には、水素用の直線流路51,52が発電領域11内において、貫通溝として設けられている。より具体的には、水素供給用の直線流路51が、水素供給用マニホールドM1が形成された側において、紙面左右方向にわたって、発電領域11の一辺に沿うように形成されている。水素排出用の直線流路52は、水素排出用マニホールドM2が形成された側において、水素供給用の直線流路51と同様に形成されている。なお、水素用の直線流路51,52はそれぞれ、アノードプレート50とカソードプレート30とを重ねたときに、酸素用の連通孔31,32より内側に位置するように形成されている。
【0033】
図7は、セパレータ20の中間プレート40の構成を示す概略図である。図7は、中間プレート40を図6と同様な方向から見たときの図であり、発電領域11と重なる領域が二点鎖線により図示されている。中間プレート40は、樹脂フィルムによって構成することができる。中間プレート40には、アノードプレート50と同様に、マニホールドM1,M2,M3a,M3b,M4a,M4b,M5,M6が設けられている。また、中間プレート40には、酸素用の並列流路41,42と、水素用の直線流路43,44と、冷媒流路45とが設けられている。
【0034】
並列流路41,42はそれぞれ、複数の流路が並列に配列された櫛歯状流路である。並列流路41,42は、セパレータ20を構成したときに、酸素供給用マニホールドM3a,M3bまたは酸素排出用マニホールドM4a,M4bと、酸素用の連通孔31,32とを連結する。酸素供給用マニホールドM3a,M3bの酸素は、中間プレート40の並列流路41を介して、カソードプレート30の連通孔31からカソード62へと供給される。また、カソード62において反応に用いられなかったガスを含むカソード排ガスは、カソードプレート30の連通孔32から、中間プレート40の並列流路42へと流入し、酸素排出用マニホールドM4a,M4bへと排出される。
【0035】
水素用の直線流路43,44はそれぞれ、セパレータ20を構成したときに、アノードプレート50の直線流路51,52とほぼ重なるように形成された流路であり、水素供給用マニホールドM1または水素排出用マニホールドM2と連結されている。水素供給用マニホールドM1に供給された水素は、中間プレート40の直線流路43を介して、アノードプレート50の直線流路51へと流入し、アノード63に供給される。アノード63において反応に用いられることのなかった水素を含むアノード排ガスは、アノードプレート50の直線流路52から中間プレート40の直線流路44へと流入し、水素排出用マニホールドM2へと排出される。
【0036】
冷媒流路45は、冷媒供給用マニホールドM5と冷媒排出用マニホールドM6とを連結する流路であり、水素用の直線流路43,44の間の領域全体を貫通させることにより形成されている。冷媒流路45には、複数の流路壁部材47が配列されており、これによって、冷媒供給用マニホールドM5と冷媒排出用マニホールドM6とを結ぶ複数の並列な直線流路が形成されている。複数の流路壁部材47は、導電性部材によって構成されており、セパレータ20として組み付けられたときに、カソードプレート30とアノードプレート50との間の導電パスとして機能する。冷媒供給用マニホールドM5に供給された冷媒は、発電領域11の反応熱を奪いつつ、複数の流路壁部材47に沿って、冷媒排出用マニホールドM6へと流れる。
【0037】
ここで、本明細書では、膜電極接合体の発電領域上(電極面上)において冷媒が流れる方向を「冷媒流路方向」と呼ぶ。通常、燃料電池では、冷媒流路方向の上流側ほど、冷媒によって奪われる反応熱量は多くなる。従って、燃料電池を氷点下などの低温環境下において起動させる場合には、冷媒流路方向の上流側の温度が低くなりすぎてしまい、燃料電池の起動性や発電性能が低下してしまう可能性がある。
【0038】
そこで、本実施例の燃料電池100では、カソード62およびアノード63の接合層75の構成を、冷媒上流側と冷媒下流側とで変えることにより、発電領域11の冷媒上流側における温度低下を抑制する。即ち、発電領域11における冷媒下流側より冷媒上流側の方が、触媒層70からガス拡散層72への熱の移動が抑制されるように、接合層75の構成している。これによって、燃料電池100を低温環境下で起動させる場合などに、発電領域11における冷媒の上流側が冷媒によって冷却されすぎてしまうことを抑制することができる。なお、本明細書では、以後、発電領域11において、触媒層70とガス拡散層72との間における熱の移動が抑制されている度合いを「熱移動抑制レベル」と呼ぶ。
【0039】
図8,(A)〜(C)はそれぞれ、膜電極接合体60の接合層75の構成例を説明するための模式図である。図8(A)〜(C)にはそれぞれ、膜電極接合体60の発電領域11と、冷媒用のマニホールドM5,M6と、冷媒流路方向を示す矢印とが模式的に図示されている。なお、各図の発電領域11には、熱移動抑制レベルを濃度によって示すハッチングが付してある。発電領域11のハッチングは、濃度が高いほど、熱移動抑制レベルが高いことを示している。
【0040】
図8(A)の例では、発電領域11に熱移動抑制レベルの異なる2つの領域が設けられている。即ち、冷媒の上流側(冷媒の入口側)に熱移動抑制レベルが高い領域を設け、冷媒の下流側(冷媒の出口側)に熱移動抑制レベルの低い領域が設けられている。ここで、熱移動抑制レベルは以下のように調整することができる。
【0041】
熱移動抑制レベルを変えるためには、接合層75の熱容量を変えるものとしても良い。具体的には、例えば、図4(C)において説明した接合層75の形成工程において、以下の混合溶液を用いて接合層75を設けるものとしても良い。即ち、熱移動抑制レベルを高くする領域(冷媒の上流側)には、比熱の高い材料(例えば、樹脂材料)の含有濃度が高い混合溶液を塗布し、熱移動抑制レベルを低くする領域(冷媒の下流側)には、当該材料の含有量濃度が低い混合溶液を塗布する。なお、これらの混合溶液の塗布量は、発電領域11全体に均一となるようにする。これによって、冷媒上流側の領域における比熱の高い材料の含有量が冷媒下流側の領域より多くなり、冷媒上流側の領域における総熱容量が高くなる。
【0042】
また、熱移動抑制レベルを変えるためには、接合層75の伝熱性を変えるものとしても良い。具体的には、例えば、図4(C)において説明した接合層75の形成工程において、以下の混合溶液を用いて接合層75を設けることにより、接合層75の伝熱性を領域ごとに変えるものとしても良い。即ち、熱移動抑制レベルを高くする領域には、伝熱性が高い材料(例えば、カーボン)の含有濃度が低い混合溶液を塗布し、熱移動抑制レベルを低くする領域にはカーボンの含有濃度が高い混合溶液を塗布する。なお、これらの混合溶液の塗布量は、発電領域11全体に均一となるようにする。これによって、冷媒上流側の領域における伝熱性の高い材料の含有量が冷媒下流側の領域より少なくなり、冷媒上流側の領域における総熱伝導率を低下させることができる。
【0043】
なお、上記のように、接合層75における樹脂材料などの比熱の高い材料の含有量を変えて熱移動抑制レベルを調整する場合には、冷媒の上流側の流域に比較して、下流側の領域における当該材料の含有量は約50%〜80%程度であることが好ましい。逆に、接合層75におけるカーボンなどの伝熱性の高い材料の含有量を変えて熱移動抑制レベルを調整する場合には、上流側の領域における当該材料の含有量は、下流側の領域における当該材料の含有量に対して約50%〜80%程度であることが好ましい。
【0044】
図8(B)の例では、冷媒流路方向にわたって、発電領域11に複数の熱移動抑制レベルの異なる領域が設けられている。これらの領域は、冷媒の上流側の領域ほど熱移動抑制レベルが高くなるように配列されている。これらの領域を有する接合層75は、図7(A)で説明したのと同様に、カーボンや樹脂材料などの材料の含有濃度が異なる塗布溶液を領域ごとに、ほぼ均一の塗布量で塗布することにより形成することができる。
【0045】
図8(C)の例では、発電領域11の熱移動抑制レベルが冷媒の上流側から下流側に向かって徐々に(無段階で)低下するように接合層75が形成されている。この例では、接合層75は、各材料の含有濃度が同じ単一の混合溶液を用いて、冷媒の上流側ほど塗布量が多くなるように、発電領域11全体に塗布することにより形成することができる。これによって、接合層75は、冷媒上流側ほど層の厚みが増すとともに材料の含有量が増し、冷媒上流側の領域における総熱容量が大きくなる。
【0046】
なお、発電領域11における熱移動抑制レベルは、カソード62またはアノード63において触媒層70側から等しい熱量を加えたときのガス拡散層72における温度の変化量に基づいて測定することができる。また、図8(A)〜(C)の構成例のように、接合層75の材料の含有量を変えて熱移動抑制レベルを変えている場合には、発電領域11における接合層75の材料の含有量の分布を調べることにより、熱移動抑制レベルを求めることができる。
【0047】
このように、冷媒の上流側に熱移動抑制レベルの高い領域を有する接合層75を設けることにより、発電領域11の冷媒上流側において、触媒層70とガス拡散層72との間での熱の移動が抑制される。そのため、発電領域11の冷媒上流側の領域が、冷媒によって著しく冷却されてしまうことが抑制され、低温環境下にある膜電極接合体60の発電領域11における温度分布が改善される。また、接合層75を有することにより、触媒層70とガス拡散層72との間の接合性が向上し、燃料電池100の発電効率が向上するとともに、燃料電池10の劣化が抑制される。
【0048】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0049】
B1.変形例1:
上記実施例では、カソード62とアノード63の両方に冷媒の上流側に熱移動抑制レベルの高い領域を有する接合層75を設けていた。しかし、接合層75は、カソード62とアノード63の少なくとも一方に設けられていれば良い。また、カソード62とアノード63の両方に触媒層70とガス拡散層72との接合性を向上させるための接合層が設けられる場合であっても、冷媒の上流側に熱移動抑制レベルの高い領域を有する接合層75は、カソード62とアノード63のいずれか一方にのみ設けられるものとしても良い。
【0050】
B2.変形例2:
上記実施例では、接合層75に熱可塑性を有する樹脂材料を用いることにより、触媒層70とガス拡散層72とを接合していた。しかし、接合層75には、樹脂材料に換えて、水素イオン伝導性を有する高分子電解質が用いられるものとしても良い。また、接合層75には、カーボンなどの炭素系材料に換えて、他の導電性部材が含有されるものとしても良い。
【0051】
B3.変形例3:
上記実施例では、燃料電池100の全ての膜電極接合体60の電極62,63に、冷媒の上流側に熱移動抑制レベルの高い領域を有する接合層75が設けられていた。しかし、接合層75は、燃料電池100の一部の膜電極接合体60のみに設けられるものとしても良い。例えば、接合層75は、運転温度が比較的低くなる傾向にある燃料電池100の積層方向端部側に配置される膜電極接合体60にのみ設けられるものとしても良い。これによって、燃料電池100全体の温度分布を改善することができる。
【0052】
B4.変形例4:
上記実施例では、領域ごとに接合層75を形成するための混合溶液の材料含有濃度を変えたり、混合溶液の塗布量を変えることにより、接合層75の熱移動抑制レベルを領域ごとに変えていた(図8(A)〜(C))。しかし、材料含有濃度の異なる混合溶液を領域ごとに塗布するとともに、混合溶液の塗布量を領域ごとに変えることにより、接合層75の熱移動抑制レベルを領域ごとに変えるものとしても良い。また、冷媒下流側にカーボンの含有濃度の高い混合溶液を塗布し、接合層75の厚みが均一となるように、その塗布層に重ねて、塗布カーボンの含有濃度の低い混合溶液を発電領域11の全体に塗布するものとしても良い。
【0053】
B5.変形例5:
上記実施例では、接合層75の領域ごとの熱移動抑制レベルを変えるために、カーボンや樹脂材料などの材料の含有量を変えていた。しかし、接合層75は、熱移動抑制レベルを高くする領域に、熱の移動を抑制するための別材料を混入させることにより熱移動抑制レベルを調整するものとしても良い。あるいは、接合層75は、熱移動抑制レベルを低くする領域に、熱の移動が促進される別材料を混入させることにより熱移動抑制レベルを調整するものとしても良い。
【0054】
B6.変形例6:
上記実施例では、セパレータ20に設けられた冷媒の流路は、発電領域11において、電極面に沿って直線方向に延びるように形成されていた。しかし、セパレータ20に設けられた冷媒の流路は、電極面に沿って直線方向に延びる流路でなくとも良い。例えば、冷媒の流路は、発電領域11内において、サーペンタイン状に折れ曲がる流路であるものとしても良い。
【符号の説明】
【0055】
10…シール一体型膜電極接合体
11…発電領域
12…シール部
13…突起部
20…セパレータ
30…カソードプレート
31,32…連通孔
40…中間プレート
41,42…並列流路
43,44…直線流路
45…冷媒流路
47…流路壁部材
50…アノードプレート
51,52…直線流路
60…膜電極接合体
61…電解質膜
62…カソード
63…アノード
65…ガス流路部材
70…触媒層
72…ガス拡散層
75…接合層
100…燃料電池
M1…水素供給用マニホールド
M2…水素排出用マニホールド
M3a,M3b…酸素供給用マニホールド
M4a,M4b…酸素排出用マニホールド
M5…冷媒供給用マニホールド
M6…冷媒排出用マニホールド
SL…シールライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜の両面に電極が配置された膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を狭持するセパレータと、
を備え、
前記セパレータには、前記電極の面に沿って冷媒を流すための冷媒流路が設けられており、
前記膜電極接合体の電極は、発電反応を促進させるための触媒が担持された触媒層と、反応ガスを前記触媒層の全体に拡散させるためのガス拡散層と、を備え、
前記電極の少なくとも一方には、前記触媒層と前記ガス拡散層とを接合するための接合層が設けられており、
前記接合層には、前記冷媒の上流側に、前記冷媒の下流側の領域より前記触媒層と前記ガス拡散層との間の熱の移動が抑制されている熱移動抑制領域が設けられている、燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記熱移動抑制領域は、前記冷媒の下流側の領域よりも伝熱性が低い領域である、燃料電池。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記熱移動抑制領域は、前記冷媒の下流側の領域よりも総熱容量が高い領域である、燃料電池。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料電池であって、
前記熱移動抑制領域は、前記冷媒の下流側の領域に対して、予め選択された材料の含有量を変えることにより、前記触媒層と前記ガス拡散層との間の熱の移動を抑制している、燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記接合層は、熱可塑性を有する高分子材料を含み、
前記熱移動抑制領域は、前記予め選択された材料として前記高分子材料を、前記冷媒の下流側の領域よりも多く含むことにより、前記触媒層と前記ガス拡散層との間の熱の移動を抑制する、燃料電池。
【請求項6】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記接合層は、炭素系材料を含み、
前記熱移動抑制領域は、前記予め選択された材料として前記炭素系材料を、前記冷媒の下流側の領域よりも少なく含むことにより、前記触媒層と前記ガス拡散層との間の熱の移動を抑制する、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−15015(P2012−15015A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152012(P2010−152012)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】