燃料電池
【課題】燃料流路をセル内に備えた燃料電池セルを同一平面上に複数配置した燃料電池において、各燃料電池セルへの燃料供給の均一性が良好な燃料電池を提供する。
【解決手段】同一平面上に配置される1以上の第1燃料電池セル101および1以上の第2燃料電池セル102を含む燃料電池である。第1燃料電池セル101において、液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路10aが第1アノード極2側表面に配された第1流路板10上には、第1セル内燃料流路10aを覆うように所定の対水接触角を有する第1介在層11、第1気液分離層12が順に配置される。第2燃料電池セル102において、第2流路板10’上には、第2セル内燃料流路10a’を覆うように第2気液分離層12’が配置される。
【解決手段】同一平面上に配置される1以上の第1燃料電池セル101および1以上の第2燃料電池セル102を含む燃料電池である。第1燃料電池セル101において、液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路10aが第1アノード極2側表面に配された第1流路板10上には、第1セル内燃料流路10aを覆うように所定の対水接触角を有する第1介在層11、第1気液分離層12が順に配置される。第2燃料電池セル102において、第2流路板10’上には、第2セル内燃料流路10a’を覆うように第2気液分離層12’が配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料電池セルを同一平面上に配置した燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、情報化社会を支える携帯用電子機器の新規電源として実用化の期待が高まっている。燃料電池は、使用する電解質材料や燃料の分類から、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型、ダイレクトアルコール型等に分類される。特に、電解質材料に固体高分子であるイオン交換膜を用いる固体高分子型燃料電池およびダイレクトアルコール型燃料電池は、常温で高い発電効率が得られることから、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての実用化が検討されている。
【0003】
燃料としてアルコールまたはアルコール水溶液を使用するダイレクトアルコール型燃料電池は、燃料がガスである場合と比較して、燃料貯蔵室を比較的簡易に設計できるなどの理由から、燃料電池の構造の簡略化、省スペース化が可能であり、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての期待が特に高い。
【0004】
燃料電池においては、1つの燃料電池セルでは不十分である電力を、携帯用電子機器の新規電源として十分な程度にまで高めるために、複数の燃料電池セルを電気的に接続して組み合わせる(スタック化するなど)ことが従来行なわれている。その一例が、たとえば特許文献1および2に記載されるような、複数の燃料電池セルを同一平面上に配置した燃料電池(以下、「平面集積型燃料電池」ともいう。)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−79506号公報
【特許文献2】特開2006−93119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
携帯用電子機器等の電子機器用の電源として平面集積型燃料電池を適用することを想定した場合、適用され得る様々な電子機器における限られた燃料電池収容スペースの形状や面積などに合わせて、平面集積型燃料電池構造の設計を柔軟に行なえることは極めて有意義である。これは、燃料電池の生産効率の向上(生産工程の簡略化)および生産コスト削減に大きく寄与するためである。
【0007】
一般的に、上記特許文献1および2に記載されるような従来の平面集積型燃料電池は、複数の燃料電池セルが1つの燃料供給部を共有する構造を採っている。ここでいう燃料供給部とは、各燃料電池セルに供給される燃料を収容するかまたは流通させる部位をいい、特許文献1における液体燃料貯蔵部3や特許文献2におけるバイポーラープレート20がこれに相当する。しかしこのような構造の場合、燃料電池収容スペースの形状や面積が異なる電子機器に適用するためには、燃料電池セルの集積形態を設計変更するだけでは足りず、燃料供給部全体およびこれに付随する系統を設計し直す必要が生じ、電子機器に合わせた燃料電池構造の設計変更が容易ではなく、燃料電池の生産効率および生産コストの面で不利であった。
【0008】
本発明者らによって提案される上記課題の解決策は、各燃料電池セル自体に燃料を流通させる燃料流路を付与することによって燃料電池セルのモジュール化を図ることである。これによれば、モジュール(燃料流路を有する燃料電池セル)を設計変更することなく、モジュールの数や配置パターンおよび必要に応じて各燃料電池セルの燃料流路に燃料を誘導するための燃料供給系のみを設計変更することによって、容易に燃料電池収容スペースの形状や面積が異なる電子機器に平面集積型燃料電池を適用することができる。しかしながら、モジュール化された燃料電池セルを用いて平面集積型燃料電池を構築した場合、各燃料電池セルに均一に燃料供給を行なうことが難しいことがあった。
【0009】
本発明の目的は、燃料流路を有するモジュール化された燃料電池セルを同一平面上に複数配置した燃料電池であって、各燃料電池セルへの燃料供給の均一性が良好な燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、同一平面上に配置される1以上の第1燃料電池セルおよび該第1燃料電池セルとは異なる1以上の第2燃料電池セルを含む燃料電池を提供する。
【0011】
上記第1燃料電池セルは、第1アノード極、第1電解質膜および第1カソード極をこの順で有する第1膜電極複合体;液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路が第1アノード極側表面に配された、第1アノード極側に配置される第1流路板;第1膜電極複合体と第1流路板との間に配置され、液体燃料の気化成分を透過可能な第1気液分離層;および、第1セル内燃料流路を覆うように第1気液分離層と前記第1流路板との間に配置され、水に対する接触角が70度未満である第1介在層を備えるものである。
【0012】
上記第2燃料電池セルは、第2アノード極、第2電解質膜および第2カソード極をこの順で有する第2膜電極複合体;液体燃料を流通させるための第2セル内燃料流路が第2アノード極側表面に配された、第2アノード極側に配置される第2流路板;および、第2セル内燃料流路を覆うように第2流路板における第2アノード極側表面上に配置され、液体燃料の気化成分を透過可能な第2気液分離層を備えるものである。
【0013】
第1燃料電池セルおよび第2燃料電池セルは、好ましくはすべての第1セル内燃料流路および第2セル内燃料流路への液体燃料の供給流量が略同じとなるように配置される。
【0014】
1つの実施形態において燃料電池は、1以上の第1燃料電池セルおよび1以上の第2燃料電池セルをライン状に配列した少なくとも一列の燃料電池セル集合体を含み、該燃料電池セル集合体の少なくとも一端に配置される燃料電池セルが第1燃料電池セルである。また、他の実施形態において該燃料電池セル集合体は、その両端に配置される2つの第1燃料電池セルと1以上の第2燃料電池セルとからなる。
【0015】
本発明の燃料電池は、第1セル内燃料流路および第2セル内燃料流路のそれぞれに接続され、燃料電池が有する各燃料電池セルへの液体燃料の分配を行なうセル外燃料流路を有する燃料分配部をさらに備えることが好ましい。
【0016】
1つの実施形態において燃料分配部は、液体燃料を導入するための1つの導入口を有しており、それが有するセル外燃料流路は、該導入口と接続される幹流路、および、該幹流路と各セル内燃料流路とを接続する枝流路から構成される。
【0017】
第1燃料電池セルは、第1アノード極上に積層される第1アノード集電層と、第1カソード極上に積層される第1カソード集電層とをさらに含むことができる。第2燃料電池セルは、第2アノード極上に積層される第2アノード集電層と、第2カソード極上に積層される第2カソード集電層とをさらに含むことができる。本発明の燃料電池は、たとえばダイレクトアルコール型燃料電池である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料流路を有するモジュール化された燃料電池セルを同一平面上に複数配置した燃料電池において、各燃料電池セルへの燃料供給の均一性を向上させることができる。本発明の燃料電池は、電子機器、とりわけ携帯電子機器用の電源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る燃料電池の一例を示す概略上面図である。
【図2】図1に示されるII−II線における概略断面図である。
【図3】図2に示されるIII−III線における概略断面図である。
【図4】図1に示されるIV−IV線における概略断面図である。
【図5】本発明に係る燃料電池の他の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る燃料電池の他の一例を示す概略断面図である。
【図7】第1気化燃料板の一例を示す概略上面図および概略断面図である。
【図8】第1気化燃料板の他の例を示す概略上面図および概略断面図である。
【図9】本発明に係る燃料電池に用いる第1燃料電池セルの他の一例を示す概略断面図である。
【図10】図9に示される第1燃料電池セルが備える第2介在層を示す概略上面図である。
【図11】実施例1で作製した燃料電池を示す概略断面図である。
【図12】実施例1で用いた燃料分配部を示す概略斜視図である。
【図13】実施例1で作製した燃料電池における燃料電池セルごとの出力電圧の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の燃料電池を実施の形態を示して詳細に説明する。
図1は本発明に係る燃料電池の一例を示す概略上面図であり、図2は図1に示されるII−II線における概略断面図、図3は図2に示されるIII−III線における概略断面図である。また、図4は図1に示されるIV−IV線における概略断面図である。
【0021】
これらの図面に示される燃料電池100は、同一平面上に配置された2つの第1燃料電池セル101と1つの第2燃料電池セル102とを含む平面集積型燃料電池であり、より具体的には、2つの第1燃料電池セル101および1つの第2燃料電池セル102をライン状に配列してなる燃料電池セル集合体110と、燃料電池セル集合体110の側面に隣接して配置された燃料分配部150とから構成される。燃料電池100を構成する燃料電池セルは、電気的に直列接続または並列接続される。
【0022】
燃料電池100は、3つの燃料電池セルから構成される燃料電池セル集合体110の両端の燃料電池セルに第1燃料電池セル101を用い、中央の燃料電池セルに第2燃料電池セル102を用いたことを1つの特徴としている。第1燃料電池セル101および第2燃料電池セル102はともに、セル内に燃料流路を有するモジュール化された燃料電池セルであるが、互いに異なるセル構造を有している。
【0023】
図2を参照して、第1燃料電池セル101は、第1アノード極2、第1電解質膜1および第1カソード極3をこの順で有する第1膜電極複合体4;第1アノード極2上に積層され、これに電気的に接続された第1アノード集電層5;第1カソード極3上に積層され、これに電気的に接続された第1カソード集電層6;第1アノード集電層5に接するように第1アノード集電層5上に積層される第1アノード保湿層7;第1カソード集電層6に接するように第1カソード集電層6上に積層される第1カソード保湿層8;第1アノード極2側(第1アノード極2の下方)に配置され、液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路10aが第1アノード極2側表面に配された第1流路板10;第1膜電極複合体4と第1流路板10との間に配置され、液体燃料の気化成分を透過可能な第1気液分離層12;第1気液分離層12と第1アノード保湿層7との間に配置され、第1気化燃料収容部9aを具備する第1気化燃料板9;および、第1セル内燃料流路10aを覆うように第1気液分離層12と第1流路板10との間に配置される第1介在層11から構成されている。第1介在層11は、水に対する接触角が70度未満の層である。
【0024】
第2燃料電池セル102は、第2アノード極2’、第2電解質膜1’および第2カソード極3’をこの順で有する第2膜電極複合体4’;第2アノード極2’上に積層され、これに電気的に接続された第2アノード集電層5’;第2カソード極3’上に積層され、これに電気的に接続された第2カソード集電層6’;第2アノード集電層5’に接するように第2アノード集電層5’上に積層される第2アノード保湿層7’;第2カソード集電層6’に接するように第2カソード集電層6’上に積層される第2カソード保湿層8’;第2アノード極2’側(第2アノード極2’の下方)に配置され、液体燃料を流通させるための第2セル内燃料流路10a’が第2アノード極2’側表面に配された第2流路板10’;第2膜電極複合体4’と第2流路板10’との間に配置され、液体燃料の気化成分を透過可能な第2気液分離層12’;および、第2気液分離層12’と第2アノード保湿層7’との間に配置され、第2気化燃料収容部9a’を具備する第2気化燃料板9’から構成されている。
【0025】
これらの燃料電池セルの相違点は、第1燃料電池セル101が第1気液分離層12と第1流路板10との間に配置される第1介在層11を有する一方、第2燃料電池セル102はこのような介在層を有しておらず、第2セル内燃料流路10a’上に直接、第2気液分離層12’が積層されていることである。
【0026】
図3および図4を参照して、燃料分配部150は、導入口151を通して導入された液体燃料を各燃料電池セル(すべての第1燃料電池セル101および第2燃料電池セル102)に分配するための、燃料電池セルとは独立した部材であり、その内部に、第1セル内燃料流路10aおよび第2セル内燃料流路10a’のそれぞれに接続されるセル外燃料流路155を有する。たとえば、セル外燃料流路155は、導入口151と接続された幹流路152、および、幹流路152と各セル内燃料流路とを接続する枝流路153から構成することができる。
【0027】
燃料分配部150は、各燃料電池セルが有するセル内燃料流路の入口端部が配置された燃料電池セル集合体110の長手端面に隣接して付設された略直方体形状の部材であり、その導入口151は、燃料分配部150の長手方向(燃料電池セルの配列方向と平行)に関しておよそ中央部に設けられている。
【0028】
互いにセル構造の異なる第1燃料電池セル101および第2燃料電池セル102を組み合わせ、これらを適切な位置に配置した燃料電池100によれば、各燃料電池セルへの燃料供給の均一性を改善することができる。すなわち、燃料電池セルが接続されていない状態の燃料分配部150を考えた場合、導入口151から枝流路153の出口側端部までの距離が長いこと、および、図3のX、Yで示されるようなセル外燃料流路155の端部において気泡が滞留しやすいことなどに起因して、燃料分配部150のセル外燃料流路155の出口側端部(セル内燃料流路に接続されることとなる端部、すなわち枝流路153の出口)における液体燃料の圧力損失は、導入口151からより遠くに位置する出口側端部ほど大きくなる。
【0029】
このような圧力損失の不均一性の問題は、燃料分配部150に同じセル構造を有する燃料電池セルを接続した場合でも同様である。燃料分配部150に接続される燃料電池セル集合体110を構成する燃料電池セルがすべて同じセル構造を有する場合、セル外燃料流路155の出口側端部における液体燃料の圧力損失は、導入口151からより遠くに位置する燃料電池セルに接続される端部の方がより大きくなる。導入口151が燃料分配部150の長手方向における中央部に設置されるような形態においては、燃料電池セル集合体110を構成する燃料電池セルがすべて同じセル構造を有する場合、燃料電池セル集合体110の両端に配置される燃料電池セルに接続される端部における上記圧力損失が相対的に大きくなり、セル内燃料流路への液体燃料の供給流量が相対的に小さくなってしまう。
【0030】
これに対して、上記圧力損失が相対的に大きくなる燃料電池セル集合体110の両端に、親水性を有する第1介在層11をセル内燃料流路10a上に備えた第1燃料電池セル101を配置することにより、その親水性(濡れ性)に基づいて液体燃料を引き込む力が生じる(セル内燃料流路内における液体燃料の圧力損失が低減される)ため、燃料電池セル集合体110の両端に配置された燃料電池セルのセル内燃料流路への液体燃料の供給流量が増加し、燃料電池セル間での燃料供給の均一化を図ることができ、さらには、すべての第1セル内燃料流路10aおよび第2セル内燃料流路10a’への液体燃料の供給流量を略同じにすることが可能となる。
【0031】
燃料供給の均一化により、安定的な発電が可能になるとともに、燃料不足であった燃料電池セルの発電特性を高レベルに引き上げることができるため、燃料電池全体としての発電特性を向上させることができる。また、燃料電池セル間での発電のばらつきが小さくなるため、燃料電池セル間での温度のばらつきも小さくなる。このこともまた安定的な発電をもたらす。
【0032】
燃料電池が有する燃料電池セルの数は2以上であれば特に制限されないが、好ましくは3以上である。図5は、燃料電池セル集合体110が、ライン状に配列された4つの燃料電池セルからなる形態を示した、図3と同様の概略断面図である。この例においても、導入口151が燃料分配部150の長手方向におけるおよそ中央部に設置されており、燃料電池セル間での燃料供給の均一化を図るために、燃料電池セル集合体110の両端に第1介在層11を備えた第1燃料電池セル101が配置されている。
【0033】
図6は、燃料電池セル集合体が、ライン状に配列された3つの燃料電池セルからなり、導入口151が燃料分配部150の長手方向における一方の端部に設置された形態を示した、図3と同様の概略断面図である。かかる形態においては、導入口151からセル外燃料流路155の出口側端部までの距離が特に長く、図6のZで示されるようなセル外燃料流路155の端部(導入口設置位置とは反対側の端部)において気泡が滞留しやすいことから、燃料電池セル間での燃料供給の均一化を図るために、燃料電池セル集合体110における導入口設置位置とは反対側の端部に第1介在層11を備えた第1燃料電池セル101が配置されている。
【0034】
なお、本発明の燃料電池は、たとえばライン状に配列された複数の燃料電池セルからなる燃料電池セル集合体を2以上含むものであってもよく、また、燃料分配部を2以上含むものであってもよい。1つの燃料分配部の対向する2つの側面にそれぞれ燃料電池セル集合体を結合させるようにしてもよい。
【0035】
以上のように、本発明に係る燃料電池においては、セル外燃料流路の出口側端部(セル内燃料流路との接続点)における液体燃料の圧力損失を考慮し、相対的に当該圧力損失の大きい箇所に、第1介在層の親水性に起因してセル内燃料流路内における液体燃料の圧力損失が相対的に低い第1燃料電池セルを配置する一方、相対的に圧力損失の小さい箇所に第1介在層を有しない第2燃料電池セルを配置することにより、圧力損失の全体的なバランスをとり、燃料電池セル間での燃料供給の均一化を図り、好ましくはすべての第1セル内燃料流路および第2セル内燃料流路への液体燃料の供給流量を略同じにする。
【0036】
本発明に係る燃料電池はまた、セル内に燃料流路を有する燃料電池セルをモジュールとして使用したものであるので、モジュールの数や配置パターンおよび燃料分配部の形状等のみを設計変更することによって、容易に燃料電池収容スペースの形状や面積が異なる電子機器に適用することができる。このような燃料電池構造設計の柔軟性は、燃料電池の生産効率の向上(生産工程の簡略化)および生産コスト削減に極めて有効である。
【0037】
次に、本発明の燃料電池を構成する各部材等について詳細に説明する。
(1)第1燃料電池セル
〔第1電解質膜〕
第1膜電極複合体4を構成する第1電解質膜1は、第1アノード極2から第1カソード極3へプロトンを伝達する機能と、第1アノード極2と第1カソード極3との電気的絶縁性を保ち、短絡を防止する機能を有する。電解質膜の材質は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜またはコンポジット膜を用いることができる。高分子膜としては、たとえば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜である、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子社製)などが挙げられる。また、スチレン系グラフト重合体、トリフルオロスチレン誘導体共重合体、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフォスファゼンなどの炭化水素系電解質膜などを用いることもできる。
【0038】
無機膜としては、たとえばリン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウムなどからなる膜が挙げられる。コンポジット膜としては、タングステン酸、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸等の無機物とポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、パーフルオロスルホン酸等の有機物とのコンポジット膜などが挙げられる。第1電解質膜1の厚みはたとえば1〜200μmである。
【0039】
〔第1アノード極および第1カソード極〕
第1電解質膜1の一方の表面に積層される第1アノード極2および他方の表面に積層される第1カソード極3にはそれぞれ、少なくとも触媒と電解質とを含有する多孔質層からなる触媒層が設けられる。第1アノード極2において触媒(アノード触媒)は、燃料からプロトンと電子とを生成する反応を触媒し、電解質は、生成したプロトンを第1電解質膜1へ伝導する機能を有する。第1カソード極3において触媒は、電解質を伝導してきたプロトンと酸化剤(空気など)から水を生成する反応を触媒する。
【0040】
第1アノード極2および第1カソード極3の触媒は、カーボンやチタン等の導電体の表面に担持されたものでもよく、なかでも、水酸基やカルボキシル基等の親水性官能基を有するカーボンやチタン等の導電体の表面に担持されていることが好ましい。これにより、第1アノード極2および第1カソード極3の保水性を向上させることができる。保水性の向上により、プロトン移動に伴う第1電解質膜1の抵抗や、第1アノード極2および第1カソード極3における電位分布を改善することができる。
【0041】
第1アノード極2および第1カソード極3はそれぞれ、触媒層上に積層されるアノード導電性多孔質層(アノードガス拡散層)、カソード導電性多孔質層(カソードガス拡散層)を備えていてもよい。これらの導電性多孔質層は、第1アノード極2、第1カソード極3に供給されるガス(気化燃料または酸化剤)を面内において拡散させる機能を有するとともに、触媒層と電子の授受を行なう機能を有する。アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層としては、比抵抗が小さく、電圧の低下が抑制されることから、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;これらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などからなる多孔質材料を用いることが好ましい。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。より具体的には、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層として、たとえば、上記貴金属、遷移金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;ならびにカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜などを好適に用いることができる。
【0042】
〔第1アノード集電層および第1カソード集電層〕
第1アノード集電層5、第1カソード集電層6はそれぞれ、第1アノード極2上、第1カソード極3上に積層される。第1アノード集電層5および第1カソード集電層6はそれぞれ、第1アノード極2、第1カソード極3における電子を集電する機能と、電気的配線を行なう機能とを有する。集電層の材質は、比抵抗が小さく、面方向に電流を取り出しても電圧の低下が抑制されることから、金属であることが好ましく、なかでも、電子伝導性を有し、酸性雰囲気下で耐腐食性を有する金属であることがより好ましい。このような金属としては、Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;およびこれらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などが挙げられる。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。なお、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層が、たとえば金属等からなり、導電性が比較的高い場合には、第1アノード集電層および第1カソード集電層は省略されてもよい。
【0043】
より具体的には、第1アノード集電層5は、気化燃料を第1アノード極2へ誘導するための厚み方向に貫通する貫通孔(開口)を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。この貫通孔は、第1アノード極2の触媒層で生成する副生ガス(CO2ガス等)を第1気化燃料収容部9a側へ誘導するための経路としても機能する。同様に、第1カソード集電層6は、酸化剤(たとえば燃料電池外部の空気)を第1カソード極3の触媒層に供給するための厚み方向に貫通する貫通孔(開口)を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。
【0044】
〔第1流路板〕
第1流路板10は、液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路10aが第1アノード極2側表面に形成された板状体であり、燃料電池の第1アノード極2側に配置される。第1セル内燃料流路10aは、たとえば上記板状体の一方の表面に形成された溝(凹部)からなることができる。第1セル内燃料流路10aの形状(パターン)は特に制限されないが、第1アノード極2全面にできるだけ均一に気化燃料を供給できるよう、流路板表面のできるだけ広い範囲にわたって、均一に配置することが好ましい。図3に流路パターンの好ましい一例を示している。図3に示される第1流路板10および第2流路板10’の斜線部は溝(凹部)であることを示している(図5、6、11も同様)。図3に示される第1セル内燃料流路10aおよび第2セル内燃料流路10a’はそれぞれ、4箇所でセル外燃料流路155と接続されている。セル外燃料流路155と接続された4つの流路は一旦一つの流路に集約され、この流路から5本の流路が枝状に等間隔を置いて延びている。なお、図3の各燃料電池セルの周縁部に描かれている○(それぞれ計7個)は、各部材間の締結に用いるネジ孔を示している(図5、6、11も同様)。
【0045】
流路形状の他の例を挙げれば、分岐部分を有さない流路形状(たとえば、セル外燃料流路との接続箇所から直線状に延びる複数の流路)、網目状の流路、表面に形成された大きな凹部からなる槽型の流路などである。
【0046】
セル内流路の幅および深さは特に制限されないが、たとえばそれぞれ0.2〜1.5mm程度(とりわけ槽型流路の場合はこれより大きくなり得る)、0.1〜0.6mm程度である。
【0047】
第1流路板10は、プラスチック材料または金属材料などから作製することができる。プラスチック材料としては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属材料としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金材料を用いることができる。
【0048】
〔第1気液分離層〕
第1膜電極複合体4と第1流路板10との間であって、後述する第1介在層11の第1アノード極2側表面上に配置される第1気液分離層12は、気化燃料透過性(液体燃料の気化成分を透過できる性質)かつ液体燃料不透過性の疎水性を有する多孔質層であり、第1アノード極2への燃料の気化供給を可能とする気液分離能を有する層である。第1気液分離層12は、第1アノード極2へ供給される気化燃料の量または濃度を適切量に制御(制限)するとともに、均一化する機能をも有する。第1気液分離層12を設けることにより、燃料のクロスオーバーを効果的に抑制でき、発電部に温度ムラが生じにくく、安定した発電状態を維持することができる。
【0049】
第1気液分離層12としては、使用する燃料に関して気液分離能を有するものであれば特に制限されないが、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔質膜または多孔質シートを挙げることができ、具体的には、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルムである日東電工(株)製テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕の「NTF2026A−N06」や「NTF2122A−S06」が例示できる。
【0050】
気化燃料透過性および液体燃料不透過性を付与する観点から、第1気液分離層12が有する細孔の最大細孔径は、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましい。最大細孔径は、後述する第1介在層11と同様、メタノール等を用いてバブルポイントを測定することにより求めることができる。第1気液分離層12は、後述する水に対する接触角が、通常80度以上であり、より典型的には90度以上である。
【0051】
第1気液分離層12の厚みは特に制限されないが、上記機能を十分に発現させるために、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、燃料電池の薄型化の観点からは、第1気液分離層12の厚みは500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0052】
〔第1介在層〕
第1流路板10の第1アノード極2側表面(したがって第1セル内燃料流路10aを形成する溝(凹部))を覆うように第1気液分離層12と第1流路板10との間に配置される第1介在層11は、水に対する接触角が70度未満の親水性を有する層である。このような層を、第1セル内燃料流路10aを覆うように配置することによって、液体燃料は、第1介在層11が有する親水性に基づいて第1セル内燃料流路10a内に引き込まれるため、第1セル内燃料流路10aの内部における液体燃料の圧力損失を低減させることができる。第1介在層11の水に対する接触角は、JIS R 3257(基板ガラス表面のぬれ性試験)に準拠して測定される。
【0053】
第1介在層11は、液体燃料に対して毛細管作用を示すことが好ましく、燃料供給の不均一性をより効果的に是正できるよう、比較的大きな毛細管力を有することがより好ましい。このような観点から、第1介在層11は細孔を有することが好ましく、その最大細孔径は、1μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることがより好ましい。最大細孔径は、後述するバブルポイントを測定することで得られるが、それ以外の手法としては水銀圧入法によって測定することができる。ただし、水銀圧入法では0.005μm〜500μmの細孔分布しか測定できないため、この範囲外の細孔は存在しない、もしくは無視できる場合に有効な測定手段である。
【0054】
第1介在層11は、特に制限されないが、測定媒体をメタノールとしたときのバブルポイントが、たとえば5kPa以上程度であることができる。より高い毛細管力を付与する場合には、バブルポイントは高いことが好ましい。このような観点から、バブルポイントは30kPa以上であってよく、さらには50kPa以上であってよい。
【0055】
一方で、発電中に第1セル内燃料流路10aまたはセル外燃料流路中の液体燃料内に生じた気泡を第1介在層11および第1気液分離層12を介して第1気化燃料収容部9a側に逃がし、燃料電池セル外に排出できるようにすることを考慮した実施形態においては、第1介在層11のバブルポイントは低いことが好ましい。このような実施形態においては、主に第1介在層11の親水性(表面の濡れ性)が、第1セル内燃料流路10aの内部における液体燃料の圧力損失の低減に寄与する。
【0056】
バブルポイントとは、液媒体で濡らした層(膜)の裏側から空気圧をかけたときに、層(膜)の表面に気泡の発生が認められる最小圧力である。バブルポイントΔPは、下記式(1):
ΔP[Pa]=4γcosθ/d (1)
(γは測定媒体の表面張力[N/m]、θは層(膜)の素材と測定媒体との接触角、dは層(膜)が有する最大細孔径である。)
によって定義される。本発明においてバブルポイントは、測定媒体をメタノールとし、JIS K 3832に準拠して測定される。
【0057】
第1介在層11としては、たとえば、高分子材料、金属材料または無機材料などからなる多孔質層や、高分子膜を挙げることができ、具体例を示せば以下のとおりである。
【0058】
1)次の材料からなる多孔質層。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;アクリル系樹脂;ABS樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂;セルロースアセテート、ニトロセルロース、イオン交換セルロース等のセルロース系樹脂;ナイロン;ポリカーボネート系樹脂;ポリ塩化ビニル等の塩素系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルスルホン;ガラス;セラミックス;ステンレス、チタン、タングステン、ニッケル、アルミニウム、スチール等の金属材料。多孔質層は、これらの材料からなる発泡体、焼結体、不織布または繊維(ガラス繊維等)などであることができる。これらの材料のうち、疎水性材料を基材として用いる場合には、親水性官能基を導入するなどの方法により親水化処理を施し、細孔表面の水に対する濡れ性を高めることにより、接触角を70度未満に調整することができる。
【0059】
2)次の材料からなる高分子膜。パーフルオロスルホン酸系重合体;スチレン系グラフト重合体、トリフルオロスチレン誘導体共重合体、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフォスファゼンなどの炭化水素系重合体などの電解質膜材料として用いることができるもの。これらの高分子膜は、3次元的に絡み合う高分子間の隙間として、ナノオーダーの細孔を有している。
【0060】
以上に掲げた材料のうち、疎水性材料を基材として用いる場合には、親水性官能基を導入するなどの方法により親水化処理を施し、細孔表面の水に対する濡れ性を高めることにより、接触角を70度未満に調整することができる。
【0061】
第1介在層11の厚みは特に制限されないが、燃料電池の薄型化の観点から、好ましくは20〜500μmであり、より好ましくは50〜200μmである。
【0062】
〔第1気化燃料板〕
図7(a)は第1燃料電池セル101で用いられている第1気化燃料板9を示す概略上面図であり、図7(b)は図7(a)に示されるVII−VII線における概略断面図である。第1気化燃料板9は、第1膜電極複合体4と第1気液分離層12との間に気化燃料を収容するための空間(すなわち、第1気化燃料収容部9a)を形成するための部材である。図2の例において第1気化燃料板9は、第1アノード保湿層7に接するように第1アノード保湿層7と第1気液分離層12との間に配置されている。第1気化燃料板9は、厚み方向に貫通する貫通口である第1気化燃料収容部9a、および、第1気化燃料収容部9aと第1気化燃料板9外部とを連通する第1連通経路9bを有する。第1連通経路9bは、第1アノード極2で生成した副生ガス(CO2ガス等)を燃料電池外部に排出させるための経路である。
【0063】
図7に示される第1気化燃料板9において第1連通経路9bは、第1気化燃料板9の周縁部に設けられ、第1気化燃料収容部9aから該周縁部の端面まで延びる溝(凹部)からなる。第1連通経路9bの出口は、たとえば燃料分配部150が結合される燃料電池側面に対向する側面に設けられる(図4参照)。
【0064】
第1セル内燃料流路10a上に第1気液分離層12を介して第1気化燃料収容部9aを設けることにより、第1アノード極2に供給される気化燃料濃度の第1アノード極面内における均一化および気化燃料量の最適化が促進される。
【0065】
第1気化燃料収容部9aを設けることは以下の点でも有利である。
(i)第1気化燃料収容部9a内に存在する空気層により、発電部(第1膜電極複合体)と第1セル内燃料流路10aとの間の断熱を図ることができる。これにより、第1セル内燃料流路10a内の液体燃料の温度が過度に上昇することによるクロスオーバーを抑制できる。このことは、電池内部温度の暴走および内圧上昇の抑制に寄与する。
【0066】
(ii)第1アノード極2で生成したCO2ガス等の副生ガスは、発電により生じた熱を伴って第1気化燃料収容部9a内に到達し、続いて第1連通経路9bを通って、燃料電池セル外部に排出される。これにより、燃料電池セル内部に蓄積される熱量を大幅に低減することができるため、第1セル内燃料流路10aを含めて燃料電池セル全体としての過度の温度上昇を抑制することができる。このこともまた、電池内部温度の暴走および内圧上昇の抑制に寄与する。特に、第1気化燃料板9に第1連通経路9b(副生ガスの排出口)を設けていることにより、第1セル内燃料流路10aへの熱の伝達が起こりにくく、したがって第1セル内燃料流路10a内の液体燃料の過度の温度上昇ならびに、これに伴うクロスオーバーおよび温度暴走がより生じにくい。
【0067】
(iii)第1連通経路9bより副生ガスを良好に排出することができるため、副生ガスの排出不良による燃料供給阻害を抑制することができ、第1アノード極2への燃料供給を良好に行なうことができる。これにより、安定した発電特性を得ることができる。また、第1連通経路9bより副生ガスを良好に排出することができるため、副生ガスの第1セル内燃料流路10a内への侵入を抑制することができる。これにより、第1アノード極2に対して、十分な量の気化燃料を安定して供給することができるようになるため、燃料電池の出力安定性を向上させることができる。
【0068】
第1気化燃料板9の厚みは、たとえば、100〜1000μm程度とすることができ、100〜300μm程度まで薄くした場合であっても、上記のような効果を十分に得ることができる。
【0069】
第1気化燃料板9が有する貫通口(第1気化燃料収容部9a)は、発電部と第1セル内燃料流路10aとの間の断熱性の観点から、図7に示されるように、第1気化燃料板9の面積に対する開口率をできるだけ大きくすることが好ましく、したがって第1気化燃料板9はできるだけ大きな貫通口を有する枠形状(ロの字状)を有することが好ましい。
【0070】
貫通口の開口率、すなわち、第1気化燃料板9の面積に対する貫通口の開口面積(後述するように、第1気化燃料板9は2以上の貫通口を有していてもよく、その場合にはそれらの開口面積の合計)の割合は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。貫通口の開口率を大きくすることは、第1気化燃料板9の、第1アノード極2に供給される燃料濃度を均一化する機能を高める上でも有利であり、第1アノード極2への十分な燃料供給を確保する上でも有利である。なお、貫通口の開口率は、通常、90%以下である。
【0071】
第1連通経路9bは、第1気化燃料板9の周縁部に設けられる溝(凹部)に限定されるものではなく、厚み方向に貫通する貫通穴であってもよいが、強度の観点から、溝(凹部)からなることが好ましい。第1気化燃料板9の強度の観点から、第1連通経路9bの深さは第1気化燃料板9の厚みの75%程度までとすることが好ましい。
【0072】
図8(a)は第1気化燃料板の他の例を示す概略上面図であり、図8(b)は図8(a)に示されるVIII−VIII線における概略断面図である。図8に示されるように、第1気化燃料板は2以上の貫通口を有していてもよい。図8に示される第1気化燃料板99は、縦横2列に配列された合計4つの貫通口99aを有する。これは、大きな貫通口の縦方向および横方向に梁を設け、4つに分割したものということもできる。このような複数の貫通口を有する(梁を設けた)第1気化燃料板は、面内方向の剛性が向上するため、衝撃等に対する強度に優れる燃料電池が得られる点において有利である。また、図7に示されるような梁を設けない構造と比較して、第1気化燃料板の上下に配置される部材の熱などに起因する膨張等による貫通口の閉塞がより生じにくい点においても有利である。
【0073】
第1気化燃料板が2以上の貫通口を有する場合、その周縁部に設けられる第1連通経路は、貫通口ごとに、貫通口の数と同じ数だけ設けてもよいし、貫通口の数より少ない、もしくは多い数の連通経路を設けることもできる。図8の例においては、4つの貫通口99aに対して2つの第1連通経路99bが設けられている。このように、貫通口ごとに第1連通経路を設けなくてもよいが、その場合には、図8に示されるように、第1連通経路99bが設けられていない貫通口(図8(a)における下2つの貫通口99a)は、第1接続経路99cによって、第1連通経路99bが設けられた貫通口(図8(a)における上2つの貫通口99a)に空間的に接続される。第1接続経路99cは、第1連通経路99bと同様、貫通口間の梁に設けられた溝(凹部)であることができる(図8(b)参照)。第1接続経路99cを設けることにより、第1連通経路99bが設けられていない貫通口内に入った副生ガスを、第1連通経路99bを通して外部に排出することができる。
【0074】
第1気化燃料板の貫通口(第1気化燃料収容部)に到達した副生ガスの外部への排出効率を向上させるために、あるいは、第1気化燃料板の、第1アノード極2に供給される燃料の濃度を均一化する機能を高めるために、第1連通経路99bが設けられた貫通口同士および/または第1連通経路99bが設けられていない貫通口同士を空間的に接続する第1接続経路99dを設けることも好ましい(図8(a)参照)。
【0075】
第1連通経路の断面積(2以上の第1連通経路を有する場合にはこれらの断面積の合計)S1と、第1気化燃料板の側面の合計面積S0との比S1/S0は、副生ガスおよびこれに伴う熱の排出を行なうために0より大きくすることが必要であり、好ましくは0.002以上である。また、好ましくは0.3未満、より好ましくは0.1未満、さらに好ましくは0.05未満である。当該比が0.3以上になると、燃料の漏洩や空気の混入が起こりやすくなり、発電の安定性が低下するおそれがある。
【0076】
第1連通経路のすべてを燃料分配部150が結合される燃料電池側面に対向する側面に設ける場合など、第1気化燃料板が有する4つの周縁部のうち、いずれか1つの周縁部にのみ1または2以上の第1連通経路を設ける場合において、第1連通経路の断面積(2以上の第1連通経路を有する場合にはこれらの断面積の合計)S1と、第1連通経路が設けられる周縁部における側面の断面積S2との比S1/S2は、上記と同様の理由から、好ましくは0.008以上である。
【0077】
第1気化燃料板の材質は、プラスチック、金属または非多孔質性のカーボン材料などであることができる。プラスチックとしては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金を用いることができる。
【0078】
上記のなかでも、第1気化燃料板は、金属、ポリフェニレンサルファイド(PPS)またはポリイミド(PI)などの剛性が大きい材質からなることが好ましい。剛性が大きい第1気化燃料板を用いると、ホットプレス(熱圧着)により第1気化燃料板とこれに隣接する部材との接合が可能になるため、燃料電池の厚みや発電特性のばらつきを低減することができる。また、ホットプレス時において、第1連通経路の閉塞を有効に防止することができる。
【0079】
なお、第1気化燃料板は省略されてもよいが、上述の効果を得るために第1気化燃料板を設置することが好ましい。
【0080】
〔第1カソード保湿層および第1アノード保湿層〕
第1カソード保湿層8は、第1カソード極3上、好ましくは第1カソード集電層6上に配置される、第1カソード極3で発生した水が、第1カソード極3側から燃料電池セル外に蒸散することを防止するための任意で設けられる層である。第1カソード保湿層8を設けることにより、第1カソード極3で生じた水を燃料電池セル外部に蒸散させることなく、効率的に第1電解質膜1を介して第1アノード極2に戻し、第1アノード極2での反応に有効利用させることができる。
【0081】
第1アノード保湿層7は、第1アノード極2または第1アノード集電層5と第1気化燃料収容部9aとの間に配置される、第1アノード極2内の水分が、第1アノード極2側から第1膜電極複合体外に(たとえば第1気化燃料収容部9aへ)蒸散することを防止し、第1アノード極2内に保持させるための任意で設けられる層である。第1アノード保湿層7を設けることにより、第1カソード極3で発生し、第1電解質膜1を介して第1アノード極2に到達した水を第1膜電極複合体外に蒸散させることなく第1アノード極2内に良好に保持することができる。これにより当該水が第1アノード極2での反応に有効に利用されるため、第1アノード極2での反応効率が向上し、高い発電特性を安定して発揮することができる。とりわけ、第1カソード保湿層8との併用により、当該効果をより効果的に得ることができる。
【0082】
また、第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7の設置は、第1電解質膜1の乾燥、ならびにこれに伴うセル抵抗の増大および発電特性の低下を防止するうえでも有効である。
【0083】
第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7は、気化燃料または燃料電池外部からの酸化剤(空気など)等を透過できるよう気体透過性であり、水に対して不溶性であって、かつ保湿性(水を蒸散させない性質)を有する材料から構成される。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;アクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ塩化ビニル等の塩素系樹脂;ポリエーテル系樹脂;ポリフェニレン系樹脂;撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔性膜(多孔質層)であることができる。これらの保湿層は、上記高分子からなる発泡体、繊維束、織繊維、不織繊維、あるいはこれらの組み合わせなどであることができる。
【0084】
第1カソード保湿層8は、燃料電池外部からの酸化剤(空気など)を透過できるよう気体透過性であり、かつ保湿性(水を蒸散させない性質)を有していることが望まれることから、その気孔率は、30%以上90%以下であることが好ましく、50%以上80%以下であることがより好ましい。気孔率が90%を超える場合、第1カソード極3で発生した水を燃料電池セル内に保持することが困難となり得る。一方、気孔率が30%未満である場合、燃料電池外部からの酸化剤(空気など)の拡散が阻害され、第1カソード極3における発電特性が低下しやすい。
【0085】
第1アノード保湿層7は、気化燃料および触媒層で生成する副生ガス(CO2ガス等)などを透過できるような気体透過性であり、かつ保湿性(水を蒸散させない性質)を有していることが望まれることから、その気孔率は、50%以上90%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましい。気孔率が90%を超える場合、第1カソード極3で発生し、第1電解質膜1を介して第1アノード極2に到達した水を第1膜電極複合体内に保持することが困難となり得る。一方、気孔率が50%未満である場合、気化燃料および触媒層で生成する副生ガス(CO2ガス等)などの拡散が阻害され、第1アノード極2における発電特性が低下しやすい。
【0086】
第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7の気孔率は、当該保湿層の容積と重量を測定し、当該保湿層の比重を求め、これと素材の比重より、下記式(2):
気孔率(%)=〔1−(保湿層の比重/素材比重)〕×100 (2)
により算出することができる。
【0087】
第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7の厚みは特に制限されないが、上記機能を十分に発現させるために、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、燃料電池の薄型化の観点からは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0088】
第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7は、それ自身が高い吸水性を有して、一旦吸収した液状の水を取り込んで外部に放出しないような性質を有しないことが望まれることから、撥水性を有することが好ましい。このような観点から、第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7は、上記の中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔性膜(多孔質層)であることが好ましい。具体的には、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルムである日東電工(株)製テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕の「NTF2026A−N06」や「NTF2122A−S06」が例示できる。
【0089】
第1アノード保湿層7は、第1アノード極2上に第1アノード集電層5を配置し、この第1アノード集電層5に接するように第1アノード集電層5上に積層されることが好ましい。これにより、第1アノード極2内の水分が第1膜電極複合体外に蒸散されることをより効果的に防止することができる。
【0090】
なお、第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7は必要に応じて設けられるものであり、これらの少なくともいずれか一方を省略してもよい。
【0091】
〔第2介在層〕
第1燃料電池セル101は、第1介在層11と第1気液分離層12との間に介在される第2介在層13を有していてもよい。図9に第2介在層13を備える第1燃料電池セルの一例を示す。図9に示される第1燃料電池セル901は、第1介在層11と第1気液分離層12との間に第2介在層13を有すること以外は図2に示される第1燃料電池セル101と同様である。図10は、第1燃料電池セル901で使用されている第2介在層13を示す概略上面図である。
【0092】
第2介在層13は、液体燃料が透過可能な厚み方向に貫通する貫通孔を有する層であり、少なくとも第1介在層11と第1気液分離層12とを密着性良く面接合する役割を担い、好ましくは第1気液分離層12側への液体燃料透過量を調整(制限)する機能を有する。第2介在層13としては、たとえば図10に示されるような、厚み方向に貫通する貫通孔を有する非多孔性シート(フィルム)を用いることができ、その材料としては熱可塑性樹脂が好ましく例示できる。これを用いて、第1介在層/第2介在層/第1気液分離層からなる積層体を熱圧着することにより、各層間を密着性良く面接合することができる。第2介在層13として、厚み方向に貫通する貫通孔を有し、面接合が可能な非多孔性シートを有する第1燃料電池セルは、以下の点において有利である。
【0093】
(i)第2介在層13を介して第1介在層11と第1気液分離層12とを密着性良く接合することができるため、第1介在層11と第1気液分離層12との間に副生ガスが滞留することがなく、第1気液分離層12面内における気化燃料透過量のバラツキを抑制することができ、これにより第1アノード極2に対して均一な燃料供給を行なうことができる。
【0094】
(ii)第2介在層13に形成される貫通孔の数や開孔径により、第1気液分離層12側への液体燃料透過量、ひいては第1アノード極2への気化燃料供給量を適切な量に調整(制限)することができる。これにより、燃料のクロスオーバーの防止または抑制、および燃料供給の安定化を図ることができる。貫通孔の数は特に制限されないが、複数個存在することが好ましく、第1気液分離層12面内における気化燃料透過量を均一化する観点から、貫通孔を第2介在層13面内において均一に分布させることが好ましい。貫通孔の開孔径(直径)は、たとえば、0.1〜5mm程度とすることができる。
【0095】
上述の熱可塑性樹脂シートのほか、第2介在層13は、たとえば次のものから形成されるものであってもよい。
【0096】
1)接着性を有する樹脂または樹脂組成物から形成される多孔質層、たとえば、ホットメルト系接着剤や硬化型接着剤などの接着剤から形成される多孔質層。当該接着剤を用いる場合、第2介在層13は、接着剤層、すなわち、当該接着剤またはその硬化物からなる多孔質層である。第1気液分離層12側への液体燃料透過量は、多孔質層が有する細孔によって調整(制限)される。
【0097】
2)厚み方向に貫通する貫通孔を有する、好ましくは非多孔性の金属板を含むもの。この場合、金属板の両面には、第1介在層11および第1気液分離層12との良好な密着性を確保するために、接着剤層が形成され、したがって、第2介在層13は、接着剤層/金属板/接着剤層の3層構造となる。接着剤層は、接着剤またはその硬化物からなる多孔質層である。接着剤は、ホットメルト系接着剤や硬化型接着剤などであることができる。第1気液分離層12側への液体燃料透過量は、熱可塑性樹脂シートの場合と同様、金属板に形成される貫通孔の数や開孔径により調整(制御)できる。接着剤層は貫通孔を塞がないように形成されることが好ましい。
【0098】
(2)第2燃料電池セル
第2燃料電池セル102を構成する第2膜電極複合体4’(第2アノード極2’、第2電解質膜1’および第2カソード極3’)、第2アノード集電層5’、第2カソード集電層6’、第2アノード保湿層7’、第2カソード保湿層8’、第2流路板10’、第2気液分離層12’ならびに第2気化燃料板9’はそれぞれ、上述の第1膜電極複合体4(第1アノード極2、第1電解質膜1および第1カソード極3)、第1アノード集電層5、第1カソード集電層6、第1アノード保湿層7、第1カソード保湿層8、第1流路板10、第1気液分離層12ならびに第1気化燃料板9と同様の構成を有する。第2燃料電池セル102は第1介在層を有しておらず、第2セル内燃料流路10a’上に直接、第2気液分離層12’が積層される。
【0099】
(3)燃料分配部
燃料分配部150は、導入口151を通して導入された液体燃料を各燃料電池セルに分配するための、燃料電池セルとは独立した部材であり、その内部に、第1セル内燃料流路10aおよび第2セル内燃料流路10a’のそれぞれに接続されるセル外燃料流路155を有する。このように、アノード極の直下領域に液体燃料を行き渡らせる燃料流路(セル内燃料流路)を燃料電池セルの一部として燃料電池セル内に組み込む一方で、各燃料電池セルに液体燃料を分配するための燃料流路(セル外燃料流路)を、燃料電池セルとは独立した部材で形成することにより、燃料電池セルのモジュール化を図ることができる。
【0100】
セル外燃料流路155は、たとえば図3に示されるように、たとえば上面などに設けられた導入口151と接続された幹流路152、および、幹流路152と各セル内燃料流路とを接続する枝流路153から構成することができる。また、燃料分配部150は、タンク様の中空部材であって、たとえば上面などに導入口151が設けられ、燃料電池セルと結合される側面に各セル内燃料流路と連結される貫通孔を設けたものであってもよい(中空部分が幹流路、貫通孔が枝流路に相当する)。
【0101】
燃料分配部150の外形形状は特に制限されず、適用する電子機器が有する燃料電池収容スペースの形状や面積、モジュール(燃料電池セル)の数や配列形態などを考慮して適宜の形状とされる。燃料分配部150は、各種プラスチック材料、金属材料、合金材料などから構成することができる。
【0102】
導入口151には、通常、流路を介して液体燃料を貯蔵する燃料タンク(図示せず)が接続される。燃料タンクからのセル外燃料流路およびセル内燃料流路への燃料供給は、通常、送液ポンプを用いて行なうが、送液ポンプ等の補機を用いないパッシブ供給であってもよい。
【0103】
(4)燃料電池のタイプ
本発明の燃料電池は、固体高分子型燃料電池またダイレクトアルコール型燃料電池などであることができ、特にダイレクトアルコール型燃料電池(とりわけ、ダイレクトメタノール型燃料電池)として好適である。本発明の燃料電池において使用することのできる液体燃料としては、たとえば、メタノール、エタノールなどのアルコール類;ジメトキシメタンなどのアセタール類;ギ酸などのカルボン酸類;ギ酸メチルなどのエステル類;ならびにこれらの水溶液を挙げることができる。液体燃料は1種に限定されず、2種以上の混合物であってもよい。コストの低さや体積あたりのエネルギー密度の高さ、発電効率の高さなどの点から、メタノール水溶液または純メタノールが好ましく用いられる。また、カソード極に供給される酸化剤ガスとしては、空気または酸素ガスが好適であり、特に空気が好ましい。
【0104】
本発明の燃料電池は、電子機器、特には、携帯電話、電子手帳、ノート型パソコンに代表される携帯機器などの小型電子機器用の電源として好適に用いることができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0106】
<実施例1>
以下の手順で、図11に示される構成の燃料電池を作製した。図11は図3と同様の概略断面図であり、セル外燃料流路およびセル内燃料流路の形状を示したものである。本実施例で作製した平面集積型燃料電池は、ライン状に配列された4つの燃料電池セルからなる燃料電池セル集合体を2つ含むこと以外は図5に示される燃料電池と同様である。これらの燃料電池セル集合体は、燃料分配部150の対向する2つの側面にそれぞれ結合されている。2つの燃料電池セル集合体のセル内燃料流路に接続できるよう、セル外燃料流路155は、幹流路152から当該両側面に延びる枝流路153を有している。
【0107】
2つの燃料電池セル集合体はそれぞれ、その両端に配置された第1介在層を有する第1燃料電池セル(それぞれ図11における第1燃料電池セル101aおよび101b、第1燃料電池セル101cおよび101d)と、中央部に配置された2つの第2燃料電池セル(それぞれ図11における第2燃料電池セル102aおよび102b、第2燃料電池セル102cおよび102d)からなる。第1燃料電池セル101a、101b、101c、101dおよび第2燃料電池セル102a、102b、102c、102dのセル構造はそれぞれ、図2に示される第1燃料電池セル101、第2燃料電池セル102と同様である。
【0108】
(1)第1膜電極複合体の作製
Pt担持量32.5重量%、Ru担持量16.9重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC66E50、田中貴金属社製)と、電解質である20重量%のナフィオン(登録商標)のアルコール溶液(アルドリッチ社製)と、n−プロパノールと、イソプロパノールと、ジルコニアボールとを、所定の割合でフッ素系樹脂製の容器に入れ、攪拌機を用いて500rpmで50分間の混合を行なうことにより、第1アノード極用の触媒ペーストを作製した。また、Pt担持量46.8重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC10E50E、田中貴金属社製)を用いること以外は第1アノード極用の触媒ペーストと同様にして、第1カソード極用の触媒ペーストを作製した。
【0109】
ついで、片面に撥水性を有する多孔質層が形成されたカーボンペーパー(25BC、SGL社製)を縦35mm、横40mmに切断した後、その多孔質層上に、上記の第1アノード極用の触媒ペーストを触媒担持量が約3mg/cm2となるように、縦30mm、横35mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、アノード導電性多孔質層であるカーボンペーパー上の中央にアノード触媒層が形成された、厚み約200μmの第1アノード極2を作製した。また、同じサイズのカーボンペーパーの多孔質層上に、上記の第1カソード極用の触媒ペーストを触媒担持量が約1mg/cm2となるように、縦30mm、横35mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、カソード導電性多孔質層であるカーボンペーパー上の中央にカソード触媒層が形成された、厚み約70μmの第1カソード極3を作製した。
【0110】
次に、厚み約175μmのパーフルオロスルホン酸系イオン交換膜(ナフィオン(登録商標)117、デュポン社製)を縦35mm、横40mmに切断して第1電解質膜1とし、上記第1アノード極2と第1電解質膜1と上記第1カソード極3をこの順で、それぞれの触媒層が第1電解質膜1に対向するように重ね合わせた後、130℃、2分間の熱圧着を行ない、第1アノード極2および第1カソード極3を第1電解質膜1に接合した。上記重ね合わせは、第1アノード極2と第1カソード極3の第1電解質膜1の面内における位置が一致するように、かつ第1アノード極2と第1電解質膜1と第1カソード極3の中心が一致するように行なった。ついで、得られた積層体の外周部を切断することにより、縦22mm、横26mmの第1膜電極複合体(MEA)4を作製した。
【0111】
(2)集電層の積層
縦26.5mm、横27mm、厚み0.1mmのステンレス板(NSS445M2、日新製鋼社製)を用意し、この中央領域に、開孔径φ0.6mmである複数の開孔(開孔パターン:千鳥60°ピッチ0.8mm)を、フォトレジストマスクを用いたウェットエッチングにて両面から加工することにより、厚み方向に貫通する貫通孔を複数備えるステンレス板を2枚作製し、これらを第1アノード集電層5および第1カソード集電層6とした。
【0112】
次に、上記第1アノード集電層5を第1アノード極2上に、カーボン粒子とエポキシ樹脂とからなる導電性接着剤層を介して積層するとともに、第1カソード集電層6を第1カソード極3上に、同じ導電性接着剤層を介して積層し、これらを熱圧着により接合して、MEA−集電層積層体を作製した。
【0113】
(3)保湿層の接合
第1アノード保湿層7および第1カソード保湿層8として、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルム(日東電工(株)製の「テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕NTF2122A−S06」、縦22mm、横26mm、厚み0.2mm、気孔率75%)を2枚用意した。これらの保湿層をMEA−集電層積層体の第1アノード集電層5および第1カソード集電層6上に、ポリオレフィンからなる接着剤層を介して積層し、これらを熱圧着により接合した。これらの保湿層は、MEAの直上または直下に配置されるように接合した。
【0114】
(4)第1介在層と第1気液分離層との接合
第1介在層11として、縦26.5mm、横27mm、厚み0.1mmのポリフッ化ビニリデンからなる多孔質フィルム(MILLIPORE製のデュラポアメンブレンフィルター)を用いた。この多孔質フィルムの水に対する接触角は70度未満であった。また、この多孔質フィルムが有する細孔の最大細孔径は0.1μmであり、またJIS K 3832に準拠したバブルポイントは、測定媒体をメタノールとしたとき、115kPaであった。
【0115】
また、第1気液分離層12として、縦26.5mm、横27mm、厚み0.2mmのポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルム(日東電工(株)製の「テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕NTF2122A−S06」)を用いた。この多孔質フィルムの水に対する接触角は120度程度であった。この多孔質フィルムのJIS K 3832に準拠したバブルポイントは、測定媒体をメタノールとしたとき、18kPaであった。
【0116】
上記第1介在層11上に第1気液分離層12を積層し、すべての側面の層境界部を接着剤で接合した。
【0117】
(5)第1気化燃料板の接合
エッチング加工により、図8に示される形状を有する縦26.5mm、横27mm、厚み0.2mmのSUS製の第1気化燃料板99を作製した(第1連通経路99bおよび第1接続経路99c,99dはすべて溝(凹部)からなる)。貫通口99aの開口率は、4個の合計で63%であり、第1連通経路99bの断面積の2個の合計と第1気化燃料板側面の合計面積との比は0.04である。第1気化燃料板99の溝形成面とは反対側の面に上記の第1介在層11と第1気液分離層12との接合体を、その第1気液分離層12側が第1気化燃料板99に対向するように積層し、熱圧着によりこれらを接合した。
【0118】
(6)第1流路板の接合
図11に示したような流路パターンを有する第1セル内燃料流路10a(流路幅1.5mm、深さ0.4mm)を備えた縦26.5mm、横27mm、厚み0.6mmのSUS製の第1流路板10を用意した。第1気化燃料板99/第1気液分離層12/第1介在層11の接合体の第1介在層11上にポリオレフィン系接着剤を介して第1流路板10を積層した後、熱圧着を行なうことにより、該接合体と第1流路板10とを接合した。
【0119】
(7)第1燃料電池セルの作製
第1気化燃料板99上に、上で作製した保湿層を有するMEA−集電層積層体を積層し、熱圧着によりこれらを接合した。最後に、端面にエポキシ樹脂を塗布し硬化させることにより封止層を形成して第1燃料電池セルを得た。合計4つの第1燃料電池セル(第1燃料電池セル101a、101b、101c、101d)を作製した。
【0120】
(8)第2燃料電池セルの作製
第1介在層11を使用せず、第1流路板10上に直接第1気液分離層12を接合するようにしたこと以外は上記と同様にして燃料電池セルを4つ作製し、第2燃料電池セルとした(第2燃料電池セル102a、102b、102c、102d)。
【0121】
(9)燃料分配部の作製
ポリフェニレンサルファイド(PPS)からなる、図12に示すような外形形状を有し(外形縦56mm、横110mm、高さ50mm)、中央の凸部に図11に示すようなパターンのセル外燃料流路155が形成された燃料分配部150を作製した。凸部上面の長手方向中央部に導入口151が形成されている。導入口151は、セル外燃料流路155の幹流路152に連通する貫通口である。
【0122】
(10)平面集積型燃料電池の作製
図11に示すように、4つの第1燃料電池セルおよび4つの第2燃料電池セルと燃料分配部150とを結合し(ネジ孔が合致するように)、平面集積型燃料電池を作製した。結合は、セル内燃料流路とセル外燃料流路との接続部での液漏れを防止するため、燃料電池セル−燃料分配部間に両面テープを配置し、さらにネジにて締結することにより行なった(図11中の○はネジ孔を示している)。
【0123】
(燃料電池の発電特性評価)
メタノール濃度20Mのメタノール水溶液を燃料とし、送液ポンプを用いて導入口151からセル外燃料流路155、さらにセル内燃料流路に燃料供給を行なって燃料電池を発電させ、燃料電池セルごとに、発電開始から発電開始後2000秒までの出力電圧の変化を測定した。取り出し電流値は、発電開始から段階的に大きくしていき、発電開始後約250秒〜発電開始後約1750秒において、0.3Aの定電流とした。結果を図13に示す。図13に示されるように、8つの燃料電池セルは、0.3Aの定電流稼動時において、出力電圧値がほぼ同じ変化パターンを示しており、各燃料電池セルへの燃料供給が均一化された結果、燃料電池セル間での発電のばらつきが小さくなったことが確認された。
【符号の説明】
【0124】
1 第1電解質膜、1’ 第2電解質膜、2 第1アノード極、2’ 第2アノード極、3 第1カソード極、3’ 第2カソード極、4 第1膜電極複合体、4’ 第2膜電極複合体、5 第1アノード集電層、5’ 第2アノード集電層、6 第1カソード集電層、6’ 第2カソード集電層、7 第1アノード保湿層、7’ 第2アノード保湿層、8 第1カソード保湿層、8’ 第2カソード保湿層、9,99 第1気化燃料板、9’ 第2気化燃料板、9a,99a 第1気化燃料収容部(貫通口)、9a’ 第2気化燃料収容部、9b,99b 第1連通経路、10 第1流路板、10’ 第2流路板、10a 第1セル内燃料流路、10a’ 第2セル内燃料流路、11 第1介在層、12 第1気液分離層、12’ 第2気液分離層、13 第2介在層、99c,99d 第1接続経路、100 燃料電池、101,101a,101b,101c,101d,901 第1燃料電池セル、102,102a,102b,102c,102d 第2燃料電池セル、110 燃料電池セル集合体、150 燃料分配部、151 導入口、152 幹流路、153 枝流路、155 セル外燃料流路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の燃料電池セルを同一平面上に配置した燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、情報化社会を支える携帯用電子機器の新規電源として実用化の期待が高まっている。燃料電池は、使用する電解質材料や燃料の分類から、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型、ダイレクトアルコール型等に分類される。特に、電解質材料に固体高分子であるイオン交換膜を用いる固体高分子型燃料電池およびダイレクトアルコール型燃料電池は、常温で高い発電効率が得られることから、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての実用化が検討されている。
【0003】
燃料としてアルコールまたはアルコール水溶液を使用するダイレクトアルコール型燃料電池は、燃料がガスである場合と比較して、燃料貯蔵室を比較的簡易に設計できるなどの理由から、燃料電池の構造の簡略化、省スペース化が可能であり、携帯用電子機器への応用を目的とした小型燃料電池としての期待が特に高い。
【0004】
燃料電池においては、1つの燃料電池セルでは不十分である電力を、携帯用電子機器の新規電源として十分な程度にまで高めるために、複数の燃料電池セルを電気的に接続して組み合わせる(スタック化するなど)ことが従来行なわれている。その一例が、たとえば特許文献1および2に記載されるような、複数の燃料電池セルを同一平面上に配置した燃料電池(以下、「平面集積型燃料電池」ともいう。)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−79506号公報
【特許文献2】特開2006−93119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
携帯用電子機器等の電子機器用の電源として平面集積型燃料電池を適用することを想定した場合、適用され得る様々な電子機器における限られた燃料電池収容スペースの形状や面積などに合わせて、平面集積型燃料電池構造の設計を柔軟に行なえることは極めて有意義である。これは、燃料電池の生産効率の向上(生産工程の簡略化)および生産コスト削減に大きく寄与するためである。
【0007】
一般的に、上記特許文献1および2に記載されるような従来の平面集積型燃料電池は、複数の燃料電池セルが1つの燃料供給部を共有する構造を採っている。ここでいう燃料供給部とは、各燃料電池セルに供給される燃料を収容するかまたは流通させる部位をいい、特許文献1における液体燃料貯蔵部3や特許文献2におけるバイポーラープレート20がこれに相当する。しかしこのような構造の場合、燃料電池収容スペースの形状や面積が異なる電子機器に適用するためには、燃料電池セルの集積形態を設計変更するだけでは足りず、燃料供給部全体およびこれに付随する系統を設計し直す必要が生じ、電子機器に合わせた燃料電池構造の設計変更が容易ではなく、燃料電池の生産効率および生産コストの面で不利であった。
【0008】
本発明者らによって提案される上記課題の解決策は、各燃料電池セル自体に燃料を流通させる燃料流路を付与することによって燃料電池セルのモジュール化を図ることである。これによれば、モジュール(燃料流路を有する燃料電池セル)を設計変更することなく、モジュールの数や配置パターンおよび必要に応じて各燃料電池セルの燃料流路に燃料を誘導するための燃料供給系のみを設計変更することによって、容易に燃料電池収容スペースの形状や面積が異なる電子機器に平面集積型燃料電池を適用することができる。しかしながら、モジュール化された燃料電池セルを用いて平面集積型燃料電池を構築した場合、各燃料電池セルに均一に燃料供給を行なうことが難しいことがあった。
【0009】
本発明の目的は、燃料流路を有するモジュール化された燃料電池セルを同一平面上に複数配置した燃料電池であって、各燃料電池セルへの燃料供給の均一性が良好な燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、同一平面上に配置される1以上の第1燃料電池セルおよび該第1燃料電池セルとは異なる1以上の第2燃料電池セルを含む燃料電池を提供する。
【0011】
上記第1燃料電池セルは、第1アノード極、第1電解質膜および第1カソード極をこの順で有する第1膜電極複合体;液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路が第1アノード極側表面に配された、第1アノード極側に配置される第1流路板;第1膜電極複合体と第1流路板との間に配置され、液体燃料の気化成分を透過可能な第1気液分離層;および、第1セル内燃料流路を覆うように第1気液分離層と前記第1流路板との間に配置され、水に対する接触角が70度未満である第1介在層を備えるものである。
【0012】
上記第2燃料電池セルは、第2アノード極、第2電解質膜および第2カソード極をこの順で有する第2膜電極複合体;液体燃料を流通させるための第2セル内燃料流路が第2アノード極側表面に配された、第2アノード極側に配置される第2流路板;および、第2セル内燃料流路を覆うように第2流路板における第2アノード極側表面上に配置され、液体燃料の気化成分を透過可能な第2気液分離層を備えるものである。
【0013】
第1燃料電池セルおよび第2燃料電池セルは、好ましくはすべての第1セル内燃料流路および第2セル内燃料流路への液体燃料の供給流量が略同じとなるように配置される。
【0014】
1つの実施形態において燃料電池は、1以上の第1燃料電池セルおよび1以上の第2燃料電池セルをライン状に配列した少なくとも一列の燃料電池セル集合体を含み、該燃料電池セル集合体の少なくとも一端に配置される燃料電池セルが第1燃料電池セルである。また、他の実施形態において該燃料電池セル集合体は、その両端に配置される2つの第1燃料電池セルと1以上の第2燃料電池セルとからなる。
【0015】
本発明の燃料電池は、第1セル内燃料流路および第2セル内燃料流路のそれぞれに接続され、燃料電池が有する各燃料電池セルへの液体燃料の分配を行なうセル外燃料流路を有する燃料分配部をさらに備えることが好ましい。
【0016】
1つの実施形態において燃料分配部は、液体燃料を導入するための1つの導入口を有しており、それが有するセル外燃料流路は、該導入口と接続される幹流路、および、該幹流路と各セル内燃料流路とを接続する枝流路から構成される。
【0017】
第1燃料電池セルは、第1アノード極上に積層される第1アノード集電層と、第1カソード極上に積層される第1カソード集電層とをさらに含むことができる。第2燃料電池セルは、第2アノード極上に積層される第2アノード集電層と、第2カソード極上に積層される第2カソード集電層とをさらに含むことができる。本発明の燃料電池は、たとえばダイレクトアルコール型燃料電池である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、燃料流路を有するモジュール化された燃料電池セルを同一平面上に複数配置した燃料電池において、各燃料電池セルへの燃料供給の均一性を向上させることができる。本発明の燃料電池は、電子機器、とりわけ携帯電子機器用の電源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る燃料電池の一例を示す概略上面図である。
【図2】図1に示されるII−II線における概略断面図である。
【図3】図2に示されるIII−III線における概略断面図である。
【図4】図1に示されるIV−IV線における概略断面図である。
【図5】本発明に係る燃料電池の他の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る燃料電池の他の一例を示す概略断面図である。
【図7】第1気化燃料板の一例を示す概略上面図および概略断面図である。
【図8】第1気化燃料板の他の例を示す概略上面図および概略断面図である。
【図9】本発明に係る燃料電池に用いる第1燃料電池セルの他の一例を示す概略断面図である。
【図10】図9に示される第1燃料電池セルが備える第2介在層を示す概略上面図である。
【図11】実施例1で作製した燃料電池を示す概略断面図である。
【図12】実施例1で用いた燃料分配部を示す概略斜視図である。
【図13】実施例1で作製した燃料電池における燃料電池セルごとの出力電圧の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の燃料電池を実施の形態を示して詳細に説明する。
図1は本発明に係る燃料電池の一例を示す概略上面図であり、図2は図1に示されるII−II線における概略断面図、図3は図2に示されるIII−III線における概略断面図である。また、図4は図1に示されるIV−IV線における概略断面図である。
【0021】
これらの図面に示される燃料電池100は、同一平面上に配置された2つの第1燃料電池セル101と1つの第2燃料電池セル102とを含む平面集積型燃料電池であり、より具体的には、2つの第1燃料電池セル101および1つの第2燃料電池セル102をライン状に配列してなる燃料電池セル集合体110と、燃料電池セル集合体110の側面に隣接して配置された燃料分配部150とから構成される。燃料電池100を構成する燃料電池セルは、電気的に直列接続または並列接続される。
【0022】
燃料電池100は、3つの燃料電池セルから構成される燃料電池セル集合体110の両端の燃料電池セルに第1燃料電池セル101を用い、中央の燃料電池セルに第2燃料電池セル102を用いたことを1つの特徴としている。第1燃料電池セル101および第2燃料電池セル102はともに、セル内に燃料流路を有するモジュール化された燃料電池セルであるが、互いに異なるセル構造を有している。
【0023】
図2を参照して、第1燃料電池セル101は、第1アノード極2、第1電解質膜1および第1カソード極3をこの順で有する第1膜電極複合体4;第1アノード極2上に積層され、これに電気的に接続された第1アノード集電層5;第1カソード極3上に積層され、これに電気的に接続された第1カソード集電層6;第1アノード集電層5に接するように第1アノード集電層5上に積層される第1アノード保湿層7;第1カソード集電層6に接するように第1カソード集電層6上に積層される第1カソード保湿層8;第1アノード極2側(第1アノード極2の下方)に配置され、液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路10aが第1アノード極2側表面に配された第1流路板10;第1膜電極複合体4と第1流路板10との間に配置され、液体燃料の気化成分を透過可能な第1気液分離層12;第1気液分離層12と第1アノード保湿層7との間に配置され、第1気化燃料収容部9aを具備する第1気化燃料板9;および、第1セル内燃料流路10aを覆うように第1気液分離層12と第1流路板10との間に配置される第1介在層11から構成されている。第1介在層11は、水に対する接触角が70度未満の層である。
【0024】
第2燃料電池セル102は、第2アノード極2’、第2電解質膜1’および第2カソード極3’をこの順で有する第2膜電極複合体4’;第2アノード極2’上に積層され、これに電気的に接続された第2アノード集電層5’;第2カソード極3’上に積層され、これに電気的に接続された第2カソード集電層6’;第2アノード集電層5’に接するように第2アノード集電層5’上に積層される第2アノード保湿層7’;第2カソード集電層6’に接するように第2カソード集電層6’上に積層される第2カソード保湿層8’;第2アノード極2’側(第2アノード極2’の下方)に配置され、液体燃料を流通させるための第2セル内燃料流路10a’が第2アノード極2’側表面に配された第2流路板10’;第2膜電極複合体4’と第2流路板10’との間に配置され、液体燃料の気化成分を透過可能な第2気液分離層12’;および、第2気液分離層12’と第2アノード保湿層7’との間に配置され、第2気化燃料収容部9a’を具備する第2気化燃料板9’から構成されている。
【0025】
これらの燃料電池セルの相違点は、第1燃料電池セル101が第1気液分離層12と第1流路板10との間に配置される第1介在層11を有する一方、第2燃料電池セル102はこのような介在層を有しておらず、第2セル内燃料流路10a’上に直接、第2気液分離層12’が積層されていることである。
【0026】
図3および図4を参照して、燃料分配部150は、導入口151を通して導入された液体燃料を各燃料電池セル(すべての第1燃料電池セル101および第2燃料電池セル102)に分配するための、燃料電池セルとは独立した部材であり、その内部に、第1セル内燃料流路10aおよび第2セル内燃料流路10a’のそれぞれに接続されるセル外燃料流路155を有する。たとえば、セル外燃料流路155は、導入口151と接続された幹流路152、および、幹流路152と各セル内燃料流路とを接続する枝流路153から構成することができる。
【0027】
燃料分配部150は、各燃料電池セルが有するセル内燃料流路の入口端部が配置された燃料電池セル集合体110の長手端面に隣接して付設された略直方体形状の部材であり、その導入口151は、燃料分配部150の長手方向(燃料電池セルの配列方向と平行)に関しておよそ中央部に設けられている。
【0028】
互いにセル構造の異なる第1燃料電池セル101および第2燃料電池セル102を組み合わせ、これらを適切な位置に配置した燃料電池100によれば、各燃料電池セルへの燃料供給の均一性を改善することができる。すなわち、燃料電池セルが接続されていない状態の燃料分配部150を考えた場合、導入口151から枝流路153の出口側端部までの距離が長いこと、および、図3のX、Yで示されるようなセル外燃料流路155の端部において気泡が滞留しやすいことなどに起因して、燃料分配部150のセル外燃料流路155の出口側端部(セル内燃料流路に接続されることとなる端部、すなわち枝流路153の出口)における液体燃料の圧力損失は、導入口151からより遠くに位置する出口側端部ほど大きくなる。
【0029】
このような圧力損失の不均一性の問題は、燃料分配部150に同じセル構造を有する燃料電池セルを接続した場合でも同様である。燃料分配部150に接続される燃料電池セル集合体110を構成する燃料電池セルがすべて同じセル構造を有する場合、セル外燃料流路155の出口側端部における液体燃料の圧力損失は、導入口151からより遠くに位置する燃料電池セルに接続される端部の方がより大きくなる。導入口151が燃料分配部150の長手方向における中央部に設置されるような形態においては、燃料電池セル集合体110を構成する燃料電池セルがすべて同じセル構造を有する場合、燃料電池セル集合体110の両端に配置される燃料電池セルに接続される端部における上記圧力損失が相対的に大きくなり、セル内燃料流路への液体燃料の供給流量が相対的に小さくなってしまう。
【0030】
これに対して、上記圧力損失が相対的に大きくなる燃料電池セル集合体110の両端に、親水性を有する第1介在層11をセル内燃料流路10a上に備えた第1燃料電池セル101を配置することにより、その親水性(濡れ性)に基づいて液体燃料を引き込む力が生じる(セル内燃料流路内における液体燃料の圧力損失が低減される)ため、燃料電池セル集合体110の両端に配置された燃料電池セルのセル内燃料流路への液体燃料の供給流量が増加し、燃料電池セル間での燃料供給の均一化を図ることができ、さらには、すべての第1セル内燃料流路10aおよび第2セル内燃料流路10a’への液体燃料の供給流量を略同じにすることが可能となる。
【0031】
燃料供給の均一化により、安定的な発電が可能になるとともに、燃料不足であった燃料電池セルの発電特性を高レベルに引き上げることができるため、燃料電池全体としての発電特性を向上させることができる。また、燃料電池セル間での発電のばらつきが小さくなるため、燃料電池セル間での温度のばらつきも小さくなる。このこともまた安定的な発電をもたらす。
【0032】
燃料電池が有する燃料電池セルの数は2以上であれば特に制限されないが、好ましくは3以上である。図5は、燃料電池セル集合体110が、ライン状に配列された4つの燃料電池セルからなる形態を示した、図3と同様の概略断面図である。この例においても、導入口151が燃料分配部150の長手方向におけるおよそ中央部に設置されており、燃料電池セル間での燃料供給の均一化を図るために、燃料電池セル集合体110の両端に第1介在層11を備えた第1燃料電池セル101が配置されている。
【0033】
図6は、燃料電池セル集合体が、ライン状に配列された3つの燃料電池セルからなり、導入口151が燃料分配部150の長手方向における一方の端部に設置された形態を示した、図3と同様の概略断面図である。かかる形態においては、導入口151からセル外燃料流路155の出口側端部までの距離が特に長く、図6のZで示されるようなセル外燃料流路155の端部(導入口設置位置とは反対側の端部)において気泡が滞留しやすいことから、燃料電池セル間での燃料供給の均一化を図るために、燃料電池セル集合体110における導入口設置位置とは反対側の端部に第1介在層11を備えた第1燃料電池セル101が配置されている。
【0034】
なお、本発明の燃料電池は、たとえばライン状に配列された複数の燃料電池セルからなる燃料電池セル集合体を2以上含むものであってもよく、また、燃料分配部を2以上含むものであってもよい。1つの燃料分配部の対向する2つの側面にそれぞれ燃料電池セル集合体を結合させるようにしてもよい。
【0035】
以上のように、本発明に係る燃料電池においては、セル外燃料流路の出口側端部(セル内燃料流路との接続点)における液体燃料の圧力損失を考慮し、相対的に当該圧力損失の大きい箇所に、第1介在層の親水性に起因してセル内燃料流路内における液体燃料の圧力損失が相対的に低い第1燃料電池セルを配置する一方、相対的に圧力損失の小さい箇所に第1介在層を有しない第2燃料電池セルを配置することにより、圧力損失の全体的なバランスをとり、燃料電池セル間での燃料供給の均一化を図り、好ましくはすべての第1セル内燃料流路および第2セル内燃料流路への液体燃料の供給流量を略同じにする。
【0036】
本発明に係る燃料電池はまた、セル内に燃料流路を有する燃料電池セルをモジュールとして使用したものであるので、モジュールの数や配置パターンおよび燃料分配部の形状等のみを設計変更することによって、容易に燃料電池収容スペースの形状や面積が異なる電子機器に適用することができる。このような燃料電池構造設計の柔軟性は、燃料電池の生産効率の向上(生産工程の簡略化)および生産コスト削減に極めて有効である。
【0037】
次に、本発明の燃料電池を構成する各部材等について詳細に説明する。
(1)第1燃料電池セル
〔第1電解質膜〕
第1膜電極複合体4を構成する第1電解質膜1は、第1アノード極2から第1カソード極3へプロトンを伝達する機能と、第1アノード極2と第1カソード極3との電気的絶縁性を保ち、短絡を防止する機能を有する。電解質膜の材質は、プロトン伝導性を有し、かつ電気的絶縁性を有する材質であれば特に限定されず、高分子膜、無機膜またはコンポジット膜を用いることができる。高分子膜としては、たとえば、パーフルオロスルホン酸系電解質膜である、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子社製)などが挙げられる。また、スチレン系グラフト重合体、トリフルオロスチレン誘導体共重合体、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフォスファゼンなどの炭化水素系電解質膜などを用いることもできる。
【0038】
無機膜としては、たとえばリン酸ガラス、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸、ポリリン酸アンモニウムなどからなる膜が挙げられる。コンポジット膜としては、タングステン酸、硫酸水素セシウム、ポリタングストリン酸等の無機物とポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、パーフルオロスルホン酸等の有機物とのコンポジット膜などが挙げられる。第1電解質膜1の厚みはたとえば1〜200μmである。
【0039】
〔第1アノード極および第1カソード極〕
第1電解質膜1の一方の表面に積層される第1アノード極2および他方の表面に積層される第1カソード極3にはそれぞれ、少なくとも触媒と電解質とを含有する多孔質層からなる触媒層が設けられる。第1アノード極2において触媒(アノード触媒)は、燃料からプロトンと電子とを生成する反応を触媒し、電解質は、生成したプロトンを第1電解質膜1へ伝導する機能を有する。第1カソード極3において触媒は、電解質を伝導してきたプロトンと酸化剤(空気など)から水を生成する反応を触媒する。
【0040】
第1アノード極2および第1カソード極3の触媒は、カーボンやチタン等の導電体の表面に担持されたものでもよく、なかでも、水酸基やカルボキシル基等の親水性官能基を有するカーボンやチタン等の導電体の表面に担持されていることが好ましい。これにより、第1アノード極2および第1カソード極3の保水性を向上させることができる。保水性の向上により、プロトン移動に伴う第1電解質膜1の抵抗や、第1アノード極2および第1カソード極3における電位分布を改善することができる。
【0041】
第1アノード極2および第1カソード極3はそれぞれ、触媒層上に積層されるアノード導電性多孔質層(アノードガス拡散層)、カソード導電性多孔質層(カソードガス拡散層)を備えていてもよい。これらの導電性多孔質層は、第1アノード極2、第1カソード極3に供給されるガス(気化燃料または酸化剤)を面内において拡散させる機能を有するとともに、触媒層と電子の授受を行なう機能を有する。アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層としては、比抵抗が小さく、電圧の低下が抑制されることから、カーボン材料;導電性高分子;Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;これらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などからなる多孔質材料を用いることが好ましい。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。より具体的には、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層として、たとえば、上記貴金属、遷移金属または合金からなる発泡金属、金属織物および金属焼結体;ならびにカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン粒子を含有するエポキシ樹脂膜などを好適に用いることができる。
【0042】
〔第1アノード集電層および第1カソード集電層〕
第1アノード集電層5、第1カソード集電層6はそれぞれ、第1アノード極2上、第1カソード極3上に積層される。第1アノード集電層5および第1カソード集電層6はそれぞれ、第1アノード極2、第1カソード極3における電子を集電する機能と、電気的配線を行なう機能とを有する。集電層の材質は、比抵抗が小さく、面方向に電流を取り出しても電圧の低下が抑制されることから、金属であることが好ましく、なかでも、電子伝導性を有し、酸性雰囲気下で耐腐食性を有する金属であることがより好ましい。このような金属としては、Au、Pt、Pd等の貴金属;Ti、Ta、W、Nb、Ni、Al、Cu、Ag、Zn等の遷移金属;およびこれらの金属の窒化物または炭化物等;ならびに、ステンレスに代表されるこれらの金属を含有する合金などが挙げられる。Cu、Ag、Zn等の、酸性雰囲気下で耐腐食性に乏しい金属を用いる場合には、Au、Pt、Pdなどの耐腐食性を有する貴金属、導電性高分子、導電性窒化物、導電性炭化物、導電性酸化物等により表面処理(皮膜形成)を行なってもよい。なお、アノード導電性多孔質層およびカソード導電性多孔質層が、たとえば金属等からなり、導電性が比較的高い場合には、第1アノード集電層および第1カソード集電層は省略されてもよい。
【0043】
より具体的には、第1アノード集電層5は、気化燃料を第1アノード極2へ誘導するための厚み方向に貫通する貫通孔(開口)を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。この貫通孔は、第1アノード極2の触媒層で生成する副生ガス(CO2ガス等)を第1気化燃料収容部9a側へ誘導するための経路としても機能する。同様に、第1カソード集電層6は、酸化剤(たとえば燃料電池外部の空気)を第1カソード極3の触媒層に供給するための厚み方向に貫通する貫通孔(開口)を複数備える、上記金属材料などからなるメッシュ形状またはパンチングメタル形状を有する平板であることができる。
【0044】
〔第1流路板〕
第1流路板10は、液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路10aが第1アノード極2側表面に形成された板状体であり、燃料電池の第1アノード極2側に配置される。第1セル内燃料流路10aは、たとえば上記板状体の一方の表面に形成された溝(凹部)からなることができる。第1セル内燃料流路10aの形状(パターン)は特に制限されないが、第1アノード極2全面にできるだけ均一に気化燃料を供給できるよう、流路板表面のできるだけ広い範囲にわたって、均一に配置することが好ましい。図3に流路パターンの好ましい一例を示している。図3に示される第1流路板10および第2流路板10’の斜線部は溝(凹部)であることを示している(図5、6、11も同様)。図3に示される第1セル内燃料流路10aおよび第2セル内燃料流路10a’はそれぞれ、4箇所でセル外燃料流路155と接続されている。セル外燃料流路155と接続された4つの流路は一旦一つの流路に集約され、この流路から5本の流路が枝状に等間隔を置いて延びている。なお、図3の各燃料電池セルの周縁部に描かれている○(それぞれ計7個)は、各部材間の締結に用いるネジ孔を示している(図5、6、11も同様)。
【0045】
流路形状の他の例を挙げれば、分岐部分を有さない流路形状(たとえば、セル外燃料流路との接続箇所から直線状に延びる複数の流路)、網目状の流路、表面に形成された大きな凹部からなる槽型の流路などである。
【0046】
セル内流路の幅および深さは特に制限されないが、たとえばそれぞれ0.2〜1.5mm程度(とりわけ槽型流路の場合はこれより大きくなり得る)、0.1〜0.6mm程度である。
【0047】
第1流路板10は、プラスチック材料または金属材料などから作製することができる。プラスチック材料としては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属材料としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金材料を用いることができる。
【0048】
〔第1気液分離層〕
第1膜電極複合体4と第1流路板10との間であって、後述する第1介在層11の第1アノード極2側表面上に配置される第1気液分離層12は、気化燃料透過性(液体燃料の気化成分を透過できる性質)かつ液体燃料不透過性の疎水性を有する多孔質層であり、第1アノード極2への燃料の気化供給を可能とする気液分離能を有する層である。第1気液分離層12は、第1アノード極2へ供給される気化燃料の量または濃度を適切量に制御(制限)するとともに、均一化する機能をも有する。第1気液分離層12を設けることにより、燃料のクロスオーバーを効果的に抑制でき、発電部に温度ムラが生じにくく、安定した発電状態を維持することができる。
【0049】
第1気液分離層12としては、使用する燃料に関して気液分離能を有するものであれば特に制限されないが、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔質膜または多孔質シートを挙げることができ、具体的には、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルムである日東電工(株)製テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕の「NTF2026A−N06」や「NTF2122A−S06」が例示できる。
【0050】
気化燃料透過性および液体燃料不透過性を付与する観点から、第1気液分離層12が有する細孔の最大細孔径は、0.1〜10μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましい。最大細孔径は、後述する第1介在層11と同様、メタノール等を用いてバブルポイントを測定することにより求めることができる。第1気液分離層12は、後述する水に対する接触角が、通常80度以上であり、より典型的には90度以上である。
【0051】
第1気液分離層12の厚みは特に制限されないが、上記機能を十分に発現させるために、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、燃料電池の薄型化の観点からは、第1気液分離層12の厚みは500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0052】
〔第1介在層〕
第1流路板10の第1アノード極2側表面(したがって第1セル内燃料流路10aを形成する溝(凹部))を覆うように第1気液分離層12と第1流路板10との間に配置される第1介在層11は、水に対する接触角が70度未満の親水性を有する層である。このような層を、第1セル内燃料流路10aを覆うように配置することによって、液体燃料は、第1介在層11が有する親水性に基づいて第1セル内燃料流路10a内に引き込まれるため、第1セル内燃料流路10aの内部における液体燃料の圧力損失を低減させることができる。第1介在層11の水に対する接触角は、JIS R 3257(基板ガラス表面のぬれ性試験)に準拠して測定される。
【0053】
第1介在層11は、液体燃料に対して毛細管作用を示すことが好ましく、燃料供給の不均一性をより効果的に是正できるよう、比較的大きな毛細管力を有することがより好ましい。このような観点から、第1介在層11は細孔を有することが好ましく、その最大細孔径は、1μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることがより好ましい。最大細孔径は、後述するバブルポイントを測定することで得られるが、それ以外の手法としては水銀圧入法によって測定することができる。ただし、水銀圧入法では0.005μm〜500μmの細孔分布しか測定できないため、この範囲外の細孔は存在しない、もしくは無視できる場合に有効な測定手段である。
【0054】
第1介在層11は、特に制限されないが、測定媒体をメタノールとしたときのバブルポイントが、たとえば5kPa以上程度であることができる。より高い毛細管力を付与する場合には、バブルポイントは高いことが好ましい。このような観点から、バブルポイントは30kPa以上であってよく、さらには50kPa以上であってよい。
【0055】
一方で、発電中に第1セル内燃料流路10aまたはセル外燃料流路中の液体燃料内に生じた気泡を第1介在層11および第1気液分離層12を介して第1気化燃料収容部9a側に逃がし、燃料電池セル外に排出できるようにすることを考慮した実施形態においては、第1介在層11のバブルポイントは低いことが好ましい。このような実施形態においては、主に第1介在層11の親水性(表面の濡れ性)が、第1セル内燃料流路10aの内部における液体燃料の圧力損失の低減に寄与する。
【0056】
バブルポイントとは、液媒体で濡らした層(膜)の裏側から空気圧をかけたときに、層(膜)の表面に気泡の発生が認められる最小圧力である。バブルポイントΔPは、下記式(1):
ΔP[Pa]=4γcosθ/d (1)
(γは測定媒体の表面張力[N/m]、θは層(膜)の素材と測定媒体との接触角、dは層(膜)が有する最大細孔径である。)
によって定義される。本発明においてバブルポイントは、測定媒体をメタノールとし、JIS K 3832に準拠して測定される。
【0057】
第1介在層11としては、たとえば、高分子材料、金属材料または無機材料などからなる多孔質層や、高分子膜を挙げることができ、具体例を示せば以下のとおりである。
【0058】
1)次の材料からなる多孔質層。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;アクリル系樹脂;ABS樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂;セルロースアセテート、ニトロセルロース、イオン交換セルロース等のセルロース系樹脂;ナイロン;ポリカーボネート系樹脂;ポリ塩化ビニル等の塩素系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルスルホン;ガラス;セラミックス;ステンレス、チタン、タングステン、ニッケル、アルミニウム、スチール等の金属材料。多孔質層は、これらの材料からなる発泡体、焼結体、不織布または繊維(ガラス繊維等)などであることができる。これらの材料のうち、疎水性材料を基材として用いる場合には、親水性官能基を導入するなどの方法により親水化処理を施し、細孔表面の水に対する濡れ性を高めることにより、接触角を70度未満に調整することができる。
【0059】
2)次の材料からなる高分子膜。パーフルオロスルホン酸系重合体;スチレン系グラフト重合体、トリフルオロスチレン誘導体共重合体、スルホン化ポリアリーレンエーテル、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリベンゾイミダゾール、ホスホン化ポリベンゾイミダゾール、スルホン化ポリフォスファゼンなどの炭化水素系重合体などの電解質膜材料として用いることができるもの。これらの高分子膜は、3次元的に絡み合う高分子間の隙間として、ナノオーダーの細孔を有している。
【0060】
以上に掲げた材料のうち、疎水性材料を基材として用いる場合には、親水性官能基を導入するなどの方法により親水化処理を施し、細孔表面の水に対する濡れ性を高めることにより、接触角を70度未満に調整することができる。
【0061】
第1介在層11の厚みは特に制限されないが、燃料電池の薄型化の観点から、好ましくは20〜500μmであり、より好ましくは50〜200μmである。
【0062】
〔第1気化燃料板〕
図7(a)は第1燃料電池セル101で用いられている第1気化燃料板9を示す概略上面図であり、図7(b)は図7(a)に示されるVII−VII線における概略断面図である。第1気化燃料板9は、第1膜電極複合体4と第1気液分離層12との間に気化燃料を収容するための空間(すなわち、第1気化燃料収容部9a)を形成するための部材である。図2の例において第1気化燃料板9は、第1アノード保湿層7に接するように第1アノード保湿層7と第1気液分離層12との間に配置されている。第1気化燃料板9は、厚み方向に貫通する貫通口である第1気化燃料収容部9a、および、第1気化燃料収容部9aと第1気化燃料板9外部とを連通する第1連通経路9bを有する。第1連通経路9bは、第1アノード極2で生成した副生ガス(CO2ガス等)を燃料電池外部に排出させるための経路である。
【0063】
図7に示される第1気化燃料板9において第1連通経路9bは、第1気化燃料板9の周縁部に設けられ、第1気化燃料収容部9aから該周縁部の端面まで延びる溝(凹部)からなる。第1連通経路9bの出口は、たとえば燃料分配部150が結合される燃料電池側面に対向する側面に設けられる(図4参照)。
【0064】
第1セル内燃料流路10a上に第1気液分離層12を介して第1気化燃料収容部9aを設けることにより、第1アノード極2に供給される気化燃料濃度の第1アノード極面内における均一化および気化燃料量の最適化が促進される。
【0065】
第1気化燃料収容部9aを設けることは以下の点でも有利である。
(i)第1気化燃料収容部9a内に存在する空気層により、発電部(第1膜電極複合体)と第1セル内燃料流路10aとの間の断熱を図ることができる。これにより、第1セル内燃料流路10a内の液体燃料の温度が過度に上昇することによるクロスオーバーを抑制できる。このことは、電池内部温度の暴走および内圧上昇の抑制に寄与する。
【0066】
(ii)第1アノード極2で生成したCO2ガス等の副生ガスは、発電により生じた熱を伴って第1気化燃料収容部9a内に到達し、続いて第1連通経路9bを通って、燃料電池セル外部に排出される。これにより、燃料電池セル内部に蓄積される熱量を大幅に低減することができるため、第1セル内燃料流路10aを含めて燃料電池セル全体としての過度の温度上昇を抑制することができる。このこともまた、電池内部温度の暴走および内圧上昇の抑制に寄与する。特に、第1気化燃料板9に第1連通経路9b(副生ガスの排出口)を設けていることにより、第1セル内燃料流路10aへの熱の伝達が起こりにくく、したがって第1セル内燃料流路10a内の液体燃料の過度の温度上昇ならびに、これに伴うクロスオーバーおよび温度暴走がより生じにくい。
【0067】
(iii)第1連通経路9bより副生ガスを良好に排出することができるため、副生ガスの排出不良による燃料供給阻害を抑制することができ、第1アノード極2への燃料供給を良好に行なうことができる。これにより、安定した発電特性を得ることができる。また、第1連通経路9bより副生ガスを良好に排出することができるため、副生ガスの第1セル内燃料流路10a内への侵入を抑制することができる。これにより、第1アノード極2に対して、十分な量の気化燃料を安定して供給することができるようになるため、燃料電池の出力安定性を向上させることができる。
【0068】
第1気化燃料板9の厚みは、たとえば、100〜1000μm程度とすることができ、100〜300μm程度まで薄くした場合であっても、上記のような効果を十分に得ることができる。
【0069】
第1気化燃料板9が有する貫通口(第1気化燃料収容部9a)は、発電部と第1セル内燃料流路10aとの間の断熱性の観点から、図7に示されるように、第1気化燃料板9の面積に対する開口率をできるだけ大きくすることが好ましく、したがって第1気化燃料板9はできるだけ大きな貫通口を有する枠形状(ロの字状)を有することが好ましい。
【0070】
貫通口の開口率、すなわち、第1気化燃料板9の面積に対する貫通口の開口面積(後述するように、第1気化燃料板9は2以上の貫通口を有していてもよく、その場合にはそれらの開口面積の合計)の割合は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。貫通口の開口率を大きくすることは、第1気化燃料板9の、第1アノード極2に供給される燃料濃度を均一化する機能を高める上でも有利であり、第1アノード極2への十分な燃料供給を確保する上でも有利である。なお、貫通口の開口率は、通常、90%以下である。
【0071】
第1連通経路9bは、第1気化燃料板9の周縁部に設けられる溝(凹部)に限定されるものではなく、厚み方向に貫通する貫通穴であってもよいが、強度の観点から、溝(凹部)からなることが好ましい。第1気化燃料板9の強度の観点から、第1連通経路9bの深さは第1気化燃料板9の厚みの75%程度までとすることが好ましい。
【0072】
図8(a)は第1気化燃料板の他の例を示す概略上面図であり、図8(b)は図8(a)に示されるVIII−VIII線における概略断面図である。図8に示されるように、第1気化燃料板は2以上の貫通口を有していてもよい。図8に示される第1気化燃料板99は、縦横2列に配列された合計4つの貫通口99aを有する。これは、大きな貫通口の縦方向および横方向に梁を設け、4つに分割したものということもできる。このような複数の貫通口を有する(梁を設けた)第1気化燃料板は、面内方向の剛性が向上するため、衝撃等に対する強度に優れる燃料電池が得られる点において有利である。また、図7に示されるような梁を設けない構造と比較して、第1気化燃料板の上下に配置される部材の熱などに起因する膨張等による貫通口の閉塞がより生じにくい点においても有利である。
【0073】
第1気化燃料板が2以上の貫通口を有する場合、その周縁部に設けられる第1連通経路は、貫通口ごとに、貫通口の数と同じ数だけ設けてもよいし、貫通口の数より少ない、もしくは多い数の連通経路を設けることもできる。図8の例においては、4つの貫通口99aに対して2つの第1連通経路99bが設けられている。このように、貫通口ごとに第1連通経路を設けなくてもよいが、その場合には、図8に示されるように、第1連通経路99bが設けられていない貫通口(図8(a)における下2つの貫通口99a)は、第1接続経路99cによって、第1連通経路99bが設けられた貫通口(図8(a)における上2つの貫通口99a)に空間的に接続される。第1接続経路99cは、第1連通経路99bと同様、貫通口間の梁に設けられた溝(凹部)であることができる(図8(b)参照)。第1接続経路99cを設けることにより、第1連通経路99bが設けられていない貫通口内に入った副生ガスを、第1連通経路99bを通して外部に排出することができる。
【0074】
第1気化燃料板の貫通口(第1気化燃料収容部)に到達した副生ガスの外部への排出効率を向上させるために、あるいは、第1気化燃料板の、第1アノード極2に供給される燃料の濃度を均一化する機能を高めるために、第1連通経路99bが設けられた貫通口同士および/または第1連通経路99bが設けられていない貫通口同士を空間的に接続する第1接続経路99dを設けることも好ましい(図8(a)参照)。
【0075】
第1連通経路の断面積(2以上の第1連通経路を有する場合にはこれらの断面積の合計)S1と、第1気化燃料板の側面の合計面積S0との比S1/S0は、副生ガスおよびこれに伴う熱の排出を行なうために0より大きくすることが必要であり、好ましくは0.002以上である。また、好ましくは0.3未満、より好ましくは0.1未満、さらに好ましくは0.05未満である。当該比が0.3以上になると、燃料の漏洩や空気の混入が起こりやすくなり、発電の安定性が低下するおそれがある。
【0076】
第1連通経路のすべてを燃料分配部150が結合される燃料電池側面に対向する側面に設ける場合など、第1気化燃料板が有する4つの周縁部のうち、いずれか1つの周縁部にのみ1または2以上の第1連通経路を設ける場合において、第1連通経路の断面積(2以上の第1連通経路を有する場合にはこれらの断面積の合計)S1と、第1連通経路が設けられる周縁部における側面の断面積S2との比S1/S2は、上記と同様の理由から、好ましくは0.008以上である。
【0077】
第1気化燃料板の材質は、プラスチック、金属または非多孔質性のカーボン材料などであることができる。プラスチックとしては、たとえば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などを挙げることができる。金属としては、たとえば、チタン、アルミニウム等のほか、ステンレス、マグネシウム合金等の合金を用いることができる。
【0078】
上記のなかでも、第1気化燃料板は、金属、ポリフェニレンサルファイド(PPS)またはポリイミド(PI)などの剛性が大きい材質からなることが好ましい。剛性が大きい第1気化燃料板を用いると、ホットプレス(熱圧着)により第1気化燃料板とこれに隣接する部材との接合が可能になるため、燃料電池の厚みや発電特性のばらつきを低減することができる。また、ホットプレス時において、第1連通経路の閉塞を有効に防止することができる。
【0079】
なお、第1気化燃料板は省略されてもよいが、上述の効果を得るために第1気化燃料板を設置することが好ましい。
【0080】
〔第1カソード保湿層および第1アノード保湿層〕
第1カソード保湿層8は、第1カソード極3上、好ましくは第1カソード集電層6上に配置される、第1カソード極3で発生した水が、第1カソード極3側から燃料電池セル外に蒸散することを防止するための任意で設けられる層である。第1カソード保湿層8を設けることにより、第1カソード極3で生じた水を燃料電池セル外部に蒸散させることなく、効率的に第1電解質膜1を介して第1アノード極2に戻し、第1アノード極2での反応に有効利用させることができる。
【0081】
第1アノード保湿層7は、第1アノード極2または第1アノード集電層5と第1気化燃料収容部9aとの間に配置される、第1アノード極2内の水分が、第1アノード極2側から第1膜電極複合体外に(たとえば第1気化燃料収容部9aへ)蒸散することを防止し、第1アノード極2内に保持させるための任意で設けられる層である。第1アノード保湿層7を設けることにより、第1カソード極3で発生し、第1電解質膜1を介して第1アノード極2に到達した水を第1膜電極複合体外に蒸散させることなく第1アノード極2内に良好に保持することができる。これにより当該水が第1アノード極2での反応に有効に利用されるため、第1アノード極2での反応効率が向上し、高い発電特性を安定して発揮することができる。とりわけ、第1カソード保湿層8との併用により、当該効果をより効果的に得ることができる。
【0082】
また、第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7の設置は、第1電解質膜1の乾燥、ならびにこれに伴うセル抵抗の増大および発電特性の低下を防止するうえでも有効である。
【0083】
第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7は、気化燃料または燃料電池外部からの酸化剤(空気など)等を透過できるよう気体透過性であり、水に対して不溶性であって、かつ保湿性(水を蒸散させない性質)を有する材料から構成される。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;アクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ塩化ビニル等の塩素系樹脂;ポリエーテル系樹脂;ポリフェニレン系樹脂;撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔性膜(多孔質層)であることができる。これらの保湿層は、上記高分子からなる発泡体、繊維束、織繊維、不織繊維、あるいはこれらの組み合わせなどであることができる。
【0084】
第1カソード保湿層8は、燃料電池外部からの酸化剤(空気など)を透過できるよう気体透過性であり、かつ保湿性(水を蒸散させない性質)を有していることが望まれることから、その気孔率は、30%以上90%以下であることが好ましく、50%以上80%以下であることがより好ましい。気孔率が90%を超える場合、第1カソード極3で発生した水を燃料電池セル内に保持することが困難となり得る。一方、気孔率が30%未満である場合、燃料電池外部からの酸化剤(空気など)の拡散が阻害され、第1カソード極3における発電特性が低下しやすい。
【0085】
第1アノード保湿層7は、気化燃料および触媒層で生成する副生ガス(CO2ガス等)などを透過できるような気体透過性であり、かつ保湿性(水を蒸散させない性質)を有していることが望まれることから、その気孔率は、50%以上90%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましい。気孔率が90%を超える場合、第1カソード極3で発生し、第1電解質膜1を介して第1アノード極2に到達した水を第1膜電極複合体内に保持することが困難となり得る。一方、気孔率が50%未満である場合、気化燃料および触媒層で生成する副生ガス(CO2ガス等)などの拡散が阻害され、第1アノード極2における発電特性が低下しやすい。
【0086】
第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7の気孔率は、当該保湿層の容積と重量を測定し、当該保湿層の比重を求め、これと素材の比重より、下記式(2):
気孔率(%)=〔1−(保湿層の比重/素材比重)〕×100 (2)
により算出することができる。
【0087】
第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7の厚みは特に制限されないが、上記機能を十分に発現させるために、20μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、燃料電池の薄型化の観点からは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましい。
【0088】
第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7は、それ自身が高い吸水性を有して、一旦吸収した液状の水を取り込んで外部に放出しないような性質を有しないことが望まれることから、撥水性を有することが好ましい。このような観点から、第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7は、上記の中でも、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;撥水化処理されたシリコーン樹脂などからなる多孔性膜(多孔質層)であることが好ましい。具体的には、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルムである日東電工(株)製テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕の「NTF2026A−N06」や「NTF2122A−S06」が例示できる。
【0089】
第1アノード保湿層7は、第1アノード極2上に第1アノード集電層5を配置し、この第1アノード集電層5に接するように第1アノード集電層5上に積層されることが好ましい。これにより、第1アノード極2内の水分が第1膜電極複合体外に蒸散されることをより効果的に防止することができる。
【0090】
なお、第1カソード保湿層8および第1アノード保湿層7は必要に応じて設けられるものであり、これらの少なくともいずれか一方を省略してもよい。
【0091】
〔第2介在層〕
第1燃料電池セル101は、第1介在層11と第1気液分離層12との間に介在される第2介在層13を有していてもよい。図9に第2介在層13を備える第1燃料電池セルの一例を示す。図9に示される第1燃料電池セル901は、第1介在層11と第1気液分離層12との間に第2介在層13を有すること以外は図2に示される第1燃料電池セル101と同様である。図10は、第1燃料電池セル901で使用されている第2介在層13を示す概略上面図である。
【0092】
第2介在層13は、液体燃料が透過可能な厚み方向に貫通する貫通孔を有する層であり、少なくとも第1介在層11と第1気液分離層12とを密着性良く面接合する役割を担い、好ましくは第1気液分離層12側への液体燃料透過量を調整(制限)する機能を有する。第2介在層13としては、たとえば図10に示されるような、厚み方向に貫通する貫通孔を有する非多孔性シート(フィルム)を用いることができ、その材料としては熱可塑性樹脂が好ましく例示できる。これを用いて、第1介在層/第2介在層/第1気液分離層からなる積層体を熱圧着することにより、各層間を密着性良く面接合することができる。第2介在層13として、厚み方向に貫通する貫通孔を有し、面接合が可能な非多孔性シートを有する第1燃料電池セルは、以下の点において有利である。
【0093】
(i)第2介在層13を介して第1介在層11と第1気液分離層12とを密着性良く接合することができるため、第1介在層11と第1気液分離層12との間に副生ガスが滞留することがなく、第1気液分離層12面内における気化燃料透過量のバラツキを抑制することができ、これにより第1アノード極2に対して均一な燃料供給を行なうことができる。
【0094】
(ii)第2介在層13に形成される貫通孔の数や開孔径により、第1気液分離層12側への液体燃料透過量、ひいては第1アノード極2への気化燃料供給量を適切な量に調整(制限)することができる。これにより、燃料のクロスオーバーの防止または抑制、および燃料供給の安定化を図ることができる。貫通孔の数は特に制限されないが、複数個存在することが好ましく、第1気液分離層12面内における気化燃料透過量を均一化する観点から、貫通孔を第2介在層13面内において均一に分布させることが好ましい。貫通孔の開孔径(直径)は、たとえば、0.1〜5mm程度とすることができる。
【0095】
上述の熱可塑性樹脂シートのほか、第2介在層13は、たとえば次のものから形成されるものであってもよい。
【0096】
1)接着性を有する樹脂または樹脂組成物から形成される多孔質層、たとえば、ホットメルト系接着剤や硬化型接着剤などの接着剤から形成される多孔質層。当該接着剤を用いる場合、第2介在層13は、接着剤層、すなわち、当該接着剤またはその硬化物からなる多孔質層である。第1気液分離層12側への液体燃料透過量は、多孔質層が有する細孔によって調整(制限)される。
【0097】
2)厚み方向に貫通する貫通孔を有する、好ましくは非多孔性の金属板を含むもの。この場合、金属板の両面には、第1介在層11および第1気液分離層12との良好な密着性を確保するために、接着剤層が形成され、したがって、第2介在層13は、接着剤層/金属板/接着剤層の3層構造となる。接着剤層は、接着剤またはその硬化物からなる多孔質層である。接着剤は、ホットメルト系接着剤や硬化型接着剤などであることができる。第1気液分離層12側への液体燃料透過量は、熱可塑性樹脂シートの場合と同様、金属板に形成される貫通孔の数や開孔径により調整(制御)できる。接着剤層は貫通孔を塞がないように形成されることが好ましい。
【0098】
(2)第2燃料電池セル
第2燃料電池セル102を構成する第2膜電極複合体4’(第2アノード極2’、第2電解質膜1’および第2カソード極3’)、第2アノード集電層5’、第2カソード集電層6’、第2アノード保湿層7’、第2カソード保湿層8’、第2流路板10’、第2気液分離層12’ならびに第2気化燃料板9’はそれぞれ、上述の第1膜電極複合体4(第1アノード極2、第1電解質膜1および第1カソード極3)、第1アノード集電層5、第1カソード集電層6、第1アノード保湿層7、第1カソード保湿層8、第1流路板10、第1気液分離層12ならびに第1気化燃料板9と同様の構成を有する。第2燃料電池セル102は第1介在層を有しておらず、第2セル内燃料流路10a’上に直接、第2気液分離層12’が積層される。
【0099】
(3)燃料分配部
燃料分配部150は、導入口151を通して導入された液体燃料を各燃料電池セルに分配するための、燃料電池セルとは独立した部材であり、その内部に、第1セル内燃料流路10aおよび第2セル内燃料流路10a’のそれぞれに接続されるセル外燃料流路155を有する。このように、アノード極の直下領域に液体燃料を行き渡らせる燃料流路(セル内燃料流路)を燃料電池セルの一部として燃料電池セル内に組み込む一方で、各燃料電池セルに液体燃料を分配するための燃料流路(セル外燃料流路)を、燃料電池セルとは独立した部材で形成することにより、燃料電池セルのモジュール化を図ることができる。
【0100】
セル外燃料流路155は、たとえば図3に示されるように、たとえば上面などに設けられた導入口151と接続された幹流路152、および、幹流路152と各セル内燃料流路とを接続する枝流路153から構成することができる。また、燃料分配部150は、タンク様の中空部材であって、たとえば上面などに導入口151が設けられ、燃料電池セルと結合される側面に各セル内燃料流路と連結される貫通孔を設けたものであってもよい(中空部分が幹流路、貫通孔が枝流路に相当する)。
【0101】
燃料分配部150の外形形状は特に制限されず、適用する電子機器が有する燃料電池収容スペースの形状や面積、モジュール(燃料電池セル)の数や配列形態などを考慮して適宜の形状とされる。燃料分配部150は、各種プラスチック材料、金属材料、合金材料などから構成することができる。
【0102】
導入口151には、通常、流路を介して液体燃料を貯蔵する燃料タンク(図示せず)が接続される。燃料タンクからのセル外燃料流路およびセル内燃料流路への燃料供給は、通常、送液ポンプを用いて行なうが、送液ポンプ等の補機を用いないパッシブ供給であってもよい。
【0103】
(4)燃料電池のタイプ
本発明の燃料電池は、固体高分子型燃料電池またダイレクトアルコール型燃料電池などであることができ、特にダイレクトアルコール型燃料電池(とりわけ、ダイレクトメタノール型燃料電池)として好適である。本発明の燃料電池において使用することのできる液体燃料としては、たとえば、メタノール、エタノールなどのアルコール類;ジメトキシメタンなどのアセタール類;ギ酸などのカルボン酸類;ギ酸メチルなどのエステル類;ならびにこれらの水溶液を挙げることができる。液体燃料は1種に限定されず、2種以上の混合物であってもよい。コストの低さや体積あたりのエネルギー密度の高さ、発電効率の高さなどの点から、メタノール水溶液または純メタノールが好ましく用いられる。また、カソード極に供給される酸化剤ガスとしては、空気または酸素ガスが好適であり、特に空気が好ましい。
【0104】
本発明の燃料電池は、電子機器、特には、携帯電話、電子手帳、ノート型パソコンに代表される携帯機器などの小型電子機器用の電源として好適に用いることができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0106】
<実施例1>
以下の手順で、図11に示される構成の燃料電池を作製した。図11は図3と同様の概略断面図であり、セル外燃料流路およびセル内燃料流路の形状を示したものである。本実施例で作製した平面集積型燃料電池は、ライン状に配列された4つの燃料電池セルからなる燃料電池セル集合体を2つ含むこと以外は図5に示される燃料電池と同様である。これらの燃料電池セル集合体は、燃料分配部150の対向する2つの側面にそれぞれ結合されている。2つの燃料電池セル集合体のセル内燃料流路に接続できるよう、セル外燃料流路155は、幹流路152から当該両側面に延びる枝流路153を有している。
【0107】
2つの燃料電池セル集合体はそれぞれ、その両端に配置された第1介在層を有する第1燃料電池セル(それぞれ図11における第1燃料電池セル101aおよび101b、第1燃料電池セル101cおよび101d)と、中央部に配置された2つの第2燃料電池セル(それぞれ図11における第2燃料電池セル102aおよび102b、第2燃料電池セル102cおよび102d)からなる。第1燃料電池セル101a、101b、101c、101dおよび第2燃料電池セル102a、102b、102c、102dのセル構造はそれぞれ、図2に示される第1燃料電池セル101、第2燃料電池セル102と同様である。
【0108】
(1)第1膜電極複合体の作製
Pt担持量32.5重量%、Ru担持量16.9重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC66E50、田中貴金属社製)と、電解質である20重量%のナフィオン(登録商標)のアルコール溶液(アルドリッチ社製)と、n−プロパノールと、イソプロパノールと、ジルコニアボールとを、所定の割合でフッ素系樹脂製の容器に入れ、攪拌機を用いて500rpmで50分間の混合を行なうことにより、第1アノード極用の触媒ペーストを作製した。また、Pt担持量46.8重量%の触媒担持カーボン粒子(TEC10E50E、田中貴金属社製)を用いること以外は第1アノード極用の触媒ペーストと同様にして、第1カソード極用の触媒ペーストを作製した。
【0109】
ついで、片面に撥水性を有する多孔質層が形成されたカーボンペーパー(25BC、SGL社製)を縦35mm、横40mmに切断した後、その多孔質層上に、上記の第1アノード極用の触媒ペーストを触媒担持量が約3mg/cm2となるように、縦30mm、横35mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、アノード導電性多孔質層であるカーボンペーパー上の中央にアノード触媒層が形成された、厚み約200μmの第1アノード極2を作製した。また、同じサイズのカーボンペーパーの多孔質層上に、上記の第1カソード極用の触媒ペーストを触媒担持量が約1mg/cm2となるように、縦30mm、横35mmのウィンドウを有したスクリーン印刷版を用いて塗布し、乾燥させることにより、カソード導電性多孔質層であるカーボンペーパー上の中央にカソード触媒層が形成された、厚み約70μmの第1カソード極3を作製した。
【0110】
次に、厚み約175μmのパーフルオロスルホン酸系イオン交換膜(ナフィオン(登録商標)117、デュポン社製)を縦35mm、横40mmに切断して第1電解質膜1とし、上記第1アノード極2と第1電解質膜1と上記第1カソード極3をこの順で、それぞれの触媒層が第1電解質膜1に対向するように重ね合わせた後、130℃、2分間の熱圧着を行ない、第1アノード極2および第1カソード極3を第1電解質膜1に接合した。上記重ね合わせは、第1アノード極2と第1カソード極3の第1電解質膜1の面内における位置が一致するように、かつ第1アノード極2と第1電解質膜1と第1カソード極3の中心が一致するように行なった。ついで、得られた積層体の外周部を切断することにより、縦22mm、横26mmの第1膜電極複合体(MEA)4を作製した。
【0111】
(2)集電層の積層
縦26.5mm、横27mm、厚み0.1mmのステンレス板(NSS445M2、日新製鋼社製)を用意し、この中央領域に、開孔径φ0.6mmである複数の開孔(開孔パターン:千鳥60°ピッチ0.8mm)を、フォトレジストマスクを用いたウェットエッチングにて両面から加工することにより、厚み方向に貫通する貫通孔を複数備えるステンレス板を2枚作製し、これらを第1アノード集電層5および第1カソード集電層6とした。
【0112】
次に、上記第1アノード集電層5を第1アノード極2上に、カーボン粒子とエポキシ樹脂とからなる導電性接着剤層を介して積層するとともに、第1カソード集電層6を第1カソード極3上に、同じ導電性接着剤層を介して積層し、これらを熱圧着により接合して、MEA−集電層積層体を作製した。
【0113】
(3)保湿層の接合
第1アノード保湿層7および第1カソード保湿層8として、ポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルム(日東電工(株)製の「テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕NTF2122A−S06」、縦22mm、横26mm、厚み0.2mm、気孔率75%)を2枚用意した。これらの保湿層をMEA−集電層積層体の第1アノード集電層5および第1カソード集電層6上に、ポリオレフィンからなる接着剤層を介して積層し、これらを熱圧着により接合した。これらの保湿層は、MEAの直上または直下に配置されるように接合した。
【0114】
(4)第1介在層と第1気液分離層との接合
第1介在層11として、縦26.5mm、横27mm、厚み0.1mmのポリフッ化ビニリデンからなる多孔質フィルム(MILLIPORE製のデュラポアメンブレンフィルター)を用いた。この多孔質フィルムの水に対する接触角は70度未満であった。また、この多孔質フィルムが有する細孔の最大細孔径は0.1μmであり、またJIS K 3832に準拠したバブルポイントは、測定媒体をメタノールとしたとき、115kPaであった。
【0115】
また、第1気液分離層12として、縦26.5mm、横27mm、厚み0.2mmのポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質フィルム(日東電工(株)製の「テミッシュ〔TEMISH(登録商標)〕NTF2122A−S06」)を用いた。この多孔質フィルムの水に対する接触角は120度程度であった。この多孔質フィルムのJIS K 3832に準拠したバブルポイントは、測定媒体をメタノールとしたとき、18kPaであった。
【0116】
上記第1介在層11上に第1気液分離層12を積層し、すべての側面の層境界部を接着剤で接合した。
【0117】
(5)第1気化燃料板の接合
エッチング加工により、図8に示される形状を有する縦26.5mm、横27mm、厚み0.2mmのSUS製の第1気化燃料板99を作製した(第1連通経路99bおよび第1接続経路99c,99dはすべて溝(凹部)からなる)。貫通口99aの開口率は、4個の合計で63%であり、第1連通経路99bの断面積の2個の合計と第1気化燃料板側面の合計面積との比は0.04である。第1気化燃料板99の溝形成面とは反対側の面に上記の第1介在層11と第1気液分離層12との接合体を、その第1気液分離層12側が第1気化燃料板99に対向するように積層し、熱圧着によりこれらを接合した。
【0118】
(6)第1流路板の接合
図11に示したような流路パターンを有する第1セル内燃料流路10a(流路幅1.5mm、深さ0.4mm)を備えた縦26.5mm、横27mm、厚み0.6mmのSUS製の第1流路板10を用意した。第1気化燃料板99/第1気液分離層12/第1介在層11の接合体の第1介在層11上にポリオレフィン系接着剤を介して第1流路板10を積層した後、熱圧着を行なうことにより、該接合体と第1流路板10とを接合した。
【0119】
(7)第1燃料電池セルの作製
第1気化燃料板99上に、上で作製した保湿層を有するMEA−集電層積層体を積層し、熱圧着によりこれらを接合した。最後に、端面にエポキシ樹脂を塗布し硬化させることにより封止層を形成して第1燃料電池セルを得た。合計4つの第1燃料電池セル(第1燃料電池セル101a、101b、101c、101d)を作製した。
【0120】
(8)第2燃料電池セルの作製
第1介在層11を使用せず、第1流路板10上に直接第1気液分離層12を接合するようにしたこと以外は上記と同様にして燃料電池セルを4つ作製し、第2燃料電池セルとした(第2燃料電池セル102a、102b、102c、102d)。
【0121】
(9)燃料分配部の作製
ポリフェニレンサルファイド(PPS)からなる、図12に示すような外形形状を有し(外形縦56mm、横110mm、高さ50mm)、中央の凸部に図11に示すようなパターンのセル外燃料流路155が形成された燃料分配部150を作製した。凸部上面の長手方向中央部に導入口151が形成されている。導入口151は、セル外燃料流路155の幹流路152に連通する貫通口である。
【0122】
(10)平面集積型燃料電池の作製
図11に示すように、4つの第1燃料電池セルおよび4つの第2燃料電池セルと燃料分配部150とを結合し(ネジ孔が合致するように)、平面集積型燃料電池を作製した。結合は、セル内燃料流路とセル外燃料流路との接続部での液漏れを防止するため、燃料電池セル−燃料分配部間に両面テープを配置し、さらにネジにて締結することにより行なった(図11中の○はネジ孔を示している)。
【0123】
(燃料電池の発電特性評価)
メタノール濃度20Mのメタノール水溶液を燃料とし、送液ポンプを用いて導入口151からセル外燃料流路155、さらにセル内燃料流路に燃料供給を行なって燃料電池を発電させ、燃料電池セルごとに、発電開始から発電開始後2000秒までの出力電圧の変化を測定した。取り出し電流値は、発電開始から段階的に大きくしていき、発電開始後約250秒〜発電開始後約1750秒において、0.3Aの定電流とした。結果を図13に示す。図13に示されるように、8つの燃料電池セルは、0.3Aの定電流稼動時において、出力電圧値がほぼ同じ変化パターンを示しており、各燃料電池セルへの燃料供給が均一化された結果、燃料電池セル間での発電のばらつきが小さくなったことが確認された。
【符号の説明】
【0124】
1 第1電解質膜、1’ 第2電解質膜、2 第1アノード極、2’ 第2アノード極、3 第1カソード極、3’ 第2カソード極、4 第1膜電極複合体、4’ 第2膜電極複合体、5 第1アノード集電層、5’ 第2アノード集電層、6 第1カソード集電層、6’ 第2カソード集電層、7 第1アノード保湿層、7’ 第2アノード保湿層、8 第1カソード保湿層、8’ 第2カソード保湿層、9,99 第1気化燃料板、9’ 第2気化燃料板、9a,99a 第1気化燃料収容部(貫通口)、9a’ 第2気化燃料収容部、9b,99b 第1連通経路、10 第1流路板、10’ 第2流路板、10a 第1セル内燃料流路、10a’ 第2セル内燃料流路、11 第1介在層、12 第1気液分離層、12’ 第2気液分離層、13 第2介在層、99c,99d 第1接続経路、100 燃料電池、101,101a,101b,101c,101d,901 第1燃料電池セル、102,102a,102b,102c,102d 第2燃料電池セル、110 燃料電池セル集合体、150 燃料分配部、151 導入口、152 幹流路、153 枝流路、155 セル外燃料流路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一平面上に配置される1以上の第1燃料電池セルおよび1以上の第2燃料電池セルを含む燃料電池であって、
前記第1燃料電池セルは、
第1アノード極、第1電解質膜および第1カソード極をこの順で有する第1膜電極複合体と、
液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路が第1アノード極側表面に配された、前記第1アノード極側に配置される第1流路板と、
前記第1膜電極複合体と前記第1流路板との間に配置され、前記液体燃料の気化成分を透過可能な第1気液分離層と、
前記第1セル内燃料流路を覆うように前記第1気液分離層と前記第1流路板との間に配置され、水に対する接触角が70度未満である第1介在層と、
を備え、
前記第2燃料電池セルは、
第2アノード極、第2電解質膜および第2カソード極をこの順で有する第2膜電極複合体と、
液体燃料を流通させるための第2セル内燃料流路が第2アノード極側表面に配された、前記第2アノード極側に配置される第2流路板と、
前記第2セル内燃料流路を覆うように前記第2流路板における第2アノード極側表面上に配置され、前記液体燃料の気化成分を透過可能な第2気液分離層と、
を備える燃料電池。
【請求項2】
すべての前記第1セル内燃料流路および前記第2セル内燃料流路への前記液体燃料の供給流量が略同じとなるように、前記第1燃料電池セルおよび前記第2燃料電池セルが配置されている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
1以上の前記第1燃料電池セルおよび1以上の前記第2燃料電池セルをライン状に配列した少なくとも一列の燃料電池セル集合体を含み、
前記燃料電池セル集合体の少なくとも一端に配置される燃料電池セルは前記第1燃料電池セルである請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料電池セル集合体は、その両端に配置される2つの前記第1燃料電池セルと、1以上の前記第2燃料電池セルとからなる請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記第1セル内燃料流路および前記第2セル内燃料流路のそれぞれに接続され、燃料電池が有する各燃料電池セルへの前記液体燃料の分配を行なうセル外燃料流路を有する燃料分配部をさらに備える請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記燃料分配部は、前記液体燃料を導入するための1つの導入口を有しており、
前記セル外燃料流路は、前記導入口と接続される幹流路、および、前記幹流路と各セル内燃料流路とを接続する枝流路から構成される請求項4に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記第1燃料電池セルは、前記第1アノード極上に積層される第1アノード集電層と、前記第1カソード極上に積層される第1カソード集電層とをさらに含み、
前記第2燃料電池セルは、前記第2アノード極上に積層される第2アノード集電層と、前記第2カソード極上に積層される第2カソード集電層とをさらに含む請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
ダイレクトアルコール型燃料電池である請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項1】
同一平面上に配置される1以上の第1燃料電池セルおよび1以上の第2燃料電池セルを含む燃料電池であって、
前記第1燃料電池セルは、
第1アノード極、第1電解質膜および第1カソード極をこの順で有する第1膜電極複合体と、
液体燃料を流通させるための第1セル内燃料流路が第1アノード極側表面に配された、前記第1アノード極側に配置される第1流路板と、
前記第1膜電極複合体と前記第1流路板との間に配置され、前記液体燃料の気化成分を透過可能な第1気液分離層と、
前記第1セル内燃料流路を覆うように前記第1気液分離層と前記第1流路板との間に配置され、水に対する接触角が70度未満である第1介在層と、
を備え、
前記第2燃料電池セルは、
第2アノード極、第2電解質膜および第2カソード極をこの順で有する第2膜電極複合体と、
液体燃料を流通させるための第2セル内燃料流路が第2アノード極側表面に配された、前記第2アノード極側に配置される第2流路板と、
前記第2セル内燃料流路を覆うように前記第2流路板における第2アノード極側表面上に配置され、前記液体燃料の気化成分を透過可能な第2気液分離層と、
を備える燃料電池。
【請求項2】
すべての前記第1セル内燃料流路および前記第2セル内燃料流路への前記液体燃料の供給流量が略同じとなるように、前記第1燃料電池セルおよび前記第2燃料電池セルが配置されている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
1以上の前記第1燃料電池セルおよび1以上の前記第2燃料電池セルをライン状に配列した少なくとも一列の燃料電池セル集合体を含み、
前記燃料電池セル集合体の少なくとも一端に配置される燃料電池セルは前記第1燃料電池セルである請求項1または2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料電池セル集合体は、その両端に配置される2つの前記第1燃料電池セルと、1以上の前記第2燃料電池セルとからなる請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記第1セル内燃料流路および前記第2セル内燃料流路のそれぞれに接続され、燃料電池が有する各燃料電池セルへの前記液体燃料の分配を行なうセル外燃料流路を有する燃料分配部をさらに備える請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項6】
前記燃料分配部は、前記液体燃料を導入するための1つの導入口を有しており、
前記セル外燃料流路は、前記導入口と接続される幹流路、および、前記幹流路と各セル内燃料流路とを接続する枝流路から構成される請求項4に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記第1燃料電池セルは、前記第1アノード極上に積層される第1アノード集電層と、前記第1カソード極上に積層される第1カソード集電層とをさらに含み、
前記第2燃料電池セルは、前記第2アノード極上に積層される第2アノード集電層と、前記第2カソード極上に積層される第2カソード集電層とをさらに含む請求項1〜6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項8】
ダイレクトアルコール型燃料電池である請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−33690(P2013−33690A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170050(P2011−170050)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]