説明

片面自動溶接用タブ板

【課題】本発明は、片面自動溶接方法の終端部での、溶接母材の回転変形を拘束するに最も効果的な形状のタブ板を得ることを目的とする。
【解決手段】片面自動溶接方法に使用するタブ板であって、基本的に大きなタブ板として、溶接母材の溶接終端部における回転変形を拘束するのに必要な幅をとし、クレータを溶接母材の外に逃すのに必要な長さとし、回転変形を拘束するのに影響せず、クレータを逃すのに影響しない両肩部を落とした略三角形状とした。
また、略三角形状にしたタブの長さ(三角の高さ)を300〜500mmとし、タブの幅(三角の底辺)を600〜1000mmとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片面自動溶接において使用されるタブ板に関するものであり、特に、溶接終端において溶接割れが発生しないタブ板の形状に係わる。
【背景技術】
【0002】
船舶や海洋構造物の建造において、片面自動溶接が実施されている。この片面自動溶接は能率が高い溶接方法であるが、溶接部に高速で移動しながら大きな熱量を与えるので、熱歪が発生しやすい。
従来、突合せ溶接では、最後に固まる溶融池(クレータ)を溶接母材から逃がす目的でタブ板を使用することが行われている。
しかしながら、片面自動溶接の終端部では、電極がタブ板に乗り上げる際、熱応力によって回転変形が生じ、溶接割れが発生することがしばしばある。
【0003】
図3に溶接終端部の熱変形の状態を示すが、図3(A)は終端部の溶融状態を示しており、矢印のごとく高温域との温度勾配により、溶接母材1に回転変形が生じる。溶接母材1に溶接固定されているタブ板2は、前述のごとくクレータ4を溶接母材1から逃すために設けたものであり、したがって、幅300mm、長さ125mm程度のものである。
図3(B)は終端部の凝固過程を示しており、冷却過程で高温域は冷え、クレータ4は凝固していき、溶接母材1の回転変形は元にもどるが、このとき溶接部3に溶接割れ5が発生すると考えられる。
【0004】
このため、溶接母材の回転変形を拘束する位の大きなタブ板を使用すれば、溶接割れを防止することができるが、現場での溶接作業において、回転変形を拘束する程の大きなタブ板を使用することは現実的には困難である。
従来、溶接割れの発生を防止するため、溶接終端部の変形を抑える方法として、溶接母材の終端部約300〜350mm程度の開先内をカスケード溶接し、その部分は裏ビードを出さないようにするシーリングカスケード法や、溶接母材の両端から溶接し、クレータを溶接母材内部で重ねるクレータ会合法、また、比較的大きなタブ板に溶接母材と同じ開先をとり、溶接母材終端部手前からタブ板終端まで開先内にシーリングビードを置く二つ割タブ法などが行われている。
【0005】
しかし、前記したシーリングカスケード法は、各板厚に対して終端部割れ防止率は高いが、溶接母材終端部においてカスケード溶接が必要であるし、その部分の裏側をはつり溶接することが必要になる。
クレータ会合法も各板厚に対して終端部割れ防止率は高いが、1つの継手において方向を変えて2回の溶接をすることになるし、最初の溶接部クレータのガウジングが必要であり、クレータ会合部のグラインダ仕上げが必要になる。
【0006】
また、二つ割タブ法は、溶接母材を延長する考え方によるもので、タブ板を大きくするほど効果は大きくなるが、このため、大きなタブ板が必要になる。また、比較的低入熱な薄板では終端部割れ防止率が高いが、比較的高入熱な厚板では終端部割れ防止率が低くなっている。
【0007】
さらに、タブ板のクレータ処理部分と母材終端部の拘束部分をスリットによって、熱的に切り離し、電極がタブ板に乗り上げたときの拘束力低下を防止するようにしたスリットタブ法も知られている。
この方法では、タブ板による拘束力が弱いため、大きなタブ板を使用することが必要になるし、面内仮付けやスリットの長さなど種々の要因によって、結果が大きく変わり、安定性が得られない。薄板に比較して厚板での終端部割れ防止率は低い。
【0008】
また、このスリットタブ法において、タブ板の拘束力を高めるため、3つの部分に分割したタブ板の両側の2辺を拘束するエンドタブ押え冶具を使用するものもある(例えば、特許文献1参照)。
しかし、このエンドタブ押え冶具は、エンドタブに嵌合させ、側方よりボルトをねじ込んでエンドタブに固定するものであり、エンドタブの他にこのような押え冶具を使用するため、コストが嵩むし、現場でタブ板にタブ押え冶具を嵌合するなど作業が複雑になる。
【0009】
【特許文献1】特開平7−88650号公報 (第3頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述のごとき問題点を解決したもので、片面自動溶接方法の終端部での、溶接母材の回転変形を拘束するに最も効果的な形状のタブ板を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
片面自動溶接方法に使用するタブ板であって、基本的に大きなタブ板として、溶接母材の溶接終端部における回転変形を拘束するのに必要な幅をとし、クレータを母材の外に逃すのに必要な長さとし、回転変形を拘束するのに影響せず、クレータを逃すのに影響しない両肩部を落とした略三角形状とした。
また、略三角形状にしたタブの長さ(三角の高さ)を300〜500mmとし、タブの幅(三角の底辺)を600〜1000mmとした。
【発明の効果】
【0012】
基本的に大きなタブ板として、回転変形を押えるに必要な幅をとし、クレータを逃すのに必要な長さとして、回転変形を押えるのに影響せず、クレータを逃すのに影響しない両肩部を落とした略三角形状としたので、効果的な形状として、大きさの割に軽い形状のタブ板が得られ、該タブ板を用いるだけで、溶接母材の回転変形を拘束することができ、溶接割れの発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図示した本発明の最良の形態について説明する。図1は本発明によるタブ板の形状を示す平面図、図2は本発明のタブ板を使用した溶接終端部の熱変形を拘束した状態を示す図である。
【0014】
図示のごとく溶接母材11にはタブ板12を溶接固定して、片面自動溶接を行う。このタブ板12は、溶接終端部において溶接電極がタブ板12に乗り移るとき、溶接終端部に生じる回転変形を拘束するのに必要な幅、即ち、溶接終端部における溶接母材11の回転変形域を求め、その回転変形域のおおよそ2倍程度の大きな幅としている。具体的には600mm〜1000mmであり、800mm程度が好ましい。
【0015】
また、タブ板12の長さはクレータ14を、溶接母材11からタブ板12に逃すのに必要な長さとし、具体的には300〜500mmであり、350mm程度が好ましい。
そして、タブ板12の両肩部は、溶接母材11の回転変形をタブ板12の幅によって拘束すれば、回転変形に影響がないし、また、クレータ14を逃すのにも影響しないので、この両肩部を落として、タブ板12を概略三角形状にしている。
【0016】
さらに、タブ板12の幅で、溶接母材11の回転変形を拘束するので、従来のタブ板2は板厚20〜25mmのものが使用されていたが、本発明のタブ板12の板厚は従来のタブ板2より薄い15mm程度のものが使用できる。
【0017】
本発明の構成は以上の通りである。したがって、基本的には大きなタブ板を使用するのと同等の効果が得られるが、溶接母材11の回転変形を拘束するのに必要な幅とし、クレータ14を逃がすのに必要な長さとして、回転変形を押えるのに影響がなく、クレータを逃すのに影響しない両肩部に相当する部分を落とした略三角形状とし、かつ、従来より板厚が薄いタブ板12としたので、大きさの割に軽く、取り扱い易い。
【0018】
なお、タブ板12を略三角形状としたが、溶接母材11に溶接固定する都合上、台形状にするとか、あるいは、角部にRを着けるなど、発明の本旨を逸脱しない範囲で、変形することは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明によるタブ板の平面図。
【図2】本発明のタブ板を使用した溶接終端部での熱変形を拘束する状態を示す図。
【図3】従来のタブ板を使用した溶接終端部の熱変形の状態を示す図。
【符号の説明】
【0020】
1 溶接母材 2 タブ板
3 溶接部 4 クレータ
5 割れ
11 溶接母材 12 タブ板
13 溶接部 14 クレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接母材の溶接終端部における回転変形を押えるのに必要な幅とし、クレータを溶接母材の外に逃がすのに必要な長さとし、回転変形を押えるのに影響せず、クレータを逃すのに影響しない両肩部を落とした略三角形状としたことを特徴とする片面自動溶接用タブ板。
【請求項2】
タブの長さを300〜500mmとし、タブの幅を600〜1000mmとしたことを特徴とする請求項1記載の片面自動溶接用タブ板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−297435(P2006−297435A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121141(P2005−121141)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)