説明

版胴及び版胴装置

【課題】軽量で、しかも十分の剛性を保持できる版胴を提供する。
【解決手段】版胴軸1と嵌合する内径部を有し、外周面に凸版を貼り付けて印刷を行う一体構成の版胴3において、中空にすると共に、内周側に版胴軸に嵌合する内径部を有する円板状のリブを軸方向に多数設けて鋳造により製造した構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪転印刷機において、印刷サイズの変更等に応じて交換可能にした版胴及びこれを用いた版胴装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の輪転印刷機の版胴は、輪転印刷機の手前側と奥側のフレームに軸受部材にて両端部を支承された版胴軸に抜き差し可能に固着されており、これの交換時には、手前側の軸受部材を手前側のフレームから取り外し、この軸受部材を取り外した後のフレームの軸受部材取り付け穴を通して、版胴軸から版胴を抜き出すようにしている。
【0003】
また、従来のこの種の版胴にあっては、これの剛性を得るために版胴軸に挿入する穴以外は中実になっていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−74526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の版胴は、版胴軸に挿入する穴以外が中実になっていたため重量が大きく、版胴としての剛性は維持されるものの、サイズが大きくなるほど人の手による着脱に困難をきたし、作業場の安全性の問題も生じてくる。
【0006】
また従来の版胴装置にあっては、軸受部材を取り外した後のフレームの軸受穴より版胴を抜き出す際に、抜き出しはじめの状態では版胴軸を案内にしてスムーズに抜き出せるが、版胴軸に対して抜き出し終わりの状態では、上記版胴軸との嵌合部が少なくなることにより、版胴が版胴軸に対してこじれが生じやすくなり、版胴の奥側の穴の表面を傷めてしまう問題があった。
【0007】
さらに上記した従来の版胴装置において、版胴軸の手前側端部を支持する軸受部材はフレームに対してボルト結合されていて、軸受部材を取り外す際にはこのボルトをフレームから完全に抜き取ってから軸受部材をフレームから外すようにしている。このため上記軸受部材を取り外す際には、これを固着している所定の長さを有する複数本のボルトをいちいちフレームから抜き取らなければならず作業性が悪かった。
【0008】
本発明は上記のことにかんがみなされたもので、十分な剛性を保持した上で軽量化を図ることができる版胴を提供すると共に、この版胴の交換作業を版胴の内径部の内面を傷つけることなくスムーズに行うことができ、さらに版胴軸の手前側の端部を支承する手前側の軸受部材の着脱作業を容易にして、この軸受部材を外してこの軸受部材が嵌合していたフレームの穴を通しての版胴の交換作業の容易化を図ることができるようにした版胴装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る版胴は、版胴軸と嵌合する内径部を有し、外周面に凸版を貼り付けて印刷を行う一体構成の版胴において、中空にすると共に、内周側に版胴軸に嵌合する内径部を有する円板状のリブを軸方向に多数設けて鋳造により製造した構成になっている。
そして請求項2に係る版胴は、リブのコーナー部の半径をリブの間隔の略1/2にし、各リブ間を軸方向にアーチ状にした。
【0010】
上記構成の版胴を用いた請求項3に係る版胴装置は、上記版胴を、手前側と奥側のフレームに設けた軸受部材に支承された版胴軸に回転方向に係合し、かつ軸方向に抜き差し可能に嵌合し、手前側の軸受部材を手前側へ取り外した状態で、この軸受部材が嵌合する手前側のフレームの軸受穴より抜き出し可能にし、手前側の軸受部材を取り外した状態の版胴軸の手前側端部に、版胴軸の版胴との嵌合部と同径にした抜き取り案内棒を同心状にして係脱自在に連結可能にした構成になっている。
【0011】
請求項4に係る版胴装置は、上記構成の版胴装置において、手前側の軸受部材の手前側端部に設けたフランジ部の、このフランジ部をフレーム側にボルトにて固着するために設けたボルト穴を、軸受部材の軸心を中心とする円弧状の長穴にすると共に、円弧方向の一端部を上記ボルトの締め付け頭部が挿通する大きさの大径部とした構成になっている。
【発明の効果】
【0012】
上記請求項1及び請求項2に係る発明の版胴によれば、版胴を中空にしたことにより軽量化を図ることができ、版胴の交換作業を容易に行うことができる。そしてこの版胴は上記したように中空にはなっているが、これの軸方向に多数の円板状のリブを設けたことにより、十分の剛性を保持することができる。
【0013】
上記版胴を用いた請求項3に係る版胴装置によれば、版胴を版胴軸から抜く際に、この版胴軸の手前側端部に案内棒を連結することにより、上記版胴はこの案内棒を案内にして版胴軸に対してこじれが発生することなくスムーズに抜き出すことができると共に、穴の表面に傷をつけることなく抜き出すことができる。
【0014】
また、請求項4に係る版胴装置によれば、版胴の交換に際して手前側の軸受部材を手前側のフレームから取り外す場合に、これをフレームに固着しているボルトをフレームから抜き切るまでゆるめる必要がなく、これをフレームに残したまま手前側の軸受部材をフレームから取り外すことができて、この軸受部材の着脱作業が容易になって版胴の交換作業の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る版胴及び版胴装置の一例を示す断面図である。
【図2】手前側の軸受部材の取り付け状態を示す正面図である。
【図3】版胴の抜き出し作業を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1において1は手前側と奥側のフレーム2a,2bに回転自在に支承された版胴軸、3は上記両フレーム2a,2b間において版胴軸1に回転方向に係合して支持される版胴であり、この版胴3が版胴軸1に対して手前側のフレーム2aの外側へ抜け出し可能になっている。
【0018】
版胴軸1の両端部は中間部に対して小径になっていて、これの奥側端部が軸受部材5を介して奥側のフレーム2bに支承されており、この軸受部材5より突出する先端部に原動機側に連結された入力歯車6が固着されている。軸受部材5の両側には、カラー7a,7bが版胴軸1の小径部に嵌合されていて、この両カラー7a,7b及び上記歯車6のボス部にて版胴軸1が軸受部材5に対して軸方向に係止されるようになっている。フレーム2bの手前側に嵌合されるカラー7aは、版胴軸1に対してキー部材8にて回転方向に係合されている。また、このカラー7aの手前側の端部はフランジ状に大径になっていて、版胴軸1の中間の大径部に嵌合される版胴3の奥側端面が、このカラー7aに当接して軸方向に位置決めされるようになっている。そしてこのカラー7aと版胴3の端面とは、キー部材9にて回転方向に係合されている。
上記版胴軸1に対する動力の入力は、これに回転制御可能にした単独モータを結合するようにしてもよい。
【0019】
版胴軸1の手前側の端部は、手前側の軸受部材10を介して手前側のフレーム2aに支承されている。この軸受部材10は、これの内側に嵌合したニードルベアリング11を介して版胴軸1の手間側の小径部に対して抜き差し可能になっている。また、この軸受部材10は、手前側のフレーム2aに設けた軸受穴12に対して手前側へ抜き出し可能に嵌合されている。軸受穴12は版胴3の外径より大径になっている。そしてこの軸受部材10の手前側端部に設けられたフランジ10aを、フレーム2aの手前側端面に当接し、このフランジ10aに設けたボルト穴13を貫通するボルト14を、フレーム2aに設けたねじ穴に螺合することにより、この軸受部材10がフレーム2aに固定されるようになっている。この軸受部材10と版胴3の間には、先端が版胴3の端面に当接する位置決めスリーブ15が版胴軸1の小径部に抜き差し可能に嵌合されている。
【0020】
手前側の軸受部材10のフランジ10aに設けた各ボルト穴13は、軸受部材10の軸心を中心とする同心円方向で、かつ円方向に同一長さ(θ度)の長穴状になっており、各長穴状部の端部に上記ボルト14の頭部より大径にした大径部13aが設けてあり、ボルト13をゆるめた状態で、軸受部材10をボルト穴13の長穴の長さに相当するθ度にわたって回動して、大径部13aをボルト14の位置に移動することにより、軸受部材10のフランジ10aがボルト14の頭部より手前側へ抜け出すことができるようになっている。なお、上記ボルト穴13の大径部13aの径は、上記ボルト14に座金を用いる場合にはこの座金の径より大きくしてある。
【0021】
版胴軸1の手前側端面には、軸受部材10のニードルベアリング11及びこれの手前側に嵌合したシール材16を軸方向に押さえる押さえ板17が固着してある。
【0022】
図3は手前側の軸受部材10をフレーム2aから取り外した状態で、版胴軸1から版胴3を抜き取る作業を示すもので、図中18は抜き取り案内棒であり、この抜き取り案内棒18は上記版胴3が嵌合する版胴軸1の大径部と同径になっていて、これの先端部が版胴軸1の小径部に、これの端面が小径部と大径部との段部に突き当て嵌合するようになっている。抜き取り案内棒18は版胴3の長さより長くなっている。
【0023】
版胴3は所定の長さを有し、これの両端が端壁3a,3bにて閉じられる中空状になっていて、この端壁3a,3bの内径が上記版胴軸1の大径部に軸方向に抜き差し可能に嵌合する径となっている。そしてこの版胴3の中空内径部には、軸方向に多数のリブ19が設けてある。この各リブ19は、内径が上記端壁3a,3bと同一にした中空円板状になっており、この各リブ19の大径部は軸方向に隣接するリブ相互でアーチ状に連接されている。このアーチ状の形状は、中心点を有する円弧状、あるいは楕円形になっている。このアーチ状の円弧の半径は一例として、リブ10の間隔の略1/2となっている。
【0024】
版胴3はアルミ合金を用いて鍛造により成形され、外周及び内周を機械加工にて仕上げられるものである。この実施の形態における版胴3のリブ19の間隔は等間隔で、その間隔は版胴3の全長が、例えば495mmに対して40mmにした。このリブ19の厚さ及びリブ間のアーチ部頂部の厚さは、鋳造成形で可能な限り薄くなっている。そしてこれの外周面に凸版が貼り付けられるようになっている。
【0025】
上記構成において、輪転印刷の版胴3を交換する操作を以下に説明する。
【0026】
図1において、手前側の軸受部材10側の押さえ板17を外すと共に、軸受部材10を固定しているボルト14をゆるめる。この場合、ボルト14を抜き取る必要はない。ついで図2において、軸受部材10をθ度にわたって右方向に回動する。この状態で軸受部材10のボルト穴13の大径部13aがボルト14の位置と一致し、軸受部材10は、このボルト穴13の大径部13aを通してボルト14から抜き出してフレーム2aから抜き出す。ついで版胴軸1の小径部から位置決めスリーブ15を抜き取る。
【0027】
この状態で手前側のフレーム2aには版胴3より大径の軸受穴12が開口したことになり、版胴3はこの軸受穴12より抜き取り、及び別の交換用の版胴3を版胴軸1に挿入する。交換用の版胴3を挿入後は、位置決めスリーブ15を挿入後、軸受部材10をフレーム2aの軸受穴12に挿入し、これをθ度にわたって回動し、これのボルト穴13をボルト14に一致させてからこれを締め付けることにより交換作業は終了する。
【0028】
このときにおいて、手前側の軸受部材10の着脱は、これをフレーム2aに固着している複数本(4本)のボルト14を少しゆるめるだけで、フレーム2aから抜き取ることなく行うことができ、軸受部材10を着脱しての版胴3の交換を短時間で容易に行うことができる。
【0029】
また、上記した版胴3の交換作業において、版胴3を軸受穴12を通して版胴軸1から抜き出すときに、版胴3は版胴軸1の大径部の先端から軸方向に片持ち状態で抜き出されることになるため、版胴3の奥側の嵌合穴にこじれが発生し、スムーズに抜き出すことができなくなると共に、この部分の穴の表面に傷をつけてしまうことがある。
【0030】
このようなことを防止するために、図3に示すように、抜き取り案内棒18を版胴軸1の手前側端部に嵌合する。これにより版胴軸1の大径部が手前側のフレーム2aの手前側(外側)へ延長されたことと同じになり、版胴3は版胴軸1から抜き取り案内棒18に案内されて、フレームの外側へスムーズに抜き出すことができる。
【0031】
また、この交換しようとする版胴3は、中空であることにより軽量化を図ることができ、また中空内には軸方向に多数のリブ19を設けられていることにより、軽量であるにもかかわらず中空の版胴3としての十分な剛性を保持することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…版胴軸、2a,2b…フレーム、3…版胴、3a,3b…端壁、5,10…軸受部材、10a…フランジ、6…入力歯車、7a,7b…カラー、8,9…キー部材、11…ニードルベアリング、12…軸受穴、13…ボルト穴、13a…大径部、14…ボルト、15…位置決めスリーブ、16…シール部材、17…押さえ板、18…抜き取り案内棒、19…リブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴軸と嵌合する内径部を有し、外周面に凸版を貼り付けて印刷を行う一体構成の版胴において、
中空にすると共に、内周側に版胴軸に嵌合する内径部を有する円板状のリブを軸方向に多数設けて鋳造により製造したことを特徴とする版胴。
【請求項2】
リブのコーナー部の半径をリブの間隔の略1/2にし、各リブ間を軸方向にアーチ状にしたことを特徴とする請求項1記載の版胴。
【請求項3】
請求項1,2のいずれか1項記載の版胴を、
手前側と奥側のフレームに設けた軸受部材に支承された版胴軸に回転方向に係合し、かつ軸方向に抜き差し可能に嵌合し、
手前側の軸受部材を手前側へ取り外した状態で、この軸受部材が嵌合する手前側のフレームの軸受穴より抜き出し可能にし、
手前側の軸受部材を取り外した状態の版胴軸の手前側端部に、版胴軸の版胴との嵌合部と同径にした抜き取り案内棒を同心状にして係脱自在に連結可能にしたことを特徴とする版胴装置。
【請求項4】
手前側の軸受部材の手前側端部に設けたフランジ部の、このフランジ部をフレーム側にボルトにて固着するために設けたボルト穴を、軸受部材の軸心を中心とする円弧状の長穴にすると共に、円弧方向に一端部を上記ボルトの締め付け頭部が挿通する大きさの大径部としたことを特徴とする請求項3記載の版胴装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235549(P2011−235549A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109441(P2010−109441)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000161057)株式会社ミヤコシ (122)