説明

物理現象観測装置

【課題】より小規模かつ低コストで、素粒子や宇宙線が引き起こす物理現象を観測できる装置を提供する。
【解決手段】観測装置の観測部には、シリコン基板を加工形成した凹凸部が設けられ、凹部33と凸部34の間の傾斜角を50度〜60度、凸部34の厚みを3〜50μmに設定する。この観測装置によって、凹部33および凸部34の間の傾斜面36に、観測部に入射したニュートリノといった素粒子によるチェレンコフ光を観測することができ、大掛かりな装置を利用することなく、低コストで、素粒子や宇宙線が引き起こす物理現象を観測することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子学的な物理現象を観測するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地表には、ニュートリノといった素粒子・宇宙線が降り注いでおり、このような素粒子・宇宙線を、例えば、カミオカンデのような大掛かりな装置によって観測することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−024291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の観測装置は、規模が極めて大きく、開発および管理に多大な費用と労力が必要であり、手軽に観測できるものではない。
【0005】
本発明は、より小規模かつ低コストで、素粒子や宇宙線が引き起こす物理現象を観測できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る観測装置は、観測部に、少なくとも傾斜面を加工形成したシリコン基板を有する、という構成を特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る観測装置によれば、より小規模かつ低コストで、素粒子や宇宙線が引き起こす物理現象を観測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る観測装置の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る観測装置の側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る観測装置の背面板である。
【図4】観測装置に用いる観測基板である。
【図5】観測装置に用いる観測基板の正面図および断面図である。
【図6】観測基板で観測される着色光の様子を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る観測装置の原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る観測装置100の斜視図である。また、図2は、本発明に係る観測装置100の側面図である。これらの図に示すように、観測装置100は、円筒部10と、背面板20と、観測基板30と、を備えている。
【0011】
円筒部10は、中空の筒状に形成されている。円筒部の一端11は開口しており、他端12は背面板20で塞がれている。なお、円筒部10全体の大きさに限定はないが、後述するように、開口方向から観測基板30が観察されるため、開口の直径は30mm〜40mmに形成されている事が好ましい。開口は、観察時に円筒部10内への光の侵入及び円筒部10内から外への光の漏れを防ぐため、人の眼の周辺骨格の形状に合わせて、波型としてもよい。
【0012】
背面板20は、平坦な板状部材である。背面板20のほぼ中央に、円筒部10が設置されている。光の漏れがないように、円筒部10と背面部20との間は、隙間が空かないように接着されている。背面板20のおよそ中央部で、円筒部10の内側に相当する部分には、観測窓21が設けられている。観測窓21は、背面板20を貫通する矩形の穴である。後述するように、観測窓21には、観測窓21を塞ぐように、観測基板30が配置される。観測基板30は、背面板20の内側の面(円筒部10の設置側の面)に設置されている。観測窓21の大きさは、観測基板30よりも小さな寸法に形成されればよい。例えば、10mm〜20mm四方の大きさに形成される事が好ましい。なお、背面板20全体の大きさに限定はない。
【0013】
図3は、背面板20と、背面板20の表面に配置された観測基板30と、を示した図である。観測基板30は、観測窓21を覆うように背面板20の表面に配置されている。観測基板30の大きさは、観測窓21よりも大きな寸法に形成されればよい。例えば、15mm〜25mm四方の大きさに形成される事が好ましい。観測基板30の詳細は後述する。
【0014】
上述したように、円筒部10は、観測窓21上に配置された観測基板30の周囲を囲むように背面板20の表面に取り付けられる。円筒部10を背面板20に取り付ける角度(なす角)は適宜設定されればよい。また、円筒部10および背面板20を形成する素材に限定はない。例えば、円筒部10および背面板20は、紙、プラスチック、金属のいずれから形成されたものであってもよい。ただし、円筒部10内へ可視光が入り込むのを防ぐために、円筒部10および背面板20は、可視光を遮光可能な材料で形成すると良い。また、遮光性のある黒色などで着色加工されていることが望ましい。
【0015】
次に、図4を用いて、観測基板30の詳細について説明する。
【0016】
同図に示すように、観測基板30は、四辺形に成形された単結晶のシリコン基板31から構成される。このようなシリコン基板31は、例えば、半導体装置に利用される単結晶シリコンウェハーを切断したものであってもよい。観測基板30は、m×nのマトリクス状(格子状)に配列された凹部と、凹部同士の間を隔てる凸部と、を有する。
【0017】
図5(a)は、観測基板30の一部を拡大した正面図である。図5(b)は、観測基板30の断面(X−X方向断面図)を示した図である。観測基板30の格子の1区画32は、4×4mmの正方形状であり、その中央が窪んで凹部33を形成し、凹部は、2×2mmの正方形状の平面で成形されている。凸部34は、凹部33の4辺に沿って土手状に存在する。
【0018】
凹部33は、セレクチィブエッチングにより形成され、その厚さ(凹部33の平面部における観測基板30の厚さt1)は、3〜10数μmに設定されている。なお、観測基板30のシリコン酸化膜は、光の干渉現象を生じないように、エッチングによって除去されている。
【0019】
また、凸部34の頂上面35には、凹部33に向かって下る所定角(例えば、傾斜角50°〜60°)の傾斜面36が形成されている。例えば、凹部33の厚さt1が3μmであるとき、傾斜面36の傾斜角37は54°に設定される。
【0020】
以上、本発明の一実施形態が適用された観測装置100の構成について説明した。
【0021】
上記観測装置100の円筒部10の開口方向から、周囲の光が侵入しないように、観測基板30を覗くと、図6に示すように、凹部33および凸部34の間の傾斜面36に緑色または紫色の着色光38を確認することができる。通常の視力であれば、肉眼で観察可能である。
【0022】
また、太陽ニュートリノといった素粒子・宇宙線の影響を観測する目的の場合は、当該素粒子・宇宙線が降り注ぐ方向(太陽の方向)に、観測基板30を向けて、円筒部10から観測基板30を覗き込むことで、凹部33および凸部34の間の傾斜面36に、緑色や紫色の着色光38を観察することができる。
【0023】
このように、本実施形態における観察装置100によれば、低コストかつ簡易な方法で素粒子や宇宙線が引き起こす物理現象を観測することができる。
【0024】
ここで、本実施形態の観測装置100の原理について説明する。
【0025】
現在、素粒子・宇宙線を観測する装置としてカミオカンデが知られている。カミオカンデは、電子ニュートリノ、μニュートリノ、τニュートリノといった素粒子が光速で水分子と衝突した際に発生する微小な光を検出する装置である。ニュートリノが水分子に光速で衝突すると、水分子中の電子や陽子を光速ではじき飛ばす。このとき、円錐状に広がるチェレンコフ光と呼ばれる光が発生する。カミオカンデは、このようなチェレンコフ光を検出している。
【0026】
本発明の観測装置でも、荷電粒子がシリコン原子の作る電界中を走るときに分極を生じ、これが解除されるときに発生するチェレンコフ光を観測しているものと推測される。
【0027】
荷電粒子が透明な媒質中高速度Cを超える条件は、一般に媒質の屈折率をnとして、荷電粒子速度をvとすると、v>C/nを満たす。ここで、Cは真空中の光速度である。シリコンの屈折率(n=3.448)であり、可視光はシリコン中でかなり吸収されるが、10数μmの厚さでは、比較的透過していることが知られる。なお、この条件での光速度は、媒質中でC/3.448となり、真空中の光速度の約29%である。
【0028】
太陽からの宇宙線を考えると容易にこの条件を満たしているので、チェレンコフ光の発光が推測されると考えられる。観測装置に使用するシリコン結晶基板は、例えば、<100>面に4×4mmの大きさで中央部に2×2mmの正方形の部分をセレクティブエッチングにより3〜50μmまでの厚さ(基板の厚さt1)にしている。この試料に電子ニュートリノ、μニュートリノ、τニュートリノを多量に含む太陽光を当てたならば、媒質中に放射角θ(cosθ=1/nβ)の光が発光する(βは、物質中で発光したチェレンコフ光の速度/荷電粒子の速度で表される。また、媒体中で発光したチェレンコフ光の速度は、C/nで表される。)
【0029】
これは、θが約73度の波面の方向で円錐状に進むチェレンコフ光であり、シリコン中をある程度透過して進み、透過光は(多少吸収されるものの)、空気中に現れる。この光は加工されたシリコン壁においてスネルの法則に従って反射し上方向に進み、可視光として観測することができる。
【0030】
図7を用いて説明する。なお、前述と同一の箇所には同一の符号を附して説明を省略する。同図に示すように、観測窓21を通じて観測基板30に達したニュートリノ50は観測基板30を透過する。ここで、ニュートリノ50は、シリコン基板31内で屈折(屈折率n=3.448)し、放射角t2=17°(cosθ=73°)の波面で円錐状に進んでいく。このとき、ニュートリノ50の衝突による可視光51(チェレンコフ光)はシリコン基板31内でかなり吸収されるが、10数μmの厚みに形成されているシリコン基板31に対しては、比較的透過する。
【0031】
このように、シリコン基板31内で吸収されず、透過して進んだチェレンコフ光51は、やがて空気中に現れる。この光は、凹部33と凸部34との間に形成された傾斜面36においてスネルの法則に従って反射する。その結果、傾斜面36で反射したチェレンコフ光51が可視光52として視認できているものと考えられる。また、可視光52が緑色や紫色である理由としては、人間の目の視感度が高い色が緑色や青色であるためと考えられる。
【0032】
以上、本発明が適用された観測装置100の構成とその原理について説明した。
【0033】
なお、上記実施形態では、観測基板の材料として単結晶シリコンを用いたが、アモルファスシリコンなど、単結晶でなくても加工形状によっては、同様の効果が得られると考えられる。また、シリコンでなくても、屈折率の高い材料であれば良く、ゲルマニウムなどを用いることもできる。
【0034】
図7において、上記シリコン基板31をゲルマニウム基板に置き換えた場合、ニュートリノ50は、ゲルマニウム基板内で屈折(屈折率n=4.092)し、放射角t2=14.5°(cosθ=75.5°)の波面で円錐状に進んでいく。このとき、ニュートリノ50の衝突による可視光51(チェレンコフ光)はゲルマニウム基板内でかなり吸収されるが、10数μmの厚みに形成されているゲルマニウム基板に対しては、比較的透過する。
【0035】
このように、シリコン基板31をゲルマニウム基板で代用しても、スネルの法則に従って傾斜面36において反射するチェレンコフ光51が可視光として視認できるものと考えられる。
【0036】
[実施例]
次に、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。ただし、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例では、上記の実施形態で説明した観測装置を作成した。観測基板には、シリコン単結晶ウエハ基板を用い、シリコン結晶の<100>面に4×4mm四方の凸部と、凸部に隔てられる2×2mm四方の凹部と、を形成した。凹部の厚みは3μmに設定した。また、凹部と凸部との間に形成される傾斜面の傾斜角を54°に設定した。そして、このような観測基板を背面板の観測窓上に配置し、円筒部の一方の開口から観測基板を観察した。その結果、上記で考察したように、観測基板の傾斜面に緑色または紫色の着色光を確認することができた。したがって、この実験は推測通りの結果を導き出した。
【符号の説明】
【0038】
100・・・観測装置、10・・・円筒部、20・・・背面板
30・・・観測基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測部に、少なくとも傾斜面を加工形成したシリコン基板を有する
ことを特徴とする物理現象観測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物理現象観測装置において、
前記傾斜面は、前記シリコン基板の凹部および凸部の間に傾斜角50°〜60°で形成される
ことを特徴とする物理現象観測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の物理現象観測装置において、
前記シリコン基板の凹部の厚みは、3〜50μmに設定される
ことを特徴とする物理現象観測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−180069(P2011−180069A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46522(P2010−46522)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(500133945)エスイーディー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】