説明

狭窄モデルおよびトレーニングキット

【課題】 体内における生体管(血管等)における病変に、より似るようにした狭窄モデルと、その狭窄モデルを配置するトレーニングキットを提供する。
【解決手段】 生体管内狭窄部を模した狭窄モデルは、生体管内狭窄部を形成する第1部材と、第1部材に、少なくとも一部を埋め込まれた第2部材と、を含み、第2部材の硬度が、第1部材の硬度よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭窄モデルおよびトレーニングキットに関する。
【背景技術】
【0002】
経皮的冠動脈形成術(PTCA)または経皮的血管形成術(PTA)は、今日では血管治療の主流となっており、このような形成術で使用されるカテーテル等の手技を持った医師の育成は重要な課題である。
【0003】
しかしながら、PTCAのトレーニングは、実際に、患者に対して行うことは難しく、さらには、患者毎に血管構造または疾患部位が異なっているため、技術の習得が難しいのが実情である。
【0004】
また、昨今、様々なタイプの血管内治療用カテーテルが創出されているために、各タイプのカテーテルに慣れるためには、術者が事前にトレーニングを行うことによって、安全にカテーテル等のデバイスを使用することが重要となっている。
【0005】
そこで、トレーニング用のキット(トレーニングキット)が種々開発されており、さらには、特許文献1のように、トレーニングキットの内部に配置される狭窄モデル等が開発されている。そして、この狭窄モデルは、病変等を模したモデルで、塑性変形可能な材料で形成されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-27794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の狭窄モデルは、柔軟な単一材料で形成しているため、石灰部を含んだプラーク等の混在する病変(狭窄部)を忠実に再現できているといえない。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものである。そして、その目的は、体内における生体管(血管等)における病変に、より似るようにした狭窄モデルと、その狭窄モデルを配置するトレーニングキットとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
生体管内狭窄部を模した狭窄モデルは、生体管内狭窄部を形成する第1部材と、第1部材に、少なくとも一部を埋め込まれた第2部材と、を含む。そして、この狭窄モデルでは、第2部材の硬度が、第1部材の硬度よりも高い。
【0010】
このように複数の部材が含まれた狭窄モデルであれば、比較的高硬度の部材を用いることで、多彩なモデルとなり得る(すなわち、より病変に似た狭窄モデルが製造できる)。
【0011】
また、狭窄モデルは狭窄内腔を含んでおり、第2部材は内腔に沿うように配置されると好ましい。例えば、狭窄内腔は、少なくとも部分的に曲線状になっており、第2部材は、曲線状になった部分における頂点に接するように配置されていてもよい。
【0012】
なお、狭窄モデルが、トレーニングキットの内腔に嵌め込まれる場合、その狭窄モデルの外径は、トレーニングキットの内腔の内径より大きいと好ましい。
【0013】
また、トレーニングキットは、以上の狭窄モデルと、その狭窄モデルを内部に配置させる複層構造部と、を含む。そして、トレーニングキットでは、複層構造部が三層構造を含み、三層のうちの少なくとも一層に、内腔が形成され、三層構造のうちの一層は、第1材料で形成され、別の一層は、第1材料より高硬度の第2材料で形成され、さらに別の一層も、第1材料より高硬度の第3材料で形成されており、第2材料の層と第3材料の層との間に、第1材料の層が配置されると好ましい。
【0014】
また、狭窄モデルの配置される空洞である配置部には、層の積み上げ方向と、狭窄モデルの全長方向と、全長方向に対する交差方向とにおいて、変位しようとする狭窄モデルに接触して移動を停止させる係合部が形成されると好ましい。
【0015】
なお、一例としては、係合部は、狭窄モデルの表面を囲める空洞の内壁面が挙げられる。
【0016】
また、外部に面する内腔の端付近には、その内腔に連なるテーパ状の口部を含む封止部が取り付けられると好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、硬度を異とする複数の材料を用いることで、より病変に似た狭窄モデルが完成する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】は、狭窄モデルの平面図である。
【図2】は、狭窄モデルの断面図である。
【図3】は、狭窄モデルの斜視図である。
【図4】は、狭窄モデルの平面図である。
【図5】は、狭窄モデルの断面図である。
【図6】は、狭窄モデルの平面図である。
【図7】は、狭窄モデルの断面図である。
【図8】は、トレーニングキットの上面側からの平面図と、側面図と、側面図の一部を拡大した拡大図とを併記した図面である。
【図9】は、トレーニングキットの上面側からの平面図と、側面図と、側面図の一部を拡大した拡大図とを併記した図面である。
【図10】は、トレーニングキットの上面側からの平面図と、側面図と、側面図の一部を拡大した拡大図とを併記した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態1]
実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。逆に、便宜上、断面図でなくてもハッチングを使用することもある。また、図面における種々部材の寸法は、便宜上、見やすいように調整されている。
【0020】
カテーテルまたはガイドワイヤー等のトレーニングキット39と、トレーニングキット39に含まれる狭窄モデル19とについて詳細に説明する。
【0021】
まず、狭窄モデル19について、図1〜図3を用いて説明する。狭窄モデル19とは、例えば、血管内に生じた血栓等の病変(生体管内狭窄部)を模した部材である。なお、以降では、狭窄モデル19は、病変等にカテーテルまたはガイドワイヤーを通過させるためのトレーニングの例を挙げて説明するが、これに限定されることなく、例えば、ステント、またはバルーンを有するカテーテル(バルーンカテーテル)で、病変等を広げるトレーニングにも、狭窄モデル19は使用される。
【0022】
狭窄モデル19は、図3に示すように、柱状(例えば円柱状)の部材である。そして、図1は、狭窄モデル19の上側の平面を示し、図2は、紙面に対して平行な切断面(すなわち、狭窄モデル19の伸び方向に沿った切断面)を示す。
【0023】
図1および図2に示すように、狭窄モデル19は、第1部材11と第2部材12とを含む。
【0024】
第1部材11は、狭窄モデル19の主たる部材で、柱状を有する(第1部材11は、生体管内狭窄部を形成する部材と称しても構わない)。そして、柱状の両端面SA・SBには、一方面SAから他方面SB(一方面SBから他方面SA)に向かって先細りした窪み14が形成される。さらに、このテーパ状の窪み14の底同士をつなげるように、狭窄内腔(通路)15が形成される。
【0025】
この狭窄内腔15は、生体管内狭窄部に生じる間隙を模しており、例えば、図1および図2に示すように、部分的に曲線状になっている(例えば、狭窄内腔15は蛇行している)。窪み14は生体管内狭窄部の端部を模している。
【0026】
なお、このような第1部材11は、応力のかけられていない状態で、狭窄内腔15の開通形状を保てる程度に柔軟な樹脂であることが好ましく、例えば、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマー、または天然ゴムが好ましく、さらに好ましくは、シリコーンまたはウレタンエラストマー等があげられる。
【0027】
第2部材12は、第1部材11で模した生体管内狭窄部をさらに、実物に近づけようとするための部材である。
【0028】
一般的に、柔軟な材料だけで形成した狭窄モデルでは、カテーテルが挿入される場合、その柔軟な材料がカテーテルの形状に沿って変形し、カテーテルの進行通路を容易に形成する。しかしながら、実際の血管内狭窄部(生体管内狭窄部)では、例えば、粥状血栓が混ざっていたり、石灰を含んだプラークのように狭窄部の大部分に対して異硬度の物質が混ざり合ったりする。
【0029】
粥状血栓部が血管内狭窄部に混ざっている場合には、その血管内狭窄部は、挿入されたカテーテルの形状に合わせて容易に変形する。一方で、プラークが血管内狭窄部に混ざっている場合には、その血管内狭窄部は、プラークの硬さのために、挿入されたカテーテルの形状に合わせて変形せずに、カテーテルがそれ以上進められなくなることがあり得る。
【0030】
このようにカテーテルの進行し難い場合を再現できるようにすべく、狭窄モデル19は、第1部材11よりも高硬度の第2部材12を含む。この第2部材12は、図1および図2に示すように、蛇行する狭窄内腔15に沿うように配置される。詳説すると、第2部材12は、蛇行する狭窄内腔15にて曲線状になった部分(例えば、屈曲部とも称せる)の頂点Tに接するように、取り付けられる。
【0031】
このようになっていると、第2部材12にて補強された屈曲部が存在することになるので、例えば比較的高強度のカテーテルであっても、その屈曲部を変形させて、直線的に進行することは難しい。
【0032】
しかしながら、比較的低強度(例えば、柔軟で滑り性の高い)のカテーテルであれば、屈曲部を変形させることなく、進行する。そのため、図1および図2に示すような狭窄モデル19を装着したトレーニングキット39であれば、ユーザは、カテーテルの選択(カテーテルの強度選択)をトレーニングでき、さらに、選んだカテーテルで、狭窄モデル19への挿入・進行をトレーニングできる。
【0033】
なお、第2部材12の配置は、狭窄内腔15における屈曲部の頂点Tに限定されるわけではない。例えば、図1および図2と同様の様式で示す図4の平面図および図5の断面図に示すように、狭窄モデル19の両端SA・SBにおける窪み14の底と狭窄内腔15とのつなぎ目15C付近に、第2部材12が配置されていてもよい{例えば、窪み14と狭窄内腔15とのつなぎ目15Cを囲むように、第2部材12が配置されていてもよい}。
【0034】
このようになっていると、第2部材12にて補強されたつなぎ目15Cが存在することになるので、例えばつなぎ目15C付近の狭窄内腔15の内径よりも大きな外径で比較的高強度のカテーテルであっても、狭窄内腔15に挿入されない上、その狭窄内腔15を押し広げるように変形させて、進入させることは難しい。
【0035】
しかしながら、つなぎ目15C付近の狭窄内腔15の内径よりも小さな外径のカテーテルであれば、狭窄内腔15を変形させることなく、進行する。そのため、図4および図5に示すような狭窄モデル19を装着したトレーニングキット39であれば、ユーザは、カテーテルの選択(カテーテルのプロファイル選択)をトレーニングでき、さらに、選んだカテーテルで、狭窄モデル19への挿入・進行をトレーニングできる。
【0036】
また、図1および図2と同様の様式で示す図6の平面図および図7の断面図に示すように、狭窄モデル19の狭窄内腔15の全長における中途付近に、第2部材12が配置されていてもよい。
【0037】
このようになっていると、第2部材12にて補強された狭窄内腔15の中間付近が存在することになるので、例えば比較的プッシャビリティー(生体管内にカテーテルを挿入する場合の力の伝達性)の弱いカテーテルであれば、狭窄内腔15の中間付近を経て進行させ難い。
【0038】
しかしながら、比較的プッシャビリティーの強いカテーテルであれば、狭窄内腔15の中間付近を変形させて進行する。そのため、図6および図7に示すような狭窄モデル19を装着したトレーニングキット39であれば、ユーザは、カテーテルの選択(カテーテルのプッシャビリティー選択)をトレーニングでき、さらに、選んだカテーテルで、狭窄モデル19への挿入・進行をトレーニングできる。
【0039】
なお、第2部材12の材料は、第1部材11の材料硬度よりも高ければ、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、鉱物、またはガラスの比較的硬度の高い材料が挙げられる。
【0040】
また、第2部材12の大きさについては、0.125mm〜27mmであること好ましく、さらに好ましくは、1mm〜8mm程度であると好ましい。また、第2部材12は、狭窄内腔15に侵入するように配置されていてもよい(要は、第2部材12は、少なくとも一部を、第1部材11に埋め込んでいればよい)。
【0041】
また、狭窄内腔15の断面形状と断面の大きさとについても、特に限定されず、例えば、完全に隙間を無くすことで切れ込み状になった狭窄内腔15であっても、真円形(好ましくは、内径0.3mm〜2.0mmの真円形)または楕円形のような円形の断面形状を有する狭窄内腔15であっても構わない。なお、カテーテルのトレーニングの難易度によって、狭窄内腔15における断面形状および断面の大きさの少なくとも一方を変更させることも可能である。
【0042】
また、狭窄モデル19の軸方向の長さ(全長)も特に限定されないが、実際の血管内狭窄部の病変の長さと同等の長さとすると好ましい。例えば、冠動脈、頸動脈、またはシャント部の血管を想定したトレーニングの場合、5mm〜50mmの狭窄モデル19であると好ましく、大腿動脈または脛骨動脈等の下肢領域を想定したトレーニングの場合、10mm〜200mmの狭窄モデル19であると好ましい(すなわち、狭窄モデル19の全長は、5mm〜200mmの範囲内であると好ましい)。
【0043】
ここで、狭窄モデル19を装着するトレーニングキット39について、図8を用いて説明する。
【0044】
図8は、トレーニングキット39の上面側からの平面図と、側面図と、側面図の一部を拡大した拡大図とを併記した図面である。
【0045】
トレーニングキット39は、側面図に示すように、3つの層21〜23を積み上げた積層構造(複層構造)を有する。すなわち、トレーニングキット39は、複層構造部20を含む。さらに、この複層構造部20は、血管等の生体管を模した内腔25を有する。
【0046】
複層構造部20は、例えば、中間層21と、この中間層21を挟む上層22および下層23と、を含む三層構造である(なお、図面では、3つの層21〜23を密着させる固定具は省略している)。そして、内腔25は、中間層21と上層22とにまたがるように形成される{すなわち、中間層21に掘られた溝DV(DV1)と上層22に掘られた溝DV(DV2)とが向かい合って、溝DVの縁同士が密着することで、内腔25が形成される}。
【0047】
中間層21は、弾性材料[第1材料]で形成されていると好ましく、例えば、シリコーンゴム、ウレタン樹脂、またはポリアミドエラストマーが、一例として挙げられる。具体的な一例としては、中間層21の材料は、ショアA硬度(ISO 7619にて規程)で70程度のウレタン樹脂が挙げられる。
【0048】
上層22は、中間層21より硬度の高い材料[第2材料]であれば好ましく、例えば、硬質塩化ビニール樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、または、ガラス等が一例として挙げられ、これらの中でも特に好ましいものとして、ポリカーボネート樹脂またはアクリル樹脂が挙げられる。
【0049】
なお、上層22の材料は、内腔25に収まったカテーテルを確認できる程度に透明性を有すると好ましく、さらには、内腔25にてカテーテルを滑らかに摺導させられる低擦性の材料であると一層好ましい。そのような材料の具体例としては、アクリル樹脂が挙げられる。
【0050】
そして、内腔25が中間層21と上層22とにまたがって形成されている場合、中間層21が弾性材料で形成され、上層22が中間層21よりも高硬度の材料で形成されていると、例えば、供に高硬度の材料層同士が重なり合うよりも、低硬度の中間層21と高硬度の上層22とが重なり合った方が、層21・22同士の密着性を高められ、内腔25の密閉性を保てる(すなわち、内腔25における液が漏れることなく密閉できる;液密性が高まる)。
【0051】
そして、このように内腔25の密封性が高まると、ユーザは、内腔25に蒸留水または生理食塩水等の模擬血液、あるいは、動物の血液を注入した状態で、トレーニングを行え、容易に、より実手技に近い方法でのトレーニングを行える。
【0052】
その上、中間層21は、上層22だけでなく、下層23にも被われている。この下層23も、中間層21よりも硬度の高い材料[第3材料]で形成されていれば好ましく、例えば、塩化ビニール樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、PTFE、ポリプロピレン、ポリエチレン、または、ポリアセタール樹脂等が挙げられる(これらの中でも特に好ましいものとして、ポリアセタールが挙げられる)。
【0053】
そして、このように下層23が存在することで、詳説すると、中間層21が、自身よりも高硬度な2つの層22・23の間に配置された状態で、内腔25を形成されると、溝DVの縁同士の密着性が一層増すので、より確実に、内腔25の密封性が高まる。その結果、このトレーニングキット39は、より一層、実手技に近い方法でのトレーニングを提供できる。
【0054】
さらに、このトレーニングキット39では、内腔25に狭窄モデル19が配置される(詳説すると、内腔25には、狭窄モデル19を配置するための配置部26が形成される)。すると、このトレーニングキット39は、内腔25の密封性を容易に高めつつ維持できる上、硬度の異なる材料で形成された狭窄モデル19を内腔25に配置させているので、より実手技に近い状態で、トレーニングが簡便に行えるだけでなく、カテーテルの製品評価も行える。
【0055】
なお、配置部26は、内腔25の伸び方向と同方向な軸方向を有する空洞(筒状の腔)であり、例えば狭窄モデル19とほぼ同じような形状であると好ましい(すなわち、狭窄モデル19の軸方向と配置部26の軸方向とが一致し、それら方向の長さもほぼ同程度で、かつ、狭窄モデル19の断面形状と配置部26の断面形状ともほぼ同じ形状であると好ましい)。
【0056】
このようになっていると、配置部26に狭窄モデル19が嵌め込まれた場合、その狭窄モデル19は、狭窄内腔15を保った状態で、トレーニングキット39に配置される。
【0057】
その上、配置部26に連なる内腔25の内径よりも、筒状の空洞である配置部26の内径が大きければ(すなわち、狭窄モデル19の外径が、内腔25の内径よりも大きければ)、配置部26の軸方向における両端[係合部]26Eが、狭窄モデル19の全長方向において、変位しようとするその狭窄モデル19に接触して移動を停止させる。
【0058】
すなわち、狭窄モデル19にカテーテルを通過させるトレーニングにおいて、カテーテルが狭窄モデル19を通過しようとする場合に、狭窄内腔15とカテーテルとの摩擦抵抗によって、狭窄モデル19が動かない。
【0059】
なお、内腔25の内径中心と配置部26の内径中心とが、ほぼ同軸上に配置されていると特に好ましい。このようになっていれば、内腔25と、配置部26に収まる狭窄モデル19とにおいて、狭窄モデル19の軸方向に対する交差断面での位置バランスが整えられるためである。
【0060】
また、配置部26は、狭窄モデル19をほぼ隙間無く収容する空洞であるので、この空洞の内壁面[係合部]26Eが、3つの層21〜23の積み上げ方向と、狭窄モデル19の全長方向に対する交差方向とにおいても、変位しようとする狭窄モデル19に接触して移動を停止させる。すなわち、配置部26は、狭窄モデル19の3次元方向で不動にさせている。
【0061】
なお、トレーニングキット39では、図8に示すように、外部につながる内腔25の端付近には、カテーテルの挿入口となる挿入部31、または、内腔25を封止する封止部32が取り付けられる。
【0062】
挿入部31は、大動脈から冠動脈への入り口をイメージして作成されたものであり、4mm程度の径を有していると好ましい。そして、トレーニングにおいては、挿入部31に、ガイドカテーテルの先端部を10mm〜20mm程度挿入した状態で配置すると好ましい。さらには、挿入部31は、内側にテーパ形状の雌ネジを有しており、Yコネクターまたはシース等を接続できるようにすると好ましい。このようになっていると、実手技に近い状態でのトレーニングができるためである。
【0063】
封止部32は、コネクターまたはシリンジ等を、容易に接続できるテーパ形状の口部を含む。このようになっていると、封止部32に、シリンジやストップコックが接続されることにより、内腔25の密封性が容易に高められたまま維持される。
【0064】
また、封止部32に取り付けたコネクターを介して、ポンプがトレーニングキット39に連結されることで、模擬血液または血液が内腔25に循環させられ、より実手技に近い状態を再現できる。また、封止部32に接続されたシリンジを介して、内腔25に物体が挿入されることにより、血栓・異物除去のトレーニングを行うこともできる。
【0065】
なお、封止部32は、シリンジ等の接続物との密着性を高めるために、弾性材料製の中間層21によって形成されていると好ましい。
【0066】
ところで、トレーニングキットの内腔25は、冠動脈または頸動脈等のように、病変の発生し得る血管系を模して作成されていると好ましく、さらには、トレーニングの内容に合わせて、内腔25が形成されていると好ましい。
【0067】
例えば、トレーニングキット39がガイドワイヤーを側枝となる血管へ挿入するためのトレーニングとして使用される場合、そのトレーニングキット39における内腔25には、挿入部31から伸びる内腔25に、側枝25A〜25Cが形成されているとよい(なお、側枝25A〜25Cも内腔25の一部である)。
【0068】
このような側枝25A〜25Cが形成される場合、側枝25A〜25Cへの挿入トレーニングに難易度を付与するために、側枝25A〜25Cの分岐角度が適宜変更されていても構わない。
【0069】
例えば、挿入部31から伸びる内腔25に対して、側枝25Aと側枝25Bと側枝25Cとは、それぞれ屈曲角を異ならせている。詳説すると、側枝25Aは、他の側枝25B・25Cに比べて最も曲がっており、内腔25に対して120度屈曲する。すなわち、この側枝25Aは、冠動脈内血管の中でも、特に高屈曲な分岐を模している。
【0070】
そのため、ガイドワイヤー単体で、この側枝25Aにアクセスすることは難い。そこで、このような場合、ガイドワイヤーの側枝25Aへの進入を助成するカテーテル{例えば、(株)カネカ製のCrusade}を併用して、トレーニングを行う。すなわち、このトレーニングキット39は、トレーニングの自由度が高い。
【0071】
また、別例としては、末梢までカテーテルを進めることを想定し、図8に示すように、挿入部31から伸びた内腔25が側枝25A〜25Cを越えた後に湾曲し、湾曲後の内腔25の大きさが徐々に縮小してもよい(縮径している内腔25の一部に部材番号25Dを付す)。さらには、徐々に縮小した内腔25が分岐し、分岐した1つの内腔25が蛇行してもよい(黒隅矢印参照)。
【0072】
なお、内腔25の断面形状{内腔25の伸び方向に対する交差断面(直交断面等)の形状}は、円形状であるが、径方向において閉塞し、カテーテルの挿入で引っかかることの無い形状であればよい。また、冠動脈を模した内腔25の場合、その内径は1mm〜5mmであると好ましく、頸動脈を模した内腔25の場合、その内径は4mm〜9mmであると好ましく、下肢領域の血管を模した内腔25の場合、その内径は2mm〜8mmであると好ましい。
【0073】
例えば、図8に示すようなトレーニングキット39では、内腔25の断面形状は、冠動脈の血管を模しているため、最大でも内径4mmであり、この内径4mm経路から遠位に伸びるに従ってその内径は減少する。また、分岐した後に蛇行している内腔25の内径は、分岐25E付近では3mm程度であることが好ましく、遠位側(蛇行の終点付近)では2mm程度が好ましい。
【0074】
また、配置部26の箇所は、トレーニングしたい場所に形成することが好ましい。例えば、図8のトレーニングキット39では、配置部26が側枝25A・25Cの近くに形成されることで、例えば、高屈曲な血管の近くに生じた血栓に適したカテーテルを使用してのトレーニングが可能になる。また、配置部26が蛇行した内腔25に形成されていると、蛇行した血管または血管の末梢部に適したカテーテルを使用してのトレーニングが可能となる。
【0075】
なお、トレーニングキット39の大きさは、内腔25の長さによって自由に設定できる。例えば、図8のトレーニングキット39は、縦160mm×横160mm×厚み25mm程度の大きさである。そのため、比較的簡単に、トレーニングキット39は持ち運べるので、ユーザは、そのトレーニングキット39を用いて、場所を選ぶことなく、実手技に近い環境でトレーニングを行える。
【0076】
また、トレーニングキット39における上層22、中間層21、および下層23は、平板形状となっているが、重なり合う部分が平面であればよく、それ以外の部分の形状は、特に限定されない。例えば、下層23には、手で持ちやすいように凹凸をつけてもよい。
【0077】
[実施の形態2]
実施の形態2について説明する。なお、実施の形態1で用いた部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付記し、その部材の種々説明を省略する。
【0078】
以上では、図8に示すように、上層22と中間層21とにまたがった内腔25が形成されている例を挙げて説明してきたが、これに限定されない。
【0079】
例えば、図8と同様の様式で示す図9に示すように、トレーニングキット39の内腔25は、上層22と中間層21と下層23とにまたがって形成されてもよい。すなわち、上層22に掘られた溝DV(DV2)と下層23に掘られた溝DV(DV3)とが、中間層21に貫通させた溝DV(DV1)を挟むことで、溝DVの縁同士が密着することで、内腔25が形成される。
【0080】
このトレーニングキット39では、各層21〜23の材料は、実施の形態1同様であり、中間層21に弾性材料を用いることにより、内腔25の密封性が高まる(すなわち、実施の形態1の同様の作用効果が実施の形態2でも奏ずる)。
【0081】
なお、中間層21の弾性材料よりも、硬度の高い上層22および下層23の方が、カテーテルに対する摩擦抵抗を低くできるので、中間層21の厚さについては、可能な限り薄い(1mm程度)ことが好ましく、上層22の溝DV2と下層23の溝DV3とで、内腔25の大部分が形成されていると好ましい。このような内腔25であれば、内腔25を摺動するカテーテルの滑り特性は、血管におけるカテーテルの滑り特性により近くなると考えられる。
【0082】
[実施の形態3]
実施の形態3について説明する。なお、実施の形態1・2で用いた部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付記し、その部材の種々説明を省略する。
【0083】
以上では、図8に示すように、上層22および中間層21にまたがった内腔25と、図9に示すように、上層22、中間層21、および下層23にまたがった内腔25が形成されている例を挙げて説明してきたが、これに限定されない。
【0084】
例えば、図8・図9と同様の様式で示す図10に示すように、トレーニングキット39の内腔25は、上層22と下層23とにまたがって、内腔25が形成されてもよい{すなわち、上層22に掘られた溝DV(DV2)と下層23に掘られた溝DV(DV3)とが向かい合って、溝DVの縁同士が密着することで、内腔25が形成される}。
【0085】
このトレーニングキット39では、内腔25は中間層21にまたがらず、中間層21は内腔25から乖離するように配置される(便宜上、中間層21にハッチングを付す)。このようになっていても、上層22の溝DV2の縁と下層23の溝DV3の縁との周辺には、弾性材料の中間層21が配置されるので、実施の形態1同様、内腔25の密封性が高まる(すなわち、実施の形態1の同様の作用効果が実施の形態3でも奏ずる)。
【0086】
なお、内腔25の内壁面が、硬度の高い上層22および下層23であるので、カテーテルに対する摩擦抵抗を極めて低くでき、その結果、このトレーニングキット39は、内腔25の密封性を高めつつも、内腔25を摺動するカテーテルの滑り特性も高められる。
【0087】
[その他の実施の形態]
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【0088】
例えば、内腔25は、高い密封性を担保できるのであれば、3つの層21〜23のうちの少なくとも一層に、形成されていても構わない。詳説すると、トレーニングキット39は、3つの層21〜23のうちの少なくとも一層に、内腔25が形成され、三層構造のうちの一層は、第1材料で形成され、別の一層は、第1材料より高硬度の第2材料で形成され、さらに別の一層も、第1材料より高硬度の第3材料で形成されており、第2材料の層と第3材料の層との間に、第1材料の層が配置されていても構わない。
【0089】
また、トレーニングキット39における複層構造部20としては、三層構造を例に挙げて説明したが、3つ層以上の複層構造であっても構わない。
【符号の説明】
【0090】
11 第1部材
12 第2部材
14 窪み
15 狭窄内腔
T 屈曲部の頂点
19 狭窄モデル
20 複層構造部
21 中間層[第1材料で形成された層]
22 上層[第2材料で形成された層]
23 下層[第3材料で形成された層]
25 内腔
DV 内腔を形成する溝
26 配置部
26E 配置部の内壁面
31 挿入部
32 封止部
39 トレーニングキット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管内狭窄部を模した狭窄モデルであって、
上記生体管内狭窄部を形成する第1部材と、
上記第1部材に、少なくとも一部を埋め込まれた第2部材と、
を含み、
上記第2部材の硬度が、上記第1部材の硬度よりも高い狭窄モデル。
【請求項2】
上記狭窄モデルは、狭窄内腔を含んでおり、
上記第2部材は、上記内腔に沿うように配置される請求項1に記載の狭窄モデル。
【請求項3】
上記狭窄内腔は、少なくとも部分的に曲線状になっており、
上記第2部材は、曲線状になった部分における頂点に接するように配置される請求項2に記載の狭窄モデル。
【請求項4】
上記狭窄モデルが、トレーニングキットの内腔に嵌め込まれる場合、
上記狭窄モデルの外径は、上記トレーニングキットの上記内腔の内径より大きい請求項1〜3のいずれか1項に記載の狭窄モデル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の狭窄モデルと、
上記狭窄モデルを内部に配置させる複層構造部と、
を含み、
上記複層構造部が三層構造を含み、三層のうちの少なくとも一層に、上記内腔が形成され、
上記三層構造のうちの一層は、第1材料で形成され、別の一層は、上記第1材料より高硬度の第2材料で形成され、さらに別の一層も、上記第1材料より高硬度の第3材料で形成されており、
上記第2材料の層と上記第3材料の層との間に、上記第1材料の層が配置されるトレーニングキット。
【請求項6】
上記狭窄モデルの配置される空洞である配置部には、上記層の積み上げ方向と、上記狭窄モデルの全長方向と、上記全長方向に対する交差方向とにおいて、変位しようとする上記狭窄モデルに接触して移動を停止させる係合部が形成される請求項5に記載のトレーニングキット。
【請求項7】
上記係合部は、上記狭窄モデルの表面を囲める空洞の内壁面である請求項6に記載のトレーニングキット。
【請求項8】
外部に面する上記内腔の端付近には、その内腔に連なるテーパ状の口部を含む封止部が取り付けられる請求項5〜7のいずれか1項に記載のトレーニングキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−220728(P2012−220728A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86503(P2011−86503)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】