説明

獣害防止用電気柵

【課題】
従来工法における網や網の上部に張設される裸電線の緊張力による支柱への影響を減じ、また、網と裸電線との隙間の経年による拡大を無くし、害獣の侵入防止効果の高い獣害防止用電気柵の構造を提供すること。
【解決手段】
支柱に対し、緊張力を負荷することなく配設でき、緩みや弛みが発生しない導電材からなる第二網を裸電線に替わり用い、折曲加工することにより剛性を高め、梁としての機能と電極機能を併せ持たせ、これを柵の上部に配設することにより柵全体の剛性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣害防止用電気柵の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
害獣には種々の動物があり、猪、鹿、猿が三獣と呼ばれる代表的在来害獣である。しかしながら、近年、ハクビシンやヌートリアやアライグマ、またマングースのような外来害獣による被害も全国的に見られるようになってきており、その被害は拡大の一途をたどっている。
これに伴い獣害防止用柵は、種々の害獣に対処できる型式が望まれ、従来型式やその施工方法の改善は必須課題と言える。
【0003】
獣害防止用柵は、当該地における対象害獣の種類や生態特性、また、行動特性等、すなわち体形・体長・体重等による柵に作用する外力としての荷重設定、跳躍の有無やその程度、知能程度による行動パターン、地域特性(地勢・風・雨・雪・日射・その他)等を踏まえ、その対策手法を総合的に検討し、柵の構造型式を選択決定しなければならない。その他、施工性、経済性、耐久性、維持管理の容易性等を考慮しなければならないことは言うまでもないことである。
【0004】
獣害防止用柵は一般に、物理柵、心理柵、併用柵に区分される。物理柵とは所定の強度を有する柵の高さにより害獣の侵入を物理的に防止するものであり、心理柵とは害獣に慣れることのない痛み(電気ショック等)を経験させて、害獣の心理的警戒心により柵に近寄り難くさせる電気柵のことを一般的にはいう。また、併用柵とは物理柵と心理柵の効果を併せ持つ柵のことであり、三獣対策としては一般にこれが用いられる。よじ登ることが得意な猿に対しては、物理柵ではその侵入を防ぎきれず、心理柵と併用することで効果を発揮するものである。
本発明は、従来の獣害防止用電気柵における諸問題を解決すべく案出したものである。
【0005】
従来の三獣対策獣害防止用電気柵における、一般的な構造は概ね次の通りである。すなわち、所定の間隔で立設された支柱と、これらの支柱間に張設された金網とで構成された柵体の上部もしくは上部の側方に、所定間隔を隔てて、柵体とは電気的に絶縁された状態で張設された二本以上の裸電線があり、該裸電線に衝撃電圧を印加する電源装置とから構成されている。柵体はマイナス電極として機能し、裸電線はプラス電極として機能するものが一般的であり、害獣が侵入時、この両極に触れることにより、その体内を介して通電し、衝撃電圧を受けるものである。
その他、網は非導電性のものを張設し、上部に張設される二本以上の裸電線相互にプラス電極とマイナス電極の機能を持たせたものもある。
【0006】
これらの網や裸電線は、適度な張力を与えて張設されるため、経年とともに温度変化による伸縮の繰り返し、リラクゼーション現象(緊張力が経年とともに緩むこと)、緊張具(線を緊張具に巻回することにより緊張する)における線のなじみ等により、どうしても緩みや撓みが発生する。このため網の上端は波打った状況となり、上部に張設された裸電線との間に、所定間隔以上の隙間が生じたものが多く見られるようになり、この隙間から害獣が侵入する事例も数多く報告されている。また、裸電線の緩みや撓みは、網との接触による漏電、電圧降下、電源装置の破損等の原因となるものである。
【0007】
また、網の張設時における緊張力や、その後に付加される裸電線の緊張力は、支柱の傾斜変形を誘発助長し、特に、端部支柱、屈曲部支柱においてこれが顕著となる。また、勾配凹部支柱においては、過剰な緊張力を与えると支柱が引き抜けることもある。
このため、従来工法においては、該支柱に控え柱(突っ張り)を設置したり、支柱間に支持梁を設置することにより支柱の変形等を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許公報 第2619209号
【特許文献2】特許公報 第2656910号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
獣害防止用柵は、被害地区を取り囲むように設置されることが多く、その施工延長は相当数に及ぶ場合が多い。このため網は、所定の寸法で製作されたロール状(巻状)のものを用いることが多い。その他、列線状(重ねた列線を引き伸ばし形成する)のもの、パネル状(単体)のものなどが市販されており、これらの網は、ロール状、列線状またはパネル状で現場に搬入され、その現場において施工設置される。
獣害防止用柵において多用されるロール状の網は、巻きぐせを除去することや、網の上部もしくは上部の側方に張設される裸電線との所定間隔保持のため、適度の張力を与え張設されるが、この張力により端部支柱や屈曲部支柱、また勾配凹部支柱において傾斜、引き抜け等の変形が発生することが多い。
【0010】
柵体の上部もしくは上部の側方に張設される複数本の裸電線も、適度の張力を与え張設されるため、網の場合と同様、支柱に悪影響を及ぼすことになる。また、温度変化による伸縮の繰り返し、リラクゼーション現象、緊張具における線のなじみ等により、どうしても緩みや撓みが発生し、緊張具の締め直しが必要になる。この締め直しによる緊張力により、支柱の変形は累積的に増大し、進行する。さらに、裸電線(プラス電極)の緩みや撓みが増大し垂れ下がり、網(マイナス電極)に接触した場合には漏電し、電圧降下を招くばかりか電源装置の破損等の原因になり、電気柵としての機能を失することになる。
また、緩みや撓みにより発生した所定間隔より大きい隙間から、猿が侵入する事例も数多く報告されている。その他、緩み撓んだ状態の裸電線は、視覚的にも好ましいものではない。
【0011】
さらに、従来工法において対処困難であった諸問題、すなわち網および裸電線の張設における細部空間の閉塞や、特殊な処理を必要とする箇所における処理等を、より容易にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はかかる点に鑑み、適度な剛性を有する網体を用い、この網体の素材特性およびこれを加工することにより発現される付加効果を最大限に有効利用し、上記課題を解決するため案出したものである。以下、各請求項に係る発明について具体的に説明する。
【0013】
本発明の請求項1に記載の獣害防止用電気柵は、「所定の間隔で地表に立設された支柱1およびこれらの支柱1間に張設された導電材からなる第一網2を備えた柵体Aと、上記支柱1上端から支持体固定具9を介設して垂直上方へ設けられた絶縁材からなる支持体3と、この支持体3に配設された導電材からなる第二網4と、この第二網4と第一網2とに衝撃電圧を印加するための電源装置10とを具備し、第二網4は、縦部材5と横部材6とを有し、その縦部材5および横部材6の節点が剛結され網目状に形成され、第二網4の上部と下部の少なくとも一方もしくは両方が、侵入側に向けて斜め方向に折曲されていることを特徴とする獣害防止用電気柵。」である。
【0014】
この発明では、第二網4を用いたことに、その技術思想において従来とは大きな相違を見出すことができる。すなわち、第二網4の素材特性およびこれを折曲加工することにより発現される付加効果を最大限に有効利用したものであり、第二網4に電極機能の他、梁としての構造機能を付加するものである。なお、侵入側とは害獣が侵入してくる方向のことであり、守るべき田畑等とは反対側を意味する。
【0015】
本発明の請求項2に記載の獣害防止用電気柵は、「請求項1において、最上位の横部材6より侵入側に向けて斜め上方に突出する上突出部材7と最下位の横部材6より侵入側に向けて斜め下方に突出する下突出部材8の少なくとも一方もしくは両方が設けられていることを特徴とする獣害防止用電気柵。」である。
【0016】
この発明は、第二網4の網目状を形成する最上位の横部材6より侵入側に向けて斜め上方に突出する上突出部材7を設けることにより、害獣に対する物理的、心理的、視覚的侵入阻止効果を高めるものであり、その先端を尖鋭状なものにすれば、その物理的効果はさらに増大する。すなわち、第二網4を乗り越え侵入しようとする場合において、これが障害となるものである。
また、第二網4の網目状を形成する最下位の横部材6より侵入側に向けて斜め下方に突出する下突出部材8を設けることにより、害獣に対する物理的、心理的、視覚的侵入阻止効果を高めるものであり、その先端を尖鋭状なものにすれば、その物理的効果はさらに増大する。
すなわち、地表から第一網2を経て、第二網4を乗り越え侵入しようとする害獣、主によじ登ることが得意な猿に対して、その侵入阻止効果を高めるものである。なお、横部材6から突出される上突出部材7または下突出部材8は、縦部材5の位置や縦部材5間に設けられるものである。
【0017】
本発明の請求項3に記載の獣害防止用電気柵は、「請求項1において、最上位の横部材6より侵入側に向けて斜め上方に突出する上突出部材7が設けられると共に最下位の横部材6より侵入側に向けて斜め下方に突出する下突出部材8が設けられ、下突出部材8の突出長さは、上突出部材7の突出長さよりも長くなっていることを特徴とする獣害防止用電気柵。」である。
【0018】
この発明は、下突出部材8の突出長さを長くすること、すなわち、侵入してくる害獣の手掛かり、足掛かりとなりやすい横部材を突出部位において無くすことにより、少しでも害獣の侵入を困難ならしめるためのものである。
ただし、対象害獣によっては上突出部材7の突出長を長くすることも考えられる。
【0019】
本発明の請求項4に記載の獣害防止用電気柵は、「請求項1において、第二網4は、支柱1間に適合する長さを有した単体であり、支柱1部分において支持体3に重合および結合され、柵体Aの上方に配設されることを特徴とする獣害防止用電気柵。」である。
【0020】
この発明は、支柱1に付与される緊張負荷を少しでも減じるためのものである。すなわち、支柱1間に適合する長さを有した単体である第二網4を、支柱1部分において支持体3に重合および結合することにより配設するため、緊張力は発生しない。なお、第二網4は重合させる長さだけ支柱1間の長さより長く、この重合部において支持体3に結合されるとともに、第二網4と第二網4とを結合し、通電確保するものである。
【0021】
本発明の請求項5に記載の獣害防止用電気柵は、「請求項1において、柵体Aを構成する第一網2の上端部と第二網4の下端部が、電気的導通が起らない状態で近接されていることを特徴とする獣害防止用電気柵。」である。
【0022】
この発明は、柵体Aを構成する第一網2の上端部と第二網4の下端部を、高電圧による電気的導通や短絡等が生じない位置まで近接させ、たとえば、子猿や他の小動物でもこの隙間から侵入できないようにするものである。
【0023】
本発明の請求項6に記載の獣害防止用電気柵は、「所定の間隔で地表に立設された支柱1およびこれらの支柱1間に張設された導電材からなる第一網2を備えた柵体Aと、上記支柱1上端から支持体固定具9を介設して垂直上方へ設けられた絶縁材からなる支持体3と、この支持体3に配設された導電材からなる第二網4と、この第二網4と第一網2とに衝撃電圧を印加するための電源装置10とを具備し、第二網4は、パンチングメタルやエキスパンドメタルのような網目状に形成された薄材板であり、第二網4の上部と下部の少なくとも一方もしくは両方が、侵入側に向けて斜め方向に折曲されていることを特徴とする獣害防止用電気柵。」である。
【0024】
この発明は、第二網4として適度な剛性を有し、かつ、侵入してくる害獣の手掛かり、足掛かりとなりにくい網目状を形成するパンチングメタルやエキスパンドメタルのような薄材板からなるものを用いたものである。
【発明の効果】
【0025】
はじめに、本文において用いる用語を下記のように定義する。
「剛性」とは、物体に作用する曲げ、圧縮、ねじれ、ずれ等の外力に抵抗する度合いを称し、一般にはEI=弾性係数×断面二次モーメントで表される。
「適度な剛性を有する」とは、概念的に裸電線のような、それ自体に剛性は有するが所定の形状を自立保持できないものではなく、単体として任意形状を自立保持できるものを称する。
【0026】
本発明は、請求項1に示す第二網4を、支柱1上端から支持体固定具9を介設して垂直上方へ設けられた絶縁材からなる支持体3に、柵体Aと電気的に絶縁された状態で配設したことに、従来技術とは異なる技術思想を見出すことができる。
すなわち、この第二網4は、導電材からなる素材で形成された適度な剛性を有する平面状の網製品を、その上部と下部の少なくとも一方もしくは両方を斜方へ折曲させて曲げ剛性を高め、第二網4に梁としての構造機能と電極機能とを併せ持たせたことである。
これを柵体Aの上方に配設することにより、柵全体の剛性を高め、従来、端部や屈曲部における支柱の変形を抑制するため、支柱間に配設されてきた控え柱や支持梁を減ずることが可能となるものである。
【0027】
この折曲することにより発現される付加効果は多い。たとえば、平面状で製作される第二網の上部と下部の少なくとも一方もしくは両方を折曲すれば、平面状のものに比べ、その曲げ剛性は飛躍的に増大する。さらに、侵入側に向けて斜め方向に折曲すれば害獣に対する物理的、心理的、視覚的侵入阻止効果は大きくなり、折曲先端部を尖鋭状なものにすれば、その物理的効果はさらに増大する。なお、曲げ剛性を高めるためには、両方を折曲することが望ましいことは言うまでもないことである。
【0028】
従来工法における裸電線は、一般に設置される柵の門扉から門扉の間を張設すべき一区間として張設されるため、その長さは長くなり、温度変化による伸縮の繰り返し、リラクゼーション現象、緊張具における線のなじみ等に起因する緩みや撓みがより顕著に発生し、緊張具の締め直し等の管理が必要になる。一区間が長い場合には緊張具を一個/100m程度を目安として、複数個設置することが多い。裸電線は2本以上、多くの施工事例では5本程度張設されるため、この緊張力の累積は相当大きなものとなり、支柱への悪影響は免れるものではない。たとえば5本の裸電線を均等な緊張力で張設することは非常に困難であり、緊張作業時における張力調整は増加の傾向を示すことは否めず、このことは緊張力の徐々増大につながり、支柱への大きな悪影響要素となっている。これに対し、支持体3に結合することにより配設される第二網4の場合、緊張力は発生しない。
【0029】
また、緊張具の管理を怠り、垂れ下がった裸電線が網に接触した場合には漏電し、電圧降下を招くばかりか、電源装置破損の原因になる。また、垂れ下がった裸電線は風によっても揺れ、網の上端の緩みや撓みと相俟って、隙間の拡大を助長することになる。裸電線に衝撃電圧を印加する電源装置から発信される信号は、パルス信号(一般に1.5〜2.5秒間隔、電気柵の国際規格は1.2秒以上)であり、無負荷時に害獣が裸電線に触れ、網との隙間を拡大させ侵入することが考えられる。学習能力が高い猿の場合、この事例は、数多く報告されている。第二網4であれば、素材および折曲による剛性の増大により、垂れ下ることはなく、第一網2の上端との所定の間隔が保持できるため上述したような問題は生じない。
【0030】
第二網4は、支柱1間に適合する長さ(重合させる長さだけ支柱1間の長さより長い)を有した単体であり、支持体3にその端部を重合させ結合することにより配設されるため、支柱1に緊張力が負荷されることはない。また、通電確保のための重合部Bにおける第二網4と第二網4との結合に際しても、緊張力が発生することはない。
【0031】
この第二網4を用いる効果は、他にも多く見出すことができる。すなわち、従来の裸電線を用いる場合、最上部の裸電線は、支柱頂部より少し下位に取り付けられた碍子によって張設されるため、侵入しようとする害獣、特に学習能力が高い猿は網を引っ張り、この反動を利用して衝撃電圧を受ける裸電線に触れず支柱頂部に飛び移り、侵入する事例が多く見られた。本発明によれば、支柱1上端から支持体固定具9を介設して垂直上方へ設けられた絶縁材からなる支持体3の頂部以上までプラス電極としての機能を有する第二網4を配設することができ、上記のような事象は解決される。
【0032】
また、細部空間(隙間)の閉塞処理等が容易になる。すなわち、屈曲部や門扉箇所、また障害物があり特殊な処理を必要とする箇所等において、適度な剛性を有し自立する構造であることから、張出しや曲げ加工、また適宜切断加工することにより電極機能を維持しつつ、任意形状によりその空間を閉塞することができることである。
さらに、第一網2の標準的な張設が困難な場合、この第二網4の製品を曲折加工せずに、第一網2の替わりとして用いることも考えられ、変則空間の閉塞が容易に、自在に実施できる。
【0033】
施工においても任意の支柱1間から随時施工することが可能となる効果を生む。すなわち、この第二網4は、支柱1間に適合する長さを有した単体であるため、支柱1の立設、第一網2の張設が完了した支柱1間から随時、取り付けることが可能となる。このことにより、現場状況や他工程との兼ね合い、また地元の意向や突発事項等、工事において当然のことのように起こるこれらの外的要因に起因する手待ち(ロスタイム)を少しでも減ずることができる。従来の裸電線による場合においては、門扉から門扉の間を張設すべき一区間とするため、この区間の総ての支柱の立設、網の張設、裸電線を取り付けるための碍子の取り付け等の完了を待たなければならず、上記ロスタイムの解消は困難である。
【0034】
第二網4は、細部材、薄材板等により形成されたものであり、また、支柱1間(一般的には2〜3m)に適合する単体であることから、材質やその仕様による差異はあるものの重量は軽く、女性でも簡単に取り扱うことができ、施工性に優れているものである。また、加工等(折曲、切断、通電確保のための結合等)も容易であり、屈曲部や傾斜地、また、障害物があり特殊な処理を必要とする箇所への適用性が高い。
【0035】
従来工法における裸電線の緩みや撓みの発生は、その材質および構造、また、施工方法から、どうしても避けられない物理的現象とも言える。
本発明は第二網4の素材特性およびこれを折曲加工することにより発現される付加効果を最大限に有効利用したものであり、第二網4に電極機能の他、梁としての構造機能を付加し、裸電線の場合における諸問題を解決するものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】平坦地における全体正面図である。
【図2】傾斜地における全体正面図である。
【図3】支持体および第二網の取り付け状況を示す正面図である。
【図4】支持体および第二網の取り付け状況を示す斜視図である。
【図5】支持体および第二網の取り付け状況を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、導電材からなる素材で形成された適度な剛性を有する平面状の網製品を、その上部と下部の少なくとも一方もしくは両方を斜方へ折曲させて曲げ剛性を高めた第二網4として用い、電極機能と梁としての構造機能とを併せ持たせたことを特徴とするものである。
また、第二網4の上下部の少なくとも一方もしくは両方に横部材6からの突出部材を設けることにより、害獣に対する物理的、心理的、視覚的侵入阻止効果を高めることを期している。なお、横部材6から突出される上突出部材7または下突出部材8は、縦部材5の位置や縦部材5間に設けられるものである。
【0038】
獣害防止用電気柵は一般に支柱の立設、網の張設、裸電線張設用付属品の取り付け、裸電線の張設、付帯備品(看板・警告灯・その他)の取り付け等の手順で行われ、これらにより柵構造体は構成される。
【0039】
支柱1は、所定の間隔で鉛直に立設する。この支柱1の立設方法には、打ち込み、建て込み(基礎ブロックまたは構造物の穴に入れる)等があり、設置か所の状況により選択する。獣害防止用柵は自然環境の中に設置されることが多く、支柱1の立設に際し、重機の進入が困難な場合が多く、人力による打ち込みが多用される。また、支柱1の強度、施工精度、重機使用におけるオペレーターの支柱打設に対する熟練度等から、機械施工より誰でも容易に行える人力施工の方が有利な場合が多く、人力用打ち込み治具(ランマー)を使用することが多い。
【0040】
第一網2としてはロール状のもの、列線状のもの、またはパネル状のもの等が市販されており、一般的に施工延長が比較的長い獣害防止用柵においては、ロール状のもの(50〜100m巻き)が多用されている。このロール状の網の重量は大きく、張設には吊り上げのための重機を必要とするが、上記のとおり進入困難な場合が多い。このため人力運搬可能な重量になるよう切断し、所定位置においてこれらを接続したり、補助ウインチ等により所定の位置まで引き出したりして張設している。また、網の巻きぐせを除去するためや、網の上部もしくは上部の側方に敷設される裸電線との間隔保持のため、適度な張力を与え張設されるが、この張力により端部支柱や屈曲部支柱、また勾配部支柱において傾斜、引き抜け等の変形が生ずる。このため、従来は控え柱を設置したり、支持梁を設置したりすることにより、支柱1の変形を抑制している。
【0041】
本発明請求項1において用いる第二網4は、線状の縦部材5と横部材6とを素材とし、その縦部材5および横部材6の節点が剛結され網目状に形成されたものであり、本発明請求項6において用いる第二網4は、パンチングメタルやエキスパンドメタルのように薄材板を加工形成したものである。これらの製品は市販されており、対象害獣、現場状況、その他の諸条件等に合わせ適宜、使い分ければその効果をより高めることができる。
【0042】
パンチングメタルは、薄鉄板を金型で打ち抜き網目状となった板状の製品であり、エキスパンドメタルは、薄鉄板に刃型を用い千鳥状に切れ目を入れ、これを引き延ばし網目状となった板状の製品である。これらの製品は侵入してくる害獣の手掛かり、足掛かりとなりにくい網目状を形成しており、適度な剛性を有する素材であることから、その上部と下部の少なくとも一方もしくは両方を斜方へ折曲させれば本発明請求項1において用いる第二網4と同様の効果を発現するものである。
【0043】
これらの製品は、一般的には平面状に製作されるものであり、曲げ剛性は小さいが、この一部を折曲すれば、その曲げ剛性は平面状のものに比べ飛躍的に増大する。また、侵入側に向けて斜め方向に折曲すれば、侵入防止の物理的、視覚的、心理的効果を期すことができる。
この折曲加工は、所定の高さを有するように、第二網4の上部と下部の少なくとも一方もしくは両方を、侵入側に向けて斜め方向に25〜45°程度を目安に施す。また、折曲加工により飛躍的に増大した曲げ剛性は、第二網4に梁としての構造機能を付加することになり、従来工法における端部支柱や屈曲部支柱における控え柱や支持梁を省略することが可能になる。さらに、梁としての機能を高めるならば、第二網4の素材の線材径または板材厚を大きくすればよいことであり、特に、端部支柱の隣接径間および屈曲部支柱の両隣接径間に配設される第二網4おいてこれが求められ、該第二網4と標準支柱1間の第二網4とを使い分ければよいものである。
【0044】
第二網4は、支柱1間に適合する長さを有した単体であり、支柱1上端から支持体固定具9を介設して垂直上方へ設けられた絶縁材からなる支持体3に、柵体Aとは電気的に絶縁された状態で、結合することにより配設されるものである。この構造から、支柱1には緊張力が付加されることはなく、裸電線の張設時におけるような支柱1への悪影響はない。
【0045】
この第二網4は、プラス電極としての機能を有するものである。このため、支柱1部分において支持体3に重合および結合されるものであり、重合および結合部Bにおいて第二網4と第二網4との確実な通電確保が要求されるが、各種の結合方法により対処できる。すなわち、圧着端子、ジョイントクランプ、結束線、溶接等、種々の方法が考えられ、第二網の素材、現場条件、環境条件、施工性等を考慮し、最適な方法を選択するものとする。
なお、第二網4の下端部は、電気的導通が起らない状態で第一網2の上端部に近接させ、小動物でも侵入が困難な状態に配設する。
【0046】
その他、任意形状を自立保持することができる第二網4を用いた場合、細部空間(隙間)の閉塞処理等が容易となる。すなわち、任意形状の空間に対し、曲げ加工、切断加工、張り出し加工、継ぎ足し加工等が容易にでき、非通電帯を無くすことができる。たとえば、門扉支柱と門扉枠との隙間に対しても、張り出し加工すればこれを閉塞することができる。また、障害物があり自立性のない裸電線の張設が困難な場合、他構造物を傷付けることなく張り出しや曲げ加工、切断加工等により対処できるこの第二網4の応用性は高く、任意空間の閉塞には適している。また、過去の事例で多く見られた門扉上の裸電線の緩みや弛みは見苦しく、この第二網4を用いることでこの問題は解決される。
さらに、第一網2の標準的な張設が困難な場合、この第二網4を曲折加工せずに、第一網2の替わりとして用いることも考えられ、変則空間の閉塞も容易に実施できる。
【0047】
この第二網4を用いることは、経済性すなわち材料費のみを考えれば裸電線を用いる従来工法と比較し、必ずしも優位になるとは言い難い一面もあるが、トータルランニングコストにおいて裸電線を用いる場合より優位に立つものである。
部材種類数の減少による施工工程数の削減、施工の容易性による熟練工人区数の削減、竣工後の維持管理頻度数の削減、損傷した場合の補修の容易性等がその主な要因であるが、特に外的要因、たとえば崖崩れや倒木、害獣の衝突による損傷以外、構造に起因する変形は生じないものと考えられ、この第二網4は標準として防錆処理品を用いることからメンテナンスフリーとなる。
【実施例】
【0048】
図1は平坦地における全体正面図であり、図2は傾斜地における全体正面図である。
支柱1と支柱1との径間長は2.5m、第一網2の高さは2.0m、第二網4の高さは0.5mである。
支柱1は鋼管柱であり、径50〜60mm程度のものが用いられ、第一網2は所定の網目形状、部材径もしくは厚さ、材質等を充足するロール状の金網を用いる。
本発明における支柱1の立設、第一網2の張設は従来工法と大差あるものではないが、端部支柱の隣接径間および屈曲部支柱の両隣接径間においては、第二網4を第一網2の張設前に配設しておくと梁としての構造機能が発揮され、張設時の緊張力による変形防止のための従来、配設されてきた控え柱や支持梁を省略することが可能となる。
【0049】
図5に示すように、支柱1の立設、第一網2の張設が完了すれば支持体固定具9を支柱1頂部に取り付け、その後、支持体3を支持体固定具9に取り付ける。
この支持体固定具9は、下部に支柱1頂部に遊挿し得る凸形挿通部を有し、上部に支持体3を遊挿しうる凹形挿通部を具備しており、実施例においては支持体固定具9の材質は鋼製である。支持体3の材質は実施例においては絶縁材からなるグラスファイバーポールであり、その径は10〜15mm程度のものである。
この支持体固定具9と支柱1との結合および支持体固定具9と支持体3との結合は、実施例においては、予め各部材の所定位置に穿孔された穴に割りピンを挿通し固定一体化するものである。
【0050】
図4に示す第二網4は、線材により形成された金網を用い、その線径は実施例においては5mm程度のものである。この第二網4は、縦部材5と横部材6とを有し、その縦部材5および横部材6の節点が剛結され網目状に形成されたものであり、図4に示すように上下に突出部が設けられている。図に示される実施例では、上突出部材7は、第二網4の縦部材5の上端部が最上位の横部材6より侵入側に向けて斜め上方に突出するように形成され、そして下突出部材8は、第二網4の縦部材5の下端部が最下位の横部材6より侵入側に向けて斜め下方に突出するように形成されている。
【0051】
図示しないが、これらの上突出部材7及び下突出部材8は、縦部材5とは別部材で、第二網4の最上位の横部材6または第二網4の最下位の横部材6より侵入側に向けて斜め上方または下方に突出するように形成されてもよいものである。なお、横部材6から突出される上突出部材7または下突出部材8は、縦部材5の位置や縦部材5間に設けられるものである。
【0052】
図示しないが、横部材6から突出される下突出部材8の突出長さが、上突出部材7の突出長さより長くなっていれば、第一網2を経て侵入してくる害獣は、手掛かり、足掛かりとなる部位がないため、侵入が困難となる。
【0053】
また、第二網4は、上部と下部の少なくとも一方もしくは両方が、侵入側に向けて斜め方向に折曲された折曲部Cを有している。この折曲部Cは図に示される実施例だけでなく、図示しないが、最上位または最下位の横部材6から突出される上突出部材7と下突出部材8の少なくとも一方もしくは両方が侵入側に向けて斜め方向に折曲されて形成されてもよいものである。
【0054】
第二網4は、折曲加工したものを現場に搬入し、支柱1部分において支持体3に重合および結合する。実施例では第二網4は、その節点において支持体3に結束線により重合および結合している。第二網4は、電極機能と梁としての構造機能とを併せ持つ重要部位であり、結合は重合部Bの複数個所において確実に実施する。
【0055】
図2に示す傾斜地における第二網4の重合部Bは、折曲加工のため傾斜角度によっては良好な重合状態とならない場合も生ずるが、一方の折曲部Cの折曲角度調整または切断加工等により良好な重合状態とならしめることは容易なことである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
害獣駆除は一時、動物愛護の精神から抑制されていた時期があったが、集落の過疎化・高齢化による人間活動の低下、えさ場や隠れ場所となる耕作放棄地の増加、少雪傾向に伴う生息域の拡大、狩猟者の減少等と相俟って全国的にその被害は中山間地域を中心に拡大の一途をたどっている。被害額は200億円とも500億円とも言われ、正確な実態の把握が困難な問題でもある。
特に、高い知能程度と学習能力を有し、よじ登ることが得意な猿に対しては各種対策工法が考えられる中、電気柵が最も効果的な手段とされている現状において、施工性・竣工後の維持管理を含むトータル的な経済性を勘案した本発明は、その一助になるものと確信する。
【符号の説明】
【0057】
A:柵体
B:第二網の重合部および結合部
C:第二網の折曲部
1:支柱
2:導電材からなる第一網
3:絶縁材からなる支持体
4:導電材からなる第二網
5:第二網の縦部材
6:第二網の横部材
7:上突出部材
8:下突出部材
9:支持体固定具
10:電源装置
















【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で地表に立設された支柱1およびこれらの支柱1間に張設された導電材からなる第一網2を備えた柵体Aと、上記支柱1上端から支持体固定具9を介設して垂直上方へ設けられた絶縁材からなる支持体3と、この支持体3に配設された導電材からなる第二網4と、この第二網4と第一網2とに衝撃電圧を印加するための電源装置10とを具備し、第二網4は、縦部材5と横部材6とを有し、その縦部材5および横部材6の節点が剛結され網目状に形成され、第二網4の上部と下部の少なくとも一方もしくは両方が、侵入側に向けて斜め方向に折曲されていることを特徴とする獣害防止用電気柵。
【請求項2】
請求項1において、最上位の横部材6より侵入側に向けて斜め上方に突出する上突出部材7と最下位の横部材6より侵入側に向けて斜め下方に突出する下突出部材8の少なくとも一方もしくは両方が設けられていることを特徴とする獣害防止用電気柵。
【請求項3】
請求項1において、最上位の横部材6より侵入側に向けて斜め上方に突出する上突出部材7が設けられると共に最下位の横部材6より侵入側に向けて斜め下方に突出する下突出部材8が設けられ、下突出部材8の突出長さは、上突出部材7の突出長さよりも長くなっていることを特徴とする獣害防止用電気柵。
【請求項4】
請求項1において、第二網4は、支柱1間に適合する長さを有した単体であり、支柱1部分において支持体3に重合および結合され、柵体Aの上方に配設されることを特徴とする獣害防止用電気柵。
【請求項5】
請求項1において、柵体Aを構成する第一網2の上端部と第二網4の下端部が、電気的導通が起らない状態で近接されていることを特徴とする獣害防止用電気柵。
【請求項6】
所定の間隔で地表に立設された支柱1およびこれらの支柱1間に張設された導電材からなる第一網2を備えた柵体Aと、上記支柱1上端から支持体固定具9を介設して垂直上方へ設けられた絶縁材からなる支持体3と、この支持体3に配設された導電材からなる第二網4と、この第二網4と第一網2とに衝撃電圧を印加するための電源装置10とを具備し、第二網4は、パンチングメタルやエキスパンドメタルのような網目状に形成された薄材板であり、第二網4の上部と下部の少なくとも一方もしくは両方が、侵入側に向けて斜め方向に折曲されていることを特徴とする獣害防止用電気柵。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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