説明

玉網の製造方法

【課題】容易に機械編みを行なうことができる玉網の製造方法を提供する。
【解決手段】熱溶着糸6を編んで底部中央部2に曲率半径の小さい小突部5を設けつつ椀型の初期玉網体Aを作製する編成工程と、小突部5に加熱空気を当てて加熱し、小突部5を周囲15と連続面状となるように塑性収縮変形して底部中央部2の網目3を細小化した中間玉網体を作製する中間玉網体作製工程と、中間玉網体を加熱炉に入れて底部14全体を平らに形成する底部平坦化工程を、具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉網の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、魚釣りに於て、釣った魚を捕らえるために、玉網を用いるが、底部が平面状の有底円筒状の玉網を製造するには、玉網の底部を周囲部から中央部分に向かって網目を減少させながら編成する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、機械編みをする場合、底部(の中央部分)を平面状に編成するのは困難であり、アウト率が高い(すなわち不良品が出やすい)という欠点があった。また、底部の網目の大きさを一定の大きさより小さく編むことは困難であり(小さな網目を作るには限界があり)、底部全体にわたって、比較的大きな網目が形成されていたので、特に、鮎の友釣りの場合に、掛け針等が玉網の底部中央部に引っ掛かりやすく、取外すのに手間がかかったり、玉網が破損したりする虞れがあった。さらに、玉網が破れると、その周囲の網糸がほどけて、孔(破損部)が大きくなるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4190022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする課題は、機械編みをするのが困難で、アウト率が高い(多くの不良品が出る)点である。また、底部の網目が小さな玉網を製造するのが困難な点である。また、底部の中央部分に掛け針等が引っ掛かりやすい点である。さらに、玉網が破れた際、周囲の網糸がほどけて孔が大きくなる点である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明に係る玉網の製造方法は、熱溶着糸を編んで底部中央部に曲率半径の小さい小突部を設けつつ椀型の初期玉網体を作製する編成工程と、上記小突部に加熱空気を当てて加熱し、該小突部を周囲と連続面状となるように塑性収縮変形して底部中央部の網目を細小化した中間玉網体を作製する中間玉網体作製工程と、上記中間玉網体を加熱炉に入れて底部全体を平らに形成する底部平坦化工程を、具備する方法である。
また、上記底部平坦化工程に於て、予め底壁面が平坦面状の金型に上記中間玉網体を外嵌させた状態で、加熱炉に入れる方法である。
【0007】
また、上記中間玉網体を投入する上記加熱炉の温度を 150℃〜 250℃に設定し、該加熱炉に上記中間玉網体を入れる時間を3分〜10分に設定する方法である。
また、上記中間玉網体作製工程に於て、球面状曲面を有する押圧具にて、上記初期玉網体を押圧する方法である。
また、上記加熱炉からの排気を上記加熱空気として利用する方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の玉網の製造方法によれば、容易に機械編みを行なうことができ、アウト率を減少させることができる(すなわち、ほとんど不良品が出ない)。また、特に鮎の友釣り用掛け針等が引っ掛かりやすい底部中央部の網目を十分に小さくできて、掛け針等が引っ掛かりにくい玉網を製造することができる。さらに、たとえ掛け針等が玉網に引掛かって一部が破損しても、(熱溶着糸がほどけるということがなく)孔が大きくなることを防止することができる。すなわち、玉網の破損を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の一形態によって製作された玉網を示す簡略斜視図である。
【図2】釣り糸に友釣り用のオトリ及び掛け針等をつけた状態を示す正面図である。
【図3】要部拡大簡略底面図である。
【図4】図3の一部拡大図である。
【図5】初期玉網体を示す斜視図である。
【図6】中間玉網体を示す斜視図である。
【図7】中間玉網体作製工程を示す簡略説明図である。
【図8】中間玉網体作製工程を示す簡略説明図である。
【図9】中間玉網体を示す簡略説明図であって、(A)は自由状態の簡略説明図、(B)は金型に外嵌した状態の簡略説明図である。
【図10】底部平坦化工程を示す簡略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の実施の一形態によって製造された玉網1を示す。この玉網1は、2点鎖線にて示すように、上端縁1aに円環状の枠部19を設けるとともに、枠部19に柄部20を連設して、用いる。
【0011】
図2に示すように釣り糸Sに鮎の友釣り用のオトリ(鮎)F及び掛け針X等をつけ、オトリFを送り出す。再び釣り竿(図示省略)を引き上げたときに、オトリFや釣れた鮎(図示省略)を玉網1に入れるが、このとき、本発明の製造方法によって製作された玉網1では、掛け針X等が底部中央部2(図1参照)に引っ掛かることを防止することができる。
【0012】
すなわち、本発明の製造方法によって製作された玉網1は、図3・図4に示すように、その底部中央部2の網目3が周囲15よりも細小に形成されている(言い換えると、網目3の面積が周囲15よりも小さい)。なお、図3に於て、2点鎖線より内側が網目3の小さい底部中央部2を示し、2点鎖線より外側が網目3の大きい周囲15を示す。
【0013】
本発明の玉網の製造方法の実施の一形態は、図5・図7に示すように底部中央部2に曲率半径rの小さい小突部5を有する椀型の初期玉網体Aを編成し、小突部5を加熱して、小突部5が、図6・図9に示すように、周囲15と連続面状となるように塑性収縮変形させることを最大の特徴とする。
【0014】
具体的には、まず、図5・図7に示すように熱溶着糸(熱融着糸)6(例えばポリエステル糸に熱溶着性薬剤をコーティングしたもの)を編んで底部中央部2に15mm〜40mmの曲率半径rの小さい小突部5を設けつつ椀型の初期玉網体Aを作製する編成工程を行なう。
【0015】
次に、小突部5に加熱空気11を当てて加熱し、小突部5の温度が上昇している間に、図8に示すように、球面状曲面7を有する押圧具8にて、初期玉網体Aを押圧することにより小突部5を周囲15と連続面状となるように変形させて、図6・図9(A)に示すように、底部中央部2の網目3を細小化した中間玉網体Eを作製する中間玉網体作製工程を行なう。球面状曲面の曲率半径Rを、小突部5の曲率半径rより大きく設定するのが好ましい。加熱炉9からの排気10を加熱空気11として利用するのが好ましい。
【0016】
図9(B)に示すように、予め底壁面12が平坦面状(平面状)の金型13に中間玉網体Eを外嵌させた状態で、図10に示すように、玉網1の底部14が上となるように加熱炉9に入れて、底部14全体を平らに形成する底部平坦化工程を行なう。加熱炉9は、例えば、熱風乾燥炉、電気炉等とすることができる。なお、図9(B)及び図10に於て、金型13と中間玉網体Eとの間に隙間があるように図示しているが、実際は、中間玉網体Eを金型13に密接させる。底部平坦化工程に於て、中間玉網体Eの全体が加熱される際、熱溶着糸6の交差部Zが溶着一体化して熱溶着糸6が交差部Z(図3・図4参照)でずれることが防止される。
【0017】
中間玉網体Eを投入する加熱炉9の温度Tを 150℃〜 250℃に設定する。温度Tがこの範囲にある場合、適切かつ確実に中間玉網体Eを所望形状(底部14全体が平らな有底円筒状)にすることができる。そして、熱溶着糸6の交差部Z(図4参照)に於て、接近している熱溶着糸6が溶着一体化して、全体形状を美しく保持することができる。すなわち、形状保持性が高くなる。温度Tが 150℃未満の場合、熱溶着糸6が全体的に均一かつ確実に溶けないので、完成品の玉網1の全体形状を美しく保持することができない。温度Tが 250℃を超える場合、熱溶着糸6が過度に溶けて、網目形状が歪むとともに強度が低下する。
【0018】
加熱炉9に中間玉網体Eを入れる時間tを3分〜10分に設定する。時間tがこの範囲にある場合、適切かつ確実に中間玉網体Eを所望形状(底部14全体が平らな有底円筒状)にすることができる。そして、熱溶着糸6の交差部Zに於て、接近している熱溶着糸6が溶着一体化して、全体の剛性がアップし、全体形状を美しく保持することができる。すなわち、形状保持性が高くなる。時間tが3分未満の場合、熱溶着糸6が全体的に均一かつ確実に溶けないので、完成品の玉網1の全体形状を美しく保持することができない。時間tが10分を超える場合、熱溶着糸6が過度に溶けて、網目形状が歪むとともに強度が低下する。
【0019】
なお、本発明は、設計変更可能であって、例えば、図10に於て、加熱炉9に中間玉網体Eを1個入れる場合を図示したが、複数個の中間玉網体Eを入れても良い。また、図8に於て、球体17に把持棒18を連設した押圧具8を示したが、押圧具8を、球体そのもの、又は、半球体に取手を取着したもの等とするも良い(図示省略)。なお、本発明に於て、底部中央部2とは、底部14の円形状外径寸法の15%〜40%を言う。
【0020】
以上のように、本発明は、熱溶着糸6を編んで底部中央部2に曲率半径rの小さい小突部5を設けつつ椀型の初期玉網体Aを作製する編成工程と、小突部5に加熱空気を当てて加熱し、小突部5を周囲15と連続面状となるように塑性収縮変形して底部中央部2の網目3を細小化した中間玉網体Eを作製する中間玉網体作製工程と、中間玉網体Eを加熱炉9に入れて底部14全体を平らに形成する底部平坦化工程を、具備するので、容易に機械編みを行なうことができ、アウト率を減少させることができる。また、特に掛け針X等が引っ掛かりやすい底部中央部2の網目3が小さな(少なくとも周囲15と同一の大きさとした)玉網1を製造することができる。そして、掛け針X等が引っ掛かりにくい玉網1を製造することができる。さらに、たとえ掛け針X等が玉網1に引掛かって一部が破損しても、熱溶着糸6が網目形状に溶着一体化しているので、(熱溶着糸6がほどけるということがなく)孔が大きくなることを防止することができる。すなわち、玉網1の破損を最小限に抑えることができる。
【0021】
また、底部平坦化工程に於て、予め底壁面12が平坦面状の金型13に中間玉網体Eを外嵌させた状態で、加熱炉9に入れるので、容易に中間玉網体Eの底部14を平坦面状にすることができる。
また、中間玉網体Eを投入する加熱炉9の温度Tを 150℃〜 250℃に設定し、加熱炉9に中間玉網体Eを入れる時間tを3分〜10分に設定するので、適切かつ確実に中間玉網体Eを所望形状(底部14全体が平らな有底円筒状)にすることができる。そして、熱溶着糸6の交差部16に於て、接近している熱溶着糸6が溶着一体化して、全体形状を美しく保持することができる。すなわち、形状保持性が高くなる。
【0022】
また、中間玉網体作製工程に於て、球面状曲面7を有する押圧具8にて、初期玉網体Aを押圧するので、スムーズかつ容易・確実に小突部5を周囲15と連続面状にすることができる。
また、加熱炉9からの排気10を加熱空気11として利用するので、省エネを実現することができる。
【符号の説明】
【0023】
2 底部中央部
3 網目
5 小突部
6 熱溶着糸(熱融着糸)
7 球面状曲面
8 押圧具
9 加熱炉
10 排気
11 加熱空気
12 底壁面
13 金型
14 底部
15 周囲
A 初期玉網体
E 中間玉網体
r 曲率半径
T 温度
t 時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶着糸(6)を編んで底部中央部(2)に曲率半径(r)の小さい小突部(5)を設けつつ椀型の初期玉網体(A)を作製する編成工程と、
上記小突部(5)に加熱空気を当てて加熱し、該小突部(5)を周囲(15)と連続面状となるように塑性収縮変形して底部中央部(2)の網目(3)を細小化した中間玉網体(E)を作製する中間玉網体作製工程と、
上記中間玉網体(E)を加熱炉(9)に入れて底部(14)全体を平らに形成する底部平坦化工程を、具備することを特徴とする玉網の製造方法。
【請求項2】
上記底部平坦化工程に於て、予め底壁面(12)が平坦面状の金型(13)に上記中間玉網体(E)を外嵌させた状態で、加熱炉(9)に入れる請求項1記載の玉網の製造方法。
【請求項3】
上記中間玉網体(E)を投入する上記加熱炉(9)の温度(T)を 150℃〜 250℃に設定し、該加熱炉(9)に上記中間玉網体(E)を入れる時間(t)を3分〜10分に設定する請求項1又は2記載の玉網の製造方法。
【請求項4】
上記中間玉網体作製工程に於て、球面状曲面(7)を有する押圧具(8)にて、上記初期玉網体(A)を押圧する請求項1,2又は3記載の玉網の製造方法。
【請求項5】
上記加熱炉(9)からの排気(10)を上記加熱空気(11)として利用する請求項1,2,3又は4記載の玉網の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−125157(P2012−125157A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276896(P2010−276896)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(390013099)株式会社清水 (1)
【Fターム(参考)】