説明

現場におけるフレッシュコンクリートのアルカリ総量の測定方法

【課題】フレッシュコンクリート中のアルカリ量の一部を実際に測定することで、現場において容易に、精度良く、実際に用いるフレッシュコンクリートのアルカリ総量を求めることが可能な測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、セメント、骨材、混和剤、水を含むフレッシュコンクリート、及び該コンクリートを希釈する水を準備し、希釈する水のNa+、K+濃度を測定し、アルカリ量を算出し、準備したフレッシュコンクリートを希釈し、所定時間静置し、静置した希釈フレッシュコンクリートの上澄み水のNa+、K+濃度を測定し、アルカリ量を算出し、及び前記アルカリ量を用いて、式(1)により目的のアルカリ総量を算出する。
【数1】


(A:フレッシュコンクリートのアルカリ総量、B:溶出したアルカリ量、C:単位セメント量、D:セメント試験成績書の全アルカリ量の最大値、α:定数)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物を建設する際に用いるフレッシュコンクリートのアルカリ総量を、精度良く測定しうる現場におけるフレッシュコンクリートのアルカリ総量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物においてアルカリ骨材反応が進むと、ひび割れ、ゲルの滲出、目地のずれ等が生じることが知られている。該アルカリ骨材反応を抑制する対策として、フレッシュコンクリート1m3中のアルカリ総量をNa2O換算で3.0kg/m3以下に抑える方法が知られており、その有効性が既に確認されている。
そこで、より正確なアルカリ総量を求めるために、実際に打ち込まれるフレッシュコンクリートに用いられる各材料のアルカリ量を実際に分析・測定し、算出する方法が考えられる。しかし、このような実際に分析・測定する方法には時間とコスト等を要し、また、現場での実施を考慮した場合、非現実的であるため採用されていない。
【0003】
従来、フレッシュコンクリート中のアルカリ総量の確認は、(セメント試験成績表に示されたセメントのNa2O換算による全アルカリ量の最大値(%)/100×単位セメント量+0.53×骨材中のNaCl含有量(%)/100×当該単位骨材量+混和剤中のアルカリ量)により求められている。ここで、セメント試験成績表に示されたセメントのNa2O換算による全アルカリ量の最大値のうち直近6ヶ月の最大値を用いるため、求められるアルカリ総量は実際の値よりも通常高くなる。このため、上記アルカリ骨材反応を抑制する対策においては問題ないが、実際に使用するセメントによっては求めた値が、真の値から大きく異なる場合が生じる。
また、このような従来の測定方法では、フレッシュコンクリート中に含まれるアルカリ総量を直接測定するのではないため、骨材に海砂を使用する場合や練り混ぜ水に回収水を使用する場合などフレッシュコンクリート中に試験成績書では確認できないアルカリ分が供給される可能性も考えられる。
そこで、現場における簡易な方法により、より精度の高いフレッシュコンクリート中に含まれるアルカリ総量を測定する方法の開発が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、フレッシュコンクリート中のアルカリ量の一部を実際に測定することで、現場において容易に、精度良く、実際に用いるフレッシュコンクリートのアルカリ総量を求めることが可能な測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、セメントと、骨材と、混和剤と、水とを含み、所定の空気量としたフレッシュコンクリート、及び該フレッシュコンクリートを希釈する水を準備する工程(a)、前記希釈する水のナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度を測定し、該希釈する水のアルカリ量を算出する工程(b)、工程(a)で準備したフレッシュコンクリートを、前記希釈する水で希釈し、所定時間静置する工程(c)、工程(c)で静置した希釈フレッシュコンクリートの上澄み水のナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度を測定し、該上澄み水のアルカリ量を算出する工程(d)、及び工程(b)及び工程(d)で測定したアルカリ量を用いて、式(1)によりフレッシュコンクリートのアルカリ総量を算出する工程(e)、を含むことを特徴とする現場におけるフレッシュコンクリートのアルカリ総量の測定方法が提供される。
【数2】

(式(1)中、Aはフレッシュコンクリートのアルカリ総量(kg/m3)、Bは単位体積あたりのフレッシュコンクリートから上澄み水に溶出したアルカリ量(kg/m3)、Cは単位セメント量(kg/m3)、Dは工程(a)で用いたセメントのセメント試験成績書のNa2O換算による全アルカリ量の最大値(%)を示し、αは定数(工程(a)で用いたセメントが早強ポルトランドセメントであって、工程(c)の静置時間が1時間の場合α=0.87、2時間の場合α=0.70、3時間の場合α=0.56、5時間の場合α=0.46であり、工程(a)で用いたセメントが普通ポルトランドセメントであって、工程(c)の静置時間が1時間の場合α=0.87、2時間の場合α=0.66、3時間の場合α=0.56、5時間の場合α=0.48であり、工程(a)で用いたセメントが高炉セメントB種であって、工程(c)の静置時間が1時間の場合α=0.94、2時間の場合α=0.86、3時間の場合α=0.79、5時間の場合α=0.73であり、工程(a)で用いたセメントが低熱ポルトランドセメントであって、工程(c)の静置時間が1時間の場合α=0.84、2時間の場合α=0.76、3時間の場合α=0.72、5時間の場合α=0.63である)を示す。)
【0006】
工程(a)は、通常、現場においてフレッシュコンクリートをエアメーターなどの容積が知られる容器で採集する工程である。
【0007】
工程(b)において、希釈する水は、上水道水等を用いることができる。
希釈する水のアルカリ量は、例えば、HORIBA社製のナトリウムイオン用及びカリウムイオン用のコンパクトイオンメーター等の市販のイオンメーターを用いて、ナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度を測定し、該ナトリウムイオン濃度をNa2O濃度に換算し、該カリウムイオン濃度をK2O濃度に換算して、以下の式により求めることができる。
希釈する水のアルカリ量(kg/m3)=希釈する水量(kg)×(希釈する水のNa2O濃度(%)+希釈する水のK2O濃度(%)×0.658)/100
【0008】
工程(c)において、工程(a)で準備したフレッシュコンクリートを、前記希釈する水で希釈するには、例えば、工程(a)で準備したフレッシュコンクリートをバケツ等の容器に入れて、前記希釈する水で希釈することにより行うことができる。
採取するフレッシュコンクリート量は特に限定されないが、通常、0.005〜0.010m3程度が取扱いの点で好ましい。
希釈する水の量は作業性を考慮して適宜選択でき、例えば、採取したフレッシュコンクリートの容積の1〜2倍程度、もしくは5〜15kg程度が好ましい。
【0009】
工程(c)において、希釈したフレッシュコンクリートの静置は、通常、混合後、水分の蒸発等を防止するために容器の開口を塞いで行うことが好ましい。また、所定静置時間は、1時間、2時間、3時間又は5時間であり、測定時間を短縮するためには1時間が好ましい。
この静置時間は、後述する式(1)のα値を決定する時間となり、図1に示すα値と計測時間(静置時間)との関係を示すグラフに基づいて、1〜5時間の範囲から決定することも可能である。
【0010】
工程(d)において、上澄み水のナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度を測定し、上澄み水のアルカリ量を算出するには、例えば、工程(c)で静置させた上澄み水の一部を速やかに採取し、上記工程(b)と同様にナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度を測定し、以下の式により求めることができる。
上澄み水のアルカリ量(kg/m3)=上澄み水量(kg)×(上澄み水のNa2O濃度(%)+上澄み水のK2O濃度(%)×0.658)/100
【0011】
工程(e)において用いる上記式(1)中、Aは求めるフレッシュコンクリートのアルカリ総量(kg/m3)を示す。
Bは、単位体積あたりのフレッシュコンクリートから溶出したアルカリ量(kg/m3)であって、工程(d)で算出した上記上澄み水のアルカリ量(kg/m3)−工程(b)で算出した上記希釈する水のアルカリ量(kg/m3)により算出したものである。
Cは単位セメント量(kg/m3)であって、工程(a)で実際にフレッシュコンクリートを製造した際のセメントの単位量を示す。
Dは工程(a)で用いたセメントのセメント試験成績書のNa2O換算による全アルカリ量の最大値(%)を示し、該Na2O換算による全アルカリ量は、Na2O(%)+0.658×K2O(%)により求めることができる。
【0012】
上記式(1)中、αは上記工程(c)のような操作において、セメント中に含まれるアルカリ量のうちフレッシュコンクリートから溶出せずにセメント中に残存しているアルカリ量の比率を、多くの実験により、セメントの種類及び該静置時間との関係をグラフ化して決定した定数であって、それをまとめたグラフを図1に示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフレッシュコンクリートのアルカリ総量の測定方法は、特に、上記工程(d)において、上澄み水に溶解しているフレッシュコンクリート中のアルカリ量を実際に測定し、且つ上記式(1)を用いて、該実際に測定したアルカリ量と、前記上澄み水に溶出してこないセメント中のアルカリ量との和を算出することでアルカリ総量を求めるので、現場において容易に、精度良く、実際に用いるコンクリートのアルカリ総量を求めることができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例及び参考例により本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれらに限定されない。
実施例
表1に示すセメント、骨材、水及び混和剤を用いてフレッシュコンクリートを調製した。得られた各フレッシュコンクリート16kgを、容積量0.007m3のエアメーターで採集した(以下、この採集したフレッシュコンクリートを「コンクリート試料」ということがある)。このコンクリート試料バケツに移し、予めアルカリ量を測定した上水道水10kgを加えた後、混合した。次いで、バケツの開口に蓋をし、各希釈フレッシュコンクリートを1、2、3、5時間静置させた。静置後、上澄み水を採取し、HORIBA社製のナトリウムイオン用及びカリウムイオン用のコンパクトイオンメーターを用いて、各上澄み水のナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度を測定し、以下の式に基づいてフレッシュコンクリートから溶出したアルカリ量Bを算出した。
アルカリ量B(kg/m3)=(上澄み水のアルカリ量(kg)−希釈する上水道水のアルカリ量(kg))/(コンクリート試料の体積(m3))
ここで、上澄み水のアルカリ量(kg)=(上澄み水のNa2O濃度(%)+上澄み水のK2O濃度(%)×0.658)/100×(コンクリート試料の体積(m3)×コンクリートの単位水量(kg/m3)+希釈する上水道水の重量(kg))であり、希釈する上水道水のアルカリ量(kg)=希釈する上水道水量(kg)×(希釈する上水道水のNa2O濃度(%)+希釈する上水道水のK2O濃度(%)×0.658)/100である。
次いで、このアルカリ量Bを用い、上述の式(1)に基づいてフレッシュコンクリートのアルカリ総量を算出した。結果を表2に示す。
【0015】
尚、使用した材料は以下のとおりである。
セメント:早強ポルトランドセメント、密度=3.14g/cm3、太平洋セメント社製、全アルカリ量=0.48%(分析値)、0.59%(試験成績表値に記載されている直近6ヶ月の最大値)、普通ポルトランドセメント、密度=3.16g/cm3、太平洋セメント社製、全アルカリ量=0.59%(分析値)、0.64%(試験成績表値に記載されている直近6ヶ月の最大値)、高炉セメントB種、密度=3.04g/cm3、太平洋セメント社製、全アルカリ量=0.53%(分析値)、0.52%(試験成績表値)、低熱ポルトランドセメント、密度=3.22g/cm3、三菱マテリアル社製、全アルカリ量=0.39%(分析値)、0.39%(試験成績表値)、細骨材:砕砂、F.M.=2.80、表乾密度=2.61g/cm3、茨城郡岩瀬町産、粗骨材:砕石、F.M.=6.78、表乾密度=2.63g/cm3、茨城郡岩瀬町産、混和剤(SP):高性能AE減水剤、レオビルドSP8SV(x2)、密度=1.12g/cm3、全アルカリ量=1.40%、BASFポゾリス社製。
また、用いた各材料のアルカリ量を、JIS A 5002構造用軽量コンクリート骨材、JIS R 5202ポルトランドセメントの化学分析方法、JIS A 6204コンクリート化学混和剤に準じて測定し、実施例で調製した各フレッシュコンクリートの正確なアルカリ総量を算出した。結果を表2に示す。
【0016】
参考例
実施例に用いた同一材料を用いてフレッシュコンクリートを製造した場合のアルカリ総量を、従来の方法に基づいて、(セメント試験成績表に示されたセメントのNa2O換算による全アルカリ量の最大値のうち直近6ヶ月の最大値)/100×単位セメント量)+(0.53×骨材中のNaClの割合(%))/100×当該単位骨材量)+混和剤中のアルカリ量)により求めた。結果を表2に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
表2の結果より、実施例の式(1)を利用して算出した各フレッシュコンクリートのアルカリ総量は、いずれも測定した各材料のアルカリ量から算出した正確なフレッシュコンクリートのアルカリ総量に近似した値であることがわかる。一方、従来の方法に基づき算出した参考例のフレッシュコンクリートのアルカリ総量は、上記正確なフレッシュコンクリートのアルカリ総量に近似したものもあるが、バラツキが多いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】式(1)のα値を求めるために行った実験の結果をまとめたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、骨材と、混和剤と、水とを含み、所定の空気量としたフレッシュコンクリート、及び該フレッシュコンクリートを希釈する水を準備する工程(a)、
前記希釈する水のナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度を測定し、該希釈する水のアルカリ量を算出する工程(b)、
工程(a)で準備したフレッシュコンクリートを、前記希釈する水で希釈し、所定時間静置する工程(c)、
工程(c)で静置した希釈フレッシュコンクリートの上澄み水のナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度を測定し、該上澄み水のアルカリ量を算出する工程(d)、及び
工程(b)及び工程(d)で測定したアルカリ量を用いて、式(1)によりフレッシュコンクリートのアルカリ総量を算出する工程(e)、を含むことを特徴とする現場におけるフレッシュコンクリートのアルカリ総量の測定方法。
【数1】

(式(1)中、Aはフレッシュコンクリートのアルカリ総量(kg/m3)、Bは単位体積あたりのフレッシュコンクリートから上澄み水に溶出したアルカリ量(kg/m3)、Cは単位セメント量(kg/m3)、Dは工程(a)で用いたセメントのセメント試験成績書のNa2O換算による全アルカリ量の最大値(%)を示し、αは定数(工程(a)で用いたセメントが早強ポルトランドセメントであって、工程(c)の静置時間が1時間の場合α=0.87、2時間の場合α=0.70、3時間の場合α=0.56、5時間の場合α=0.46であり、工程(a)で用いたセメントが普通ポルトランドセメントであって、工程(c)の静置時間が1時間の場合α=0.87、2時間の場合α=0.66、3時間の場合α=0.56、5時間の場合α=0.48であり、工程(a)で用いたセメントが高炉セメントB種であって、工程(c)の静置時間が1時間の場合α=0.94、2時間の場合α=0.86、3時間の場合α=0.79、5時間の場合α=0.73であり、工程(a)で用いたセメントが低熱ポルトランドセメントであって、工程(c)の静置時間が1時間の場合α=0.84、2時間の場合α=0.76、3時間の場合α=0.72、5時間の場合α=0.63である)を示す。)
【請求項2】
工程(b)及び工程(d)において、ナトリウムイオン濃度及びカリウムイオン濃度の測定を、コンパクトイオンメーターを用いて実施することを特徴とする請求項1記載の測定方法。

【図1】
image rotate