説明

理美容椅子の昇降装置

【課題】 先行文献の構造にあっては、椅子と洗髪ボウルとの間隔が狭いため、被施術者が着座している状態において後方からの施術がし難いといった問題があった。
【解決手段】 油圧シリンダ7の伸長によりメインリンク5が変移し、該メインリンクの変移により連結リンク9が変移することでサブリンク6が変移して座部8を上昇させ、また、サブリンクの変移によって背凭れリンク12が変移することで固定リンク11を伏倒方向に変移させ、該固定リンクの変移により回動板10cが変移して背凭れ10を伏倒させるようにした理美容椅子の昇降装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの油圧シリンダで座部が昇降し、該昇降に伴って背凭れが起伏する、特に、洗髪ボウルに対して座部を上昇させると共に背凭れが伏倒して被施術者の洗髪を行うのに適した理美容椅子の昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
洗髪に適する理美容椅子としては、例えば、特開2003−250652号公報に開示された発明がある。この発明は、1つの油圧シリンダによって座部を上昇させ、この座部の昇降に伴って背凭れを起伏させる構造のものである。すなわち、油圧シリンダによって座部を昇降させ、該昇降する座部に一端が背凭れに接続されたリンクの他端を接続し、座部が昇降すると前記リンクを介して背凭れが連動して起伏する構造のものである。
【0003】
そして、前記した先行文献にあっては、背凭れは座部の後方部に軸支された状態で起伏動作を行うものであるので、背凭れの上端は座部との軸支点を支点して円弧運動して、被施術者の首後ろ部を洗髪ボウルの凹部で支持するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−250652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した先行文献の構造にあっては、椅子と洗髪ボウルとの間隔が狭いため、被施術者が着座している状態において後方からの施術がし難いといった問題があった。
【0006】
本発明は前記した問題点を解決せんとするもので、その目的とするところは、被施術者が着座状態での施術において背凭れと洗髪ボウルとの間隔を十分に維持することができ表示施術者の後方から施術ができると共に背凭れが伏倒した状態で背凭れの上端が洗髪ボウルに近接した位置とすることができる理美容椅子の昇降装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の理美容椅子の昇降装置は、前記した目的を達成せんとするもので、請求項1の手段は、基台に立設されたメインリンクブラケットおよびサブリンクブラケットと、平行リンクを構成する前記メインリンクブラケットに軸支されたメインリンクおよび前記サブリンクブラケットに軸支されたサブリンクと、前記基台に一端が軸支され他端が前記メインリンクに軸支された油圧シリンダと、一端が前記メインリンクに軸支され他端が前記サブリンクに軸支された連結リンクと、前記サブリンクの変移により変移する背凭れリンクと、該背凭れリンクの上端が軸支された固定リンクが取付けられた背凭れと、前記メインおよびサブリンクの変移により上下動する座部と、該座部に一体的に取付けられ前記背凭れの下部を軸支する背凭れ基材と、該背凭れ基材と前記背凭れとの軸支点に一端が軸支され他端が背凭れに取付けられた回動板とより構成し、前記油圧シリンダの伸長により前記メインリンクが変移し、該メインリンクの変移により前記連結リンクが変移することで前記サブリンクが変移して座部を上昇させ、また、前記サブリンクの変移によって背凭れリンクが変移することで前記固定リンクを伏倒方向に変移させ、該固定リンクの変移により前記回動板が変移して前記背凭れを伏倒させるようにしたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の手段は、前記した請求項1において、前記固定リンクには、折曲部を介して長孔が形成されたリンク受け部が形成され、前記背凭れリンクの上端に取付けられたガイド軸が案内され、かつ、該ガイド軸と前記背凭れ背面との間にスプリングが張設され、前記背凭れの伏倒動作において背凭れの上部と洗髪ボウルとの間に異物が挟まった場合には、前記ガイド軸が前記長孔内を前記スプリングのバネ力に抗して移動することで洗髪ボウルと背凭れとの間に挟まれた異物への負荷を軽減したことを特徴とする。
【0009】
請求項3の手段は、前記した請求項1において、前記メインリンクブラケットおよびサブリンクブラケットの上下方向に前記メインリンクおよびサブリンクを軸支するための複数の取付孔を形成し、該取付孔を選択して前記メインリンクおよびサブリンクを軸支することで、座部の初高位置および背凭れが伏倒した際の背凭れ上端の到達位置および背凭れが伏倒した際の背凭れの上端位置を変更できるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は前記したように、油圧シリンダの伸長によりメインリンクが変移し、該メインリンクの変移により連結リンクが変移することでサブリンクが変移して座部を上昇させ、また、前記サブリンクの変移によって背凭れリンクが変移することで固定リンクを伏倒方向に変移させ、該固定リンクの変移により回動板が変移して背凭れが伏倒するようにしたので、被施術者が着座状態である場合に洗髪ボウルと背凭れとの間隔が大きく、従って、施術者にとって施術が行い易くなり、また、背凭れが伏倒した状態において背凭れの上端が洗髪ボウルに近接して洗髪作業が行い易くなる。
【0011】
また、通常は背凭れの伏倒動作において背凭れが洗髪ボウルに当接することはないが、該洗髪ボウルと背凭れの上端との間に異物(例えば、施術者の身体の一部)が挟まったような場合であっても、洗髪ボウルと背凭れに挟まれた異物への負荷が軽減されるので異物の損傷を防止することができる。
【0012】
さらに、メインリンクブラケットおよびサブリンクブラケットの上下方向に前記メインリンクおよびサブリンクを軸支するための複数の取付孔を形成しので、理美容院等に設置されている洗髪ボウルの高さに合わせて前記取付孔を選択して前記メインリンクおよびサブリンクを軸支することで、座部の初高位置が変更されて最適な椅子と洗髪ボウルとの関係位置を設定することができる等の効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る理美容椅子の昇降装置の一実施例を示す初期位置の側面図である。
【図2】座部が上昇し背凭れが伏倒した状態の側面図である。
【図3】座部が上昇し背凭れが伏倒した状態の背面側から見た斜視図である。
【図4】初期状態における椅子を昇降させるリンク機構のみを示した側面図である。
【図5】図4において座部を上昇させた状態における椅子を昇降させるリンク機構のみを示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る理美容椅子の昇降装置の一実施例を図面と共に説明する。
1は理美容院等の床面に固定される基台にして、該基台1には平行リンクの1つである左右一対のメインリンク5の下端が軸支された左右一対のメインリンクブラケット2と、平行リンクの他の1つである左右一対のサブリンク6の下端が軸支された左右一対のサブリンクブラケット2および油圧シリンダ7の一端が軸支された左右一対のシリンダブラケット4が垂直状態で取付けられている。
【0015】
なお、前記メインリンク5の一端はメインリンクブラケット2の間を連結する支持軸2aに軸支されている。また、前記メインおよびサブリンクブラケット2,3およびシリンダブラケット4には垂直方向に対して複数(図面では3個)の取付孔2a,3a,4aが開口されている。
【0016】
前記メインリンク5の上端は椅子の座部8におけるシート基材8aの下面から垂下されているシートフレーム8bに軸支されている。また、メインリンク5の比較的上方には突出片5aが形成されており、該突出片5a同士の間にはメインリンク棒5bが固定状態で取付けられている。
【0017】
そして、前記メインリンク棒5bの中間部には前記油圧シリンダ7の他端を軸支するためのラム取付片5cが固定状態で取付けられている。また、該ラム取付片5cと近接した位置には後述するサブリンク棒6aに取付けられた連結片6cと対向する位置には連結片5dが固定状態で取付けられ、該連結片5dには連結リンク9の一端が軸支されている。
【0018】
前記サブリンク6の上端は前記シート基材8aの下面から垂下されている他のシートフレーム8cに軸支されている。また、サブリンク6どうしの間にはサブリンク棒6aが固定状態で取付けられている。そして、前記サブリンク棒6aの中間部には後述する背凭れリンク12の下端を軸支するための背凭れリンク片6bが固定状態で取付けられ、さらに、サブリンク棒6aには一端が前記メインリンク棒5bの連結片5dに軸支された連結リンク9の他端を軸支するための連結片6cが固定状態で取付けられている。
【0019】
10は背凭れにして、前記シート基材8aに固定したL字状の背凭れ支持板10aによって回転自在に軸支されている。また、背凭れ支持板10aの回転軸部には背凭れ基材10bに一端固定された背凭れ回動板10cが軸支されている。そして、背凭れ10が起立状態にある場合には、前記回動板10cとの軸支点に対して前記背凭れ支持板10aの背凭れ基材10bとの止着部分が遠い位置にあるため、背凭れ10の下部はシート基材8aの後方に位置している。
【0020】
11は一端が背凭れ10の前記回動板10bが取付けられた部分の正面側に取付けられた固定リンクにして、他端は背凭れ10の背面に沿うように折曲部11aを介してリンク受け部11bが一体的に形成されている。そして、このリンク受け部11bに長手方向に沿って長孔11cが形成されている。
【0021】
12は下端が前記サブリンク棒6aに軸支され、上端には前記長孔11c内を摺動可能なガイド軸12aが取付けられた背凭れリンクにして、該ガイド軸12aは背凭れ10の起立時および伏倒時において前記長孔11cの折曲部11aに位置している。13は一端が背凭れ10の背面に支持され、他端が前記ガイド軸12aに係止された一対のスプリングである。
【0022】
次に、前記した構成に基づいて座部8が上下動する動作を座部の下方のリンク機構のみを示した図4,5と共に説明する。
図4は座部8が下降され、背凭れが起立した状態(以下、初期位置という)において、図示していないが座部8を上昇させるためのフットペダルや背凭れの側面に設置された上昇用スイッチを操作すると、油圧シリンダ7に油が注入されラムが伸長される。
【0023】
ラムが伸長されるとラム取付片5cとの軸支点aが押し上げられるので、該ラム取付片5cが固定されているメインリンク棒5bに対して上方への力が作用する。ここで、メインリンク棒5bはメインリンク5に固定状態で取付けられ、かつ、メインリンク5の下端はメインリンクブラケット2に軸支されているので、該メインリンク5は軸支点bで時計方向に回動される。
【0024】
前記メインリンク5が時計方向に回動されると、メインリンク棒5bの連結片5dに軸支されている連結リンク9が右方向に押し出されるので、該連結リンク9の他端と連結片6cとの軸支点cを時計方向に回動させようとする力が作用する。
【0025】
この時計方向に回動させる力が軸支点cに作用すると、該連結片6cが固定状態で取付けられているサブリンク棒6aを時計方向に移動させようとする力がサブリンク棒6aに作用するので、該サブリンク棒6aが固定状態で取付けられているサブリンク6はサブリンクブラケット3との軸支点dを中心に時計方向に回動される。
【0026】
このように、平行リンクを構成するメインリンク5とサブリンク6とが時計方向に回動されると、メインリンク5が軸支点eで軸支されているシートフレーム8aとサブリンク6が軸支点fで軸支されているシートフレーム8bとが斜め後方(図面において斜め右上方向)に向かって押し上げられる。
【0027】
そして、座部8を斜め後方に押し上げられた座部8の高さが、着座している被施術者の洗髪を行うための高さ位置に達したと施術者が判断した場合にはフットペダルやスイッチを操作して油圧シリンダ7への油の供給を中止することで、座部8は所望の位置で停止する。なお、上昇位置にある座部8を下降させるためには下降操作を選択することで油圧シリンダ7内の油が排出されるので、前記した説明の動作とは逆の動作によって下降して初期位置に戻るものである。
【0028】
次に、前記した動作説明において座部の上昇に伴って背凭れ10が伏倒する動作について説明する。
前記したサブリンク棒6aが時計方向に回動されると、該サブリンク棒6aに固定されている背凭れリンク片6bが斜め上方に変移するので、該背凭れリンク片6bとの軸支点gによって背凭れリンク12が斜め上方に移動する。
【0029】
この移動によって背凭れリンク12の上端に取付けられているガイド軸12aが上昇して固定リンク11の長孔11cの折曲部11aに対して押し上げる方向に作用するが、ここで、背凭れ10は背凭れ支持板10bとの軸支点hで軸支されているので伏倒方向に変移することとなる。
【0030】
背凭れ10が伏倒方向に変移すると、前記軸支点hにおいて回転板10cが軸支されているので、背凭れ10が伏倒されることとなる。
【0031】
また、背凭れ10の伏倒途中において、背凭れ10の先端と洗髪ボウルとの間に異物が挟まったような場合には、前記ガイド軸12aが固定リンク11の長孔11c内を移動することで、背凭れ10の荷重、被施術者の寄り掛かり荷重に対してスプリング13のバネ力が反力として作用するので、前記異物に対して強い力での挟み込みが軽減される。
【0032】
なお、洗髪作業が終了し初期状態に戻すと、前記した座部の下降動作を行うことで、前記した説明とは逆の動作によって背凭れ10は起立状態となるものである。
【0033】
前記したメイン、サブリンクブラケット2,3およびシリンダブラケット4には上下方向に取付孔2a,3a,4aを設けたのは、理美容院に設置されている洗髪ボウルの高さが異なるので、該洗髪ボウルの高さに合わせて取付孔2a,3a,4aを選択してメインリンクブラケット2、サブリンクブラケット3およびシリンダブラケット4aを取付けることで、椅子の初期位置の高さが異なり、これにより、背凭れ10が伏倒した状態時において背凭れ10の先端高さと洗髪ボウルの高さとを一致させることができる。
【0034】
前記した図1〜図3の図面において、サブリンクブラケット3の近傍にはポテンショメータ14が取付けられている。そして、ポテンショメータ14の回転軸には座部の上下動作によって抵抗値を変化させるメータリンク15が取付けられている。
【0035】
すなわち、メータリンク15は、一端がポテンショメータ14の回転軸に取付けられた第1リンク15aと、一端がサブリンク6に軸支された第2リンク15bと、該第1、第2リンク15a,15b間を連結する第3リンク15cとから構成されている。そして、サブリンク6が変移することで第2、第3、第1リンクが変移してポテンショメータ14の抵抗値が変化する。
【0036】
この抵抗値の変化を利用して、オートリターンスイッチを操作して、上昇位置(背凭れ伏倒)を初期位置に戻し、あるいは、プリセットスイッチを操作して、予め施術者が設定した座部8の高さ位置(背凭れ伏倒位置)に自動的に変移させる。
【符号の説明】
【0037】
1 基台
2 メインリンクブラケット
3 サブリンクブラケット
5 メインリンク
6 サブリンク
7 油圧シリンダ
8 座部
9 連結リンク
10 背凭れ
11 固定リンク
12 背凭れリンク
13 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台に立設されたメインリンクブラケットおよびサブリンクブラケットと、平行リンクを構成する前記メインリンクブラケットに軸支されたメインリンクおよび前記サブリンクブラケットに軸支されたサブリンクと、前記基台に一端が軸支され他端が前記メインリンクに軸支された油圧シリンダと、一端が前記メインリンクに軸支され他端が前記サブリンクに軸支された連結リンクと、前記サブリンクの変移により変移する背凭れリンクと、該背凭れリンクの上端が軸支された固定リンクが取付けられた背凭れと、前記メインおよびサブリンクの変移により上下動する座部と、該座部に一体的に取付けられ前記背凭れの下部を軸支する背凭れ基材と、該背凭れ基材と前記背凭れとの軸支点に一端が軸支され他端が背凭れに取付けられた回動板とより構成し、前記油圧シリンダの伸長により前記メインリンクが変移し、該メインリンクの変移により前記連結リンクが変移することで前記サブリンクが変移して座部を上昇させ、また、前記サブリンクの変移によって背凭れリンクが変移することで前記固定リンクを伏倒方向に変移させ、該固定リンクの変移により前記回動板が変移して前記背凭れを伏倒させるようにしたことを特徴とする理美容椅子の昇降装置。
【請求項2】
前記固定リンクには、折曲部を介して長孔が形成されたリンク受け部が形成され、前記背凭れリンクの上端に取付けられたガイド軸が案内され、かつ、該ガイド軸と前記背凭れ背面との間にスプリングが張設され、前記背凭れの伏倒動作において背凭れの上部と洗髪ボウルとの間に異物が挟まった場合には、前記ガイド軸が前記長孔内を前記スプリングのバネ力に抗して移動することで洗髪ボウルと背凭れとの間に挟まれた異物への負荷を軽減したことを特徴とする請求項1記載の理美容椅子の昇降装置。
【請求項3】
前記メインリンクブラケットおよびサブリンクブラケットの上下方向に前記メインリンクおよびサブリンクを軸支するための複数の取付孔を形成し、該取付孔を選択して前記メインリンクおよびサブリンクを軸支することで、座部の初高位置および背凭れが伏倒した際の背凭れ上端の到達位置および背凭れが伏倒した際の背凭れの上端位置を変更できるようにしたことを特徴とする請求項1記載の理美容椅子の昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−179003(P2010−179003A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26758(P2009−26758)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000108672)タカラベルモント株式会社 (113)
【Fターム(参考)】