説明

環境濃度予測装置、環境濃度予測方法、およびそのプログラム

【課題】様々な排出源の形態が複合した場合の環境濃度を予測する技術を提供する。
【解決手段】S102〜S104では、各排出源の形態(点源、面源、および線源)の濃度分布を算出し、S106では、算出した各濃度分布の座標に変換処理を施して、共通の座標において各濃度分布を合成した合成濃度分布を算出する。次に、S107では、算出した合成濃度分布および実測値に対して、移流・拡散計算手法を用いて、濃度分布が滑らかになるような処理を施し、総合平滑濃度分布を算出する。さらに、S108〜S109では、総合平滑濃度分布から各排出源の形態の平滑濃度分布を算出し、算出した各排出源の形態の平滑濃度分布と変換処理前の濃度分布との差分を補正値として算出する。そして、すべての補正値の絶対値が予め設定されている閾値より小さくなるまで繰返し演算を行い(S110)、環境濃度を予測する(S112)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気汚染物質の濃度分布を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染物質の濃度を予測するシミュレーション技術は、大気汚染物質の大気中への放出形態(排出源の形態)から、点源(煙突など1点から放出される場合)、面源(放出源が広がりを持っている場合)、線源(道路など線上から放出される場合)に分けられ、それぞれの排出源の形態ごとに適した予測手法が開示されている。例えば、非特許文献1(「4−6 拡散式と拡散パラメータ」参照)には、それぞれの排出源の形態における拡散後の濃度予測手法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】公害研究対策センター 窒素酸化物検討委員会 編纂,「窒素酸化物総量規制マニュアル[新版]」,公害研究対策センター,平成12年12月25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際の環境ではさまざまな排出源の形態が混在している。そのため、点源、面源、および線源が複合した状態における濃度(以降、環境濃度と称す。)を予測する必要がある。そこで、本発明では、様々な排出源の形態が複合した場合の環境濃度を予測する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明における環境濃度予測装置は、各排出源の形態(点源、面源、および線源)の濃度分布を算出し、算出した各濃度分布の座標に変換処理を施して、共通の座標において各濃度分布を合成した合成濃度分布を算出する。次に、算出した合成濃度分布および実測値に対して、移流・拡散計算手法を用いて、濃度分布が滑らかになるような処理を施し、総合平滑濃度分布を算出する。さらに、環境濃度予測装置は、総合平滑濃度分布を逆変換処理して、各排出源の形態の平滑濃度分布を算出し、算出した各排出源の形態の平滑濃度分布と変換処理前の濃度分布との差分を補正値として算出する。また、実測値については、実測値と総合平滑濃度分布の値との差分を補正値として算出する。そして、環境濃度予測装置は、すべての補正値の絶対値が予め設定されている閾値より小さいか否かを比較し、いずれかの補正値の絶対値が予め設定されている閾値より小さくない場合、変換処理前の濃度分布および実測値を補正値で補正し、その補正した値に対して再び移流・拡散計算手法を適用して総合平滑濃度分布を算出し、補正値を算出する、ことを繰り返すことによって、すべての補正値の絶対値が予め設定されている閾値より小さくなるようにする。最後に、環境濃度予測装置は、すべての補正値の絶対値が予め設定されている閾値より小さくなった場合、そのときの総合平滑濃度分布を、環境濃度を予測した環境濃度分布として設定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、様々な排出源の形態が複合した場合の環境濃度を予測する技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】環境濃度分布を算出する流れの概要を示す図である。
【図2】本実施形態における環境濃度予測システムの構成および機能を示す図である。
【図3】本実施形態における環境濃度予測装置の処理フローの一例を示す図である。
【図4】図3におけるステップS1000の詳細な処理の流れの一例を示す図である。
【図5】図3におけるステップS2000の詳細な処理の流れの一例を示す図である。
【図6】図3におけるステップS3000の詳細な処理の流れの一例を示す図である。
【図7】図3におけるステップS4000の詳細な処理の流れの一例を示す図である。
【図8】図7におけるステップS4002の詳細な処理の流れの一例を示す図である。
【図9】図7におけるステップS4003の詳細な処理の流れの一例を示す図である。
【図10】図7におけるステップS4004の詳細な処理の流れの一例を示す図である。
【図11】図3におけるステップS5000の詳細な処理の流れの一例を示す図である。
【図12】図3におけるステップS6000の詳細な処理の流れの一例を示す図である。
【図13】点源排出源データの一例を示す図である。
【図14】面源排出源データの一例を示す図である。
【図15】線源排出源データの一例を示す図である。
【図16】気象データの一例を示す図である。
【図17】予測条件データの一例を示す図である。
【図18】点源用座標と点源濃度予測位置の一例を示す平面図である。
【図19】面源用座標と面源濃度予測位置の一例を示す平面図である。
【図20】線源用座標と線源濃度予測位置の一例を示す平面図である。
【図21】環境濃度用座標と環境濃度予測位置の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以降、「実施形態」と称す。)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
(環境濃度分布算出の概要)
本実施形態における環境濃度分布を算出する流れの概要について図1を用いて説明する。なお、図1に示す環境濃度分布を算出する処理は、図2に示す環境濃度予測装置20において実行される。
【0010】
ステップS101では、排出源の形態(点源、面源、線源)ごとの濃度データおよびそれらの排出源の形態が複合したときの大気濃度(環境濃度)の実測データを読み込む。ステップS102では、ステップS101で読み込んだ点源データに対して、点源の拡散予測に適した公知の解析ソルバを用いて点源濃度分布を算出し、その算出結果を点源初期濃度分布とする。ステップS103では、ステップS101で読み込んだ面源データに対して、面源の拡散予測に適した公知の解析ソルバを用いて面源濃度分布を算出し、その算出結果を面源初期濃度分布とする。ステップS104では、ステップS101で読み込んだ線源データに対して、線源の拡散予測に適した公知の解析ソルバを用いて線源濃度分布を算出し、その算出結果を線源初期濃度分布とする。ステップS105では、ステップS101で読み込まれた大気濃度(環境濃度)の実測データを初期実測値として設定する。
【0011】
ステップS106では、各排出源の形態(点源、面源、線源)の各初期濃度分布の座標に変換処理を施して、共通の座標において各初期濃度分布を合成し、合成濃度分布を算出する。ここでいう座標とは、例えば、緯度/経度/高さによって表されるものである。なお、変換処理の詳細については後記する。ステップS107では、ステップS106で算出した合成濃度分布およびステップS105で設定した初期実測値に対して、移流・拡散計算手法を適用して、総合平滑濃度分布を算出する。
【0012】
ステップS108では、ステップS106の変換処理に対応する逆変換処理を総合平滑濃度分布の座標に施して、各排出源の形態の濃度分布の座標に戻し、総合平滑濃度分布から各排出源の形態(点源、面源、線源)の平滑濃度分布を算出する。なお、逆変換処理の詳細については後記する。ステップS109では、各排出源の形態の座標の中で、離散的に設定された予測位置ごとに、補正値を算出する。例えば、各排出源の形態の補正値は、各排出源の形態の平滑濃度分布の予測位置での値から各排出源の形態の初期濃度分布の予測位置での値を減算して算出される。また、実測値の補正値は、総合平滑濃度分布の実測位置での値から初期実測値を減算して算出される。
【0013】
ステップS110では、すべての補正値の絶対値が予め設定された閾値より小さいかそうでないかが比較される。いずれかの補正値の絶対値が閾値以上の場合(ステップS110でNo)、ステップS111では、補正処理が実行される。具体的には、各初期濃度分布の予測位置での値に、その予測位置での補正値を加算して算出した値を、各初期濃度分の予測位置での値とする。また、初期実測値にその実測値の実測位置での補正値を加算して算出した値を、初期実測値とする。そして、処理は、ステップS102、S103,S104,S105へ戻る。
【0014】
また、ステップS110で、すべての補正値の絶対値が予め設定された閾値より小さい場合(ステップS110でYes)、ステップS112では、ステップS107において算出された総合平滑濃度分布が環境濃度分布に設定される。そして、処理は終了する。なお、各予測位置での環境濃度は、設定された環境濃度分布を用いて、を算出(予測)することができる。
【0015】
(環境濃度予測システム)
次に、環境濃度を予測する環境濃度予測システムの構成および機能について、図2を用いて説明する。
【0016】
環境濃度予測システム1は、汎用の演算処理システム(コンピュータ)または専用の演算処理システムであって、入力装置10、環境濃度予測装置20、データ保存装置30および表示装置40によって構成される。入力装置10は、図示しないキーボードやマウス等である。環境濃度予測装置20は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメインメモリで構成され、所望の演算処理を実行するとともに、入力装置10、データ保存装置30、および表示装置40の制御を司る。データ保存装置30は、記憶装置であり、演算処理に用いるデータや演算処理結果を記憶する。表示装置40は、ディスプレイ等であり、入力指示メッセージや演算処理結果等を表示する。
【0017】
環境濃度予測装置20は、点源濃度予測部21、面源濃度予測部22、線源濃度予測部23、合成濃度分布演算部24、平滑濃度分布演算部25、補正値演算部26、濃度補正演算部27、および演算処理部28を機能として備える。各部21〜28の機能は、CPUがアプリケーションプログラムをメインメモリに展開して、それを実行することにより実現される。
【0018】
点源濃度予測部21は、データ保存装置30から読み出した点源データに対して点源濃度分布演算用の解析ソルバを用いて、点源濃度を予測(算出)する。
面源濃度予測部22は、データ保存装置30から読み出した面源データに対して面源濃度分布演算用の解析ソルバを用いて、面源濃度を予測(算出)する。
線源濃度予測部23は、データ保存装置30から読み出した線源データに対して線源濃度分布演算用の解析ソルバを用いて、線源濃度を予測(算出)する。
【0019】
合成濃度分布演算部24は、点源、面源、および線源の各濃度分布の座標に変換処理を施して、共通の座標において各濃度分布を合成し、合成濃度分布を算出する。
平滑濃度分布演算部25は、合成濃度分布および実測値に対して、移流・拡散計算手法を用いて算出した分布である、総合平滑濃度分布を算出する。また、平滑濃度分布演算部25は、合成濃度分布演算部24における変換処理に対応する逆変換処理を総合平滑濃度分布の座標に施して、各排出源の形態の濃度分布の座標に戻し、総合平滑濃度分布から各排出源の形態(点源、面源、線源)の平滑濃度分布を算出する。
【0020】
補正値演算部26は、点源、面源、および線源の各排出源の形態の濃度分布と平滑濃度分布との差分(補正値)を算出する。また、補正値演算部26は、実測値と総合平滑濃度分布との差分(補正値)を算出する。
濃度補正演算部27は、補正値の絶対値が予め設定しておいた閾値より小さいか否かを判定する。また、濃度補正演算部27は、点源、面源、および線源の各排出源の形態の濃度分布と実測値とを、補正値を用いて補正する。
演算処理部28は、各部21〜27の処理の流れを制御する。
【0021】
(環境濃度予測装置の処理の流れ)
次に、環境濃度予測装置20の処理の流れについて、図3を用いて説明する(適宜図2参照)。ステップS1000では、点源濃度予測部21は、データ保存装置30に記憶している点源データを入力装置10からの指示に基づいて読み込み、点源初期濃度分布を算出する。ステップS2000では、面源濃度予測部22は、データ保存装置30に記憶している面源データを入力装置10からの指示に基づいて読み込み、面源初期濃度分布を算出する。ステップS3000では、線源濃度予測部23は、データ保存装置30に記憶している線源データを入力装置10からの指示に基づいて読み込み、線源初期濃度分布を算出する。なお、各ステップS1000、S2000,S3000の詳細な手順については後記する。ステップS3500では、環境濃度予測装置20の演算処理部28が、データ保存装置30に記憶している各排出源の形態が複合したときの実測データを入力装置10からの指示に基づいて読み込み、初期実測値として設定する。
【0022】
ステップS4000では、合成濃度分布演算部24は、ステップS1000,S2000,S3000で算出した点源初期濃度分布、面源初期濃度分布、および線源初期濃度分布の座標に変換処理を施して、点源初期濃度分布、面源初期濃度分布、および線源初期濃度分布を共通の座標上で合成して、合成濃度分布を算出する。なお、ステップS4000の詳細な手順については後記する。
【0023】
ステップS5000では、平滑濃度分布演算部25は、合成濃度分布および初期実測値に対して、移流・拡散計算手法を適用して、総合平滑濃度分布を算出する。なお、ステップS5000の詳細な手順については後記する。また、ステップS5500では、平滑濃度分布演算部25は、総合平滑濃度分布に対して、合成濃度分布演算部24における変換処理に対応する逆変換処理を施して、総合平滑濃度分布から、各排出源の形態(点源、面源、線源)の平滑濃度分布を算出する。
【0024】
ステップS6000では、補正値演算部26は、点源、面源、および線源の各排出源の形態の初期濃度分布と平滑濃度分布とを用いて、予測位置での各排出源の形態の初期濃度分布の値から平滑濃度分布の値を減算して、補正値を算出する。また、補正値演算部26は、初期実測値と総合平滑濃度分布とを用いて、実測位置での初期実測値から総合平滑濃度分布の値を減算して、補正値を算出する。なお、ステップS6000の詳細な手順については後記する。
【0025】
ステップS7000では、濃度補正演算部27は、すべての補正値の絶対値が予め設定しておいた閾値より小さいかそうでないかを判定する。そして、いずれかの補正値の絶対値が予め設定しておいた閾値以上の場合(ステップS7000でNo)、ステップS8000では、濃度補正演算部27は、点源、面源、および線源の各排出源の形態の初期濃度分布および初期実測値を、それぞれの補正値によって補正し、それぞれ新たな点源初期濃度分布、面源初期濃度分布、線源初期濃度分布、および初期実測値に設定する。ただし、本実施形態では、この補正値を用いた補正は、その補正値が閾値より大きいもののみに対して行うものとする。そして、ステップS8000の処理の後、ステップS4000に戻る。また、すべての補正値の絶対値が予め設定しておいた閾値より小さい場合(ステップS7000でYes)、処理は、ステップS9000へ進む。ステップS9000では、濃度補正演算部27は、ステップS5000において算出した総合平滑濃度分布を環境濃度分布に設定し、データ保存装置30に保存する。また、濃度補正演算部27は、環境濃度分布を表示装置40に出力してもよい。なお、演算処理部28は、各部21〜27が実行するステップS1000〜S9000の処理の流れを制御している。
【0026】
ここで、図1に示した各ステップと、図3に示した各ステップとの対応関係について説明する。ステップS101およびS102が、ステップS1000に対応する。ステップS101およびS103が、ステップS2000に対応する。ステップS101およびS104が、ステップS3000に対応する。ステップS101およびS105が、ステップS3500に対応する。ステップS106が、ステップS4000に対応する。ステップS107が、ステップS5000に対応する。ステップS108が、ステップS5500に対応する。S109が、ステップS6000に対応する。ステップS110が、ステップS7000に対応する。ステップS111が、ステップS8000に対応する。ステップS112が、ステップS9000に対応する。
【0027】
次に、ステップS1000、S2000,S3000,S4000,S5000,S6000の詳細な処理の流れについて説明する。まず、ステップS1000の詳細な処理の流れについては、図4を用いて説明するが、前もってステップS1001〜S1003において読み込まれる、図13に示す点源排出源データの一例、図16に示す気象データの一例、および図17に示す予測条件データの一例について、説明しておく。
【0028】
図13に示す点源排出源データは、点源番号ごとに、点源位置の座標(X,Y,Z)、排出量、温度、および排出速度が関連付けられている。また、図16に示す気象データは、気象番号ごとに、気象観測位置の座標(X,Y,Z)、風向、風速、大気安定度、および気温が関連付けられている。また、図17に示す予測条件データには、拡散予測手法において用いられる条件の項目として、拡散計算の方法、排ガス上昇高さ、風速の高さ補正等が格納されている。
【0029】
まず、図4に示すように、ステップS1001では、点源濃度予測部21が、データ保存装置30に記憶している点源排出源データ(図13参照)として、点源位置、排出量、温度、排出速度を読み込む。ステップS1002では、点源濃度予測部21が、データ保存装置30に記憶している気象データ(図16参照)として、風向、風速、大気安定度を読み込む。また、ステップS1003では、点源濃度予測部21が、データ保存装置30に記憶している予測条件データ(図17参照)を読み込む。
【0030】
ステップS1004では、ステップS1001で読込んだ1番目の点源位置を中心として点源用の等間隔格子(座標)を作成し、点源濃度予測位置を設定する。具体的には、図18に示すように、点源用座標に等間隔格子を生成し、その格子の長さを所定の値にとって、その格子の中心を点源濃度予測位置(図18中の×印)とする。ただし、図18は、座標の平面図のみを示している。ステップS1005では、点源濃度予測部21が、ステップS1001〜S1003で読み込んだデータに対して、点源における予測手法として用いられている拡散予測手法の解析ソルバを適用して、ステップS1004で設定した点濃度予測位置での濃度を予測し、点源濃度分布を算出する。ただし、風速は一定とする。そして、点源濃度予測部21が、算出した点源濃度分布をデータ保存装置30へ保存する。
【0031】
次にステップS2000の詳細な処理の流れについて、図5を用いて説明する。ステップS2001では、図14に示す面源排出源データの面源位置、面煙源の長さ、排出量、温度、排出速度を読み込む。ステップS2002では、図16に示す気象データの風向、風速、大気安定度を読み込む。ステップS2003では、図17に示す予測条件データを読み込む。
【0032】
ステップS2004では、ステップS2001で読み込んだ1番目の面源位置を中心として面源用の等間隔格子(座標)を作成し、面源濃度予測位置を設定する。具体的には、図19に示すように、面源用座標に等間隔格子を生成し、その格子の長さを所定の値にとって、その格子の中心を面源濃度予測位置(図19中の×印)とする。ただし、図19は、座標の平面図のみを示している。ステップS2005では、面源濃度予測部22が、ステップS2001〜S2003で読込んだデータに対して、面源における予測手法として用いられている拡散予測手法の解析ソルバを適用して、ステップS2004で設定した面濃度予測位置での濃度を予測し、面源濃度分布を算出する。ただし、風速は一定とする。そして、面源濃度予測部22が、算出した面源濃度分布をデータ保存装置30へ保存する。
【0033】
次にステップS3000の詳細な処理の流れについて、図6を用いて説明する。ステップS3001では、図15に示す線源排出源データの線源位置、排出量を読み込む。ステップS3002では、図16に示す気象データの風向、風速、大気安定度を読み込む。ステップS3003では、図17に示す予測条件データを読み込む。
【0034】
ステップS3004では、ステップS3001で読み込んだ線源ごとに線源中央位置から線源と直交する方向に等間隔に予測点を作成し、線源濃度予測位置を設定する(図20参照。ただし、図20は、座標の平面図のみを示している。)ステップS3005では、線源濃度予測部23が、ステップS3001〜S3003で読込んだデータに対して、線源における予測手法として用いられている拡散予測手法の解析ソルバを適用して、ステップS3004で設定した線濃度予測位置での濃度を予測し、線源濃度分布を算出する。ただし、風速は一定とする。そして、線源濃度予測部23が、算出した線源濃度分布をデータ保存装置30へ保存する。
【0035】
次に、ステップS4000の詳細な処理の流れについて、図7を用いて説明する。ステップS4001では、各排出源の形態の濃度分布を合成するために、各排出源の形態の座標を変換して、合成濃度分布を表現する共通の座標(環境濃度用座標)を生成し、その共通の座標の予測位置(環境濃度予測位置)を読み込む。例えば、環境濃度用座標は、図21に示すように、点源、面源、線源の座標を変換して、点源濃度分布、面源濃度分布、線源濃度分布をそれぞれ共通の座標上にプロット可能にしたものである。ただし、図21は、座標の平面図のみを示している。
【0036】
ステップS4002では、環境濃度予測位置の点源初期濃度を算出する。ステップS4003では、環境濃度予測位置の面源初期濃度を算出する。ステップS4004では、環境濃度予測位置の線源初期濃度を算出する。ステップS4005では、環境濃度予測位置の点源初期濃度、面源初期濃度、線源初期濃度を加算し、合成濃度分布を算出する。そして、算出した合成濃度分布をデータ保存装置30へ保存する。前記した変換処理は、ステップS4001〜S4005の処理のことである。なお、ステップS4002、S4003,S4004のさらに詳細な処理の流れについては後記する。
【0037】
ステップS4002の詳細な処理の流れについて、図8を用いて説明する。ステップS4021では、データ保存装置30から点源初期濃度および点源濃度予測位置を読込む。ステップS4022では、環境濃度予測位置の−X方向(環境濃度予測位置の左側)にある点源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。ステップS4023では、環境濃度予測位置の+X方向(環境濃度予測位置の右側)にある点源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。ステップS4024では、環境濃度予測位置の−Y方向(環境濃度予測位置の下側)にある点源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。ステップS4025では、環境濃度予測位置の+Y方向(環境濃度予測位置の上側)にある点源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。
【0038】
ステップS4026で±X方向±Y方向で最も近い4点の点源濃度をそれぞれの距離の長さで反比例するように重み付けをつけて平均化し、環境濃度予測位置の点源濃度を算出する。ステップS4027では、点源濃度が未算出の環境濃度予測位置があるか否かを判定し、未算出の環境濃度予測位置がある場合(ステップS4027でYes)、ステップS4022〜S4026を繰り返す。また、未算出の環境濃度予測位置が無い場合(ステップS4027でNo)、処理は終了する。
【0039】
ステップS4003の詳細な処理の流れについて、図9を用いて説明する。ステップS4031では、データ保存装置30から面源初期濃度および面源濃度予測位置を読込む。ステップS4032では、環境濃度予測位置の−X方向(環境濃度予測位置の左側)にある面源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。ステップS4033では、環境濃度予測位置の+X方向(環境濃度予測位置の右側)にある面源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。ステップS4034では、環境濃度予測位置の−Y方向(環境濃度予測位置の下側)にある面源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。ステップS4035では、環境濃度予測位置の+Y方向(環境濃度予測位置の上側)にある面源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。
【0040】
ステップS4036で±X方向±Y方向で最も近い4点の面源濃度をそれぞれの距離の長さで反比例するように重み付けをつけて平均化し、環境濃度予測位置の面源濃度を算出する。ステップS4037では、面源濃度が未算出の環境濃度予測位置があるか否かを判定し、未算出の環境濃度予測位置がある場合(ステップS4037でYes)、ステップS4032〜S4036を繰り返す。また、未算出の環境濃度予測位置が無い場合(ステップS4037でNo)、処理は終了する。
【0041】
ステップS4004の詳細な処理の流れについて、図10を用いて説明する。ステップS4041では、データ保存装置30から線源初期濃度および線源濃度予測位置を読込む。ステップS4042では、環境濃度予測位置の−X方向(環境濃度予測位置の左側)にある線源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。ステップS4043では、環境濃度予測位置の+X方向(環境濃度予測位置の右側)にある線源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。ステップS4044では、環境濃度予測位置の−Y方向(環境濃度予測位置の下側)にある線源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。ステップS4045では、環境濃度予測位置の+Y方向(環境濃度予測位置の上側)にある線源濃度予測位置のうち最も環境濃度予測位置に近い位置を検索し、環境濃度予測位置との距離を算出する。
【0042】
ステップS4046で±X方向±Y方向で最も近い4点の線源濃度をそれぞれの距離の長さで反比例するように重み付けをつけて平均化し、環境濃度予測位置の線源濃度を算出する。ステップS4047では、線源濃度が未算出の環境濃度予測位置があるか否かを判定し、未算出の環境濃度予測位置がある場合(ステップS4047でYes)、ステップS4042〜S4046を繰り返す。未算出の環境濃度予測位置が無い場合(ステップS4047でNo)、処理は終了する。
【0043】
次にステップS5000の詳細な処理の流れについて、図11を用いて説明する。ステップS5001では、データ保存装置30から合成濃度分布を読み込み、初期状態の濃度分布に設定する。ステップS5002では、データ保存装置30から気象データを読み込み、その読み込んだ気象データに対して、一般に流体における予測手法として知られている移流計算手法を用いる解析ソルバを適用して、環境濃度用座標上の風速分布を算出する。なお、このステップS5002において算出される風速分布では、ステップS2002,S3002,S4002において用いられた風速一定の場合とは異なり、風速が変化する条件が考慮されている。
【0044】
ステップS5003では、ステップS5002で算出した風速分布と初期状態の濃度分布および初期実測値に対して、一般に流体における予測手法として知られている移流・拡散計算手法を用いた解析ソルバを用いて、仮の総合平滑濃度分布を算出する。ステップS5004では、仮の総合平滑濃度分布と初期状態の濃度分布との差を算出する。ステップS5005では、ステップS5004で算出した差が小さくなり、定常状態に達したか(差が予め設定しておいた閾値より小さくなったか)否かを判定する。定常状態に達していない場合(ステップS5005でNo)、ステップS5006では、仮の総合平滑濃度分布を初期状態の濃度分布に設定する。そして、処理は、ステップS5003へ戻る。また、定常状態に達した場合(ステップS5005でYes)、ステップS5007では、仮の総合平滑濃度分布を総合平滑濃度分布に設定する。そして、その総合平滑濃度分布をデータ保存装置30へ保存する。
【0045】
次にステップS6000の詳細な処理の流れについて、図12を用いて説明する。ステップS6001では、ステップS4005で算出した、環境濃度予測位置での合成濃度分布の、各排出源の形態の濃度分布の値の比率に基づいて、総合平滑濃度分布から各排出源の形態の平滑濃度分布を算出する。
【0046】
ステップS6002では、点源平滑濃度分布から点源濃度予測位置の点源平滑濃度(点源平滑濃度分布)を算出する。具体的には、±X方向±Y方向でそれぞれ最も近い4つの環境濃度予測位置の点源平滑濃度をそれぞれの距離の長さで反比例するように重み付けをつけて平均化し、点源濃度予測位置の点源平滑濃度(点源平滑濃度分布)を算出する。ステップS6003では、面源平滑濃度分布から面源濃度予測位置の面源平滑濃度(面源平滑濃度分布)を算出する。具体的には、±X方向±Y方向でそれぞれ最も近い4つの環境濃度予測位置の面源平滑濃度をそれぞれの距離の長さで反比例するように重み付けをつけて平均化し、面源濃度予測位置の面源平滑濃度(線源平滑濃度分布)を算出する。ステップS6004では、線源平滑濃度分布から線源濃度予測位置の線源平滑濃度(線源平滑濃度分布)を算出する。具体的には、±X方向±Y方向でそれぞれ最も近い4つの環境濃度予測位置の線源平滑濃度をそれぞれの距離の長さで反比例するように重み付けをつけて平均化し、線源濃度予測位置の線源平滑濃度(線源平滑濃度分布)を算出する。なお、前記した逆変換処理は、ステップS6001〜S6004の処理のことである。
【0047】
ステップS6005では、点源濃度予測位置において、点源平滑濃度から点源初期濃度を減算し、点源濃度の補正値を算出する。ステップS6006では、面源濃度予測位置において、面源平滑濃度から面源初期濃度を減算し、面源濃度の補正値を算出する。ステップS6007では、線源濃度予測位置において、線源平滑濃度から線源初期濃度を減算し、線源濃度の補正値を算出する。また、実測値については、ステップS6008では、実測値測定位置において、総合平滑濃度から初期実測値を減算し、実測値の補正値を算出する。そして、算出した補正値はデータ保存装置30へ保存される。
【0048】
以上、本実施形態における環境濃度予測装置20は、各排出源の形態(点源、面源、および線源)の濃度分布を算出し、算出した各濃度分布の座標に変換処理を施して、共通の座標において各濃度分布を合成した合成濃度分布を算出する。次に、算出した合成濃度分布および実測値に対して、移流・拡散計算手法を用いて、濃度分布が滑らかになるような処理を施し、総合平滑濃度分布を算出する。さらに、環境濃度予測装置20は、総合平滑濃度分布を逆変換処理して、各排出源の形態の平滑濃度分布を算出し、算出した各排出源の形態の平滑濃度分布と変換処理前の濃度分布との差分を補正値として算出する。また、実測値については、実測値と総合平滑濃度分布の値との差分を補正値として算出する。そして、環境濃度予測装置20は、すべての補正値の絶対値が予め設定されている閾値より小さいか否かを比較し、いずれかの補正値の絶対値が予め設定されている閾値より小さくない場合、変換処理前の濃度分布および実測値を補正値で補正し、その補正した値に対して再び移流・拡散計算手法を適用して総合平滑濃度分布を算出し、補正値を算出する、ことを繰り返すことによって、すべての補正値の絶対値が予め設定されている閾値より小さくなるようにする。最後に、環境濃度予測装置20は、すべての補正値の絶対値が予め設定されている閾値より小さくなった場合、そのときの総合平滑濃度分布を、環境濃度を予測した環境濃度分布として設定することによって、環境濃度を予測する。
【0049】
このような構成によれば、各排出源の形態の濃度分布の座標に変換処理を施して、共通の座標上で合成濃度分布を算出するので、様々な排出源の形態が複合しても、柔軟に対応することができる。また、各排出源の形態の濃度分布を合成した合成濃度分布と実測値とに対して、移流・拡散計算手法を適用して総合平滑濃度分布を算出するので、合成濃度分布だけを用いた場合に比べて、総合平滑濃度分布に実測結果を反映することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 環境濃度予測システム
10 入力装置
20 環境濃度予測装置
21 点源濃度予測部(予測部)
22 面源濃度予測部(予測部)
23 線源濃度予測部(予測部)
24 合成濃度分布演算部
25 平滑濃度分布演算部
26 補正値演算部
27 濃度補正演算部
30 データ保存装置(記憶部)
40 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気汚染物質の排出源の異なる形態が複合した場合の環境濃度を算出する環境濃度予測装置であって、
各排出源のデータ、該排出源が複合したときの環境濃度の実測データ、および予め設定される閾値を記憶している記憶部と、
前記記憶部から各排出源のデータを読み出して、前記排出源の形態ごとの濃度分布を予測する解析ソルバを用いて前記排出源の形態ごとの濃度分布を算出する予測部と、
算出した前記排出源の形態ごとの濃度分布の座標に変換処理を施して、共通の座標において各濃度分布を合成した合成濃度分布を算出する合成濃度分布演算部と、
算出した前記合成濃度分布および前記記憶部から読み出した前記実測データに対して、移流・拡散計算手法を用いて、前記合成濃度分布が滑らかになるような処理を施し、総合平滑濃度分布を算出するとともに、算出した前記総合平滑濃度分布の座標に逆変換処理を施して、各排出源の形態の座標上の当該排出源の形態ごとの平滑濃度分布を算出する平滑濃度分布演算部と、
前記変換処理前の各排出源の形態の濃度分布から前記各排出源の形態の平滑濃度分布を減算した差分a、および前記実測データの値から前記総合平滑濃度分布の値を減算した差分bを、算出する補正値演算部と、
前記差分aおよび前記差分bと前記閾値とを比較するとともに、その比較結果に基づいて前記差分aおよび前記差分bを用いて前記変換処理前の各排出源の形態の濃度分布の値および前記実測データの値を補正する濃度補正演算部と、
すべての前記差分の絶対値が前記閾値より小さくなるまで、補正した各排出源の形態の濃度分布および補正した実測データの値に対して、前記予測部、前記合成濃度分布演算部、前記平滑濃度分布演算部、前記補正値演算部、および前記濃度補正演算部における処理を繰返して、環境濃度を算出する演算処理部と
を備えることを特徴とする環境濃度予測装置。
【請求項2】
大気汚染物質の排出源の異なる形態が複合した場合の環境濃度を算出する環境濃度予測装置において用いられる環境濃度予測方法であって、
前記環境濃度予測装置は、
各排出源のデータ、該排出源が複合したときの環境濃度の実測データ、および予め設定される閾値を記憶している記憶部と、
前記記憶部から各排出源のデータを読み出して、前記排出源の形態ごとの濃度分布を予測する解析ソルバを用いて前記排出源の形態ごとの濃度分布を算出する予測部と、
算出した前記排出源の形態ごとの濃度分布の座標に変換処理を施して、共通の座標において各濃度分布を合成した合成濃度分布を算出する合成濃度分布演算部と、
算出した前記合成濃度分布および前記記憶部から読み出した前記実測データに対して、移流・拡散計算手法を用いて、前記合成濃度分布が滑らかになるような処理を施し、総合平滑濃度分布を算出するとともに、算出した前記総合平滑濃度分布の座標に逆変換処理を施して、各排出源の形態の座標上の当該排出源の形態ごとの平滑濃度分布を算出する平滑濃度分布演算部と、
前記変換処理前の各排出源の形態の濃度分布から前記各排出源の形態の平滑濃度分布を減算した差分a、および前記実測データの値から前記総合平滑濃度分布の値を減算した差分bを、算出する補正値演算部と、
前記差分aおよび前記差分bと前記閾値とを比較するとともに、その比較結果に基づいて前記差分aおよび前記差分bを用いて前記変換処理前の各排出源の形態の濃度分布の値および前記実測データの値を補正する濃度補正演算部と、
を備え、
すべての前記差分の絶対値が前記閾値より小さくなるまで、補正した各排出源の形態の濃度分布および補正した実測データの値に対して、前記予測部、前記合成濃度分布演算部、前記平滑濃度分布演算部、前記補正値演算部、および前記濃度補正演算部における処理を繰返して、環境濃度を算出する
ことを特徴とする環境濃度予測方法。
【請求項3】
請求項2に記載の環境濃度予測方法を、コンピュータとしての環境濃度予測装置に実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−137674(P2011−137674A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296613(P2009−296613)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)