説明

環境認識装置および環境認識方法

【課題】画像が環境光の影響を受ける場合であっても、対象物の特定精度を維持する。
【解決手段】環境認識装置130は、検出領域内に存在する対象部位の輝度を取得し、対象部位の高さを取得し、取得された輝度にホワイトバランスを施す場合のホワイトバランス補正値を導出し、ホワイトバランス補正値と、環境光の影響度合いを示す色補正強度とに基づく色補正値を、取得された輝度から減算して補正輝度を導出し、データ保持部154に保持された、輝度の範囲と特定物との対応付けに基づいて、対象部位の補正輝度とから、対象部位に対応する特定物を仮決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出領域における対象物の輝度に基づいて、その対象物を認識する環境認識装置および環境認識方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車両の前方に位置する車両や信号機等の障害物といった対象物を検出し、検出した対象物との衝突を回避したり、先行車両との車間距離を安全な距離に保つように制御する技術が知られている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
また、このような技術では、対象物を一律に物として特定するのみならず、さらに高精度な制御を行うため、対象物が自車両と同速度で走行している先行車両であるのか、移動を伴わない固定された物であるのか等を判定する技術も存在する。ここで、対象物を、検出領域の撮像を通じて検出する場合、対象物が何であるかを特定する前に、撮像された画像から対象物自体を抽出(切り出し)しなければならない。
【0004】
例えば、撮像された画像がカラー画像の場合、同一の輝度(色)を有する画素をグループ化し、信号機等の光源を対象物として認識する技術が知られている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3349060号
【特許文献2】特開平10−283461号公報
【特許文献3】特開2010−224925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、対象物を撮像する撮像装置がフロントガラス等を通じて対象物を認識する場合、フロントガラスが曇った状態で太陽光(逆光)等の強い環境光が撮像方向から照射されると、撮像された画像全体に環境光が影響して全体的に白っぽい画像となる。したがって、信号機等の光源の色相が変化する場合も生じ、対象物の特定精度が低下するといった問題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、画像が環境光の影響を受ける場合であっても、対象物の特定精度を維持することが可能な、環境認識装置および環境認識方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の環境認識装置は、輝度の範囲と特定物とを対応付けて保持するデータ保持部と、検出領域内に存在する対象部位の輝度を取得する輝度取得部と、取得された輝度にホワイトバランスを施す場合のホワイトバランス補正値を導出するホワイトバランス導出部と、ホワイトバランス補正値と、環境光の影響度合いを示す色補正強度とに基づく色補正値を、取得された輝度から減算して補正輝度を導出する補正輝度導出部と、データ保持部に保持された対応付けに基づいて、対象部位の補正輝度から、対象部位に対応する特定物を仮決定する特定物仮決定部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
補正輝度導出部は、色補正強度が所定閾値以上であれば、取得された輝度から色補正値を減算してもよい。
【0010】
色補正値は、色補正強度をホワイトバランス補正値で除算した値であってもよい。
【0011】
色補正強度は、環境光の強度と撮像軸の透過度に基づいて算出されてもよい。
【0012】
水平距離の差分および高さの差分が所定範囲内にある、同一の特定物に対応すると仮決定された対象部位をグループ化して対象物とするグループ化部と、対象物を特定物として決定する特定物決定部と、をさらに備えてもよい。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の環境認識方法は、検出領域内に存在する対象部位の輝度を取得し、取得した輝度にホワイトバランスを施す場合のホワイトバランス補正値を導出し、ホワイトバランス補正値と、環境光の影響度合いを示す色補正強度とに基づく色補正値を、取得した輝度から減算して補正輝度を導出し、データ保持部に保持された、輝度の範囲と特定物との対応付けに基づいて、対象部位の補正輝度とから、対象部位に対応する特定物を仮決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、画像が環境光の影響を受ける場合であっても、対象物の輝度を適切に抽出することで、対象物の特定精度を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】環境認識システムの接続関係を示したブロック図である。
【図2】輝度画像と距離画像を説明するための説明図である。
【図3】環境認識装置の概略的な機能を示した機能ブロック図である。
【図4】特定物テーブルを説明するための説明図である。
【図5】補正輝度導出部の処理を説明するための説明図である。
【図6】補正輝度導出部の処理を説明するための説明図である。
【図7】位置情報取得部による三次元の位置情報への変換を説明するための説明図である。
【図8】特定物マップを説明するための説明図である。
【図9】環境認識方法の全体的な流れを示したフローチャートである。
【図10】輝度加工、特定物マップ生成処理の流れを示したフローチャートである。
【図11】グループ化処理の流れを示したフローチャートである。
【図12】特定物決定処理の流れを示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(環境認識システム100)
図1は、環境認識システム100の接続関係を示したブロック図である。環境認識システム100は、車両1内に設けられた、複数(本実施形態では2つ)の撮像装置110と、画像処理装置120と、環境認識装置130と、車両制御装置140とを含んで構成される。
【0018】
撮像装置110は、CCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の撮像素子を含んで構成され、カラー画像、即ち、画素単位で3つの色相(赤、緑、青)の輝度を取得することができる。本実施形態においては、色と輝度とを同等に扱い、同一の文章に両文言が含まれる場合、互いを、色を構成する輝度、または、輝度を有する色と読み替えることができる。ここでは、撮像装置110で撮像されたカラーの画像を輝度画像と呼び、後述する距離画像と区別する。また、撮像装置110は、車両1の進行方向側において2つの撮像装置110それぞれの光軸が略平行になるように、略水平方向に離隔して配置される。撮像装置110は、車両1の前方の検出領域に存在する対象物を撮像した画像データを、例えば1/60秒毎(60fps)に連続して生成する。ここで、対象物は、車両、信号機、道路、ガードレールといった独立して存在する立体物のみならず、テールランプやウィンカー、信号機の各点灯部分等、立体物の部分として特定できる物も含む。以下の実施形態における各機能部は、このような画像データの更新を契機として各処理を遂行する。
【0019】
画像処理装置120は、2つの撮像装置110それぞれから画像データを取得し、2つの画像データに基づいて、画像中の任意のブロック(所定数の画素を集めたもの)の視差、および、任意のブロックの画面中の位置を示す画面位置を含む視差情報を導出する。画像処理装置120は、一方の画像データから任意に抽出したブロック(例えば水平4画素×垂直4画素の配列)に対応するブロックを他方の画像データから検索する、所謂パターンマッチングを用いて視差を導き出す。ここで、水平は、撮像した画像の画面横方向を示し、実空間上の水平に相当する。また、垂直は、撮像した画像の画面縦方向を示し、実空間上の鉛直方向に相当する。
【0020】
このパターンマッチングとしては、2つの画像データ間において、任意の画像位置を示すブロック単位で輝度値(Y色差信号)を比較することが考えられる。例えば、輝度値の差分をとるSAD(Sum of Absolute Difference)、差分を2乗して用いるSSD(Sum of Squared intensity Difference)や、各画素の輝度値から平均値を引いた分散値の類似度をとるNCC(Normalized Cross Correlation)等の手法がある。画像処理装置120は、このようなブロック単位の視差導出処理を検出領域(例えば600画素×200画素)に映し出されている全てのブロックについて行う。ここでは、ブロックを4画素×4画素としているが、ブロック内の画素数は任意に設定することができる。
【0021】
ただし、画像処理装置120では、検出分解能単位であるブロック毎に視差を導出することはできるが、そのブロックがどのような対象物の一部であるかを認識できない。したがって、視差情報は、対象物単位ではなく、検出領域における検出分解能単位(例えばブロック単位)で独立して導出されることとなる。ここでは、このようにして導出された視差情報(後述する相対距離に相当)を画像データに対応付けた画像を距離画像という。
【0022】
図2は、輝度画像124と距離画像126を説明するための説明図である。例えば、2つの撮像装置110を通じ、検出領域122について図2(a)のような輝度画像(画像データ)124が生成されたとする。ただし、ここでは、理解を容易にするため、2つの輝度画像124の一方のみを模式的に示している。本実施形態において、画像処理装置120は、このような輝度画像124からブロック毎の視差を求め、図2(b)のような距離画像126を形成する。距離画像126における各ブロックには、そのブロックの視差が関連付けられている。ここでは、説明の便宜上、視差が導出されたブロックを黒のドットで表している。
【0023】
視差は、画像のエッジ部分(隣り合う画素間で明暗の差分が大きい部分)で特定され易いので、距離画像126において黒のドットが付されている、視差が導出されたブロックは、輝度画像124においてもエッジとなっていることが多い。したがって、図2(a)に示す輝度画像124と図2(b)に示す距離画像126とは各対象物の輪郭について似たものとなる。
【0024】
環境認識装置130は、画像処理装置120から輝度画像124と距離画像126とを取得し、輝度画像124に基づく輝度を用いて検出領域122における対象物がいずれの特定物に対応するかを特定する。本実施形態においては、輝度画像124における輝度を加工することで、対象物の特定精度の向上を図る。また、対象物を特定するために距離画像126に基づく車両1との相対距離も用いている。このとき、環境認識装置130は、距離画像126における、検出領域122内のブロック毎の視差情報を、所謂ステレオ法を用いて、相対距離を含む三次元の位置情報に変換している。ここで、ステレオ法は、三角測量法を用いることで、対象物の視差からその対象物の撮像装置110に対する相対距離を導出する方法である。かかる環境認識装置130に関しては、後ほど詳述する。
【0025】
車両制御装置140は、環境認識装置130で特定された対象物との衝突を回避したり、先行車両との車間距離を安全な距離に保つ制御を実行する。具体的に、車両制御装置140は、操舵の角度を検出する舵角センサ142や車両1の速度を検出する車速センサ144等を通じて現在の車両1の走行状態を取得し、アクチュエータ146を制御して先行車両との車間距離を安全な距離に保つ。ここで、アクチュエータ146は、ブレーキ、スロットルバルブ、舵角等を制御するために用いられる車両制御用のアクチュエータである。また、車両制御装置140は、対象物との衝突が想定される場合、運転者の前方に設置されたディスプレイ148にその旨警告表示(報知)を行うと共に、アクチュエータ146を制御して車両1を自動的に制動する。かかる車両制御装置140は、環境認識装置130と一体的に形成することもできる。
【0026】
(環境認識装置130)
図3は、環境認識装置130の概略的な機能を示した機能ブロック図である。図3に示すように、環境認識装置130は、I/F部150と、照射検出部152と、データ保持部154と、中央制御部156とを含んで構成される。
【0027】
I/F部150は、画像処理装置120や車両制御装置140との双方向の情報交換を行うためのインターフェースである。照射検出部152は、車両1外における太陽光や照明光といった環境光の強度を検出する。データ保持部154は、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、特定物テーブル(対応付け)や、以下に示す各機能部の処理に必要な様々な情報を保持し、また、画像処理装置120から受信した輝度画像124、距離画像126を一時的に保持する。ここで、特定物テーブルは、以下のように利用される。
【0028】
図4は、特定物テーブル200を説明するための説明図である。特定物テーブル200では、複数の特定物に対して、輝度の範囲を示す輝度範囲202と、特定物の大きさの範囲を示す幅範囲204とが対応付けられている。ここで、特定物としては、「信号機(赤)」、「信号機(黄)」、「信号機(青)」、「テールランプ(赤)」、「ウィンカー(橙)」、「道路標識(赤)」、「道路標識(青)」、「道路標識(緑)」等、道路を走行する上で視認を要する様々な物が想定されている。特定物は図4に記載された物に限定されないのは言うまでもない。また、特定物テーブル200では、特定物の特定に優先順位が定められており、当該環境認識処理はその優先順に従って、特定物テーブル200における複数の特定物から順次選択された1の特定物毎に行われる。特定物のうち、例えば、特定物「信号機(赤)」には、輝度(赤)「200以上」、輝度(緑)「50以下」、輝度(青)「50以下」、幅範囲「0.1〜0.3m」が対応付けられている。
【0029】
本実施形態では、特定物テーブル200に基づいて、輝度画像124内の任意の対象部位のうち、任意の特定物に関する輝度範囲202の条件を満たした対象部位が特定物の候補となる。例えば、対象部位の輝度が特定物「信号機(赤)」の輝度範囲202に含まれていれば、その対象部位を特定物「信号機(赤)」の候補とする。そして、対象部位をグループ化した対象物が、特定物らしい態様で抽出されれば、例えば、グループ化した対象物の大きさが「信号機(赤)」の幅範囲「0.1〜0.3m」に含まれれば特定物と判定される。特定物と判定された対象部位は、特定物固有の識別番号によってラベリングされている。ここで、対象部位は、画素や画素を集めたブロックを想定しているが、本実施形態では、説明の便宜上、画素を用いることとする。
【0030】
中央制御部156は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成され、システムバス158を通じて、I/F部150、照射検出部152、データ保持部154等を制御する。また、本実施形態において、中央制御部156は、輝度取得部160、透過度導出部162、ホワイトバランス導出部164、補正輝度導出部166、位置情報取得部168、特定物仮決定部170、グループ化部172、特定物決定部174、パターンマッチング部176としても機能する。
【0031】
輝度取得部160は、後述する補正輝度導出部166や特定物仮決定部170の制御指令に従って、受信した輝度画像124から、対象部位(画素)単位で輝度(画素単位で3つの色相(赤(R)、緑(G)、青(B))の輝度)を取得する。また、後述する補正輝度導出部166が補正輝度を導出した後は、その導出された補正輝度を取得する。
【0032】
透過度導出部162は、撮像装置110の撮像軸を横切る、例えば車両1のフロントガラスの透過度を導出する。具体的に、透過度導出部162は、例えば、輝度画像124のエッジ強度が所定の範囲内に収まっていれば透過度が低く、エッジ強度が所定の範囲より低いと透過度が高いといった具合に、エッジ強度に基づいて導出することができる。ここで、透過度は、フロントガラスの温度と車両1内の湿度の関係によるフロントガラス内面の曇りのみならず、フロントガラス内外面の汚れ等が原因となり変化する。
【0033】
ホワイトバランス導出部164は、輝度取得部160が取得した輝度に仮にホワイトバランスを施した場合のホワイトバランス補正値を導出する。例えば、撮像装置110で撮像された輝度画像124中の物体は環境光に応じて不自然な色(輝度)となることがある。このとき、輝度画像124内の白色の物体を正確に白く映し出すように補正する、所謂ホワイトバランス補正が行われる。本実施形態では、実際にホワイトバランス補正を行うか否かに拘わらず、後述する補正輝度導出部166のために、少なくとも、ホワイトバランス補正を施した場合のホワイトバランス補正値を導出している。
【0034】
このようなホワイトバランス補正は、特定の対象物が本来あるべき輝度になっていない場合に、本来あるべき輝度となるように、例えば、色相単位で輝度(R、G、B)にホワイトバランス補正値(r、g、b)を乗じることで(r×R、g×G、b×B)実行される。したがって、ホワイトバランス補正のために参照される対象物は、画像上において比較的占有面積が大きく、その輝度値をある程度推定できるものであるのが望ましい。
【0035】
例えば、ホワイトバランス導出部164は、検出領域122内における道路面を灰色にするようにホワイトバランス補正値を導出する。当該環境認識システム100は、車両1に適用されているので、自ずと、走行路である灰色の道路面が検出領域122を占有することが多くなる。このように道路面を参照することで、適切なホワイトバランス補正値を安定して導出することが可能となる。
【0036】
また、ホワイトバランス導出部164は、検出領域122全体の平均輝度を灰色にするようにホワイトバランス補正値を導出してもよい。上述したように、走行路である灰色の道路面が検出領域122を占有することが多いので、検出領域122も全体的に灰色となることが多くなる。ここでも道路面を参照することで、適切なホワイトバランス補正値を安定して導出することが可能となる。
【0037】
また、ホワイトバランス導出部164は、検出領域122内における横断歩道や道路面上の走行路を制限する線(中央線、停止線、路側帯)を白色にするようにホワイトバランス補正値を導出してもよい。ホワイトバランス補正は、バランスをとる色が白色に近似するほど、その精度が高くなる。ここでは、道路面において、比較的容易に抽出しやすい横断歩道や走行路を制限する線を参照することで、適切なホワイトバランス補正値を安定して導出することが可能となる。
【0038】
ホワイトバランス導出部164は、例えば、ホワイトバランス補正値を以下のように導出する。中央線の本来の輝度を(BR、BG、BB)とし、環境光の影響を(P×A×(1/r)、P×A×(1/g)、P×A×(1/b))とすと、取得された輝度(R、G、B)=(BR+P×A×(1/r)、BG+P×A×(1/g)、BB+P×A×(1/b))で表すことができる。ここで、Pはフロントガラスの反射率を、Aは環境光の輝度成分を、1/r、1/g、1/bは環境光の色味成分を示す(r、g、bはホワイトバランス値)。このとき、本来の輝度(BR、BG、BB)が予め定められていれば、反射率P、輝度成分Aによって、ホワイトバランス補正値(r、g、b)=(PA/(R−BR)、PA/(G−BG)、(PA/(B−BB))を導出することが可能となる。本実施形態では、かかる計算によりホワイトバランス補正値(r、g、b)=(1.64、1.00、1.30)を得たとする。
【0039】
本実施形態では、このようにして導出されたホワイトバランス補正値(r、g、b)を利用して、輝度(R、G、B)を加工する。ここでは、輝度を加工する各機能部を説明する前に、その前提となる技術を簡単に説明する。
【0040】
撮像装置110で検出領域122を撮像した場合、上述したように、環境光に応じて対象物の本来の色が変化してしまうので、ホワイトバランス補正が行われる。ここで、対象物が光源(自発光)であった場合、太陽光下やトンネル内等、環境光が異なる場合であっても、その色自体が変化することがない。したがって、ホワイトバランス補正を行う必要がなくなる。そうすると、例えば、「信号機(赤)」や「テールランプ(赤)」といった光源に相当する特定物を特定する際には、ホワイトバランス補正を施す前段階の輝度画像124を用いた方がより高い特定精度が得られる。
【0041】
しかし、車両1のフロントガラスにおける、撮像装置110の撮像軸上を横切る部分が曇っていたり汚れていたりして透過度が低くなり、かつ、環境光が強い場合に、対象となる光源の色が環境光に影響され、輝度画像124が全体的に白色っぽくなる現象が生じ得る。ここで、対象物が光源でなければ、環境光の影響(透過度の影響も含む)を受けた輝度にホワイトバランス補正を施すことで、自然な色を再現できるが、光源に関しては、ホワイトバランス補正が本来の値から離れる方向に働く場合がある。そこで、本実施形態では、対象物が光源である場合、ホワイトバランス補正を施す前段階の輝度画像124から環境光の影響を排除して、光源の本来の輝度を抽出する。
【0042】
ここで、排除する環境光の影響を推定するのだが、本実施形態では、ホワイトバランス補正値を導出し、そのホワイトバランス補正値を用いて環境光の影響を推定することとする。ただし、ホワイトバランス補正に相当する値を、元となる輝度画像124に乗算することも考えられるが、輝度の上限値を超える場合が生じるので、ここでは、ホワイトバランス補正に相当する値を元となる輝度画像124から減算することで求めることとする。以下、かかる処理を実現するための補正輝度導出部166を説明する。
【0043】
補正輝度導出部166は、まず、照射検出部152が導出した環境光の強度、透過度導出部162が導出した透過度やシャッタ値等に基づいて、環境光の影響度合いを示す色補正強度を導出する。色補正強度は、反射率P×環境光の輝度成分Aに相当する。したがって、色補正強度は、環境光の強度が高いほど、また、透過度が低いほど高くなる。続いて、補正輝度導出部166は、環境光の影響が高ければ(例えば、導出した色補正強度が所定閾値以上であれば)、色補正強度を、ホワイトバランス導出部164が導出したホワイトバランス補正値で除算して色補正値(PA/r、PA/g、PA/b)を導出する。次に、補正輝度導出部166は、取得された輝度から色補正値を減算して(R−PA/r、G−PA/g、B−PA/b)、補正輝度を導出する。また、環境光の影響が低ければ(導出した色補正強度が所定閾値未満であれば)、補正輝度導出部166は、取得された輝度をそのまま補正輝度として用いる。
【0044】
図5および図6は、補正輝度導出部166の処理を説明するための説明図である。例えば、輝度画像124が環境光の影響を受けている場合に、仮に、ホワイトバランス補正を行うと、輝度画像124は、図5(a)に示すように、空に相当する領域210が白色に近くなり、自然に近い色を再現することができる。しかし、テールランプに相当する領域212は、赤色に発光しているので、本来輝度も高いはずであるが、白色がかった色で表現されてしまう。
【0045】
そこで、補正輝度導出部166は、例えば、色補正強度PAが64で固定されている場合(各色相の輝度範囲が例えば0〜255)に、その色補正強度を、ホワイトバランス導出部164が導出したホワイトバランス補正値で除算する。例えば、Rのホワイトバランス補正値rが1.64であれば、色補正値(PA/r)は、64/1.64=39となる。同様に、Gのホワイトバランス補正値gが1.00であれば、色補正値(PA/g)は、64/1.00=64となる。Bのホワイトバランス補正値bが1.30であれば、色補正値(PA/b)は、64/1.30=49となる。
【0046】
そして、フロントガラスの透過度が低く、進行方向前方から強い光を受けると、補正輝度導出部166は、取得された輝度から色補正値を減算する。例えば、ホワイトバランス補正を施す前段階の輝度画像124の任意の画素の色相が(R,G,B)=(130,110,123)であれば、色補正値(39,64,49)を減算して、補正輝度(R’,G’,B’)=(91,46,74)を導出する。このような色補正値の減算を輝度画像124全体に対して実行すると、図5(b)に示すように、全体的に赤色がかる。したがって、光源ではない対象物は、本来より赤色がかった色となっている。しかし、光源に関しては、本来の色に非常に近い色に再現される。
【0047】
また、他の例では、仮に、ホワイトバランス補正を行うと、輝度画像124中の信号機(赤)に相当する領域214は、図6(a)に示すように赤色に点灯している部分が白色がかった色で表現される。しかし、補正輝度導出部166によって補正輝度を導出すると、図6(b)のように、光源以外の色は本来の色から離れるものの、信号機(赤)の本来の色が再現される。
【0048】
位置情報取得部168は、後述する特定物仮決定部170の制御指令に従い、距離画像126における検出領域122内のブロック毎の視差情報を、ステレオ法を用いて、水平距離x、高さyおよび相対距離zを含む三次元の位置情報に変換する。ここで、視差情報が、距離画像126における各対象部位の視差を示すのに対し、三次元の位置情報は、実空間における各対象部位の相対距離の情報を示す。したがって、相対距離や高さといった文言を用いる場合、実空間上の距離を指し、検出距離といった文言を用いる場合、距離画像126上の距離を指す。また、視差情報が画素単位ではなくブロック単位、即ち複数の画素単位で導出されている場合、その視差情報はブロックに属する全ての画素の視差情報とみなして、画素単位の計算を実行することができる。
【0049】
図7は、位置情報取得部168による三次元の位置情報への変換を説明するための説明図である。位置情報取得部168は、まず、距離画像126を図7の如く画素単位の座標系として認識する。ここでは、図7中、左下隅を原点(0,0)とし、横方向をi座標軸、縦方向をj座標軸とする。したがって、視差dpを有する画素は、画素位置i、jと視差dpによって(i,j,dp)のように表すことができる。
【0050】
本実施形態における実空間上の三次元座標系を、車両1を中心とした相対座標系で考える。ここでは、車両1の進行方向右側方をX軸の正方向、車両1の上方をY軸の正方向、車両1の進行方向(前方)をZ軸の正方向、2つの撮像装置110の中央を通る鉛直線と道路表面との交点を原点(0,0,0)とする。このとき、道路を平面と仮定すると、道路表面がX−Z平面(y=0)と一致することとなる。位置情報取得部168は、以下の(数式1)〜(数式3)によって距離画像126上のブロック(i,j,dp)を、実空間上の三次元の点(x,y,z)に座標変換する。
x=CD/2+z・PW・(i−IV) …(数式1)
y=CH+z・PW・(j−JV) …(数式2)
z=KS/dp …(数式3)
ここで、CDは撮像装置110同士の間隔(基線長)であり、PWは1画素当たりの視野角であり、CHは撮像装置110の道路表面からの配置高さであり、IV、JVは車両1の真正面における無限遠点の画像上の座標(画素)であり、KSは距離係数(KS=CD/PW)である。
【0051】
したがって、位置情報取得部168は、対象部位の相対距離と、対象部位と同相対距離にある道路表面上の点と対象部位との距離画像126上の検出距離とに基づいて、道路表面からの高さを導出していることとなる。
【0052】
特定物仮決定部170は、データ保持部154に保持された特定物テーブル200に基づいて、補正輝度導出部166が導出した対象物の補正輝度から、対象物に対応する特定物を仮決定する。
【0053】
具体的に、特定物仮決定部170は、まず、輝度画像124における任意の対象部位の補正輝度を、輝度取得部160に取得させる。続いて、特定物仮決定部170は、特定物テーブル200に登録されている特定物から任意の特定物を順次選択し、取得した1の対象部位の補正輝度が、順次選択した特定物の輝度範囲202に含まれるか否か判定する。そして、対象となる輝度範囲202に含まれれば、その対象部位に当該特定物を示す識別番号を付して、特定物マップを作成する。
【0054】
特定物仮決定部170は、このような対象部位それぞれの補正輝度と特定物テーブル200に登録されている複数の特定物の輝度範囲202との一連の比較を、複数の対象部位毎に順次実行する。ここで、特定物の選択順は、上述したように特定物テーブル200に示された優先順位に従っている。即ち、図4の特定物テーブル200の例では、「信号機(赤)」、「信号機(黄)」、「信号機(青)」、「テールランプ(赤)」、「ウィンカー(橙)」、「道路標識(赤)」、「道路標識(青)」、「道路標識(緑)」の順に比較処理が実行される。
【0055】
また、上記優先順位に従って比較した結果、対象部位の補正輝度が優先順位の高い特定物の輝度範囲202に含まれていると判定された場合、それより優先順位が低い特定物に関する比較処理は最早行われない。したがって、1の対象部位に関して多くとも1の特定物を示す識別番号しか付されることはない。これは、複数の特定物が空間上で重なり合うことはないので、特定物仮決定部170によって一旦任意の特定物と判定された対象物は、最早、他の特定物であるか否かを判定する必要がないという理由に基づく。このように対象部位を排他的に取り扱うことによって、既に特定物が仮決定された対象部位の重複した特定処理を回避することができ、処理負荷を軽減することが可能となる。
【0056】
図8は、特定物マップ220を説明するための説明図である。特定物マップ220は、輝度画像124に特定物の識別番号を重ねたものであり、特定物と仮決定された対象部位に相当する位置に、その特定物の識別番号が対応付けられる。
【0057】
例えば、特定物マップ220中の部分マップ220aでは、先行車両のテールランプに相当する複数の対象部位222の補正輝度が、特定物「信号機(赤)」、「信号機(黄)」、「信号機(青)」といった順に輝度範囲202と比較され、最終的に特定物「テールランプ(赤)」の識別番号「4」が対応付けられる。また、特定物マップ220中の部分マップ220bでは、信号機の右側点灯部分に相当する複数の対象部位224の補正輝度が特定物「信号機(赤)」の輝度範囲202に含まれているので、特定物「信号機(赤)」の識別番号「1」が対応付けられる。さらに、特定物マップ220中の部分マップ220cでは、先行車両の背面ランプ部に相当する複数の対象部位226の補正輝度が、特定物「信号機(赤)」、「信号機(黄)」、「信号機(青)」といった順に輝度範囲202と比較され、最終的に、特定物「テールランプ(赤)」の識別番号「4」および「ウィンカー(橙)」の識別番号「5」が対応付けられる。図8では、輝度画像124の複数の対象部位に識別番号が付された図を提示しているが、かかる表現は理解を容易にするための概念的なものであり、実際には対象部位にデータとして識別番号が登録されている。
【0058】
グループ化部172は、仮決定された任意の対象部位を基点として、その対象部位と、水平距離xの差分および高さyの差分が所定範囲内にある、同一の特定物に対応すると仮決定された(同一の識別番号が付された)対象部位をグループ化し、対象物とする。ここで、所定範囲は実空間上の距離で表され、任意の値(例えば、1.0m等)に設定することができる。また、グループ化部172は、グループ化により新たに追加された対象部位に関しても、その対象部位を基点として、水平距離xの差分および高さyの差分が所定範囲内にある、特定物が等しい対象部位をグループ化する。結果的に、同一の特定物として仮決定された対象部位同士の距離が所定範囲内であれば、それら全てがグループ化されることとなる。
【0059】
ここで、グループ化部172は、実空間上の水平距離や高さを用いて判定しているが、輝度画像124上や距離画像126上の検出距離で判定する場合に、グループ化のための所定範囲の閾値は、対象部位の相対距離に応じて変更される。図2等に示したように、輝度画像124や距離画像126では、遠近の物体が平面上に表されているため、本体遠方に位置する物体は小さく(短く)表され、近傍に位置する物体は大きく(長く)表される。したがって、輝度画像124や距離画像126における所定範囲の閾値は、例えば、遠方に位置する対象部位については短く、近傍に位置する対象部位については長く設定されることとなる。こうして、遠方と近傍とで検出距離が異なる場合であっても安定したグループ化が望める。
【0060】
また、グループ化部172は、上述した水平距離xの差分や高さyの差分に加えて、相対距離zの差分が所定範囲内にある、同一の特定物に対応すると仮決定された対象部位をグループ化してもよい。実空間では、水平距離xや高さyが近似していたとしても、相対距離zが離れている場合、別体の対象物であることが想定される。したがって、水平距離x、高さyおよび相対距離zのいずれかが離れている場合、その対象部位のグループは独立した対象物とみなすこととする。こうして、高精度なグループ化を図ることができる。
【0061】
また、ここでは、水平距離xの差分、高さyの差分および相対距離zの差分をそれぞれ独立して判定し、全てが所定範囲に含まれる場合のみ同一のグループとしているが、他の計算によることもできる。例えば、水平距離xの差分、高さyの差分および相対距離zの差分の二乗平均√((水平距離xの差分)+(高さyの差分)+(相対距離zの差分))が所定範囲に含まれる場合に同一のグループとしてもよい。かかる計算により、対象部位同士の実空間上の正確な距離を導出することができるので、グループ化精度を高めることができる。
【0062】
特定物決定部174は、グループ化部172がグループ化した対象物が所定の条件を満たしていれば、その対象物を特定物として決定する。例えば、図4に示したように、特定物テーブル200に幅範囲204が対応付けられている場合、特定物決定部174は、特定物テーブル200に基づき、対象物の大きさ(対象物の水平距離xの幅および高さyの幅のいずれも)が、対象物について仮決定された特定物の幅範囲204に含まれていれば、その対象物を対象となる特定物として決定することとする。また、対象物の水平距離xの幅および高さyの幅それぞれについて幅範囲204を設定してもよい。ここでは、対象物が、特定物とみなすのに妥当な大きさであることを確認している。したがって、幅範囲204に含まれない場合、当該環境認識処理に不要な情報として除外することができる。
【0063】
こうして、環境認識装置130では、輝度画像124から、1または複数の対象物を、特定物として抽出することができ、その情報を様々な制御に用いることが可能となる。例えば、特定物「信号機(赤)」を抽出することで、その対象物が、移動を伴わない固定された物であることが把握されると共に、その対象物が自車線に関する信号機であれば、車両1は、停止または減速すべきであることを把握することができる。また、特定物「テールランプ(赤)」を抽出することで、そこに車両1と共に走行している先行車両があり、かつ、その先行車両の背面が、特定物「テールランプ(赤)」の相対距離にあることを把握することができる。
【0064】
パターンマッチング部176は、特定物決定部174が決定した特定物が例えば「標識」であり、その中には制限速度が表記されていることが想定される場合、さらに、表記されている数値についてパターンマッチングを実行し、その数値を特定する。こうして、環境認識装置130は、自車線の制限速度等を認識することができる。
【0065】
本実施形態においては、まず、特定物決定部174によって複数に制限された特定物を抽出し、その抽出された特定物とのパターンマッチングのみ行えばよい。したがって、従来のように、輝度画像124全面に対してパターンマッチングを行うのに比べ処理負荷が格段に少なくなる。
【0066】
(環境認識方法)
以下、環境認識装置130の具体的な処理を図9〜図12のフローチャートに基づいて説明する。図9は、画像処理装置120から距離画像(視差情報)126が送信された場合の割込処理に関する全体的な流れを示し、図10〜図12は、その中の個別のサブルーチンを示している。また、ここでは、対象部位として画素を挙げており、輝度画像124や距離画像126の左下隅を原点とし、画像水平方向に1〜600画素、垂直方向に1〜200画素の範囲で当該環境認識方法による処理を遂行する。また、ここでは、対象となる特定物の数を8つと仮定する。
【0067】
図9に示すように、距離画像126の受信を契機に当該環境認識方法による割込が発生すると、画像処理装置120から取得した輝度画像124が参照され、環境光の影響に応じて輝度が加工されて、特定物マップ220が生成される(S300)。
【0068】
続いて、仮決定された特定物がグループ化され(S302)、グループ化された対象物が特定物として決定される(S304)。決定された特定物からさらに情報を得る必要があれば、パターンマッチング部176によって、特定物のパターンマッチングが実行される(S306)。以下、上記の処理を具体的に説明する。
【0069】
(輝度加工、特定物マップ生成処理S300)
図10を参照すると、ホワイトバランス導出部164は、輝度取得部160が取得した輝度に仮にホワイトバランスを施した場合のホワイトバランス補正値を導出する(S400)。特定物仮決定部170は、対象部位(画素)を特定するための垂直変数jを初期化(「0」を代入)する(S402)。続いて、特定物仮決定部170は、垂直変数jに「1」を加算(インクリメント)すると共に水平変数iを初期化(「0」を代入)する(S404)。次に、特定物仮決定部170は、水平変数iに「1」を加算し、特定物変数mを初期化(「0」を代入)する(S406)。ここで、水平変数iや垂直変数jを設けているのは、600×200の画素全てに対して当該特定物マップ生成処理を実行するためであり、特定物変数mを設けているのは、画素毎に8つの特定物を順次比較するためである。
【0070】
続いて、環境光の影響が高いか否か判定される(S408)。ここで、環境光の影響が高いと判定されると(S408におけるYES)、補正輝度導出部166は、色補正強度PAをホワイトバランス補正値(r、g、b)で除算して(PA/r、PA/g、PA/b)色補正値を導出し、取得された輝度から色補正値を減算して(R−PA/r、G−PA/g、B−PA/b)補正輝度を導出する(S410)。また、環境光の影響が高くなければ(S408におけるNO)、補正輝度導出部166は、取得された輝度をそのまま補正輝度として用いる(S412)。
【0071】
特定物仮決定部170は、輝度画像124から対象部位としての画素(i,j)の補正輝度を輝度取得部160に取得させ(S414)、特定物変数mに「1」を加算し(S416)、特定物(m)の輝度範囲202を取得し(S418)、画素(i,j)の補正輝度が特定物(m)の輝度範囲202に含まれるか否か判定する(S420)。
【0072】
画素(i,j)の補正輝度が特定物(m)の輝度範囲202に含まれていれば(S420におけるYES)、特定物仮決定部170は、その画素に特定物(m)を示す識別番号pを対応付けて、画素(i,j,p)とする(S422)。こうして、輝度画像124中の各画素に識別番号が付された特定物マップ220が生成される。また、画素(i,j)の補正輝度が特定物(m)の輝度範囲202に含まれていなければ(S420におけるNO)、特定物変数mが特定物の最大数である8を超えたか否か判定する(S424)。ここで、特定物変数mが最大値を超えていなければ(S424におけるNO)、ステップS416の特定物変数mのインクリメント処理からを繰り返す。また、特定物変数mが最大値を超えていれば(S424におけるYES)、当該画素(i,j)に対応する特定物は存在しないとして、次のステップS426に処理が移される。
【0073】
続いて、特定物仮決定部170は、水平変数iが水平画素の最大値である600を超えたか否か判定し(S426)、水平変数iが最大値を超えていなければ(S426におけるNO)、ステップS406の水平変数iのインクリメント処理からを繰り返す。また、水平変数iが最大値を超えていれば(S426におけるYES)、特定物仮決定部170は、垂直変数jが垂直画素の最大値である200を超えたか否か判定する(S428)。そして、垂直変数jが最大値を超えていなければ(S428におけるNO)、ステップS404の垂直変数jのインクリメント処理からを繰り返す。また、垂直変数jが最大値を超えていれば(S428におけるYES)、当該特定物マップ生成処理を終了する。こうして、各画素に対応する特定物が仮決定される。
【0074】
(グループ化処理S302)
図11を参照すると、グループ化部172は、対象部位をグループ化するための所定範囲を参照し(S450)、対象部位(画素)を特定するための垂直変数jを初期化(「0」を代入)する(S452)。続いて、グループ化部172は、垂直変数jに「1」を加算すると共に水平変数iを初期化(「0」を代入)する(S454)。次に、グループ化部172は、水平変数iに「1」を加算する(S456)。
【0075】
グループ化部172は、輝度画像124から対象部位としての画素(i,j,p,dp,x,y,z)を取得する(S458)。そして、その画素(i,j,p,dp,x,y,z)に、特定物の識別番号pが対応付けられているか否か判定する(S460)。ここで、識別番号pが対応付けられていれば(S460におけるYES)、グループ化部172は、その画素(i,j,p,dp,x,y,z)の実空間上の座標(x,y,z)から所定範囲内に、等しい識別番号pが対応付けられている他の画素(i,j,p,dp,x,y,z)が存在するか否か判定する(S462)。
【0076】
識別番号の等しい他の画素(i,j,p,dp,x,y,z)が存在すれば(S462におけるYES)、グループ化部172は、自己を含む所定範囲内の全ての画素のいずれかにグループ番号gが付されているか否か判定する(S464)。いずれかにグループ番号gが付されていたら(S464におけるYES)、グループ化部172は、所定範囲に含まれる全ての画素および同一のグループ番号gが付されている全ての画素に、その付されているグループ番号のうち最も小さいグループ番号g、および、グループ番号としてまだ利用されていない番号のうち最も小さい値のいずれか小さい方を付与して、画素(i,j,p,dp,x,y,z,g)とする(S466)。また、いずれにもグループ番号gが付されていない場合(S464におけるNO)、グループ番号としてまだ利用されていない番号のうち最も小さい値を、自己を含む所定範囲内の全ての画素に新規に付与する(S468)。
【0077】
このように、所定範囲内に識別番号が等しい対象部位が複数存在する場合、1のグループ番号gを付すことによってグループ化を行う。このとき、複数の対象部位のいずれにも未だグループ番号gが付されていない場合、新規のグループ番号gを付すこととし、いずれかに既にグループ番号gが付されている場合、それと同一のグループ番号gを付すこととなる。ただし、複数の対象部位に複数のグループ番号gが存在する場合、1つのグループとみなすべきなので、その対象部位全てのグループ番号gを1のグループ番号gに置換することとする。
【0078】
このとき、所定範囲に含まれる全ての画素のみならず、同一のグループ番号gが付されている全ての画素のグループ番号gを一度に変更しているのは、グループ番号gの変更により、すでに統一化されたグループを分離しないためである。また、最も小さいグループ番号gまたはグループ番号としてまだ利用されていない番号のうち最も小さい値のいずれか小さい方を採用しているのは、グループの採番において可能な限り欠番を出さないようにするためである。こうすることで、グループ番号gの最大値が無用に大きくなることがなくなり、処理負荷を軽減することが可能となる。
【0079】
識別番号pが対応付けられていない場合(S460におけるNO)、または、識別番号pの等しい他の画素が存在しない場合(S462におけるNO)、次のステップS470に処理が移される。
【0080】
続いて、グループ化部172は、水平変数iが水平画素の最大値である600を超えたか否か判定し(S470)、水平変数iが最大値を超えていなければ(S470におけるNO)、ステップS456の水平変数iのインクリメント処理からを繰り返す。また、水平変数iが最大値を超えていれば(S470におけるYES)、グループ化部172は、垂直変数jが垂直画素の最大値である200を超えたか否か判定する(S472)。そして、垂直変数jが最大値を超えていなければ(S472におけるNO)、ステップS454の垂直変数jのインクリメント処理からを繰り返す。また、垂直変数jが最大値を超えていれば(S472におけるYES)、当該グループ化処理を終了する。
【0081】
(特定物決定処理S304)
図12を参照すると、特定物決定部174は、グループを特定するためのグループ変数kを初期化(「0」を代入)する(S500)。続いて、特定物決定部174は、グループ変数kに「1」を加算する(S502)。
【0082】
特定物決定部174は、輝度画像124からグループ番号gがグループ変数kである対象物が存在するか否か判定し(S504)、存在すれば(S504におけるYES)、そのグループ番号gが付された対象物の大きさを計算する(S506)。そして、計算した大きさが、グループ番号gがグループ変数kである対象物に対応付けられた識別番号pで示される特定物の幅範囲204に含まれるか否か判定する(S508)。
【0083】
大きさが識別番号pで示される特定物の幅範囲204に含まれていれば(S508におけるYES)、特定物決定部174は、その対象物を特定物として決定する(S510)。大きさが識別番号pで示される特定物の幅範囲204に含まれていない場合(S508におけるNO)、または、グループ番号gがグループ変数kである対象物が存在しない場合(S504におけるNO)、次のステップS512に処理が移される。
【0084】
続いて、特定物決定部174は、グループ変数kが、グループ化処理において設定されたグループ番号の最大値を超えたか否か判定する(S512)。そして、グループ変数kが最大値を超えていなければ(S512におけるNO)、ステップS502のグループ変数kのインクリメント処理からを繰り返す。また、グループ変数kが最大値を超えていれば(S512におけるYES)、当該特定物決定処理を終了する。こうして、グループ化された対象物が正式に特定物として決定される。
【0085】
以上、説明したように、環境認識装置130によれば、画像が環境光の影響を受ける場合であっても、対象物の輝度を適切に抽出することで、対象物の特定精度を維持することが可能となる。
【0086】
また、コンピュータを、環境認識装置130として機能させるプログラムや当該プログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能なフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD、DVD、BD等の記憶媒体も提供される。ここで、プログラムは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理手段をいう。
【0087】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0088】
上述した実施形態においては、まず、対象部位の補正輝度をいずれかの特定物に排他的に対応付け、対象部位をグループ化した対象物の大きさがその特定物として妥当であるか判定する例を挙げた。しかし、このような場合に限らず、特定物、補正輝度、大きさのいずれを基準にして判定してもよく、また、その判定順も任意に決定することが可能である。
【0089】
また、上述した実施形態においては、対象物の三次元位置を複数の撮像装置110を用い画像データ間の視差に基づいて導出しているが、かかる場合に限られず、例えば、レーザレーダ測距装置等、既知の様々な距離測定装置を用いることができる。ここで、レーザレーダ測距装置は、検出領域122にレーザビームを投射し、このレーザビームが物体に当たって反射してくる光を受光し、この所要時間から物体までの距離を測定するものである。
【0090】
また、上述した実施形態においては、撮像装置110がカラー画像を取得することを前提としているが、かかる場合に限られず、モノクロ画像を取得することでも本実施形態を遂行することができる。この場合、特定物テーブル200が単色の輝度で定義されることとなる。
【0091】
また、上述した実施形態では、位置情報取得部168が、画像処理装置120から距離画像(視差情報)126を受けて三次元の位置情報を生成している例を挙げている。しかし、かかる場合に限られず、画像処理装置120において予め三次元の位置情報を生成し、位置情報取得部168は、その生成された三次元の位置情報を取得するとしてもよい。このようにして、機能分散を図り、環境認識装置130の処理負荷を軽減することが可能となる。
【0092】
また、上述した実施形態においては、輝度取得部160、透過度導出部162、ホワイトバランス導出部164、補正輝度導出部166、位置情報取得部168、特定物仮決定部170、グループ化部172、特定物決定部174、パターンマッチング部176は中央制御部156によってソフトウェアで動作するように構成している。しかし、上記の機能部をハードウェアによって構成することも可能である。
【0093】
また、特定物決定部174は、例えば対象物の大きさが特定物の幅範囲204に含まれることをもって特定物と決定しているが、かかる場合に限らず、さらに、他の様々な条件を満たしている場合に特定物として決定してもよい。例えば、対象物中における水平方向および鉛直方向の相対距離の推移がほぼ等しい(連続する)場合や、z座標に対する相対移動速度が等しい場合に特定物とする。このとき対象物中における水平方向および鉛直方向の相対距離の推移は、ハフ変換あるいは最小二乗法による近似直線によって特定することができる。
【0094】
なお、本明細書の環境認識方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、検出領域における対象物の輝度に基づいて、その対象物を認識する環境認識装置および環境認識方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0096】
1 …車両
122 …検出領域
124 …輝度画像
126 …距離画像
130 …環境認識装置
154 …データ保持部
160 …輝度取得部
162 …透過度導出部
164 …ホワイトバランス導出部
166 …補正輝度導出部
168 …位置情報取得部
170 …特定物仮決定部
172 …グループ化部
174 …特定物決定部
176 …パターンマッチング部
200 …特定物テーブル
202 …輝度範囲
220 …特定物マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
輝度の範囲と特定物とを対応付けて保持するデータ保持部と、
検出領域内に存在する対象部位の輝度を取得する輝度取得部と、
取得された前記輝度にホワイトバランスを施す場合のホワイトバランス補正値を導出するホワイトバランス導出部と、
前記ホワイトバランス補正値と、環境光の影響度合いを示す色補正強度とに基づく色補正値を、取得された前記輝度から減算して補正輝度を導出する補正輝度導出部と、
前記データ保持部に保持された対応付けに基づいて、前記対象部位の補正輝度から、該対象部位に対応する特定物を仮決定する特定物仮決定部と、
を備えることを特徴とする環境認識装置。
【請求項2】
前記補正輝度導出部は、前記色補正強度が所定閾値以上であれば、取得された前記輝度から前記色補正値を減算することを特徴とする請求項1に記載の環境認識装置。
【請求項3】
前記色補正値は、前記色補正強度を前記ホワイトバランス補正値で除算した値であることを特徴とする請求項1または2に記載の環境認識装置。
【請求項4】
前記色補正強度は、環境光の強度と撮像軸の透過度に基づいて算出されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の環境認識装置。
【請求項5】
水平距離の差分および高さの差分が所定範囲内にある、同一の特定物に対応すると仮決定された対象部位をグループ化して対象物とするグループ化部と、
前記対象物を前記特定物として決定する特定物決定部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の環境認識装置。
【請求項6】
検出領域内に存在する対象部位の輝度を取得し、
取得した前記輝度にホワイトバランスを施す場合のホワイトバランス補正値を導出し、
前記ホワイトバランス補正値と、環境光の影響度合いを示す色補正強度とに基づく色補正値を、取得した前記輝度から減算して補正輝度を導出し、
データ保持部に保持された、輝度の範囲と特定物との対応付けに基づいて、前記対象部位の補正輝度とから、該対象部位に対応する特定物を仮決定することを特徴とする環境認識方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−238241(P2012−238241A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107690(P2011−107690)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】