説明

環状エステル・オリゴマーの共重合

化学的に異なる環状エステル・オリゴマーは共重合されてコポリエステルを形成することができ、その特性は使用される環状エステル・オリゴマーの選択によって調整することができる。形成されるコポリエステルは、カプセル化材としておよびコーティング材として特に有用である。多くの場合にコポリエステルは、それらが後のエステル交換反応でランダム化されないと仮定すると、それらのポリマー鎖繰り返し単位の配列に関連した独特の微細構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
異なるジカルボン酸および/または異なるジオールから誘導された環状エステル・オリゴマーの混合物は共重合されてコポリエステルを形成してもよい。選ばれる環状エステル・オリゴマーの混合物に依存して、生じるコポリエステルの特性は特殊な用途向けに調整されてもよい。
【背景技術】
【0002】
環状エステル・オリゴマー(CEO)は長い間公知であったし(例えば米国特許公報(特許文献1)を参照されたい)、それらが重合してポリエステル(LPE)を形成できることは周知であり、例えば米国特許公報(特許文献2)および米国特許公報(特許文献3)ならびにそれらに引用された参考文献を参照されたい。CEOは、それら自体が、溶融した時に、例えば、熱硬化性樹脂向けに一般に用いられる反応射出成形に類似の方法でより高分子量ポリマーへと容易に重合されるかもしれない低粘度液体であるので、特に興味を引いてきた。
【0003】
CEOは典型的には式
【0004】
【化1】

【0005】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立してヒドロカルビレンまたは置換ヒドロカルビレンであり、mは1以上の整数である)の化合物である。本明細書では、mが1である時、化合物は単量体であり、mが2である時化合物は二量体であり、mが3である時化合物は三量体である、などである。コポリエステル(CPE)は、2つ以上の化合物(I)(式中、Rおよび/またはRが変わる)の混合物が重合されてCPEを形成する時に形成され、それはCEOの混合物中に存在した化合物(I)に由来するRおよびR基を含む。生じたCPEは共重合体であるので、それらの特性の幾らかは典型的にはそれらの「成分ホモポリエステル」の特性とは異なる。例えばCPEの融点および/またはガラス転移温度および/または融解熱は典型的には成分ホモポリエステルとは異なるであろう。
【0006】
テレフタル酸、1,4−ブタンジオールおよびジエチレングリコールから誘導されたランダム・コポリエステルは公知であり、例えば米国特許公報(特許文献4)および(非特許文献1)を参照されたい。これらの参考文献のどちらもランダムではないコポリエステルを記載していない。
【0007】
米国特許公報(特許文献5)および米国特許公報(特許文献6)は、その中で個々のCEO分子の幾つかは異なるジオールに由来する基(本明細書ではRに「同等の」)を含むある種のCEOの重合を記載している。ジオールの1つに由来する基が少量存在する。
【0008】
【特許文献1】米国特許第2,020,298号明細書
【特許文献2】米国特許第5,466,744号明細書
【特許文献3】米国特許第5,661,214号明細書
【特許文献4】米国特許第4,419,507号明細書
【特許文献5】米国特許第5,648,454号明細書
【特許文献6】米国特許第6,420,047号明細書
【特許文献7】米国特許第5,039,783号明細書
【特許文献8】米国特許第5,214,158号明細書
【特許文献9】米国特許第5,231,161号明細書
【特許文献10】米国特許第5,321,117号明細書
【特許文献11】米国特許第5,658,454号明細書
【非特許文献1】エヌ.ロッチ(N.Lotti)ら著、ポリマー(Polymer)、41巻(2000)、5297−5304ページ
【非特許文献2】エム.エス.チェン(M.S.Chen)ら著、J.Appl.Polym.Sci.,40巻(1990)、1053−1057ページ
【非特許文献3】エイ.ラバレッテ(A.Lavalette)ら著、生体高分子(Biomacromolecules)、3巻(2002)、225−228ページ
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、式
【0010】
【化2】

【0011】
の2つ以上の溶融した化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの混合物を、環状エステル・オリゴマーの開環重合用の触媒と開環重合条件下に接触させてコポリエステルを形成する工程を含む環状エステル・オリゴマーの共重合法であって、式中、
およびRはそれぞれ独立してヒドロカルビレンまたは置換ヒドロカルビレンであり、かつ、
mは1以上の整数であり、
ただし、環状エステル・オリゴマーのそれぞれの分子中のすべてのRが同じものであるわけではなく、および/または環状エステル・オリゴマーのそれぞれの分子中のすべてのRが同じものであるわけではない場合に、存在する化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの少なくとも2つは存在する環状エステル・オリゴマーの総量に対して少なくとも15モルパーセントである
方法に関する。
【0012】
物体のカプセル化またはコーティングのための方法であって、前記物体を2つ以上の化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの溶融混合物と接触させる工程と、前記溶融混合物を共重合させて前記物体をカプセル化するまたはコーティングするコポリエステルを形成する工程とを含む方法もまた本明細書で開示される。
【0013】
約0.20〜0.85のランダム度(degree of randomness)のコポリエステルもまた開示される。
【0014】
当該CEO組成物の単一繰り返し単位ブロックがそれらの単位の5モルパーセント未満であるコポリエステルが本明細書に記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書では幾つかの用語が用いられ、それらの幾つかは次の通りである。
「化学的に異なる環状エステル・オリゴマー」とは、2つ以上のオリゴマーが異なるジカルボン酸および/またはジオールから誘導されていることを意味する。それらは、「m」の値でのみ異なるオリゴマー、すなわち、二量体、三量体などであるが同じジカルボン酸およびジオールから誘導されるCEOを含まない。第1の単一CEOが2つの異なるジカルボン酸および/または2つの異なるジオールから誘導される場合、化学的に異なるCEOは、第1の単一CEO中に存在しない少なくとも1つのジカルボン酸および/または1つのジオールから誘導されなければならない。
【0016】
ヒドロカルビレンとは、本明細書では、その(2つの)自由原子価がそれぞれ同じまたは異なる炭素原子への単結合である炭素および水素のみを含む二価基を意味する。ヒドロカルビレン基の例には、p−フェニレン、m−フェニレンおよびヘキサメチレンが挙げられる。
【0017】
置換ヒドロカルビレンとは、本明細書では、炭素および水素以外の1つまたは複数のヘテロ原子、例えばハロゲン、酸素、および窒素を含むヒドロカルビレンを意味する。それらだけでまたは他の原子と「官能基」を形成してもよいヘテロ原子は、該官能基を含む組成物が関与しているいかなる化学反応または過程も実質的に妨害するべきではない。有用な官能基には、エーテル、ケト、クロロ、ブロモ、チオエーテル、および第三級アミノが含まれる。
【0018】
本明細書で重合されるCEOは公知である方法によって製造され、例えば米国特許公報(特許文献7)、米国特許公報(特許文献8)、米国特許公報(特許文献9)および米国特許公報(特許文献10)を参照されたい。しばしばCEOは、例えば単一ジカルボン酸と単一ジオールとから誘導されたものは、[(I)におけるように]「m」(分子中の「繰り返し」単位の数)が変わる環状分子の混合物として得られる。本明細書で重合されるCEOは、mが一つの数である環状物であってもよい、すなわち、CEOは(例えば)二量体、三量体などであるか、またはmが2つ以上の整数であるCEOであってもよい、すなわち、CEOは(例えば)二量体、三量体などの混合物である。
【0019】
化学的に異なるCEOでは(本明細書ですべての目的のために)、それらは次のものから誘導されることが好ましい:
(a)好ましいジオールは脂肪族ジオール、すなわち各ヒドロキシル基が異なるアルキル炭素原子に結合しているジオールである。他の好ましいジオールには、式HOCH(CRCHOHまたはHO(CHCHO)H(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはアルキルであり、qは0もしくは1〜10の整数であり、tは2〜20の整数であり、より好ましくはすべてのRおよびRは水素であり、nは0もしくは1〜4の整数であり、またはtは2もしくは3であり、特に好ましくはnは0、1もしくは2であり、またはtは2である)のジオールが含まれる。他の具体的な好ましいジオールには、ヒドロキノン、およびビスフェノール−A、ならびにそれらの組合せが含まれる。
【0020】
(b)好ましいジカルボン酸(または半−酸エステルおよびジエステルをはじめとするそれらの誘導体)は、式HOC(CHCOH(式中、nは1〜10の整数である)の化合物、イソフタル酸、置換イソフタル酸、テレフタル酸、置換テレフタル酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸、ならびにそれらの組合せである。より好ましいカルボン酸はテレフタル酸およびイソフタル酸であり、テレフタル酸が特に好ましい。好ましいジカルボン酸と好ましいジオール(上記の)との任意の組合せは好ましいCEOを形成するかもしれない。
【0021】
(c)ジカルボン酸とジオールとの具体的な好ましい組合せには、テレフタル酸と、ジエチレングリコール[ビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル]、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールまたはそれらの混合物との組合せ、イソフタル酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールまたはそれらの混合物との組合せ、ならびにコハク酸および/またはアジピン酸と式HOCH(CRCHOH(式中、RおよびRは水素または1〜4個の炭素原子を含むアルキルであり、nは0または1〜10の整数である)の1つまたは複数の化合物との組合せが含まれる。
【0022】
本明細書に記載される共重合法にとって好ましい化学的に異なるCEOの組合せは、上に記載された好ましい個々のCEOの任意の2つ以上である。化学的に異なるCEOの特に好ましい組合せは、テレフタル酸と、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、または1,4−ブタンジオールとから誘導されたCEOと、テレフタル酸またはイソフタル酸とHO(CHCHO)H(式中、tは2、3または4、より好ましくは2である)の任意の1つとから誘導されたCEOとの組合せ;およびテレフタル酸と、エチレングリコール、1.3−プロパンジオール、または1,4−ブタンジオールとから誘導されたCEOと、テレフタル酸またはイソフタル酸とHOCH(CRCHOH(式中、RおよびRは水素であり、qは6〜10の整数である)の任意の1つとから誘導されたCEOとの組合せである。
【0023】
別の好ましい形では、各CEO分子中で、すべてのRは環状エステル・オリゴマーのそれぞれの分子中で同じものであり、すべてのRは環状エステル・オリゴマーのそれぞれの分子中で同じものである。これは、CEOのそれぞれの分子中で、すべてのRは同じ化学構造を有し、かつ、すべてのRは同じ化学構造を有することを意味するが、化学的に異なるCEO分子中では異なるRおよび/またはR基が存在する(しかしそれらの他の分子内では同じものであっても異なってもよい)。言い換えると、CEO分子中の各繰り返し単位は同一である。
【0024】
別の好ましい形では、CEO分子は分子内に異なるRおよび/またはR基を含んでもよい。
【0025】
化学的に異なるCEOの共重合は、CEOのホモ重合に有用である同じ条件(例えば温度、触媒タイプおよび触媒量)下に実施される。かかる方法は、そのすべてが参照により本明細書によって援用される、米国特許公報(特許文献7)、米国特許公報(特許文献2)、米国特許公報(特許文献11)、および米国特許公報(特許文献3)に記載されている。しかしながら重合が開始される前に、本方法で存在する2つ以上の化学的に異なるCEOは、組成物中で適度に一様であるCPEが得られることを確実にするために(そのことが望ましいものである場合)、好ましくは適度に十分に(通常は液相で)混合されるべきである。本方法で製造されたCPEは約2000以上、より好ましくは約10,000以上、特に好ましくは約25,000以上の数平均分子量を有することが好ましい。
【0026】
CPEの特性の幾つかは、どんな繰り返し単位が存在するか、およびCPE中のそれらのモル比に依存するだろうし、そのモル比は今度は重合されてCPEを形成した様々なCEOのモル比に依存する。例えばそのホモポリエステルが比較的高度に結晶質であり(高い融解熱を有し)、かつ、比較的高い融点を有する第1のCEOを、そのホモポリエステルが比較的非結晶質であるかまたは非晶質でさえあり、かつ、低い融点および/または低いガラス転移温度を有する第2のCEOと共重合させると、幾分結晶質である(しかし第1のホモポリエステルの結晶化度よりも小さい)、第1および第2のホモポリエステルの融点の中間の融点を有するコポリエステルをもたらすことができた。典型的にはコポリエステルのこれらの特性は、おおよそ、2つのホモポリエステルの(コポリエステル中のそれぞれのモル割合について)加重平均であろう。このように当該技術者は、コポリエステル組成と共に変わるこれらのおよび他の特性をある程度制御することができ、具体的な用途向けに調整されたポリエステルを製造する上での利点である。
【0027】
例えば低粘度の容易に重合可能な材料のための主な用途は、コーティング材およびカプセル化(注封)材向けである。本明細書では、コーティングは物体の外面の一部のみをコーティングすることを伴うが、カプセル化は物体の外面のすべてをコーティングすることを意味するという点でコーティングはカプセル化とは異なる。物体はより大きな物体の一部(またはサブアセンブリ)であってもよい。カプセル化のために、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂が、しばしば低粘度を有し、硬い材料へと硬化するので、しばしば使用される。しかしながら、それらは高い湿気吸収および/または脆性のような不利な点を有する。CEOはカプセル化材またはコーティング材として使用し得るが、それらはまた不利な点をも有し得ることはこれまで認められてきた。例えばそれらが高度に架橋されていない場合(それらは通常高度に架橋されていない)、典型的なCEOから製造されたポリエステルはしばしば高い融点および結晶化度を有し、その結果カプセル化材またはコーティング材は耐熱性を有する。しかしながら、高い結晶化度はしばしば、ポリエステルの形成ならびに次の冷却および結晶化の間にポリマーがかなり収縮し、それによって高い応力を導入し、および/またはカプセル化またはコーティングされつつある材料からポリマーを引き離すことを意味する。CEOの混合物からCPEを製造することによって、形成されるCPEの結晶化度レベルおよび/または融点をより厳密に制御することができ、それによって必要とされる融点および/または結晶化度レベルを、コーティング材またはカプセル化材に必要とされる収縮(の欠如)および耐熱性とより厳密にバランスさせることができる。特殊な用途に重要な他の特性は、CEOの適切な組合せを用いてCPEを製造することによって同様にバランスさせられてもよい。
【0028】
コーティング材またはカプセル化材として製造されるCPEはCPEの融点が使用で超えられないほど十分に高い融点を有することが好ましい。好ましくはこれらの融点は少なくとも約80℃、より好ましくは少なくとも100℃、特に少なくとも約120℃、非常に好ましくは少なくとも約150℃であろう。最高融点は好ましくは約250℃、より好ましくは200℃、特に好ましくは約150℃である。任意の好ましい最高融点は、好ましい融点範囲を形成するために任意の好ましい最低融点と組み合わせることができる。CPEの融解熱は少なくとも約2J/g、より好ましくは少なくとも約5J/g、非常に好ましくは少なくとも約10J/gであることもまた好ましい。最高融解熱は好ましくは約20J/g、より好ましくは30J/g、特に好ましくは約50J/gである。任意の好ましい最高融解熱は、好ましい融解熱範囲を形成するために任意の好ましい最低融解熱と組み合わせることができる。任意の好ましい程度の融解熱もまた、好ましいCPEをさらに画定するために任意の好ましい程度の融点と組み合わされてもよい。かかるポリマーの例は、(1,4−ブチレンテレフタレート)と(ジエチレングリコールテレフタレート)との環状オリゴマーから製造されたテレフタル酸と、1,4−ブタンジオールおよびジエチレングリコール[ビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル]との共重合体である。かかる共重合体は実施例で製造され、記載されており、それらは本明細書で望まれるCPEの望ましい特性を有することが分かるであろう。
【0029】
これらの共重合体のすべては、金型への導入前か金型そのもの中でかのどちらかで共重合されるべきCEOを溶融し、混合し、重合触媒を混ぜ入れ、重合を起こさせることによって金型中で直接製造することができる。カプセル化が実施される場合、CEOが金型中へ導入される前に金型を(部分的)真空下に置くことが望ましいかもしれない。
【0030】
本方法で製造されたCPEは通常および好ましくは線状コポリエステルである。しかしながら、分岐CPEを形成するための分岐点として働くことができる少量のトリ−またはより高機能性モノマーをCEO中に含むことによって分岐(しかし架橋されていない)コポリエステルを製造することができる。
【0031】
幾つかの場合には、上記の共重合法によって製造されたCPEは、独特の微細構造を有する、すなわち、CPE中の繰り返し単位の配列は、他の方法によって製造された同じ名目の化学組成のコポリエステル中に見出されるような配列とは異なる。例えば多分ポリエステルの最も普通の製造方法は、1つまたは複数の二酸またはそれらのジエステルが1つまたは複数のジオールと直接反応するエステル化および/またはエステル交換反応である。存在するジカルボン酸とジオールとの(ジ)エステルを先ず形成し、次にオリゴマーを、最後により高分子量ポリマーを形成するこの反応は、高温でおよびしばしば真空下に通常実施される。このタイプの重合反応は典型的にはジカルボン酸(2つ以上存在する場合)および/またはジオール(2つ以上存在する場合)に由来する単位がポリマー鎖に沿ってランダムに分布しているランダム共重合体をもたらし、例えば(非特許文献1)を参照されたい。コポリエステルのブロックポリマーもまた製造されてきたが、個々のブロックを形成するために用いられる反応が統計因子によって支配されるので、ブロックは通常ブロック長さの点である程度ランダム化されている。(エステル交換反応によるような)CPE鎖のランダム化がないと仮定すれば、いったんそれらが形成されると、本明細書に記載されるようなCEOの開環重合は、通常、一定長さのブロックをもたらすだけであり得る。例えば、2つの化学的に異なるCEO二量体が式
【0032】
【化3】

【0033】
(式中、AおよびDはジカルボン酸に由来する部分を表し、BおよびEはジオールに由来する部分を表し、AとDおよび/またはBとEとは異なる)によって表される場合、末端基を無視すると、生じたCPEは式
【0034】
【化4】

【0035】
(式中、yおよびzは1以上の整数である)を有するであろう。従ってyおよびzは、それぞれ、CPEの形成中に任意の所与ポイントでCPE中へと重合されている(II)および(III)の分子の連続した数の尺度である。この場合A−BおよびC−Dのブロックそれぞれが偶数のA−BまたはC−Dペアをそれぞれ含まなければならないこと(本明細書に記載される共重合法の開環共重合メカニズムの結果)に注意されたい。ある種のCEOの単量体が存在しない場合、当該CEO組成物の「単一繰り返し単位ブロック」はポリマー中に存在しないので(「存在しない」とは、全ブロック(すべての繰り返し単位のブロック)の1モルパーセント未満を意味する)、共重合されるべき化学的に異なるCEOの少なくとも1つ中に単量体が存在しない場合、ランダムCPEとは異なる構造のCPEが製造される。この場合に「単一繰り返し単位ブロック」とは、[例えば(IV)については]A−BまたはC−Dの単一繰り返し単位を意味する。より好ましくは2モルパーセント未満の単一繰り返し単位ブロック、特に好ましくは5モルパーセント未満の単一繰り返し単位ブロックが存在する。様々な環サイズ(二量体、三量体など)のCEOでの他の類似した独特の微細構造は当該技術者には明らかであろう。単一繰り返し単位ブロックは、NMRによって、またはそれらが少量で存在する場合にはCEOの開環重合がランダムであると仮定する計算によって求めることができる。
【0036】
かかるCPEの微細構造を測定する別の方法はいわゆる「ランダム度」であり、例えば、その両方とも参照により本明細書によって援用される、(非特許文献2)および(非特許文献1)を参照されたい。これらは、NMRによって各タイプの繰り返し単位について最も近い隣接単位の(それらのNMRシグナル強度に比例する)相対モル量を測定することによって実験的に求められる。例えば単一の二酸「A」と、2つの異なるジオール「B」および「C」とを含むコポリエステルでは、配列BAB、CACおよびBACによるNMRシグナル強度(Ixxx)を測定することができる。ここで、IBACはICABと等しくなければならない。次に
CA=ICAB/(ICAB+ICAC)、
AC=IBAC/(IBAC+IBAB)、そして次に
b=PCA+PAC
を計算することができる。
この計算で「b」がランダム度である。さらなる詳細は上記の参考文献に見出される。
【0037】
後のエステル交換反応によるCPEの何のランダム化もないとすべて仮定して、等モル量の2つの化学的に異なるCEO二量体のランダム共重合は0.80のランダム度を有するCPEをもたらすが、2つの三量体での同様な共重合は0.57、2つの四量体では0.44、2つの五量体では0.36、などのランダム度を与えることを計算することができる。同じ共重合での異なるサイズの量体について類似の値を計算できることは注目される。このように、化学的に異なるCEOの本共重合は、出発原料として選ばれるCEOに依存して、約0.20〜0.85、より好ましくは約0.30〜約0.80のランダム度のCPEをもたらすことができる。これらの2つの参考文献により記載されているように、完全にランダムのコポリエステルは1.0のランダム度を有する。
【0038】
本明細書では融点およびガラス転移温度は米国材料試験協会(ASTM)方法D3418を用いて測定される。融点は融解吸熱の最高値として記録され、ガラス転移温度は転移の中間点として記録される。融点およびガラス転移温度は、10℃/分の加熱速度、および10℃/分の冷却速度(第1加熱および第2加熱の間の)を用いて、第2加熱で測定される。2つ以上の融点が存在する場合、CPEの融点は融点の最高値として測定されるが、融点すべての融解熱がCPEの融解熱を得るために合計される。
【0039】
実施例において、CPEOTは(非特許文献3)に記載されているように得られ、CPBTは米国ニューヨーク州スケネクタディのサイクリックス社(Cyclics Corp.,Schenectady,NY,U.S.A.)から入手され、精製された。CPEOTはテレフタル酸とジエチレングリコールとの環状エステル二量体(分子当たり2分子のテレフタル酸およびエチレングリコール)であり、CPBTはテレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの環状エステル二量体および三量体の混合物である。CPEOTに対する系統名は3,6,9,16,19,22−ヘキサオキサトリシクロ[22.2.2.211,14]トリアコンタ−11,13,24,26,27,29−ヘキサエン−2,10,15,23−テトラオンであり、CPBTに対する系統名は3,8,15,20−テトラオキサトリシクロ[20.2.2.210,13]オクタコサ−10,12,22,24,25,27−ヘキサエン−2,9,14,21−テトラオン−3,8,15,20,27,32−ヘキサオキサテトラシクロ[32.2.2.210,13.222,25]ドテトラコンタ−10,12,22,24,34,36,37,39,41−ノナエン−2,9,14,21,26,33−ヘキサオンである。
【実施例】
【0040】
(実施例1〜3および比較例A〜B)
典型的な手順は次の通りであった。
125mlエルレンマイヤー(Erlenmeyer)フラスコに、7.5gのCPEOT(0.03モル)、および7.5グラムのCPBT(0.03モル)ならびに小さな電磁撹拌機を装入した。エルレンマイヤーフラスコを熱油浴中に入れた。温度調節器を用いて油浴の温度を230℃に維持した。CEOのすべてが溶融した後、0.045g(0.00018モル)のブチル錫クロリド・ジヒドロキシド(CAS#13355−96−9、エルフ−アトケミー(Elf−Atochemie)製のファスキャット(FASCAT)(登録商標)4101)を撹拌された溶融体に添加した。17分後に粘度はすべての撹拌が停止するポイントまで増加した。油浴温度を追加の30分間230℃に維持した。エルレンマイヤーフラスコを取り出し、反応混合物を室温まで放冷した。固体ポリマーは、示差走査熱量計(DSC)によって分析され、150.16℃の融点を有し、共重合体がCEOの混合物から形成されたことを示した。CPEの固有粘度(IV)(塩化メチレン−トリフルオロ酢酸溶液、グッドイヤー(Goodyear)R−103B同等IV法)は0.447dL/グラムであった。
【0041】
これらの実施例の条件および結果を表1に示す。△Hは融解熱である。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開環重合条件下に式
【化1】

の2つ以上の溶融した化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの混合物を、環状エステル・オリゴマーの開環重合用の触媒と接触させてコポリエステルを形成する工程を含む環状エステル・オリゴマーの共重合法であって、式中、
およびRはそれぞれ独立してヒドロカルビレンまたは置換ヒドロカルビレンであり、かつ、
mは1以上の整数であり、
ただし、環状エステル・オリゴマーのそれぞれの分子中のすべてのRが同じものであるわけではなく、および/または環状エステル・オリゴマーのそれぞれの分子中のすべてのRが同じものであるわけではない場合に、存在する化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの少なくとも2つが、存在する環状エステル・オリゴマーの総量に対して少なくとも15モルパーセントである
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
それぞれの環状エステル・オリゴマー中でRおよびRが同じものであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの少なくとも1つが
(a)式HOCH(CRCHOHまたはHO(CHCHO)H(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはアルキルであり、かつ、qは0もしくは1〜10の整数であり、またはtは2〜20の整数である)のジオール、ヒドロキノン、およびビスフェノール−A、ならびにそれらの組合せよりなる群から選択されるジオール成分と、
(b)式HOC(CHCOH(式中、nは1〜10の整数である)の化合物、イソフタル酸、置換イソフタル酸、テレフタル酸、置換テレフタル酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸、ならびにそれらの組合せよりなる群から選択されるジカルボン酸成分と
から誘導されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの少なくとも1つが
テレフタル酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールもしくはそれらの混合物との組合せ、
イソフタル酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールもしくはそれらの混合物との組合せ、または
コハク酸およびアジピン酸の1つもしくは両方と、式HOCH(CRCHOH(式中、RおよびRは水素または1〜4個の炭素原子を含むアルキルであり、かつ、nは0または1〜10の整数である)の1つもしくは複数の化合物との組合せ
から誘導されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
環状エステル・オリゴマーのそれぞれの分子中のすべてのRおよびすべてのRが同じものであるわけではなく、存在する化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの少なくとも2つが、存在する前記環状エステル・オリゴマーの前記総量の少なくとも20モルパーセントであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
重合触媒が存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
物体のカプセル化またはコーティングのための方法であって、前記物体を2つ以上の化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの溶融混合物と接触させる工程と、前記溶融混合物を共重合させて前記物体をカプセル化するまたはコーティングするコポリエステルを形成する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
環状エステル・オリゴマーのそれぞれの分子内の繰り返し単位が同一であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの少なくとも1つが
(a)式HOCH(CRCHOHまたはHO(CHCHO)H(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはアルキルであり、かつ、qは0もしくは1〜10の整数であり、またはtは2〜20の整数である)のジオール、ヒドロキノン、およびビスフェノール−A、ならびにそれらの組合せよりなる群から選択されるジオール成分と、
(b)式HOC(CHCOH(式中、nは1〜10の整数である)の化合物、イソフタル酸、置換イソフタル酸、テレフタル酸、置換テレフタル酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸、ならびにそれらの組合せよりなる群から選択されるジカルボン酸成分と
から誘導されることを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
【請求項10】
前記化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの少なくとも1つが
テレフタル酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールもしくはそれらの混合物との組合せ、
イソフタル酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールもしくはそれらの混合物との組合せ、または
コハク酸およびアジピン酸の1つもしくは両方と、式HOCH(CRCHOH(式中、RおよびRは水素または1〜4個の炭素原子を含むアルキルであり、かつ、nは0または1〜10の整数である)の1つもしくは複数の化合物との組合せ
から誘導されることを特徴とする請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
2つの異なる環状エステル・オリゴマーが存在し、かつ、第1の環状エステル・オリゴマーがテレフタル酸とジエチレングリコールとから誘導され、第2の環状エステル・オリゴマーがテレフタル酸と1,4−ブタンジオールとから誘導されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記コポリエステルが約100℃〜約200℃の融点および約5J/g〜約50J/gの融解熱を有することを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
約0.20〜0.85のランダム度を有するコポリエステル。
【請求項14】
前記ランダム度が約0.30〜約0.80であることを特徴とする請求項13に記載のコポリエステル。
【請求項15】
単一繰り返し単位がすべての繰り返し単位ブロックの5モルパーセント未満であることを特徴とする請求項13に記載のコポリエステル。
【請求項16】
単一繰り返し単位が存在しないことを特徴とする請求項13に記載のコポリエステル。
【請求項17】
単一繰り返し単位ブロックが存在しないことを特徴とするコポリエステル。
【請求項18】
約0.20〜0.85のランダム度を有することを特徴とする請求項17に記載のコポリエステル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体のカプセル化またはコーティングのための方法であって、前記物体を2つ以上の化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの溶融混合物と接触させる工程と、前記溶融混合物を共重合させて前記物体をカプセル化するまたはコーティングするコポリエステルを形成する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
環状エステル・オリゴマーのそれぞれの分子内の繰り返し単位が同一であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの少なくとも1つが
(a)式HOCH(CRCHOHまたはHO(CHCHO)H(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素またはアルキルであり、かつ、qは0もしくは1〜10の整数であり、またはtは2〜20の整数である)のジオール、ヒドロキノン、およびビスフェノール−A、ならびにそれらの組合せよりなる群から選択されるジオール成分と、
(b)式HOC(CHCOH(式中、nは1〜10の整数である)の化合物、イソフタル酸、置換イソフタル酸、テレフタル酸、置換テレフタル酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸、ならびにそれらの組合せよりなる群から選択されるジカルボン酸成分と
から誘導されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記化学的に異なる環状エステル・オリゴマーの少なくとも1つが
テレフタル酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールもしくはそれらの混合物との組合せ、
イソフタル酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、および1,6−ヘキサンジオールもしくはそれらの混合物との組合せ、または
コハク酸およびアジピン酸の1つもしくは両方と、式HOCH(CRCHOH(式中、RおよびRは水素または1〜4個の炭素原子を含むアルキルであり、かつ、nは0または1〜10の整数である)の1つもしくは複数の化合物との組合せ
から誘導されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
2つの異なる環状エステル・オリゴマーが存在し、かつ、第1の環状エステル・オリゴマーがテレフタル酸とジエチレングリコールとから誘導され、第2の環状エステル・オリゴマーがテレフタル酸と1,4−ブタンジオールとから誘導されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記コポリエステルが約100℃〜約200℃の融点および約5J/g〜約50J/gの融解熱を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記物体がカプセル化されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法を用いてカプセル化された物体を含むことを特徴とする製品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法を用いてコーティングされた物体を含むことを特徴とする製品。
【請求項10】
0.20〜0.85のランダム度を有するコポリエステルでコーティングまたはカプセル化された物体を含むことを特徴とする製品。
【請求項11】
前記ランダム度が0.30〜0.80であることを特徴とする請求項10に記載の製品。
【請求項12】
単一繰り返し単位がすべての繰り返し単位ブロックの5モルパーセント未満であることを特徴とする請求項10または11に記載の製品。
【請求項13】
単一繰り返しブロックが存在しないコポリエステルでコーティングまたはカプセル化された物体を含むことを特徴とする製品。
【請求項14】
前記物体がカプセル化されていることを特徴とする請求項10〜13のいずれか一項に記載の製品。
【請求項15】
前記コポリエステルが約100℃〜約200℃の融点および約5J/g〜約50J/gの融解熱を有することを特徴とする請求項10〜14のいずれか一項に記載の製品。

【公表番号】特表2006−511631(P2006−511631A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−521687(P2004−521687)
【出願日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2003/021742
【国際公開番号】WO2004/007589
【国際公開日】平成16年1月22日(2004.1.22)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】